映画の誘惑

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ジャニーヌ・バザン

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ジャニーヌ・バザン
Janine Bazin
(1923-2003)

「彼女は映画の歴史を照らす星だった」
ジャン=リュック・ゴダール

経歴

ジャニーヌ・バザンは、なによりも映画批評家アンドレ・バザンの妻として知られていた。

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ジャニーヌ・キルシュは、1923年にパリに生まれる。ジャニーヌがアンドレ・バザンに出会うのは、彼女が「労働と文化」の仕事をしていたときである。「労働と文化」は、レジスタンスの指導者たちによってパリ解放後の1944年に結成された文化活動期間で、バザンはその映画班を49年まで担当していたのだった。

1951年、「ラ・ルヴュ・デュ・シネマ」を母胎として、「カイエ・デュ・シネマ」誌が、バザン、ジャック=ドニオル・ヴァルクローズ、ロ・デュカを編集長に創刊される。そこにあつまったのは、アレクサンドル・アストリュック、ゴダール、リヴェット、、アンリ・ラングロワ、ロッテ・アイスナーなどの人たち。こうして、「唯一にして真の映画批評家」アンドレ・バザンを中核に、「アストリュック叔父」などを配する「カイエ・デュ・シネマ」という「文化的基盤」のまわりに、ヌーヴェル・ヴァーグが形成されていった。

ジャニーヌとアンドレは、いわば、ヌーヴェル・ヴァーグの精神的な母であり父であったのだが、とりわけフランソワ・トリュフォーにとって、二人の存在はかけがえのないものだった。トリュフォーは、10代のころに両親から見捨てられた「捨て子」である(偶然にも、かれの母親は、ジャニーヌという名前だった。トリュフォーの残したシノプシスをもとにクロード・ミレールが映画化した『小さな泥棒』のヒロインがジャニーヌというのも、はたして偶然か)。トリュフォー少年にとって、ジャニーヌは文字通り母であり、アンドレは父であった(もっとも、ジャニーヌは、アンドレとフランソワは、親子とか姉弟というよりも、むしろ映画を愛する親友同士だったといっているが)。少年鑑別所からトリュフォーを出してくれたのも、その後、軍隊から脱走したトリュフォーを引き取って面倒を見たのもバザン夫妻だった。二人がかれの人生を救ったのだ。トリュフォーが少年鑑別所からバザン夫妻に引き取られる1949年は、たまたまバザン夫妻に息子フロランが生まれた年でもあった。「一度に二人の息子を持ったのと同じでした」とジャニーヌは述懐する。

アンドレ・バザンは当時から肺結核を患っていて、一時は長いサナトリウムの生活に入ったほどだった。1958年、トリュフォーが処女長編『大人は判ってくれない』にクランクインしたその日、アンドレ・バザンの病状が急に悪化する。撮影を終えたトリュフォーは、病床のバザンのもとに駆けつけるが、程なくしてバザンは息を引き取る。

1964年、ジャニーヌは、アンドレ・S・ラバルトと共に、当時の重要な映画監督についてのテレビ・ドキュメンタリー番組「今日の映画作家」シリーズの製作を始める。このシリーズでは、サミュエル・フラーやロベール・ブレッソンの貴重なインタビューが聞けるだけでなく、著名な映画作家がかれらの崇拝する監督を撮ったものも含まれる。ジャック・ロジェによるジャン・ヴィゴ、エリック・ロメールによるドライヤー、あるいはゴダールによるフリッツ・ラング、リヴェットによるジャン・ルノワールのインタビュー(この編は、ジャン・ユスターシュが編集を担当している)等々である。

1974年、フランス放送協会によってこのプログラムの経費が削減されたとき、トリュフォーはジャニーヌを助けるために尽力した。トリュフォーはまた、バザン夫妻の息子フロランを、キャメラマンとして映画デビューさせてもいる。

1980年、ジャニーヌとアンドレ・S・ラバルトのふたりは、「今日の映画」という新たなテレビ・シリーズの製作を始める。これは内容的に「現代の映画作家」シリーズを受け継ぐものだった。クリス・マルケルが描くタルコフスキー、シャンタル・アッカーマンによる自画像、ジャン=ピエール・リモザンによるキアロスタミ、あるいは、ロメール、カサヴェテス、侯孝賢についてのドキュメントなどが撮られている。

その間、ジャニーヌは、ベルフォール国際映画祭を創設し、その運営にも力を入れてきた。

2003年5月31日、ジャニーヌ・バザンは80歳の生涯を閉じた。

フィルモグラフィー(DVD)

参考文献

ヌーヴェル・ヴァーグ・セレクション
「ヌーヴェル・ヴァーグ・セレクション」

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