Movie Review 2006
◇Movie Index

鉄コン筋クリート('06日本)-Dec 27.2006
[STORY]
昔の面影を残した宝町で、カツアゲやスリをしながら生きているの2人の少年、クロ(声:二宮和也)とシロ(声:蒼井優)。2人は“ネコ”と呼ばれ、いつも一緒に行動をともにしていた。そんなある日、昔なじみのヤクザ鈴木(声:田中泯)が宝町に戻ってきた。彼らはこの町にレジャーランドを建設するため、地上げや暴力で町を制圧していく。クロとシロは自分たちの町を守ろうと抵抗を始めるが・・・。
監督マイケル・アリアス(『アニマトリックス』を製作)
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原作は松本大洋の同名マンガ。アニメーション製作はスタジオ4℃。ニューヨーク近代美術館(MOMA)が発行している発刊誌『ARTFORUM』の2006年ベストフィルムに選ばれた。

興味はあったけど原作未読だったので見るのを迷ってたんだけど、銀座シネマカードのシールがいっぱいになり1本無料で見られることになったため(該当劇場で他に見たいものもなく・・・)この映画を見ることにした。
で、やっぱり原作を読んでないとちょっとキツイかな、という映画だった。映像は面白い。セル画とCGがうまくミックスされていて、電車や車が走るシーンや単にドアが開くところだけでも見てて楽しい。平面的なのにところどころで立体感があるのが飛び出す絵本みたいな感じで、次はどこが飛び出すのかワクワクしながら見た。

アサ・ヨル兄弟とか蛇とか、唐突に出てくるキャラクターには戸惑ったけど、ストーリーは王道だと思った。正直言って私の好みの話ではなく、クロが宝町を「俺の町だ!」と暴れ回る傲慢さにムカつくけど(笑)シロの可愛らしさでバランスを取っているような。クロ以上に凶暴なところもあるけど普段のシロは守ってやりたくなる。不感症を公言する刑事の沢田がシロに対しては父性愛が芽生えたかのような表情を見せていくのが印象的だった。

クライマックスでの、クロの葛藤を描くシーンは展開としては違和感なく受け入れられるんだけど、描写が長くて飽きてしまった。長くても面白い画ならいいんだけど、つまらないのでその画が表現するものは何か?を考える気も起こらなくなり、ラストはボーッと眺めてるだけになってしまった。というか結末ってどんなんだったっけ?(笑)

声は蒼井優ちゃんの上手さにビックリ。ちょっとクレヨンしんちゃんっぽい部分があったけど、シロの顔や仕草にぴったりだった。逆に伊勢谷友介はダメ。この人はもともと顔はいいけど喋ると・・・という人なのに、なぜ声優をやらせる?何を喋ってるのか分からない箇所も多くてイライラした。声質は木村役に合ってたんだけどね・・・。
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ヘンダーソン夫人の贈り物('05イギリス)-Dec 23.2006ヨイ★
[STORY]
第二次世界大戦前夜に夫にを亡く莫大な遺産を相続したローラ・ヘンダーソン(ジュディ・デンチ)は、ロンドンにある閉鎖中の劇場“ウィンドミル”を買い取った。支配人としてヴィヴィアン・ヴァンダム(ボブ・ホスキンス)を雇い、彼が提案したミュージカルで大盛況になる。しかし他の劇場が真似をするようになり、あっという間に劇場は危機を迎える。そこでヘンダーソン夫人は、女性のヌードレビューを提案する。
監督スティーヴン・フリアーズ(『堕天使のパスポート』)
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ロンドンのウエストエンド地区にあったウィンドミル劇場のオーナーだったヘンダーソン夫人の実話に基づいて作られた作品。実際に戦時下でも(政府から12日間強制閉鎖させられていた期間を除き)オープンしていた唯一の劇場だそうだ。
脚本が『ベント〜堕ちた饗宴』『永遠のマリア・カラス』のマーティン・シャーマンなので、ひょっとしたらまたゲイが出てくるのかな?と思ったらやっぱりそうだった(笑)でもそのゲイ役のウィル・ヤングもカミングアウトしていると公式サイトに書いてあって、それにはちょっと驚きました。
第78回アカデミー賞で主演女優賞(デンチ)と衣装デザイン賞(サンディ・パウエル)がノミネート。

辛辣だが茶目っ気があり行動的な夫人を、デンチが見事に演じていてさすがだった。まさに彼女なくしてはありえない作品となった。だから逆にヴァンダムが少々物足りなかった。女性たちに負けない体当たりの演技(笑)も見せるんだけど、どうしても夫人と比べると負けてしまっている。それは脚本のせいもあるかもしれない。ドイツ軍がイギリスに侵攻してくる中でのユダヤ人ヴァンダムの苦悩はもう少し深く描いてほしかった。夫人との馴れ合いじゃない関係はとても良かったが。同じようにケリー・ライリーが演じたモーリーンにも救いがないというか愛が感じられなくて、見ててやるせない気持ちになってしまった。彼女がそうなる運命だったとしても、もう少しフォローがあれば良かったのに。

それ以外のストーリーは良かったと思う。ショーのシーンは毎回工夫を凝らしたもので、パパッと流さず意外にもしっかり内容を見せてくれるので女性たちの美しい裸もダンスや歌の楽しさも十分に堪能できた。裸の女性たちは微動だにせずいると本当に絵画のようで、これならちっともいやらしくないと感心してしまったが、動くシーンで思わず見てはいけないものを見てしまったような気恥ずかしさを感じて、一瞬目を逸らしてしまった。やっぱり胸が揺れるからいけないわけね、と納得(笑)

夫人がヌードレビューを行う理由を皆に説明し、それに心を打たれた役人たちが劇場の閉鎖を解除。爆音が響く中でレビューを行うシーンが本当に素晴らしく、泣きながら見てしまった。だが女性の裸を楽しんだ後に戦地へ赴く、というのはどうなんだろう?と思わないでもない。モーリーンと恋に落ちたはずの兵士が、赴任先ですぐに恋人を見つけてしまうあたりも、戦争中の女の役割って・・・と考えてしまう。その役割を精一杯果たそうとする夫人たちの姿は立派なんだけどね。
夫人は1944年に亡くなったそうだ。終戦までお元気でいて欲しかった・・・。
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敬愛なるベートーヴェン('06イギリス=ハンガリー) -Dec 22.2006
[STORY]
1824年ウィーン。ベートーヴェン(エド・ハリス)の元に音楽を勉強中のアンナ(ダイアン・クルーガー)が写譜師としてやってくる。女ということで最初は追い返そうとするベートーヴェンだったが、彼女の才能を知り、仕事を任せるようになる。そして交響曲の初演の日が来たが、難聴で指揮を取ることに不安を覚えたベートーヴェンは、アンナにテンポの合図を送る役目を頼むのだった。
監督アニエスカ・ホランド (『太陽と月に背いて』)
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ベートーヴェンの晩年には3人の写譜師がいて、そのうち2人は男性で名前も判明しているが、最後の1人はいまだ謎なのだそう。本作はその謎の1人が女性だったら――という着想からできた作品。私はそうと知らずに粗筋を読んだ時に「これって実話?!」とギョッとしてしまったんだけど、創作なのね。ホランドは好きな女性監督だけど、本作はちょっとフェミ臭がちょっとキツイかな。それと創作ならばもっと大胆に切り込んじゃえば良かったのに、中途半端な印象を受けた。

というのも、一番盛り上がるのはやっぱり交響曲(第九)初演のシーンなわけでしょ。それならこのシーンはもっと最後に持ってこなくちゃ。冒頭にベートーヴェンの臨終シーンがあるのだから時間軸が正しくなくたって問題ないはず。アンナが恋人とうまくいかなくなるところや、弦楽四重奏曲(大フーガ)の作曲と演奏シーンを、交響曲初演の後に持ってきてしまったのは盛り下がってしまって失敗だったと思う。これらはうまく回想シーンとして挿入し、クライマックスで交響曲初演、ラストは映画の通りでいいだろう(←偉そう)

それくらい交響曲の演奏シーンは良かった。ベートーヴェンとアンナの2人を交互に映すところはせわしなくてイライラしたが、第4楽章が始まる直前、合唱隊の面々の緊張した面持ちを順に映していくところが非常に面白かった。歌が始まった直後の観客のあっけに取られた顔も最高。ここで私は鳥肌が立ってしまった。やっぱり第九はいいね。

役作りのために太り髪フサフサ眉クッキリのエド・ハリスはまるで別人で、見てる間はエド・ハリスだということをすっかり忘れ・・・というか実はたまにトミー・リー・ジョーンズに見える時があって(笑)彼が演じてるのかと錯覚してしまいました(ごめんエド様)これだけ見事にキャラクターを作り上げる俳優なのだから、ストーリーもそれに見合ったものであって欲しかったな、と。見終わって「年末に第九が聞けて良かった〜♪」っていう感想しか残らなかったものなぁ。
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