Movie Review 2006
◇Movie Index

フォーギヴネス('06アメリカ=イスラエル)-Oct 21.2006
[STORY]
ニューヨークに住むデイヴィッド(イタイ・ティラン)は母国イスラエルで志願兵となるが、ある事件でショックを受け病院に入院する。病院では少女の霊に悩まされるが、投薬のおかげで回復しニューヨークへ戻る。普通の生活に戻ったデイヴィッドは、パレスチナ出身のライラ(クララ・コウリー)と出会い恋に落ちる。しかし再び少女の霊が現れるようになり・・・。
監督&脚本ウディ・アローニ(『Innocent Criminals』)
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第19回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。
イスラエル人監督による、イスラエルとパレスチナ問題を扱っているが、さらにそこから人間が抱える普遍的な問題にまで言及している作品だった。

おそらく一般公開はないだろうと予想してストーリーを説明してしまうけど、ユダヤ人青年がパレスチナ人女性に恋をするが、間違えて彼女の娘を殺してしまい心神喪失になってしまう。彼の父親がイスラエルからニューヨークへ連れ戻すが、ニューヨーク在住のパレスチナ人女性に恋をしてしまい(イスラエルでの記憶は失っている)その女性には殺した娘にそっくりな娘がいて、記憶がよみがえってきた青年は苦しみ暴走する。

過ちを犯してしまった時、逃げてはいけない、さらに罪を重ねてはいけない、罪を悔いても自殺してはいけない。そして罪を犯した者を赦す(Forgiveness)ことが大切である、ということを訴えている作品で、こうして文章にすると説教じみているが、上からモノを言っている感じはせず鼻につかない。むしろ悲しみのほうが強く伝わり、イスラエルとパレスチナの現状を憂いているのがよく分かった。

ただ、この真面目なテーマをストレートに訴えるのではなく、恋愛を絡めたり幽霊を出したりとエンターテインメント性も加味しようとしているのは分かったけど、それでも窮屈な印象は否めない。主人公がDavid(ダビデ)って時点でもう・・・。もう少し自由な表現があっても良かったんじゃないかな。
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ブラック・ダリア('06アメリカ)-Oct 18.2006
[STORY]
1947年ロサンゼルス。元プロボクサーの警官バッキー・ブライカート(ジョシュ・ハートネット)とリー・ブランチャード(アーロン・エッカート)は警察の慈善試合で戦ってから意気投合し、特捜課でもコンビを組むようになる。2人がある事件の張り込み中、身体を腰で切断された若い女の全裸死体が発見される。女の身元は映画女優を目指していたエリザベス・ショート(ミア・カーシュナー)。その豊かな黒髪から“ブラック・ダリア”と呼ばれていた。2人も事件を担当することになるが、リーはこの事件に異常にのめり込むようになる。
監督ブライアン・デ・パルマ(『ファム・ファタール』
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原作はジェイムズ・エルロイの同名小説。本作から始まり『ビッグ・ノーウェア』『L.A.コンフィデンシャル』『ホワイト・ジャズ』は“暗黒のLA四部作”と呼ばれており、『L.A.コンフィデンシャル』はすでに1997年に映画化されている(私の感想)小説では両作品に共通する人物が登場し繋がりが出てくるが、映画ではそれぞれ完結している。映画では検事のエリス・ロウは両方の作品に登場している(別の役者が演じているが)
また“ブラック・ダリア事件(以下BD事件)”は1947年1月15日に起こった実際の事件で、エルロイはこの事件をモチーフに本作の小説を書いた。実際の事件は未だ解決していない。

デ・パルマは嫌いじゃないというかむしろ好きだけど『L.A.〜』以上の作品には決してなっていないだろうと断定し(笑)全く期待せずに見に行った。そのせいか思ったよりも悪くなかった。時代の雰囲気やバッキーのモノローグなどは小説のイメージに近かったし、死体が発見されるシーンは凝ったカメラアングルで面白かった。

だけど死体が発見されてからの展開はいまいち(早っ!)まず発見された時点で死体をはっきり観客に見せておくべきだったと思う。レイティングの関係で見せられないのかな?と思ったけど、R-15だしラストではちゃんと死体を見せていた。最後じゃ遅いっての。私は本物の写真を見ていたけど、見てない人にとっては何故“世界一有名な死体”と呼ばれるようになったか、この事件がどれだけ特別な事件だったか分からないまま見続けることになってしまう。

また、バッキーはエリザベスにソックリという“設定”のマデリン(ヒラリー・スワンク)という女と出会のだが、困ったことにデ・パルマは「ブラック・ダリアの一番の虜になったのは監督アナタでしょ?」ってツッコミ入れたくなるくらい(笑)カーシュナーを美しく魅力的に撮ってしまった(スクリーンテストで彼女に話しかけているのはデ・パルマ本人だ)その映像が気に入ったのか生前の彼女の映像を流すシーンがやたら多くなり、ブラック・ダリアを印象付けるのはいいのだが、マデリンがエリザベスに全く似てないことを露呈させてしまった。マデリンとダリアが似てなければ、いろんな意味で台無しだというのに・・・自分の趣味を優先させたということですかね(笑)

BD事件にバッキーは深く関わり、傷つき、最後は自ら決着をつけた。そこで受けた悲しみを背負ってこれから生きていく・・・はずなのに、最後まで事件とバッキーに距離があるように感じた。ちょうどダリアの死体の幻影をバッキーが見た時ぐらいの距離――彼にとってダリアはその程度のものだったんだろうか?と思わせてしまう演出で、小説のバッキーにとても失礼だと思った。
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サンキュー・スモーキング('05アメリカ)-Oct 14.2006
[STORY]
タバコ研究アカデミーの広報担当ニック・ネイラー(アーロン・エッカート)はタバコ業界への非難を得意の話術で巧みにかわし、タバコのパッケージにドクロマークを付けようとするフィニスター上院議員(ウィリアム・H・メイシー)をやり込め、ハリウッドスターにタバコを吸わせる企画を立ち上げたりと、嫌われながらも充実した日々を送っていた。しかし新聞記者のヘザー(ケイティ・ホームズ)と親密になったことで思わぬ落とし穴が待っていた・・・。
監督&脚本ジェイソン・ライトマン(短編を経て長編初)
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ジェイソン・ライトマンは同じく映画監督アイヴァン・ライトマンの息子。原作はクリストファー・バックリーの『ニコチン・ウォーズ』で、脚本は監督が書いているが原作者にも協力を仰いだという。2005年のトロント映画祭やサンダンス映画祭で上映された。

私はタバコを吸わないし、歩きタバコをしている奴を見かけたら飛び蹴りを食らわせたくなるが喫煙所で吸うなら致し方ない、というレベルの嫌煙家だ。この映画もタイトルを見た時はムカッときたが、予告を見たらストーリーは面白そうだったしキャストも魅力的だったので見てみた。

まずオープニング・クレジットがタバコのパッケージデザインをモチーフにしていて面白い。そこで流れる歌もテックス・ウィリアムスの「スモーク、スモーク、スモーク ザット・シガレット!」で、クレジットをもっとよく見たいのに歌詞の訳も読みたいし、でかなり難儀する。本編も、映像の中にテロップが入ったりするので見るのに忙しかったが、テロップの出るタイミングが絶妙だし遊びごころいっぱいで見逃せない。面白いやりとりについククッと声を出して笑ってしまった(私は普段、劇場で見る時は声を出さないように気をつけてるので相当珍しい)

ニックの話術は、いつのまにか議題の内容をすりかえてしまったり、相手の触れて欲しくないところを突いて黙らせたりと、議論とは言えないものなんだけど、見てるとつい「確かにその通り」と同意してしまって、慌てて「いやそういう問題じゃなかった」と我に返ることばかり。ここまで弁の立つ男だと普通は嫌な奴!と思うものだが、ニックの場合は私生活で失敗しており、息子のジョーイ(キャメロン・ブライト)に対してはいつもの話術を使わず素直に接するところが微笑ましくて憎めない。ジョーイも父親を尊敬しているところがいい。大人だなぁ。自分だったら(反抗期の頃なら特に)嫌いになってるだろうな。ジョーイがニックのような話術を使うシーンが一番面白かったが、将来ニック以上の男になりそうで、空恐ろしい(笑)
最近キャメロン君が出演する映画を立て続けに見ていて、どうして彼が?と思ってたんだけど、子供らしい顔立ちなのにすべてを見通すような大人びた目(深い色)を持っている、というアンバランスさが起用の理由の1つかもしれないと思いました。

唯一不満なのは新聞記者のヘザー。素晴らしいオッパイの持ち主という設定なのに、ケイティ・ホームズでは明らかにミスキャスト。それでも胸を強調するなり谷間を見せるなりすればいいのにそれもない。こんな味も素っ気もない女に引っかかっちゃうニックって・・・と彼の評価まで下がってしまう。これなら引っかかっちゃってもしょうがない、という女優をキャスティングできなかったのかな。
それと余談だけど、ニックが友人から“オッパイ男”と言われるセリフがあって、“tits man”って言ってたから合ってるんだけど個人的には“オッパイ星人”(byタモリ)と訳してほしかったな。ほんとにどうでもいいことでした(笑)
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フラガール('06日本)-Oct 8.2006オススメ★
[STORY]
昭和40年の福島県いわき市。エネルギーの需要が石炭から石油へと変わりつつあり炭鉱が次々と閉鎖され失業者が増えていく中、炭鉱会社は温泉を利用した施設「常磐ハワイアンセンター」を建設しようとしていた。そして地元の女性たちを集めてフラダンスのショーを計画。松竹歌劇団出身でハワイでダンスを学んだという平山まどか(松雪泰子)を招く。高校生の紀美子(蒼井優)は友人の早苗に誘われ説明会へ行くが、腰を振るダンスを見た女性たちはみな逃げてしまい、結局残ったのは紀美子と早苗を含めて4人だけになってしまう。
監督&脚本・李相日(『スクラップ・ヘブン』)
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常磐ハワイアンセンター、現在のスパリゾートハワイアンズ誕生の実話を元にした物語で、出演者たちは3ヶ月フラの特訓を積んだという。

見る前までは、この手の映画は好きだけど泣くシーンばっかりで(予告がね)ちょっと引くなぁと思ってたんだけど、やっぱり見といて良かった。確かに泥臭くて泣くシーンばっかりだった。ちょっと泣かせ過ぎだろうと思うところもあったけど、でも見てるこっちがさらに泣いてしまったからおあいこだ(笑)
ズブの素人だった女の子たちが新しいことに挑戦するといえば『スウィングガールズ』を思い出す人も多いと思うけど、あちらは青春の1ページ的な作品で、個人的には演奏を披露するまでのおふざけがひどくて好きではなかった。対して本作はめちゃくちゃ真剣。生活がかかっている子がほとんどで、しかも女が半裸で腰を振るなんてとんでもない!という時代だった。そんな逆境の中で努力して大成功する。女の子たちだけじゃなくて、家族も町の人もセンターの人もみんなが一緒になって頑張った。(製作会社と監督があれなんだけど)日本人らしさがいっぱい詰まった映画だった。NHKでやってた『プロジェクトX』に近いものがあるかな。

ただ、映画ではハワイアンセンター設立は既に決まっていてダンサー募集のところから始まるので、何故ハワイアンセンター?と気になる人もいるだろう。私も設立の理由については全然知らなかったので見終わってから概要などを読んだんだけど、見る前に知っておいたほうがいいと思う。これから見るという方はこちらを是非どうぞ。

■常磐ハワイアンセンター設立について
 「スパリゾート ハワイアンズ」ヒストリー
 富士ゼロックス「サステナビリティレポート2006」

上のURLの常磐興産の坂本企画部長のインタビューは特にいい。読むだけで涙が出てきてしまう。実話でこれだけドラマチックならいくらでも感動映画が作れそう・・・なんて一瞬思ってしまうんだけど、本作のような良作が必ずしも出来るとは限らない。本作が何よりいいのは脚本。構成は非常に巧みだった。不貞腐れていたまどかが本気でフラを教え信頼されていく過程や、紀美子の母が娘に理解を示し協力するようになるところ、これらが自然で無理がない。新しいことに挑戦することは確かに素晴らしいこと。だけど今までやってきたこと、炭鉱を否定せず、炭鉱夫であることに誇りを持つ人を描くことを忘れない。バランスが取れた脚本だった。

蒼井優ちゃんは『花とアリス』でも素晴らしいバレエを披露していたけど、本作でのタヒチアンダンスも見事。小百合役のしずちゃんも浮くことなくピッタリで、まさかしずちゃんの演技で泣かされるとは思わなかった(笑)逆に紀美子の兄を演じた豊川悦司が浮いてるように私は感じた。一番の違和感は体型だけど、訛りもねぇ。驚いたのは子持ちの初子を演じた池津祥子だ。『我輩は主婦である』のなまはげだったのかー!まるで別人だった。
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レディ・イン・ザ・ウォーター('06アメリカ)-Oct 6.2006
[STORY]
アパートの住み込み管理人クリーブランド(ポール・ジアマッティ)は、真夜中にプールで何者かが泳いでいるのを発見し、捕まえようとして溺れてしまう。気が付くと自分の部屋で寝ており、そばに女性(ブライス・ダラス・ハワード)がいた。彼女はストーリーと名乗るだけで何者かは語らない。そして“ナーフ”という謎の言葉をつぶやいた。クリーブランドはアパートの住人から“ナーフ”は東洋の伝説に登場する精霊のような存在だと教えられる。
監督&脚本M・ナイト・シャマラン(『ヴィレッジ』
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本作はシャマランが2人の娘を寝かしつける時に聞かせていた物語が原案になっており、今までの作品はディズニー製作だったが、本作はディズニーと意見の相違があったそうでワーナー製作となっている。

※物語という意味の“ストーリー”と、ハワードの役名“ストーリー”が紛らわしいので、ハワードの役ほうを“ナーフ”と書きます。

前4作はどれも好きだし、本作も『サイン』にちょっと似ていて、物語そのものは好きだ。ただ、映画会社が変わったせいかどうか分からないけど、今回の作品は今までとは違う印象を持った。というのは、今まではどんなに下らない話でも(おい)全編にわたって緊張感が漂う独特な雰囲気を持つ作品ばかりだったのに、本作はそれがすっかりなくなってしまったのだ。

役者はジアマッティとハワードが力の篭った演技でファンタジックな設定に説得力を持たせているけれど、他の出演者がね・・・特に監督本人!今までも必ず出演はしていたけれど今回はとうとう重要な役で、こう言っては何だけどよくもまぁ自らにそういう役を当て嵌めるか〜と呆れてしまうのだが、それでも演技が良ければ文句はない。だけど下手!あの役はまともな役者を使って、彼はもっとチョイ役で良かった。ところでシャマラン前よりちょっと若返ってるように見えたんだけどど気のせい?痩せたのかな。

あと演出やカメラワークも今までと違うと感じた。今回の撮影はクリストファー・ドイルが担当しているのね。映像は確かに綺麗だった。ナーフがシャワールームにいるシーンや、ラストの水中からの映像は特に良い。でも怖いシーンでは迫力がなく緊迫感もない。獣が襲ってくるシーンなんて見るたびにおかしなカメラワークで違和感のほうが先にきてしまい、もっと素直に怖がりたかったのに集中力を欠いてしまった。『サイン』なんて晴天のトウモロコシ畑なのに何かが横切るたびに異様に怖かったのになぁ。この時の撮影はタク・フジモト。『シックス・センス』もこの人だったのね。やっぱり相性っていうのがあるのかも。

ただ、今までの作品も初見より2度目3度目のほうが面白く見れたので、本作もひょっとしたらそうなるかもしれない。クリーブランドがナーフを助けるために守護者や治療者を探し出すところなんてゲームみたいだったけどやっぱり面白かった。伏線の張り方もさりげなかったり、あからさまだったり(笑)で、このあたりは2度目に見る時には思い切りニヤニヤしてしまいそうだ。

そんなわけで次回作もやっぱり楽しみに待ちますよ。でもシャマラン出演は削ってちょうだい。あと子供がぷるぷる震えて怯えるシーンもどっかに必ず入れてね。あれがたまらんです(←ヘンタイ)
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