Movie Review 2010
◇Movie Index
第9地区('09アメリカ=ニュージーランド)-Apr 11.2010
[STORY]
南アフリカ。28年前、巨大宇宙船が現われ、ヨハネスブルグに漂着する。宇宙船の故障で飛びたてなくなってしまったのだ。国はやむを得ずエイリアンたちを受け入れるが、難民となった彼らはその数を増やし、その場所“第9地区”はスラムと化した。そこで国はエイリアンたちを新たな難民キャンプへ強制移住させることを決定し、超国家機関MNUが現場の指揮を取ることになった。このプロジェクトの責任者に抜擢されたヴィカス(シャルト・コプリー)は、第9地区に赴いてエイリアンたちに立ち退きを迫るが、あるエイリアンが隠した謎の液体を浴びてしまい、そこから様子がおかしくなってしまう。
監督&脚本ニール・ブロムカンプ(『Tempbot』)
−◇−◇−◇−
本作はブロムカンプが2005年に監督した短編映画『アライブ・イン・ヨハネスブルグ』を長編化したもので、製作はピーター・ジャクソン。製作費は3000万ドル(28億円くらい)と低予算で、主演のコプリーは監督の高校時代の友人であり、自身も短編映画などを監督している。『アライブ・イン・ヨハネスブルグ』ではプロデューサーを務め、カメオ出演もしている。
第82回アカデミー賞で、作品賞・脚色賞・編集賞・視覚効果賞の4部門でノミネートされた。

宇宙船が故障してヨハネスブルグ上空に留まって28年、その下にはスラムができあがり、ナイジェリア人が宇宙人をカモにして暮らしている。当時は相当パニックになったようだが、現在は恐怖心もなく見た目のキモさにも慣れちゃって、単に「あいつらウゼー」ってな空気になっちゃってる。それでもずっと無視するわけにはいかないと、とりあえず第10地区の難民キャンプに移動してもらおうか、という導入部。なんか新鮮な設定でぐっと引き込まれた。人間と宇宙人が手を取り合ってるモニュメントがまたちょっとリアルで、これを設置した時のことを想像してふと笑ってしまったほど。

この移動プロジェクトの責任者となった主人公がこれまた「大丈夫?」って心配になるような人で、でも思ったよりテキパキと仕事してるなぁなんて感心していたら大変なことが・・・!普通の人だった主人公が世界中から狙われるようになってしまうところがこれまた面白かったが、アクションシーンになったところで「あれ?」となった。どっかで見たことあるような・・・そうだ『アバター』だ!パワーローダーが出てくるし、『アバター』で主人公と戦うクオリッチ大佐(スティーヴン・ラング)と、本作のクーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ)もそっくり。顔は似てないけどキャラクターが。どっちも大佐だし。あ、主人公が敵だった相手に同化しちゃうところも似てるな。でも『アバター』は正義感からで、この映画ではただ元に戻りたい!っていうだけなのが大きく違うけど(そこがリアルでまたいいんだが)製作時期がかぶってるから偶然だろうけど、それまで新鮮だなぁと思ってたのが、似たようなものを見てしまって微妙な気持ちになってしまった。これが見た順番が逆だったらまた感想も違ったかも。
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シャッターアイランド('10アメリカ)-Apr 9.2010
[STORY]
1954年。ボストンの沖合に浮かぶ“シャッター アイランド”と呼ばれる島には、精神を患った犯罪者を収容する病院があった。警備が厳重なその病院で、ある女性患者が失踪する事件が発生する。事件を調べるため、連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)は相棒のチャック(マーク・ラファロ)とともに島を訪れる。病院の院長コーリー(ベン・キングズレー)は2人を案内するが、何かを隠しているようだった。秘密を持っているのはテディも同じで、実は妻を殺した放火魔がこの島にいるという情報を知り、復讐するために島にやってきたのだった。
監督マーティン・スコセッシ(『ディパーテッド』
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原作はデニス・ルヘインの同名小説(彼の小説はほかに『ミスティック・リバー』が映画化されている)スコセッシ監督とディカプリオ主演の4作目。

個人的に4作の中でこれが一番良かったと思う。それまでのディカプリオは背伸びしてるというか気張りすぎて見てるこっちが苦しかった。本作でも気張ってはいるが、ようやく演じるキャラクターと実年齢と見た目が合致してきた。
今まで『ギャング・オブ・ニューヨーク』ではダニエル・デイ=ルイスに食われ、『アビエイター』ではケイト・ブランシェットに受賞され、『ディパーテッド』でようやく監督が受賞したけどディカプリオは何もなくマーク・ウォールバーグがノミネートと、実はスコセッシとはあんまり相性が良くないのかな、なんて思った時もあった。まぁ本作も「スコセッシにはもうオスカーあげたからいいだろ」ってことで作品ごと無視されそうな感じではあるが(内容も内容なだけに)それでも、私は今回のディカプリオは、というかラストの彼の演技は絶賛したい。ホントのこと言うとラスト前までは「あ〜またいつもの怒りの表情かい」とちょっとうんざりしていた。でも最後の彼は本当にいい意味で裏切られたし、この映画そのものの解釈をガラリと変えてしまう演技だった。これは決して謎解き映画なんかじゃないですよ。「怖い!」と思ってたシーンももう1度みたら切ない気持ちになりそうだ。

だから日本の配給会社の宣伝にはホントに呆れる。衝撃のラスト!だけならまだしも、上映前に念を押すかのように、この映画のラストは誰にも話すなとか、登場人物の目線や仕草に注目しようとか、大きなお世話だっつーの。最初からうがった見方をしてしまうし、細かいところばっかり探してたら本筋が分からなくなる可能性があるのに。そう宣伝したほうが集客できると思ってやってるんだろうが、謎解き目当てに見に行ってガッカリしたりつまらないと思う人がたくさんいたら、それは映画にとって不幸なことだ。
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プリンセスと魔法のキス('09アメリカ)-Mar 24.2010
[STORY]
1920年代のニューオーリンズ。黒人の少女ティアナ(声:鈴木ほのか)は、自分のレストランを持つために昼夜を問わず働いていた。そんなある日、マルドニア王国からやってきたナヴィーン王子の歓迎パーティの手伝いにやってきたティアナは、1匹の喋るカエルと出会う。そのカエルが言うには、自分は魔術師によってカエルに姿を変えられてしまったナヴィーンだと言うのだ。呪いを解くためにはプリンセスのキスが必要だと言うカエルに、ティアナは仕方なくキスするが、何とティアナまでカエルになってしまう。だが驚く間もなく、王子の財産を狙う魔術師のファシリエが、カエルになったナヴィーンを捕まえようと襲い掛かってきた。2匹は慌てて逃げ出すが・・・。
監督ジョン・マスカー&ロン・クレメンツ(『アラジン』)
−◇−◇−◇−
E・D・ベイカーの小説『カエルになったお姫様』が基になっており、グリム童話の『かえるの王子』も劇中に登場する。
ディズニープリンセスは過去8人(白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫、アリエル、ベル、ジャスミン、ポカホンタス、ムーラン)おり、本作のティアナが9番目の公式ディズニープリンセスとなった。
第82回アカデミー賞では主題歌賞に2曲と、長編アニメ映画賞にノミネートされた。

『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』が大好きで(それよりもっと前の『白雪姫』や『シンデレラ』はもっと好きだけど)『ライオン・キング』以降は「あれれ?」って感じになり、いつのまにかピクサーの劣化版みたいなCGアニメが作られはじめ、 ついには見たい作品がなくなっていった。

それが『魔法にかけられて』で少しだけどセルアニメが使われ(実はこの映画のアニメ部分はディズニー製作じゃなくて他社に委託したものだった)映画の感想でも書いたけど、またディズニーらしいプリンセスが登場するアニメが見たいなぁと思っていたから、本作が作られて本当に嬉しかった。そして『アラジン』を監督した人が手がけたんだから見ないわけにはいかない!と。実はこのマスカーとクレメンツは一時ディズニーを退社していたということを今回の映画を見る時に知った(ディズニーがセルアニメ部門を閉鎖していたから)

で、そのセルアニメ部門を復活させたのが、あのジョン・ラセターだった。彼はピクサー・アニメーション・スタジオとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ両方のチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任。ディズニーにはピクサーの追従をやめさせて(だって圧倒的に敵わないし)セルアニメに力を入れるべきだと考えたんだろう。私もそれが正しいと思う。次回作は『ラプンツェル』だそうで、これもすっごく楽しみだ。いつか日本のプリンセス映画も作ってくれないかなぁ。『かぐや姫』とかどうよ(笑)

上映スケジュールの関係で日本語吹替版を見ることになっちゃったんだけど(字幕版の回数少なすぎ)ミュージカルなどで活躍する役者さんが担当していたので違和感なし、むしろ絵に集中できて満足。それに子供の頃は吹替しか見てなかったわけで、懐かしい気持ちになれた。
アニメのほうはまず、独特の滑らか動きがやっぱり好き。スカートがひるがえるところなんてもう最高!ティアナがレストランを持つのが夢だと歌うシーンは陰影のない単純化したアニメを多用していて、ちょっと手抜きな感じもしないでもなかったが、群集からティアナを目立たせるための演出と思えば悪くない。

ストーリーは、なんつーか、本当に全方位に対して気を使ってるなぁって感じ。黒人初のプリンセスってことで白人から差別を受けてるような描写はできないし、かといって差別されてなければないで文句が出るし・・・。親友は白人のお嬢様なんだが、とってもいい子に設定することで白人からの文句も防ぐと。王子様は勘当されてお金がなく、主人公は王子との結婚がゴールではなくレストランを開くことにすれば、フェミ対策もバッチリ。ホントに大変ですなぁ。まぁ本作は原案はあるけどオリジナルだからこれでいいとしても、原作のある話を取り上げる場合はあまり改変しないで貰いたいな。そういう話なんだから。
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マイレージ、マイライフ('09アメリカ)-Feb 27.2010
[STORY]
企業のリストラ対象者に、会社に代わって解雇を通告する仕事をしているライアン(ジョージ・クルーニー)は、わずらわしい人間関係を嫌い、結婚願望もなく、家にいるより出張しているほうが好きな男。そしてマイレージを1000万マイル貯めることがだけが人生の目標だ。出張先では彼と同じような考えを持つキャリアウーマンのアレックス(ヴェラ・ファーミガ)と出会い、割り切った関係を楽しむようになる。だが、会社に新人のナタリー(アナ・ケンドリック)が入社したことでマイルが貯められなくなる危機に直面する。彼女はネットで解雇通告をして出張を廃止するというシステムを提案し、会社も乗り気だった。ライアンは、慌ててナタリーの教育係となって一緒に出張し、解雇通告の辛さを教えようとする。
監督&脚本ジェイソン・ライトマン(『JUNO/ジュノ』
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原作はウォルター・カーンの同名小説。
第82回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞・助演女優賞(ファーミガとケンドリックのダブルノミネート!)・脚色賞にノミネートされた。

30代前半で既に2回目のノミネートを果たし、オスカー常連みたいになっちゃたジェイソン・ライトマン。近いうちに受賞しそうな勢いだ。高尚な物語は選ばず身近にありそうでなさそうな話を取り上げるという作品選びが上手いし、冒頭はコメディっぽく軽めにして観客の興味を引き、徐々に誰しもが感じる孤独や不安をさりげなく見せて共感させ、ラストはちょっと前向きな気持ちになれるという、その絶妙な匙加減。決して計算してやってるわけじゃなく、ごく自然にできてるように感じる。これは天性の才能というか、もうお父さん超えてるかもしんない(そういえばお母さんも映画を撮ってるんだよね)

あとキャスト選びも上手いと思う。極端な役作りを必要としない、その役者自身のパーソナリティを生かした役を配してて無理がない。クルーニーは今までもハマり役はたくさんあったけど(伊達男とか)本作はわざとらしさを感じさせず、クルーニーも私生活で華麗なる独身生活を送っているせいか、ついライアンと彼自身を重ね合わせてしまうのだ、こっちが勝手にだけど(笑)そして「リアルだなぁ」なんて感じてしまうわけ。そういうところは完全に計算していると思う。

過去3作見てるけど、毎回ラストがちょっと弱いかなと感じている。それが持ち味ではあるし、ちょっとズラしたいという意図も分かる。でももうちょっとインパクトがあればいいなぁと欲が出てしまう。それまでが良かっただけにね。今後に期待。
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オーケストラ!('09フランス)-Mar 18.2010スバラシイ★
[STORY]
ロシアのボリショイ交響楽団で清掃員として働くアンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコフ)は、30年前、指揮者として活躍していた。 しかしその当時、国がユダヤ人演奏家たちを解雇したことで彼も反発し、解雇されていた。そんなある時、パリの劇場から出演依頼のFAXが 届いたのを見つけ、かつての仲間たちを集めてオーケストラを結成し、ボリショイ交響楽団と偽ってパリへ行こうというとんでもない計画を立てる。
監督&脚本ラデュ・ミヘイレアニュ(『約束の旅路』)
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第35回セザール賞で6部門にノミネートし、音響賞とオリジナル作曲賞を受賞した。フランスで大ヒットし、フランス映画祭2010でも観客賞を受賞した。私もこの映画祭で鑑賞した。

清掃員がかつての仲間たちを集めてパリに乗り込みコンサートを開く――いわゆる一発逆転パターンの映画か、と思いつつもこの手の映画が大好き(笑)なのでもちろん見た。

最初は仲間に止められるほどの強引なやり口でパリ行きを決める主人公。だがいよいよ・・・というところで急にヘタれる(笑) これもよくあるパターンのやつだ!(人差し指でビシッ)男性ストリッパーやら男性シンクロの主人公とおんなじ。そして仲間たちはパリにやってくるとフリーダム。遊んだり商売を始めたりで全く練習にやってこない。このパターンには毎回イライラさせられて好きじゃないんだけど、お約束だからしょうがない。本物のボリショイに見つかりそうになるところもやっぱりお約束で(以下略)

そんな感じで軽く見ていたんだけど、アンドレイが共演を望んだヴァイオリニストのアンヌ=マリー(メラニー・ロラン)、彼女とアンドレイはきっと・・・と軽く考えていたら、いやいやこれはお約束じゃなくてとても深い理由だった。この事実を知って最後の演奏を聞くと本当に泣けてくる。セリフなんかは一切なくて、演奏するだけなんだけど震えるほど素晴らしかった。劇場の観客も演奏家たちも、気分が高揚していい表情するから余計に見てるこっちも胸が熱くなった。今もヴァイオリン協奏曲を聞きながらこれを書いてます(笑)映画の中では大成功して世界ツアーをやるほどになるんだけど、どうやら日本にも来たらしい(笑)ホントに日本に来てくれないかなぁ。
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