化学殺虫剤の話


化学合成殺虫剤は、有名な毒ガスの親戚が多く、もっとも使用したくないものですが、虫が大量発生して手がつけられないときには、致し方なく使うこともあるかもしれません。できれば、なるべく安全なものを選びたいところですが、ここでは主なものを一通り全部紹介します。

 


殺虫剤の作用機構

殺虫剤を害虫体内への侵入経路から分類すると、

 
1.接触剤        昆虫の体表を経由して体内に入る
2.食毒剤        茎葉を食害することで体内に入る
3.浸透性殺虫剤  植物体内に浸透した殺虫剤が、食害により体内に入る
4.くん蒸剤      殺虫剤をガス状で用い、気門から体内に入る
 

趣味園芸でバラに使われるのは1〜3で、4はありません。
目的から言えば2あるいは3の、食害害虫だけに効果があり、天敵(その多くは肉食性)には影響がない薬剤が理想的ですが、現実には、接触毒性も備えているものが普通です。

 


1.有機リン系

地下鉄サリン事件以来、有機リン系の毒ガスの名前は一般人でも知るところとなりました。もちろん農薬として使用されている有機リン剤の毒性はサリンのそれより桁違いに低いものですが、作用機構は同じです。つまり、神経シナプス(神経繊維の継ぎ目部分)において、信号をやり取りする物質(アセチルコリン)を分解する酵素の働きを阻害します。そうすると、アセチルコリンの量がどんどん増えてしまい、正常な神経伝達が不可能になって、ターゲットは死に至ります。

こんな恐ろしい有機リン剤ですが、現在日本で農薬として使用されている有機リン剤は、in vitro つまり生体に入り込む前には毒性はありません。意外に思われるかもしれませんが、この物質は、生体内酵素により酸化されて「オクソン体」という形に変化してから、高い毒性を発揮するようになります。しかし、同時に生体内ではこの侵入物質を分解無毒化すべく、酵素が活躍を始めます。つまり、オクソン体に変化する前の段階で、これを分解すべく働くのです。この酵素の働きは昆虫よりも温血動物の方が高く、これが、最新の有機リン剤は昆虫への毒性は高い反面、人間への毒性は低くなっている理由です。このようにターゲットに対する毒性は高く、それ以外の生物に対する毒性はできる限り低くする、いわゆる「選択毒性」が、現在の農薬の重要な性能指標となっています。

蛇足ですが、オクソン体は、太陽光線や光化学スモッグなどとの反応でも生成します。つまり、日中に農薬散布をするのは、「大バカ者」ということになります。また、有機リン剤は、植物の光合成作用を低下させ、生育を窒素過多にするといわれています。この結果、かえってアブラムシ・ハダニやうどん粉病などがつきやすくなる「おまけ」もあるそうです。

バラによく用いられる有機リン剤には、
スミチオン(fenitrothion,MEP)、マラソン(malathion)、カルホス(isoxathion)、オルトラン(acephate)などがあります。

なお、マラソンは、環境ホルモンの疑いが持たれています。(→2003年の状況

 


2.カーバメート系

1925年に、カラバー豆の有毒成分が、N−メチルカーバメートであることがわかりました。これは、交感神経作動剤(医薬品)として研究されていましたが、この物質が有機リン剤同様、昆虫のアセチルコリンエステラーゼを阻害することがわかり、殺虫剤として研究されるようになりました。

家庭園芸で使われるのは、デナポン(NAC)などでしょう。

ランネート(Methomyl)は、環境ホルモンの疑いが持たれています。 →2003年の状況

 

3.有機塩素系

第二次世界大戦で除虫菊が不足し、その代替殺虫剤として開発されたDDTは、衛生害虫の駆除や、昆虫が媒介する風土病の防除に大いに貢献しました。この物質を農薬として使用するにあたって、数多くの危険性やリスクが指摘されていましたが、結局経済性を理由に農業に適用され、後になってレイチェル・カーソンの "Silent Spring" によって指摘されたような、数々の問題が発生してしまったのです。DDTやBHCなどの古い世代の有機塩素系殺虫剤は、日本では1971年に使用禁止になっています。現在使われている有機塩素系殺虫剤も毒物指定のものが多く、バラ園芸家には縁のないものですし、使うべきでないものです。 

現在、バラ関連で有機塩素剤にお目にかかるとすると、その代表は殺ダニ剤として多用されているケルセン(dicofol)でしょう。DDTに似た分子構造を持つこの物質は、毒性指定は普通物ですが、作用機構はDDT同様、神経毒です。有機リン系が、神経繊維の継ぎ目の部分を妨害するのに対し、こちらは神経繊維(軸策)内での信号伝達を阻害します。(Na+−K+ ATPase阻害)。なお、DDTはもちろんですが、ケルセンも、環境ホルモンであることが確定しています。 →2003年の状況)では「疑いがもたれる」(by 環境省)に訂正します

 

4.合成ピレスロイド系

除虫菊から採取されるピレトリンにかわって、合成ピレスロイド(「ピレスロイド」とは、「ピレトリンもどき」という意味)の生産が戦後開始されました。化学合成されたピレスロイドは、天然ピレトリンよりも、効果が安定している反面、発がん性等のリスクは高くなっているようです。

アレスリン、レスメトリン、ペルメトリン、エトフェンプロックスなどが家庭用殺虫剤(スプレー、液体香取、燻煙剤など)の成分として使われています。

なお、これら合成ピレスロイドは、環境ホルモンの疑いが持たれています。 →2003年の状況


環境ホルモンの疑いがあるといわれる農薬について2003年の状況 (2004.1.1)

この件に関しては,当サイト開設(1998)以来5年近く更新しておらず,情報がずいぶん古くなりました。「確定している」等の過激情報は,当時,複数の海外情報源から入手しましたが,ガーデニングがそのステージである当サイトとしては,予防原則優先の立場から,そのまま掲載しました。

その後,環境省から,当サイトに掲載した農薬も含む正式なリスト(SPEED98)が発行されました。ただし,そのリストは,「環境ホルモンの疑いがある物質のリスト」であり,今後,本当に環境ホルモン作用を持つか検証をする物質のリストという位置づけになっています。問題の農薬類は、主にその検証がH15年度に行われることになっています。
一般に農薬類は,登録時にすでに二世代繁殖試験などの評価がなされていることから,環境ホルモンの疑いは低いだろうということになっており,H15年に予定されている評価の結果も,おそらく「シロ」になるだろうと考えられるようになっています。

しかし,当サイトでは,散布直後に「飼い犬が葉っぱを舐めちゃう」とか,「子供が花を食べちゃう」などが実際におこっていること。そして環境ホルモン騒動当初,その最大の問題が,低用量での作用であると言われていたことを重視し,この作用を否定するためには既存の二世代繁殖試験ではデータ点数が不十分であり,十分な検証がされるまでは,安全のため「シロ」判定の見込みを掲載することは保留する,ということにしてきました。今後,SPEED98による検証が完了し,環境省の正式「シロ」見解が出れば、その時点で「結局大丈夫でした」と書くことになりそうです。

ちなみに,この低用量作用は,注目されていた他の要注意物質では再現実験ができておらず,作用そのものの存在がそもそも否定される方向で決着しつつあります。農薬類でもこの結果から大きく異なる可能性はきわめて低いものと考えられているようですので,実質上,低用量作用はすでに過去のものになりつつあります。したがって,現在,当該農薬をお使いでも,必要以上に恐れる必要はすでになさそうですので,ご安心下さい。もし万が一,運悪く「宝くじ」にあたったら,そこまでは面倒見切れませんが...

 


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