Movie Review 2007
◇Movie Index

バベル('06アメリカ)-May 4.2007
[STORY]
モロッコを旅するアメリカ人リチャード(ブラッド・ピット)の妻スーザン(ケイト・ブランシェット)が、バスで走行中に銃で撃たれてしまう。その銃の所有者が日本人会社員ヤスジロー(役所広司)のものと分かり警察が動き出す。ヤスジローの妻は最近自殺し、聾唖の娘チエコ(菊地凛子)は孤独に耐え切れずにいた。
一方、リチャードの子供たちのメキシコ人シッターのアメリア(アドリアナ・バラッザ)は、息子の結婚式があるのに子供たちの面倒をみなければならず困っていた。そこで甥のサンチャゴ(ガエル・ガルシア・ベルナル)に頼み、子供たちを連れてメキシコへ向かうが・・・。
監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(『21グラム』
−◇−◇−◇−
『旧約聖書』の創世記に出てくる“バベルの塔”をモチーフに描いた作品。モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本が舞台になっている。第79回アカデミー賞で作品賞、助演女優賞(アドリアナ・バラッザと菊地凛子)、監督賞、脚本賞、編集賞がノミネートし、作曲賞(グスターボ・サンタオラヤ)を受賞を受賞した。

もっとスケールの大きな作品だと思ってたらそうでもなかった。これはこれで悪くはないけど『バベル』っていうタイトルに期待をかけすぎたかな。見る前まではアカデミー賞を取るのはこれだ!と予想してたけど、見ていたら選ばなかったかも(とは言っても他に「これだ!」という作品もなかったわけだが)

自分が日本人だからか、日本パートはつい「外国人から見た日本ってこういう印象なんだ〜」という目で見てしまって素直に映画の中に入っていけなかったし、パンツ脱いで股を広げたところを男に見せたり全裸になったりする女子高生というのにどうしても違和感が・・・(しかも老けた女子高生が。さらにそんな彼女に「君はまだ子供だ」というシーンがあって、思わず吹きそうになった)

  でもパベルの塔のような高層マンションに住む人間の孤独を描きたかったということなら、日本を舞台にしたのも頷ける。裕福でも家族2人きりで、そのたった1人の肉親とも気持ちが通じ合えない。仲間と遊んでも孤独は埋められない。気分が悪くなる人続出だったクラブでのシーンだが、あの光の中で踊る人々は血の通った人間ではなく人工物にしか見えなかった。

それとは対照的にメキシコでは人々が太陽の下で踊る。親戚や友人が大勢集まってみんなで結婚式を楽しむ。監督がメキシコ人だからか、私はメキシコのパートが一番自然でよかったと思うし、バラッザの演技も本作中で一番印象に残る(今までの監督作品でも『アモーレス・ペロス』が一番いい)テーマ性のある映画だからしょうがないけど、他のパートはちょっと不自然に感じるシーンが多くて気になったので。

日本人がモロッコ人ガイドに気安くライフルをプレゼントしたことから、大きな事件が2つも起きてしまう。悪意のないちょっとした過ちや誤解が大きな事件へと発展することは現実でも多々ある。それを解決するにはまず自分と向き合い、そして大事な人と向き合い心を通わせること。それは日本人でもアメリカ人でも同じ、全世界共通のこと――。というわけなんだが、そこで映画が終わってしまったのが残念。偉そうなことを書くけど、そこまでなら誰でも思いつくと思うんだよね。そこからもう一歩先まで描いて、見てるこっちに何か気づかせてくれたり提示してくれたら心に残る作品になっただろう。
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明日、君がいない('06オーストラリア)-May 4.2007スゴイ★
[STORY]
オーストラリアのとある高校。親の期待を一心に受けることがプレッシャーになっているマーカス(フランク・スウィート)と、兄と違って親に疎まれていると感じている妹メロディ(テレサ・パルマー)、スポーツ万能で女の子にモテるが秘密を抱えるルーク(サム・ハリス)と、卒業したらすぐにルークと結婚したい恋人サラ(マルニ・スパイレイン)、足が悪いスティーヴン(チャールズ・ベアード)と、ゲイであることをカミングアウトしたショーン(ジョエル・マッケンジー)は学校でいつもからかわれている。やがて午後2時37分、校舎の片隅で手首を切った者がいた――。
監督&脚本ムラーリ・K・タルリ(初監督作)
−◇−◇−◇−
監督のムラーリ・K・タルリは友人を自殺で失い、その半年後に自らも自殺未遂をしたという体験を元に、19歳で本作の製作に着手。2年をかけて作品を完成させた。
2006年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作品。第19回東京国際映画祭では原題の『2:37』のタイトルでコンペティション部門に出品された。

コロンバイン高校で起きた銃乱射事件をテーマにした作品『エレファント』に似ているということで興味を持ち見てみた。確かに学校内の生徒たちの動きを追いかける映像が『エレファント』に似ていた。しかし本作はその映像だけでなく、メインの生徒たちのインタビューが挿入され、彼らが何を考えているのか、どういう気持ちでいるのかを喋らせるのである。私は最初どうしてこんなシーンを入れるんだろう?彼らの口から説明させないと表現できないの?稚拙だなあ〜なんてエラそうに思っていたのである。

だがしかし!ある生徒の自殺後、インタビューを入れた意図が分かった。ネタバレ気味だが、インタビューを受ける生徒たちもそれぞれ深い悩みを持っているのだけど、みな自分のことばかりで他人のことには鈍感なのである。だからその生徒の自殺のことを聞いても「それしか言うことないの?」というくらいそっけない。自殺した子と友人だった子だっていたのに。中には死という楽な道を選んだことを羨むような発言すらある(確かにそれを言った子はつらい状況なのだが)そして自殺した生徒の、自殺の理由は明らかにならない。それは本人しか分からないこと。これも伝えたかったのだろう。自殺についてあらゆる方向から描くために、このような手法を取っていたわけだ。エラそうに思ったことを撤回。ごめんなさい。

上でそっけないと書いたけど、友達でも知り合いでもなければもっとヒドいですよ。この中の誰が自殺するんだろう?とミステリ映画でも見ているように、誰かが自殺するのを待ち続ける。そう、この映画を見ている自分がそうでした。観客がそういう目でこの映画を見ることも意図してのことなんだろう。見終わった後、それに気がついて怖くなりました。
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ラブソングができるまで('07アメリカ)-Apr 22.2007
[STORY]
1980年代の大人気バンド“PoP”のメンバーだったアレックス(ヒュー・グラント)。現在は遊園地や同窓会でソロライブを行い、かつての若い女性から嬌声を浴びる存在だった。そんな彼にまたとないチャンスが舞い込む。それは今若者に人気のシンガーから新曲を提供して欲しいという依頼だった。アレックスは早速曲を作り始めるが、作詞がうまくいかない。そんな時、観葉植物の手入れにやってきたソフィー(ドリュー・バリモア)の口ずさむ歌詞を聞いて、アレックスは一緒に曲を作ろうと誘う。
監督&脚本マーク・ローレンス(『トゥー・ウィークス・ノーティス』)
−◇−◇−◇−
グラントが『トゥー・ウィークス〜』の監督と再び組み、80年代アイドルを演じた作品。劇中の歌はファウンテインズ・オブ・ウェインのベーシスト、アダム・シュレシンジャーが手がけている。

グラント演じるアレックスのキャラクター設定がとにかく良かった。冒頭でいきなり彼が人気絶頂だった頃のPVが流れるんだけど、これが最高に面白い。こんなアホみたいなPV、昔よくあったよね〜懐かしいなぁと、この時代を知ってる世代には特に楽しく見れられると思う。この映像だけでも見る価値はある。っつーか、肝心の内容はワタシ的にはイマイチだったんだけど、それについてはまた後で。

現在のアレックスの状況や、たまに入ってくる遊園地イベントの仕事などを見ていて、どうしてもトシちゃんが頭にチラついてしょうがなかった(笑)当時からの熱狂的なファンがいまだにたくさんいるところとか、昔踊ってたダンスを今でもしつこく踊る姿もカブる・・・なんて思っていたら劇中で“「PoPはビートルズよりビッグ」と発言し”という字幕が出て、思わず飲んでたコーヒーを吹きそうになりました。カブりすぎだ!(笑)

で、イマイチだったところなんだけど、ソフィーの設定が大雑把というか、はっきりしてないのがまず気になった。いきなり植物の世話係代理でーすと現れたのはいいんだけど、なぜ代理になったのか分からない。前の子と友達なのか?それにしてはその子は全く出てこない。他の家の植物を世話している気配もなく、普段は姉の手伝いをしているだけのフリーターなのか?職業も謎。それに歌詞のセンスがあると褒められていたけど、私にはどこがいいのかさっぱり分からなかった(致命的)元恋人ケイツ(キャンベル・スコット)へのトラウマの克服もちゃんとなされぬまま終わってしまったのも気持ちが悪い。演じていたのがドリュちゃんじゃなかったら、もっとヒドイ女になっていたかもしれない。

ソフィーの姉ロンダ(クリステン・ジョンストン)、そして現在人気絶頂の歌手コーラ(ヘイリー・ベネット)と、他の女性キャラクターは最高だったので、女が描けないというわけではなさそうなのだが・・・確かにアレックスと出会って恋に落ちてという設定を考えると、ソフィーを動かすのって難しいかもね。ハッ!つい脚本家の気分になってしまったわ(笑)
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クィーン('06イギリス=フランス)-Apr 14.2007ヨイ★
[STORY]
1997年5月、イギリス総選挙でトニー・ブレア(マイケル・シーン)が首相となり、女王エリザベス2世(ヘレン・ミレン)に挨拶する。同年8月、パリでダイアナと恋人アルファイドが交通事故に遭い亡くなった。ロンドンから遠く離れたバルモラル城にいた女王はすでに民間人となっていたダイアナは王室とは関係がないと、コメントも出さず葬儀はスペンサー家の意向である内輪の葬儀で済ませるとブレアに伝える。国民の声を気にしたブレアは自ら声明を発表し、それが国民の心を捉え、彼の人気は急上昇していく。そしてダイアナの死を無視し続ける女王に非難が向けられていった。
監督スティーヴン・フリアーズ(『ヘンダーソン夫人の贈り物』
−◇−◇−◇−
ダイアナ元皇太子妃の事故死から7日間のエリザベス女王とブレア首相を描いたもので、王室や首相に近い人物たちから話を聞き、かなり正確に再現できたシーンもあるという。ヘレン・ミレンはこれまでにエリザベス1世を演じたこともあり、本作の2世とともに高い評価を受けている。ブレアを演じたマイケル・シーンは2003年のテレビドラマ『THE DEAL』でもブレアを演じている(このドラマの監督がフリアーズで脚本も本作と同じピーター・モーガン)
第79回アカデミー賞に6部門でノミネートされ、主演女優賞(ヘレン・ミレン)を受賞した。

もともと王室のゴシップを目にするのが好きじゃなく、伝統を守り王族としての務めを果たしていればそれでOKという考えの私としては、離婚もダイアナの事故も驚いたし残念だとは思っていたけど、当時の報道をさほど真剣には見ていなかったし、今でも陰謀云々は何だかなぁと思っている。

この映画もヘレン・ミレンのあまりのソックリさに興味が湧いて見てみたわけだけど、人々が献花するシーンはよく覚えているが、女王がこんなにも叩かれていたとは。私は女王の考えが正しいと思ったけどイギリスの国民は(というかマスコミか)それを許さなかったんだなぁ。結局、女王はブレアの説得により国民の望みに応じるわけだが、途中の葛藤がぐいぐい伝わってきて見てるこっちも苦しくなってしまった。20代半ばで即位してから今日までずっと公人として生きてきた誇り高き女王ですよ。それを上っ面で批判するとは。百年生きてから言え!っつうんだ。

無視しても弔っても批判される女王がお気の毒で、女王を冷たい人だと評する人々にムカムカしていたが、女王の立場と心情を理解している人間がそこでビシッと言い放った言葉がとても良かった。まさに私もそれが言いたかった!(笑)感激してウルウルしちゃった。こんな風に思ってた人は当時どれくらいいたんだろうね。ただ、その理解者がブレアだったというのが出来過ぎな気もするんだけど(笑)ホントかねえ。

この映画のすべてが本当だと信じてはいないが、フィクションとしても見ごたえのある作品だった。そしてやっぱりヘレン・ミレンが素晴らしかった。歩き方も独特で、ずいぶん研究したんだろうね。時々出てくる本物のダイアナ映像が邪魔に思ったほどで(そのたびに我に返ってしまったので)この映画の中の王室のほうにすっかり馴染んでしまったようだ(笑)
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ブリック/Brick('05アメリカ)-Apr 14.2007
[STORY]
南カリフォルニア郊外サンクレメンテ高校。そこの生徒だったエミリー(エミリー・デ・レイヴィン)が何者かに殺された。死体を発見したのは2ヶ月前まで彼女と付き合っていたブレンダン(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)だった――。
事件の2日前、ブレンダンは何者かに呼び出されその場所に行くと公衆電話のベルが鳴った。相手はエミリーで、悲痛な声で彼にヘマをしたと訴えてきた。そして「ブリック」という謎の言葉を残し電話が切れる。彼女に何があったのか?ブレンダンは親友ブレイン(マット・オリアリー)にエミリーの周辺を探るよう依頼し、自らもエミリーの交友関係を調べはじめる。
監督&脚本ライアン・ジョンソン(長編初監督)
−◇−◇−◇−
2005年のサンダンス映画祭で審査員特別賞“オリジナリティ・オブ・ヴィジョン”受賞。
タイトルの“ブリック”とは、レンガという意味や、1キロのコカインという意味、くたばれ!という意味がある。

謎の言葉を残して消えた元恋人を、助手の力を借りながら追いかける探偵。彼女は危険な組織と関わりがあり、探偵はそこに近づくために何度も痛い目に遭う。それでも諦めない探偵のタフさに惹かれる組織の美女――。
これだけ読むと50年代の探偵小説みたいだけど、実は現代の高校という設定。しかもその探偵というのが、メガネをかけてヒョロリとした引きこもりっぽい男の子。けれど頭は切れるしケンカも上手い。彼の助手となるブレインもまたオタクっぽいメガネっ子なのだが、おそろしく有能できっちり仕事をこなす。伝言を受ける場所が行きつけの酒場でなく高校のロッカーだったり、親の携帯を借りて連絡を取り合うところなどは高校生らしさがある。だけど事件は完全にマフィアの世界。だんだん高校生ということを忘れてしまった・・・というか、こんなヘビーな事件なら別に設定が高校じゃなくてもよくない?(笑)アメリカの高校ってこんなもんなの?もっと高校内がたくさん出てくる事件が見たかったな。

とはいえ見てる間は飽きるどころか夢中で見てしまった。面白い撮り方をするシーンがたくさんあり、特に死体を見つけるシーンと、ブライアンが男に追いかけられるシーンが印象的。殴られるシーンの効果音がめちゃくちゃ痛そうで良い(いいのかよ)ただバックに流れる音楽がところどころ合わなくて(わざとかもしれないけど)気持ちの悪さが残った。

この事件の前にもブライアンは探偵のようなことをしていたようで、それも映画で見てみたくなったし、“裏ブリック”としてブレインが仕事をしている様子も見てみたくなった。それにしても彼は何故ここまでよく働くの?ブライアンからちゃんと報酬もらったかなぁ(笑)
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