「みずほ点訳」ホームページ

 吾輩は和茶である 




第71回〜第80回



和茶
「猫がしら?」
小児用プールのようなクッションの中に納まっている和茶。
顔の接写が、獅子頭に見えたり、見えなかったり・・・。




第71回 (2012.07.27)

毎年そうなのだが、吾輩、夏痩せするのである。
そもそもが猫は暑さが苦手だと思うけれど、吾輩はことのほか弱いのかもしれない。
それに痩せるとは言っても、それでようやくLLがLになる程度だとは思うのだが・・・。
今年もやっぱり、梅雨明けする前後くらいからあまり食べなくなって、毎日していたうんこがない日もあり、猫砂の掃除をするおじさんがいちいち、うんこの有無をおばさんに報告するようになった。
ちょっと前までだと、テレビの上に跨るようにしたとき、お腹が画面に垂れ下がっていたり、自分で扉を開けて部屋に入ろうとしたとき、開け方が中途半端だと頭から胸までは入っているのにお腹がつかえてこれ以上は無理、なんて状況に陥ったりしてたのににゃあ。
それが夏の到来とともに減量態勢に入るものだから、おばさんに言わせると「うまく先生を騙してる」って。
来月に入るとワクチン接種でツジカワ犬猫病院に行くことになる訳だが、そこで体重を測られても、吾輩のマックス体重をご存知なきままに「これ以上にはしないでね」との一言、大目に見てだろうが何だろうが、一応は「問題なし」と認められてしまう、ということを言っているのだ。
ワクチン接種が冬や春だったら即アウトなのに・・・。
ところで、実際、減量しているには違いなくて、いいこともある。
大おばあさんの箪笥の上に、再びジャンプできるようになるのだ。
ここは妙に冷やっこくて避暑には最適。
おじさんは近寄りたがらないが、吾輩が安眠できる大事な場所なのである。
また、吾輩が少しでも食欲を出すようにと、普段は出てこない食餌が提供されたりもする。
先日も、スーパーで見つけたと言って、クリームシチュー風、ミネストローネ風、ブイヤベース風なるスープ仕立ての猫ご飯を買い込んできて、順にお皿に盛られた。
なかでも、おじさんが「僕だって食べたことない」と羨ましそうにしていたミネストローネ風が気に入って猛烈な勢いで食べた。
おばさんたちは些かホッとしたようだったにゃ。


第72回 (2012.08.04)

夏本番である。
真っ白な雲がゆっくり動いている。
蝉が全身全霊で鳴き続ける。
そして吾輩、ワクチン接種である。
キャリーバッグに押し込まれるのに抵抗したら、おばさんは「来週でもいいんだし、今日だって夕方もあるんだから」と潔く諦めたものの、それに従ったような顔をしていたおじさんが不意にまた捕まえにきて、その右腕に傷、穿いてたズボンにかぎ裂きを作ったのと引き換えに、結局、ツジカワ犬猫病院まで行くこととなってしまった。
少しは悪いと思ったのか、何度も吾輩を覗いては「大丈夫だからね」と声をかけてくるおじさんだったが、決して大丈夫じゃなく、到着してびっくり、千客が万来しているではないか。
それも見事に犬ばかりで、白いのやら、黒いのやら、大型のやら、キャンキャンうるさいのやら、他にも何やら・・・。
で、診察券だけ提出したおじさんと外のベンチで待ったのだが、なんせこの暑さ。
そして続々と現れる犬ばかりのお客。
たまたま看護士のおねえさんが外に出てきたのを幸い、おじさんが「ここで待ってて呼んでくれますよね?」と確認したら、「暑くないです?和茶ちゃんにも。中に別に部屋を用意しますね」と、吾輩もしくはおじさんの、犬が苦手なことも見抜いてくれる。
そして実際、中に呼ばれた。
「犬の惑星」のごとき待合室を通り抜け、案内された別室で、じっと待つ。
かつて吾輩も経験した入院専用の部屋の隣で、ガラス越しに上下段になった銀色のケージが見え、入院している犬や猫が何匹もいた。
結局、外のベンチで20分、中の別室でも20分待たされて、やっと診察室に呼ばれたのだった。
美人先生、おひさしぶり。
真っ先に体重を測られ、昨年より些か増えて6・40kg。
それでもやっぱり「これ以上にはしないでね」の一言。
体温が39度7分だったのは熱のある状態ながら、外で待ったりずいぶん待ったりしたからかな、ってことで済まされ、おじさんからの虫歯、抜け毛、便秘という質問に順に答えてくださった。
きれいな歯をしてますよ、虫歯は勿論、歯肉炎にもなってませんねえ、皮膚炎など部分的に抜けるのはよくないけど全体なら、えーと、もう抜けるものなさそうですよ、今は何もたまってませんね、今度、便秘してるときに連れてきてくださいね、って。
最後にワクチン接種の注射をされて終わった。
帰宅した後、おじさんの報告を聞きながらも、寝そべる吾輩を目にしたおばさんが猛烈に心配する。
心臓が倍速で動いてるらしく、そのバクバクという音が伝わってくるようにお腹が振動しているのだ。
そう、吾輩が昔、大の苦手の掃除機から避難するあまり熱中症になりかかった、あのときと同じだったのである。
はじめて見るおじさんも心配したが、やがて徐々に落ち着きはした。
ワクチン接種に出かけて熱中症じゃ洒落にもにゃらない、とは今だから言える話。


第73回 (2012.08.22)

「猿も木から落ちる」ならぬ「猫も階段から落ちて」しまった吾輩である。
どこも怪我はしなかったし、階段も壊れはしなかった。
ただし、下から3段目に引っかき傷ができた。
まあ、間が悪かった、とでも言おうか。
脱ぎっ放しだったおじさんのカッターシャツを洗うのにおばさんが手にし、はたはた振ったとき、ちょうど真横にいたため、振られたシャツが吾輩には時節柄、白いふわふわしたお化けに見えて、大慌てで逃げ出したのだ。
それがあまりにも慌てていて、階段を猛烈な勢いで降りたものだから、途中で踏み外し、下から3段目を引っかき、落下した、という始末。
階段の下に激突した後も、なお遁走した。
途方もない物音にすぐさま飛んできたおばさんたちに、怪我などしてないか捕まえられて確認され、大事なかった次第だが、まあ、このそそっかしさは、おばさんに似たのかもしれない。
おばさんがプリーツスカートの両端を手に持ち、「ぴら〜」とか言って吾輩に向かってきたときも、大慌てで逃げ出した吾輩だった。
おばさんにすれば冗談半分だったのであろうと思うが、吾輩には恐怖体験以外の何者でもなかった。
カーテンに飛びついたところが、生地がもう弱っているのか元々安物なのか、びりびりびりびりと縦方向に破れるばかりで、ぶら下がっていたはずの吾輩が下まで落ちてしまったときにも、無残な姿となったカーテンを見上げて「これはまずい」と逃げ出した。
後で気づいたおばさんたちだったが、もう怒る気にもならなかったようだ。
逃げると言えば、もうひとつ。
チビのころは、アルミホイルをくしゃくしゃっとまるめたボールで遊んでいた吾輩だったのに、現在は、アルミホイルを使おうとおばさんが箱から引っ張り出す音がするだけで、どうしても逃げてしまう。
これを成長と言ってしまってもいいのだろうかにゃあ?


第74回 (2012.09.19)

まだまだ残暑が厳しいのに、広げずに半分のところで折りたたんで敷かれてある絨毯の、その折りたたまれた中にもぐり込んでることの多い吾輩である。
実は隠れている次第であって、吾輩がいなくなった、とおばさんたちが躍起になって探すのを面白がっているのである。
たしかに中の温度は何度になることだろうか。
その状況に耐え、どうしても耐えられなくなったときには飛び出すやいなや、必ずトイレの便器の奥、つまり、うちの中で比較する限りもっともひんやりした場所に移動するのがパターン。
そうしなくてはいられないくらい絨毯には熱がこもっている、当たり前だけど。
絨毯の上を通るだけでもぼかぼかして気持ちが悪いこの季節に、花びらもちのように包まれるなんて尋常の沙汰ではない。
しかしながら、それを我慢してまで、かくれんぼの魅力が勝っているということ。
その証拠に、そうやって今まさに絨毯をめくってもぐり込もうとしたところをおばさんに見つかってガシッと目が合ったとき、中にもぐる気持ちがすっかりしぼんでしまったことがあった。
最初から隠れ場所が分かってしまっているかくれんぼほど馬鹿馬鹿しいものはないからである。
ただし、一説に、吾輩が懸命に隠れていたところで、おばさんたちにはこんもり盛り上がった絨毯でもってちゃんと悟られ、暑くないのか心配されてる節もあるらしい。
まあ、はっきりした説ではないし、これからこそ気温が下がってくるのだから、まだまだこの楽しみを続ける気でいる。
目が合うと言えば、相変わらず建具でがりがり爪とぎをしている吾輩。
それも2階の障子に齧りついているときは必ず、手前の部屋にいるおじさんと目が合うまでがりがりすることにしている。
早い話がおじさんを挑発しているのだ。
叱りに来るおじさんがもう少しで吾輩に手が届くというところでパッと逃げ、ますます怒り出すおじさんが面白い次第。
嗚呼、猫ってやめられませんにゃあ。


第75回 (2012.09.27)

季節がひとつ変わって、早速、おばさんのふとんにおじゃまをした吾輩である。
まあ、その涼しくなるなり方があまりに急だったことが原因で、まだ毎日おじゃましてしまうという訳ではない。
もうひとつ、ひさしぶりにしてしまったのがトイレの便座のふたに乗っかっての水分補給だった。
おじさんが使用した直後の、絶対におばさんだったら近寄らない状況に、すぐさま飛び込んで行って、おじさんが閉めたふたの上に後ろ足だけで立ち、前足をタンクについて、まだ勢いよく蛇口から落ちている水のすぐ横に顔を傾けて持って行って、舌で舐めとるように飲むのだ。
背後から見守っていたおじさんにすると、何とも珍妙な図だったらしい。
ついこの前も、おばさんがトイレにいるところに入って行ったら、使用した訳ではなかったそうで、水も流れてなく、すかを食うこととなった。
で、おばさんが温情をかけてくれて、吾輩のために一回、水を流してくれたのだ。
にゃーんて優しい!と、この話を聞いたおじさんが、誰もいないトイレに入って行く吾輩を見つけたとき、すぐに来て水だけ流してくれた。
ところが吾輩も気まぐれ。
まわれ右でそのまま出てやったので、おじさんがすかを食い、「水が勿体ないだろ、おい」と悔しがっていた。
水つながりの話といえば話なのだが・・・。
何が原因だったのか分からないけれど、今朝のこと。
朝のばたばたとした最中に突然、吾輩、ゲボを連続6回もしたのである。
おばさんたちは朝食中。
特に出勤時間が迫って焦りまくっているおじさんは、矢継ぎ早に食べ物を口に放り込んでいるところで、それを後目に吾輩は矢継ぎ早に出した、という次第。
キャットタワーの最上段にいてゲボゲボ、ローボードの端っこに移動してゲボゲボ、床に降りてシャーシャー、再びキャットタワーの最上段からシャーシャー、ローボードの端っこに移動してシャーシャーだった。
最初のタワーからのゲボで、おばさんが慌てて雑巾等を取りに走り、行った先で「あ、こんなとこにもしてある」って。
実はそれがほんとの最初の分。
床のシャーくらいからは固形のものがもう出なくなって、水っぽいものだけがほとばしった。
特にタワーのシャーのときなどはおじさんに言わせると、シンガポールのマーライオンのようだったそうな。
心配してくれたおばさんたちだったが、その後はけろっとしていた吾輩。
吐き出すだけ吐き出してスッキリ!って感じ。
あのゲボって一体何だったのかにゃ?


第76回 (2012.12.31)

ゲボの話をしたきり3ヶ月も更新してなかった吾輩である。
なんとも申し訳がにゃい。
別に旅に出てたとかいう訳でもなく、ただ単に時間を過ごしていただけであるが、一度脱走事件は起こした。
つい先日のこと。
大掃除を始めたおばさんが注意して扉の内側と外側を拭いていたらしいのだが、吾輩から見れば「どうぞどうぞ」と言わんばかりの状態。
それでは「どうもどうも」と言いながら外まで出て、すぐの縁の下に身を置いた。
おばさんに言わせると、視野の隅っこに動くものが映り、ハッと気づいたときには時すでに遅く、ゆっくりゆっくり出て行く吾輩がいて、しまった!ってことになるらしい。
どうしたらいいか思案し、即座に浮かんだのが「にんじん作戦」だったとか。
吾輩にとって「にんじん」となり、手っ取り早く作戦実行でき、後始末にも困らないものとして猫用の焼き海苔が選ばれた。
まあ、そんな作戦に引っかかると思われた時点でプライドに傷がつき、しかも「にんじん」がぺらぺらした海苔とはにゃあ、と嘆かわしい吾輩だったが、縁の下から問題の扉の内側にまできれいに並べられた焼き海苔には敵わず、おばさんの思う壺どおり、いやそれ以上の作戦成功を収め、うちに戻ってしまった次第。
何ともあっけなく一件落着した脱走事件だった。
しばらくは外を思い出してうるさく鳴いてやったが、じきにそれも忘れたのだった。
先々週だったかは、ポマード事件というのもあった。
おばさんが台所で晩ご飯の用意をしていたときのこと。
献立は肉だんご鍋。
で、灰汁をせっせと取り除いていたらしいのだが、何回目かに取った灰汁をひょいと捨てる、まさにそのタイミングで、吾輩が床からシンクの横に飛び乗ろうとしたものだから、たまらない。
それまでの何回かの灰汁と同様、捨てられるはずだっただけのものが、まともに吾輩の後頭部から背中にかけてかかってしまったのだ。
ちょびっとだけ熱かったし、びっくりしたのは吾輩もおばさんも同じだったと思うが、すぐにおばさんに捕まえられ、タオルでごしごしと拭かれた。
それでも全部がすぐに取れるものではないようで、おじさんが帰ってきたとき、まだつやつやの毛を立てて、ポマードを塗ったような感じだったそうな。
そうした状態は結局、1週間ほど続いていたとか。
さて、今日はもう大晦日。
今年も「猫走」だったにゃあ。
毎年楽しみにしている紅白歌合戦。
梅ちゃんおねえさんの紅組を応援しようかにゃあ。
最近、パフュームも気になってるし・・・。
来る2013年も、どうぞよろしくお願い申し上げます。


第77回 (2013.02.22)

年明けからあっという間に過ぎて行く時間のことを、1月いぬ、2月にげる、3月さる、というらしく、猫がいないのが何だけれど、たしかに吾輩もいぬやにげるって感じだった。
何してたのだろうかにゃあ。
まあ、相変わらずの毎日を過ごしてたのかにゃあ。
寒くなってからというもの、テレビの上にはよく乗る。
前にも書いたけど、乗る前にきまって画面の左上の隅っこを何度も擦ってしまう。
どんな番組が放送されてたときだったか忘れたけど、画面の上のほうを文字が右から左に流れたときに、そのどんどん流れて行く文字を一所懸命に擦り続けたのだった。
それを見ていたおばさんたちが、そう言えばいつも擦る場所には時刻が出てたりするなあ、文字を擦るんだなあ、と妙に納得していた。
ところが、そうとも言えないのである。
フィギュアスケートを見ているときには、くるくる滑っている真央ちゃんなどを擦るので、どう考えてみても真央ちゃんと文字との共通点はないし、その移動に従って吾輩が擦ってる先も移動するので、擦る場所が限定されているわけでもない。
自分のことながら、ほんと、分からない。
テレビに乗ると言えば、これも前に書いたけど、どうしたって尻尾を画面側に垂らし、場合によっては前足や後ろ足まで垂らすので、おじさんたちが見ている番組の大いなる妨げになってるらしい。
でもそのくらいテレビにぴったりくっつかないと寒さが我慢できないのだ。
いつもは、おばさんたちから見て、頭が右、お尻が左にあるのに、今朝は逆向きに乗り、なのにやっぱり尻尾が画面側に垂れてたので、おじさんは文句たらたらだった。
画面に垂れてるのは、実は尻尾や足ばかりではない。
お腹も乗っかって垂れてる次第。
冬毛でふさふさしてるとも考えられないことはないが、まあ、お肉でしょう。
おばさんの掌からカリカリをもらう癖をつけ、お腹を満たすという本来の目的のほかに、おばさんに甘えるという目的があって、しょっちゅう利用してたツケかも。
こそっと体重計にも乗ってみたところ、ラッキーな数字を目にしたような・・・てな毎日の吾輩。
今年も「猫の日」スタートになってしまいましたが、どうぞよろしくにゃ、でございまする。


第78回 (2013.05.11)

3月さる、4月失礼する、5月ご無礼する、という感じに毎日を過ごしている吾輩。
やっぱり何してたのだろうかにゃあ、なんて思ってしまう。
ぬいぐるみのくまのプーさんとは、ちょいちょい遊んでやっていて、突っついたり、転がしたり、齧りついたり、くわえて放ったり。
結局吾輩が動かしているのだが、こっちにあったり、あっちにあったり。
一度首のところでちぎれてしまい、おばさんに縫ってもらってそこは直ったものの、吾輩が齧ったことによって胴体にできた小さな無数の破れ穴は、プラネタリウムの星のごとく、中身の綿を覗かせ、白い輝きを放っている。
サランラップやビニールは相変わらす好んで齧るので、おばさんたちが必死に隠してるが、なぜか鼻が利き、視覚的には見えないものでも見つけて齧っていて、おばさんたちを驚かせている。
同じ台所用品でもアルミホイルとなると話が違い、チビだったころは、くしゃくしゃにまるめてもらって球状になったのを相手に猛烈に遊んだものだが、今はとんと。
ビニールなどのように好みでもない、齧りもしない、見向きもしない、と言ったところかにゃあ。
口にする、しない、と言えば、猫用かつぶし。
ふわふわのうちは、なんておいしいものだろうと脇目もふらずに食べるのだが、そうして食べてしまって、お皿の上に細かくなったのだけが残ったとなるや、鼻こそ近づけたりするものの、食べる気がまったく起こらなくなり、おばさんが片付けない限り、そのままの状態が続く。
で、最終的にはゴミとして捨てられるわけだが、このゴミ収集車がまた、吾輩には気になって仕方がない、変な存在なのである。
ごーっと音が聞こえてくるだけで恐くなって一度は必ず逃げ出すのに、なぜかまたわざわざ戻ってまで見たくてしょうがないのだ。
恐いもの見たさ、というのだろうか? 毎週月曜日と木曜日、これを必ず繰り返しているのも、自分のことながら、にゃんともはや・・・である。
こうして書いてみると、まあ、相変わらずってところでしょうかにゃ。
本日をもちまして満5歳を迎えた吾輩ではあるが、にゃんともはや・・・。


第79回 (2013.08.15)

今年も夏になって食事量が減った吾輩。
おばさんに言わせると、ワクチン前に上手に痩せようとしているってことになるのだが、そのワクチン接種を結局、昨日、まんまとやられてしまった。
毎年お盆前に連れて行かれるのに今年は静かに過ぎ、やれやれと思っていたところ、昨日の午前中、お墓参りに出かけたおばさんたちが戻ってくるなり、あっという間にキャリーバッグに押し込められたのである。
ちゃんと留守番していたことを褒めてくれるのかと体を伸び伸びして転がっていたのをひょい、といった感じ。
不意を打たれ過ぎて抵抗する間もなかった。
と、表に自動車が停まってるではないか。
昨年の熱中症騒動に懲りたのか・・・。
おじさんの運転、おばさんの同伴で、ツジカワ犬猫病院に到着する。
やっぱり今年も先客がいっぱい。
ただし、エアコンを利かせた車内で待ってるので、昨年のようなことはない。
やがて、適当なところで、おじさんと病院の中に移動。
先客には犬もいたはずなのに、吾輩がおじゃました時点では猫ばかり。
今年は「猫の惑星」のごとき待合室となって、その一員となった次第。
おじさんが椅子に腰かけて膝の上に載せたキャリーバッグと、隣でおねえさんが同じように膝の上に載せたキャリーバッグの、窓どうしがちょうど向き合い、中にいた長毛種の雌猫ちゃんと吾輩が、お見合いしてるような格好になる。
おじさんがでれでれとおねえさんに話しかけているのを聞きながら、吾輩はお利口に黙っていた。
診察券の順番により、新入りのように思えた吾輩がすぐ次に呼ばれて、診察室に行く。
なんでも美人先生が辞めてしまったとかで、後任は、よりによって正反対な、体格に恵まれ、声も大きな、坊主頭の先生。
吾輩の体重が6・5kgと量られた後、おじさんの相談はふたつだった。
うんこの切れが悪いのか、擦りつけたり、引きずったりするときがあることと、今まではしたことなかったのにマーキングのような行為をするようになったこと。
うんこのほうは前に書いたことがあるが、マーキングはみなさま初耳かと思う。
実は、この吾輩、自分でも何だかおかしいと思うのだが、おばさんたちの目があっても平気で、台所の出窓の網戸に向け、尻尾を高々と上げ、そのうちその尻尾をぶるぶるっと震わせながら、少しではあるけれど、出しちゃっているのだ。
叱られて退散した後、おばさんが雑巾で網戸を拭くと、黄色く汚れるらしくて、どのくらい前からかと言うと、玄関で自転車に向けてやっちゃったことがあるけど、あれはいつだったろうか。
ほかにも何回かやってて、最近は、吾輩がご機嫌で尻尾を高々と上げているだけで、警戒を強めているおばさんたちなのである。
で、坊主頭先生の説明だと、よその猫がそばで鳴いたり、においをつけたりして、吾輩の縄張りを荒らすようなことがあると、そうやって主張することが多いとか。
なるほど、たしかに町内に親子でやってきたトラ猫一家がいて、その子猫が隣の駐車場で一日鳴き続けてた日も、あった、あった、と思い出す。
窓を開けていれば、どうしても影響されやすいので、夏とはいえ窓を閉めてエアコンで調整してあげて、と言われる。
うんこのほうは、三つほど考えられる原因を教えてくれたが、実際にそういうことをした翌日くらいに診てみないと特定もできないので、今度は是非連れてきてください、とのことだった。
熱中症になることもなく、無事に帰った後から、食事量が増えた吾輩。
坊主頭先生の元気をもらっただけなのだが、坊主頭先生を知らないおばさんは「ワクチンが済んだから痩せてなくていいと思ってるでしょ」なんてことを、吾輩に言ってくるのだった。


第80回 (2013.09.10)

その僕は、東隣の朝潮さんちのブロック塀をとことこ歩いてやって来た。
おとといの朝のこと。
土曜日なので、おばさんたちはのんびり朝食中。
先に気がついたおじさんが開いてる窓の向こうを指さして「猫がいる」と言い出し、騒ぎが始まった。
吾輩も勿論気づいていて、その窓の正面に位置するキャットタワーの上段に乗っかり、吾輩のほうが見下ろせるようにする。
ブロック塀の手前にうちの通路がある分だけ距離をおき、猫二匹と人間ふたりが三対一に分かれて睨みあう図となった。
吾輩と同じキジトラだが、全体に色が薄い。
野良猫ではないようで、赤い首輪をしている。
赤だから勝手に女の子かと思ったら、立派なタマタマをぶらさげてた。
お腹は吾輩よりずっとずっとスマート。
睨みあうとは書いたけど、そんな緊張感はまるでなく、おばさんが「にゃんにゃ!」といいかげんな名前で呼び、吾輩も、その僕も、移動してみたり、寝そべったり、好きなようにしている。
おばさんがデジカメで写真を撮ってて気がついたのだが、先月、ブロック塀を歩いているところを撮られた猫も赤い首輪。
まさしく同一人物(?)だった。
ブロック塀が散歩コースなのかも。
その後、その僕がブロック塀からこちらの庇に飛び移り、上から顔だけ出して覗き込もうとするので、吾輩からは耳しか見えなくなったり、おばさんが通路に出ると、慌ててブロック塀に戻ったり。
そのうちに何を思ったのか、うちの庭にまわり、吾輩も勿論、広縁に飛んでって、網戸越しに向き合うこととなった。
さっきまでとは比較にならないくらい距離が近づく。
こうして見ると、まだ子猫と大人猫の境い目くらいだろうか。
体重などきっと吾輩の半分もないのじゃないかと思う。
そしてどうやら吾輩、気に入られてしまったようだった。
吾輩がちょっと離れようとすると「にゃあにゃあ」鳴き、そばにいてやるとおとなしくなる。
吾輩が網戸に顔を持って行くと、その僕もぐっと寄せて来る。
寝そべると、濡れ縁だったり敷石だったりに同じように寝そべる。
そんなことを結局ずっと繰り返していた。
朝から計算すると4時間ほどいただろうか。
さすがに飽きてきた吾輩が奥に引っ込んだままでいたら、諦めたのか姿が見えなくなった。
鳴き声をご近所に憚ったり、直接「もうお家に帰ったら」なんて諭したりしていたおばさんだったのに、なぜか寂しがる。
おじさんに「もう来ないのかなあ」とも。
ところが、その40分後、再び現れた。
どうやらご飯を食べに戻っていたらしい。
というわけで、また午前中の繰り返しに。
そうして寝そべってるうちにそのままお昼寝してしまい、気がついたときにはその僕はいなくなっていた。
昨日は朝から雨。
おばさんが「今日は来ないわ」って。
実際、現れなかったが、おばさんも、おじさんも、かく言う吾輩も、気になって気になって何度も広縁を覗いたり、何にも変わりないのに話題にしたりしたのだった。
おじさんにタマタマと名付けられたその僕、また来ないかにゃあ。




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