Movie Review 2006
◇Movie Index

スーパーマン リターンズ('06アメリカ)-Aug 21.2006
[STORY]
5年前、地球から姿を消したスーパーマン(ブランドン・ラウス)は、自分が生まれたクリプトン星があった場所まで旅をしていたが、星は廃墟と化していたため再び地球に戻ってくる。しかし5年の間にロイス・レイン(ケイト・ボスワース)は1児の母となっており、レックス・ルーサー(ケビン・スペイシー)は刑務所から出所していた。レックスはスーパーマンのグリーンクリスタルを使ってアメリカ大陸を破壊しようとしていた。
監督ブライアン・シンガー(『X-MEN2』
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『スーパーマン』シリーズは1978年の第1作から1987年のパート4まで作られているが、本作はパート2から5年後という設定。キャストは一新しているが、スーパーマンの父ジョー=エルは旧作のマーロン・ブランドの映像を使っている。

『X-MEN』のパート3を蹴ってこちらを選んだというシンガー。ということは、とてつもなくスゴイ作品なんだろうと期待していたのだが、うーん、やっぱり『X-MEN』のほうを最後まで撮って欲しかった(ってパート3を見て改めてそう思った)
旧作の時から私はスーパーマンがあまり好きではなかったせいかもしれないが(時間を戻し人を生き返らせるっていうのがやりすぎだし、ロイス・レインが好きになれない)本作では飛行機のシーンまでは面白かったけど、それ以降はあまり楽しめなかった。

飛行機のシーンは派手なアクションで乗客が助かるかどうかハラハラさせられるし、民衆がスーパーマンを待ち望んでいた!というのがよく分かるシーンになっていて、見てるこちらも思わず拍手したくなる。けれどクライマックスは人が住むところから離れた場所で起きるため(街も多少は被害に遭うし、後にアメリカ本土に被害が及ぶ予定なのだが)いまいち盛り上がらない。 スーパーマンが瀕死の重症になり、人々が病院に駆けつけるところも本当なら感動シーンなんだろうけど、はいはい助かりますから心配いらないですよーなんて醒めた目で見てしまった。『スパイダーマン2』でスパイダーマンが倒れるシーンでは号泣したんだけどね。やっぱりスーパーマンってエイリアン(異星人)なわけで、その人間味のなさが心を寄せづらいのかもしれない。ブランドン・ラウスがまた大根で(失礼)

また、スーパーマンが家の中を透視するシーンもイヤだった。ストーカーじゃないんだからさー(全身青タイツに赤ビキニパンツ赤マント赤ブーツ姿の男が、悪気もなく家の中を注視する姿は普通にヘンタイだ!)本当ならここだって、かつての恋人が家庭を築いているわけで切ないシーンなんだろう。でもラウスの演技力のなさ(やっぱり失礼)もあいまってドン引きするのみ。かえってロイスの恋人リチャード(ジェイムズ・マーズデン)に同情してしまった。彼はX-MENでも可哀相な男なので尚更ね(泣)

シンガーは続編にやる気マンマンらしいけど、個人的にはもうアメコミはおなかいっぱい。そろそろサスペンス系を監督してくれないかな。
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マッチポイント('05イギリス)-Aug 19.2006
[STORY]
アイルランドの貧しい家庭に生まれたクリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)は、プロテニスプレイヤーを引退後、ロンドンの高級テニスクラブのコーチになる。そこで金持ちの息子トムと親しくなり、彼の妹クロエ(エミリー・モーティマー)に気に入られる。やがて2人は交際を始めるが、一方でトムの婚約者ノラ(スカーレット・ヨハンソン)を口説いていた。そしてクロエと結婚後、クリスはノラと密会を重ねるが、ある時ノラから妊娠したと告げられる。
監督&脚本ウディ・アレン(『メリンダとメリンダ』
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ニューヨークを舞台にした作品にこだわり続けてきたウディ・アレンが、監督36作目にして初めてロンドンで撮影を行った作品。第78回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた。

舞台がロンドンになるだけで、こんなにも雰囲気が変わってしまうのかと驚いた。ウディ・アレン本人が出演していないせいもあるんだろうけど、今まではシリアスでも軽快な作品ばかりだったのに、本作は常に緊張感があって(特にクリスが常に緊張しているように見える)見てるあいだじゅう身体を強張ばらせていたようで疲労感が残った。上映時間が120分超えるのもひょっとして初めてだったのかなぁ?とても長く感じた。

野心家で欲しいものを着々と手に入れていくクリスだったが、浮気相手の選び方で失敗する。後腐れないアメリカ娘だと思っていたらそうではなく、クリスは妻と愛人の間で板ばさみになる。よくもまぁ躊躇することなく嘘がつけるもんだと感心しつつ、2人に言い訳しまくる彼を見るのがだんだん楽しくなっていった。このあたりはウディ・アレン本人が主役を演じた時とだぶって見えて、ああやっぱり彼の作品だと改めて感じた。
それにしても、本当はノラみたいな女の子が大好きなんだろうに、わざとこういう役どころを与えるなんて屈折してるなーと、ふと思った。本当は自分が共演したいけど年齢的に無理がある、こうなったらとことん不幸にしてやる!みたいな印象を受けた。

そうこうするうちにノラはクリスに脅迫じみたことを言い始めるようになり、クリスは窮地に陥る。ここで彼はある行動に出るのだが、思ったよりもずっと大胆なことをやらかしたので驚いてしまった。まさに大勝負に出たわけ。そこからは何度もピンチに襲われ、前半のもたついた展開が嘘のような怒涛のラリーの応酬。最終的にはさらにビックリするような結末が待っていて、なんかもう笑うしかなかった。いやいや、まさにテニスボールがネットにぶつかって向こうに落ちるか、こちらに落ちるかの差だった。

今までのウディ・アレン作品ってキッカリ“おしまい(The End)”という終わり方が多く、それはそれではっきりしていていいのだけれど、本作は続きが見たくなるような余韻のある終わり方で後を引いた。クリスは今後また新たなゲームを始めるのだろうか?そこがとても気になる。
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ユナイテッド93('06アメリカ=イギリス)-Aug 15.2006オススメ★
[STORY]
2001年9月11日。ユナイテッド航空93便が40名の乗客を乗せて、ニューアーク空港からサンフランシスコへの離陸の準備を始めていた。同じ頃、ボストン管制センターで、アメリカン航空11便がハイジャックされたことが分かった。ほかにも連絡が取れない機があり、各管制センターや軍が動き出す。しかし間もなくNYのワールド・トレード・センターに2機の民間機が激突した。その頃、ユナイテッド93便は無事に離陸し、乗客たちは朝食を取りながらの穏やかな雰囲気の中にいた。しかしテロリストたちはハイジャックの準備を始めていた・・・。
監督&脚本ポール・グリーングラス(『ボーン・スプレマシー』)
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2001年9月11日に空港を飛び立った航空機4機がハイジャックされ、2機はワールド・トレード・センターに、1機は国防総省ペンタゴンに激突し炎上。残る1機、ユナイテッド航空93便はターゲットだったホワイトハウスに到達する前にペンシルヴェニア州に墜落した。本作はユナイテッド93便が墜落するまでを、乗客の遺族や、軍、管制塔など関係機関への取材を元にドキュメンタリータッチで描いている。また、本作に登場する管制官や軍関係者の一部は本人自らが演じているそうだ。

まず、この映画は事実に基づいているがあくまでもフィクションということを忘れてはならない。すべて真実を描いていると信じるのは危険だし、特に93便機内のシーンについては想像部分が多いと思う。だからといって作品そのものを否定することはないと思うし、遺族も協力しているので嘘だらけというわけでもないだろう。こんな風に書いたのはこの映画がとてもリアルで本当だと信じてしまいそうになるからなのだ。有名な役者も出ていないし、管制塔のシーンは本物の管制官が演じているせいか臨場感に溢れているし、93便のシーンも本当にカメラで撮ってる人がいたのでは?と思うくらい、機内の揺れや傾きの激しさに酔ってしまう。

信じてはいけないといってもプロバガンダ臭い映画ではない。9.11については陰謀説やら自作自演説が出てるし、93便が軍に撃ち落されたという説もあるし、93便に乗っていたとされるテロリスト4名のうち2名は93便に乗っておらず(映画の中では乗っている)犯人扱いされて訴訟準備中なんて話もある。起きてから5年、まだまだ謎の多い事件なのだ。だから決め付けは良くないということね。

そのあたりをまるっと承知の上でも、私はこの映画はとても良かったと思っている。あの日のことを、できるだけありのままに描こうとする姿勢がいいし、特定の誰かをフィーチャーすることなくヒーローを作ろうともせず、テロリストに対しても余計な感情を込めず悪として描いていない。映画の最後に“9.11に命を失った全ての犠牲者に捧げる”というクレジットが出るんだけど、これにテロリストも含まれているんだな・・・って自然と観客が思うようになるのだ。
ただ、映画では93便の乗客たちのおかげで結果的にホワイトハウスを救ったような感じになったのが気になるところだけど、乗客たちはホワイトハウスへ向かってるって知らなかったからね。ただ助かりたい、そう思って行動を起こしただけだ。ここで「自分たちが助からなくてもホワイトハウスを守ろう!」なーんて発言が出ると途端にプロバガンダ臭くなっちゃうんだが(笑)

2機目の航空機がWTCに突っ込んだ直後と、93便が墜落する間際で真っ黒い画面に切り替わるシーンが特に印象深い。私はこの後、身体の震えを抑えながら涙をこらえるのに必死だった。私もすべての人のご冥福を祈りたいと思う。
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ハードキャンディ('06アメリカ)-Aug 11.2006
[STORY]
出会い系チャットで知り合った14歳のヘイリー(エレン・ペイジ)と32歳のカメラマンのジェフ(パトリック・ウィルソン)は意気投合し、カフェで待ち合わせる。その後ジェフの自宅に来た2人は酒を飲み、ヘイリーは写真を撮ってほしいと服を脱ぎ始めるが、ジェフは酔って意識を失くしてしまう。気が付くとジェフは椅子に縛られており、ヘイリーは部屋で何かを探していた。
監督デイヴィッド・スレイド(長編監督初)
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日本の女子高生が男をホテルに誘い、財布を抜き取って逃げたという事件にインスピレーションを受けて作ったという作品で(日本っていうのがなんか複雑)2005年サンダンス国際映画祭で上映し絶賛されたという。

撮影期間18日、登場人物は端役を含めてもたった5人、おそらく製作費もそれほど掛かってないと思うんだけど、スリリングで飽きない作品だった。赤ずきんだと思っていた女の子が実はオオカミだった、というアイデアがまず面白いね。やっぱりアイデアと脚本なんだよねー(脚本については後で書くことあるけど)
そして役者たちの熱演。劇中ほとんどヘイリーとジェフの2人だけで緊迫感あるシーンを持たせている。特にジェフ役のウィルソンには「お疲れさまでした」と声を掛けたくなる。演技とはいえ、縛られた手首は色が変わっていて本当に痛そうだった。ただ元々の彼が爽やか過ぎるのか、少女を誘うようないやらしさが感じられなかったし、激怒してもそれほど怖く見えなかったのが残念だった。もう少し下品なところがあると良かったかな。ラウル坊ちゃんの面影はなかったけども(笑)

ヘイリーは早いうちから余裕がなく、彼女の目的がうすうす分かってしまったのが惜しい。もっと無邪気にジェフをからかい、去勢手術も遊びのうちよ、というほうが怖かったのでは。そしてギリギリになってから本当の目的はこうだった!と観客を驚かさせるほうが面白かったと思う。ジェフを追い詰める作戦も説得力があまり感じられず。月並みだけど婚約者がいるか妻子持ちという設定のほうが、そうせざるを得ないと納得できたと思う。ヘイリーが何者だったのか明らかにしないのは正解でした。

ジェフとヘイリー、どちら側の立場になって見るかによって鑑賞後の感想が変わってくると思うんだけど、ワタシ的には必殺仕事人のテーマ曲が頭の中で回った、という感じですかね(笑)なぜかスカッとしてしまいました。男性が見るとダメかもね。
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太陽('05ロシア=イタリア=フランス=スイス)-Aug 10.2006
[STORY]
1945年8月。昭和天皇(イッセー尾形)は、皇后(桃井かおり)や皇太子と離れ、地下の待避壕で暮らしていた。侍従長(佐野史郎)に言われるまま御前会議に出て生物研究に勤しみ、午睡では悪夢にうなされる。やがて東京で空襲、沖縄でも多くの命が失われ、広島と長崎に原爆が落とされる。そして連合国占領軍総司令官ダグラス・マッカーサー(ロバート・ドーソン)との会見の日が訪れる。
監督アレクサンドル・ソクーロフ(『エルミタージュ幻想』
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ソクーロフによる“私の映画”4部作の3作目。『モレク神』ではアドルフ・ヒトラーを、『牡牛座』ではレーニン、そして本作では昭和天皇ヒロヒトを描いている。ちなみに4作目はゲオルグ・ファウストを取り上げるらしい。
第55回ベルリン国際映画祭出品。第13回サンクトペテルブルク国際映画祭グランプリ受賞。

映画祭出品時から話題の作品だったけど、題材が題材だけに日本での公開が危ぶまれていた。それがようやく配給会社が決まり公開となったわけだが、蓋を開けてみれば連日大盛況。シネパトスでは記録を作ったとか(笑)私が見に行った時も立ち見が出ていて、やはり年配の方が多かった。

私の記憶にある昭和天皇は、やはり園遊会などでの相槌「あっそう」が印象深い。興味がないからそっけないのかなぁなんて子供心に思っていたのだが、実は口癖だったそうで。本作でもイッセー尾形が「あっそう」を連発しているのだが、イントネーションが微妙に違うのが気になった。他にも侍従の言葉遣いや(「皇后様」「皇太子様」と様付けしてるのがおかしい。「皇后陛下様」とも言っててムチャクチャ)マッカーサーがやけに無礼だったりと(実際は会見前は出迎えなかったが、会見後には玄関まで送るほど態度を変えたという)事実をありのまま描いた作品ではないと分かっていながらも気になるところはいくつかあったが、茶化したり悪意を持った作品ではなく真正面から捉えたものをロシアの人が監督した、というのに感激してしまった。同時に、嬉しく思う自分ってやっぱり日本人なんだなーと改めて思った。

映画は昭和天皇の戦争責任を問うようなものではなく、終戦間際から人間宣言するまでの間、周りに翻弄される1人の人間として描いている。現人神と崇められてきたことに疑問を持ち、戦況悪化に苦悩しつつ、大好きな海洋生物の研究時間には我を忘れるほど没頭する。監督はヒトラーやレーニンはリアルな人物だが、昭和天皇は御伽噺的な人物だと評している。確かに浮世離れした独特な佇まいに、胸の内を顔に出すことなく訥々と話す姿を見ると、同じ場所にいても違う世界で生きているように見える。時にそれが無垢な子供のように映るし、アメリカ人たちがチャップリンに似ていると言うエピソードも頷ける。「ヒトラーには会ったことがない」とケロリとのたまいマッカーサーを絶句させるシーンなど、まるで喜劇を見てるようだった。

しかし戦争は現実に起きたことであり、天皇の存在が日本という国と日本人の運命を握ってきたのも事実だ。映画のラストではその影響力の大きさを改めて天皇に突きつける。実際にあったことではないのだろうけど、ここで作品がピリッと引き締まった。

ところで劇中に出てくる写真は実際の昭和天皇や香淳皇后を写したものだったが、女の子の洋服を着て木馬にまたがった子が昭和天皇のご幼少の時の写真だということ、外国の方は分かったかな(笑)監督は「昭和天皇もこんな時代があったんですよ」というつもりで映したのではないかなーと思うんだけど。余計なことかもしれないがテロップつけても良かったのではないかな。
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