植物油(ニーム・オイル、Neem Oil)


概要

ニーム(Neem)というのは、インドセンダン(Azadirachta indica)の英名です。インドでは古代サンスクリット時代から虫下しとして利用されてきた植物で、人体への安全性は高いと考えられています。有効成分のアザジラクチン(Azadirachtin) は、現在知られている摂食阻害物質のなかで、最強レベルの活性を有しているうえに、昆虫に対する忌避、成長阻害活性も示す一方、肉食性昆虫やミミズなどの土中有益動物、あるいは脊椎動物に対して毒性を示さないといわれています。これらの利点に注目し、国内外の研究者により、本物質の合成研究が行われていますが、まだ成功していません。

しかし、米国では、すでに天然の Neem Oil を原料とした多様な薬剤が農薬登録されており、有機農法の一環として使用されています。今回、それらの中からここで紹介するのは、Green Light Co. が販売しているバラ専用の製品 "Rose Defense" で、私の庭では、すでに98年4月後半から試用を始め、ほぼ毎週散布しています。これまでのところ、もっとも注目しているゾウムシに対する効果も見られるように感じます。

天然物質が原料のNeem Oil 製品ですが、以下に述べるように、いかなる用い方でも100%安全というわけではありません。使用にあたっては、それなりの注意が必要です。


"Rose Defense"私の庭での状況(〜98年6月上旬)】

・アブラムシはほぼ制御できる。一方、天敵への影響は少ないように見える。

・茎にチュウレンジバチの産卵・孵化痕を認める場合も、葉への被害はほとんど発見できない。孵化直後の幼虫への摂食阻害効果と思われる。葉への被害も僅少。幼虫が集団で食害しているのを見ることはない。せいぜい弱齢幼虫が1〜2匹で数枚の葉を食害しているのを見つける程度。放置しておいても被害は広がらない。

・うどん粉病の発症はまったく観察されない。

・黒点病は耐病性の低い株では、かなり認められる場合がある。耐病性の高い株では未発症か制御可能な範囲。品種間のばらつきが大きく、まだ完全に満足できる水準とはいえない。

・蕾、花に直接散布可能なせいか、スリップスが完全に制御できる。

・ゾウ虫を完全に制御することはできないが、被害は無散布の場合の数分の一に抑えられるようにみえる。

・ホソオビアシブトクチバの幼虫による蕾の食害を発見。大型幼虫への効果は薄いかもしれない。

散布後のにおいはニンニク臭(くさったネギ臭ともいう?)で、かなり強い。散布後1日以上は、かすかな臭いが残るので、ご近所への配慮が必要。切り花にする場合は散布前に切ることっ!!(^^;)kusai

【その後の様子:〜8月】

うどん粉病は完全に防除できたが、黒点病耐性の低い株では、坊主に近くなったものも出現。

推定される原因は:

(1)今年は日照量が平年の半分しかなかったため、樹勢がいまいちだった

(2)ニームオイルの指定散布濃度が日本の環境では高すぎて、一部に薬害が出た可能性がある(確たる証拠はないが...)

今年は評価目的で、毎週指定濃度で散布したが、濃度は指定の1/2程度にしたほうがよさそうだ。それでも虫に対する効果は変わらないように見える。チュウレンジバチ対策には毎週散布が必要。

なお後述するようにニームは光分解性があり、これを解決しないと「毎週散布」からは逃れられない(^^;)
(秘策がないではないが...)


作用機構

アザジラクチンは、昆虫の変態にかかわるホルモンと構造が似ており、このホルモンの働きを阻害すると考えられている。この結果、昆虫は脱皮阻害が生じ、3〜14日で死亡する。

・同時に、草食昆虫(害虫)に摂食阻害物質として作用する。微量でも摂取した虫は、活動をやめ、餓死にいたる。効力は7〜10日間程度有効。

・病害に対する作用機構は、私にはまだ不明だが、"Rose Defense" は、うどん粉病、黒点病、さび病等、広範囲な病害に有効とされている。


アザジラクチンの毒性

・経口 LD50 >13,000mg/kg で、米国基準では最も低毒性(Level W)のランクに入る。ちなみに、アスピリンの毒性は、これの10倍強である。

・目への刺激が多少見られるので、これについては(Level V)に分類されている。

・ラットを対象にした90日間の慢性毒性試験では、明瞭な毒性の兆候はなかった。

・オスの不妊化への影響
マウス、ラット、ウサギ、ハムスターに、ニームの葉の抽出物を与えて不妊化の効果を調べたところ、オスのラットで、6週目で66.7%、8週目で80%、12週目で100%の繁殖率低下が見られたという報告がある。精子の生成量には影響しないものの、精子の死亡率が顕著に上昇したためとみられる。なお、この効果は永続的ではなく、4〜6週間で回復する。マウスでも同様の効果が観察された。なお、ハムスターとウサギには、ニーム抽出物は毒性を示すと報告されている。

このように、アザジラクチンは、小型のほ乳類に対して環境ホルモン様の影響力をもつ恐れがある。人間に対しては長年にわたる虫下しとしての利用の実績で明らかなように、大きな影響があるとは考えにくいが、現時点では、使用について注意するにこしたことはない。なお、EPA(米国環境保護局)では、すでにアザジラクチン含有の製剤を、室内・外用の殺虫剤(装飾・食用植物用)として使用を許可している。また、アザジラクチンは光・等による分解が非常に速い(約100時間以内)ので、すでに環境ホルモンと考えられている一部の化学農薬のように、環境に長期にわたって残留する恐れはなく、これが、特に危険性が強調されることがない理由と考えられる。

「センダン」を原料とした漢方農薬製剤(緑豊U)も、脱皮阻害効果をもっており、有効成分も似たものである可能性がある。使用に当たっては、Neem Oilと同様の注意をしたほうが良いと思われる。

・変異原性
エームス・テストは陰性。マウスのリンパ腫試験も陰性。


使用法(Rose Defense の場合)

・使用に当たっては、通常の農薬と同等の安全対策を講じること。これは、木酢液を散布するときにもいえることです。目に入ったり、皮膚についた場合はただちに洗浄すること。

・希釈は、Rose Defense 30ml(1オンス)を、水3.8リットル(1ガロン)に混合する。

・13℃以下では固まってしまうので、散布液はぬるま湯(日なた水程度)で希釈して調製する。乳化剤が混合されているとはいえ、もとが油なので、散布中は噴霧器のタンクをたえず揺すぶっているほうがよい。散布は葉の表裏に満遍なく行うこと。

・薬害のでやすい植物(インパチエンス、フクシア、ハイビスカス、オリーブ、カーネーションそして、一部の特に敏感なバラ等)には、事前に部分的に試してから使用すること。

(なお、読者のゴン太さんから、おじぎ草にもひどい薬害が出て落葉したとの報告をいただいています)

・食用植物に使用してはならない。

・ミツバチには害がある(ニームに汚染された花粉を幼虫に食べさせてしまうために、若齢幼虫に影響が出るため) 


薬害の可能性

ニームオイルは日本ではあまり普及していないので、日本の気候での薬害については詳しく知られていません。GAMIや、このHPでニームの存在を知った何人かの方の経験によると、一部に落葉や新芽の萎凋などの症状が観察されています。原因は確定できていませんが、現時点で可能性のある原因は、

・高濃度散布
・日中あるいは高温時の散布(散布後の温度上昇も含む)
・他剤混合(木酢液、過度の展着剤等)

などが考えられます。ちなみにGAMIの場合は、規定濃度で毎週連続散布をおこなっていた98年初夏の時点で、一部に落葉を認めましたが、黒点病起因のものとの厳密な区別ができない程度のものでした。しかし安全を見るために、99年は最初の数回を規定濃度で散布した後、規定の半分程度の濃度で散布するようにする予定です。頻繁に使用する場合は、様子がつかめるまで、2週間以上の間隔で散布する方が安全のようです。なお、散布時刻ですが、早朝より夕方(西日が当たらなくなった頃)の方が薬害が出にくいようです。葉が長時間濡れたままにならない環境でしたら、こちらをおすすめします。


入手方法

園芸資材を日本に輸出してくれる外国のナーセリーは多くありませんが、ここで紹介したバラ用 Neem Oil (Green Light Co. "Rose Defense") を日本に通販してくれるナーセリーを1軒見つけました。98年2月に徹夜でネットサーフィン+問い合わせメール連発して頑張った成果です。おかげで、翌日からインフルエンザで寝込みましたが...(^^;)

小さなナーセリーですので、ひやかしメールを敬遠して、これまでは連絡先を公開しませんでしたが、今回オンラインショッピングの立派なHPを立ち上げたようですので、URLを公開することにしました。もちろん注文には英語が必要です。ご自身のリスクで取り寄せてください。

Teas Nursery Co., Inc.

また、Rose Defense のメーカー (Green Light Co. ) のHPにも、通販ページが出来ました。日本へも出してもらえると思いますが、GAMIはまだ未確認です。 (その後問い合わせた方によると、ダメだったようです)

The Green Light Home & Garden Web Site

平成15年3月から施行された、改正農薬取締法によれば、個人輸入といえども、特定農薬に登録されていないニームオイルを海外から取り寄せることは違法となります。そのため海外サプライヤへのリンクは当面切りました。ご了承下さい。ニームオイルは国産品が増えましたので、当分の間、必要な場合はそちらを利用するのが安全です。

 


国産のニームオイル製品もいろいろあります。一例はこちら


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参考サイト 

Rose Defense Neem Oil
Into the Marketplace
Neem seed oil reduces the number of aphid offspring
VSO - study on the effect of neem oil extract to control external parasite of cattle
Neem Foundation - Neem for eco-friendly pest management
Patent on Neem
Neem, a Botanical Insecticide
Insect Repellents
Master Gardeners - March Tips
Neem Oil Insecticidal Soap
neem oil Page 1
NEEM OIL PROTECTS FLOWERING PLANTS AGAINST DISEASES
MLNeemGold Data Sheet
NEEM BASED INSECTICIDE - BIONIM-
USEFULNESS OF NEEM EXTRACT IN TROPICAL AUSTRALIAN PEST CONTROL
Neem Peace, Australia
The Secret of Neem. Neem'srole as a wonder drug is traced as far back as 4,500 years ago.
Bahama Neem
Neem tree oil
neem
Neem in Agriculture