「みずほ点訳」ホームページ

 吾輩は阿茶である 




第1回〜第10回



阿茶
右前足で猫じゃらしを押さえ、カメラ目線の阿茶。
まだずいぶん仔猫で、背後にもおもちゃあり。




第1回 (2001.7.15)

吾輩は阿茶である。名前はまだないどころか、阿茶が名前である。
茶トラから由来しているそうだが、「あちゃー」なんていう芸のほうは、する気など全然ない。
そんなことよりも、おしっこ、うんこが猫砂で上手にできるほうがいい。
Tenさん宅で躾られたたまものか、今度のところでもちゃんとできた。
それだけで、ものすごく誉められ、非常に面映い。
「おっとっと」とかいうおじさんは、どうも犬猫が苦手みたいなので、早く馴れさせてやろうと、こちらが努力をして、下手な猫じゃらしの動きにも付き合ってあげたし、眠くなったときには、おじさんの傍らまで寄ってから横になってあげたりした。
Tenさん宅からの移動も、生まれてはじめての長旅。
今日はほんと、疲れました。
また、おじさんの傍らまで行って寝ちゃおかな。


第2回 (2001.7.17)

猫にも人間にも進歩があるようである。
吾輩がここに来て今日はまだ3日目だが、飛びついても前足しか引っかからなくて、ぶら下がるのが精々だったローボードに、今ではちゃんと上がることができ、そうなると今度は、そこからさらに窓枠にも上がることができて、ずいぶんと歩行領域がふえることとなった。
今朝などは、おじさんが歯を磨いたり、着替えたりするのに伴ってあっちの部屋、こっちの部屋と移動し、すっかり廊下を走りまわったが、おばさんの観察では、同じ廊下でも、改築後の「木の色」が残っている部分は問題がないが、元々からの廊下は真っ黒くなっているので、吾輩が怖がっている感じがあるそうである。
おじさんの進歩もすごい。
日曜日にTenさんちの息子くんから励まされていたとおり、
猫じゃらしを利用するなどして遊んでいるうちに、吾輩のことが可愛くなったらしく、すぐ、だっこしてくるようになったのである。
吾輩としては、ただでも猛暑にうんざりしているのに、いたって体温の高いおじさんにくっつかれるのでは、暑苦しくて仕方がない。
何とかしてほしいのに、「にゃ」としか言えないし、おばさんが結構気持ちを読んでくれるけれど、おじさんは全然で、大変な毎日なのである。
そう言えば、ローボードの中に、「うそかえ神事」でもらったという木製の「うそ鳥」がいるけれど、どうも吾輩は、こいつの目玉が恐くてたまらない。
向き合って、背中をまるめ、毛を逆立てているのを、おばさんが察し、目玉をあちらにしてくれたので、実にホッとしたものだった。
おばさん、ありがとね。


第3回 (2001.7.18)

ここに来て、はじめての水曜日。留守番もはじめてである。
階段がまだ苦手で、2階からは1段しか降りられない。
1階からも7段までしか行けないし、情けないことには、その後が降りられない。
そんな訳で、2階にいる吾輩が階段に行ったり、落ちたりしないようにちょうどいい大きさの画板を見つけてきて柵がわりにセットしてから、おじさんが事務所に出かけて行った。
おばさんも、しっかりと食餌をセットしてくれてから、サビセン(瑞穂区デイサービスセンター)という場所に出かけて行った。
遅刻しなかっただろうか。
ずいぶんと歩行領域が拡大して、自由に部屋を移動し、退屈しなかったとは言っても、やはり留守番はどこか非常にさみしくなるものである。
帰ってきたおばさん、さらにおじさんに、いつもに増して甘えてしまった。
相手にしてもらうのも、猫じゃらしやおじさんの甚平のひもよりも、直接おばさんたちの手で触られることに猛烈に喜んでしまったことだ。
それからまた、留守番は、神経をすり減らすものなのかもしれない。
自分でも気付かないほどに疲れていたらしく、おばさんが見ている前で猫砂トイレに入ったのはいいが、おしっこをしながら、つい眠ってしまって顔をトイレの縁にぶつける失態を演じてしまった。
普段から、おしっこやうんこの際に目をつぶるので、おばさんとしても、まさか眠っているとは 考えなかったのだけれど、「ゴツ」と音を立てるほど顔をぶつけ、その後びっくりしていた吾輩を見て、眠っていたことに気がつき、あらためて可笑しかったみたいだ。
なんともお恥かしい場面だったことである。


第4回 (2001.7.21)

昨日未明のことである。寝室になっている奥の部屋から言うと東側、隣のお宅のブロック塀のある側から、まず猫の声が「にゃあにゃあ」と聞こえたのが、最初だった。
吾輩はやはり夜行性だからか、すでに起きていたのだが、どこかのおっさんが「うるさい猫だ!」と怒鳴った後、激しい物音と、先ほどの猫(に間違いないと思うけど)の悲鳴が聞こえ、そして静かになった。
吾輩がすっかり怯えてしまい、おばさんに「大丈夫、大丈夫だよ」と、あやされることになったのだが、おばさんがおじさんにした説明では、猫を目がけて何かを投げつけ、命中して猫もろとも、ブロック塀から落ちたのじゃないか、ということだった。
しばらくしたら今度は、西側の駐車場になっているところに、車が一台帰ってきたみたいで、エンジン音だけでもうるさいのに、カーステレオをがんがん鳴らしていて、いったい何時だと思っているのだ、まったく!
どこかのおっさんのように「うるさい人間だ!」と怒鳴ってやりたかった。
ジージーと蝉の自己主張も始まって、ほんと、とんでもない朝になった。
朝はひどかったけれど、日中は、おばさんがTenさんから拝借した井上陽水さんのCDを聴いて、気持ちよく過ごすことができた。
夜も、おじさんのお腹の上で眠り込み、おばさんにとても珍しがられた。
3連休の初日は、そんな風に過ぎたのである。


第5回 (2001.7.22)

おばさんが吾輩の気持ちを読んでくれる、という話の続きになるが、猫がいた家庭で育っているだけに、その辺は「さすが」なのである。
お腹がへったのか、遊んでもらいたいのか、うんこがしたいのか、容易に当てられ、吾輩としては、忌忌しいけれども生活はしやすい。
1階の食卓の脚が「III」の字のようになっていて、その隙間を通した猫じゃらしに飛びかかるのが、目下の吾輩にとっての至上の遊びだということに気付いてくれたのも、おばさんだった。
対照的なのが、おじさんで、見事なまでの頓珍漢をしている。
お腹がへったのか、遊んでもらいたいのか、うんこがしたいのか、ほとんどハズレ。
だっこしてくれても、力が抜けていないので、吾輩には苦しいばかり、思わず「ぎゃ」と言って逃げ出してしまう。
ちょっと前のことだが、そんなおじさんがビールを飲み過ぎ、おばさんに叱られた晩のこと。
吾輩を目の前において、しんみりと「おじさんばかり叱られるねえ。おじさんの気持ちをわかってくれるのは阿茶だけだ」などと言っていた。
おじさんも、吾輩の気持ち、早くわかってね!


第6回 (2001.7.24)

「阿茶くん、あちゃーの巻」
今回に副題をつけるとすれば、さしずめ、こうなるような今朝の失敗であった。
吾輩が夜行性ということから、寝坊すけのおじさんですら、夜中に何回か目をさましたり、4時とか5時とかに起こされて、そのまま猫砂トイレの始末や、吾輩の遊び相手を務めていたりするのだが、今朝は特に蒸し暑かったようで、おじさんのパジャマや寝床のシーツが、汗でぐしょぐしょになってしまったほどだった。
おじさんを相手に遊んで、部屋の中を駆け回っているうちに、たまたま汗ぐしょパジャマが汗ぐしょシーツの上に脱ぎ捨てられてある場所に行ったとき、そこで急に、おしっこをしてしまったのである。
おばさんがすぐ気付き、飛んで寄ってきたが、まさに「覆水、盆に返らず」ならぬ「覆小水、膀胱に返らず」。
シーツの空に雨雲が浮かぶこととなってしまった。
はじめてと言っていい粗相に、おばさんからこっぴどく叱られながら、吾輩自身も、今までちゃんとできていたことを、どうして失敗してしまったのか考え込んでいたが、ふと、おじさんのパジャマに 思い当たった。
呼び水になる、なんてことがあるのだろうか?


第7回 (2001.7.25)

吾輩に限らないが、どうも子猫は動くものに飛びつく習性があるようだ。
猫じゃらしは言うまでもなく、よく飛びついてしまうのが甚平のひもとか、タオルの先っぽとか、おじさんが扇いでいるうちわとか、である。
奥の部屋の電気のスイッチに取り付けられたひもにも、よく飛びつく。
ひもの先端に作り物の猫がぶら下がっているので、余計に関心を持ってしまうのだ。
作り物の猫は今や、吾輩の歯形がついて穴だらけ。
この習性を利用して、おばさんがこの前、わざと手を動かしたのだが、まんまと吾輩は、西日でできた影のほうに飛びついて、すかだけ食った、なんてことがあった。
してやられたにゃあ。
今朝も、おじさんが新聞というものを読んでいた。
手前の部屋には机があるのに、床にどさっと新聞を広げ、あぐらをかいて読むほうが好きで、はじめて吾輩も真横に位置してみた。
ごひいきの球団が負けてばかり、「オールスター」というものから流れが変わるといい、などと、おじさんが勝手にしゃべっていたが、それよりも、新聞のページがめくられるたびにひらひらする新聞紙のほうに気が行き、思わず飛びついたり、齧ったり、おじさんと取り合いになったりしてしまった。
作り物の猫ほど根性のない新聞紙は、たちまちにしてボロボロ。
まだ読んでいなかったおばさんに悪いことをしてしまったと、ちょっと反省。
反省と言えば、反省したつもりで、ちっとも反省していなかったのが、おしっこ粗相だ。
今朝も、昨日と同じ未明に1回だけ、同じシーツの上に粗相をしてしまった。
今朝はエアコンがかけられていて、乾いていたにもかかわらず、である。
癖になってしまったのか? ・・・なんてこと!
再びおばさんから大目玉を食ってしまったが、悪いことばかりでもなくて、階段をすっかり昇り降りできるようになって誉められ、そんな浮き沈みのはげしい一日であった。


第8回 (2001.7.28)

おじさんたちが、土曜日だというのに、よそ行きの服に着替えるのでどうもおかしいと思っていたら、案の定、吾輩も、キャリーバッグに押し込まれてしまった。
キャリーバッグに慣れるよう、日頃から遊び場のひとつになってはいたが、入り口まで塞がれ、実際に移動手段として使用されたのは、はじめて。
もっと言えば、Tenさん宅からここに来て以来、はじめての外出となった。
どこに行くのか、不安でたまらなくて、網目になった入り口から見える外の風景をたのしむ余裕など無く、大通りを横切る際に、「にゃ、にゃ」と2回ほど声を上げてみたが、それからじきに、『加藤獣医院』という看板が見えてきた。
猫に詳しい事務所の先輩から、おじさんが伝授された「獣医の善し悪しの見分け方」は、医院の扉を開けた瞬間に、医者独特の消毒のにおいがすれば「善し」、もろに動物のにおいがすれば「悪し」、というもので、おばさんを先にして、においを嗅がせてから、中に入ることになった。
パピヨンの親子が先にいたが、ちょうど終わって、すぐに吾輩の番になり、40代の飄々とした先生に、おばさんが説明をしてくれた。
吾輩のカルテができる際には、推測だけれど5月生まれになるというので「それじゃあ、5日にしてください」と言ったおじさんの意見が採用され、不明だった吾輩の生年月日が晴れて、しかも「こどもの日」に落ち着いた。
キャリーバッグから出て、診察台に上がった吾輩を見るや、先生が「いい猫だね、おもしろい猫だ」と言うので、どう、おもしろいのか、説明が欲しかったが、そんなことを考えている間に、お尻の穴で体温を測られ、38度5分の平熱。そして必殺仕事人のように、首のうしろに予防接種の注射をされてしまった。
鮮やかな仕事ぶり。
目薬、腹薬のお蔭で、結膜炎も、腸内の寄生虫も治っていたようだが、耳疥癬という耳の寄生虫がいるらしくて、綿棒でぐりぐりと取り除かれ、薬を注入された。
そのときだけは、さすがに、じたばたしてしまったが、こちらが帰る際にいたダックスフントが「わん!」と一声、叫んだときにも吾輩はお行儀よくしていたものだ。
気疲れして、今は眠いけれど・・・。


第9回 (2001.7.29)

手前の部屋から奥の部屋まで、廊下を含めた約7mの直線コースを全力で疾走する、それも、運動不足のおじさんを相手にしてするのが、たのしくて仕方がない。
たとえば今、手前の部屋におじさんがいて、机に向かって何やらしているとしよう。
吾輩が近寄って行き、ひょっとして気付かないようならば、前足でポンと叩いてやるか、「にゃ」と一声だけかけてやる。
そうしておいて、一目散に奥の部屋まで廊下を逃げるのだ。
おじさんは必ず、ついて走ってくる。
奥の部屋まで現われたところを見計らい、体をかわして、今度は手前の部屋に戻るのである。
そういう廊下の行き来を繰り返しているうちに、先に顎を出すのが、おじさんであり、お蔭で彼は2kgほど減量したらしい。
ただし、自己申告。
おばさんも、生活のペースがすっかり変わって、同じく2kg減量とのこと。
思いもかけない「阿茶効果」である。
おじさんの話では、全力疾走する吾輩を後ろから見ると、右から横風が吹いてきて押されたみたいに、左に体を傾斜させる癖があるそうだ。
その傾斜ぐあいと走りっぷりが、おじさんには「たまらない」らしい。
そして、自分のことであっても、かえって自分にわからない、ってことが世の中にあるのを、はじめて知った次第だった。
わからないと言えば、電話というのも、よくわからない。
午前中も、吾輩が食卓の椅子でまどろみかけたところに、呼び出し音が鳴って、すっかり邪魔をされたのだが、おじさんがたのしそうに独り言をしゃべった後、受話器をおばさんに渡すと、今度はおばさんが、おじさんにも増してたのしそうに独り言を続けてから、切れた。
「独り言」とは書いたものの、ほんとは相手がいることくらい、吾輩にもお見通しなのだが、さてさて、相手がどこにいるのか、わからない。
相手よ、出てこーーーい!


第10回 (2001.7.29)

午前中の電話の相手が現われた。
夕方になって、かっとびさま親子が立ち寄ってくれたのである。
親子といっても、かっとびさま、Yaちゃんのふたり。
Yuちゃんは、お友だちとの予定があって、来られなかった。
おばさんたちがすぐに応対したが、吾輩は初対面なのである。
つまり、恥かしいのである。
じっとしては、いられない。
奥の部屋に通されたかっとびさまとYaちゃんに対し、おばさんの腕にいた吾輩は、すぐに逃げ出して、例の廊下を手前の部屋まで一目散。
おばさんに連れ戻されたが、やはり恥かしくて逃げ出し、再び一目散。
今度はおじさんに連れ戻されたが、またまた一目散してしまい、これで三目散である。
結局、また連れ戻された。
まだ逃げ出したい気持ちが強くて、おばさんにしがみつくのにも爪を立てていたが、徐々に落ち着いてきて、親子と向き合えるようになった。
Yaちゃんの吾輩を見る目が特にきらきらしていて、なんとも眩しい。
猫とは縁がなく、めずらしかったようであるが、吾輩のことを「可愛い」と何度も言ってくれた。
かっとびさまとふたりして、吾輩の口の前に手を差し出してくれたので、においを嗅いではみたのだけれど、舐めるのがどうも躊躇われてしまい、かっとびさまが「猫の舌はざらざらしてるのよ、犬のようにペロンとしていないから」とYaちゃんに教えていたことから考えると、まずかったような気が、後からしてしまった。
短い時間ではあったけれども、かっとびさま、Yaちゃんと会うことが、できて、とっても嬉しかったことである。
吾輩の目に狂いがなければ、どうやら吾輩に、かっとびさまは一目で惚れてしまったようだった。
男前のつらいところである。



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