Movie Review 2006
◇Movie Index

プラダを着た悪魔('06アメリカ)-Nov 21.2006
[STORY]
ジャーナリストを目指しているアンディ(アン・ハサウェイ)は、一流ファッション誌“RUNWAY”の面接にやってくる。冴えないファッションのアンディに眉を顰める者が多い中で、編集長のミランダ(メリル・ストリープ)がアシスタントに採用する。ミランダの理不尽な要求に何度もくじけそうになりながら、アンディは仕事をこなし自らのファッションを磨いていく。しかし恋人ネイトとの仲は次第にギクシャクしていく。
監督デヴィッド・フランケル(『マイアミ・ラプソディー』)
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原作はローレン・ワイズバーガーの同名小説。著者がファッション誌『ヴォーグ』で9ヶ月間編集長のアシスタントをした経験を元に書かれたそうだ。
また、モデルのジゼルが編集者役でカメオ出演し、パリコレの場面ではデザイナーのヴァレンティノ・ガラヴァーニが本人役で出演している。

野暮ったい女の子が新しい場所で身も心も磨かれていく、というシンデレラ的映画はたっくさんあるけど、やっぱりいいもんです。個人的にはアンディの野暮ったさが物足りないと思ったけど。変身前でも可愛いんだもん。服はあれでもいいが(あんまりわざとらしいのもね)もう少し太めでもっさりした髪型なら良かったな。メガネっ子でも可。それだと『プリティ・プリンセス』になっちゃうか。

メリル・ストリープが良くも悪くも存在感があった(実は最初にポスターを見た時はグレン・クローズと勘違いしていた<『101』のクルエラみたいだったんで)ヒステリックな怖さはなく、抑えた声で澱みなく注文をつけ最後に必ず「That's all.(以上)」と言う(このセリフは思わず口真似したくなってしまう)仕事の出来ない人間を嫌い、失敗すれば意地悪はするが、要求以上の仕事をすれば評価し信頼する合理的な人だ。

と、ミランダの造形は完璧なのだが行動については少々首をひねりたくなる。他人にも自分にも厳しく、公私混同はしないような人だと思ってたんだけど、アンディへの無理難題が自分の子供の用事だったことに唖然とした。個人で雇っているならともかく、一応社員なのでしょ。子供やペットのことはシッターやハウスキーパーがやるんじゃないの?アメリカってそういうところはキチッとしてるかと思ったけど・・・。発売前の『ハリー・ポッター』を手に入れるという仕事だって、子供のためにじゃなく、書評をどこよりも早く雑誌に載せたいから手に入れて!だったら納得できたんだけどなぁ。アンディが完璧に仕事をやり遂げ、ミランダが文句をつけることができなかったシーンが一番印象に残っているが、頼まれた仕事が真っ当なものならもっとスカッとできただろう。

原作は読んでないので間違ってたら悪いけど、本当ならばこういう馬鹿馬鹿しい要求をしてくる編集長がいるファッション業界って狂ってる!というスタンスの作品だったんじゃないかと推測したんだけど、ストリープをキャスティングしたことでクレイジーなんかじゃなく、むしろファッション業界で意地とプライドを賭けている人間のカッコ良さのほうが前面に出てしまった。他人を蹴落としてでも上を目指すのは悪いことじゃないという説得力がある。だから逆に途中でドロップアウトしてしまうアンディのほうがいい加減な印象を受けてしまうんだよね。いくら嫌気がさしたからって途中で仕事を投げ出さないで!って言いたくなってしまう。ストリープが良くも悪くも、と書いたのはそういう理由だ。

ま、こういうのは一種のおとぎ話だから、現実の仕事と照らし合わせてムカムカするのは大人げないっすね(笑)もっとお気楽に見なくては。ところでファッション・ディレクターのナイジェル(スタンリー・トゥッチ)って劇中では言及されてなかったけど、やっぱゲイって設定なのかしら。
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ソウ3('06アメリカ)-Nov 18.2006
[STORY]
女医のリン(バハー・スーメク)は病院で拉致され、目を覚ますとそこに瀕死のジグソウがベッドに横たわっていた。ある男に仕掛けたゲームを最後まで見届けられるようジグソウを延命させる、それがリンに与えられたゲームだった。ジグソウが死ねば、リンの首に巻かれた爆弾が爆発してしまう――。
同じ頃、3年前に息子をひき殺されたジェフ(アンガス・マクファーデン)は自宅で拉致され、食肉工場の地下室で目を覚ました。彼に仕掛けられたゲームは、息子の事件に関わった3人の男女を赦すことができるか試すものだった。
監督ダーレン・リン・バウズマン(『ソウ2』
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2004年公開の『ソウ』、翌年の『ソウ2』に続くシリーズ3作目。1、2作目と同じく製作総指揮はジェームズ・ワン、脚本はリー・ワネル。

アメリカでは上映が危ぶまれ5回の審査でようやくR指定、日本では4つのシーンの映像を暗くすることでR-15になったらしいと聞いて、見るのイヤだー!でも気になるー!ということで悶々としていましたが、トリックドール付き前売り券に惹かれて結局見ることに。でも先延ばしにするのはイヤだったので初日に勢いで見てきました。

もうね、まずこれだけは先に書かせて下さい。

グロすぎ(泣)
過激どころの話じゃないです。ホラーやスプラッターが好きな人からしたら大したことないかもしれないけど、普段あまり見ない自分にとっては今までの中で一番酷かった。「これは本物じゃないのよ、作り物なのよ、だから本当は痛くないのよ」と自分に言い聞かせてもやっぱりダメ。貧血どころか、ところどころ気絶しながら見ました。

見終わった後はぐったりしたものの、精神的に痛めつけられる感じではなかったので、まだ良かったかな。ストーリーはやっぱりよく出来てたし面白かった。 前作と同じようにジグソウの言葉の中にゲームを解くヒントがあったりして、うまく人間の心理を突いているなぁと感心した。 パート1や2で疑問だったところの答えも提示されていて、やはりこれで最後か・・・なんて思っていたらパート4やるんですか!確かにあのままで 終わりだったら気持ちが悪い。新たな謎も出てきたし気になるところはあります。でももういいのにー(泣)

とりあえず疑問点を列挙。ネタバレなので色変えます。
●ジェフと娘の運命
●アマンダに宛てたジグソウの手紙の内容
●エリックは本当に死んだ?!
●ゴードン先生はどこへ?(パート2鑑賞後の予想ではゴードン先生が出てくると思ってたのに)
●ジグソウ不在でどうやってゲームを続けるのか。彼は何を仕掛けて死んでいったのか?
こんな感じかな。やはり興味は尽きません。また来年のこの時期か〜ハァ。
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unknown アンノウン('06アメリカ)-Nov 10.2006
[STORY]
工場の中で5人の男が意識を取り戻した。しかし全員記憶を失っていた。どうやら毒性のガスを吸い込んだせいらしい。工場内を調べるうち、どうやら5人のうち3人が誘拐犯で2人が人質らしいということが分かった。そして掛かってきた電話は誘拐犯のボスからのもので、日没までにここにやってくるというのだ。5人はとにかく外へ出ようとさまざまなことを試みる。そんな中、5人は徐々に記憶がよみがえっていく・・・。
監督サイモン・ブランド(ビデオクリップ等を経て長編初)
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低予算だけどスタイリッシュな映像とアイデア勝負なサスペンス、というシネクイント上映らしさ溢れる作品で(『カオス』はシネパトスらしさ溢れるサスペンスね(笑))この手の作品が大好きな私は喜び勇んで見に行きました。

あらすじを読んで、5人全員が記憶を失うってありえなくない?と思ってたけど、一時的に記憶を無くす副作用があるという毒性のガスを吸い込んだせいだと分かるシーンがあり、設定については納得。だけど正直言って5人のシーンは期待よりも面白くなかったなー。外に出ようと協力し合ったかと思えば仲間割れしたりというのはあったけど、誰が誘拐犯かの探り合いや駆け引きなどはほとんどなく、心理描写は雑だと思った。5人の立場が状況によってどんどん変わっていくのかと思ったけど、あまりそういうのもなかったから起伏が感じられず、早く誘拐犯のボス帰ってこないかな〜なんて思ってしまったほど(笑)時々挿入される、警察が誘拐犯を追跡するシーンのほうがよっぽどもハラハラできた。まぁこういうシーンのほうが演出しやすいんだろうが。

でも徐々に記憶が甦っていくところは面白かった。ここの演出は冴えていて観客を騙すのが楽しくて作っていたに違いない。最初の頃に甦る記憶は誘拐犯か人質か判断しづらいものだったり、誘拐犯だと思わせるような記憶だったりして、見てるこちらも事実が分かっていくたびに頭の中の相関図を書き換える作業を楽しんだ。とはいえ、もっと小出しにしていくのかと思ってたら意外と早い段階で皆の記憶が戻っていくのでどうするんだろう?と訝しんでいたら、最後の最後に事件の真相を引っくり返してしまうすごいオチがあって驚いた。これがあったから出し惜しみしなかったのかー。そうするとあの時のあの人の表情なんて、今思うと違うことを考えてたんだなーとニヤリ。もうちょっと伏線を張ってて欲しかったけど。

ちなみに見る前の私の予想。

ジム・カヴィーゼル  =人質。ジーザス・クライストなので。
バリー・ペッパー   =誘拐犯。この中で一番のワル。
グレッグ・キニア    =人質。誘拐犯だったら驚く。
ジョー・パントリアーノ=誘拐犯。いかにも小悪党。
ジェレミー・シスト   =誘拐犯。えーと最後に残ったのが誘拐犯だったんで。

適当すぎる。でもアタリもあったな(いや、全部外すほうが難しいっての)
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虹の女神 Rainbow Song('06日本)-Nov 8.2006
[STORY]
映像制作会社で働く岸田智也(市原隼人)はある朝、水平な虹を見つけてアメリカにいる佐藤あおい(上野樹里)のことを思い出し、彼女に写真を送りメッセージを残した。しかし、そのあおいが飛行機事故で亡くなってしまった――。
2人は、智也がストーカーしていた女の子の友人があおいだったことから知り合った。最初はしつこい智也を避けていたあおいだったが、誤解が解けてから次第に仲良くなっていく。そして映画研究会に入っていたあおいは自分が監督する映画の主演に智也を抜擢する。
監督・熊澤尚人(『親指さがし』)
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2005年に作家の桜井亜美が脚本と監督を務めたラジオドラマのシナリオを、桜井と『花とアリス』などの監督・岩井俊二と脚本家の齊藤美如の3人が映画版として脚本化。監督の熊澤尚人は岩井の『スワロウテイル』のメイキングディレクターを務めている。

最初は興味がなかったんだけど、いい作品らしいという評判を聞いて見てみることにした。岩井俊二にどれくらい似てるかというのも気になった。

※読み難さを考えて、あおい=アオイ、かな=カナ、ちづる=チヅル、と平仮名の名前はカタカナにさせてもらいます。

私は智也のキャラクターが最初から最後までどうも好きになれなかったけど(というか登場する男性のほとんどがいまいち)アオイのいじらしさ、カナの可愛らしさにキュンとなってしまった。蒼井優ちゃんはやっぱりイイ!岩井さんもそうだけど、男の子より女の子の描写が上手いと思う。女の子キャラは理想を反映させることができるけど、男の子キャラはカッコ良くすることができない、リアルに情けなさを表現してしまうのかも(笑)

アオイと智也が過ごした時間――虹を見つけるところから始まり、屋根の上での演技指導、お祭り、将来について語る――2人の距離感がちょうど良くて、ずっと見ていたくなる。確かにここでちゃんと2人が付き合っていれば後の悲しい出来事は起こらなかったかもしれないけど、この時のこの2人の関係は決して間違ってないと思う。ただ、後悔はしちゃうよね・・・。

そういう、他から見れば進展してない生ぬるい関係だが2人にとっては大切だった時間、それと対比させるような形の智也とチヅル(相田翔子)の早急な結婚騒動は、やっぱり異質すぎて受け入れられなかった。他の女性を登場させ智也と付き合うというのは悪くないんだけど、チヅルのキャラクターが強烈なのと、エピソードの強引さがクドく感じてしまった。もう少し他の章とのバランスを取ってほしかった。

クドいといえば、それまで小出しに挿入してきたアオイが撮った映画『THE END OF WORLD』をわざわざまた最初から最後まで見せるなんてクドいなぁと思った。ラストシーンを見て、これは絶対に最初から最後まで見せる必要はあった、と分かったけど、だったら逆に途中のシーンでちょこちょこと見せる必要はなかったんじゃないかな。撮影シーンもそれまでたくさん見せてたわけだし、同じセリフを何度も聞くのがちょっと苦痛だった。

というわけで、良かったところとそうじゃないところがハッキリ出た作品だった。良かったエピソードだけを自分で繋いで見たい衝動にかられてしまうな。TV放映したら自分で編集しちゃいそう(笑)
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父親たちの星条旗('06アメリカ)-Nov 4.2006オススメ★
[STORY]
1945年、海軍の衛生兵ジョン・“ドク”・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)は硫黄島での激戦中、擂鉢山にアメリカ国旗を掲げる写真に写っていたため英雄としてアメリカに帰国するよう命令される。同じく写真に写っていたレイニー・ギャグノン(ジェシー・ブラッドフォード)は喜ぶが、アイラ・ヘイズ(アダム・ビーチ)は複雑だった。3人は底をついた戦費調達のため、全米をまわって国債募集を呼びかけることになるのだが・・・。
監督クリント・イーストウッド(『ミリオンダラー・ベイビー』
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太平洋戦争末期のアメリカ軍と日本軍の硫黄島の戦いを、日米双方から描いた2部作のアメリカから見た作品。日本から見た作品は『硫黄島からの手紙』
原作はジョン・“ドク”・ブラッドリーの息子ジェイムズ・ブラッドリーとロン・パワースによる『硫黄島の星条旗』 ちなみにブラッドリーは大学時代に1年間日本に留学した経験があるそうだ。
記念切手やアーリントン墓地にある海兵隊記念碑にもなった「硫黄島での国旗掲揚」写真は、AP通信のカメラマン、ジョー・ローゼンタールが撮影したもので、彼はこの写真でピューリッツァー賞を受賞した。ローゼンタールは本作が公開となった2006年8月に亡くなっている。
製作はスティーブン・スピルバーグ。脚本は『クラッシュ』の監督ポール・ハギスが担当した。

戦争映画はホントに苦手なので、戦闘シーンは貧血覚悟で見たが、意外に大丈夫だった。硫黄島の戦闘・アメリカに戻ってからのキャンペーン・ドクの息子のインタビューと、3つの年代が時系列もバラバラに出てくるので、そのたびに一息つくことができたのだった。セレモニー中に戦闘の記憶がフラッシュバックし、そのまま硫黄島のシーンに移行するところなどは演出として面白いなぁと思いつつも、見終わったあとはやはりぐったりし、虚しさが残った。

日本人はわりと自虐的なところがあるからこういう作品は受け入れやすいけど、アメリカでさほどヒットしなかったというのは何となく分かる。1枚の国旗掲揚写真がアメリカ国民を鼓舞させ、英雄を誕生させた。しかし本作ではその栄光の光よりも影の部分をより濃く描いている。伝説の写真は撮影のために掲げられたものだったということ、そして英雄となった者の悲しい末路。さらにセレモニーの馬鹿馬鹿しさ(まるで「TVチャンピオン」の優勝者が最後に岩を持ち上げるパフォーマンス並みにイタイ)3人の前に置かれたデザートの悪趣味さ、どれも目をそらしたくなる。

さらに心をえぐるのは3人のうちの1人、インディアン(←劇中でもそう言ってたので同じように書きます)のアイラ・ヘイズの存在だ。ハギスが脚本を担当しているからか人種差別の描写が色濃い。アイラはアメリカ国民であることを誇りに戦っているが、かつては侵略され虐殺される側の人間だった。そして英雄に祭り上げられても差別されることに変わりはなかった。戦争で仲間を失い、心の傷を負いつつ、いまだ戦っている兵士たちを置いて自分は何をやっているのか?そう疑問を持つのも無理はない。彼が泣いて戦地に戻りたいと訴えるシーンではこちらも涙してしまった。演じたアダム・ビーチは助演男優賞にノミネートしてほしいな。

いくらアメリカ側が主であっても、やはり日本兵たちが死ぬのを見るのはつらかった。かといってドクたちの隊の人間が殺されるのも嫌で複雑だったな。日本兵がどのように描写されているか興味深く見たが、砦の中からの攻撃が多く実体がほとんど見えないため、例えは悪いがまるで忍者のようだと思った。そしてその作戦の凄さに、思わず戦った先人たちに感謝したくなってしまった。『〜手紙』を見たらもっと強く感じてしまうかもしれない。とにかく、見るなら両方見るべきだ。
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