Movie Review 2012
◇Movie Index

ヤング≒アダルト('11アメリカ)-Feb 26.2012
[STORY]
ヤングアダルト小説のゴーストライターをしているメイビス・ゲイリー(シャーリーズ・セロン)37歳でバツイチ。ある時、高校時代の恋人バディ(パトリック・ウィルソン)から、赤ちゃんが誕生したのでパーティーを開くと連絡が来る。バディこそ本当の運命の相手だったのだ!と思ったメイビスは、彼を奪い返すために地元に帰郷する。
監督ジェイソン・ライトマン(『マイレージ、マイライフ』
−◇−◇−◇−
脚本は『JUNO/ジュノ』のディアブロ・コーディ。ライトマンとコーディ、そして製作総指揮のジョン・マルコビッチが再び結集して製作された作品。

『ジュノ』はアカデミー賞の脚本賞を受賞した作品だけど、私にはちょっと面白さが分からない部分があって、個人的には本作のほうがよくできてるなと思うところが多かった(設定は『ジュノ』のほうが今までになくて新鮮だったけど。本作は今までにあるといえばある設定だから)

主人公は作家(のゴーストライター)で(バツイチだけど現在は)独身の(本気を出せば)美人。優雅に男性とデートして(酔っぱらって)家に連れてくる(けど翌日後悔する)という生活を送っている。そんな外ヅラのいいダメ人間(笑)そんなメイビスが元カレに子どもが生まれた知らせを聞いてブチ切れ故郷へ帰る。キティちゃんのTシャツを着て(笑)本気を出してない時の服装がどう見ても寝巻なんだけど、それで平気で外出しちゃうからスゴイ。でもセロンが着るとそれほどみすぼらしく見えないんだよね。羨ましい。

今までのライトマンの作品よりちょっと暗めなのは、やはりセロンの演技力かなと思う。あ、でも決して下手と言ってるわけじゃない。『トゥー・デイズ』に出てた頃と比べたら格段に上手いし、恥ずかしい場面でもきっちり演じ切るところは流石だ。でも真面目に演じすぎてるかなと。余裕がなく、険がありすぎて「怖い!」と思うことも。もう少しコミカルに演じてくれたらいいのにと感じる部分が多かった。でもその力んだ演技が逆に痛々しくて、妻子持ちの男を取り返そうとする最低な女でも思わず同情してしまう、っていうのが計算だったらそれはそれでスゴイけど。

そんなジメっとした展開を一気に引き戻したのは、メイビスがマット(パットン・オズワルド)の妹サンドラ(コレット・ウォルフ)に言い放った一言だった。(ネタバレになるので伏せます)サンドラが田舎にいるのはイヤで「私もあなたについて行きたい」と言うとメイビスは「あなたはここにいて」と言い返す。あなたみたいなダサイ子には無理よ!というわけ。確かにすげー野暮ったいんだわ。この時、サンドラが着ていた服といいヘアメイクといい。そのチョイスするか!っていう。(ここまで)この映画で一番上手いっ!と思ったのはここ。そうそう、凹んでるなんてメイビスらしくない。傲慢なくらいがちょうどいいわ。またすぐに飲みすぎて後悔するのは目に見えてるけど、それでいいじゃん、となぜか私も吹っ切れたような気持ちになった。
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トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1('11アメリカ)-Feb 25.2012
[STORY]
ヴァンパイアのエドワード(ロバート・パティンソン)と結婚し、自らもヴァンパイアになる決意をしたベラ(クリステン・スチュワート)だったが、しばらくは人間でいることを選ぶ。式が終わり2人はハネムーンに行くが、2週間後、ベラの身体に異変が起こる。ベラは妊娠しており、お腹の子は急速に成長するのだった。このままではベラの命が危険なため出産を諦めるよう説得するがベラは聞き入れない。エドワードはオオカミ族のジェイコブに(テイラー・ロートナー)にも説得を頼むが、それがヴァンパイア族とオオカミ族との対立を生んでしまう。
監督ビル・コンドン(『ドリームガールズ』
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『トワイライト〜初恋〜』『ニュームーン/トワイライト・サーガ』 『エクリプス/トワイライト・サーガ』に続くシリーズ4作目。前後編に分かれていて、本作は前編にあたる。

フラフラしていたベラがようやくケジメをつけて結婚&妊娠の巻。結婚式と新婚旅行のシーンにやたら尺を取っていて、シリーズの大ファンならウットリできると思うんだけど、私にはもうちょっと短くてもいいのにな、と感じるくらいの長さだった。それに今までのシリーズでは他のヴァンパイアとの戦いでハラハラする展開もあったのに、本作はそれらに比べるとスケールがちっちゃく、本気の死闘というよりは根回しをしなかった故の単なる揉め事のように見えてしまった。

しかしベラの出産からの展開は俄然面白くなり、ラストカットで「早く続編が見たい!」と思ってしまった(笑)出産でゲソゲソに痩せたベラがどのような変貌を遂げているのか、あのいつも悲しそうな顔がギラギラしちゃって言動も変わってしまうのか(クリステン・スチュワートにその演技ができるのかなという心配もある)もうすでにパート2の予告が本国にないのかなと探してみたら・・・あったわ。でもこれだけだとあんまりよく分からないなぁ。秋公開なので、もうちょっと待つしかない。

物語の最後のほうで“刻印”という言葉が出てくる。話の流れで何となくは分かったけど、原作を読んでないとこういうところで「ポカーン」となるなぁ。後編を見るにあたっても詳しく知っておいたほうがいいだろうということで調べてみたところ、“刻印”というのは人狼の特性(?)らしく“運命の人”と出会うと“刻印”というのができちゃうらしい。なるほどそうなのか。ということは、彼女が彼にとっての運命の人なのかー。うーん、それがロマンチックだと感じる人もたくさんいるんだろうけど・・・ワタシ的にはなんかヤダなぁと思ってしまった。

後編は物語が大きく動き出しそうなので、それを楽しみに待とう。
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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い('11アメリカ)-Feb 19.2012ヨイ★
[STORY]
2001年9月11日ニューヨーク。同時多発テロで父トーマス(トム・ハンクス)を失った少年オスカー(トーマス・ホーン)は、母リンダ(サンドラ・ブロック)にも言えない秘密を抱えていた。 そんなある日、父の遺品から一本の鍵を見つける。それが入っていた封筒には“BLACK”と書かれていた。そこでオスカーはこの鍵の持ち主であろうブラックという名前の人物を探し始める。
監督スティーヴン・ダルドリー(『めぐりあう時間たち』
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原作はジョナサン・サフラン・フォアの2005年に刊行された同名小説(彼の著書は『僕の大事なコレクション』も映画化されている)
第84回アカデミー賞で作品賞と助演男優賞(マックス・フォン・シドー)がノミネートされた。

9.11を描いた映画といえば『ワールド・トレード・センター』や『ユナイテッド93』などノンフィクション映画が多かったが、本作は9.11で父を亡くした少年が主人公のフィクション。最初はオスカーの言動が不安定で、それに合わせるかのように演出もガタガタしていて非常に見づらかった。それとおそらくセリフも日本語訳だとちょっと伝えきれてないのかな?と英語独特の言い回しを使っているのかも?(英語苦手なので憶測ですが)と思うようなセリフもあったりして、オスカーに共感できずに困っていた。

パパっ子だったし、そりゃ不安定なのは分かるけど、どうしてここまで?と疑問に思っていたのが、後で理由が分かって「ああ、もう、これはしょうがない・・・」と納得した。泣きすぎて嗚咽を漏らすところだったよ。これは母親には言えないわ。もちろん友達にだって話せない。でもずっと黙っているのはつらい。オスカーは隠していたことを話そうとする。その相手は2人。どちらも大人の男性だと気が付いた時は、なんか締め付けられるような気持ちになった。

それでもオスカーはまだほんの少しだけラッキーだったと思う。父親が遺したメッセージを受け取ることができたから。突然のことで何もない人も大勢いる。つい日本の3.11を思い出してしまうのだが、津波で大切な人も思い出も何もかも流されてしまった人の気持ちは如何ばかりかと・・・。

上にも書いたが、演出やカメラワークがホントにオスカーにぴったり寄り添うようになっていて、彼が不安定な時はわざと不安を掻き立てるように、彼が勇気を出して歩く時は力強く盛り立て、彼の心が穏やかになるところでは優しさが映像からにじみ出てきていて、スティーヴン・ダルドリーは『リトル・ダンサー』でもそうだったけど、少年の息遣いまで伝えるのが上手いなぁと思った。
冒頭で取っつき難い映画、と思ってしまったらしょうがないけど、1人の少年の成長を根気よく見守ってやろうじゃないか!彼は“ものすごくうるさくて、ありえないほど近い自分の息子のような存在なんだ”という気持ちで見るのがいいようだ。
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メランコリア('11デンマーク=スウェーデン=フランス=ドイツ)-Feb 18.2012
[STORY]
ジャスティン(キルスティン・ダンスト)と恋人のマイケル(アレクサンダー・スカルスガルド)は、姉のクレア(シャルロット・ゲンズブール)の夫ジョン(キーファー・サザーランド)が経営するゴルフ場で結婚式をすることになった。だが、ジャスティンは次第に情緒不安定になり、身勝手な行動を起こして結婚を壊してしまう。しばらく後、病気で何もできなくなったジャスティンは姉の家に身を寄せることになるが、“メランコリア”と呼ばれる惑星が地球に近づいてきて、クレアも落ち着かなくなっていく。
監督&脚本ラース・フォン・トリアー(『ドッグヴィル』
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2007年から2009年頃まで鬱で休業していた時に着想を得たストーリーだそうで、タイトルであり惑星の名前である“melancholia”の意味はズバリ鬱病。
第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、キルスティン・ダンストが女優賞を受賞した。

トリアーの映画は『ドッグヴィル』以来。彼の映画は見た後に何とも言えない疲労感に襲われるので『マンダレイ』と『アンチクライスト』は見たら絶対に落ち込むに違いないと思ってパスしてた。でも本作は予告を見た時から何だかワクワクしちゃって(笑)絵画のようなCG映像とオーケストラを聞いて、台風が来る前みたいな妙な高揚感に襲われた。それと、ぶちゃいくなキルスティンがますますぶちゃいくになってるのにも興味が沸きました(笑)

本編でいきなり特報で見たCG映像が序章のように流れ始める。ドグマ95なんてやってたトリアーがCG満載のSF映画だなんて珍しいなと思っていたら、それらの映像はその序章と巨大惑星が出てくるシーンくらいで、それ以外はいつものトリアー映画らしい薄暗さと人物に寄り添ったような映像で描かれる。第1部はジャスティンに寄り添い、結婚式のホームビデオみたいでリアル。第2部では姉のクレアに密着し、惑星が近づくたびに恐怖に怯える姿を映し出す。ハリウッドのSF映画なら人々がパニックになっているシーンや、テレビの報道をバンバン流して煽るが、この作品では郊外の邸宅が舞台で報道は流さず、登場人物も5人だけ。でもじわじわと惑星が近づいてくる恐怖はちゃんと描ききれている。そこが巧みだと思った。

最初は1部の結婚式が延々と続く様子にダレていたし、ジャスティンの身勝手な行動にもイライラした。妹をフォローするクレアと、式の会場をセッティングしたクレアの夫ジョンにも同情したし。でも2部が始まって、彼らの印象がガラリと変わった。そして1部を延々と見せた意味も理解できた。思えば最初に長〜いリムジンが道を曲がれなかったところが“終わりの始まり”だったんだなって。おめでたい場を壊す母、娘なんてどうでもいい気儘な父、式にも仕事を持ち込む傲慢な上司、気持ちが不安定になっていく中で式のスケジュールは勝手に進んでいく。常識的な振る舞いができず、自分1人だけ取り残されていっているような気分になったんじゃないだろうか。そして、もういつ死んでもいい、もう何を失っても怖いものなんてないというジャスティンにとってメランコリアの存在は恐怖ではなく、自分も周りもすべてを消し去ってくれるありがたい存在になってしまったんだろう。惑星が近づくにつれて冷静になり頼もしさすら感じられていく。

けれどクレアやジョンなど日常的な暮らして幸せを感じている人々にとっては恐怖でしかない。自分はやっぱりクレアが一番共感できる存在だったな。妹を気遣い、子どもの面倒をみて、夫の言葉を信用する。だが、それが違った時のパニックぶりや、一番最後のシーンで思わず手を放してしまったところがものすごくリアル。それを見て思わず心臓がキュッとなってしまった。切ないわ・・・。あ、あと登場人物で一番の常識人に見えたジョンが取った行動に唖然としたが、実際こういう人もいるだろうなぁ。

見終わった後、何となくスッキリしてしまったのは私だけだろうか。今までのトリアー映画では感じたことない気分(笑)ひょっとしたら彼自身、この映画を製作することで何かから解放されたのかもしれない。今後はどういう作品を撮るようになるのか楽しみだ。
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人生はビギナーズ('10アメリカ)-Feb 11.2012
[STORY]
アートディレクターのオリヴァー(ユアン・マクレガー)の母が亡くなった後、父ハル(クリストファー・プラマー)が突然自分はゲイだと宣言した。そしてゲイ・コミュニティに参加するようになり、若い恋人まで連れてくる。そんな父に戸惑いながらも受け入れるオリヴァーだったが、父はガンに侵されていた。父を看取った後、オリヴァーはフランス人女優のアナ(メラニー・ロラン)と出会い、恋に落ちるが・・・。
監督マイク・ミルズ(『サム・サッカー』)
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脚本は監督のマイク・ミルズ自らが執筆。彼の父親がゲイだとカミングアウトし、75歳で亡くなるまでの5年間の出来事に基づいて書いたという自伝的映画。その父親ハルを演じたクリストファー・プラマーは第84回アカデミー賞で助演男優賞を受賞した。

厳格だった父の突然のカミングアウトでオロオロする主人公を描いたライトな作品だと思ってたんだけど、実際見てみるとかなり湿っぽい、感傷的な映画だった。
オリヴァーと父とのやりとりはほぼ回想シーンで、父を亡くした喪失感が丁寧に描かれている。父がゲイだと公言し、今まで見たことのない喜びに溢れているのを見て嬉しく思いながらも、幼い頃の両親を見て気がついた違和感の正体を理解する。同時に、この両親から生まれてきた自分の存在を否定されたような気分になったのではないだろうか。怒りをぶつけたくてもその両親はもういないから、余計に空しさだけが残る。感情をあまり表に出さず淡々としているから分かりにくかったけど、こうして書いてみると弱りきっていても仕方がないわ。見ている間は彼がナイーブすぎると思ってしまったんだけどさ・・・ごめんよ。

まぁ言い訳がましくなるが、監督が自ら脚本も手がけているせいか、作品に対してちょっと客観視できてないかなと思った。オリヴァーに寄り添ってジメジメしすぎなんだわ。それに比べてアナはどういう女性なのかほとんど分からない。女優って言ってるけどホントなの?ひょっとしてこの謎の女にオリヴァーは騙されているんじゃないかと心配しちゃったよ(笑)彼女と彼女の父親との間に何かわだかまりがあることが分かるんだけど、その部分とオリヴァーとハルとの関係がリンクしていくのかな?と思ってたら全然そんなことないし。主人公を癒す天使みたいな存在としてアナを登場させたんだろうけど、もうちょっと血の通ったキャラにしてほしかったな。それにフランス女はあんなに優しくはないぜ(おい)

全体的には丁寧で、マクレガーとプラマーもじっくり演じられたんじゃないだろうか。そこは良かった。プラマーは思ったより出番がなかったんで助演男優賞はどうかな?と思ってたんだけど、ともかくおめでとう。
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