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ハワード・ヒューズ

ハワード・ヒューズ
Howard Hughes(1905-1976)
米プロデューサー・監督

経歴

1905年、岩石掘削の油田ドリルで莫大な資産をなしたハワード・ロバード・ヒューズのひとり息子として、テキサス州ヒューストンに生まれる。母親はダラス出身の資産家の令嬢アレーン・ジャーノ・ヒューズ。叔父に当たるルパート・ヒューズは、作家であり映画監督であった。ハワードは幼年時代に患った病気のせいで、聴覚のほとんどを失い、生涯を通じて耳鳴りに悩まされることになる。

19年、14歳ではじめての飛行訓練を受ける。このころすでに、いつかは世界一のパイロット、世界一の映画作家、世界一の大金持ちになると宣言している。

22年に母親が、ついで24年に父親が亡くなると、ヒューズは、父が残した会社ヒューズ・ツール・カンパニーを18歳にして相続し、世界でもっとも金持ちのひとりとなる。この年、ヒューストンの社交界の令嬢、エラ・ライスと結婚。社長に就任したあとは、信頼できる部下に運営をまかせ、自分は会社の資産を元手に映画製作に乗り出す。

25年、子供のころからの夢だった映画プロデューサーになるためハリウッドにやってくる。 初めて製作を手掛けたコメディ『Swell Hogan』(26)は、完成した映画の出来が悪かったため一般に公開されることはなかった。

27年、ルイス・マイルストーン監督と組んで撮ったコメディー『美人國二人行脚』が大ヒットを記録し、第1回アカデミー賞で喜劇監督賞を受賞(この「喜劇監督賞」が授与されたのは、アカデミー賞の歴史のなかでただこの一度だけ)。

ほどなくして、ヒューズは初監督作品『地獄の天使』の制作をはじめるが、航空シーンのリアルさを追求するあまり、ヨーロッパ中を探し回って87機もの戦闘機を購入し、本物の戦闘シーンを撮影するというこだわりぶりで、製作費は膨大にふくれあがってく。撮影中に3人ものパイロットが事故でなくなり、またヒューズ自身も飛行機を操縦して撮影中に墜落して大けがをした。完成前からなにかとハリウッドで話題になっていた映画だったが、完璧にこだわるヒューズはなかなか映画を完成させることが出来ない。しかも、撮影が長引いたために、時代はサイレントからトーキーへと移り変わろうとしていた。湯水のように金を使ってようやく完成した映画を、ヒューズはトーキーとして全編撮り直すことに決める。

こうして数年をかけてついに完成した『地獄の天使』は、世界恐慌のまっただ中、1930年に公開され、大ヒットを記録し、プラチナ・ブロンドのジーン・ハーロウをスター女優へと押し上げるが、製作にかかった莫大な製作費をついに回収することはできなかった。

地獄の天使『地獄の天使』

 

31年、28〜29年にかけてブロードウェイで大ヒットした戯曲『フロント・ページ』を、ルイス・マイルストーン監督を起用して初映画化(邦題『犯罪都市』)。この戯曲はホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』を始めとして、その後何度も映画化されている。

32年、アル・カポネをモデルにしたギャング映画『暗黒街の顔役』を製作。ハワード・ホークス監督が撮ったこの傑作は、過激な内容ゆえに宗教団体やヘイズ・オフィスの反感を買うが、大ヒットし、このジャンルの金字塔を打ち建てる。

 『暗黒街の顔役』

 

一方、飛行機への情熱も燃やし続け、航空会社ヒューズ・エアクラフト社を設立。超一流の技術者たちを集めて、様々な開発をおこなった。30年から40年ごろにかけて、ヒューズは自ら設計したレーサー機で、何度も飛行スピード記録を打ち立てている。38年には、ニューヨーク−パリ間を3日と19時間17分で横断して、それまでチャールズ・リンドバーグが保持していた記録を破った。またこの時期、ベティ・デイヴィス、ジンジャー・ロジャース、リタ・ヘイワース、キャサリン・ヘップバーン、エヴァ・ガードナーら銀幕の女優たちと浮き名を流す。とりわけキャサリン・ヘップバーンとは3年間恋人関係を続け、結婚も考えたが、結局破局した。

39年、リンドバーグが設立した航空会社TWA(Trans World Airways)の株の過半数を買い占める。ロッキードと契約を結び、コンステレーション機を完成させる。流れるようなS字型の胴体が美しく、人気を集めた(2001年、アメリカン航空に買収)。

第二次大戦中、ヒューズ・エアクラフト社は、米軍の依頼で軍用機をつくる国内最大の国防下請け会社のひとつとなった。

40年、ドイツのUボートの妨害を受けずに、軍隊・物資を輸送したいという米軍のために、ほとんどが木製の史上最大の飛行機ハーキュリーズ(その格好から「おしゃれなガチョウ」とあだ名された)の制作に取りかかる。

43年、ジェーン・ラッセル主演の西部劇『ならず者』The Outlawを製作。ハワード・ホークス監督を降板させ、途中から自分でメガホンを取る。ジェーン・ラッセルの胸が扇情的すぎるということで、検閲当局と争うことになる。法廷闘争をへて映画は3年後にようやく再公開される。

ジェーン・ラッセル 『ならず者』

 

44年、プレストン・スタージェス監督と共に「カリフォルニア映画社」を設立。 既に引退していたサイレント喜劇のスター、ハロルド・ロイドを起用した『The Sin of Harold Diddlebock』(47)と、4人の監督が携わった『Vendetta』(50)を製作したが、いずれも興行的には失敗に終わった。この年、精神病の最初の徴候が現れる。強迫神経症あるいは重いパラノイアの徴候で、ヒューズは細菌を恐れるようになり、ホテルの一室でほとんどの時間を裸で椅子に座って過ごした。この病気は、その後、何度か発症することになる。

46年、自らデザインしたXF-11偵察機の飛行実験中に、大墜落事故を起こす。奇跡的に一命を取り留めるが、一生消えない傷跡を残すことになる。

47年、乗員戦争調査評議会の議員オーウェン・ブリュースターが、ヒューズの汚職を捜査すると発表。米軍と契約を結び、偵察機XF-11と飛行機ハーキュリーズの開発資金を連邦議会から受け取っていながら、納品しなかったというのがその理由である。ブリュースターは、ヒューズのライバルであるパンナム社社長のホアン・トリップの親友で、調査の中止をえさにパンナムとの合併をヒューズに持ちかけてくる。結局、ブリュースターとホアン・トリップの個人的な癒着から、米軍と航空機業界全体の賄賂問題までが、この裁判で逆に明るみに出されることになった。この年の終わりごろ、ヒューズは一度限りとなるハーキュリーズのテスト飛行をロングビーチ上空でおこなっている。このときの飛行は、いまでも最長の翼幅を持つ航空機として記録に残っている。

48年、赤字のRKOピクチャーズを当時としては史上最高の880万ドルで買収。 ジョン・ウェインと組んでモンゴルの英雄ジンギスカンを描いたスペクタクル史劇『征服者』(56)や、ジョゼフ・フォン・スタンバーグ監督の『ジェット・パイロット』(50年製作。公開は57年)、『マカオ』(52)などの大作や話題作を手掛ける。『ジェット・パイロット』では、スタンバーグが撮った航空シーンが気に入らず、改ざん。ジョン・スタージェス監督の『海底の黄金』(55)のプレミアの際には、プールの底に上映ホールを造るということまでやってのけている。

結局、経営危機を脱することは出来ず、最初の5年間で2000万ドルの赤字を出した。その赤字作品のひとつがキャサリン・ヘップバーン主演の『素晴らしき休日』だった。ヒューズは大幅な人員削減を行って過去のRKO作品を売りに出し、55年にはスタジオをジェネラル・テレラジオ社に売却した。

58年、最後となる公式インタビューに答えたあと、その後の20年間マスコミを避ける。

66年、TWA株を5億4600万ドルで売却してラスベガスへ移り、ホテルの最上階のスイートルームに居を構える。他のホテルや、ラジオ局、テレビ局、カジノ、土地など、ラスヴェガスの主要な施設を次々と買収していった。このころから、彼の奇行の噂が広く知られるようになるが、そのうちのどれだけの部分が真実であるかは、見極めがたい。このころヒューズは、ラスベガスのホテルから出ようとせず、乗用車には空気清浄機を取り付けていたという。テレビ局を買収したのは、不眠時に映画を見るためで、映画の途中で居眠りしてしまったときは、テレビ局に電話をかけて見逃したところから再放送させたというエピソードもある。

70年にはエアウエスト航空を買収、72年にはヒューズ・ツール・カンパニーを売却する。

76年、4月、メキシコのアカプルコを発った飛行機内で死亡。遺産は3億6000万ドルあったといわれる。400人もの人々が彼の遺産をめぐって争ったが、最終的に22人の従兄弟らに分配された。孤独な隠遁生活を送っていたため、死亡したときだれにも本人の識別が出来ず、FBIがその指紋を採って確認した。

ヒューズは、映画界のみならず政財界にも大きな影響力をもち、『市民ケーン』のモデルのひとりだったともいわれる。その特異なキャラクターのせいで、映画『メルビンとハワード』(80)、『タッカー』(88)、『ロケッティア』(91)、ジェイムズ・エルロイの暗黒小説『アメリカン・タブロイド』など、さまざまな映画や小説で重要な脇役としてたびたび登場している。 2004年には、マーティン・スコセッシ監督が『アビエイター』でレオナルド・デカプリオに若き日のヒューズを演じさせ、彼の名を世に広く知らしめた。

参考文献

ハワード・ヒューズ   ヒコーキ物語
『ハワード・ヒューズ』   『ハワード・ヒューズ ヒコーキ物語』
     
アビエイター  
『アビエイター』   ハワード・ヒューズの洋書
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