猫、猫、ねこ・・・、すべて猫の本。
猫の物語、猫の小説、猫の漫画・・・。猫本ばかりを集めた、猫をめぐる文学のすべて。わたしがお薦めする猫本を紹介するコーナーです。
猫の本はたくさんあります。猫の飼い方を書いた本、猫の気持ちがわかる本、動物行動学的に猫を分析した研究本などなど、無数にある猫の本のなかから、ここでは猫が登場する小説や物語、あるいは漫画など、どちらかというと文学よりの猫の本を紹介していきます。
熱烈な恋人たちも、謹厳な学者たちも、
熟した齢ともなれば、ひとしなみに猫を愛する、
彼らと同じく寒がりで、引きこもりがちの猫たち、
精気あふれておとなしい、家の誇りの猫たちを。
ボードレール「猫たち」
(ポール・ギャリコ著 新潮文庫)
突然まっ白な猫になってしまったピーター少年は、大好きなばあやに、冷たい雨のそぼ降るロンドンの街へ放り出された。無情な人間たちに追われ、意地悪なボス猫にいじめられ──でも、やさしい雌猫ジェニィとめぐり会って、二匹の猫は恋と冒険の旅に出発した。猫好きな著者ギャリコが、一匹の雌猫に永遠の女性の姿を託して猫好きな読者たちに送る、すてきな大人の童話。
[『猫語の教科書』のギャリコによる猫小説。あまりにも有名な本なので今さらという気がするが、押さえておくべきものは押さえておきたい。人間が猫に変身する物語というのは、意外にありそうでないものだ。ギャリコのこの小説は変身もの猫小説の代表作といってよい。猫に変身してしまった少年ピーターは、ジェニィとともに旅をしながら猫のなんたるかを次々と体で学んでゆく。なによりも大事な規則は、「疑いが起きたら、身づくろいすること」。人にしかられたときとか、なにかの音におびえてギョッとして飛び上がり、知っている誰かにそれを見られたときとか、けんかを一時中断したいときとか、悲しい気持ちになったときとか、ともかく体をなめて毛並みを整えること。猫にとって身づくろいはなによりも大事であることを、ピーターは教えられる。ミルクを舌で飲むときのコツを教わる場面では、猫は舌を上向きではなく下向きに丸めるのだと聞かされてびっくりする。ジェニィが猫について教えることは、ピーターならずとも驚かされることばかりだ。作者はほんとに猫に変身したことがあったに違いないと思わせるほど、猫目線の細かい描写がすばらしいが、その実ここに登場する猫たちは、人間的、あまりにも人間的である。猫好きならだれでも読んでいる小説だが、この本で猫が好きになったという人も意外と多い。]
■『猫町』
(萩原朔太郎 著 パロル舎)
猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかり。いつもの角を曲がったら、そこは夢現・無限のめまい町。ノスタルジックでモダーンなイラスト紀行。
[ショーペンハウアーの引用で始まる哲学的短編。旅は単なる「同一空間における同一事物の移動」にすぎない。そう考えて、どんな旅にも興味とロマンスをなくしていた話者が、旅先でふと迷い込んだ猫の町。それは東西南北の空間地位がすっかり逆になった、宇宙の逆空間にすぎなかったのか・・・。突然話者の前に現れた猫町は、あっけないほど簡単に消えてしまうが、それだけに深い余韻を残す。猫ばかりが住んでいる町の描写よりも、「なにかが始まろうとしている」という不安に満ちた期待の描写がすばらしい。朔太郎にはほかにも、「ウォーソン夫人の黒猫」というホラー小説がある。毎日、午後四時五分になるときまってどこからともなく部屋の真ん中に出現する得体の知れない黒猫につきまとわれて、次第に精神のバランスを失っていく女性を描いた、翻訳小説風の傑作だ。
架空の町をテーマにしたアンソロジー『架空の町 書物の王国』という本もあります(「猫町」も収録)。]
■『夏への扉 』The Door into Summer, Robert A. Heinlein
ロバート・A・ハインライン著 ハヤカワSF文庫
恋人に裏切られ、友人にはロボット製造会社を乗っ取られた発明家ダニエルは絶望のあまり冷凍睡眠を申し込み、30年未来の西暦2000年の世界に行くことにする。30年後、目を覚ましたダニエルは、かつて自分が考えていた改良型ロボットがライバル会社から実際に製造販売されていることと、それを発明したのが自分であることを知る・・・
[『スターシップ・トゥルーパーズ』で知られるハインラインによるタイムトラベルものの古典であり、また「世のなべての猫好き」に捧げられた猫SFの名作でもある。「今日までぼくはあまりに多くの時間を、猫のためにドアを開けたり閉めたりすることに消費してきた」というセリフに、猫好きは思わずうなずいてしまうだろう。わたしもときどき、アルトマンの『ロング・グッドバイ』でフィリップ・マーローの飼い猫が出入りしていたような猫専用出入り口を、家に設けようかと真剣に考えることがある。この小説の主人公の家には、そんな猫用出入り口を加えるなら、外に通じるドアが12もある。猫のピートはそのうちのどれかが夏へと通じる扉であることを信じて疑わない・・・。 いまこの本を読む人は、「なーんだ、これって『バック・トゥ・ザ・フューチャー』じゃないか」と思うかも知れない。たしかに、ここにはタイムトラベルものとして目新しいところはなにもないともいえる。だが、それはこの作品でハインラインがすでに、このジャンルの基本となる要素をすべて出し尽くしてしまったことを意味するにすぎない。古典とはそういうものだ。子供に読ましてあげたい物語である。わたしもできれば子供の時に読みたかった・・・]
■『夢先案内猫』L'Oneiropmpe, Leonor Fini
レオノール・フィニ 著 工作舎
日常のあわいに忍びこんできた猫が、異界へ、白昼夢へと、スフィンクスのごとく人間を導いていく。猫を愛する幻想画家フィニが流麗な言語で綴ったファンタジー・トリップ。
[ 南米ブエノス・アイレスに生まれ、エリュアール、エルンスト、キャリントン、バタイユらとも親交を結んだ女性画家、レオノール・フィニによる幻想的物語。彼女はこの小説の他に、猫を主題にした『ヴィブリサ物語』、『ムール・ムール』、『ロゴメレック』の3作品を書いている。フィニは絵のなかにも好んで猫を登場させた(たとえばこんな絵)。ローマ、パリ、コルシカと移り住み、コルシカ時代は廃墟となった僧院を買い取り、数十匹の猫に囲まれて暮らしていたという(その様子が『猫の鏡』『レオノール・フィニの本』という写真集に収められている)。多才な人で、バレー、オペラなどの衣裳や装置のデザイン、宝石デザインなどのほか、フェリーニの『81/2』や、ジョン・ヒューストンの『愛と死の果てるまで』の衣装も手がけた。この本には、イヴァン・モジューヒンと早川雪洲が登場する謎めいた場面がある。ディオミラとはいったいだれなのか。ひょっとすると、マリオ・カメリーニの映画にも出演しているディオミラ・ジャコビという謎の女優のことなのか。わからない。全然わからない。ついでながら
、「ミッシェル・ストロゴフ」は「ミハイル・ストロゴフ」と訳すほうが正しいのではないか? それはともかく、エア、ロディカ、ヴェスペルティリア(雌蝙蝠)、ザイラ、アグラエ、ミルラ、モレラ(ポー?)、アミディエ等々、この小説に登場する人物の名前はどれもすばらしい。わたしはこの支離滅裂な小説を、ほとんど名前の魅力だけで読み進んだ。]
★レオノール・フィニの公式(?)ホームページ: http://www.leonor-fini.com/
(ロアルド・ダールほか、国書刊行会)
現代英米作家20人による"猫アンソロジー"。溺愛型、畏敬型、同志型、飼い主にも様々な生態あり!? トニー・メンドサによる写真14葉、ロズ・チャストのマンガも収録。猫のおしっこ臭に日夜耐えている方への贈り物。
[「ニューヨーカー」などに発表された20人の作家の短編が集められているのだが、正直言って、ロアルド・ダールをのぞいて、わたしが知っている名前はひとつもない。けれども、この猫小説のアンソロジーは全体としてなかなかのレベルの高さを示している(ただ、どの作品も結構似てるというか、際だっている作品がないのもたしかだ)。
なかではやはりロアルド・ダールの「暴君エドワード」が出色のできばえといえる。中年夫婦のもとに迷い込んできた猫が、フランツ・リストの生まれ変わりではないかというとんでもない話へと展開していく、ダールの面目躍如たる作品だ。猫をリストの生まれ変わりと信じて疑わない妻がリストについて調べるくだりで、リストは「1886年にベイルートで死んだ」とあったので、どうにも気になって調べてみたら、やはりこれは誤訳だった。リストは、ワグナーの公演を見るために訪れたバイロイトの地で亡くなっている。どうやら訳者は "Bayreuth" を "Beirut" と勘違いしたらしい。リストがベイルートで死ぬなんてどう考えてもおかしいと思わなかったのだろうか。]
■『猫物語』
(富士川義之 編・訳、白水社)
猫好き、猫嫌い共にわくわく〈猫文学〉の贈り物! チェーホフ、コレット、チャペック、カルヴィーノら猫に魅せられた世界の文学者が、ふしぎな夢を紡ぎだす13の短編アンソロジー。
[上に紹介した『猫好きに捧げるショート・ストーリーズ』とは対照的に、こちらはチェーホフやコレット、チャペックやカルヴィーノといった、大作家の作品を多数集めた短編アンソロジー。「猫小説」というよりはまさに「猫物語」と呼ぶにふさわしい作品が、多数収められている。『猫好きに捧げるショート・ストーリーズ』では、いってみれば猫をだしにして人間の内面を描いた作品が大半だったのに対して、この本にはもう少し「猫より」の物語が集められている。とはいえ、この二冊の猫アンソロジーを読んでいて思ったのは、猫というのはつくづく「物語」にはなりにくい生き物だということだ。猫がご主人を待ち続けたとか、猫が人を助けたなどという話はついぞ聞いたことがない。人間たちが自分勝手に作り上げる物語などどこ吹く風と、勝手気ままに生きる、それが猫という生き物なのだ。]
■『内なるネコ 』The Cat Inside, by William S. Burroughs
ウィリアム・バロウズ 著 河出書房新社
愛おしいネコとの日常生活、失われた過去への想いが、幾つもの断章となって語られる、バロウズの自伝的小説。誤まって射殺した妻、早世した息子、ジェーン・ボウルズ、同性の愛人たち。作家の過去が、ネコの影となって現れる。
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■『ちいさなねこ』
(石井桃子・横内襄、福音館書店)
子ねこが外へとび出しました。外には、危険なものがいろいろ待ちうけています。常に外へ、広い世界へ、冒険へとむかう幼いものの姿を的確にとらえた絵本です。
[石井桃子による絵本。実はまだ読んでないのですが、彼女が訳したA・A・ミルンの『クマのプーさん』『プー横町にたった家』のファンなので。そんな子供の本なんか興味ないという人は、雑誌「ユリイカ」のクマのプーさん特集号の金井久美子・美恵子と丹生谷貴志の対談でも読んで、考え直してください。]
■『猫に時間の流れる』
(保坂和志、 新潮文庫)
都会の小さなマンションに住む三人の男女。彼らの時間は常に穏やかに流れ、そして猫とともにあった―。束縛や既成概念にとらわれることを嫌い、「猫のように」ふわふわと生きていく人々。そんな彼らの周りに起きる出来事や交わされる会話を、柔らかく、しかし芯の通った筆致で描いた中編二編を収録。『この人の閾』で芥川賞を受賞した著者の、猫に対する深い愛と洞察に満ちた一冊。
■『猫文学大全 』
(柳瀬尚紀 訳・編 河出文庫)
ハックスレー、マーク・トウェインからサキ、ギャリコ、サルトルまで、ミステリーもファンタジーも詩も、全部まとめて猫の文学。キラ星のような傑作16篇にピカソ、シャガール、クレー、ルッソーなどの名画を多数ちりばめた、贅沢きわまりない作品集。従来の猫の本に満足できない本物の猫好き読者に、真正の半猫人にして手練の翻訳者柳瀬尚紀の編・訳で贈る、猫文学の豪華アンソロジー。
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[ずいぶんむかし人にあげてしまって手元にはなかったのだが、最近古本屋で見つけて買い直した。個々の短編もなかなかおもしろいが、それ以上にふんだんに使われている猫の絵がいい。残念ながら絶版。Amazon で古本を探してください。]
■『猫に関する恐怖小説 』
(フレドリック・ブラウン他 著、徳間文庫)
『トバーモリー』 サキ
『猫男』 バイロン・リゲット
『猫の復讐』 ブラム・ストーカー
『白い猫』 S・ル・ファニュ
『猫ぎらい』 フレドリック・ブラウン
『僕の父は猫』 ヘンリー・スレッサー
『古代の魔法』 A・ブラックウッド
『箒の柄』 ウォルター・デ・ラ・メア
『灰色の猫』 バリー・ペイン
『ウルサルの猫』 H・P・ラヴクラフト
『エジプトから来た猫』 オーガスト・ダーレス
『緑の猫』 クリーヴ・カートミル
『七匹の黒猫』 エラリー・クイーン
『魔女の猫』 ロバート・ブロック
『著者謹呈』 ルイス・バジェット(ヘンリイ・カットナー&C・L・ムーア)
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[こういう猫小説のアンソロジーもあります。ヨーロッパでは猫は妖術信仰と結びつけられ、とくに黒猫は魔女の化身などといわれて恐れられてきました。猫の怖い一面を描いた作品集です。残念ながらこの猫本も絶版。古本を探してください。]
■『愛別外猫雑記 』
(生野頼子 著、河出書房新社)
可愛いだけか? 迷惑だけか? 「かわいそう」だけかよ〜! 行くぞ、4匹。わが盟友、猫よ。芥川賞作家による壮絶な猫小説。
■『猫の客 』
(平出隆 著、河出書房新社)
チビの来た庭。狂騰する時代の波に崩される古い屋敷での生きものの軌跡―魔術的私小説。主がいなくなり廃園となりつつある離家の庭で、その猫に出会う。猫と距離をとってきた私と妻の心に、その猫は徐々に近づいてくる。そして、別れは突然やってくる…。いとしさと苦しみ、愛する小さな命への愛惜あふれる物語。
[『愛別外猫雑記』と同じ年に発表され、その年の猫小説のベストワンを争った作品。]
■『空飛び猫』Catwings by Ursula K. Le Guin
(アシュラ・K・ル・グウィン著 講談社文庫)
仲よし四兄弟、セルマ、ロジャー、ジェームス、ハリエットは、お母さんもため息をついたくらい、翼をはやして生まれてきた猫たちです。荒れた町から森へ飛んでいった彼らはハンクとスーザンの心やさしい兄妹に出会うのですが。ル=グウィンの世界を村上春樹さんが美しい日本語に翻訳した素敵な童話です。
[『闇の左手』『ゲド戦記』などで知られる女性 SF・ファンタジー作家によるシンプルな猫物語。いくつかの続編が書き継がれている。]
■『猫と庄造と二人のおんな』
(谷崎潤一郎 著 新潮文庫 )
一匹の猫を中心に、猫を溺愛している愚昧な男、猫に嫉妬し、追い出そうとする女、男への未練から猫を引き取って男の心をつなぎとめようとする女の、三者三様の痴態を描く。
[“隷属の幸福”を描く谷崎文学の真骨頂。コレットの『牝猫』とあわせて読みたい猫本です。]
■『猫の事務所』
(宮沢賢治 著 パロル舎)
ある小さな官衙に関する幻想
軽便鉄道の停車場のちかくに、猫の第六事務所がありました。……
事務長は大きな黒猫で…さて、その部下の一番書記は白猫でした、
二番書記は虎猫でした、三番書記は三毛猫でした。……
こうして事務所は廃止になりました。ぼくは半分獅子に同感です。
■『牝猫』
(コレット著、岩波文庫)
人間どうしさながらに意志をかよわせ睦みあう青年アランと愛猫サア。アランの愛のみを待ちうける新妻カミーユの不満は、やがて「第三者」サアに対するいらだちと嫉妬の心にかわってゆく…。20世紀フランス文壇の女王コレット(1873‐1954)が、一匹の牝猫をはさんだ若い新婚男女の微妙な心理を繊細な感覚でとらえた円熟期の代表作。
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[猫好きにとっては古典中の古典といってもいい猫本です。]
(奥泉光 著、新潮文庫 )
「吾輩は猫である。名前はまだ無い」この一行に、大きな謎が仕組まれていたとは―。上海の街に苦沙弥先生殺害の報せが走り、猫の「吾輩」はじめ、おなじみ寒月、東風、迷亭に三毛子、さらには英国猫のホームズやワトソン、シャム猫の伯爵など、集まった人が、猫が入り乱れ、壮大な野望と謀議が渦を巻く。卓抜な模写文体とロマンで、日本文学の運命を変えた最強のミステリー。
[夏目漱石のパスティッシュとしてだけでも十分読む価値がある猫本だが、それを良質のミステリーに仕上げてしまう力業は、さすがは奥泉光、なかなかのテクニシャンぶりだ。もっとも、SFめいたエンディングには賛否両論の声がある。]
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■『ノラや 』
(内田百けん、中公文庫)
ふとした縁で家で育てながら、ある日庭の繁みから消えてしまった野良猫のノラ。ついで居つきながらも病死した迷い猫のクルツ―愛猫さがしに英文広告まで作り、「ノラやお前はどこへ行ってしまったのか」と涙堰きあえず、垂死の猫に毎日来診を乞い、一喜一憂する老百けん先生の、あわれにもおかしく、情愛と機知とに満たち愉快な連作14篇。
[猫好きであれば誰でも、この本を読めば泣けてくるはず。たとえ猫が大嫌いという人であっても、この本を読んで泣けないはずはない。ヒッチコックの『めまい』はこの本のリメイクにすぎなかった(!?) わたしにとっての猫文学の最高峰です。ついでに金井美恵子の『タマや』も読んでおきましょう。]
(金井美恵子 著、新潮文庫)
トラーは作家の自宅に迷いこんできたオスのトラ猫。無印良品の缶詰には口もつけないが「モンプチ」には目がない。暖房の前に寝てはスイッチを入れろと鳴く。どんなに甘やかされてきたのやら、とため息をつく作家も、気づくと「猫なで声」で呼んでいる。ああ、どうしてすべての猫は愛されてしまうのか?―その答は本書の中に。猫と作家、そして画家の姉の生活を綴った偏愛的エッセイ集。
■『猫にかまけて』
(町田康 著、講談社)
写真と文章で綴る、猫たちとの暮らし。どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、彼女らはいつも洗練されたやりかたで、人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。
■『猫語の教科書 』
(ポール・ギャリコ著、ちくま文庫)
ある日、編集者のもとへ不思議な原稿が届けられた。文字と記号がいりまじった、暗号のような文章。"#YE SUK@NT MUWOQ"相談を受けたポール・ギャリコは、それを解読してもっと驚くはめになる。原稿はなんと、猫の手になる、全国の猫のためのマニュアルだった。「快適な生活を確保するために、人間をどうしつけるか」ひょっとしてうちの猫も? 描き下ろしマンガ(大島弓子)も収録。
[ポール・ギャリコといえば、最初は『ポセイドン・アドベンチャー』の原作者というぐらいの印象しかなかった。大学に入ったとき、クラスで一番美人の女の子がギャリコのファンだということを知って急に興味をもち、それで見つけたのがこの本だ(動機が不純だね)。この本は人間に気に入られるにはどうしたらいいかを、猫の目線から書いたマニュアル本で、いわば猫版『小悪魔な女になる方法』。そのため猫好きのなかにはこの本を読んで複雑な気持ちになる人もいるみたいだ。この本には気をつけろ!]
■『セリーヌ─猫のベベールとの旅─』
(F・ヴィトウー著、創林社)
セリーヌと旅した猫の話。1944年、ファシストのレッテルを貼られたセリーヌは、妻と猫のベベールを伴ってフランスを去り亡命の旅に出る。バーデン・バーデン、ジーグマリンゲン…。デンマークへの長旅の前夜、セリーヌは食料品店の主人にベベールをゆずってしまう。ベベールはおいていかれるのを知ってウィンドーのガラスを体当たりで割って、ガラスの破片を体にくっつけたまま町を走って、セリーヌ夫妻のいるホテルに戻ってくる。
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[セリーヌは、戦後、非国民のレッテルを貼られ長い亡命生活を余儀なくされる。その後、特赦を受けて帰国してからも戦犯作家としての汚名は消えず、パリ郊外のムードンに引きこもって、失意の日々を送っていた。セリーヌの亡命生活に最後までつきしたがったベベールも、セリーヌとともにムードンに移り住む。そしてベベールはこの土地で、乳癌にかかって息を引き取る。「猫らしからぬ病い」と訳者のあとがきにはあるが、この病気にかかる猫は意外に多い。乳首の周りを軽くさわってみて、こりこりとしたしこりがあれば要注意だ。 現在入手不可。図書館か古本屋で探してください。セリーヌは国書刊行会から全集がでているほかに、『夜の果てへの旅』『なしくずしの死』が文庫ででています。]
■『「ねこ式」フランス語会話』
(にむらじゅんこ 著、三修社)
ねこと一緒にくらすための257フレーズ。日常生活のさまざまな状況を想定し、257ものフレーズを掲載しました。
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[これを猫本に数えていいのかどうか・・・。ま、いいか。]
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■『グーグーだって猫である』
(大島弓子 著、角川書店)
あの珠玉の名作漫画『綿の国星』の著者による夏目漱石風、猫漫画エッセイ。といっても、猫の視線でヒトの日常を語るのではなく、ヒトである大島弓子の目線でグーグーという名の猫と暮らす自らの日常を淡々と描いている。グーグーとのペットショップでの出会いから2番目の猫のビーを拾ういきさつなどが、あくまでも冷静に客観的に語られる。猫への過剰な感情移入もなければ、ファンタジックなデフォルメも皆目ない。その意味では物足りなさを感じる大島弓子ファンも少なくないかもしれない。しかし、新しい猫たちとの距離を平静に保つことで、かけがえのない「サバ」(大人になった「チビ猫」)の死による喪失感を癒している著者の心情を痛いほど感じることができる。(土肥菜)
■『綿の国星』
(大島弓子 著、白泉社文庫)
どしゃぶりの雨の日、道ばたに捨てられていたところを予備校生の時夫に拾われたチビ猫。猫は成長すると人間になると信じているチビ猫は、いつか時夫の恋人になりたいと願う。やがて目の前に現れた美しい銀色の猫ラファエルは、猫は人間にはなれないと言い、一緒に旅に出ようとチビ猫を誘うが…。
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■『小さなお茶会』
(猫十字社 著、扶桑社)
時を超えて輝きをますメルヘンの至宝が完璧に蘇り、不朽の生命がほとばしる 80年代初頭の少女漫画シーンに、「猫」の夫婦がデビューした。かわいい奥さん猫の「ぷりん」と、少年の心を持ったおだやかな旦那さん猫の「もっぷ」の2匹はお互いを優しく包みあい、珠玉のメルヘンを紡ぎだした。多くの人をした魅了したこの作品は今まで部分的に再出版されていたが、初めて完全版として完璧に蘇る。
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[わたしは浅田彰の『構造と力』でこの本の存在を知りました。]
* エミール・ゾラ「猫の天国」(『ゾラ・セレクション(1)』所収)
* シャルル・ルイ・フィリップ「バターのなかの猫」(『小さな町で』所収)
* ミッシェル・トゥルニエ「ふたつの庭―アマンディーヌの日記」(『親指小僧の冒険─七つの物語 トゥルニエ選書』所収)所収)
・エドガー・アラン・ポオ「黒猫」(『ポオ小説全集(4)』所収)
・シャルル・ペロー 「長靴をはいた猫」(『長靴をはいた猫』所収)
・夏目漱石『吾輩は猫である』
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