Movie Review 2008
◇Movie Index

フィクサー('07アメリカ)-Apr 17.2008
[STORY]
NY法律事務所に所属するマイケル・クレイトン(ジョージ・クルーニー)は表に出せない案件を裏で処理する優秀な“フィクサー”だが、ギャンブル好きで妻とも離婚し、いとこの借金を背負うハメになるなど私生活では問題を抱えていた。そんな中、農薬会社U・ノース社に対する集団訴訟で、U・ノース社側の弁護を担当していた同僚のアーサー(トム・ウィルキンソン)が突然奇行に走り、マイケルは事態の収拾を任される。
一方、U・ノース社の弁護士カレン・クラウダー(ティルダ・スウィントン)は、アーサーが原告たちに会ったり密かに内部資料を手にしていることを嗅ぎ付け、ある行動に出る。
監督&脚本トニー・ギルロイ(『ボーン』シリーズの脚本家で初監督)
−◇−◇−◇−
製作はクレイトンの上司役で出演もし、監督としても有名なシドニー・ポラック。製作総指揮にはスティーヴン・ソダーバーグやアンソニー・ミンゲラ、そしてクルーニーも名を連ねている。
第80回アカデミー賞で、作品賞・主演男優賞(クルーニー)・助演男優賞(ウィルキンソン)・助演女優賞(スウィントン)・監督賞・脚本賞・作曲賞の7部門でノミネートされ、助演女優賞を受賞した。

アカデミー賞ノミネート作品だし、予告での重厚な雰囲気からして『インサイダー』 みたいな社会派ドラマに違いないと、事前に登場人物やあらすじを頭に入れてから臨んでみたんだけど・・・なんか騙されたというか、ハッタリ映画を見せられたような気分。これがアカデミー賞にノミネートかよ、と。面白くないわけじゃないんだけどね。タイトルも原題の『マイケル・クレイトン』ならこんな風に思わなかったかもしれないのに。『フィクサー』なんてタイトルつけるから・・・(ちょっと言いがかり)

ギャンブルを終えて仕事に戻ったクレイトンが、帰る途中で草原に佇む馬を見つけて車を降りる。馬を眺める後ろでクレイトンの車が爆破される。これだけ見ただけでは何のことかさっぱり分からないのだが、そこから物語は4日前に戻り、そのシーンに至るまでの経緯を見せていく。再び同じシーンが繰り返されるのだが、今度はその全ての意味が分かるようになっている。ここはかなり面白かったんだけど、その爆破のところがなんつーか脚本が練れてないというか・・・ネタバレになるけど(ここから)アーサー殺しについては慎重かつ完璧に仕事したのに、クレイトンには車を爆破ってすごい安易。しかも準備も適当、爆破も適当、いくら遺留物があったからといって死体のあるなしくらい調べればすぐに分かるだろうにクレイトン死亡って・・・。(ここまで)後半になるにつれてどんどん粗さが目立ってしまった。爆破シーンのところを2度見せるためだけに作ったストーリーかと思ってしまったほどだ。

原題は『マイケル・クレイトン』だが、実は『カレン・クラウダー』でもある。1つ1つは短いシーンばかりだが、彼女の人となりはクレイトンよりもよく分かる。クールで完璧に仕事をこなしているように見えるが、見えないところでものすごい努力をしている。書類は何度も読み返し、全身を鏡に映して服装をチェック。障害があれば全力で取り除こうとする。あまりに必死なので、彼女が行き過ぎた行動に出ても、悪い女だとか腹立たしい気持ちにはならなかった。クレイトンだって同じようなものだし。どちらが結果的に上手くコトを運べたか、それだけの差だ。一番面白いと思ったのはそこだった。
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パラノイドパーク('07フランス=アメリカ)-Apr 12.2008
[STORY]
16歳のアレックス(ゲイブ・ネヴァンス)はいとこに誘われてスケートボーダーたちがたむろす公園“パラノイドパーク”へ行く。パークが気に入ったアレックスは後日夜中に1人で行くが、そこである男に貨物列車に飛び乗る遊びに誘われる。だがその最中、アレックスは誤って警備員を死なせてしまう。逃げたアレックスは今までと変わらず過ごそうとするが、学校に刑事がやってきてボードをやる少年たちを呼び出した――。
監督&脚本ガス・ヴァン・サント(『エレファント』
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原作はブレイク・ネルソンの同名小説。第60回カンヌ国際映画祭コンペティション出品作品で、60周年記念特別賞を受賞した。
撮影はクリストファー・ドイルで、アレックスの叔父の役で出演もしている。

私にとっては『エレファント』以降初めて見る作品だ。チラシをパッと見た感じで『エレファント』のような作品なのかも?と思って興味が湧いたんだけど、私が見てない『ジェリー』『ラストデイズ』(←なぜ見てないかというとストーリーに興味を持てなかったから)そして『エレファント』が三部作という扱いらしく、被写体との距離を保った作品という括りなのね。確かに『エレファント』を見た時、犯行に及んだ少年たちにも撃たれた学生たちにも肩入れすることなく、淡々と彼らを追い続けていた。

それが本作では被写体に近づいた作品ということで、『エレファント』と違うのは見ててよく分かった。アレックスの一挙手一投足、それこそ瞬きの1つまでも映して彼の心の内を見せようとしている。時々掛かる激しい音楽も、パラノイドパークでスケートボードをする人々の映像も、すべてアレックスの心象風景にみえた。スクリーンのサイズも『エレファント』と同じスタンダードサイズだけど、これも両者では全く意図が違うようにみえる。『エレファント』ではあの小ささに息苦しさを感じたけれど、本作ではアレックスが知っている小さな世界がそのままスクリーンの大きさに表されているようだった。アレックス本人も背が実は180センチ以上あるとは思えないほど、なんか小さく見えたなぁ。

ラストのアレックスの表情がたまらなくよかったけれど、ワタシ的にはやはり『エレファント』のほうが好み。主人公に近づきすぎるとかえって焦点がぼやけてしまうというか独りよがりになることが多くて、私はそういう映画が嫌いなのだが、本作はわざとやっているせいか嫌いではない。でもギリギリかな(笑)距離を置いた演出をしたらどんな映画になっていたか見てみたいとフト思ったけれど、かえってアレックスに同情してしまったかもしれないから、やはりこの撮り方で正解なんだろう。作る側が近寄れば近寄るほど、観客は自然と距離を置こうとする・・・あ、だから私は近づきすぎる映画が嫌いなのか〜。なんか分かった気がする(笑)
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ジェイン・オースティンの読書会('07アメリカ)-Apr 12.2008
[STORY]
離婚歴6回のバーナデット(キャシー・ベイカー)は、愛犬を亡くしたブリーダーのジョスリン(マリア・ベロ)を励ますためにジェイン・オースティンの読書会を思いつく。メンバーは他に、20年連れ添った夫から別れを告げられ失意のどん底のシルヴィア(エイミー・ブレネマン)と彼女の娘でレズビアンのアレグラ(マギー・グレイス)、夫はいるが教え子に惹かれる高校教師プルーディー(エミリー・ブラント)、そしてオースティンを1冊も読んでないのにジョスリンに誘われるまま参加することになったSFマニアのグリッグ(ヒュー・ダンシー)。この6人が集まり、毎月1冊オースティンの小説について語り合うことになるのだが・・・。
監督&脚本ロビン・スウィコード(『SAYURI』などの脚本家で初監督)
−◇−◇−◇−
原作はカレン・ジョイ・ファウラーの同名小説で、本作のほかにはSFやファンタジーの著書がある(グリッグがSFマニアという設定はそこから来てるのだな)

この映画を見るなら当然オースティン作品をすべて読んでいるのだろうと思われるかもしれないが、実は1冊も読んでません(笑)日本で公開された映画なら見てるんだけどね(『エマ』と『いつか晴れた日に』と『プライドと偏見』)原作も読みたいと思いつつ、つい他の本に手が伸びてしまっている状態だ。だからこの映画にもすごく興味があったんだけど、原作を知らないとついていけないのかも・・・と躊躇していたのだが、知らなくても楽しめるという解説を読んで見てみることにした。

オースティンの長編小説は6作あり、メンバーの6人がそれぞれ担当を決めて自宅でもてなしつつ作品について語り合う。担当の作品内容と担当者は微妙にリンクしていて、例えば『エマ』を担当したジョスリンは離婚したシルヴィアとグレッグをくっつけようと躍起になる設定だ。だけど、これ以外はあまりピンとこなかったな。アレグラと『分別と多感』のマリアンがちょっと似てるのかな〜くらい。でもオースティンを抜きにしても、シルヴィアやプルーディーがどうなってしまうのか?!夢中になって見てしまった。どちらもオースティン的な結末だと分かっててもつい、ね(笑)だけどこうして見てみると最終的には男が折れるっつーか、男のほうが女の好みに染まっていくように見えました。そこは女性が作ってる映画だからなのかな、やっぱり。

残念なのはバーナデッド。彼女は読書会の言いだしっぺで、みんなのまとめ役っぽい存在なんだけど、彼女自身のことはあまりよく分からなかった。作品とどうリンクしてるのかも私には分からなかったし。作品に出てくる誰かに似てるんでしょうか。やっぱりオースティン作品を読まなきゃ〜。
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クローバーフィールド/HAKAISHA('08アメリカ)-Apr 6.2008
[STORY]
“Cloverfield”と呼ばれるビデオ映像。これはセントラル・パークと呼ばれた場所で見つかったものである。
ニューヨーク。東京へ転勤が決まったロブ(マイケル・スタール=デヴィッド)のためにパーティが開かれ、友人のハッド(T・J・ミラー)はビデオカメラを回す。そんな中、突然大きな揺れがあり外では大爆発が起きている。そして自由の女神の頭が上から落ちてきた。街は大パニックになりロブたちもマンハッタンから逃げようとするが、別れた恋人ベス(オデット・ユーストマン)から助けてほしいという電話を受け、一番危険な場所へ足を踏み入れていく。
監督マット・リーヴス(『ハッピィブルー』)
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製作は大ヒットしたTVドラマ『エイリアス』や『LOST』を手がけたJ・J・エイブラムスで、彼が監督した『M:i:III』のプロモーションで来日した際に、ゴジラのフィギュアを見たことから本作の着想を得たという。劇中ではロブが日本へ転勤する設定で、パーティーのシーンでは握り寿司や日本酒も登場。エンドクレジットで流れる曲もゴジラを意識したものらしい。
ちなみに副題『HAKAISHA』は日本がつけたものではなく、エイブラムスの指示だそうなので、ここから下もアレのことをHAKAISHAと呼ぶことにします(笑)

1台のビデオカメラでずーっと撮影しているように見せているドキュメンタリー風フィクション。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』と似てるんだけど、あの映画は本物なんじゃないかと言われた時期もあったからね(笑)本作は誰もが知ってる自由の女神の首が実際なくなっていないので(笑)明らかにフィクションだと分かって見るわけだが、臨場感を味わえるというか、もし本当に自分の街にHAKAISHAが来たらこういう風に見えるのかなと思った。
余談だけどつい最近、通勤途中で人身事故があり駅が大パニックになった。怒って叫び出す人がいたり、電車に我先に乗ろうと人が殺到しあやうく将棋倒しになりそうになったり。いつもならうんざりなんだけど、この映画を見ていたせいか「これは東京にHAKAISHAが来た時のための訓練だ」と思ったら頑張れた(笑)でも、みんな逃げるんじゃなくて会社に行くために必死なんだから日本人て偉いんだかバカなんだか・・・。
ただ、この映画ではパニックになって敵よりも人間のほうが怖ろしくなってしまうというシーンはないので、そこがちょっと足りないかなとは思う。『宇宙戦争』のほうがこの前の事故に近いかなぁ(比べるなよ)

ま、この映画の見せ場はなんと言ってもHAKAISHAのチラリズム★にあるわけで(おい)まずビルの隙間からちょこっとずつ見せるという視覚的なチラリズム。それから米軍はおそらくこのHAKAISHAの出現理由や特徴などを把握しているようだが、言葉での説明はなく行動や作戦を見せることでHAKAISHAの情報を観客にチラリチラリと提示していく。この手の映画って学者なんかが出てきていろいろ説明をしてくれるけど、この映画の切り口は新鮮で面白なぁ。最後のほうでHAKAISHAをばっちり見せてしまったのはワタシ的には失敗だと思うのだが見たい人もいるだろうし・・・しょうがないのかな。

すでに続編も決まっているようだが、今度はどういう見せ方をするんだろう?同じようにビデオ撮影ではさすがに飽きるんだけど。やっぱり酔って気持ち悪くなったしね(笑)
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魔法にかけられて('07アメリカ)-Mar 27.2008
[STORY]
魔法の王国“アンダレーシア”に暮らすジゼルはエドワード王子と出会い結婚することになった。だが、義理の息子である王子が結婚すると自分の地位がなくなるナリッサ女王は、老婆に化けてジゼルを騙し、彼女を魔法の井戸に突き落としてしまう。
そしてジゼル(エイミー・アダムス)が辿り着いた場所は、現実の世界、現代のニューヨークだった。助けを求めても誰も知らんぷり。そんな中、弁護士のロバート(パトリック・デンプシー)と娘のモーガンに助けられる。
監督ケヴィン・リマ(『102』)
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ウォルト・ディズニー・ピクチャーズがアニメと実写を融合させたファンタジック・コメディ。魔法の国がアニメーション、現実世界が実写で描かれている。第80回アカデミー賞では歌曲賞部門で“Happy Working Song”“That's How You Know”“So Close”の3曲がノミネートされた(受賞は逃しちゃったけど)

設定は面白いし、王子(ジェームズ・マースデン)の真剣なおバカっぷりと、家来ナサニエル(ティモシー・スポール)のアニメと実写の違いが全くないところ、そしてリスのCGは最高。特にリスはCG製作者が楽しみながら作ったという感じで、もう自信たっぷりに見せているようにみえた(笑)魔法の国では喋ることができるリスが、現実世界では全く喋れないため身振り手振りで王子に真実を伝えようとする。特にジゼルのモノマネが上手くて可愛くて面白くて(この時の声は監督のリマが演じている)ここは何度も見返したくなる。

ストーリーは、ディズニーだからねーまーしょーがないかー、と感じる部分が多かったかな。やっぱりヌルい。魔法の国では当たり前な、例えばいきなり歌ったり踊ったりすることが現実世界では頭のおかしい人だと思われてしまう。特に生身のジゼルはアニメより老け気味で、雨に濡れるとさらに老けて(実際アダムスって30過ぎなのよね)現実逃避しているアブナイ人にしか見えない。そんな人を見かけたらまず警察か病院に通報されるのがオチだ(『12モンキーズ』も『光の旅人 K-PAX』も精神病院に収容されてしまう)でもディズニーだからそこまではできない。だからといって家に連れて帰ったり親切にしすぎるのもちょっと受け入れがたい。他に納得できる理由をつけるとか、モーガンにとって必要だという強い説得力を持たせてほしかったな。時にモーガンの存在がほったらかしになっていて、都合のいい時だけ出してるようにしか見えなかったんで。同じようにロバートの婚約者も都合のいい使われ方をしていて気になった。

とはいえ、ジゼルとロバートが徐々に惹かれ合っていくところはやっぱりキュンとなりました(笑)ロマンチックなシーンを見るとやっぱりディズニーっていいわーと思う。アニメパートも色使いが綺麗で、このままずっとアニメでもいいかもと思ったほど。ピクサーアニメや変わった設定もいいけれど、正統派お姫さまアニメもまた見てみたい。
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