「みずほ点訳」ホームページ

 吾輩は和茶である 




第1回〜第10回



和茶
「阿茶さんとツーショット」
ローボードの上に正座する和茶。
同じポーズで写っている阿茶は、写真立ての中。




第1回 (2008.8.5)

吾輩は和茶である。
こう書き出せば、もう察しがついているかもしれないが、名前はまだないどころか、和茶が名前である。
どうやら、このうちに春までいた先代さんに因むものらしい。
おじさんの話だと、その阿茶さんの二倍は長生きしてほしいということで、あたまに「W」がつけられたのだとか。
茶トラではなくキジトラであり、勿論、「わちゃー」なんて芸をする気は全然ない。

さて、かく言う吾輩、このうちには昨日やって来た。
動物愛護センターで、猫をかぶっておとなしくしていたので、うちに着くなり猛烈に走り出したのには、おじさんもおばさんも目をまるくして驚いていた。
特におばさんが、吾輩の顔の感じや毛の色彩からイメージするのか、しきりに「たぬき」呼ばわりしてくる。
さしずめ、何となく化かされたとでも思っているのかもしれない。


第2回 (2008.8.11)

動物愛護センターでは、食餌をもらい、トイレのしつけを教わった。
食餌は専らカリカリ。
お湯に浸され、十分にふやけたものを食べていた。
それも、同じ境遇の猫たちと取り合いだったので、知らず知らずのうちに早食い癖がついてしまったかもしれない。
このうちでも、おばさんが同じ要領で出してくれるカリカリを、出されるやいなや飛んで行って、すぐに食べてしまうのである。
トイレも、ひょっとしたら、早くする癖がついていて、終わりまでしないうちに・・・。
まあ、とにかく、おばさんたちの心配は、やはり、ちゃんとトイレができるかどうか、だったらしい。
用意された猫砂トイレに、遊びに寄るだけの吾輩を見ていて、余計に心配が増したころ、きちんと済ませてあげた。
特に、その様子を見届けたおじさんが言うには、さすがは動物愛護センター仕込み、うんちを隠す所作が実にくそ丁寧だったそうだ。
ところで、そのセンターで、おばさんたちが手続きをしていた間のこと。
吾輩の生年月日が決められたのである。
吾輩の面倒をみてくださっていた獣医先生が「この子は、たぶん5月10日前後の生まれでしょう」とおっしゃったのに対して、すかさず、おばさんが「だったら、5月11日にします」と、きっぱり答えたのだ。
吾輩には何の日なのか分からなかったが、どうも特別な因縁がありそうな話。
吾輩って、もしかして、先代の阿茶さんの生まれ変わり?
ただし、この一週間で、阿茶さんとは、まるっきり反対の性格だと認識されつつある。
吾輩は、やんちゃなのだそうだ。
馬力と好奇心が並外れているらしい。
じっとしていることがない。
絶えずこそこそして、猛スピードで走り回る。
ブレーキが利かず、何かにぶつかるのは当たり前。
器の水をぶちまけるのも、カーテンにぶら下がるのも当たり前。
そして、それでも、へっちゃらな吾輩である。
水曜日は、はじめてのお留守番だった。
ところが、点訳に出かけたおばさんが、サザエさま、ママさまをお連れすることになり、一転、賑やかになったのである。
おふたりが「可愛い可愛い」と言ってくださるので、すっかり気分をよくした吾輩は、おふたりともに抱っこされる、という大サービスをやってのけた。
後で話を聞いたおじさん。「阿茶では考えられない!」と言って、ひっくり返ってしまったのだった。


第3回 (2008.8.17)

馬力と好奇心が並外れている、という話の続きになるけれど、猛烈に走り回る吾輩を見て、おばさんたちは、「スピード社製の毛皮なんじゃないか」などと噂している。
そんな吾輩がむやみやたらに動き回らないよう、部屋の仕切りを閉めていたのだが、おじさんが出入りする際に便乗して、瞬く間に部屋を出てやったものだから、それで部屋は開放され、一気に行動範囲が広がった。
吾輩に対しては、仕切っても無理だと理解したらしい。
その結果、テレビの部屋では、おじさんが新聞を広げて読み始めると、その上を歩いてくちゃくちゃにしたり、そばえて噛んだりし、また、電話のアンテナに齧りついたりする。
洗面所では、タイルの壁になぜか垂直飛びを繰り返した。
冷蔵庫の横の隙間や、洋服ダンスの横の隙間にも、入り込んだ吾輩である。
ほこりを連れて出てきたり、引きずり出されるまで面白がって潜んでいたりしたので、おばさんが激怒してしまった。
さすがに「まずい」と思った吾輩、それからおばさんの後ろをついて歩いた。
おべっかという手である。
おばさんも最後の最後に負けて、吾輩を抱っこしてくれた。
今、そうした隙間には、「しつけスプレー」なるものが施されている。
犬猫が嫌う臭いをスプレーすることによって近寄らせないようにする、というものなのだが、何しろ7年前のものらしく、生姜のような臭いしかしない。
はっきり言って、効果はない。
階段の上がり口には、バリケードとして段ボールが立ててあったのだが、その段ボールの上の端に飛びついたので、吾輩もろとも段ボールが倒れてしまった。
勿論、そこで怯む吾輩ではなく、むしろ、障害のなくなった階段を、すぐさま駆け上がった。
さらに、降りるほうも、最後の何段かを転がるようにしながらも降りてしまい、こうしてあっと言う間に階段制覇してしまったのである。
階段では今、横着にも手すりを使って滑り降りることを試みていて、ますますおばさんに心配をかけさせている。


第4回 (2008.8.20)

キャリーバッグは、動物愛護センターからこのうちまで移動した際に使用されたものだが、吾輩にとっては、大事な遊び場でもある。
左右に出入り口があるのは言うまでもないが、屋根部分も開閉するようになっていて、出入りがしやすい。
その分、強度は弱いのかもしれないが、あっちから入ったり、こっちから出たり、思う存分、楽しんでいる。
話は遡るのだが、このうちに来て、最初の土曜日のこと。
吾輩が入っているにもかかわらず、そのキャリーバッグのすべてのチャックを 締めるなり、おじさんがひょいと持ち上げて、歩き始めたのだった。
何かにゃ、新しい遊びかにゃ、なんて思っているうち、部屋を出る、家も出る、坂を上がる、左に曲がる、どんどんどんどん歩き続けるのだ。
無言でいた吾輩だったが、さすがに5分ほどして鳴き始め、もう5分ほどしたら、ツジカワ犬猫病院というところに着いてしまった。
なんでもワクチン接種というのをしなければならないのだとか。
おじさんもはじめての病院らしく、緊張していたようだが、吾輩の比ではなかったと思う。
吾輩などは、訳の分からないまま、診察台にまで運ばれ、目の前には若いのに流暢に説明のできる獣医先生、後ろにはこれまた若そうな助手くんがいて、挟み撃ちといった陣形。
聴診器をあてがわれ、流暢先生による触診も行われて、どこにも問題がないと診断された。
体温は平熱の38度7分、体重は1・10kgだった。
動物愛護センターで最後に測ったときが0・97kgだったので、成長も順調とのこと。
そして、ついには助手くんに押さえつけられ、動けなくされた上で、ワクチン接種の注射をされてしまった。
結果的にまた猫をかぶったようになっていて、流暢先生も助手くんも口を揃えて、「おとなしい、いい猫ですよ」なんて言ってくださる。
思わず、おじさんが苦笑いをしていた。
ちなみに、ツジカワ犬猫病院というのは仮名である。
以前、別の病院を実名にして、ご本人にバレてしまったことがあるそうな。
また、その後も吾輩は順調に成長しているようで、昨日、うちの大雑把な体重計で測ったところによると、1・5kgとのことであった。


第5回 (2008.8.22)

吾輩が先代さんのことを「阿茶さん」と呼ぶのが、おばさんは気に食わないらしい。
おにいさんのようなものなのに他人行儀だ、と言うのである。
それで、これからは「阿ん茶ん」と呼ぶことにした。
その阿ん茶んも大好きだったらしい猫じゃらしは、吾輩も勿論、大好きである。
ひとりでも喜んで遊ぶし、おばさんたちが相手をしてくれるなら、一層気合いを入れて遊ぶことになる。
吾輩に馬力があるからなのか、おじさんが部屋の中央にあぐらをかいて座り、そのまるい体を中心にぐるぐると猫じゃらしを動かしても、きっちりついて行くことができてしまう。
なんでも阿ん茶んは、途中からおじさんのあぐらの上を通る近道をしていたそうで、あ、頭いいにゃあ、とは思うものの、吾輩には真似できない。
今日もとことん、近道なしに後を追いかけることになる。
これを2時間でも3時間でも続けるので、猫じゃらしは、たった10日ほどでボロボロになり、今、2本目が吾輩の相手をさせられている。
猫じゃらしに限らず、何でも相手にして、ひとりで遊ぶことができる吾輩である。
おばさんが考案してくれた毛糸ボール、猫のぬいぐるみ、羊のうたた寝用まくら、またたびの棒切れ、ゆで卵・・・。
このゆで卵というのは、おじさんの朝食として食卓に並べられるうちの一つで、おばさんたちが目をまるくするのを尻目に遊んでしまったのだった。
おじさんはその後、ちゃんと食べた。
吾輩が特にボルテージを上げてしまうのが、羊のうたた寝用まくらのネロくんだ。
吾輩よりも図体が大きく、彼を相手にするとついつい向きになってしまうのである。
全身で抱きかかえ、押さえたり、引っぱったり、蹴ったり。それも、かなり激しく。
おばさんが「プロレスだ」と呆れていた。
やんちゃばかりしている吾輩であるが、おとなしかった日もないではない。
ある日のこと、おばさんを相手に猫じゃらしで散々遊び、さすがに疲れたのか、幅が10pもない窓の桟で居眠りを始めたのだが、寝返りをうった途端、床に叩きつけられるように落っこちてしまったのである。
おばさんが目にしたときには、大の字(?)に俯している吾輩がいて、すっかり悄気てしまっていた。
まあ、言い換えれば、そんなことでもない限り、やんちゃばかりしている吾輩である。


第6回 (2008.8.30)

サザエさまが2日続けて吾輩を訪ねてきてくれ、猫じゃらしで遊んでくださった。
彼女を猛烈に気にした吾輩は、まず匂いをくんくん嗅ぎ、その結果、また猫をかぶってしまった。
おじさんを相手にするときとは趣の違う、とってもお上品な猫じゃらしをしたのである。
さて、あるとき、カーテンを眺めていて、ふと、ひらめいた吾輩。
思いきりよく飛びついてぶら下がると、木登りするようにして、カーテンレール、さらには上の桟にまでたどり着いた。
そこをおじさんに見つかり、すぐ抱え降ろされたが、一度やってしまえば何度でも。
その度におじさんがすっ飛んでくる。余計に面白がる気持ちが生まれるというものだ。
ところが、同じことをおばさんに見つかったときには、まるで勝手が違った。
厳しく叱られたが、吾輩を降ろそうとはせず、放っておかれたのだ。
自力でこの高さから降りなくてはならない。
吾輩にも猫としてのプライドがある。
向きになって、人間の手など借りずに、どうにか着地することができた。
懲りない吾輩は、その後もちょくちょく上の桟で寝そべっている。
窓辺では、屋外の光景を眺めたり、鳥に反応したりしている。
ところが、またも、ひらめいてしまった吾輩。
ガラス窓と網戸との間に、吾輩のちょうど入れるだけ隙間があり、そこに進入を試みたのである。
物音でおじさんがこちらに目を向けたときには、窓の中ほどに浮いた吾輩の影。
血相を変えて駆け寄ってき、手を伸ばしてきた。
その手に引きずられて部屋に戻され、これ以来、どれだけ暑くても窓を開けてもらえなくなってしまった。
それから日にちが経ち、おばさんに言わせると、ずいぶん大きくなった吾輩。
おばさんたちが、もうガラス窓と網戸との隙間に入ることはできないだろう、と踏んだらしく、ひさしぶりに窓を開けてくれた。
たしかに大きくなった吾輩ではあるが、網戸に伸びがある分、まだまだ隙間に入れたので、同じことを試み、同じように見つかり、引きずり戻されて、窓ピシャ!
こりゃ、大きくなったわりには進歩がなかったにゃあ。


第7回 (2008.9.4)

吾輩の辞書に「疲労」という文字はない。
疲れた、くたびれた、もう寝てしまおう、などはないのである。
猫じゃらしにしろ、毛糸ボールにしろ、いつまでであろうが遊んでしまう。
吾輩の辞書にはまた「反省」という文字もない。
やってはいけないと言われている行動も、おばさんたちが根負けするほど続け、失敗することがあっても、全然めげないのだ。
吾輩がおばさんたちの食卓に乗るのは、固く禁じられている。
それでも、そこで食事が始まれば、吾輩も参加しようとしてしまう。
何度も叱られ、けれど反省をしない吾輩に、とうとうおばさんが行動を起こした。
吾輩の鼻先にワサビを持ってきたのである。
ツンと来ることで吾輩を懲らしめるつもりだったようだが、なぜかツンと来ない。
「しつけスプレー」のように期限切れのものではなく、おじさんがおでこを叩くほどのものだったのに・・・。
吾輩が特別ワサビに強い猫であるか、些か鼻がバカになっているか、だ。
食卓ではまた、こんなこともあった。
おばさんがお昼、そばを食べているところに顔を出したのである。
叱られようとも食卓に乗り、おつゆの香りに誘われるようにどんぶりに近付く。
のんびり食べていたおばさんも、急遽、どんぶりを持ち上げる。
さらに詰め寄る吾輩。
おばさんが一計を案じ、そばをちぎってほんの少しだけ、吾輩にくれた。
おそらく、口に合わないと分かれば諦めるだろう、と考えたのだ。
ところが、これが口に合ってしまった。
おばさんはついに立ち上がり、駅なんかの立ち食いそば状態。
そして吾輩は、おばさんが食べ終えるまで、腰のあたりにちょっかいをかけ続けることとなった。
このうちに来て、今日で1ヶ月。
おばさんが言うように、ずいぶん大きくなった。
おじさんには実感がなかったようだが、「言われてみれば、たしかに・・・」と一言。
実際、体が大きくなったことで、おばさんの気付いたことがあるそうな。
キジトラのはずの吾輩、横腹の辺が、ちゃんとした縞になっていないのである。
インク切れした印刷物のように、線であるべきところが点でしかなく、これをサバというらしい。
体が今より小さいうちは分からなかったそうで、おばさんにすれば、また「たぬき」に化かされたような気分なのだとか。


第8回 (2008.9.12)

猫が食卓に乗ろうとすることについては、動物愛護センターのパンフレットにも「食卓に前足をかけた瞬間、その前足を軽く叩いて根気よくしつける」と書かれてあったようで、食卓に乗ろうとする度、おばさんたちが吾輩の前足を叩いてきた。
ところが、吾輩のほうが機敏であるために、おじさんが叩こうとした時分には、すでに食卓のど真ん中。
それでどうやら、事務所の猫先輩さんに相談したらしい。
そして授けられた作戦が、「食卓に前足をかけた瞬間、猫ではなく自分の手もしくは食卓を叩いて大きな音を立て、驚かせる」だったらしい。
実行に移された。
結果は、大きな音に驚くどころか喜んでしまい、おじさんの手にそばえるばかり。
結局、おばさんたちは、この作戦を諦めた。
さらに事務所の猫先輩さんは、「猫の嫌がる臭い、たとえば金冠堂のキンカンを利用してみる」とアドバイスしてくれたようだが、これはまだ実行されていない。
そうこうするうち、おばさんが新しい作戦をとってきた。
布張りのすべての椅子を食卓から遠ざけてしまったのだ。
自分たちのためには、どこから持ってきたのか小ぢんまりした木製の丸椅子を二つ用意し、使わないときには食卓の真下に片付けてしまう、という念の入れようで、さすがの吾輩も食卓に届かなくなってしまった。
作戦はまだあって、食事中ずっと、ひとりが猫じゃらしを振って、吾輩の気を引きつけ続けるのである。
缶ビールのプルトップをプシュ!とするのでさえ、もうひとりが協力している。
タッグを組まれては、吾輩といえども手強い。
とは言っても、並外れた馬力を持つ、この吾輩である。
場合によっては、床から一気に飛び上がって食卓に乗らないでもない。
この前は、おばさんたちがちょっと目を離した隙にすかさず食卓に飛び乗り、大根とツナのサラダがあったので、ツナだけ口にした。
食卓をめぐるバトルは、まだまだ続きそうなぐあいである。


第9回 (2008.9.25)

無類に遊ぶのが好きな吾輩にとっては、猫砂トイレですら遊び場にしてしまい、トイレとしてだけに使用してほしいらしいおばさんたちを困らせている。
おじさんが掃除をするたびに、ザクザクという音やおじさんの手の動きが気になって、ちょっかいを出したり、割り込んだりして、それを阻もうとするおじさんと激しく争うことになる。
猫砂が少なくなってうんちが露出してくると、自分がしたものにもかかわらず、それをおもちゃにして遊び、おじさんが猫砂を補充する際には砂煙りが舞うので、それで気分がハイになるのか、補充されたばかりの猫砂をわざと外に跳ね飛ばして遊ぶのである。
そんなわけで、フード付きの猫砂トイレに替えられてしまった。
このトイレ替えの際の話。
持ち出されたフード付きトイレにすかさず潜入した吾輩と、それにまるで気が付かなかったおじさん・・・。
所定の場所まで移動させなくてはならないおじさんが、その途中、見当たらなくなった吾輩の所在を急に気にしておばさんに尋ね、「そこ」と手にしたトイレを指さされ、のけぞって驚いていた。
「空っぽのトイレにしては重いし、どうも重心が動くと思った」とは、間の抜けたおじさんの独り言。
今までの猫砂トイレからフード付きトイレに猫砂を移し替える作業に際しては、それこそ吾輩は締め出されたのだが、結局、このトイレ替え、功を奏していない。
たしかに猫砂の飛散はぐっと減った。
しかしながら、依然として遊び場にはしているのだ。
フードにより囲まれたことで、猫砂を飛ばすと、スカッシュを楽しんでいるようになり、面白さが倍増したのである。
まあ、誰に迷惑をかけるわけでなく、吾輩ひとり、思う存分発散をしている。


第10回 (2008.9.27)

猫は一般的に水が苦手だと言われている。
阿ん茶んも勿論、水が苦手で、いろいろと水難に見舞われたそうだ。
ところが、この吾輩、水なんてまるでへっちゃらなのである。
おじさんがトイレを出入りした隙に中に入り込んで、手洗いスペースにすっぽり収まってみたり、おばさんが出入りしたときにも、その同じスペースの、まさに蛇口から水が流れ出ている真ん下に行き、うなじに水を浴びたりした。
特に最近は、おじさんたちが使用中だと、扉のすぐ前で待つようにもなった。
用を済ませて出てきたおじさんの防ぐ間もなく、吾輩が中に飛び込んで行き、ふたのされた便器の上に乗って、伸び上がって蛇口のすぐ手前に立つと、じゃあじゃあ勢いよく流れている水を前足ではねて遊ぶのだ。
おじさんに抱えられて引き離されるまでの間とは言え、十分に楽しめている。
こういう吾輩なので、台所もへっちゃら。
シンクの水気を舐めたり、スポンジをくわえて移動し、台所から移動先までたどれるくらいびたびたにしたりしている。
この前の夜は、おばさんがヘマをして、お湯をぶちまけ、左手に火傷を負った。
おばさんがすぐ、おじさんに助けを求めたものの、おじさんは酔っぱらっていて白川夜船。
その代わり吾輩が現場に駆けつけた。
ところが吾輩は、床を濡らし、早速冷め始めていたお湯を舐めるばかり。
結局、手負いのおばさんがひとりで、後始末をしていた。
この後しばらく、包帯でぐるぐる巻きとなったおばさんの左手を目にする度に、何回も何回も攻撃した吾輩だった。
やんちゃばかりしている吾輩、特に、台所で調理中にじゃまをしに行く吾輩に頭を抱えていたおばさんが、おじさんに「撃退法を考えついた」と自信ありげに話しているのが聞こえた。
どれどれと台所に進入した途端、おばさんが大声で「ババババババーン、ババババババーン」と叫び出し、細かく足踏みをしながら迫って来るではないか。
たしかに吾輩は一目散に逃げ出してしまった。




吾輩は和茶であるTop 第11回〜第20回 第21回〜第30回 第31回〜第40回 第41回〜第50回 第51回〜第60回 第61回〜第70回 第71回〜第80回 第81回〜第90回








HOME プロフィール 点訳データリスト 点訳所感 点訳雑感 だれかおしえて 掲示板 「みずほ流」点訳入門教室 談話室 図書閲覧室 阿茶 和茶 リンクリスト