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阿茶


ある日「みずほ点訳」のメンバーのびーさんが、
ご近所の方が仔猫の里親をさがしていることを知りました。
以前から、猫が飼いたいなぁ、と思っていたびーさん夫妻、さっそく里親に立候補。
が、残念! タッチの差で仔猫は別のお宅のものに・・・。
びーさんが、ご主人ともどもがっかりしているおりもおり、
こんどは、Tenさんが仔猫を拾いました。
近所の駐車場で力なく鳴いているのを、見捨てておけずにひろってきたものの、
Tenさんちは賃貸住宅でペット禁止です。
さてどうしよう?と迷いつつ、しばらく飼っていたのですが、
ちょうど、里親になりそこねてがっかりしていたびーさんが
仔猫をもらってくれることになりました。
仔猫は茶トラでオス、名前は「阿茶」。
「みずほ点訳」のメンバーとその家族の投票で、決まった名前です。
「吾輩は阿茶である」という連載も始まりました!



阿茶
「何事もなく?」
縁側でのんびりする阿茶。
このときすでに左耳の先端が齧られていた。


 吾輩は阿茶である 

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第171回 (2008.4.5)

何回目になるのか分からないのだけれど、また脱走騒動のご報告をしなければならない吾輩である。
時間が何だかあっという間に過ぎていて、その騒動はもう、おとといの未明ということになるだろうか。
先に異変に気づいたのは、今回はおじさんだったらしい。
最近のおじさんは、なぜか、まだニワトリしか起きていないような時間に、ごそごそ起き出しているのである。
そして、この吾輩も、じっとはしていられず、すぐにおじさんに近寄って行き、ひとしきり相手をするのだ。
それが、その日の朝はちっとも現れないと、まず不審に思ったらしい。
うちの中をざっと見てまわったが、吾輩を見つけることができない。
再び、今度は本気で捜し始め、小庭に面した縁側の網戸の足許のほうが、破られて大きく口を開けていることに気づいたのだとか。
そもそもこの夜に限って、無用心な話だが、サッシを閉め忘れていたようで、これはもう、この一語に尽きる。
あちゃー。
すぐさま血相を変えたおじさんが、眠っていたおばさんを起こし、簡単に着替えて外に出てきた。
問題の網戸の真下となる地面には、茶トラ色の毛が散乱しており、おばさんが真っ先に覗いたのは、前例から考えて縁の下。
そこに吾輩がいた。
こうなれば毎度毎度の大捕物で、おばさんたちは吾輩を、どうにかして手の届くところまでおびき寄せたい。
猫じゃらしを振ってくるわ、カリカリを持ち出してくるわ、ベンちゃんが登場してくるわ、あの手この手のオンパレード。
無関心を装ったほうがいいのでは、と作戦変更して、おばさんが草むしりを始めたり、おじさんが破れた網戸の応急処置をしたり。
そして、無関心作戦のほうが効果があるようで、かなり手前まで近付いていた吾輩だった・・・ところが、何とも間の悪いおじさんがそこで手許を滑らせ、ガタンと大きな音を立てたために、驚いた吾輩はまた、とても捕まえられることのない位置にまで引っ込む。
振り出しに戻ってしまった。
業を煮やしたおじさん、ついに、見当をつけては畳を上げたり羽目板を外したりし、そこから逆さまに頭だけを突き出して、吾輩に懐中電灯を向けてくる、なんて新戦法まで繰り出してきた。
でも結局、功を奏したのは無関心作戦。
新聞を読み始めたおじさんに、話しかけているおばさん。
吾輩が気になって縁の下から出たところを、すかさず靴下のまま庭に降りてきたおばさんに御用と相成った。
時に午前7時46分。第一幕は、およそ1時間半に及んだ。
真っ黒くなった足の先などを、ふたり掛かりできれいに拭かれ、やっと解放されたとき、さて、どちらが気づいて言ったのだったか、吾輩の「左耳に血が付いてる」と。
おばさんに捕まった際、吾輩の逃げ場を奪うように庭石に押し付けられたので、その際、擦りむいたのかもしれない。
大したことはないと思い、少し落ち着こうと、ふとんの上でまるくなり、ちょっと眠気に・・・そこで、第二幕が開けられた。
気がつけば、すでにおじさんにしっかり抱きかかえられていて、準備万端だったキャリーバッグに押し込められてしまったのだ。
慌てて鳴き始めてみたものの、やはり連れて行かれた先は加藤獣医院。
ただし、扉は閉まり、カーテンが引かれている。
お休みかにゃ、なんて淡い期待も空しく、しばらくして隣の玄関に、ひょっこりと飄々先生のお顔が覗き、扉も開けられた。
おじさんが経緯を説明。
早速、左耳を診てもらう。
擦りむいているだけではなく、耳の先がV字に切れて、欠けているとのこと。
つまり、V字分だけの吾輩の耳の一部が、どこか別の場所に存在するらしい。
話を聞いたおじさん、まるで自分が切られたようにギョッとしている。
左耳には薬を塗られ、注射も2本された。
ついでに口の状態を確かめてもらい、こちらは何も問題なしだった。
飄々先生がカルテに記入している間に、おじさんが、散乱していた茶トラ色の毛の状態を、もっと詳しく説明する。
普段の抜け毛のようにバラバラではなくて、雑草のような、筆先のような固まりを、10個くらいは拾ったでしょうかね。
飄々先生が顔つきを変えて「外猫とケンカをしたかもしれないなあ」とおっしゃる。
左耳も、噛みつかれたか、引っ掻かれたか。身に覚えがあるようなないような・・・。
様子を見て、もう一度連れて来てくださいと言われ、その日は帰宅できた。
その後は、疲れたのか、注射の作用か、ほとんど眠ってばかりで過ごし、余計に時間の経過をあっという間に感じている吾輩である。
今回、2回分くらいありましたが、お付き合いいただき、ありがとうございました。


第172回 (2008.4.8)

今回の脱走騒動が三幕物であったことを、うっかり忘れていた吾輩である。
飄々先生から、もう一度診察に来るように、と言われていたのだ。
それを忘れるくらいだから、今度もおじさんにいとも簡単に抱きかかえられ、キャリーバッグのチャックの締まる音を耳にしてはじめて、後悔する気持ちとなった。
せめてもの抵抗に、この前よりも大きな鳴き声を上げ続けてやる。
まあ、そうしたパワーが味方して奇蹟が起きる、なんてこともなくて、再び加藤獣医院の診察台にまで運ばれてしまった。
左耳の経過は順調。
今日は注射が1本で済み、それでおしまい。
体重を測ってもらうと6・10kg。
前回測ってもらったときが6・60kgだったので、はじめてのマイナス成長である。
おじさんを羨ましがらせながら喜んでいるところに、医院のガラス扉を透かして、ご婦人に連れられたコリーが現れたかと思うや、中にまで入ってきてしまった。
それで心を乱された吾輩。
今までなら、帰りは自分から戻って行くキャリーバッグのはずが、その外側、コリーと反対側に逃げようとして、おじさんを慌てさせる場面があった。
何れにしろ、今回の騒動も、一件落着。
やれやれと言ったところである。
ところで、実は、もう何日前になるだろうか。
ある日の昼過ぎにちょっとした事件があり、それがこの脱走騒動の伏線だったかもしれない。
その日、午前中は普段と同様、のんびり過ごしていて、事件の予兆といったものは些かも感じられなかった。
ところが、縁側にいた吾輩の視野に、久しぶりに流れ者2008が姿を現したのだ。
そして、当然のようにうちの小庭に侵入してきたかと思うと、あろう事か、この吾輩にまっすぐに向かってきたのである。
吾輩がどう対処しようか迷う間もなく、ヤツが飛び上がり、網戸か何かに勝手にぶつかって、奥にいたおばさんにまで聞こえてしまうほどの物凄く大きな音を立てた。
それですぐ、おばさんが登場したのである。
すたすた逃げ出した流れ者2008を、見送る格好となったおばさんと吾輩。
一歩も退いていなかった吾輩に対し、おばさんが何度も「強かったねえ」と褒めてくれたのだが、一歩も動けなかった、というのが真相のような・・・。
おばさんがよく調べたところ、網戸に傷ひとつなく、大きな音は、縁側の端にでも当たってできたものかもしれない。
縁側が壊れなくてよかった。
飄々先生がおっしゃられたように、外猫とケンカをしたとすれば、まず間違いなく相手は流れ者2008だ。
ヤツは吾輩と同じ茶トラ。
散乱していた毛がすべて茶トラ色だったのにも説明がつくし、ヤツの挑発的な態度から、相手として大いに考えることができる。
うちでは全員一致の意見なのである。


第173回 (2008.4.30)

猫にしろ、人間にしろ、体調を崩してしまうのは、よくないことである。
まして、高熱に冒されでもすれば、キャリーバッグに押し込められても、存分に鳴いて無駄な抵抗をすることすら、できなくなるのである。
そもそもは、この一週間ほどのあいだに、4回も嘔吐をしたことに始まった。
特に、そのうちの2回が、胃液だけなのか、泡状のものしか嘔吐できなかったことで、余計におばさんを心配がらせてしまった。
これまで生きてきて何回も嘔吐をしてはいるけれど、泡状のものしか吐けなかった、なんてことは、一度もなかったのだから・・・。
気にして見ているおばさんの目には、明らかに元気をなくして行く吾輩の姿が映っていたようである。
いつもなら周りで騒いでいるはずの吾輩が、ちっとも現れない。
様子を見に行くと、大抵、ふとんの上でちんとしている。
眠っているわけでもない。
ただただ、じっとしているのである。
これは、どう考えても異常だ。見ればカリカリも、ほとんど口にしていないではないか。
決定的になったのは、今朝、おじさんが猫砂を掃除した際、出てきたおしっこの量を見てであった。
前日掃除し忘れたのか、と思うくらい、たくさんあったのだ。
おばさんなどは、腎臓の機能がおかしくなったのではないかと猛烈に心配し、何も手につかなくなってしまったほど。
そして日も暮れ、おじさんが事務所から帰ってくるなり、キャリーバッグという次第だった。
吾輩は勿論、迷惑なくらいに鳴こうとするのだが、最初に書いたように、声が大きく出せない。
あれあれと思う間もなく、加藤獣医院に到着してしまった。
おじさんの説明を聞いた飄々先生は、体温計を肛門に突っ込んできて、まず、体温を測った。
結果は39度6分。
猫の平熱が38度5、6分だそうで、1度から高いというのは、所詮小さな体格でしかない猫にしてみると、とんでもない状態であるらしい。
これでは動かなくもなるし、食欲もなくなるし、水ばかりを飲んで、びっくりするほどのおしっこをしもするわけである。
すぐに点滴をされ、それが済むと今度は、注射を3本もされてしまった。
1本目などは、オレンジジュースかと見間違うばかりに、どぎつい黄色をした液体だった。
結局、風邪を引いた状態と考えられ、「また明日、来てください」と言われて、今日のところは終わりとなった。
今は、パソコンに向かって、こうして文章が書けるだけ、元気も出てきたのではないか、と思っている。
おばさんが言うのにも、吾輩が尻尾をピンとして歩くようになった、全然元気のなかったときには尻尾も元気がなかった、のだそうだ。
おばさんの観察は鋭い。
ちなみに、おじさんは、吾輩といっしょに「へえー」って感心した口である。


最終回 (2008.5.17)

もう更新しないでおこうと思ったのだが、そうも行かない。
これが最終回である。
吾輩は今、天国に向かいつつある。
すでに飛び立っていて、地上にはいない。
どうしてこうなったのか、原因が今ひとつ、自分でもよく分からない。
先月下旬に体調を崩して以来、その体調が結果的に戻らないままだったとも言えるし、どこかで間違って、さらによくないほうの道を選び続けてしまったとも言える。
何れにしろ、7歳の誕生日を迎えて7日目にはお別れすることになってしまった。

急なことだと感じる人がいるとは思うけれど、吾輩たち猫にとっては、決してめずらしいことではない。
まあ、人間にしたって同じだろうが、ほんと、命なんて、あっけないものなのである。
それだけに、生きていられる間は、一所懸命に生きなくてはいけない。
自分で言うのも何だが、吾輩は一所懸命に生きることができたと自負している。

ご本家とも言うべき夏目漱石さんの「吾輩」は、たしか、ビールを飲んで酔っ払い、甕に落ちてご臨終だった、と記憶している。
そうした冷たい思いをせずに済んだし、心臓マッサージまで施されて最善を尽くしてはもらったし、最期までとても幸せな猫だったにゃあ、と神様に感謝している。

さて、読者のみなさま、最終回までお付き合いくださって、ありがとうございました。
それでは、さようにゃら。



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