Movie Review 2009
◇Movie Index
おと・な・り('09日本)-Jun 7.2009
[STORY]
人気モデルのシンゴ(池内博之)の専属カメラマンの聡(岡田准一)とフラワーデザイナー志望で花屋に勤める七緒(麻生久美子)は、古いアパートのお隣り同士だが今まで顔を合わせたことがない。だが、壁越しに聞こえてくる聡がコーヒー豆を挽く音や、七緒が留学するために勉強しているフランス語の声など、それはいつしか2人にとって安らぎを与えてくれるものになっていた。そんなある日シンゴが失踪し、彼の恋人の茜(谷村美月)が聡の部屋に押しかけてくる。一方、七緒はよく行くコンビニの店員、氷室(岡田義徳)から告白される。
監督・熊澤尚人(『虹の女神 Rainbow Song』
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本作の脚本家まなべゆきこが、2004年函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞長編部門で佳作を受賞した脚本『A/PART』を元に作った作品。予告を見た時に岩井俊二の『四月物語』と同じ雰囲気を醸し出していたので(監督は岩井映画のスタッフだったから似ててもおかしくないんだけど)見てみることにした。

で、実際の内容はというと『四月物語』というより、どちらかというと『ターンレフト ターンライト』でしたね。ちょっと強引かなってところや「それはありえないでしょ」という偶然が重なるところなんか似てるなと(笑)そういえば主人公2人にそれぞれちょっと変わった異性が接近するところも似てるなぁ。パクリとは思わないけど、インスパイアされてこの脚本を書いたかもしれない。

主人公2人は目標や夢はしっかり持っているけどどちらかというと受身で(ただし流されてしまうわけではない)どちらも周りの人に合わせてしまうタイプ。そこがとても好感が持てたし、共感できて好きな映画になりそうな予感がした。それなのに強引なキャラクター(茜のことね)が登場した時には、また『虹の女神』みたいなパターン(ちづるのことね)か?!とガックリ。でも実は茜は強引だけど嫌な女ではなく、悶々とする聡にスパーンと真実を突きつける男前な女の子だった。いやー、ごめんね。第一印象で決め付けてごめん。同じように七緒に告白する氷室(岡田義徳)もまた第一印象とは違う男で、この対比がかなり面白かった。

それからお約束のようにすれ違う聡と七緒。ここも面白かったな。アパートの隣同士なら引越してきた時に挨拶とかしないのかな?って(私はアパート暮らしをしたことがないので分からないんだが)疑問もあるにはあるが、映画だからそれはまぁ許す(笑)だけど、2人が実は・・・というのはさすがに映画とはいえちょっとね(まぁ私も学生時代の友達の家に遊びに行ったら会社の同僚がいた、という偶然を経験したことがありますが)そのあたりから正直ちょっとテンションが落ちました。実家に帰るところとかもう、ね・・・。ここをもうちょっと自然なカタチで見せてくれてたらすごい好きな映画になってたと思う。エンドクレジットも好きだ。

でもあのアパートには住みたくないなぁ〜(笑)
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アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン('09フランス)-Jun 7.2009
[STORY]
元刑事の私立探偵クライン(ジョシュ・ハートネット)は富豪の男から息子のシタオ(木村拓哉)がミンダナオ島で失踪したので探してほしいという依頼を受ける。島ではシタオは殺されたと告げられるが、香港にシタオらしき男が現れたという情報を得て、クラインは香港に降り立つ。
一方、香港マフィアのボス、ス・ドンポ(イ・ビョンホン)の恋人リリ(トラン・ヌー・イェン・ケー)が誘拐され、その場に居合わせたシタオは覚せい剤中毒のリリを救おうとする。
監督&脚本トラン・アン・ユン(『夏至』
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過去3作はベトナムが舞台だったが、本作はアメリカ、フィリピン、香港を舞台に描かれており、キャストもアメリカ、カナダ、日本、韓国、香港など各国から集結。音楽はレディオヘッドや『バベル』でオスカーを受賞したグスターボ・サンタオラヤが担当している。

ちょっと偉そうなことを書いてしまうが、トラン・アン・ユンにこの手の映画は無理だったと思う。この人はいい意味でも悪い意味でも性格がピュアというか素直で、見たまんましか撮れないんだなぁと、本作を見て改めて思った。意味ありげにいろいろ並べられても、ただそれだけ。自然の風景など美しいものを撮るのは上手いけど、人間の醜い部分や内面を見せることができない(逆にそういう人の醜い部分をムカつくほど上手く撮る監督もいるけどね)

だから役者がよっぽど上手く演じないと薄っぺらいものになってしまう。いくら狂気を演じても単なる記号にしか見えず、こちらの内面をえぐられるようなものは何もなかった。ハートネットの演技なんて今まで気にしたこともなかったけど、本作を見て「この人、あんまり上手くないんだ」って思ってしまった。殺人鬼ハスフォード(イライアス・コティーズ)との対決のショボさといったら・・・!あのフレンチサイコサスペンス『シックスパック』に匹敵するものがありました(笑)だからフランス映画でサイコはやめとけと・・・。

ストーリーで1つ気になったのは(ネタバレします)クラインはターゲットに同化することで事件に近づいていくという設定で、シタオ探しでも同じようにシタオに近づこうとして精神を病んでしまうんだけど、次のシーンではあっさりドンポと面会してシタオのいる場所を聞き出している。あそこまで悩んだ意味ないじゃん。(ここまで)何ですかこれは?途中で脚本を書き換えたか、撮ったけどカットした?そんなところもダメダメでした。

なんか作品を重ねるごとに自分の好みからどんどん外れていってるのが悲しいというか、あの『青いパパイヤの香り』を見た瞬間のゾクゾクッときた歓びを、もう味わうことはできないんだろうか。こういう映画を撮ってみたいという気持ちも分からんでもないけど、そろそろ諦めて(おい)原点に戻ってくれないだろうか。次はもう『ノルウェイの森』って決まってるけど、下手にこねくり回さないで素直にお願いしますよ。
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天使と悪魔('09アメリカ)-May 15.2009
[STORY]
教皇が逝去し、ヴァチカンでは新しい教皇を決めるためのコンクラーベが行われようとしていた。だがその矢先、教皇候補の4人の枢機卿が誘拐されてしまう。宗教象徴学者のロバート・ラングドン(トム・ハンクス)に協力を求めてきたヴァチカンは、誘拐犯が送ってきたというある紋章を彼に見せる。それは秘密結社・イルミナティのものだった。ラングドンはヴァチカンに入国し、調査を始める。
監督ロン・ハワード(『ダ・ヴィンチ・コード』
−◇−◇−◇−
原作はダン・ブラウンの同名小説。映画では『ダ・ヴィンチ』の後の話となっているが原作は本作のほうが1作目にあたる。なので、原作ではラングドンとヴィットリア(アイェレット・ゾラー)が恋に発展するみたいだけど(今回は先に原作を読まずに映画に臨みました)それを入れちゃうと「ソフィとはどうなったのよ?」ということになってしまうので省いてしまったんだろう。それとヴィットリアの父が殺されたことから事件が始まるはずが、その設定も変更になっているため全体的にヴィットリアの影が薄くなっている。はっきり言っちゃうとただの添え物。せっかくヒロインに抜擢されたのに可哀相だった。

原作を先に読んでなかったせいか本作のほうが面白かった。『ダ・ヴィンチ・コード』の時の「最後の晩餐」に籠められた秘密のような驚くようなことはなかったけれど、展開がスピーディーで先が読めなかったし、誰が黒幕なのか推理する楽しみもあった。もうちょっと建築物や美術品をじっくり見たかったけどね。登場人物も本作のほうが怪しい人がいっぱいで、ユアン・マクレガーのほか、『キング・アーサー』で悪役だったステラン・スカルスガルド、『イースタン・プロミス』悪役だったアーミン・ミューラー=スタール、『ナルニア国物語 第2章』で悪役だったピエルフランチェスコ・ファヴィーノと、嬉しくなってしまうキャストが勢揃い。前作もそうだけど、キャストの国籍が多岐にわたっているのが好きだな。

実は私は、ずっと(ネタバレ反転)シュトラウス枢機卿(スタール)(ここまで)が怪しいと思っていた。なので(またまたネタバレ反転)カメルレンゴ(マクレガー)が反物質を持ってヘリに乗ったところで思わず涙したわけよ。彼は自分を犠牲にしてみんなを助けるんだー!って。そしてパラシュートで降りてきた時には「うそ!ちょっとありえなくない?」と思いつつも、そういえば彼はかつて従軍し、ヘリで負傷兵たちの輸送をしていたんだっけ。だからこういう訓練もしてたんだろうなー(ここまで)などと、大変好意的に見ていたわけですよ。それがアナタ!(笑)まんまと騙されました。思わず「私の涙を返せーーー!」と心の中で叫んだのは言うまでもない。
うーん、やっぱり元々読んでいたならともかく、映画の前に原作を読むより、映画を先に見たほうが楽しめるなぁ。

『ダ・ヴィンチ・コード』の小説がヒットしたことで先に映画化されてしまい本作は後になってしまったわけだが、2005年の教皇選挙の後くらいに本作が映画化されていればもっと話題になっただろうに、時期を逸してしまったなぁ。まぁあの頃に映画化されていたらされていたで、大問題になったかもしれないが(笑)
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ウェディング・ベルを鳴らせ!('07セルビア=フランス)-May 2.2009
[STORY]
セルビアの小さな村で祖父と2人暮らしのツァーネ(ウロシュ・ミロヴァノヴィッチ)は、祖父から3つの約束事を課される。それは牛を売って、そのお金で聖ニコラスのイコンを買うこと、好きなお土産を買うこと、そして最後の1つは花嫁を見つけて連れて帰ってくることだった。ツァーネは大きな街ですぐにヤスナという美しい少女に出会い恋をするが、彼女の母親がマフィアのバヨ(ミキ・マノイロヴィッチ)の情婦だったため、ヤスナも身売りされそうになる。
監督&脚本エミール・クストリッツァ(『黒猫・白猫』
−◇−◇−◇−
『黒猫・白猫』『ライフ・イズ・ミラクル』に続くラブコメディ(『ライフ〜』は見そびれてしまったんだけど、これは見なくては!と急いで見に行った)
ツァーネを助けてくれる兄弟トプズ役のストリボル・クストリッツァは監督の息子で、本作の音楽も担当している。

とにかく突き抜けるほどに明るくて、どんなことも喜劇へと昇華していく映画だった。田舎から都会へ出てきた少年が花嫁を見つけに行くという物語で、村の若者はツァーネ1人という悲惨な状況だし、都会は都会でマフィアが貿易センタービルを建てようとしているという危ないことに。ヒロインだって母親に娼館へ売られてしまうという可哀相な境遇だ。文章で書くとこうだけど、実際に映像で見ると全く暗さを感じさせない。とにかくハッピーエンドにするんだ!という力強さにやられた。

個人的には『黒猫・白猫』のほうが好きではある。あの作品もやっぱり強引だったけど可愛らしいところが多かったし、ハッピーエンドになった時の気持ち良さはあちらのほうが上だったな、と。本作はちょっとついていけないところがあったし、私の好きなマノイロヴィッチが何かもったいない使われ方をしているなぁと思ってしまって・・・(彼はクストリッツァの望みなら何でもやるんだろうけど)

でも127分と『黒猫・白猫』とほぼ同じくらいの長さの割には長く感じなかった。そして本作も茶目っ気たっぷりのじいちゃんが可愛いし、そのじいちゃんを愛する先生も一途で可愛い(おっぱいぐるぐる〜には思わず声を出して笑ってしまった。クストリッツァに「お前は子供かっ!」とツッコミを入れたいくらい)ツァーネとヤスナの若い2人もホント可愛いの。特にヤスナは今は美少女だけど成長したらさらに美女になりそうで将来も期待!今後はクストリッツァ作品だけでなく、いろんな映画で起用されるかも。
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グラン・トリノ('08アメリカ)-May 1.2009スバラシイ★
[STORY]
朝鮮戦争の軍人だったウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)は、妻に先立たれアジア人が増えた町で1人暮らしをしていた。そんな彼の家の隣にモン族の家族が引っ越してくる。その一家の少年タオは従兄にそそのかされてウォルトが大事にしている“グラン・トリノ”を盗もうとするが失敗する。タオの姉スーは、お詫びにタオを1週間働かせてほしいと懇願する。
監督クリント・イーストウッド(『チェンジリング』
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音楽はイーストウッドの息子カイルが担当。エンドクレジットで流れる歌の一部はクリントが歌っている。
本作でイーストウッドは俳優を引退(主演としては、らしい)監督業に専念するようだ。
タイトルの『グラン・トリノ』とはアメリカの自動車会社フォード・モーターの車種の名称で、主人公がフォードの自動車工だったという設定。奇しくも現在フォードは経営危機にある。

アカデミー賞常連のイーストウッドなのに、何でこれが無視されたのか分かりませんっ!(><)←久々に顔文字使ってみた(笑)
私の中では過去のノミネート作や受賞作よりもずっと良かったんだけどなぁ。役者としての彼もすごく良かったし(どう見ても“老保安官”でしたがね)これが最後の主演だとしたらノミネートくらいされてもよかったのでは・・・。

まぁ確かにストーリーはシンプルというか、悪く言えばそれほど複雑な話ではない。『ミリオンダラー・ベイビー』みたいに論争を巻き起こすような作品でもない。今のアメリカの現状を写し取ったような作品ということで単純ではないのだが、ラストまで展開が想像できるもので、衝撃を受けたりということもない。

タオ少年が素直なのか反抗的なのか分からないとか、タオの従兄弟たちは何であそこまでタオに執着するのか分からないとか(無理に仲間に引き入れることもないじゃん)モヤッとくるところもあった。でもウォルトがモン族の一家に馴染んでいくところは意外とコミカルで面白く、可愛らしいウォルトにニヤニヤしてしまった。そしてある事件では怒り、クライマックスは上記の通り泣きっぱなし。そしてエンドクレジットでは温かい気持ちになれた。1本の映画で私の喜怒哀楽すべてを出し切った。そういういろんな感情を出してくれる映画っていうのは、やっぱりいい作品なんだと思う。見てよかったー。おすすめです。
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