Movie Review 2006
◇Movie Index

ブロークバック・マウンテン('05アメリカ)-Mar 4.2006スバラシイ★
[STORY]
1963年アメリカ西部ワイオミング州。イニス(ヒース・レジャー)とジャック(ジェイク・ギレンホール)は、2人で放牧羊の管理を行う仕事を任される。ブロークバック・マウンテンできつい仕事に耐えながら友情を育む2人だったが、肉体関係を結ぶようになる。しかし保守的な土地柄のため絶対に人に知られてはならず、仕事を終えた2人は再会の約束をしないまま別れるのだが・・・。
監督アン・リー(『グリーン・デスティニー』
−◇−◇−◇−
ヴェネツィア国際映画祭グランプリ、ゴールデン・グローブ賞で作品賞ほか4部門受賞、そして第78回アカデミー賞の作品賞・監督賞・主演男優賞(レジャー)・助演男優賞(ギレンホール)・助演女優賞(ミシェル・ウィリアムズ)・脚色賞・撮影賞・作曲賞の8部門でノミネートされ、監督賞・脚色賞・作曲賞の3部門を受賞した。
原作はアニー・プルーの同名短編小説で、彼女の著作ではほかに『シッピング・ニュース』が映画化されている。

私は今回映画を見た後に原作を読んでみた。原作を読む気はなかったんだけど、映画で彼らが初めて肉体関係を結ぶシーンが何だか喧嘩してるみたいで「どういうこと?」と思ったことがきっかけだ。他にも映像だけではよく分からなかったところが理解でき、そして映画と同じところで泣いてしまった(映画ではシャツを抱きしめるところ、原作ではシャツを見つけたところ、と微妙に違うんだが)原作とは違う箇所がいくつもあったけど、改悪してない素晴らしい映画化だと思った。しかしジャックが一番の幸福を感じるシーンだけは、映画での演出より原作のほうが良かったな。映画は映画で、文章からは想像できない広大なブロークバック・マウンテンの自然を目で見ることができるのがいいところだ。羊の数がやたら多くて笑えます(笑)そして2人が最初に別れるシーンでの、空がうんと青いのにどこか寂しげに見える風景が、私の好きなアンドリュー・ワイエスの絵みたいで印象深い。

それにしても見終わってからジワジワくる作品だ。2人の出会いから別れまでを思い出すとまた涙がにじんでくる。最初はジャックのほうがイニスに執着しているように見えたけど、次第にイニスのジャックへの愛のほうが強いように感じた。彼はジャックでないとダメなのだ。逆にジャックは相手がイニスでなくとも、自分が望むような人生を歩むことのほうを重要視するようになる。その考え方の違いが互いをすれ違わせる。ジャックの気持ちは分かるけど、イニスが幼い頃に植え付けられた恐怖は拭い去ることはできないものだろう。今から40年以上も前の話だけど、現代だってゲイに対する偏見は大いにある。イニスの妻を演じたウィリアムズは母校から縁を切られたというし。だけど『ボーイズ・ドント・クライ』もそうだったけど、人のことはほっとけよ!と思いますね。別に他人に迷惑掛けてるわけじゃないでしょ。それを力でねじ伏せるのはどうかと。根底にはキリスト教の訓えがあるんでしょうけど、私には理解できませんなぁ。

私はこの映画をどうしても初日に見たくて(アカデミー賞発表前にね)前日に予約するほどだったんだけど(笑)残念だったのは、自分が見た回では、2人の関係がバレるシーンでなぜか笑いが起きて、そこで一旦気持ちが殺がれてしまったこと。私はちっともそのシーンを面白いと思わなかった。むしろバレちゃってどうするの!?とハラハラしたり、2人のキスシーンに胸が詰まったり、目撃してしまった人のショックがこっちまで伝わってきて切なくなりそうだったのに・・・なんだか自分の持ち物をゴッソリ奪われたような気分だ。ホントはもう一度見たいんだけど、劇場で見てまた笑いが起きたらヤダなぁ。1人でじっくり見るほうがいいのかもしれない。
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ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女('05アメリカ)-Feb 25.2006
[STORY]
第二次世界大戦下のロンドン。ペベンジー家の4人の子供達は田舎に疎開することになった。カーク教授(ジム・ブロードベンド)の家は大邸宅で、子供たちはさっそくかくれんぼを始める。末娘のルーシーは大きな衣装箪笥に隠れるが、なんとその奥には見知らぬ世界が広がっていた。そこはナルニアといわれる魔法の国で、かつては素晴らしい国だったが、白い魔女(ティルダ・スウィントン)によって100年間も冬が続いているという。この国を救うため、4人はライオン王アスラン(声:リーアム・ニーソン)とともに魔女と戦う。
監督&脚本アンドリュー・アダムソン(『シュレック』)
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原作はC・S・ルイスの『ナルニア国ものがたり』の7つからなる物語のうちの第1作『ライオンと魔女』で、1988年にはBBCでドラマ化されている。
原作を読む気にはならなかったので未読のまま見てしまったけど、名前や地名も覚えにくいこともなく、ストーリーも思ったより単純で分かりやすかった(面倒なところは省かれてるのかもしれないけど)
なぜ魔女がナルニアを支配するようになったのか?とか、アスランは何者?という疑問はあるけど、これらは後々の話で明らかになっていくんだろうと思ってるので、今は気にしないことにしている。

衣装箪笥の奥には雪が積もった森があり、柔らかな炎のガス灯が子供たちを出迎える。原作ファンならここだけで大感激だろうなーというのが、何となく分かる。たぶん象徴的な場面なんだろう。映画の中で一番良かったシーンだ(ホントに最初じゃないかよ)また、動物が言葉を話したり、魔法でお菓子が出てきたり、4人がナルニアの救世主となる――などの設定は、子供が見たら大喜びだろう。大人が見てもワクワクできる(しかし裸に赤マフラーの男が、少女を家に誘うというのはちょっと変態っぽいので大人はドキドキかもだ)

だが問題は後半。きょうだいがアスランたちとともに魔女と戦うことになるんだけど、その描き方はあまり良くなかった。まずロケ地がニュージーランドでスタッフも同じせいか、カメラアングルや敵の造形が『ロード・オブ・ザ・リング』(以下『指輪』)に似すぎていて、比べたくないのに嫌でもあっちの作品を思い出してしまう。そしてそのクオリティの違いに苦笑せざるを得なくなる。
それにさんざん『指輪』で言われていたけども、ロールプレイングゲームっぽいという批評は、この作品こそ言われるべきじゃない?と思うほど、死んだものが簡単に生き返ってしまう。ザオリク唱えすぎです。どんだけMP持ってんのかと(笑)怪我をしても1滴で完治させる魔法の薬もあるし、痛みも恐怖もなく、生と死の重みも感じられない。つまり軽すぎるのだ。

しかし、戦争という事態に直面した時は一致団結して戦わなければならない!逃げるのは卑怯であり、どっちつかずが一番嫌われ恥ずべきことだ!って子供たちに道徳として植え付けてる感じが戦争プロバガンダっぽくて怖いと思ってしまった。再び名前を出してしまうが『指輪』での戦争はプロバガンダな感じはしなかったのね。それはおそらく、今までその世界で暮らしてきた者たちの歴史がきちんと描かれていて、これからもその世界に住み続けるための戦いというのがはっきりしてたからだと思う。でも本作はそういう過程がないまま戦争に巻き込まれるので、戦うということの意義だけが強く出てしまったようだ。いや、実は本当にプロバガンダで、子供たちを知らない間に洗(以下略)

とりあえず次回作も見ますけども、7作すべては今のところ予定にない、ってところが何だかなー。やるなら全部やってよね。
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イヌゴエ('05日本)-Feb 22.2006
[STORY]
臭気判定士の資格を持ち、臭いに敏感なため外出時はマスクをしていないと歩けない芹澤直喜(山本浩司)は、あるとき父親から犬を預かってほしいと頼まれる。犬の臭いなど耐えられない直喜は断るが、父親は勝手に家に置いていってしまう。直喜が急いで換気扇を回したところ「寒いのう」という関西弁のオッサンの声が・・・犬が喋っている?!しかも犬の声が聞こえるのは直喜だけのようだ。仕方なくそのフレンチブルドッグにペス(声:遠藤憲一)と名付け、父が戻るまで面倒を見ることに――。
監督・横井健司(『ヒッチハイク 溺れる箱舟』)
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前年に見た『いぬのえいが』がいまいちだったので、こちらはどうかな〜と思いつつ見てみたけど、犬の映画としてはなかなかでした。『いぬのえいが』でもパグ犬に声があてられていたけど、ああいうシワの寄った犬というのは、何か深いことを考えていそうで何も考えてなさそうで(笑)人間の声と合うようだ。しかも本作のフレンチブルドッグは寝ている時のイビキが人間と変わらなかったり、お座りした時に横座り気味になるのがちょっと色っぽかったりするのだ(笑)それと赤ちゃんの時の映像がたまらなくカワイイ。顔の大きさはあまり変わってないんだけど、身体は半分くらいの大きさ。それがヨチヨチ歩きしてるわけ。もっと長く見せろ!と思わず言いたくなった。やっぱり和みますよ、犬の映像は。

その犬と直喜との絡みも良かった。犬は常に言葉をつぶやくだけで会話が通じてないところが新鮮で面白かったし、山本浩司を見るのは初めてだけど、彼のツッコミが自然で素直に笑えた。ペスと同じく彼もブサイク(すまん)だけど愛嬌があって、顔は似てないけどいいコンビだった。これでストーリーが面白かったら文句なかったんだけどなぁ。ペスとの出会いと別れ、直喜の臭気判定士としての仕事ぶりはいい。神経質だった直喜がマスクを外し、クサイものだって悪くないと認めていくというところも、ありがちだけど悪くはない。

でも恋人のはるか(馬渕英俚可)、散歩途中で出会う音無ちぬ(宮下ともみ)、彼女たちとの関係がどちらも中途半端に始まり中途半端に終わってしまったので、結局しまりのない話になってしまったと思う。特にちぬとはあれで終わりなのが気持ち悪い。その後、また何かを予感させるようなシーンが少しでもあればまた違ったと思うのだけれど。

それと内容とは関係ないんだけど、出演者がみんないつも同じ服を着ていたのが気になった。直喜はニオイを気にしてるくせに着たきり雀で寝てる時すらその服かい!と思わずツッコミ入れたくなったし、女の子もいつも同じ服でありえない!と思った。たぶん一気に撮ってるか、編集する時になって服装で辻褄が合わなくなったら困るからとか、予算がないとか、いろいろあるんだろうけどね。
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クラッシュ('04アメリカ)-Feb 11.2006イイ★
[STORY]
ロサンゼルス。深夜のハイウェイで交通事故に遭ったグラハム(ドン・チードル)は、偶然そこで黒人男性の死体が発見されたことを知る――。
その前日、ペルシャ人のファハドは護身用の拳銃を買いに行くがイラク人と間違われて不愉快な思いをする。
黒人の若者2人は、自分たちを見て怯えた素振りをした白人女性ジーン(サンドラ・ブロック)に腹を立て車を強奪する。
警官のライアン(マット・ディロン)は人種差別主義者で、パトロール中に見かけた黒人夫婦に言いがかりをつけ、その妻(サンディ・ニュートン)の身体検査をする・・・。
監督&脚本ポール・ハギス(『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家で本作が初監督)
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監督の実体験(車を盗まれ、家の鍵を取り替えたことがあるという)を元に書かれたオリジナル脚本で、第78回アカデミー賞の作品賞・監督賞・助演男優賞(マット・ディロン)・脚本賞・編集賞・オリジナル歌曲賞の6部門でノミネートされ、作品賞・脚本賞・編集賞を受賞した。

同じタイトルの映画がたくさんあるせいかインパクトがないし、出演者も悪くはないけど普段アクションやコメディが多いサンドラ・ブロックやブレンダン・フレーザーなんて、失礼だけど謎なキャスティングだなー・・・と言いつつ予告を見て興味をそそられたので見てみましたが、良かった。見て良かった。他の同じタイトルの映画と一緒に埋もれてしまったら嫌だなぁと思った(他の映画を否定するわけじゃなくて、例えばレンタルビデオ店でタイトルごとに並べられてたら見落とされそうという意味。分かりにくいか)

“人種のるつぼ”と言われるアメリカの人種差別を扱った作品で、差別意識を持つきっかけや差別の連鎖などが描かれている。どのシーンもどのセリフも遊びや無駄がないので、説明的でリアルさには欠けているのだが、役者の演技がいいので入り込める。特にノミネートされているディロンと、家族の問題に悩む刑事を演じたチードル、そして見た目はタトゥいっぱいで恐いが子煩悩の鍵屋ダニエルを演じたマイケル・ペニャが良い。彼らのエピソードは人種を超えた人間の本質が見えて、涙がこぼれた。

昔は外国人を見ると、英語が話せないのでビビッてしまうことがよくあり(今もだけど)差別というよりこちらが恐縮してしまっていた。でも最近は外国人犯罪者数の多さから、自然と恐いと感じるようになっている。日本に犯罪目当てで来日してくる者もいるので、見ただけで警戒してしまう。けれど犯罪とは無関係の外国人からしたら、それを差別と感じるわけだ。映画の中の差別の連鎖を見て、理解できる部分が多かった。これが10年前ならアメリカてコワイわー、で終わってたと思う。日本も変わったもんだな。

ただ、大まかな括りとして外国人に対して偏見や差別はあるけれど、個人となるとまた変わってくる。自分の職場の外国人社員はみな日本語が上手いので話していても楽しいし、優秀で仕事ができる。突き詰めれば結局、その人間の外見に囚われず中身を知れ、ということ。それは人種差別の問題に限らず、すべてにおいて言えることなんだよなぁ。人間関係が希薄になりがちな今の時代では、なかなか難しい。
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オリバー・ツイスト('05フランス=イギリス=チェコ)-Jan 28.2006
[STORY]
19世紀イギリス。孤児のオリバー・ツイスト(バーニー・クラーク)は、救貧院で毎日過酷な労働を強いられ、少ない食事しか与えられずいつも空腹だった。オリバーはくじ引きで食事のおかわりを求める役割をやらされるが、委員たちの怒りを買い追放されてしまう。その後、葬儀屋に引き取られてるが年長の少年にいじめられて葬儀屋を飛び出す。そして大都会ロンドンへ向かう。
監督ロマン・ポランスキー(『戦場のピアニスト』
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原作はチャールズ・ディケンズの同名小説。小説は読んだことないし、過去の映画化作品も見ていない。ただポランスキーが監督だからという理由だ。予告映像もすごく良くて期待しまくりだった。
実際、本編のほうも80億円をかけて作られたという19世紀のロンドンの町並み、エキストラに至るまで19世紀人らしい顔の人間を選んだというキャスティングと彼らの着ていた服など、見どころが多くて楽しかった。当時は絹のハンカチが高価で、貴金属以外でスリに遭うことが多かったというのも面白かった。イニシャルが刺繍してある場合はそれを取るというところも参考になりました(←何のだよ)

内容については、時代も設定も全然違うけれど展開が『戦場のピアニスト』に似てるところが多いと思った。主人公が受身で、周りの人が常に助けてくれて、一芸で助かる(といってもオリバーは見た目の麗しさと礼儀正しさなので芸と言えるか微妙だが)ところが似ている。『ピアニスト』のドイツ軍のホーゼンフェルト大尉と、本作のフェイギン(ベン・キングスレー)も主人公を助けておきながら・・・なところが似ている。しかし『オリバー』のほうがラストシーンは良かった。『ピアニスト』のほうはシュピルマンが助かったので後はどうでもいいやって気分になったけど、よくよく考えてみればあのラストはあれでいいのかというくらい中途半端な感じ。オリバー君のほうが、きっちり決着をつけて大人への第一歩を踏み出そうとする感じが出ていて印象深かった。

気になったのは、やっぱりオリバーの出生について。原作では出生の秘密があるようだけど、映画では全く触れられない。母親のことをなじられて怒るシーンがあるけど彼は母親は何者だったんだろうか。それが分からないままなので気持ちが悪い。また、礼儀正しさは救貧院で鍛えられたせいなのか、それとも両親の躾けのたまもの?過去についてすっぽり抜けちゃってるので、単なるオリバーのシンデレラストーリーになってしまっているのが面白くなかった。都合良すぎる話でも、過去の事でも絡めてあれば納得できたと思う。

バーニー・クラークは確かに綺麗な顔だったけど、他のスリの男の子たちと比べて特別とも思えなかったな。他の子たちと一緒に映ってても区別が付けにくかったし、演技も上手いというわけじゃなくて、監督の言う通りにやるだけで精一杯にみえた。それにしても煙突屋は嫌だと言って泣くシーンでの彼は、撮り方のせいもあるけど媚びすぎていやらしい感じがして、思わず「恐ろしい子・・・!」と月影先生のように白目になりそうでしたよ(うそ)
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