Movie Review 2006
◇Movie Index

カオス('05アメリカ)-Nov 4.2006
[STORY]
アメリカ、シアトル。強盗団が人質を取り銀行内に立て篭もる事件が発生した。リーダーのローレンツ(ウェズリー・スナイプス)はコナーズ(ジェイソン・ステイサム)を交渉役として指名する。コナーズは前の事件での失態で停職中で、上司は新人刑事のデッカー(ライアン・フィリップ)をコナーズの監視役に付けて捜査に当たらせる。コナーズはSWATに突入の準備をさせるが、その直後、銀行内で爆発が起こり人質に紛れて犯人たちが逃亡する。そして銀行からは金も宝石も盗まれていなかったことが判明する。
監督&脚本トニー・ギグリオ (『Uボート 最後の決断』)
−◇−◇−◇−
タイトルの『カオス(CHAOS)』とはギリシア語で混沌、無秩序という意味があり、作中では「カオス理論」が、事件の謎を解く鍵となっている。「カオス理論」とは、不規則で非常に複雑に見える現象が簡単な方程式で書き表せる理論のこと。

白昼堂々銀行が襲撃される事件が発生するが、そこには巧妙な罠が仕組まれていた――と、事件が二転三転し驚くようなラストが待ち構えているという、私の好きなタイプの映画だったので見てみた。スタートしてから早い時間で既に違和感を覚え、途中でさらにおかしいと思うようになり、種明かしのところで「やっぱりそうか」と納得。普段は種明かしされるまで気付かずにコロッと騙されてしまう安上がりな自分にしては勘が働いたようだ(笑)ということは、普通の人ならもっと早く気付いてしまいあまり面白いと感じられない作品かもしれない。よく考えてみるとおかしなストーリーだよなぁ?と首をひねりたくなってしまう、この手の作品にありがちな疑問もあるにはあるのだが、考えすぎるのは野暮ということで(笑)
ところで銀行強盗のシーンが『インサイド・マン』にちょっと似ているのは偶然なのかな。

概ね満足だったけど、最後は不満。ラストはやっぱり(ここからネタバレ)コナーズを捕まえてほしかった。コナーズが電話で「金持ちになった」と言うところがあるが、その言葉からチャーター機に乗ると踏んだデッカーが機内に入ってきて捕まえる(ここまで)という展開なら最高だった。私はこの作品で初めてライアン・フィリップがいい!と思うようになったので(そのすぐ後に見た映画でも素晴らしく、ライアン・フィリップ株が急上昇中!)彼の活躍をもっと見たかったというのもあるのだが。

思い返してみると一番面白かったのはドンデン返しなストーリーでもアクションでもなく途中で主役が変わってしまうところだった。コナーズの相棒という位置から、次第に観客がデッカーと一緒に捜査しているような感覚を持ちはじめ、彼が本当の主役なのだとごく自然に認識していくようになる。上手い演出だった。だからこそラストが気に入らなかったんだな。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

リトル・ミス・サンシャイン('06アメリカ)-Oct 28.2006
[STORY]
アリゾナに住むリチャード(グレッグ・キニア)とシェリル(トニ・コレット)夫妻の娘オリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)が美少女コンテスト“リトル・ミス・サンシャイン”に出場することが決まった。しかしシェリルの兄フランク(スティーブ・カレル)が自殺未遂で退院したばかり。このまま家に置いていくわけにはいかないと、息子ドウェイン(ポール・ダノ)とリチャードの父エドウィン(アラン・アーキン)も連れ、一家6人でバスに乗りカリフォルニアへ向かう。
監督ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス(『The Check Up』)
−◇−◇−◇−
第19回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。最優秀監督賞・最優秀主演女優賞(アビゲイル・ブレスリン)・観客賞を受賞した。第64回ゴールデン・グローブ賞にも作品賞と主演女優賞(トニ・コレット)でノミネートされている。監督のデイトンとファリスは夫婦。

出演者がいいし、前評判も良かったので頑張ってチケットを取って見た映画なんだけど・・・うーん、ちょっと期待しすぎたのかな?大好きな映画にはならなかった。出演している役者はいいし、家族のキャラクターもいいし、大笑いもしたし、いいシーンもいいセリフもあったんだけど、どこかちょっとわざとらしいのが気になってしまった。

一番大きな違和感としては、オリーヴはアリゾナの大会で2位になり、1位の子が出られなくなったから繰上げで出場が決まったわけでしょ。アリゾナの大会でもアレと同じパフォーマンスをやったのよね?(それともこのために新しくした?でも水着審査の時点で落とされそうだが)初めてじゃない子がどうして本選でああいうことしちゃうわけ?いきなりミスコンに出た子ならまだしも、そりゃありえないよー!と引いて見てしまったのだ。じゃあ1位の子や3位の子はどんな女の子だったのよ?と襟を掴んで問い詰めたくなるわ(笑)ド田舎に住んでて初めてミスコンに出た子、なら素直に受け入れられて大笑いできたと思う。細かいところだけど、そういうのが大事なんですね。

良かったところは、この旅を通して誰も成功を収めることなくむしろ失敗ばかりなのだが、家族でその失敗の痛みを分け合うところ。あそこで全員で踊るのはどうかと思うが(やっぱりミスコン絡みのシーンはダメだ〜)ドウェインが落ち込んだところのシーンは良かった。この家族なら、今後も成功を収めることは多分ないだろうけど(笑)ごく自然に助け合っていくんだろう。負け組にはやっぱりなりたくないというのが本音だが、こういう家族になれたらいいもんですな。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

アート・オブ・クライング('06デンマーク)-Oct 27.2006
[STORY]
1971年デンマーク南ユトランド地方。11歳のアラン(ヤニク・ローレンセン)は、情緒不安定ですぐに自殺をほのめかす父ヘンリー(イェスパー・アスホルト)の機嫌がいいと幸せだった。ある時、父と仲の悪い男の息子が死ぬようにアランは祈った。するとその息子は本当に事故で死んでしまった。父は葬儀で素晴らしい弔辞を述べて皆から称えられ、アランは誇らしくなった。そこでアランはまた葬儀があればといいと、病弱な叔母が死ぬよう画策する。
監督ペーター・ショーナウ・フォー(短編の監督を経て長編初)
−◇−◇−◇−
第19回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。
原作はアーリン・イエプセンの『Kunsten at grade i kor(映画の原題)』という小説で、デンマーク国内ではベストセラーになったらしい。テレビドラマの脚本も何作か書いているようだ。
見るまではドグマ95の作品かと思ってたんだけど(デンマーク作品というとすぐそう思っちゃう)ドグマ95の次世代の監督と紹介されていた。現在ドグマ95作品は150作品以上あるが、100番目以降はデンマークではなく他の国(アメリカやイタリア、タイなど)ばかり。ちなみに日本はナシ。

父親による性的虐待が作品の中に含まれていて、演技とはいえ子役たちへの影響が心配だなーと余計なお世話だが気になってしまったんだけど、何とアランと姉のサネを演じた2人は役者ではなく、物語の舞台となった町の子たち、つまり素人だったそうだ(その地方の訛りを話せる子が良かったかららしい)だが撮影の際には細心の注意を払い、役と彼らとは違うということをいつも意識させていたようなので安心したけど、そこまでして映画を撮るか〜と思ってしまった。

アランは常に父親の顔色を伺い、父が落ち込んだり泣いたりしないように注意してばかり。本来ならアランくらいの年齢の子なら自分のことだけ考えていればいいわけで、親から愛情を受けるのは当たり前なはず。そんな当たり前の愛情をもらえないアランもまた虐待されているようなものだ。だけど彼は父が平穏でいてくれたら自分を愛してくれると信じて頑張るんだよね。いじらしい。でも、ヘンリーに腹が立つかといえばそうでもない。もう怒りを通り越してしょうもない、としか言えない。だって最低だけど愛されてるんだもの。夫との仲がすっかり冷え一緒のベッドで寝なくなった妻だって、夫が逮捕されそうになると必死で止めようとするわけよ。夫の蛮行を知りながら無視する彼女も最低な女だけど、そういうシーンを見ちゃうと本当にしょうもない、としか言葉がない。どんなに歪んでようが壊れようがやっぱり彼らは“家族”だから――。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

チェンジ・オブ・アドレス('06フランス)-Oct 22.2006
[STORY]
パリにやってきたホルン奏者のダヴィッド(エマニュエル・ムレ)は、ルームメイトを探していたアンヌ(フレデリック・ベル)に声を掛けられ、ルームシェアすることになる。ダヴィッドはホルンを教えるアルバイトを始め、教え子になったジュリア(ファニー・ヴァレット)という無口な女の子に恋をする。アンヌもまた仕事場にやってくるガブリエルという男に恋をしたとダヴィッドに打ち明ける。
監督&脚本エマニュエル・ムレ(『ヴィーナスとフルール』日本未公開)
−◇−◇−◇−
第19回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。
私が今回の映画祭で見た作品4本のうちで一番良かったと思う。ただ、東京国際のコンペらしくなくて、フランス映画祭で上映するほうがしっくりくるような作品ではありましたが。

パンフ等でエリック・ロメールの再来と書かれているらしいが、私はロメールの映画は見てないので全く分からないけど、見てる間じゅうずっとウディ・アレン映画のフランス版みたいだと思っていた。そうしたらティーチ・インで好きな監督の1人に挙げていた。やっぱりね。

かもめ眉毛に締まりのない口元、どう見てもハンサムとは言いがたいが、気安く話しかけやすい雰囲気を持っていて、怒ったりしなさそうで頼み事を何でも引き受けてくれそうで、よく言えば優しい人、悪く言えば気弱な主人公。フランスの恋愛映画といえば上映時間の半分以上かけて男女のケンカを見せられることが多いが、本作ではケンカになる前に主人公がツツッと引いてしまうのである。でも引くだけなら男らしいのだが、別の女性のところへフラッと訪ねてしまう(笑)いろんな言い訳をしながらね。そんなところがウディ・アレンぽいと感じたところかな。また、映画だと分かってても2人の魅力的な女性とラブシーンができるんだからいいよなぁ、役得じゃないの、と思ったところも似てるかな(笑)『スコルピオンの恋まじない』を見た時に同じようなことを思ったので。

この気弱な主人公を演出するのに、時間の省略をうまく使っていて感心した。たとえば好きな女性の前に別の男性が現れ、居心地が悪くなったダヴィッドは夜の散歩に出かけ、タバコに火をつけようとしてなかなか付かないところでそのシーンが終わる。そして次のシーンでは夜が明けたというのにまだしつこくタバコに火をつけようとしていて、そんなことしてる間に女性は・・・。はっきり言ってマヌケ、いやバカだ。でもそこが可笑しくて好感を持ってしまう。結末も可愛らしくてとても良かった。

この監督の作品を見るのはこれが初めてなので、今までの作品がどんな感じかは分からないが、ダヴィッドのようなタイプを主人公にしたラブ・コメディを他にも見てみたいと思った。これなら一般公開してもそこそこ人気が出るんじゃないかな。
home
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

スネーク・フライト('06アメリカ)-Oct 21.2006
[STORY]
ハワイ、オアフ島。バイクで森の中を走っていたショーン(ネイサン・フィリップス)は、休憩中にギャングのエディ・キムが検事を殺しているところを目撃してしまった。ギャングたちはすぐにショーンを見つけ出し殺そうとするが、FBIのネヴィル・フリン(サミュエル・L・ジャクソン)によって助けられる。フリンはショーンにLAでのキムの裁判で証言するよう依頼する。それに応じたショーンはフリンたちとともに民間機に乗り込むが、それを察知したキムは大量の毒ヘビを機内に送り込んだ。
監督 デイヴィッド・エリス (『セルラー』
−◇−◇−◇−
数千匹の毒ヘビがジャンボジェットに放たれる!という設定からしてトンデモB級な臭いプンプンの映画で、それ目当てに見に行く人も多いだろうが(私もその1人)物語の骨格は手抜きのないしっかりした作りになっていた。何故ヘビを放ったのか、そのヘビはどこで手に入れたか、普段あまり攻撃しないヘビが何故凶暴になったか?をきちんと観客に提示しているので、設定についてはすんなり受け入れることができる。

とはいえ、ツッコミしたくてたまんない人たち向けへのお約束も忘れてはいない。一番最初に毒ヘビの餌食になるのはホラーやパニックムービーのまさに法則通り!という人だし、あそこを噛まれる人もいるし、嫌なヤツは丸呑みだし、1人で見るよりも大人数でお酒でも飲みながら見たら盛り上がるだろうなぁ。劇場よりDVD向きかも。

お約束といえば、どんなに人が死んでも絶対にアレだけは死なない!と思ってたのがアッサリやられてしまったのには驚いた。「助かったー」とホッとした直後にズドン!というのも、ありがちではあるんだけど、フリンってもしかして?!と一瞬疑ってしまう演出でビックリした。個人的には『セルラー』のほうが面白かったし好きだけど、本作も毒ヘビと操縦不能となった飛行機という2つの危機を絶妙に絡ませていて満足度の高い作品だった。欲を言えばしっかり作りすぎてB級感がちょっと足りない。もっと遊びがあっても良かったかな、と。でも次回作もすごく楽しみ。監督によると次は『スネーク・サブマリン』らしい(笑)

ちなみに私が見に行った劇場「有楽座」では、おもちゃのヘビが劇場内のあらゆるところに飾りつけされ、帰りにヘビのお持ち帰りOKだった。私は小さなヘビをバッグに入れて持ち帰ったのだが、そのことをすっかり忘れて後日バッグを開けてびっくりしたことは内緒だ(笑)
home