Movie Review 2007
◇Movie Index

幸せのちから('06アメリカ)-Jan 27.2007
[STORY]
1981年、サンフランシスコ。クリス・ガードナー(ウィル・スミス)は、骨密度測定器を病院にセールスする仕事をしていた。しかし機器は高額の為なかなか売れず、妻リンダ(タンディ・ニュートン)も働き詰めだったが、家賃も税金も払えない生活が続いていた。そんなある日、クリスは証券会社の養成コースに申し込む。6ヶ月間無給で働き成功すれば正社員になれるというものだ。だがそれを知ったリンダは家を出てしまい、クリスは5歳の息子クリストファー(ジェイデン・クリストファー・サイア・スミス)と2人で生活を始める。
監督ガブリエレ・ムッチーノ(イタリア出身で監督5作目。英語作品は初)
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子連れのホームレスから実業家になったクリス・ガードナーの実話に基づく作品で、TV番組で彼が特集されたことから話題になったそうだ。劇中、父子がすれ違う男性が本人なのだが、出演していることすら知らずに見てたけど出てきた瞬間に「この人だ!」と分かった。光沢のある上質な生地を使った仕立ての良いスーツを着ていて、ウィル・スミスが着ているヨレヨレのスーツとは対照的だった。これが成功者というものなのね〜。
ウィル・スミスは製作にも携わっており、第79回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた。

まるでトライアスロンか過酷なコースのマラソンを見ているような映画だった。ラストシーンはランナーがゴールテープを切るのを見てるような感じ(笑)とにかく主人公が走る走る。彼がいかにバイタリティがある人物なのかを観客に印象付けるもので、そういう一貫性のある演出は嫌いじゃないけど、走るシーンばっかりじゃなくて細かいところももっと見せて欲しいと正直思った。

高卒だが数字に強いという設定なんだけど、電話番号を暗記するところとルービックキューブを解くところぐらいでしかそれが分からない。彼が採用になるのはそれだけじゃなく、話上手だったり雑用もきちんとこなすところに好感を持たれたんだろうが、仕事そのものの能力もきちんと描いてくれないとスッキリできない。

スッキリしないといえば妻リンダのこともそう。あの状況では別れるしかなかったんだろうが、元はといえばクリスが悪いでしょ。勝手にインターンを受けて勝手に息子を連れ出し都合がつかなくなるとリンダに保育所へ迎えに行ってくれと頼む。本当に身勝手!彼のダメだった部分も描きたかったのかもしれないが、自分が女だからかリンダが不憫でならなかった。彼女は幸せになれたのだろうか・・・。

スミスの実の息子ジェイデン君は演技は上手くないけど、そこが良かった。親の気持ちを理解してる風な大人びた演技じゃなくて、父親のことを信じてはいるが普段は無邪気に自分の世界で遊んでいる子、という感じでとても自然だった。自然だから逆に、いろんなところに連れ回されたこの子も相当ストレスを感じてたんじゃないかって、そういう心配もしてしまった。うーん、あらゆるものを犠牲にし踏み台にしないと勝ち上がれないものなのかねえ。終わった瞬間はやったー!と思ったけど、全体的には微妙な作品だったな。
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ディパーテッド('06アメリカ)-Jan 25.2007
[STORY]
ボストン南部。ビリー・コスティガン(レオナルド・ディカプリオ)は警察学校で優秀だったためクイーナン警部(マーティン・シーン)とディグナム刑事(マーク・ウォールバーグ)に目を付けられる。そしてマフィアへの極秘潜入捜査を命じられる。
一方、コリン・サリバン(マット・デイモン)は、幼い頃からマフィアのボスであるコステロ(ジャック・ニコルソン)に世話になり、彼の命令で警察の内通者になるよう命じられる。そしてマフィアを撲滅するための部署SIUに配属される。
監督マーティン・スコセッシ(『アビエイター』
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2002年の香港映画『インファナル・アフェア』のリメイク。タイトルの『ディパーテッド(THE DEPARTED)』とは死者・故人という意味。当初ブラッド・ピットがキャストに挙がっていたが製作に回った。第79回アカデミー賞の作品賞・監督賞・助演男優賞(ウォルバーグ)・脚色賞・編集賞にノミネート。

『インファナル』は最高に良かったので、こちらは全く期待せずに見てみたが、パート1から3までを詰め込んだにしては纏まっていたほうだし、150分と長い割には飽きずに見ることができた。まぁこんなもんでしょう(偉そう)
『インファナル』は原題『無限道』の通り永遠に助からない無間地獄がテーマだったが、本作は宗教観の違いもあってかそういう描写は全くなくなり、代わりにアイルランド系移民の差別がテーマになった。だから「善人でありたい」という気持ちではなく、今の場所から這い上がりたいという気持ちが彼らを突き動かしていたように見えた。そのためオリジナルと違う結末になったが、私は本作はこのラストで正解だったと思う。

見る前に懸念していたが、やはり予想通りニコルソンが悪目立ちしていた。ビリー、コリン、クイーナンの3人が驚くほどドライな結末を迎えているのに対し、彼だけしつこいしつこい。何度斬られてもなかなか死なないサムライのコントみたいな感じ(笑)本人は楽しんでたみたいだけど、彼に時間を多く取るなら他に描いてもらいたいところがたくさんあったのに!カットされたのか封筒の中身については謎のままだし、ディグナムの行動は唐突だったしね(どうやらこちらも三部作になるという話なんだけど、これらの疑問の答えが続編で明らかになるのだろうか?)

また、ビリーVSコリン、クイーナンVSコステロ、という構図になるのにニコルソンに対してM・シーンでは弱いと思っていたが、弱いも何もニコルソンより格段に出番が少なかった(苦笑)やっぱりニコルソンと戦うならデ・ニーロかパチーノじゃなきゃダメだったんじゃ・・・ピット製作ならジョージ・クルーニーでも良かったかも。でもその代わりにウォルバーグが意外にも輝いていた。特別上手いわけじゃないし途中で不在になる役だったが、妙に印象に残る力強いキャラクターだったのでオスカーノミネートも納得だ。

ディカプリオは『アビエイター』おりもこちらのほうが適役だったけど、やっぱり私は怒ったカニ顔より濡れそぼった子犬顔(トニー・レオンのヤン)のほうが好きなわけで(笑)ビリーにももう少し哀しみの表情があると良かったな。デイモンはアンディ・ラウのラウより私は良かったと思う。見た目は屈強で聡明そうだが、中身は屈折していて冷酷。その臭いを敏感に嗅ぎ取ったのか、犬に避けられるシーンが何か分からないけど面白かった。何気ないところなんだけど、ここだけもう一度見たい(何故)
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マリー・アントワネット('06アメリカ)-Jan 20.2007
[STORY]
オーストリア皇女アントワーヌ(キルスティン・ダンスト)は、14歳でフランス王太子ルイ・オーギュスト(ジェイソン・シュワルツマン)と結婚する。最初はヴェルサイユ宮殿での結婚生活に期待するマリーだったが、ルイは彼女に興味を示さずベッドに入ってもすぐ眠ってしまう。次第に世継ぎを求める声が大きくなり努力をするが効果がない。このままでは自分の居場所がなくなってしまうという不安を紛らわすため、ファッションやギャンブルにのめり込むようになる。
監督&脚本ソフィア・コッポラ(『ロスト・イン・トランスレーション』
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原作はイギリスの作家アントニア・フレイザーの同名伝記。フランス政府の協力によりヴェルサイユ宮殿での撮影が許可されたが、家具などは一切使ってはならず持ち込での撮影だったようだ。第59回カンヌ国際映画祭コンペティション出品作品。

前評判や予告を見たところではトンデモ映画な雰囲気プンプンだったので、そのトンデモぶりを楽しもうと見てみたんだけど(『ロバと王女』でのヘリコプターみたいなトンデモを予想していたため)予想よりも全然普通じゃん?って思いました(笑)明らかなトンデモは、靴がたくさん出てくるシーンでスニーカーがチラッと映るくらい。許容範囲でした。

内容だって、断頭台の露と消えた悲劇の王妃じゃなくて、たまたまフランス王太子妃になっちゃった1人の女の子の青春物語と思えばオッケイ。知らない土地でひとりぼっち・・・というと『ロスト・イン・トランスレーション』もそうだけど、あれよりずっと共感できる。不妊の原因がたとえ夫のせいであっても(あれだけ寝室に人がいるのだから周知のことだろうが)悪く言われるのはやっぱり妻のほうなわけで、プレッシャーや陰口に耐え切れず、部屋で1人泣き崩れるアントワネットには心底同情してしまった。このシーンが一番印象に残ったし、良かったと思う。

そういえば思い返してみると、こういう感情的なシーンが他にあまりないことに気がついた。デュ・バリー夫人(アーシア・アルジェント)との確執もあっさり終了、子供の死も肖像画1枚で説明、ギロチンにかけられる前にエンドロール。その間ひたすら飲んで食べて着飾ってパーティーパーティー♪オシャレで綺麗なシーンしか描く気がないのか、ドラマチックなシーンは描けないのか分からないが、せっかく本物の宮殿や豪華な衣装や小物を使ってるのに勿体無い、とやっぱり思ってしまう。同じ舞台でマトモなアントワネットの映画だったら・・・!ソフィア・コッポラは今後もこのスタイルで撮り続けるのだろうか(溜息)

最初はアントワネットにキルスティン・ダンスト?!ありえない!と思ったけど、この映画では“アリ”だった。すごいブサイクな時とすごく可愛い時の幅が大きくてワタシ好みでした(笑)ルイ16世もいい。2人の子供っぽさ(15歳と14歳で結婚だもんね)が上手く出ていた。しかしフェルゼン(ジェイミー・ドーナン)まで子供っぽかったのはいただけなかったな。あんな中途半端な扱いになるなら登場させないほうが良かったのに。
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悪夢探偵('07日本)-Jan 14.2007
[STORY]
密室で自らの身体を切りつけて失血死する事件が立て続けに発生する。被害者はいずれも最後に携帯電話から“0”という名前で登録された番号に発信していた。刑事の霧島慶子(hitomi)は、被害者が悪夢を見ながら自分の身体を傷つけていることことから、他人の夢の中に入る能力を持つ影沼京一(松田龍平)に事件を調べてほしいと依頼する。しかし彼は他人の悪夢を見る苦痛に耐えられないと協力を拒む。
監督&脚本・塚本晋也(『六月の蛇』
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第1回ローマ国際映画祭と第11回釜山国際映画祭コンペティション出品作品。本来なら国際映画祭のコンペ出品は映画祭の中で初めて上映するということが条件らしいが、時差を考慮して同日同時間上映ができたそうだ(そこまでするか、としか言ようがないけど)

松田龍平を見るのは実は『御法度』以来。「大人になっちゃって〜」と親戚のオバチャンみたいな気持ちになってしまったのだが(笑)あの映画では妖しい雰囲気は出ていたけれど立っているだけでいっぱいいっぱいに見えて、それはそれで微笑ましかったけどね。本作では妖しさは変わらないものの存在感がありスクリーン映えしていた。影沼というキャラクターだけなら、いくら見てもいいと思った。

ただ内容はツライものがあったな。まずhitomiが下手すぎ。顔のパターンが無表情と眉を顰めてるかの2パターンしかなく、しかもアップが多い。またこの顔か〜とうんざりし、髪の毛で隠してるけど実はエラ張ってない?とか、よく見ると安倍麻美に似てる気がする、なんていらんことを考えてしまったりして(笑)セリフはあんまり聞いてませんでした(ダメじゃん)喋りが一本調子でおまけに聞き取りにくいから余計に頭に入ってこなくて・・・と言い訳してみる。だからパート2が出来るとしてもhitomiは出さないで欲しいんだけどなぁ。

また、1人の夢に掛ける時間も長くてしつこいと思った。特に1人目は電話したあと翌日死んでいた、くらいの短さのほうが良かったんじゃないかな。ただの自殺?でもどこかおかしいぞ?と思わせるくらいのほうが引き付けられたと思う。2時間ないのにえらい長く感じたんだよね。その割に主役なのに影沼の出番は少ないし、塚本さんは出演者の中で一番演技は上手いけど出過ぎだし(笑)構成があまりよくなかったな。
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ラッキーナンバー7('06アメリカ) -Jan 13.2007
[STORY]
不運続きでニューヨークの友人宅へ転がり込んだスレヴン(ジョシュ・ハートネット)に、また新たな不運が舞い込む。友人と間違えられてギャングに拉致されたスレヴンは、“ボス”(モーガン・フリーマン)から借金返済を迫られ、敵対する男の息子を殺すよう命令される。さらにその敵対するギャングの“ラビ”(ベン・キングスレー)にも拉致され、借金返済を迫られる。
監督ポール・マクギガン(『ホワイト・ライズ』
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製作はFILM ENGINEという会社でハートネットは設立メンバーだそうだが、本作の製作には携わっていないようだ。アシュトン・カッチャーが製作総指揮だった『バタフライ・エフェクト』もこの会社の製作で、どちらの作品もArtPortが配給しているのが面白い。本作と同じドンデン返し映画『カオス』もArtPort配給。こういう作品が好きなのかしら(笑)

この手の映画は見すぎちゃってあまり新鮮な気持ちでは見れなくなっているんだけど、好きなジャンルだから公開されるとやっぱり見ちゃうんだよねー。本作は着想から10年近くかけて脚本を書いたらしいけど、ちょっと作りすぎかなぁ?と思った。

ネタは悪くないんだけど、ネタばらしが親切すぎるというかクドかった。複雑すぎてついていけなくなる人を出さないようにという親切心からか、説明がやたら丁寧。その分テンポが悪くなってしまい、嵌められる側の人間が、罠に掛けられるのを待っているだけの存在に見えてしまった。これでスピード感があったらまだ嵌められてもしょうがないって思えただろうけど。最初からネタが透けて見えちゃったせいもあるのかなぁ。

それにここまで丁寧だと、逆に説明のない部分が異様に気になってしまう。例えばスレヴンがラビの息子とトイレで話すシーン。直前でカットされたので後でどんな話をしたのかネタばらしされるのかと思ったら結局ナシ。どんな話をして約束を取りつけたわけ?ここは重要でしょう。ボティチェックも受けずに部屋に招き入れたんだよ?当初はスレヴンと息子がグルという設定だったか、それともゲイのフリして誘ったシーンを撮影したけど後からハートネット側からNGが出てカットされた、なんて想像までしちゃったじゃない(笑)DVDにはカットされたシーンや別設定(Youtubeで1つ見た)を収録して解説してもらわなきゃ納得できないぞ。

収穫はブルース・ウィリスがやたらカッコ良かったこと。『ダイ・ハード』シリーズでの泥臭いカッコ良さとはまた全然違い、クールでスマート。このキャラクターをこれ1作で終わらせるのはもったいない。彼が登場する映画を作ってくれないだろうか。
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