低毒性化学農薬


このホームページは、化学農薬は原則としてコワイもの、だからアマチュア用の代替手段を探そうという考えで作られていますが、実はこわくない化学農薬を作ろうという地道な努力もなされているのです。ここではまず、その代表として、玉川大学の本間保男博士によって開発された「カリグリーン」の誕生について紹介します。バラのうどん粉病や黒点病にも有効な優れた安全な農薬です。

その他の殺菌剤、殺虫剤についても、後ろにまとめてあります。

 

殺菌剤


 
「カリグリーン」の誕生

1.プロローグ(炭酸水素ナトリウム剤)

炭酸水素ナトリウムというのは、ご存じ「重曹」である。この重曹が柑橘類の黒点病(バラの黒点病とは別物)や緑かび病に有効なことを、本間らは発見した(1977)。効力のもとは、重曹が水に溶けたときに示すアルカリ性(pH8.3)であった。緑かび病は、成熟した果実のもつクエン酸濃度がある値に達すると発症する。一方、重曹は、このpH条件を、黒点病菌の発育上不適当な方向(pH4以上)にずらすことにより、発症を抑制する。

しかし、ただ重曹水溶液を用いるだけでは、その防除効果に著しいバラつきがあることがわかった。これは、重曹と植物体との接触が不完全であったためである。具体的には、重曹水は植物体上で水滴となって存在するため、乾燥するとそこに重曹の結晶が析出する。これが、バラつきを生むと同時に、局所的な高濃度による薬害の発生をも生じさせることとなる。

この問題を解決するためには、重曹水の表面張力を下げる必要がある。そのために、各種の界面活性剤が調べられた。ここでの結果は非常に興味深いものであるが、先を急ぐので省略。

結局、安全性を重視した農薬として、添加する補助剤もすべて安全性の保証されたものから選択するという姿勢のもとに、重曹80%、モノグリセライド・カゼインソーダ・デンプン・乳糖20%の組成が農薬として製剤化された。

2.薬害の壁

農薬としての登録申請の際には、重曹80%水和剤の200〜400倍で試験がなされた。対象はキュウリ、イチゴ、ナス、ピーマン、メロンであったが、濃度が高くなると乾燥後に重曹の結晶により、析出部位に褐変を生ずるので、約80倍(重曹濃度 10,000ppm)前後が薬害発生の限界濃度となった。

重曹80%水和剤の200倍液の重曹濃度は4,000ppmであるから、3回散布すると12,000ppmとなり、薬害発生濃度を越えてしまう。この濃度のままで、薬害を軽減する努力が約4年間続けられたが、結局、良い解決策は見いだせないままで終わった。

3.炭酸水素カリウム剤

重曹剤の効力のもとは、pHの調節作用であった。そこで炭酸水素カリウム(重カリ)が登場する。重カリは、重曹分子中のナトリウムがカリウムに置き換わっただけの、重曹の親戚である。重曹製剤で蓄積したノウハウを駆使して開発を行い、使用濃度を800〜1000倍まで薄くすることに成功した。対象はキュウリ、イチゴ、タバコうどん粉病であったが、200倍の重曹剤を上回る効果があった。

4.重カリコーティング剤

炭酸水素カリウム(重カリ)剤の最終形態には、マイクロカプセル技術が用いられている。炭酸水素カリウムは水溶性なので、均一な散布はできるが、重曹剤同様、乾燥すると結晶化し不均一となってしまう。そこで、マイクロカプセルに閉じ込めて溶液の均一付着を達成した。このマイクロカプセルにより、疎水性病原菌(うどん粉病菌のような風媒伝染病菌の表面は通常疎水性)表面への接触が可能になり、効果が高まった。
殺菌の作用機構は以下のように説明される。

  1. マイクロカプセル入りの重カリがうどん粉病菌に付着すると、高濃度のカリウムイオンが菌体内に移動し、イオンバランスを崩した菌は死滅する。
  2. カリウムイオンは植物体内にも侵入し、肥料成分として機能し、耐病性を高める。


このようにして、炭酸水素カリウム剤「カリグリーン」が誕生しました。現在では、米国環境保護局にも農薬登録され、海外へも進出しています。

(本稿についての詳細は、本間保男著、「植物保健薬入門」、化学工業日報社をごらんください)

カリグリーンの実際の製造は東亞合成化学鰍ナ行われていますが、我々素人園芸家は、タケダ園芸から小口売りで販売されている製剤を、ホームセンターや園芸店で購入できます。私の経験では、うどん粉病の治療効果はかなり高く、毎週散布で十分な予防も可能と思います。

さて、気になる毒性ですが、炭酸水素カリウムは、医薬・食品の原料ですから1日あたりの摂取許容量は規定されていません。急性毒性は、マウス経口LD50が、オスで 3,134mg/kg、メスで 2,909mg/kg となっており、問題視する必要はないでしょう。


その他の比較的安全と思われる「農薬」(工事中) 

3.銅剤

4.レシチン剤

5.アミノ酸剤

6.抗生剤


●殺虫剤


1.オレイン酸ナトリウム剤
オレート液剤

 

2.除虫菊剤(ピレトリン)

除虫菊から採取される天然の殺虫成分ピレトリン(Pyrethrin) は、急性毒性(LD50:1,500mg/kg)が比較的低い上に、ノックダウン効果、つまりシュッとひと吹きすると速やかに虫がダウンするので、初心者でも適量を越えるかけ過ぎがおきにくいというメリットがあります。しかし、ノックダウンは、決して Lethal Blow ではありません。つまり、また息を吹き返すことがあるのです。
昔の蚊取り線香は、除虫菊が原料でしたが(現在はアレスリン等合成ピレスロイドが使われている)、当時の蚊取り線香で撃墜された蚊が、しばらくするとまた飛んでいくのを目撃した方もいるかもしれません。これは、ピレトリンの毒性が低いからではなく、ピレトリンが昆虫の体内で簡単に酸化分解されてしまうためです。
ところが、ピレトリンにゴマ油をまぜると、殺虫力が劇的に向上します。これは、ゴマ油に含まれるセサミンとセサモリンによるものでした。これらの成分が、ピレトリンの酸化分解を抑制し、ピレトリンの毒性が維持できるようになったため、昆虫を確実に死亡させることができるようになったのです。このような物質を共力剤と呼び、現在はピペロニル・ブトキサイドが、この目的で利用されています。通常ピペロニル・ブトキサイドは、ピレトリンに対し十倍量が添加されています。

一方、温血動物では、ピレトリンの代謝は主に加水分解によって進行するため、共力剤の影響を受けず、したがって温血動物への毒性は低いままで、昆虫に対する高い殺傷力すなわち選択性が得られるものと考えられています。

ピレトリンは、その毒性からして自然農薬派が常用する薬剤とはいえませんし、希釈散布用の家庭用原液には適当な商品が見当たりません。しかしスプレー缶タイプのピレトリン剤は、ちょっと見かけた虫をやっつけるのにはとても便利です。商品としては、タケダ園芸の「パイベニカ」があります。これには私もちょくちょくお世話になっています。

なお、比較的魚毒性が強い(B類)ので、大量にまくときに池が近くにある場合は注意が必要です。

 

3.BT剤 (Bacillus thuringiensis)

バチルス・チューリンゲンシス、通常略してBTと呼ばれる細菌は、胞子形成の段階でδ−エンドトキシンと呼ばれる有効成分を持つ結晶タンパクを生成します。この結晶タンパクそのもの、あるいはそれを生成する胞子を鱗翅目の幼虫が食べると、アルカリ性の腸内で加水分解され毒性の高い物質に変化し、数分以内に腸に穴があいて死亡します。一方、ほ乳類の腸内では、このような毒物への変換が起こらず害はありません。急性毒性は低すぎて正確には不明。また慢性毒性も、私が調べた範囲では、報告例はありませんでした。

当初BT菌は鱗翅目のみに効果を現すと考えられていましたが、現在では双翅目昆虫(蠅、蚊)、甲虫類やアブラムシ、ダニにまで効果を現すBT菌が発見されています。対甲虫BT菌(テネブリオニス)は、私がもっとも頭を悩ましているゾウムシにも効くか非常に興味がありますが、まだ試すチャンスがありません。

実際の製品としては、タケダ園芸のが販売している「トアローCT」が、最も入手しやすいBT剤でしょう。これは鱗翅目専用です。BT剤には、生芽胞をふくむものと、芽胞を殺菌処理したものとがありますが、トアローCTは後者に属し、その分リスクも一層低いと考えられます。

 

4.マシン油剤

昆虫の気門閉塞を主眼にしているので薬剤抵抗性がつかないのが利点ですが、国内で販売されているものは一般に純度が低く(80〜95%)、夏期や気温の高い日中は薬害の恐れが高いので、冬の休眠期にしか使えません。米国では高度精製の Horticultural Oil (例:商品名 Sun Spray)が夏期でも展着剤がわりに広く使用されています(Cornel Formula)

低純度のものは、不純物により毒性も高くなるので、吸入しないように注意しましょう。

 

5.行動制御剤(昆虫フェロモン、誘因・忌避剤)

日本たばこ産業鰍ナ、コガネムシ類の成虫を対象にしたフェロモントラップが販売されています(商品名「ウインズパック」)が、私は使ったことありません。

>日本たばこ産業アグリ事業部 TEL 03(3582)3111


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