Movie Review 2006
◇Movie Index

ラブ・イズ・イン・ジ・エアー('05フランス)-Mar 18.2006
[STORY]
航空会社の指導員ヤン(ヴァンサン・エルバス)は、かつて飛行機恐怖症のために恋人クレマンス(セシル・カッセル)のいるオーストラリアに行けず失恋した苦い思い出がある。指導員となったのは航空会社のセキュリティ改善を願い、少しでも事故をなくしてもらうためだった。そんな彼の前にアリス(マリオン・コティヤール)という女性が現れる。ヤンはアリスに恋をし、彼女もまたヤンの気持ちに応えようとするが、クレマンスが帰国したことを知って悩む。
監督&脚本レミ・ブザンソン(長編初監督)
−◇−◇−◇−
フランス映画祭2006上映作品。主人公ヤンほどではないが飛行機が苦手という監督のオリジナル脚本(来日する際には機内でたくさんお酒を飲んだそうだ(笑))

飛行機内で母親が産気付いてしまい、ヤンは空の上で生まれる。飛行機内で生まれた子供は一生その航空会社の運賃がタダになるのだが、母親がヤンを産んだあと死んでしまったせいで飛行機恐怖症になってしまう。その説明がファンタジックで、『世界でいちばん不運で幸せな私』に近い感じ。どちらも大人になりきれない主人公、という共通点がある(マリオン・コティヤール出演も共通点だ)過去の自分から抜け出せないさまを表現するのにピッタリの演出なんだな。

そんな飛行機恐怖症のヤンが結婚したいと思うほどの女性クレマンスと出会う。彼女と出会うシーンが可愛いかったし、彼が運命の女性だと思う根拠も「なるほど」と思えるものだったので、彼が失恋して本当に気の毒だなぁと思いながら見ていた。その後いろんな女性と付き合うもクレマンスが忘れられずにいたが、隣に引っ越してきたアリスに恋をする。しかしアリスとの出会いのインパクトはクレマンスの時よりも弱く、彼女のどこがクレマンスより良かったのか?が私にははっきり伝わらなかった。アリスもクレマンスと同じくヤンが運命の女性だと思う“ある事”をするんだけどね。クレマンスの嫌なところを目立たせることでアリスのほうが・・・というのではなく、アリスじゃなければならないという決定的な何かがあって欲しかったな。

ヤンの親友リュド、ヤンが立ち会うパイロット試験に何度も不合格になるカステロ、この2人の男性のキャラクターは良かった。特にリュドは見た目はモサイし、喧嘩っ早くてだらしなくて近くにいたらイヤだなーと思うタイプだけど男友達は多そうで、案外家庭を持つと子沢山のいい父親になりそう、と想像できるリアルな人物だ。実在の人物と言われても信じるだろう。ヤンというキャラクターが突飛な設定なので、そのぶん脇にこういう人物を配置したのかもしれない。だとしたら大正解だったね。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

アガサ・クリスティーの奥さまは名探偵〜『親指のうずき』〜('05フランス)-Mar 16.2006
[STORY]
ベリセール(アンドレ・デュソリエ)と妻のプリュダンス(カトリーヌ・フロ)は、叔母が入院する病院でローズという老婆と出会う。彼女はひどく気になる事をプリュダンスに告げる――。数週間後、叔母が亡くなり遺品の中から一枚の風景画が見つかる。それはローズが叔母にプレゼントしたものだそうで、プリュダンスはローズにまた会いたくなったが、彼女はすでに退院していた。風景画の場所に見覚えがあったプリュダンスは、夫の心配をよそに単独で絵の場所を探す旅に出る。
監督&脚本パスカル・トマ(『夫たち、妻たち、恋人たち』)
−◇−◇−◇−
フランス映画祭2006上映作品。原作はアガサ・クリスティーの“おしどり探偵トミー&タペンス”シリーズの中の長編小説『親指のうずき』映画化で夫妻の名前は変わっているが、苗字は同じベレスフォード。
私はクリスティはポアロシリーズと『そして誰もいなくなった』以外は読んでないので本作の原作も未読だったけど、主演の2人も好きなので見てみた。

原作ではおそらく夫婦2人が活躍するんだろうけど、映画では夫は軍人として忙しく働いている間に、好奇心の強い妻が絵の持ち主だった老婆探しをする。だから邦題の『奥さまは名探偵』は間違いじゃないし、プリュダンスというキャラクターにかなり助けられている作品だと感じた。何か気になることが見つかればのめり込み、娘夫婦が可愛い孫を連れてやってきても気にかけることなく出掛けてしまう。行動力もあって、危険な目に遭っても真実にたどり着くまでは諦めない。さすがフランス映画は中年女性を魅力的に見せるのが上手い。そんな妻を、夫は放任しつつ困った時には助けてに行く。アイロン掛けが上手いのを自慢したり、お茶目なところもある。これ1作だけではもったいない、シリーズ化してもいいと思える2人だ。

ただ肝心の謎の解明についての脚本や演出についてはいまいちだ。叔母が遺した絵をどこかで見たことがあるプリュダンスが思い出し、その場所を見つけるところまでは面白くて夢中で見てたんだけど、そのあとの演出は平板で、何かを見つけるところでもプリュダンスが襲われるところでも起伏に乏しく、次第に興味を失っていった。あとはしょうがないので早く終わらないかなーなんて思いながら見た。結末を見てもこんなもんかーという感じ。やっぱりミステリ映画はアメリカやイギリスのほうが上手く作るよなぁ。見慣れてしまってるせいもあるだろうが。

上映後の監督のティーチ・インで、イギリスなら紅茶を飲みながら会話するが、フランスではお酒を飲みながら会話する、と言っていて確かに夫婦が昼間っからお酒を飲みながら話をするシーンがあったのを思い出した。何気なく見てたけど、確かに国によって違うもんだ。私も紅茶よりお酒派だ、なんてね(笑)
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ヒストリー・オブ・バイオレンス('05アメリカ)-Mar 16.2006
[STORY]
アメリカ、インディアナ州。ダイナーを経営するトム・ストール(ヴィゴ・モーテンセン)と弁護士の妻エディ(マリア・ベロ)は2人の子供と幸せに暮らしていた。しかしある晩、トムの店に2人組の強盗が押し入り、従業員が殺されそうになる。トムは強盗の銃を奪い取り、2人を射殺した。トムは客と従業員を救ったヒーローとしていきなり新聞やテレビで取り上げられるが、フォガティ(エド・ハリス)と名乗る男がトムの前に現れ、彼のことを昔からの知り合いのように「ジョーイ」と呼んだ。トムはジョーイなどではない、別人だと否定するが、フォガティは執拗にトムに付きまとい始める。
監督デヴィット・クローネンバーグ(『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』
−◇−◇−◇−
原作はジョン・ワグナー、ヴィンス・ロックによる同名グラフィックノベル。第58回カンヌ映画祭コンペティション出品作品。第78回アカデミー賞の脚色賞と助演男優賞(ウィリアム・ハート)にノミネートされた。

過去を捨て、善良に生きようとする男が再び暴力事件に巻き込まれ、結局暴力によって解決しなければならなくなる、というストーリー。でも暴力について考えさせられる映画じゃなかったなぁ自分にとっては。うまく書けないけど不思議な味わいのある映画だった。

まずは冒頭、さりげなさを装いつつも不安を煽るような長回しにゾクゾクさせられ、予想通りの展開に引き込まれる。少しネタバレになるが(ここから)モーテルの若い男はトムの若い頃で回想シーンだと思ってた。銃声の後すぐに現在のトムの顔が出るし。(ここまで)わざとそう思わせる演出にした?
エディのコスプレシーンはアホっぽくて笑ってしまったし、トムの正当防衛シーンは鮮やかすぎて思わず拍手したくなったし、フォガティの粘着質な不気味さは恐ろしかった。トムの息子の行動に血は争えない、つーか将来有望じゃん、と嬉しくなってしまったり(暴力についてホントに考えてないじゃん)また、トム一家が住む家の周りの紅葉がとても美しく、音楽担当がハワード・ショアなんだけど、曲調が『ロード・オブ・ザ・リング』風味なので(わざとだろうな)時々牧歌的な気分になったり。途中で自分がどういう映画を見ているのか分からなくなってしまった。

トム一家のキャストはみんな真剣に演じているのに(ただしトムの娘役は素人丸出し)エド・ハリスとウィリアム・ハートはやりたいようにやっている。特にハートなんて“ロバート・デ・ニーロのモノマネをする人”のモノマネをしたような演技で、ふざけてるようで楽しそうだった。これがなぜオスカー候補になったのかは謎だが。このちぐはぐさが全編通して一貫性があるようでないような奇妙な作品を作り出したのだろうか。ラストの微妙な空気を作ったのは娘役のド素人っぷりだったし、これがすべて計算だったらコワイな。

計算といえば、暴力シーンがすべて素晴らしくカッコ良く撮られていて、暴力で解決しようとするなんて・・・と嫌悪感をもよおすような演出を全くしていない。ここまで出来のいいアクションを見せられるとそんな気が全く起こらない。だけどトムの暴力も、彼を攻撃する暴力も、理由はどうであれ同じ暴力であることに変わりはない。カッコイイと思わせる演出をした監督が勝ち、カッコイイと思ってしまった私の負けだったのだ(笑)
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

かもめ食堂('05日本)-Mar 11.2006
[STORY]
フィンランドのヘルシンキ。サチエ(小林聡美)は日本で普段食べられている食事を出す店“かもめ食堂”をオープンさせる。しかし1ヶ月経っても客が1人もやってこない。そんなある日、日本のアニメが好きなフィンランド人青年トンミがやってきて、『ガッチャマン』の歌詞を教えてほしいと頼まれる。歌詞が出てこないサチエは偶然見つけた日本人旅行者のミドリ(片桐はいり)に歌詞を教えてもらう。それがきっかけでミドリも店を手伝うことになる。
監督&脚本・荻上直子(『バーバー吉野』)
−◇−◇−◇−
原作は群ようこが映画のために書き下ろした同名小説。オールフィンランドロケで、撮影監督や美術はフィンランド人が担当、『過去のない男』のマルック・ペルトラも出演していて、『過去』では寿司を食べていた彼だが、本作ではおにぎりを頬張っている。

初日の1回目に見に行ったんだけど、えっらい混んでてビックリ。1時間前に行ったのにすでに満席で立ち見になってしまった。自分がこんなに混んでるシネスイッチ銀座を見るのは『きらきらひかる』の初日舞台挨拶以来かも(古いなー)今回の舞台挨拶では小林聡美・片桐はいり・もたいまさこ3人のキャストと、荻上監督と原作者の群ようこが出演していて、キャスト3人は映画の時と同じ服にエプロン姿でした。

同じ3人が出演のテレビドラマ『すいか』が好きな人は、この映画も好きだと思う。あと漫画だけど高野文子の『るきさん』ね。共通するのは周りの影響を受けずにマイペースに自分を貫ける人(『すいか』の教授やるきさん)こういう人に憧れる自分としては、主人公のサチエがすごく羨ましくなる。フィンランド人に合わせることなく、自分が作る和食が少しずつ理解されていけばいいというスタンスは頑固親父っぽい。でも食器などはフィンランドのものを使っているし、フィンランド語もペラペラで、映画には出てこないけど多分フィンランド料理も作ろうと思えば得意なのだろう。そんな頭の良さと器用さを持ち合わせているところがこれまた羨ましい。

そしてミドリとマサコ(もたいまさこ)という日本人と親しくなるけど馴れ合うわけじゃなく、丁寧な言葉遣いを崩さず、彼女たちの事情を根掘り葉掘り聞くわけでもなく自然と受け入れる。フィンランド人に対しても変わらない。人との距離の取り方がいいのだ。そういえば『すいか』と『るきさん』の距離の取り方も似ている。自分もこれくらいがちょうどいいと思っているので、またまた羨ましい。

しかしストーリーは想像してたのとちょっと違った。サチエたちのトボけた会話はすごく面白いんだけど、ファンタジックなシーンに少し違和感あり。また、コーヒーを入れるシーンが何度も繰り返されたのには少々うんざりさせられた。例えばコーヒーしか飲まなかったフィンランド人ヲタク青年が日本茶に目覚めるとか、マサコがおにぎりを食べるのを見て注文が増えるとか(最後はみんなでおにぎりを食べるんだと思ってた)日本のものに慣れ親しんでくれるシーンをもっと期待してたので、そうでもなかったのが残念だ。

出てくる食事は鮭の塩焼きや豚のしょうが焼き、おにぎりとシナモンロールがいい。トンカツは人工的に作りすぎててまずそうだった。油で揚げたてピチピチの衣に、ザクッと包丁を入れると肉汁が・・・というのは無理だったのかな。お店の内装が白とブルーを基調としているので、あつあつの料理に見えなかったせいもあるだろう。サチエの自宅でのご飯のほうが温かみのある色をしていておいしそうだった。あと箸で食べる人にはご飯は皿でなくご飯茶碗で出してほしかったな。変わった形の箸置きでお客さんを楽しませるとか、そういう工夫もあるともっといいかも・・・って何だか自分がお店を持ったらこうしたいなーという気分にさせられる。もちろん客として行ってみたいし、サチエに「いらっしゃい」と言われてみたい(笑)
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

シリアナ('05アメリカ)-Mar 5.2006
[STORY]
中東で活動を続けてきたCIAの諜報員ボブ(ジョージ・クルーニー)は引退を考えていたが最後の任務で失敗し、組織から裏切られる。
弁護士ベネット(ジェフリー・ライト)は、アメリカの巨大石油会社の合併調査を依頼され、ベネットは野心を燃やす。
ジュネーブ在住の石油アナリストのブライアン(マット・デイモン)は石油王のパーティーで息子を事故で亡くしたことから、王子ナシールの相談役となる。
そしてパキスタン人のワシームは中東の油田で働いていたがクビになり、イスラム神学校で勉強を始めるが、そこはテロリストを養成する場所でもあった。
監督&脚本スティーブン・ギャガン(『ケイティ』)
−◇−◇−◇−
原作は元CIAの工作員ロバート・ベアの『CIAは何をしていた?』で、ベア本人も本作に出演している(と見終わってから知った)
『トラフィック』の脚本を担当したギャガンが本作では脚本と監督を、監督だったスティーブン・ソダーバーグが製作総指揮を担当。第78回アカデミー賞の助演男優賞をジョージ・クルーニーが受賞した。

タイトルの“シリアナ(Syriana)”とはイラン・イラク・シリアの三国が一つの国家になるということを想定した中東再建プロジェクトを指す専門用語だそうで、原題も同じ。そう言われてもパッと見て想像するのはお尻の穴のほうなわけで(お下品でごめん)一度聞いたら忘れられないインパクトあるタイトルではあるけど、内容をすっかり忘れてタイトルだけを思い出す作品になりそう(笑)それくらい頭の中にストーリーが入っていかない映画だった。

『トラフィック』は麻薬にまつわる事件を多方面から描いた作品で面白かったので、石油をめぐる駆け引きと陰謀を描いた本作も良さそうと期待してたんだけど、わざととっつきにくく、難しくしているように感じた。見終わってからようやく「ああ、そういうことか」って分かるけど、途中までは分からなくてイライラしたり眠くなったりで、元々長い映画が時間以上に長く感じた。

クルーニーはこの役のためにヒゲを伸ばして体重を20キロ以上増やし、アラブ語の特訓を受けたという。一番最初に彼が登場した時、アラブの男性が着る白い服ディスターシャがものすごく馴染んでいて、私はしばらくその男性がアラブ人だと思っててクルーニーとは気付かなかったほど(アラブの人から見たらすぐに欧米人と分かるんだろうけど)また拷問を受けるシーンの撮影中には大怪我をしたそうで見事オスカーを受賞したわけだけど、個人的にはあまりピンとこなかったな。ボブという役自体、行動が読めない人だったし感情移入しにくい役だったからかもしれない。彼のラストにはビックリさせられたけどね。
同じようにベネット役も分かりにくい。というかベネットのエピソードそのものが分かりにくい(笑)この話が理解できてたらこの映画自体が面白く感じたかも。
ブライアンはその2人から比べればまだ分かりやすいし感情移入できる。そして彼と関わるナシール王子が本作の中心となる人物であり、聡明な王子がたどる結末はやるせない。本作を見て真実を描いているとは思えなかったけど、アメリカが王子を利用できないと分かるとテロリスト認定するところは、実際にありそうだなーと思って少し寒気がしました。

でもエピソードとして一番印象深かったのはワシームだった。自爆テロ前の遺言ビデオがリアル。それとCMで使われてたけど、彼のラストシーンの映像の見せ方もとても良かった。タイトルしか思い出せなさそうと書いたけど、そうでもないのかも(笑)
home