「みずほ点訳」ホームページ

 吾輩は和茶である 




第31回〜第40回



和茶
「はい、飲んでます!」
蛇口からの水道水を直接飲んでいる和茶。
台所での恍惚、その一。




第31回 (2009.4.17)

吾輩の膨れたお腹に対する診断が下されて以降、つらつら考えてみたのだが、水が溜まっているのでも、臓器が大きくなっているのでもなく、ましてや虫がわいていたのでもないとすると、お腹の「膨れ」は果たして何なのだろうか。
最も簡単に考えるならば脂肪の蓄積、いわゆるメタボリックシンドロームということになるかもしれない。
まあ、早い話がおじさんに似たのだ。
・・・なんて呑気なことを言っている場合ではなかった。
昨日の朝のこと。
急に気持ちが悪くなってゲボをすると、問題の悪食。
口からくしゃくしゃに畳まれたビニールが飛び出してきた。
そして、それで終わらない。
1時間ちょっと経ったところで、再びゲボをしたのだ。
直前に食べたばかりで未消化のカリカリと何だか黄色みがかった液体を吐いてしまった。
それから3時間ほどして3回目の、さらにはおじさんが帰宅した後、4回目のゲボをした。
もう吐き出すものもなく、吐いたのは黄色みが薄まり、とろっとした液体ばかり。
容赦なく、あっという間にツジカワ犬猫病院に連れて行かれた。
今回は超音波のほかにレントゲンまで撮られ、超音波ももっとよく映るようにお腹の毛刈りをされてしまう。
吐くばかりで何も食べていないことから点滴も施された。
その結果、異物らしきものは見当たらず、様子を見ましょう、ということになった。
お腹の膨れは、吾輩が思ったとおりに脂肪だった。
臓器を右に寄せてしまうほど蓄積されている脂肪がレントゲン写真に映し出されていて、右の横腹のほうがよく膨らんでいることの説明がついた。
さらに話は続く。
様子を見るも何も、深夜から今朝にかけてもう5回、ゲボをしたのである。
勿論、泡状の液体(もう黄色くもない)しか出てこない。
吾輩の元気は昨日から出てなかったが、これで完全にノックダウン。
あんなに暴れん坊だったのに・・・。
吾輩もやっぱり人の子(?)だったのか。
おじさんが出勤した後、病院の開く時間に合わせて、おばさんとタクシーで乗りつけ、診察を受ける。
超音波やレントゲンではキャッチされなかったものの、様子からして何かが詰まっている可能性は高く、腹膜炎を起こすおそれもある。
結局、開腹手術をしないといけなくなってしまった。
吾輩を置いておばさんが帰って行った後、脱水症状を補う点滴がされ、それでしばらくして、ふわっと眠くなってしまい・・・。
気がついたら、まだツジカワ犬猫病院内にいる。
開腹手術はもう終わっていて、吾輩はここにお泊まりするのだとか。
今回の『吾輩』は、流暢先生のパソコンを拝借している次第。
続きはまた。


第32回 (2009.4.20)

お泊まりした吾輩を見舞おうと、土曜日におばさんたちが面会にきてくれた。
診察室の奥に進んだ専用の部屋で、銀色のケージが上段に5個、下段に3個並んでおり、上段の右から2個目に吾輩がいる。
右前足に点滴のチューブが固定されている以外は、ケージの中を歩き回ることができるのだが、さすがに手術したばかりで、吾輩もそうそう動けない。
結局、開腹して出てきたものは、意外にも親指大の毛玉だった。
普通の猫なら猫じゃらしの先っぽやビニールなどのほうが意外なのだろうが、吾輩にしたらそれは当然のこと。
毛玉だったので驚いた、という感じである。
それで、せっかく来てくれたおばさんたちだったのだが、流暢先生の「触ってもいいですよ」の言葉に近寄ろうとした途端、下段のケージにいる大型犬が猛烈に吠え始めてしまい、流暢先生の叱る声にも耳を貸さない。
おじさんも恐がっている様子だったが、ケージの隅っこに小さくなってしまった吾輩を気遣って、ゆっくりする間もなく、引き揚げて行ったのだった。
ただし、問題の毛玉は、おばさんたちに見せようと流暢先生が持ち出していて、「これが詰まってたんですよ」と説明。
取り除いてからはもう吐いていないこと、熱があるのが気がかりなこと、それでもおそらくは来週退院できそうなことなど報告されていた。
そして今日、月曜日。
今度はおじさんだけが、事務所の帰りにやってきた。
例の大型犬が退院したので、おじさんも落ち着いている。
依然として熱があり今朝は39度2分だったこと、点滴を続けていて右前足の血管が傷んだので左前足に替えたこと、血液検査をしたことなど流暢先生から聞かされていた。
吾輩がおじさんに向かって何度か鳴いたら、「僕のこと、わかってるんですよね」なんて情けない質問をしている。
当ったり前でしょ。
流暢先生も苦笑いしていた。
何れにしろ、おじさんの目から見て、土曜日よりは元気な様子だったらしい。
吾輩の退院は、血液検査の結果次第だそうだ。
どれほどボロの古家であろうと、どれほど頓珍漢なおじさんが住んでいようと、やっぱり早くうちに帰りたいと実感している吾輩である。


第33回 (2009.4.21)

血液検査の結果は良好、熱もどういう具合でか分からないものの下がり、まだつい先程ではあるが、無事に退院することのできた吾輩である。
流暢先生から連絡がされ、おばさんが迎えに駆けつけて来てくれるまでに、キャリーバッグに移される。
下段のケージには、また大型犬がお世話になっていたが、例のとは違っておとなしく、馬鹿みたいには吠えない。
吾輩がいたケージのすぐ隣にも猫が預けられており、短い間の縁だったとは言え、彼らに黙っては立ち去れない。
「にゃあにゃあ」と挨拶だけしておいた。
さて、おばさんが到着した。
流暢先生から説明がされる。
熱はストレスからきていたかもしれないね、まったく普段どおりに生活してもらって大丈夫ですよ、経過を診たいので金曜日には連れて来てください・・・。
たしかに、開腹したお腹には黒っぽい糸が見えているし、点滴をしていた左前足にはガーゼが巻かれたまま残っているし、少なくとももう1回は、そうした処置のためにツジカワ犬猫病院に来なくてはいけないと思っていた。
・・・それじゃあ、お大事に。
呼んだタクシーが来て、病院を出る。
しとしと、しとしと、雨が降っている。
そう言えば、入院した日も雨だったにゃあ。
帰宅すると、おじさんもちょうど帰って来たところで、大喜びして飛び出してくる。
他愛のない人間だこと。
実はおばさんも嬉しさのあまり、病院に傘を置き忘れてきていて、後でおじさんに取りに行かせていた。
それはともかく、真っ先にトイレに行き、おしっこをした後、あちらこちらとにおいを嗅ぐところから始める。
部屋もひと通り歩きまわってみた。
驚いたのは障子や掛け軸を目にしたときだ。
吾輩がびりびりに破ったはずなのに、どこにも痕跡がない。
なんでも、吾輩が留守をしていたのをいいことに、おばさんが大奮闘し、障子はすべて張り替え、掛け軸も修復してしまったのだとか。
吾輩が言うのも何だが、果たして何日持つであろうか。
それで今、おばさんは筋肉痛らしい。
そうしたおばさんと、ついでにおじさんにも甘えておく。
こうしてまた、吾輩とおばさんたちの暮らしが再スタートするようである。


第34回 (2009.4.25)

帰宅した当初は、借りてきた、まさしく猫の吾輩だったので、おばさんたちが些か心配していた。
食欲がなく、カリカリに好物の炒り子をまぜてもらったのにやっぱり食べたくないし、甘える気持ちが強くなって猫なで声になってしまうし、おじさんが顔を近づけてきても噛みつく気にならない。
おばさんなどは、ツジカワ犬猫病院で大変な経験をして、人格ならぬ猫格が変わってしまったのではないかしら、なんて言うほど。
たしかに犬には鍛えられた。
まあ、時間が経過にするに従い、調子が出てきてはいる。
まだまだ本来の吾輩にまでは戻っていないが、またもやゲボをして、ビニールの切れっ端を吐き出した。
目ざとく見つけたものを早速飲み込んだのである。
悪食については、おじさんが流暢先生に相談をしていたようだが、そういう猫は治らないので、人間のほうが気をつけて、飲み込みそうなものを周囲に置いておかないようにするしかない、というアドバイスをもらっていた。
そこらの猫には通用しても、想像を絶するものまで飲み込んでしまう吾輩にはとてもじゃないが・・・と、おじさんは早々に白旗を掲げている。
ただし、お腹にまた毛玉が詰まることのないようには対策を講じているようだ。
カリカリのお皿に特殊な「毛玉対策カリカリ」がまぜられたり、やたらにブラシをかけられたりしている。
そして昨日は予定どおり、ツジカワ犬猫病院に出かけた。
ここでも毛玉を溶かす水飴タイプの薬を与えられた。
鼻の先に塗り付けられ、それを舐め取ることで体に入れるのだが、吾輩の舐めっぷりがよかったのか、流暢先生に「うまそうだな」と羨ましがられてしまった。
肝腎の抜糸は、吾輩自身が糸をかなり気にして齧りついていたので、ほとんど抜けてしまっており、流暢先生がハサミを動かしたのはわずかな部分だった。
そう言えば、左前足に巻かれていたガーゼも、帰宅したその日のうちに器用に抜き取ってしまい、転がっていたガーゼをおじさんが見つけて、吾輩が飲み込む前でよかった、などとおばさんに報告していた。
診察台の体重計によれば、体重は5・35kgに減っている。
体温も平熱であり、順調な経過らしい。
本来の吾輩にまで戻るのも、時間の問題かもしれない。
一部には、少しおとなしい今ぐらいがちょうどいいのでは、という意見も・・・。


第35回 (2009.5.11)

毛玉を溶かすための飲み薬は、その後もおじさんから、流暢先生がやって見せたとおりの手順で、舐めさせられている。
ただし、最初の日は、おじさんがもたもたしているうちに、吾輩が逃げて走りまわったので、鼻の先に塗ろうとした薬を、壁や椅子につけたり、床に垂らしたりして大騒動していた。
回数を重ねて、さすがのおじさんも要領をおぼえ、今は手際よく済んでいる。
毛刈りをされたお腹も、徐々に毛が伸びてきている。
毛を刈られてはじめて知ったことだが、サバにしろ、トラにしろ、地肌からしてそういう模様になっているのであり、刈られた直後は、吾輩のお腹にぼんやりとしたサバ模様が浮かんでいた。
そして、毛が伸びるに従い、模様がくっきりしてきた感じがする。
実は、前足の二の腕(?)あたりも、点滴の都合で左右ともに毛刈りをされたが、同様にトラ模様がぼんやりからくっきりに。
毛刈りされて寒いという時期ではないが、トラ猫のトラ刈りというのも洒落にならないので、早く元に戻らないかと願っている。
ツジカワ犬猫病院には、もう1回だけ出かけた。
超音波検査をされたが、何も問題なく、流暢先生から全快のお墨付きをいただいた。
それでという訳でもないが、また以前のように、おばさんたちの食事のじゃまをわざわざしたり、叱られても叱られても箪笥の上に飛び上がったりしている。

さて本日は、吾輩の満1歳となる誕生日。
阿ん茶んがそうだったように、吾輩も、巻き尺を手に近寄ってきたおじさんにより、様々に測られた。
それによると、頭からお尻までが54p、尻尾だけで31cmあるので、これを足すと85cmになるわけだけれど、スーパーマンが飛んでいるときのように前足と後ろ足を伸ばすと、自己最長92cmにおよぶことが分かった。
首回りは22cm。
スリーサイズは上(?)から順に35cm、41cm、44cm。
体重は、例の0・5kg単位でしか表示のされない体重計でもって、5・5kgだった。
すべてに阿ん茶んより数字が大きくて、おじさんが驚いていた。
また、巻き尺に興味を示した吾輩が、じっとしていなかったので、おじさんは大変だったようだ。
何れにしろ、満1歳を前に切腹までしてしまった吾輩。
今後は無病息災に暮らしたいにゃあ、なんて柄にもなく考えている。


第36回 (2009.6.1)

切腹騒動の影響もあって、吾輩の食餌事情が変化してきている。
時節がらもう鱈でもあるまいが、年中買うことのできるささみにしても、すっかり出番がなくなった。
と言うのは、おばさんからもらった炒り子が猛烈に気に入って、それで満足するようになり、おばさんも、これであれば猫用なので与えるのに何も心配しなくてよいと、すっぱり切り替えられたのである。
この炒り子、おばさんの手から直接もらうことに決めている。
先日、めずらしくおじさんからもらったら、勝手がわかってなくて、調子が狂って仕方なかった。
おばさんだと丁寧に一尾ずつ顔の前に差し出してくれるところが、床の上に放り出されるわ、顔の前にしても分量を考えていないわ、大いに懲りたのだ。
懲りると言えば、カリカリである。
1歳になったので、どのみち幼猫用というわけには行かず、毛玉を溶かす作用のあるカリカリに変更したところ、これが幼猫用の7倍くらいは大きく、食べたり飲み込んだりするのが大変で、毛玉が詰まる前にこれが詰まるのではあるまいか、といった代物だったのだ。
それで吾輩が敬遠したことから、おばさんが配慮してくれて、別のメーカーのものが用意され、猫缶もあれこれ試されて、ようやく好みのものに定着しつつある、といった次第。
さらに言えば、四六時中どこかのお皿には用意されていたカリカリだったのに、このところは一日に何回かの決められた時間にしか用意がされない。
それをきれいに食べてしまえば、次に用意される時間が来るまでお預けとなる。
人間は大昔からこうした方法で食事をしているらしいが、猫もそのほうがいいことにでもなったのだろうか。
吾輩、些か空腹を感じ、次の食餌をガツガツしてしまうことがある。
そうしたおばさんたちの食事の時間。
食卓におじゃまこそすれ、おばさんが立ち食いそば状態になってしまうほどではなくなった吾輩。
おじさんは気がついてなかったが、おばさんが言うに、ツジカワ犬猫病院から退院して以降、ずっとであるらしい。
流暢先生に何か教え込まれたのだったか、自分でも理由がわからないまま、吾輩らしくない日々が続いている。


第37回 (2009.7.7)

おばさんが筋肉痛になってまで奮闘して、吾輩の入院中にすべてきれいに張り替えられた障子。
さて、何日持つのかと注目されていたが、この程、その答えが「77日」と出た。
昨日の朝、ついに吾輩が破ってしまったのである。
悪気はこれっぽっちもなく、単に全力であっちにこっちに走り回っているうち、しくじって体当たりをしてしまった次第。
とは言え、一度破れてひらひらすると、どうしても気になって、その後もいじっては叱られている。
お腹の毛も、同じだけの時間が過ぎるうちに、いつのまにか伸びて、どこを剃られたのだったか、わからないくらいになった。
サバ模様はサバ模様に、縞模様は縞模様に、それぞれちゃんと戻り、開腹したところも、伸びた毛に隠されて手術の痕跡がすっかり見えない。
おじさんが妙に心配していたものの、やはり毛は伸びるのである。
と言って、もっともっと伸びて、本来とは異なった長毛種の猫になることもなく、元の長さにまで伸びたとわかると、きっちりと止まる。
よく出来ているなあ、とおじさんが感心していた。
縞模様の話ついでに、ふたつ。
まず、前足の模様だが、手首(?)のところで急に模様が小刻みになって、おばさんに言わせると「とっても可愛い」縞々が整然と並んでいる。
創造主が好き勝手に模様を描いておきながら、急にここだけ神経質な誰かと交替して描かせたかのようだ。
おじさんは「和茶らしからぬ」と表現している。
そして、尻尾。
以前にも書いたことがあったと思うけれど、吾輩の尻尾を捻るなり持ち上げるなりして裏側にすると、キジトラのはずの縞がなくなって、手抜きしたような白地なのだが、よくよく見ると、尻尾の真ん中あたりから先にかけては、きちんと縞が一周し、ちゃんとした縞模様が形成されている。
しかも、この尻尾の真ん中から先だけ、色合いも違い、別人(?)の猫のようだ。
うちでは突然、アメリカン・ショートヘアじゃあないのかと噂されるようになった。
おじさんの調べだと、運動能力が高いだの、容易に太り過ぎる傾向があるだの、尻尾が先細りになっているだの、当てはまることが多いらしい。
おばさんもふと思い出したのだが、動物愛護センターでお互いはじめて出逢ったとき、職員さんが吾輩のことを「アメショーっぽい」と表現されたのだとか。
吾輩、今、急にその気になっている。


第38回 (2009.7.21)

猫にもかかわらず水はへっちゃら、火もへっちゃら、食べ物に好き嫌いなし、それどころか食べ物でないものまで食べてしまえる、まさに無敵の吾輩だが、お腹にたまった毛玉のほかに、もうひとつだけ勝てそうにないものがある。
掃除機だ。
ごく普通の機種らしいが、こいつが「ガーッ」と叫び始めると、途端に落ち着かなくなって逃げ出してしまう。
それがすっかり習慣となって、今ではスイッチの入る前、置き場所からガタガタ取り出される時点から尻尾を下げ、なりふり構わず逃げ始めてしまっている始末。
それで、いつからか、そうした状況をおばさんに利用されるようにもなった。
吾輩がおじゃまするとまずいような場合、掃除機をかけっ放しにするのだ。
掃除しているわけでないことは百も承知で、おじゃましたくてたまらないのに、ひたすら隠れていることしかできない。
隠れるところは、前は、使われていないような古めかしい机の裏側だったが、そこで顔だけ出して外の様子を窺っているところをおばさんに見つかって以来、部屋の隅に積まれたお客さま用座布団に変更した。
上からシーツが被せてあってその中にもぐり込んで行き、座布団のてっぺんで、じっとして動かない。
しっかり隠れているつもりの吾輩なのに、却っておばさんからは吾輩の所在がまるわかりらしい。
それで安心して掃除機を使用でき、むしろ、この作戦で心配されるのは、かけ続けることになる掃除機が壊れてしまわないか、らしい。
ところが、ところが・・・。
先週のこと。
ほんとに掃除を目的として掃除機がかけられており、それも入念にされて時間が長かったこともあって、掃除機が役目を終えて黙ったときには、吾輩、熱中症(?)になりかかっていたのである。
自分では記憶が飛んでいるが、おばさんの前にふらふらと出て行ったときの吾輩は、まるい目が一層まんまるく、剥かれたように大きくなっていて、口は半開き、心臓が倍速で動いていたのだとか。
驚いたおばさんが水を飲まそうと台所に抱えて行っても、自分で飲もうというだけの意識がなく、おばさんが掌を器のようにして水をすくい、無理に口の中に入れたり、全身を湿らせたりしてくれて、徐々に元に戻ったそうだ。
掃除機の心配どころではなかったのである。

さて、昨年の今日、動物愛護センターではじめておばさんたちと出逢っている。
あの日も猛烈に暑かった。
みなさま、熱中症にはくれぐれもご注意を!


第39回 (2009.8.5)

吾輩がうちに来て一年になった。
ようやく梅雨も明けたし、二回目の夏がいよいよ本番、といったところかにゃあ。
先日、コマキさんがひょっこり訪ねてみえた。
久しぶりだとか。
少なくとも吾輩とは初対面である。
それで吾輩、ついつい逃げ出してしまったのだが、ちらっとだけお目にかかったことで「鼻が大きい」と評されたようだった。
そう言われたのは生まれてはじめて、まあ、光栄に思うことにしよう。
長居をされなかったが、階段の上から覗けるところまで近付きつつあった吾輩、もう少し時間があったら、いっしょに遊ぶくらいに親しくなれたかも・・・。
さて、ここ数週間くらいであろうか、うちに「ちく和茶タイム」というのが設けられるようになった。
その名前のとおり、ちくわを吾輩がおねだりする時間のこと。
おばさんたちの食卓におじゃまするのは相変わらずだが、夕食時に限り、特別にちくわがもらえるのである。
食事を始めようとしているおじさんのすぐ前に行き、おじさんのほうを向いてちょこんと座ると、用意してあったちくわを小さくちぎっては掌に乗せたおじさんが、吾輩の顔の前に差し出してくれるのである。
吾輩があっと言う間に食べてしまうと、次にちぎった分をすぐにくれる。
これを繰り返して、たまに掌から床に落としたり、おじさんの指まで齧ったりしながら、気がつけば一本のちくわの半分以上、多いときにはほとんど一本を平らげていて、おじさんの「もうないよ」なる一言で吾輩が諦め、その場を離れるまで、続けられることになる。
実のところ、ちくわがまだ残してあることを知っているので、食卓に飛び上がるときもあって、おじさんが大慌てで片付ける。
それで昨夜のこと。
いつもと同じように「ちく和茶タイム」になったところが、どうもちくわが美味しくない。
最初のうちこそ我慢して食べたが、途中で嫌になってしまった。
「わあ、めずらしいな、もういいのか?」と吾輩に聞いてきたおじさん。
吾輩が態度で返事をしたら、「じゃあ」と言って、残りのちくわを自分で食べていた。
そして、おばさんに吾輩が残したことを報告し、「それ、賞味期限は?」と聞かれてはじめて驚いていたのだ。
3日も前に期限が切れていたらしい。
どおりで美味しくないわけだ。
その後おじさんが、平気で残りを口にした自身と比較し、吾輩のことを見直したのは言うまでもない。


第40回 (2009.8.8)

おとといの朝のこと。
事務所に出かけなくてはならないおじさんが、まだ片付けの終わっていなかったおばさんよりも先に食卓につき、朝食を始めたところでの話。
吾輩は、毎度のように食卓に上がり、おばさんの使うスペースに淹れたばかりのコーヒーのマグカップしか置かれていないのを幸い、伸び伸びに寝そべっていた。
それを注意してくるおじさんも、時間に追われていて口ばかり。
で、吾輩がふと、何という理由もなく左の前足をマグカップの端にかけ、手前に引いたのである。
おじさんが事態を飲み込んでハッとした顔をする、引き倒されたマグカップから熱々のコーヒーが吾輩に向かって押し寄せる、驚愕かつ危険を感じた吾輩が夢中で飛び退く、すべては一瞬にして起きた。
そして次の一瞬には、おじさんが大声を上げながら吾輩が火傷をしたのではないかと追っかけてくる、ちょうど焼き上がったトーストを両手におばさんが台所から出てくる、ふたりが交錯する、大騒ぎとなっていた。
結局、この騒ぎを、まさしく引き起こしておきながら、吾輩は妙に機敏だったのか、まったくコーヒーを浴びておらずに無事。
後始末をしたおばさんだけが大変だった。
それでまあ一応は反省して、昨日の朝は食卓に上がるのを自重した。
そして今朝。
反省もしたことだし、事務所が休みでのんびりした空気だし、とばかり早速食卓に上がってうろうろ歩く。
おばさんたちは呆れ顔だった。
ところが、それから後、吾輩はのんびりしている場合でなかった。
あっと言う間にキャリーバッグに押し込められ、ツジカワ犬猫病院に連れて行かれたのである。
ワクチン接種だとか。
先客が多く、犬ばかりの中で待たされたが、順番が来て診察室に移り、キャリーバッグから出されるなり、流暢先生から「大きくなった?こんな大きな猫だったっけ」と驚かれ、診察台の体重計が指した数字は6・28kg。
状況が状況だったとは言え、3ヶ月半前の退院時よりも1kg近く増量している。
そして、変化したのは体重だけでなかったらしい。
逃げよう逃げようとする吾輩の様子に、流暢先生も看護士のおねえさんも声を揃えて言うのだ。
もっと懐っこい猫だっただろう、フレンドリーな猫でしたよね、私たちを忘れちゃったのかな、また入院するか・・・。
体温も状態も問題はなく、お尻にワクチン接種の注射をされて、はい、終わり。
帰り道は心に余裕ができる。
鳴き続ける蝉と同様、夏を満喫しながら、家路をたどることとなった。




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