法律上、必ず内容証明郵便にしなければならない場合というのはありません。しかし、トラブルを避けるためにも、必ず内容証明郵便にした方が良い場合というのがあります。それは、内容証明郵便の特徴・効果を生かす場合のうちで、特に重要なものの場合ということが言えるでしょう。
内容証明郵便は、①証拠を残すため ②心理的圧迫を与えるため ③確定日付を得るために使われますが(内容証明の効果2 参照)、必ず内容証明郵便にすべき場合とは、証拠を残す必要がある場合と確定日付を得る場合ということになると思います。
(1) 証拠を残す必要がある場合の例 |
① |
契約解除
通常、契約を一方的に解除することはできません。一度交わした約束を一方的に破るというのは許されないわけです。しかし、相手側の故意や過失で債務不履行になった場合など、法律上、当然に契約を解除できる場合というのがあります。この解除権は、形成権といって、当事者の一方的な意思表示によって契約を解除することができます。この解除の意思表示は、口頭でも普通の手紙でも良いのですが、それでは証拠が残りません。今後トラブルに巻き込まれないためにも、契約解除のような重要なことは証拠を残すべきです。そこで、契約の解除・取消し等の重要な事案の場合は、証拠を残すために必ず内容証明郵便にすべきなのです。 |
② |
クーリング・オフ
訪問販売等で契約した場合、弱い立場の消費者を保護する目的で、理由を問わず無条件に申し込みの撤回や契約の解除ができるクーリングオフという制度があります。ただし、クーリングオフをするためには、契約申し込み時等に渡される法定の書面を受け取ってから、一般的に8日以内に書面で通知(8日以内に発信)しなければなりません。内容証明郵便は、この「書面で通知」という条件に合うだけでなく、「8日以内に通知(発信日)」の証明をするのにも適しています。手紙の内容の証明と差出日付の証明をしてくれる内容証明郵便は、まさに、クーリングオフにうってつけのものだと言えます。 |
③ |
債務免除(債権放棄)
債権者が債務者に対して債務を免除する意思表示をしたときは、その債権は消滅します。債権を放棄するなんてもったいないと思うかもしれませんが、回収できない債権を持っていても税金までかかってしまうので、税務上の対策として債権を放棄する場合というのがあるのです。債務免除(債権放棄)は、債権者の一方的な意思表示で効力を生じ、それは口頭でも普通の手紙でも良いのですが、税務申告上の証拠として残すために必ず内容証明郵便にすべきなのです。(なお、免除を受けた債務者は、利益(債務免除益)を得ることになるので課税の対象となります。) |
④ |
時効中断(暫定的時効中断効の催告)
債権等は、一定の期間を経過すると時効にかかって消滅してしまいます。これは、「何もしないで放っておくような、権利の上に眠る者は保護しない」という法律上の制度で、消滅時効と言います。債権者側(例えば貸主)としては、時効になったら大変です。貸した金は一円も返ってこなくなってしまいます。ただし、権利を行使すれば、時効の進行を止める(時効を中断させる)ことができます。
時効を中断させる方法には、裁判上の請求(訴訟・支払督促など)や債務者の承認などがありますが、裁判外の請求(催告)もその一つです。この催告は、口頭でも普通の手紙でも良いのですが、証拠を残すために内容証明郵便が使われるのです。ただし、この催告は、催告後6ヶ月以内に裁判上の請求などをしないと時効は中断しなかったことになります。つまり、内容証明郵便による催告は、時効完成の期限を最大で6ヶ月まで延長させることができるというもので、内容証明郵便で催告しても、延長された期限内に何もしなければ時効は完成してしまうのです。ですから、この催告は、時効完成間際に時効の完成を防ぐため緊急避難的に行うものと言えます。また、もし、結局は訴訟等に発展したとしても、催告して時効が延長したことの証拠を残すためには、やはり必ず内容証明郵便にしなければならないものと言えます。
※(補足)間違えやすい点を説明しておきます。
①内容証明郵便で請求(催告)すれば時効がストップし、以後時効がなくなるということはありません。②何度も請求(催告)し続けていれば、その度に時効が中断するということはありません。何度も請求書を送り続けても時効は完成してしまいます。③時効を中断させるために行う内容証明郵便によるこの請求(催告)は、その時期を考慮して行わないと無意味です。なお、時効完成が6ヶ月延長した場合でも、再び請求(催告)して再度6ヶ月の延長をさせることはもはやできません。6ヶ月の延長は1回限りです。 |
(注意)以上は、主なものの例示にすぎません。ここに挙げられていないものであっても法的な効果を発生する意思表示や通知など重要なものは、証拠を残すために内容証明郵便を利用するのは良いことです。
(2) 確定日付を得る場合
債権譲渡の通知
売買代金債権・貸金債権などの債権者が特定している債権のことを指名債権と言いますが、指名債権は、譲渡禁止特約がある場合などを除き、原則として自由に譲渡することができます。この債権の譲渡は、債権の譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)の間で交わされる債権譲渡契約で成立し、債務者の承諾は必要ありません。しかし、債権が譲渡されたことを債務者が知らなかったら、新債権者にとってはまずい事態が発生する恐れがあります。何も知らない債務者は、旧債権者に支払ってしまうかもしれません。また、旧債権者が、債権を他の人にも二重に譲渡していた場合、債務者は自分以外の別の人に支払ってしまうかもしれません。このような問題が起こらないためにも、債権の譲渡は債務者へ知らせなければなりません。
民法でも、債権譲渡における債務者への対抗要件(債務者に対して負けないための要件)は、債権の譲渡人からの債務者への通知、または、債務者の承諾があることとなっています。(なお、譲受人が偽者であることもあり得るので、この通知は、原則として譲渡人からの通知でなければなりません。)また、二重譲渡の譲受人などの第三者に対しては、その通知または承諾が確定日付ある証書によるものであることが対抗要件(第三者に負けないための要件)となっています。ですから、債権譲渡の通知をする場合は、第三者に対する対抗要件を満たすため、必ず確定日付を得られる内容証明郵便にすべきであると言えます。 |