Movie Review 2008
◇Movie Index

ぼくの大切なともだち('06フランス)-Jun 17.2008イイネ★
[STORY]
美術商のフランソワ(ダニエル・オートゥイユ)は自分の誕生パーティーの席で、知人の葬式に友人が7人しか参列してなかったことを面白そうに話すが、フランソワの葬式には誰も来ないと言われてしまう。フランソワは反発するが、共同経営者のカトリーヌ(ジュリー・ガイエ)から、それなら10日以内に親友を連れてくる賭けをしようと言われる。フランソワはさっそく自分が親友だと思っていた人たちを訪ねて回るが、誰からも相手にされない。そんな時、誰とでも親しく話すタクシー運転手のブリュノ(ダニー・ブーン)と出会う。フランソワは彼から友達の作り方を教えてもらおうとする。
監督&脚本パトリス・ルコント(『親密すぎるうちあけ話』
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男女の恋愛を得意とするルコントが中年の男同士の友情を描いた作品、ではあるのだが、ルコント曰く“形を変えただけのラブストーリー”なのだそう。
クイズ・ミリオネアのシーンではフランス版の司会ジャン=ピエール・フーコーが本人役で出演。最高賞金も本物と同じく100万ユーロ。

見てる間は思わなかったけど、思い返せば確かにラブストーリーだった。男同士の友情といってもバディムービーとは違う。フランソワとブリュノが本当の友達になっていく過程は、男女が恋人になるまでの過程と変わらないし、見てるほうの高揚感も同じだった(笑)基本コメディだけど途中で何度か泣いちゃったし。でもホモっぽくはないだよね、おっさんなのにやってることが子供じみてることばっかりだから(邦題からしてそうだけど)だからよかったんだな。

フランソワはブリュノが誰とでも親しくなれて友達がいっぱいいる男だと思い込んでいるけど、実はブリュノも親友と呼べる男がいないわけ。かつてはいたんだけど、ある事があってからいなくなってしまったのだ(その反動で今まで以上にクイズに没頭するようになったのかもしれない)
そんなブリュノがフランソワから頼りにされるようになって嬉しくなり、アドバイスをするうちに親しくなり、一緒にサッカーを見たり実家に招いたりと、傍から見ればもはや親友以外の何者でもないという感じになるのだが、そう簡単にはいかない。フランソワが天然すぎるんだよね。最初はエゴイストだから友達がいないんだと思ったけど、実は天然ボケキャラだったのよ!(笑)

「親友が見つかったよー!」と嬉しそうにブリュノに報告するフランソワ。自分のことだ!とワクワクするブリュノ。でもフランソワはブリュノじゃない昔の同級生の名前を挙げる。ニコニコしていたブリュノがガックリ。そしてついにはブリュノを傷つけてしまうフランソワだが、それも天然のなせる業。ブリュノならきっと笑って許してくれるっていう甘えから出た行動なんだよね。それだけ気を許した存在=親友なわけだが。まったくどこまで鈍感なんだか・・・もーフランソワのバカバカ(おい)

フランソワは実は幸せな人だ。誕生日にはちゃんと人が集まってくれる。本当に嫌いならまず来ないでしょう。恋人だっているし、娘だっている。共同経営者も本音を話してくれる。でも彼はそれが当たり前だと享受するだけで相手にお返しする気持ちを持っていなかった。最初はからかうつもりで始まった賭けだったかもしれないが、大事なものを気付かせてくれる友達がいて、やっぱりフランソワは幸せな人だった。
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JUNO/ジュノ('07アメリカ)-Jun 15.2008
[STORY]
16歳の高校生ジュノ(エレン・ペイジ)は友達のポーリー(マイケル・セラ)と興味本位でしたセックスで妊娠をしてしまう。中絶しようと病院へ行くが、中絶反対運動をしている同級生から赤ちゃんはもう爪だって生えてると聞いてやめてしまう。そこで赤ちゃんを産んでから養子に出そうと里親探しを始める。そして町のフリーペーパーに載っていた、子供を望むマーク(ジェイソン・ベイトマン)とヴァネッサ(ジェニファー・ガーナー)夫婦にしようと決める。
監督ジェイソン・ライトマン(『サンキュー・スモーキング』
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元ストリッパーという異色の脚本家ディアブロ・コーディが第80回アカデミー賞で脚本賞を受賞した作品。製作には俳優のジョン・マルコビッチが携わっている。

ジュノの言葉遣いがユニークなことと、役者の演技と演出が上手いので面白く見れるんだけど、アメリカ人の子供や養子に対する考え方が日本人とは全然違うので、共感できるかというと難しいと思う。ま、無理に共感する必要もないのだが。

中高生が妊娠っていう話は日本でもドラマやケータイ小説でよく目にするようになったが、生んだ子を欲しい人にあげちゃおう!っていう考えはさすがのケータイ小説でもない。日本では学生であっても、一応自分たちで育てようと決意する。それが美しいこととして描かれている。自分の血を分けた子だから、お腹を痛めた子だから愛せるっていう考え方も根強い。でもアメリカでは血にこだわりはないらしく、実子がいながら養子を迎える場合もあるし、ゲイのカップルが養子をもらうケースも増えているそうだ。国内では養子を迎えたい人たちが順番待ちをしていたり、中国やインドからわざわざ連れてきたりもするらしい。だから本作のような映画も成り立つわけだ。

そんなわけでストーリーは個人的にはちょっとなぁ・・・という感じだけれど、上に書いたように演出が上手いので楽しめる。妊娠発覚から出産までを、一応紆余曲折はあるもののジメジメさせずにテンポよく見せていく。一番どよーんとしてるのは映画が始まってからオープニングクレジットのアニメまで。ここでジュノの後悔と苦悩をぎゅっと詰め込んで、その後には引きずらないようにしたんだろう。コミカルさと暗さが同時に伝わるアニメにしたのも大正解。上手い見せ方だ。
また、ジュノを取り巻く人たちの本質をフトしたところで見せるところも上手い。ちょっとネタバレになってしまうが、神経質でキツイ性格に見えるヴァネッサがジュノのお腹を愛おしそうに触れるところが意外だったり、片やマークは若いジュノとも気が合っていいお父さんになりそうだったのに実は大人になりきれてなかっただけだったり、そんなところをわざとらしくなく演出している。ライトマンの前作もそうだったけど、軽妙に見せつつところどころで深く掘り下げる。でも掘るところもテンポを崩さない。なかなかできることじゃない。お父さん以上の監督になるかも、と密かに期待している。
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イースタン・プロミス('07イギリス=カナダ=アメリカ)-Jun 14.2008
[STORY]
クリスマス間近のロンドン。病院に血まみれになった少女が運び込まれ、女の子を出産直後に息を引き取った。彼女のバッグからはロシア語で書かれた日記が見つかり、助産師のアンナ(ナオミ・ワッツ)は、少女の家族に知らせてあげたいと、日記に挟まれていたロシア料理店のカードを頼りに店を訪ねる。店のオーナー、セミオン(アーミン・ミューラー=スタール)は少女のことは知らないが、日記を持ってくれば訳してあげると言う。翌日ふたたび店を訪ねて日記のコピーを渡し、帰ろうとバイクにまたがるがエンジンがかからない。そこへセミオンの息子キリル(ヴァンサン・カッセル)の運転手ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)が現れ、アンナを家まで送り届ける。
監督デヴィッド・クローネンバーグ(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
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同じ役者をめったに起用しないクローネンバーグが『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に引き続きモーテンセンを主役に据えた作品で、第70回アカデミー賞で主演男優賞(モーテンセン)にノミネートされた。
タイトルの“イースタン・プロミス”とは、ロシアやウクライナから貧しい女性を騙して英国に連れてきて売春行為などをさせる人身売買契約の隠語。

アルマーニのスーツに身を包み、袖口から除く手にはさまざまなタトゥが彫られ、髪は丁寧に後ろになでつけ、眼光鋭くどこから見ても隙のない男。どんだけ偉いのかと思いきや、何と若いヤツに使われる運転手(笑)ほかのマフィア連中と比べても浮きまくってて、ヴィゴさん役作りしすぎじゃ・・・なんて思ったりもしたけど、死んだ少女の日記とマフィアの関係、それ以外にもいくつか謎があるのだが、それらが明らかになっていくにつれて納得。ヴィゴさんののめり込みようも計算のうちならすごいよ(笑)

だけど面白いところで映画が終わってしまったのが残念。あまり長い映画も疲れるけど、これでは物足りない。一番の見せ場を早く見せすぎたせいもあるかもしれない。もう少し後ろに持ってきても良かったんじゃないだろうか。あれを見た後では、ニコライとアンナがキリルのところに行くシーンがやたら生ぬるく見えてしまう。また、マフィアたちがその後どうなったのか語られないので、中途半端なものを見せられた気分。(ここからネタバレするが)セミオンはキリルの身代わりとしてニコライをサウナへ行かせたわけでしょ。そのニコライが生還してしまって、セミオンはニコライに何か言ったんだろうか?それとも会う前に逮捕されちゃった?最後にニコライが店にいるシーンがあるが、これは既にボスになったということ?(ここまで)あとは想像力で補えということだろうか。うーん。

喉をかき切るシーンや、指を切断するシーンは目を背けてしまったが、ニコライが全裸で戦う話題のシーンは逆に目を逸らすことができなかった(べ、別に見たかったわけじゃないのよ)丸腰で戦うなんて他の映画でもあるし珍しくはないが全裸なんてないわけで、Tシャツでもタオル1枚でも、全く着てないより安心できるものだなぁと妙な感心をしつつ、ナイフが肌をかすめるたびに震え上がってしまった。アクションそのものは『ヒストリー〜』のほうが動きも見せ方も上手いと思うけど、本作のほうが迫力があり印象に残るものとなった(見たからというわけじゃないのよ)
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ぐるりのこと。('07日本)-Jun 8.2008ヨイ★
[STORY]
1993年。出版社に勤める翔子(木村多江)と画家をめざしながら靴修理屋でバイトするカナオ(リリー・フランキー)夫婦の間に子供ができた。ある時、カナオは先輩から法廷画家の仕事をもらい、裁判の様子に戸惑いながらも少しずつ仕事を覚えていく。だが生まれたばかりの子供が亡くなり、悲しみのあまり翔子は次第に鬱になっていく。
監督&脚本・橋口亮輔(『ハッシュ!』
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前作公開の頃から鬱になってしまったという監督が、その体験を元に製作したという作品で、1993年の冬から約10年間が描かれている。その間に日本で起きた凶悪事件の裁判が挿入され、被告役には加瀬亮、片岡礼子、新井浩文らが演じている。梨木香歩のエッセイ『ぐるりのこと』と本作は関係ないが、著者に同じタイトルになることは伝えているという。

一度決めたことは必ずやらないと気がすまない翔子と、優柔不断でいい加減なカナオ。こんなにも性格の違う2人だからケンカもしょっちゅう。翔子の母(倍賞美津子)はことあるごとに「あんな男(カナオ)やめちゃいな」と言う。だが、翔子が鬱になったとき、カナオじゃなければ乗り越えることはできなかったと私は思う。

パートナーが精神を病んでしまった時、世話をするほうがストレスを抱えたり、悩んで自殺してしまう場合があるという。でもカナオの場合はのらりくらりとしていて、鈍感なところもあって(褒めてます)彼自身が追い詰められることはなかった。また、鬱になった人に「がんばれ」と励ましてはいけないと言うが、どうみてもカナオはがんばれって言うタイプじゃない(褒めてますよ)だからよかったのだ。
ひょんなことから法廷画家になって最初は尻込みしていたようだが、徐々に被告や証人たちを一歩引いたところから観察することを楽しんでいるように見えた。彼にとって被告は怖い存在でも憎むべき悪人でもなく、ただ「どうしてこの人はこんなことをしてしまったのだろう?」と言葉はおかしいかもしれないが純粋な目で見ていたようだ。翔子に対しても同じような目で見てる時もあって、だから平静さを保つことができたんだろう。カナオの言葉で翔子は肩の力を抜くことを覚える。無理して人と向き合うことをやめて、美しい花々を描くことで心を落ち着かせていく。簡単なようでいて、カナオみたいなことはなかなかできることじゃない。ある意味、鬱になった人の支えになる理想の人間じゃないだろうか。カナオも翔子も絵を描くという同じ行為をしているんだけど、ベクトルが真逆なのも面白いと思った。

昔は犯罪者と世間一般の人、というのがきっちり分かれていたように思う。自分とは関係のない世界のことだと。それが現代では分かれ目が曖昧になったというか、真面目で大人しい人間が凶悪な事件を起こしてしまったりする。同じように、誰でもよかったなどの理由で思いがけず被害に遭ってしまう人もいて、被害に遭う遭わないの境界も曖昧になったかも。いつ危険な目に遭うか分からない世の中になった。けど、カナオみたいに、相手と向き合って素直に気持ちを伝える。1人1人がそうするだけで少しずつ世の中変わっていくんじゃないのかな。
・・・なんてことを見終わった後で考えながら家路に着いたら、秋葉原で事件が起きていた・・・・・・。
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美しすぎる母('07スペイン=フランス=アメリカ)-Jun 7.2008
[STORY]
プラスティックを発明して富を築いたベークライト家のブルックス(スティーヴン・ディレイン)と、元女優の妻バーバラ(ジュリアン・ムーア)の間に待望の男の子トニーが生まれた。一家はニューヨークからパリへと移り住み、そしてスペインへとやってくる。成長したトニー(エディ・レッドメイン)はスペイン人のブランカ(エレナ・アナヤ)と付き合うようになるが、やがてバーバラとの生活に疲れたブルックスはブランカとともに家を出てしまう。バーバラとトニー2人だけの生活が始まるが・・・。
監督トム・ケイリン(『恍惚』)
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原作はナタリー・ロビンズとスティーヴン・M・L・アロンソンのノンフィクション『Savage Grace』で、ベークランド一族の約一世紀にわたる物語。映画はトニーが生まれた1946年から事件が起きた1972年までを描いている。
第60回カンヌ国際映画祭の監督週間部門ほか、多数の映画祭に出品された。

近親相姦、同性愛を描いているためR-18指定で、直接的な描写もあるにはあるが、全体的には直前でフェードアウトさせて省略することで観客に「この後のことは察して下さい」という演出が多かった。だからこちらの勘の良さや想像力を試されているようで、見てる間じゅうかなりの集中力を要した。自分では「きっとこれはこういうことだろう」と答えを出していったつもりだけど、実際は違うところもあるかもしれない。

表向きは美しい上流階級の一家だということを表現したかったのだろうし、生々しくならないようにと省略を多用したのだと思うんだけど、綺麗に見せすぎているなぁと感じた。美化しているように見えなくもない。せめてトニーがバーバラを殺すシーンは血を見せたほうがよかったんじゃないだろうか。

ベークランド家のことは事前に予習しておいたほうがいいと思った。私は予備知識なしで見てしまい、劇中でブルックスが祖父や父の話をしてもピンとこなかったのだが、彼が人嫌いで屈折した性格の理由は、ベークランド家の歴史にあるのだと後から知った。
偉大な祖父を尊敬し、祖父の功績をつぶしてしまった父を嫌悪するものの、自分自身は祖父の才能を受け継いでいないと分かっている。そして息子は甘やかされて育てられ、自分の性癖(おそらくブルックスも同性愛的傾向があるのだと思うが本人は認めたくない。だが、トニーがいとも簡単に同性愛行為に及んでしまって愕然としただろう)を受け継いだことに耐えられなくて、逃げてしまったのだろう。バーバラと別れても、息子とちゃんと向き合っていたら、こんなことにはならなかったのではないだろうか。母と息子の関係が歪んでいたから事件が起きたのは確かだけど、父親の責任も大きかったと思う。
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