Movie Review 2003
◇Movie Index

キスはご自由に('01フランス)-Jun 18.2003─フランス映画祭横浜2003
[STORY]
不動産業を営むベルトラン(ジャック・デュトロン)と妻のエリザベート(シャーロット・ランプリング)は高級リゾート地でのヴァカンスを予定していたが、ベルトランが仕事で行けなくなり、エリザベートは子持ちのジュリー(クロチルド・クロー)を誘って出かける。一方、隣に住むジェロームとヴェロニク(カリン・ヴィアール)夫妻もまた同じ地へと向かうが、お金のない彼らはホテルに泊まることができずにトレーラーハウスに泊まるしかなかった・・・。
監督&脚本&出演ミシェル・ブラン(『他人のそら似』)
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フランス映画祭横浜2003上映作品。日本での公開はまだ未定。
原作はイギリスの小説で、ブランがこれをフランスに置き換えて脚本化した。ヴェロニク役のカリン・ヴィアールが2003年度セザール賞助演女優賞を受賞。ジェローム役のドゥニ・ポダリデスが助演男優賞候補に、2人の息子ロイック役を演じたガスパール・ウリエルが新人男優賞候補になった。

ベルトランとエリザベード夫妻を取り巻く人々の群像劇。夫妻の一人娘(顔つきがマトモになってきたルー・ドワイヨン)がベルトランの部下と旅行に出かけていたり、ジュリーとベルトランが元恋人同士だったり、そのベルトランは現在、ある人物と不倫(?)関係だったり、と人間関係は少々複雑だ。さらにこの中に、ミシェル・ブランとキャロル・ブーケが演じる夫婦、女性と見ればすぐに声を掛けまくるヴァンサン・エルバスまで登場する。この豪華出演者たちの見せ場をそれぞれ作りバランスよく生かしてて感心させられる。エピソードの挿入の仕方やカットの仕方もテンポよくて飽きない。

が、フランス映画らしい、そこかしこでイチャイチャしてるか喧嘩してるかの極端さを見せ付けられるので(笑)少々うんざりさせられる。まぁこれは好みだからなぁ。私はドタバタもオチがついてればいいけど、おざなりでフェードアウトするのが一番つらい。ブラン&ブーケ夫妻とエルバスにはちゃんとオチがついていたし、彼らのシーンは途中も面白かったので文句はない。でもあとはちょっと中途半端だったな。私はてっきり(ここからネタバレ)ベルトランの部下が残したビデオテープを、ベルトランが見ちゃって大騒ぎになるシーンがあると思ってたのに。(ここまで)あれはあのままですか。貧乏夫婦のラストも納得がいかない。フォローがあって欲しかったよ。監督はラストを自分で創作したというが、もう少し練る必要があったのでは?(なんて偉そうなことを言ってみる)
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二重スパイ('03韓国)-Jun 7.2003
[STORY]
1980年。東ドイツ・ベルリンにある北朝鮮大使館から必死に逃げ、西側に辿り着いた1人の男イム・ビョンホ(ハン・ソッキュ)。彼はそのまま韓国の国家安全企画部へと送られ、厳しい拷問の末に亡命が認められた。そして韓国の武装スパイ訓練教官となり、信頼を勝ち得ていく。しかし彼は北朝鮮が送り込んだスパイであった・・・。
監督&脚本キム・ヒョンジョン(長編初監督)
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本国で大ヒットしたという『友へ チング』がワタシ的にハズレだったので、それからあまり信用できなくなり韓国映画から遠ざかっていたが、本作は(本国ではたった2週で打ち切りという話に心配しながらも)私の好きな条件を満たした映画っぽかったので見に行くことにした。
その条件とは、
  1.ハン・ソッキュが出ている(『八月のクリスマス』 『シュリ』
  2.南北問題を扱っている(『シュリ』 『JSA』
  3.拷問シーンがある(『ペパーミント・キャンディー』)←ってこれはまぁ冗談っす
というわけで、期待と不安半分半分で見たわけですが・・・やっちゃった。やっぱりやっちゃった。冗談のつもりで書いた拷問シーンしか印象に残ってない〜(泣)

全体的に緊張感がないのよ。脚本に書いてあることをただ撮影してるって感じで、いくら役者が焦りや悲しみの演技を披露してもそれが伝わらず、遠いというか距離感がある。迫力ある拷問シーンだけはよく撮れてるんですけどね(苦笑)

ストーリーも拷問シーン以外は甘め。リアルにしすぎると色々問題が出てくるからかもしれないが、スパイ活動の詳細が曖昧で分かりにくく(最終的にはどういうルートで北に伝えていたわけ?)それがかえってスパイに関するシーンに興味をなくしてしまった。かといって、ビョンホと女スパイ・スミとの関係にもさほど惹かれず。最後まで2人が惹かれあっているように見えなかったんだよね。申し訳ないが(ネタバレ)南米高飛び後のシーン。ビョンホが無精髭の漁師、スミが身重ってコテコテじゃないのよ。(ここまで)コントっぽくて思わず笑ってしまった。せめて(ネタバレ)ビョンホを殺した男がそのままスミの待つ家まで行き、ベランダで黄昏れるスミを撃って彼女が転落(ここまで)まで描いてくれたら・・・って鬼ですか。そうですか。でもあれだけ拷問シーンを描けたんだからそれくらい(ってやっぱり拷問で締めかよっ)
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NARC ナーク('02アメリカ)-Jun 6.2003
[STORY]
デトロイト警察の麻薬潜入捜査官ニック・テリス(ジェイソン・パトリック)は、誤って一般市民を撃ち、停職処分となっていた。18ヶ月後、彼は麻薬捜査官マイケル・カルベス殺害事件を担当すれば停職を解くと言われ、しぶしぶ承諾する。事件を調べるうち、カルベスと組んでいたオーク警部補(レイ・リオッタ)が捜査から外されていることを知る。テリスはオークと共にカルベスが殺されるまでの足取りを追うことに・・・。
監督&脚本ジョー・カーナハン(『ブラッド・ガンツ』)
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製作総指揮はトム・クルーズ。カーナハンの才能に惚れこみ、彼を『M:I-3』の監督抜擢した(とかいう話もありましたが最終的にはJ・J・エイブラムスになりました)そしてリオッタもまた脚本に惚れこんでプロデューサーを兼任したという。
NARCとはアメリカのスラングで、麻薬捜査官や密告者という意味があるという。

そんな宣伝に惹かれて見に行ったんだけど・・・・うーん、どうなのかなぁ。オープニングの渇いた映像と、直後の衝撃的なシーンに目を奪われたけど、その後は淡々と進んでいくので眠気に襲われた。派手なシーンがないからというわけじゃない。どちらかというとストーリーで惹きつける作品のほうが好きだしね。そのストーリーにあまり惹かれなかったのだ。なんか先が見えちゃって。っていうかほぼ想像通りだった。登場人物が少ないので、当然そういうことだろうと思ってたらやっぱり、という感じ。中盤で一度、観客も騙されるくらいのミスリードさせる展開でもあれば良かったのに。ちょっと弱かったな。

でも麻薬捜査官の苦悩や家族への思いをストレートに表現しているし、重苦しい雰囲気もちゃんと出ている。予算が少ないなりに頑張った!っていう労いの言葉を掛けてあげたいくなるほど(ってそういう誉め方はいけないかもしれないが)次回作で、人材もお金もきちんと使えるようになってさてどうか?ですね。トム君にいいように使われなきゃいいけど(笑)←笑えない

パトリックもリオッタも前に見た時より激しく別人になっていてビックリした。パトリックなんてただのオッサンじゃない。リオッタは役作りなんだろうなぁって思ったけど、パトリックは絶対にナチュラルにオッサン化したね!この映画ではリアルで良かったけど、次、大丈夫?
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六月の蛇('02日本)-Jun 6.2003
[STORY]
電話相談室に勤める辰巳りん子(黒沢あすか)は、夫の重彦(神足裕司)との2人暮らし。酒も飲まない真面目な夫だったが潔癖症で、2人の仲は冷え切っていた。そんなある時、自殺したいと電話してきたカメラマン飴口(塚本晋也)をりん子は励ました。そこから飴口のストーカー行為が始まった。自宅には彼女を盗み撮りした写真が届き、ネガを返してほしければ自分の言う通りにするよう脅迫してきた。
監督&脚本も塚本晋也(『双生児』)
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第59回ベネチア国際映画祭審査員特別大賞受賞。

心も身体もすれ違いの夫婦が、一人の男の出現によって愛を取り戻すファンタジー──という感想を持った。実は塚本さんが監督する映画を見るのは初めて。だから塚本フリークから見た感想とは全然違うかも。

作家性の強い映画作品を見る時って、つい過去の作品と照らし合わせたり、シーンに込められた意図を探すクセがついてしまっている。んで、「この監督の作品はこう見るべき」とか「このシーンの意図を理解できないヤツは素人」みたいなことを言っちゃうわけよ(笑)いや、笑えないか。そんな風に素直に映画が見れなくなってるんだけど、今回は初めての塚本作品ということで、裏読みせずに素直に見てみようと試みた。

一歩間違えると下世話な映画になりそうなところを、映像の色とアテレコのせいか、人物も風景もCGのようで現実から距離を置いた作品にみえた。濁ったブルーに仕上げたかったという映像は前半は重たく、クライマックスでは弾けるような白が眩しく、ラストは淡い綺麗な色へ。同じなんだろうけど映像の色まで違って見えたりして。また、ところどころ「なんだこれはっ?!」なシーンにのけぞったり。ここらへんは読解不能。飴口って何者なの?!ビックリした。
で、見終わって真っ先に浮かんだ言葉がファンタジーだった。1組の夫婦が、蛇男に誘いにのって体験したことのない冒険の旅に出て(読解不能部分は不思議な世界に迷い込んだという解釈で)身も心も解放されるファンタジーストーリー。・・・やっぱり違いますかね。

塚本さんはやっぱ演技上手いわ。声とセリフ回しに痺れた。「コンクリ相手じゃあんまりだろ」とか「まだ切ってなかったのかよ」とか、特に語尾のキレと響きがいいんだなぁ。
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アバウト・シュミット('02アメリカ)-Jun 1.2003オススメ★
[STORY]
ウォーレン・シュミット(ジャック・ニコルソン)は66歳で定年退職を迎えた。会社人生を歩んできた彼にとって暇を持て余すことは何より辛かったが、訪ねてみた会社ではすでに居場所がなく、家ではマイペースな妻にイライラするばかり。そんな時、妻が急死してしまった。一人ぼっちになったシュミットは、ロクでもない男と婚約した一人娘ジーニーの結婚式を阻止すべく、キャンピングカーでデンバーへ向かった。
監督&脚本アレクサンダー・ペイン(『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』)
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第75回アカデミー賞主演男優賞(ニコルソン)、助演女優賞(キャシー・ベイツ)ノミネート。

なんというか、とってもイタイお話でした。シュミットという初老の男性の、痛々しい部分丸出しの映画だった。CMや予告を見ると普通に感動する映画かと思うんだけど、実にひねくれてました(褒め言葉)全く癒されやしない、逆にちょっと落ち込む、そんないい映画でした(笑)ところどころ、うっ・・・と泣きそうになるんだけど、その直後にすごいオチを持ってくるので素直に泣かせてくれない。ものすごく上手くて、泣くのを忘れて感心するばかりだった。

このシュミットという人は、とても自分勝手な人だ。アフリカの恵まれない子供への手紙には自分の不満や愚痴ばかりを書き、子供へのいたわりの言葉など1つもない。また、妻が亡くなる直前、彼は妻から「寄り道しないでね」と言われたにもかかわらず寄り道をし、帰ってきたら妻が倒れていた。もし彼が寄り道しないで帰っていたら妻は助かったかもしれない。普通の人なら寄り道した自分を責めるだろう。でも彼はしない。というより寄り道したことすら忘れてそうだ。娘に対してだって、今まではたまに電話で話す程度だったのに、急に結婚が許せなくなり娘のところへ乗り込んで行ってしまう。ホントに身勝手だ。今までもきっとそういう人だったんだと思う。でも奥さんがうまく彼を舵取りし、仕事がブレーキとなっていたんだろう。その2つを失って、彼は暴走を始めるのだ、キャンピングカーで(笑)

そこからロードムービーのようになるんだけど、結局彼は何も得るものもなく学んだこともなく、ただ自宅に戻ってくる。これが若い人だったら何かを得たかもしれない。でも彼は既に凝り固まった66歳の男だ。唯一、彼が得たものがあるが、これで彼は前に進めるだろうか?いや、きっとやっぱり変わらないだろう。いつか彼が得たものを破り捨てる日が来るのではないかと私は思う。
・・・なんか書いててイヤになってきちゃったな(苦笑)私ですら落ち込んだんだから、これが50代、60代の男性が見たら恐怖映画になってしまうのではないだろうか。
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