Movie Review 2005
◇Movie Index

アラキメンタリ('04アメリカ)-Mar 12.2005
[EXPLANATION]
アラーキーこと写真家・荒木経惟を1ヶ月に渡り追いかけたドキュメンタリー。また、北野武やビョークが荒木について語っている。
監督トラヴィス・クローゼ(『スパイダーマン』等の映画でカメラマンやロケーション・スタッフを担当)
−◇−◇−◇−
特に大ファンというわけではない。写真集も1冊も持ってないし。美術館の写真展を1度見に行ったくらいだ。映画『愛の新世界』は面白くて好きけど、人妻とかSMなどのエロ系写真ははっきり言ってどうでもよくて(最初はスゴイと思ったけど、同じようなポーズが多いから何枚か見ると飽きちゃう)東京の風景、人の顔だけの写真、秋桜子ちゃん、そして陽子さんの写真が好きなのだ。エロだけだと思ってたから、こういう写真も撮る人なんだと、そのギャップに感動しちゃったのかも(笑)普段のエロ親父なところはTVでよく見るので、それ以外の部分が映画でどの程度見られるのか興味があったのと、外国人から見てアラーキーがどう映ってるのかな?というのが知りたくなって、映画を見てみた。

2003年夏の1ヶ月間だけを追っているので、アラーキーの現場が人妻とSM系だけだったのがまず残念(スケジュールが決まってただろうからしょうがないけど)あと外国人が撮ったという雰囲気はあまり感じなかったな。アラーキーがクローゼたちを外国人として扱ってなかったせいかもしれないが。誰に対しても同じように、ちょっと早口でエネルギッシュに喋りまくるのね。エッチな冗談を飛ばして場を和まるし、見た目がまず笑っちゃう。“にゃらーきー”のTシャツを自分で着てるし(笑)ああいうのは普通自分じゃ着ないでしょうに。
早いのは喋りだけじゃなくて写真を撮るのも早いし、校正も早い。3冊の写真集の校正を喋りながら2時間でやってしまうというのに驚いた。撮ってる時からすでに写真集が頭の中にできあがってるんだろうね。だから350冊も出版できるのか。そんなところはお茶目な外見や喋りと違い、少し恐いと感じた。

亡くなった陽子さんの写真と、彼女のことを語るところはやっぱり良かった。映画の中でモデルさんが、陽子さんが亡くなる前にベッドで手を繋いでいる写真を見て泣いてしまったと言っていたけど、私も同じだ。丸くなって寝ている写真もいい。石のベンチの写真を指して石棺だといい、この新婚旅行からすでに死が始まっていたと語るアラーキーが印象深い。撮影当時は何気なく撮った写真だったろうに。陽子さんが亡くなった後に咲いたコブシの花の話や、飼っている猫の話などを聞いても、アラーキーにとって陽子さんが何よりも特別なんだと感じさせられる。
『センチメンタルな旅・冬の旅』は買っておこうかな・・・と思った。
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サイドウェイ('04アメリカ)-Mar 5.2005
[STORY]
教師のマイルス(ポール・ジアマッティ)は、2年前の離婚の痛手から立ち直れずにいた。そんな彼が1週間後に結婚する親友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)のために、ワイナリー巡りとゴルフ三昧の旅を企画する。しかしジャックはワインよりも独身最後にハメを外そうと女を口説いてばかり。そしてマイルスにもワイン通でバツイチのウェイトレス、マヤ(ヴァージニア・マドセン)を誘うようけしかける。
監督&脚本アレクサンダー・ペイン(『アバウト・シュミット』
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原作はレックス・ピケットの『SIDEWAYS』(翻訳本はないみたい?)監督とジム・テイラー(『アバウト・シュミット』もこのコンビ)が脚色し、第77回アカデミー賞の脚色賞を受賞した。他に作品賞・監督賞・助演男優賞(トーマス・ヘイデン・チャーチ)助演女優賞(ヴァージニア・マドセン)がノミネートされた。

前作は自覚のないダメ男の話だったが、本作は自覚しまくりのダメ男の話。私は前作のあの冷めた、突き放した演出に凄さを感じたので、本作は少々物足りなく感じてしまった。じんわりとするいい話なんだけども、見た後の印象はちょっと薄い。

とはいえ、マイルスのダメっぷりやイタさを、かなり意地悪く撮ってたりする。例えば、マイルスが自作小説の内容を語るシーンがあるんだけど、ちょっと聞いただけでも出版は無理だろうって分かっちゃう(笑)でも彼自身はかなり自信ありげに語っているわけ。前の奥さんとのことも想像通りの展開になるし。彼が落ち込み状態から浮上しそうになるとポン!と落としてしまう。ジャックのように(痛い目を見ることもあるが)要領よくやってきた人間との対比がまたおかしくて悲しい。でも不器用なマイルスがまた浮上できるよう、見守るように撮っている部分もあって、そこに優しさを感じる。『シュミット』の諦め感とは違うのね。主人公の年齢の違いだろうか。
ところで(ちょっとネタバレ)結婚式の後で元妻と会うシーンで、彼女を見た瞬間に「あ、このひと妊娠してる」って分かっちゃったんだけど(ここまで)あれは誰しも気づく演出だったんでしょうか。私カンがいいかも?!ってちょっと思っちゃったんだけど。イタイですか?(笑)

ワイン通と言いながら、乱暴な飲み方をするようなところがあって勿体無いと思ったり、ワインの知識が増えるような映画じゃないけど、ワインの飲み方やこだわりで彼らの性格が見えてくるところが面白かった。特にマヤはワインに詳しくなってから考え方が変わって、人生までが変わってしまった。彼女の言葉はすごく沁みた。マイルスへの優しい眼差しや、アプローチの仕方もすごく素敵で、早くも今年の“私が選ぶイイ女大賞”受賞かもしれません(って何の価値もないが)
ただ、彼女がなぜマイルスに好意を寄せるようになったのか?今回の旅の前のことは全く描かれないので、出会った時のことなどは分からないのだ。彼女のことだから、きっとマイルスの良さを他の人とは違った視点から見つけたに違いない。その最初の始まりが見たかったな。
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オペラ座の怪人('04アメリカ)-Mar 3.2005ヤバイ★
[STORY]
こちらへ。
監督&脚本ジョエル・シューマッカー(『フォーン・ブース』
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3回目。見るたびに上映時間が短く感じる。それだけ夢中で見てるってことなんだろうな。私は基本的に、同じ映画を何度も見るより新作を1本でも多くみるようにしてるんだけど、気に入るとホントに何度でも見てしまう。でも3回も映画館に行くのは『ロード・オブ・ザ・リング』1作目(以下『指輪』)以来。実はこの2作には共通点がある。それは字幕がオカシイということ。

私は英語が苦手だけど、明らかにおかしいと思ったのがマスカレードでファントムが登場し、クリスティーヌの指輪を通したチェーンを引き千切るシーンでのセリフ。
「私の贈り物!お前は私のもの!」
って字幕が出るんですね。ここで「は?」となりました。それファントムが送った指輪だったの?いや、違うな。ラウルより先に自分が指輪を送るつもりだったということかな?と勝手に解釈したんだけど、そう納得させているうちにファントムいなくなってるし(泣)
その後も何だかヘンと思うところがいくつかあって、ひょっとして『指輪』と同じ過ちを?同じ翻訳者だし。というわけでシナリオ本をAmazonで購入(また散財・・・いや歌詞も知りたかったからいいんだけど)

上の字幕の元の文章は “Your chains are still mine―you belong to me!” 私の拙い訳ですが「お前の鎖はまだ私に繋がれている―お前は私のものだ!」でしょうか。少なくとも「贈り物」とは言ってない。字数の問題もあるし「繋」という字は字幕で使えないかも?なので、もちろんこのままではなく「お前は私につながれてるのだ!」にして、後ろの「お前は私のものだ!」はカットでいいと思う(その後の3人同時に歌うシーンで訳しきれずにカットしてるところがあるしね)

他のヘンだと思ったところもやっぱり訳がおかしいと分かったし、ネット上でもやっぱり問題になっていて、なんと登場人物の性格まで歪められている部分があるんですね。私が気に入った作品がどうしていつもいつも・・・Curse you! あ、このセリフも『指輪』と『オペラ』の共通点だな(笑)

『指輪』にしても本作にしても、原作を愛してやまない人々が映画や舞台、アニメなど、さまざまな形を取って表現してきた。そしてセリフ1つ1つに深い意味をつけたり、いろんな解釈ができるよう工夫を凝らしている。だから見る人によって感じ方も違うし、視点が違ってくる。同じ人間が見たって初見と再見とで違う感想を持ったりする。そう、何度も見てしまうワケはこれなのさ!(笑)
だから翻訳する場合は親切ぶって余計な注釈は入れるべきじゃないし、ちょっとかり難くても元の文章をできる限りそのまま訳さないといけないと思う。そのセリフが後の展開の伏線になってるケースもあるのだから。それが難しいなら監修者をつけるべき。翻訳者もアレだけど配給会社もきちんとしてほしいよ。DVDで直ってるといいなあ。
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セルラー('04アメリカ)-Feb 16.2005
[STORY]
教師のジェシカ(キム・ベイシンガー)は息子を学校へ送り届けた後、自宅に押し入った男たちに誘拐される。そしてどこかの家の屋根裏部屋へ閉じ込め、部屋の電話を壊して出ていった。ジェシカは壊れた電話のワイヤーを接触させて通話可能にし、たまたま繋がったライアン(クリス・エバンス)という青年の携帯電話に助けを求める。ライアンは最初は冗談だと取り合わなかったが、ジェシカの真剣な願いに負け、彼女のために奔走する。
監督デヴィッド・R・エリス(『デッド・コースター』)
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原案は『フォーン・ブース』のラリー・コーエン。電話ボックスから出られない男の話を作った人が、携帯持って街じゅうを走り回る男の話を作ったのね(笑)

面白かった!『フォーン・ブース』より私は好きだ。95分という短い時間でこれだけハラハラドキドキさせられた映画は久しぶり。深い映画じゃないけど、繰り返し見ても飽きないだろう。DVD買って何度も見るというよりは、テレビ放映されるたびについ見てしまうという感じなのだが(それって褒めてるのか?)

電話というものをとても上手に使っている。携帯が途中で充電切れになったり、うるさい音楽が電話越しに聞こえてしまって犯人にバレそうになるお約束のネタ(笑)あり、携帯ショップってアメリカでもすごい混雑してるんだと感心してみたり。またライアンの窮地を救うのも携帯だし、証拠も携帯に、そして最後のセリフも電話と絡めててニヤリとさせられる。

でもやっぱり主役は電話じゃない。誘拐されたジェシカ、電話を受けたライアン、そして事件に気づいた退官間近の警官ムーニーの3人が、どんどん大胆な行動を取り始めるところが一番の見どころかもしれない。ジェシカは終始泣き顔でボロボロなのに、時に機転を利かせたりすごい力を発揮する。お母さんは強い。お調子者だったライアンはいつのまにか本気でジェシカを救おうとし、好きな女の子を巻き込まないよう突き放す。シビれたよ兄さん。そしてムーニーも警官としての職務に目覚めていく。この人のアクションがおかしいやらカッコイイやら――ウィリアム・H・メイシー最高!

よく考えればツッコミ所も多い。簡単なところで、あの電話で犯人との会話がしっかり聞こえるかよ〜(笑)とか、いくら切羽詰まってるからって関係ない車を衝突させたりしちゃダメでしょ(笑)とか(これは『スピード』を見た時も思った)まぁこれらは笑って済ませられるからいいけど、ストーリーについては説明不足なところが気になる。
(ここからネタバレ)夫は目撃した時点でどうしてすぐに通報しなかったんだろう?地元の警察だから揉み消されると思った?マスコミにタレ込んでも良かったのでは?誘拐されたのは目撃してからどれくらい経ってるんだろう?ジェシカが誘拐された時、夫は何をしていたの?3人で遠くへ逃げる準備をしてた?(ここまで)
うーん、ひょっとして途中で設定を変えてしまったんだろうか。それまでのこともスピーディかつ上手に説明できていたら文句ナシだったな。惜しい!

最後に気づいたこと。息子リッキー(苗字がマーティン)のデイパックが『ロード・オブ・ザ・リング』のだった。ニューラインシネマのお遊び(笑)あとライアンの右腕に“氏”っていうタトゥーが彫ってあったんだけど、あれなに?(笑)
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ビヨンドtheシー〜夢見るように歌えば('04アメリカ)-Feb 26.2005
[STORY]
心臓病で15歳までしか生きられないと宣告された少年が、母ポリー(ブレンダ・ブレッシン)の影響で音楽に目覚め、ボビー・ダーリン(ケヴィン・スペイシー)として歌手デビューし、人気を得る。そして映画撮影中に出会った16歳の女優サンドラ・ディー(ケイト・ボスワース)に恋をし、結婚する。2人の間には息子も誕生し、最高級クラブでのステージを成功させ、オスカーノミネートを果たすなど順調にみえたが、次第に家族とうまくいかなくなっていく。
監督&脚本もケヴィン・スペイシー(『アルビノ・アリゲーター』
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1950〜1960年代の大スター、ボビー・ダーリンの生涯を描いた作品。スペイシーの母親がボビー・ダーリンのファンで、本作も母親に捧げられている。スペイシーは本作で吹替なしですべて歌っていて、コンサートツアーまで行った。

ボビー・ダーリンについては全然知りませんでした。自分が生まれる前に活躍してた人だし(でもシナトラは知ってるのよね)歌も聞いてみて初めて「聞いたことがある」という程度。だから最初は私がこれ見ていいのかなーなんてためらったんだけど、製作・監督・主演、そして歌やダンスまでスペイシーが披露している渾身の作品だからやっぱり見なくては、というわけで見てみた。ボビー・ダーリンについては映画と実際とで違う部分もあるだろうと予想してたので、予習もしなかった。見終わってからbobbydarin.netで写真チェックしてみたけど、スペイシーとものすごく似てる写真があってビックリ。ヅラはもう少し足しても良かったのに(おいおい)あと映画ではサンドラ1人だけがクローズアップされていたけど、他にもいろんな女性と付き合ったり噂になったり、再婚までしてたのね。

映画はすでにスターとなっているボビーが、少年時代のボビーから茶々を入れられたり本心を語らせたりするという伝記的映画としては変化球なんだけど、『ライフ・イズ・コメディ!』『五線譜のラブレター』と最近立て続けに変化球ばっかり見せられたので、正直「またか」と思ってしまった。でも実際の彼の生涯とは違う部分を描くとなると、変化球にしたほうが観客がフィクションも含まれていると理解しやすいのかもしれない。

スペイシーは過去の作品でも歌を披露していたけど、今回改めて聞いてみてやっぱり上手くて、才能のある人って本当に何でも出来るんだなぁと感動してしまった。ただダンスシーンは正視できないっつうか、見ててムズ痒くなってしまったのは何故だろう?ちゃんと踊れてるんだけど、今まで自分が見てきたスペイシーと違うからかな?
ドラマ部分では、ボビーが復活してラスベガスのステージに立ったシーンで泣いてしまったが、(ここからネタバレ)ニーナが実の母であるという事は、もう少し前から匂わせていて欲しかったな。言いたいけど言えないニーナのもどかしさを私は見たかった。ボビーが、ポリーとサンドラにだけ感謝するシーンは後のラスベガスの伏線になってるとはいえ、それまでニーナのことをほとんど描かなかったせいか(むしろ義兄のチャーリーのほうが出番が多い)唐突な感じがしたし、ニーナがボビーに真実を言う場面では、ニーナがわざと感情を押し殺して喋ってるんだろうなぁと感じたが、そこが胸に迫ってくるものではなく、期待ハズレのシーンだった。やりすぎると臭くなってしまうので難しいところなんだが。(ここまで)

また監督作品は見たい。出演せずに製作・脚本・監督でもいい。いつか監督や脚本の部門でスペイシーがオスカーを受賞するというのが、私の密かな夢です(笑)
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