自然農薬(2)
自然農薬を「エキス」と呼ぶことがあります。実にうまい呼び方だと思いますが、たしかに自然農薬の多くのものが植物成分の抽出液からなっています。また、植物成分ではない化学物質(ベーキングパウダー)なども「エキス」グループに含ませるのが一般的なようです。一方、石油化学製品の多くは「エキス」に含めない人もいます。(このあたりの明確な区分は確立していませんが、近々なんらかの指標を用意するつもりです。それまでは十把一からげで「自然農薬」ということにしておきます。)
ここでは、木酢液以外で、私の個人的な感覚により、あきらかに通常の化学合成農薬とは安全性の点で一線を画すると思われるものを選んで紹介します。
●対病害
(1)Cornel Formula (コーネル・フォーミュラ)
1960年にコーネル大学で発案された処方です。主にうどん粉病、黒点病の予防に用いられます。
処方: ・ベーキングソーダ :15cc ・Horticultural Oil (商品名:Sunspray):15〜30cc (鉱物油を、高度に精製したものです。日本にはありません) これらを約4リットルの水で希釈。ただし、この処方は濃度が高く、葉焼けを起こしやすいので、早朝散布が原則です。
これに対して、わが国ではベーキングソーダの主成分である重曹と、石けんの混合が一般的です。重曹の希釈率は1000倍程度、石けんは展着効果が出る程度ですから、ほんの少々です。重曹の濃度を高くすることもできますが、500倍程度までにしたほうが薬害の危険がなく安全です。
ダラスにある Texas A&M University の Dr. Janell Johnk は、重曹(重炭酸ナトリウム)のかわりに重炭酸カリウムを用いる処方を研究中で、近い将来実用化と伝えられていますが、実はわが日本の優秀な研究者は、とっくにこれを実用化しているのです。
→ カリグリーン
(2)ピカコー「植物・食品の品質向上剤」として認められた製品で、海藻を原料としたクリーム状のドロドロした液体。これを20倍程度に希釈して虫にかけると、虫の気門をふさいで窒息死させる。対象はアオムシ、アブラムシ、ハダニ等。また葉面に被膜を作ることによりうどん粉病の予防や治療に有効となっています。
私の実験では、上記の虫にはよく効きますが、甲虫類になると、小型のものでもほとんど窒息効果は期待できませんでした。しかし一般に、甲虫は窒息系の殺虫方法では防除しにくいので、ピカコーの殺虫性能が低いというわけではありません。また、うどん粉病には十分に有効でしたが、黒点病に対する効果は、十分に時間が取れず未確認です。
私にピカコーを紹介して下さった、超々ベテランのプロ園芸家は、この液の葉面での展着・保持機能に着目され、この液と農薬を混合することによって、通常の半分以下の農薬量で高い病害防除効果を得ておられると、うかがっています。このような低農薬化への取り組みも、確実な効果と安全性の向上を両立させるものとして、高く評価されるべきでしょう。
さて、ピカコーは販売単位が20kg(¥7,500:送料込み税別 2000年)となっており、アマチュアが一人で使い切れる量ではありません。しかし、私は発見しました。ピカコーはセントポーリアの肥料としても用いられており、かなり割高になりますが、セントポーリアの専門店で300g程度の小口売りをしていることがあります。
問い合わせ先・HP:
(株)石水化学
栃木県安蘇郡田沼町山形377 TEL 0283−65−1126
掲示板で、ももさんからいただいた情報によると、徳久農業化学というところで2kg単位で直販しているそうです。
http://tagrichemi.hoops.livedoor.com/index.htm
家庭用2kg原液 \2、500(送料込、消費税別) 2001/09/21
(3)ニンニク・トウガラシトウガラシやニンニクの有効成分を抽出するには、いくつかの方法があります。アルコール、水、木酢液などですが、私は当初アルコール(ウオッカ)を用いておりました。しかし、この方法ですと、どうしても散布液中に過剰なアルコールが含まれてしまいます。そこで今年はニンニクを木酢液に3カ月以上浸けこむ方法を試しています。瓶を、二つに切ったニンニクのかけらでいっぱいにし、そこにニンニク片がひたひたに浸かる程度に木酢液を注ぎ込みます。これで3カ月も寝かせると、その臭いの強烈なこと...。
ポリ瓶などを使った場合は、とても室内には置いておけません。 で、これを約100倍に希釈し、トウガラシエキス(こちらは乾燥トウガラシ60gにウオッカを加えて500ccとし、3カ月以上経過したもの)を約200倍で用いています。つまり大ざっぱに、ニンニク木酢液:トウガラシエキス:水=2:1:197ということ。
ニンニクの量がこのくらいになると、木酢液の臭いよりニンニク臭の方が強くなりますが、この程度のニンニク濃度がないと、病害予防はできません。隣の家に洗濯物が干してあったら気をつけましょう。これに緑豊Uを1000倍程度で混合すると、うどん粉病の完全抑制、黒点病の一部抑制、アブラムシの忌避、チュウレンジバチ幼虫やヨトウムシの制御が可能です。ゾウムシに対する効果は、正確には掴んでいませんが、上記の混合液を散布しない場合に対して30〜40%被害減という感じでしょうか。十分とはいえません。トウガラシの濃度をどこまで高めるかが次の課題です。
(4)油→植物油
(5)酸性水もどき「酸性水もどき」とは、聞き慣れない名前ですが、要するに別項で紹介した「電解酸性水」に近い性能の散布液を、なんとか安価に作れないか? と考えて開発したものです。これまでのところ、使っていただいた皆様からは好評をいただいています。電解酸性水と違って、作るのに電気の知識はいりません(^^;)
試したい人は→こちら
●対害虫(1)漢方農薬(緑豊T、U、ニュー碧露) → これもうダメ(下の囲み記事参照)
おそらく、非化学農薬バラ栽培を行っている方々にとって、市販品ではもっともポピュラーな植物エキス散布液でしょう。
★緑豊Tは、ケショウヨモギ、クララ、タマビャクブ、ソウキョウ、カワラニンジンを原材料とし、殺虫有効成分はアルカロイド。接触毒により、昆虫の神経系等を撹乱したり産卵能力をなくさせる、とのことです。
急性毒性は以下の値が発表されていますが、対象動物は不明(おそらくラット?)
経皮LD50 > 5、000mg/kg 経口LD50 > 10、000mg/kgこの値なら、極めて低毒性といえるでしょう。
下表は、有効成分と人体への負の効果についてです
原料 有効成分 人間への効果 ケショウヨモギ ? ? クララ(根) アルカロイド・マトリン
(Matrine)中枢神経興奮後抑制 タマビャクブ(根) アルカロイド・ステモニン(Stemonin)
ステモニジン
(Stemonidine)呼吸中枢撹乱 ソウキョウ ? ? カワラニンジン ? ? ★緑豊Uは、センダンが原料。有効成分は苦楝素。害虫が緑豊Uを散布された植物を食害すると、消化器が破壊され死に至る。この作用機序により、肉食昆虫(天敵)への被害は少ないと考えられる。実際、私の経験では、緑豊Uの使用により、アブラムシ、チュウレンジバチ幼虫、ヨトウムシは、ほぼ完全に制御できますが、クモやテントウムシの姿は見ることができます。この有効成分は人間の虫下しとして利用されているそうです。
急性毒性は、下記のようになっています。この数字通りだとすれば、きわめて低毒性です。
経皮LD50 > 10、000mg/kg 経口LD50 > 3160mg/kg
★ニュー碧露は緑豊同様の植物エキスが原料とされているが、詳細は不明。接触毒が主体とされている。同じ接触毒主体の緑豊Tよりも効くという人が多いのですが、私は未確認。
最近出版された『「農薬学事典」、本山直樹編、朝倉書店』の漢方農薬の項に、「碧露」から合成ピレスロイドが検出されたという記述がありました。
「バラの園を夢見て」、婦人生活社、の梶みゆき氏の記事の中に「ヒメコガネにスプレーしてみると、驚くなかれ、みるみるうちに死んでしまいました。効くぅ。」という記述があるので「効き過ぎじゃないか??」と気にはなっていたのですが、どうやら合ピレ剤のせいかもしれません。
ただし、現在の製品はすでに改善されているそうなので、問題なさそうです。
もっとも、たいがいの漢方農薬は農薬成分はともかくとして、成分抽出用にはそれなりのケミカルを使ってると思いますので、完全なケミカルフリーはちょっとムリかも... 2001,5,2
「NEW碧露」、「緑豊」及び「凱亜」が無登録農薬に該当として回収対象になりました 2008.2.28
農水省によれば、
三浦グリーンビジネスが輸入・販売した「NEW碧露」及び「緑豊」が無登録農薬に該当することが判明したため、同社及び販売会社に立入検査を実施しました。その結果、同社が当該資材及び「凱亜(「NEW碧露」を原料とする資材)」の自主回収を行うこととしました。また、農林水産省は、都道府県等を通じて、これらの資材の購入者、販売者等に対し、当該資材の使用禁止、河川等への廃棄の禁止、回収への協力を指導しました。
なお、当該資材に含まれる農薬の有効成分の性質・安全性等を総合的に勘案すると、当該資材の使用は農作物の安全性に大きな影響を与えることはないものと考えています。詳細は農水省Webサイトの 株式会社三浦グリーンビジネスが輸入・販売した「NEW碧露」、「緑豊」及び「凱亜」の回収等について を参照してください。
かいつまんで言えば、
●農薬の有効成分ピレトリンやロテノンが病害虫防除効果を有する程度含有されていたことがわかった
↓
●防除効果があるほどの濃度だと当然農薬(扱い)だ
↓
●でも農薬登録されていた訳じゃない
↓
●だから無登録の違法農薬となり、回収指導となった要するに、前回同様、農薬成分が混入していたわけです。製造元が中国ということで、毒ギョーザ事件同様、とばっちりということもあるかもしれませんが、今回は二度目です。やはり販売元の管理不行き届きが問われても仕方ないでしょう。
なお、販売者の(株)三浦グリーンビジネスでは、自主回収し代替品への交換を行うそうです。
これらの漢方農薬の問い合わせ先
〒285
千葉県佐倉市佐倉市王子台3−15−7
(株)三浦グリーンビジネス
TEL: 043-488-1661
FAX:043-488-1660
(2)ニンニク・トウガラシ詳細は、対病害の項をご覧下さい。トウガラシを害虫(アオムシ、ヨトウムシ等)対策に本式に使う場合には、かなりの高濃度が必要なようです。例として、乾燥赤トウガラシカップ1杯(180cc)をカップ2杯の水に24時間浸けて濾した液や、カップ1杯の赤トウガラシをカップ4杯の水で20〜30分煮て濾した液を使用するとあります。
(3)ピカコー対病害の項参照
(4)石けん液石けん液は、昆虫の気門を塞ぎ、窒息死させる目的で使用されます。
例えば、10gの粉石けんを1リットルの水で溶かしたものをスプレーしますが、私の経験では、石けん液は濃ければ濃いほど有効なようです。高濃度で溶かしやすいのは、もともと液状のカリ石けんですが、それよりさらに効果的なのは、オレート液剤(大塚化学)です。これは、植物油成分のオレイン酸とナトリウムから作られた石けん液ですが、その有効性が認められて平成4年に農薬登録されています。農薬といっても食品添加物として広く利用されている安全なもの(何しろ石けんですから)で、その気門封鎖力はただの石けん液や牛乳より高くなっています。これは、その水への溶解性が、家庭用石けん(牛脂+ヤシ油など)にくらべて桁違いに大きく、高濃度の石けん液がつくれるからです。アブラムシや、ヨトウムシ、チュウレンジバチ幼虫等に高い効果があります。私の経験では、体長5cm近い芋虫(ホソオビアシブトクチバの幼虫)も一発でおだぶつです。ただ、甲虫類にはあまり効果がありません。なお、散布液はムラなく行き渡らなければなりません。一つ気になる点は、あまり石けん液ばかり使用すると、葉のクチクラ層を傷め、また土壌中のナトリウムを不要に増加させないだろうか?ということです。この点ではカリ石鹸が有利ですが...。虫が死んだら、石けんを水で十分洗い流してやりましょう。
オレート液剤はタケダ園芸が家庭園芸用の少量売りをしています。ホームセンター等で入手可能です。米国では Insectcidal Soap として種々の石けん液あるいは洗剤液が販売されています。気門封鎖はもちろん、虫の体表を覆うクチクラ層を侵食するのが目的ではないかと思えるほど強力なものもあるようです。例えば、ある報告によると、全自動皿洗い機用の洗剤がもっとも効果が高いとか...でもアブナいから使わないでね。
(注)専門家からご指摘がありました。農薬グレードのオレイン酸は牛脂が原料の可能性が高いそうです。
(5)植物油日本ではマシン油以外の油を使用する習慣は無いようですが、これは見直してもいいのではないでしょうか。例えばエッセンシャルオイルのなかには、強力な害虫忌避効果のあるものがあります。希釈したエッセンシャルオイルに接触した虫は、卵を産めなくなったという報告も目にしました。また、油は撥水性の真菌類の菌体を覆い、その生育を阻害するのに有効なようにも思えます。水で溶かした薬剤よりも残効性が期待できないでしょうか?実は日本でも、食用油に石けんを加えて乳化したものをアブラムシ退治に用いるという報告もありますが、効果のほどは不明です。
一方、外国では各種の油を有効に利用しているようです。
ここでは別項で、バラ用の防除オイルとして、最高の性能をもつと言われている、ニーム・オイルを紹介します。従来米国では、バラの散布液としては最初に御紹介した Cornel Formula が一般的でしたが、最近このオイルが取って代わっているようです。化学農薬なみの性能と評する人もいます。現在、私が最も力を入れて評価している「植物エキス」です。
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