過去に紹介した映画DVDです。
リチャード・フライシャー『マンディンゴ』
IVC から発売。最近、米版 DVD で見直したんだが、やっぱり傑作だった。
■ジェームズ・マンゴールド『ナイト・アンド・デイ』
蓮實重彦曰く、「この映画はめっぽう面白い」。
これもツイッターをやってなければ見てなかったかもしれない。見に行ってホントによかった。久しぶりに時間を忘れて楽しんだ。一昔前は、トム・クルーズが好きだというと馬鹿にされたものだが、今では俳優としてのすばらしさも認知されてきた。この映画でも、映画の運動のために全身を捧げていて、その役者魂には頭が下がる。
■ロジャー・コーマン『Roger Corman's Sci-Fi Classics 』[Attack Of The Crab Monsters, War Of The Satellites, Not Of This Earth]
『Attack Of The Crab Monsters』以外は見てない。
■スティーヴ・カーヴァー/ジム・ウィノースキー『Big Bad Mama / Big Bad Mama II』 (Roger Corman's Cult Classics)
『ビッグ・バッド・ママ』は日本版もあり。
■ ルイス・ティーグ/ジョナサン・デミ『Lady In Red / Crazy Mama』 (Roger Corman's Cult Classics)
『クレイジー・ママ』は日本版もあり。
■ サミュエル・フラー『裸のキッス』
Criterion 版。もうすぐ出ます。
日本版は今のところ Amazon では品切れ。
■成瀬巳喜男『Eclipse Series 26: Silent Naruse』
(『限りなき舗道』、『君と別れて』、『夜ごとの夢』、『生さぬ仲』、『腰辨頑張れ』)
■ミケランジェロ・アントニオーニ『さすらいの二人』
■フランク・キャプラ『オペラハット』
■ グル・ダッド『渇き』
紀伊国屋のばら売り。
■トマス・グティエレス・アレア『12の椅子』、『ある官僚の死』
前にどこかで紹介した作品ですが、いつの間にか日本で DVD が出てました。
■ウンベルト・ソラス『ルシア』
■『カール・Th・ドライヤー コレクション/ クリティカル・エディション むかしむかし』
『不運な人々』はまだ発売延期になっているようですが、代わりにこちらがきました。
■『レオス・カラックス DVD-BOX』(ボーイ・ミーツ・ガール&汚れた血&ポンヌフの恋人)
■ストローブ=ユイレ『雲から抵抗へ+あの彼らの出会い』
前に紹介したけど、いったん発売中止になってたので、もう一度紹介しておく。
■ウィリアム・ワイラー『月光の女』 どっちかというと『黒蘭の女』のほうが好きかな。まあ、両方ともワイラーなんで、余裕の感じられない〈名作〉です。
「出目で醜いというコンプレックスにさいなまれていた十歳の[ジェームズ・]ボールドウィンは、『スクリーンに映しだされたその顔に何かおびやかすような、不健康なものを感じと』り、『ベティ・デイヴィスの皮膚がまるで岩の下から這い上がってくる何かみたいに死んだように蒼白な、それもやや黒ずんだ色をしているに違いないと思』い、この『黒んぼのような動きを見せる』女優の『額にはりつめた知性と、唇に浮かぶ不吉な相に魅せられてしまう』のである。」(山田宏一『美女と犯罪』)
ブロンソン初期のTVシリーズ。これは見てないんだけど、ブロンソン作品ではこの頃のものの方が好きだなあ。ロジャー・コーマンの『機関銃ケリー』とか、アンドレ・ド・トスの『Crime Wave』とかで、ちゃちい暴力ギャングを演じていたときの。
『エル・トポ HDリマスター版』、『ホーリー・マウンテン HDリマスター版』 個人的には全然興味ないんですけどね、これを見たかったって人が結構いるみたいなんですよ。
なんか発売される前からツイッターとかで盛り上がっている。むかし見てるんだけど、そんなに面白かったっけ、ぐらいの記憶しかない。見直してみるか。
■『インセプション 』 Blu-ray & DVDセット プレミアムBOX
■ヴィットリオ・デ・シーカ『ウンベルトD 』[DVD]
■ バジル・ディアディン『Eclipse Series 25: Basil Dearden's London Underground』 (Sapphire, The League of Gentlemen, Victim, All Night Long) (Criterion Collection) (1962) 関係ないけど、最近、アレクサンダー・マッケンドリックの『Whisky Galore』という映画を見た。孤島に住む酒好きのアイルランド人たちが、村中ぐるになって当局から酒を隠すのに大わらわになるコメディの佳作である。『マダムと泥棒』と同じく、これも何かを盗む映画なのだが、その盗むものが、難破船から流れ出したウィスキーだというのがユニークな作品だ。
■ジョゼフ・ロージー『The Prowler』
『秘密の儀式』と何となく混同してしまっていたが、実は、見ていなかった。
■ アッバス・キアロスタミ『Shirin』 『トスカーナの贋作』の評判がすさまじいので、ついでにこの前作も紹介しておく。こちらはちょっと過激すぎて公開は難しかったのか、飛ばされてしまったようだ。
■ ピエロ・パゾリーニ『Carnet de notes pour une Orestie africaine』
未完の作品『アフリカのオレステス』を巡る映像覚書とでもいうべき作品。アフリカの学生を相手に自作を語っているときの温度差のようなものも記録されていて面白い。 『Note pour un film sur l'Inde』も同時収録。
ついでにこんな新刊本も。
■アンヌ・ヴィアゼムスキー『少女』
先日、東京に来てたのでツイッター上では大騒ぎだった。東京だからかんけーねぇや(うらやましい)。
これもツイッター上で非常に評価が高かった黒沢清の新刊。読まねば。
■青山真治『エンターテイメント!』 (朝日文庫)
■マルグリット・デュラス/ジャン・コクトー『アガタ/声』 (光文社古典新訳文庫)
それぞれ、デュラス自身とロッセリーニによって映画化されている。
気づいたものを適当に。
■野田幸男『0課の女 赤い手錠』
野田幸男の『0課の女 赤い手錠』が(初?)DVD 化。はぐれものの女刑事(杉本美樹)、政治家の手先となったデカ(室田日出男)、誘拐犯グループの三つどもえの争いを乾いたタッチで描いた幻の傑作。ゴミの舞う廃墟でのクライマックスが忘れがたい。
■ 中島貞夫『ジーンズブルース 明日なき無頼派』
■ジョン・フォード『Flesh』
■『Tcm Greatest Classic Films: Legends - John Ford』
■『Tcm Greatest Classic Films: Legends - Jean Harlow』
■ 中島貞夫『ジーンズブルース 明日なき無頼派』、『狂った野獣』、『日本暗殺秘録』
すべてフランス版。
■
フランク・ボザージ(フランク・ボーゼージ)の4作品を収録した DVD-BOX が発売される。『幸運の星』、『第七天国』、『街の天使』、それになんとあの幻の傑作『河』が入っているではないか。パリのシネマテークで『河』を見たときのことは忘れがたい。
女がひとりで山小屋のような家に住んでいる。そこに、山から木こりが下りてくる。木こりは女を好きになるが、女には、今は刑務所に入っている夫だか恋人だかがいる。木こりは女に対する思いを募らせていく。やがてその思いを抑えられなくなった木こりが、なにをするかと思ったら、上半身裸で表に出て、庭の木を狂ったように斧で切り始めるのだ。ボザージの映画としては、あるいは同時代のアメリカ映画としても、例外的なほどのエロティシズムがたちこめる傑作だ。 長い間、フィルムが失われてしまったと思われていた作品である。残念ながら、今も完全な形では見られないはず。
ブルーレイも同時発売。 『Lucky star - l'idole』 [Blu-ray]
『L'heure suprême』(『第七天国』) [Blu-ray]
『L'ange de la rue』 (『街の天使』)[Blu-ray]
別れ別れになった恋人同士が、堤防にそって反対方向から歩いてきて出会うまでをクロス・カッティングで描いた場面では、久しぶりに見ていて心臓が止まりそうになった。
■スティーヴ・セクリー『Le Balafré』(『The Scar』)
フランスのシネフィルには評価の高いB級ギャング映画。見ていないのだが、ギャングが他人の顔を奪ってそいつになりすまそうとするが、顔の傷をつける場所を間違ってしまうという話だけ聞くと、コメディにしか思えない。ジョン・アルトンが撮影を手がけている。
■ルーベン・マムーリアン『Tonight or Never』
■マックス・オフュルス『Les désemparés』(『無謀な瞬間』)
■モーリス・トゥルヌール『La main du diable』
ネルヴァルの原作を元に、ジャン=ポール・ル・シャノワが自由に脚色し、モーリス・トゥルヌールが監督した、フランス映画史に残るファンタジー映画といわれている(見てないので、どれほどの映画なのかは何ともいえない)。
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『Le monde sur le fil』(Welt am Draht)
テレビ向けに撮られた作品で、ファスビンダー唯一のSFといわれている。
巨大な記憶装置によって作り出される仮想現実の世界、《シミュラクロン》を開発した科学者が謎の死を遂げる。主人公である彼の後任の科学者の周りで、奇妙な出来事がつぎつぎと起きてゆく。彼の同僚が突然姿を消すが、誰も彼の存在を記憶していないし、コンピュータにも記録が残されていない。やがて彼は、自分も仮想現実の産物ではないかと考えるようになる……。
『あやつり糸の世界』はしばしば、『マトリックス』や『イグジステンズ』の先駆的作品であるといわれる。コンピュータとつながれたヘッドギアをかぶると仮想現実のなかへ入ってゆける設定になっているところなど、『攻殻機動隊』の世界観と通じる部分も多い。けれども、サイバーパンクSF的とでも呼べそうなそういう場面はほんの少し出てくるだけで、基本的にはB級SF的な雰囲気が漂っている作品だ。『マトリックス』よりは『アルファヴィル』のほうがずっとこの映画のテイストに近い。実をいうと、この映画にはエディ・コンスタンチーヌがほんの一瞬だけ登場する。ファスビンダーの映画にコンスタンチーヌが出るのはこれが初めてはないが、この映画での登場のさせ方はやはり『アルファヴィル』へのオマージュにしか見えない。
この映画はパリとベルリンの現代的なビルディングを使って撮影されたという。無機質なデコールが、どこでもない近未来都市を演出している。とくに印象に残るのは、鏡やガラスなど、透明・半透明の表面を多用した画面だ(もちろん、これはこの映画のテーマとも絡み合っている)。しかし、煙の立ちこめるナイトクラブで女性歌手が退廃的な歌を歌っていたり、ワグナーの『トリスタンとイゾルデ』がバックグラウンドで延々と流れていたりと、『リリー・マルレーン』の世界とたいして変わりない部分も多い(実は、歌手が歌っているのは「リリー・マルレーン」なのだ)。
実際、ファスビンダーはこの近未来世界を第三帝国の時代と重ね合わせていた節がある。《シミュラクロン》によって生殺与奪の権力さえ握っているテクノクラートたちに、ナチと同じ臭いをかぎ取っているように思えるのだ。ファスビンダーの映画はよく「作り物っぽい」とか「書き割りみたい」とかいわれるが、この映画が描くのは、まさに偽物の世界だ。そしてその偽物の世界と本物の世界が、やがてどちらがどちらとも区別できなくなっていく。そして大事なのは、それをどこかでコントロールしているものが一方にいて、それにコントロールされているものが他方にいるということだ(それがこの映画のタイトルの意味することである)。ファスビンダーがこの物語に政治的な寓意を見て取っていたことは間違いないだろう。
ファスビンダーが撮った西部劇『ホワイティ』は、いかにもファスビンダーらしい退屈な作品だった。これもそうではないかと思ったのだが、意外なぐらい見せ場が多く、退屈しない作品になっていて驚いた。今みるとチープな印象は否めないだろうが、ファスビンダーとしてはかなりの製作資金をもらって撮った映画のはずだ。車を水没させたり、小屋を爆発させたりと、いろいろやっている。ごくふつうのSFファンにも十分楽しめる映画ではないだろうか。
下写真は、今回フランスの Carlotta films から発売された DVD(わたしはこの DVD で見たわけではない)。Carlotta films というのは初耳だったが、ざっと調べてみたかぎりでは、吉田喜重の『戒厳令』やビクトル・エリセの『マルメロの陽光 』の DVD などを出している会社で、丁寧な DVD 作りも評判がいいようだ。まあ、大丈夫だろう。
タランティーノが審査員長をつとめたヴェネチア映画祭の金獅子賞はソフィア・コッポラの『Somewhere(原題)』でした。
ちょうど同じ頃、クロード・シャブロルが80才で亡くなりました。死因は不明。『石の微笑』など、最近になっても非常にレベルの高い作品を撮っていたので、残念です。ちなみに、ここでも何度か言及した、「カイエ」による2000年代最初の10年間に撮られた映画ベストテンには、「カイエ」編集部のほかにさまざまな監督・批評家が参加しているのですが、そのなかで蓮實重彦と黒沢清がシャブロルの『石の微笑』を選んでいました。ほかにシャブロルを選んでいる人はほとんどいなかったと思うので、ひょっとしたら、映画監督としてはフランスよりも日本でのほうが評価が高かったのかもしれません(フランス人に愛された監督であったことは間違いありませんが)。
■『メトロポリス 完全復元版』 (Blu-ray Disc)
『メトロポリス』の欠落部分がアルゼンチンで発見されたことについては、以前にもここで軽くふれた。その部分を補った全長版がたしかベルリン映画祭で上映されたのはついこないだのことだったような気がするが、そのブルーレイ版が早くも日本で発売される。発見された部分のフィルムの保存状態はたぶんそれほど良くないと思う。しかし、その欠落部分は30分近くに及ぶというから、なにが映っているのか想像するだけでわくわくする。
■『黒沢 清監督 推薦 死体を売る男』、『黒沢 清監督 推薦 私はゾンビと歩いた!』、『黒沢 清監督 推薦 キャット・ピープルの呪い』、『黒沢 清監督 推薦 レオパルドマン 豹男』、『黒沢 清監督 推薦 恐怖の精神病院』
すべて再パッケージもの。全部「黒沢清推薦」となっているのがめざわりですが、これは販売会社の知恵を尽くした戦略です。
■フィル・カールソン『消された証人』 ニコラス・レイ『暗黒への転落』 ジョン・クロムウェル『大いなる別れ』 オーソン・ウェルズ『上海から来た女』
これも再パッケージもの。
■『アメリカ時代のフリッツ・ラングDVD-BOX2』 『外套と短剣』、『恐怖省』、『ビッグヒート 復讐は俺に任せろ』
■キャロル・リード『最後の突撃』
■アナトール・リトヴァク『暁前の決断』
■ ジョセフ・L・マンキーウィッツ『去年の夏、突然に』
■ イングマール・ベルイマン『ファニーとアレクサンデル オリジナル版 HDマスター』 [Blu-ray]
短縮された劇場版ではなく、オリジナル全長版。IVCだが、HDマスター、しかもブルーレイということで、今回は、まともな画質であることを信じたい。わたしは、劇場版とオリジナル版を両方収めた5枚組の Criterion 版を持っているので、パス(ちなみに、IVC版は2枚組)。
■ アレクサンドル・ソクーロフ『痛ましき無関心』
■ジャン=ピエール・メルヴィル『海の沈黙 HDニューマスター版』
■『ダリオ・アルジェント魔女3部作ブルーレイBOX』(初回限定生産) [Blu-ray]
■マキノ雅弘『侠骨一代』、『日本侠客伝 白刃の盃』
わたしが気づかないあいだに、マキノは他にもいろいろ出ている模様。
■中島貞夫『暴力金脈』、『尼寺マル秘物語』、『まむしの兄弟 傷害恐喝十八犯』、『唐獅子警察』、『実録外伝 大阪電撃作戦』、『暴動島根刑務所』
『暴力金脈』をはじめ、初ソフト化多数(のはず)。
■小沼勝『妻三人 狂乱の夜』
初ソフト化。
■北野武『アウトレイジ』
■ 清水崇、山口雄大『SOIL~完全版~』
カネコアツシの『SOIL』というマンガについては、気が向いたらいつか紹介するつもりでいたのだが、つい書きそびれてしまった。ソイルと呼ばれる平凡なニュータウンで、ある日、一家が忽然と姿を消し、現場に謎の塩柱が残されるというミステリアスな導入部にはじまって、次々と謎めいた事件が起きてゆく。だれかが書いていたが、たしかに『ツイン・ピークス』を思い出させるところも少なくない。独特のアメコミふうの絵が印象深く、どこか日本離れしているところもあるマンガである。セリフをそのまま翻訳するだけで、海外でも十分通用しそうだ。ひょっとしたら、ハリウッドで映画化ということもあるかもしれない、などとぼんやり考えたこともあったが、それがいつの間にか日本でドラマ化されていたらしい。監督は清水崇。
■ストローブ=ユイレ『雲から抵抗へ+あの彼らの出会い』
パヴェーゼものを2つ。
スコリモフスキ自らが主人公・アンジェイを演じた"アンジェェイもの"三部作、『身分証明書』『不戦勝』『手を挙げろ!』を収録。 海外では『バリエラ』もふくめた4枚組の DVD-BOX が7千円ほどで発売されている。それとくらべると日本版の値段は高いが、海外版の英語字幕は多少読みにくかったし(意外とおしゃべりな映画なんだよね)、高い分は日本語字幕代だと考えれば、まあ納得できる値段か。
■アンジェイ・ムンク『パサジェルカ』
前にも書いたけれど、ムンクを『パサジェルカ』一本で片付けるのは、そろそろやめにしませんか。
■ジョセフ・ロージー『ドン・ジョバンニ (2枚組)』
ロージーは日本ではなかなか DVD 化されない。海外でもそれほどソフト化されているわけではない。なんでもいいから出るのはいいことだが、なぜこれをチョイスしたのという気もする。いや、悪い映画じゃないですよ。オペラものとしては間違いなく傑作でしょう。オープニングのセットなんて、思わず「おー!」といってしまう(美術は、アレクサンドル・トローネル)。グラムシの引用で始まるところはいかにもって気もするが、なんかロージー作品を見たって気がしないんだよね。まあ、ロージーってたまにそういうの撮る人なんだけど。
音楽ものなので、映画ファン以外にも購買層が広がると考えたのかもしれないけど、どうせ出すならもう少し冒険してほしかった。例えば、最近海外で DVD が出た『The Damned』なんてのも有りだったんじゃない? 『緑の髪の少年』の遠い続編とも、ロージー版『光る眼』ともいえる内容で、傑作と呼ぶのはためらわれるが、ハマ−プロ製作(!)というさまざまな制約のなかで撮られたにもかかわらず、いかにもロージーらしいユニークな作品だ。特殊能力を持つ銀髪の子供たちの存在も不気味だが、それと平行して描かれる、《テディ・ボーイ》と呼ばれる、エドワード七世時代の華美な服装を愛用する不良少年たちの存在が、作品に社会的な奥行きを与えている。
■ジョージ・A・ロメロ『サバイバル・オブ・ザ・デッド』
最近、情報誌をこまめにチェックしないせいもあるのかもしれないが、ロメロの近作は知らないうちにどこかで公開されて、気がついたときには DVD になっている。これもそのパターンになってしまった。 全編ビデオ撮影のかたちで見せた前作のクライマックスには、 "shoot" という動詞が、「撃つ」と同時に「撮る」を意味する稀な瞬間が存在する。
■ダリオ・アルジェント『4匹の蠅』
良くも悪くもいつものアルジェントです。
まあ、映画だから、こういうのもありますよ。
■ エルンスト・ルビッチ『私の殺した男』
ルビッチらしからぬシリアスなメロドラマ。後味が悪い。
■Abdellatif Kechiche『The Secret of the Grain』
Abdellatif Kechiche の『The Secret of the Grain』(2007) が Criterion から DVD で登場。
アブデラティフ・クシシュ(という読み方でいいのか?)は 、1960 年、チュニジア生まれで、元々は俳優だった。2000 年の『Poetical Refugee』が監督デビュー作だから、監督としては遅咲きといっていい。『The Secret of the Grain』は、第64回ヴェネチア映画祭で、審査員特別賞を受賞。フランスで公開されたときは、非常に話題になり、カイエの表紙も飾った。栄誉あるルイ・デリュック賞も受賞している。しかし、日本ではほとんど知られていない人物といっていいだろう。「アブデラティフ・クシシュ」で検索すると、結構ヒットするが、その大半はヴェネチア映画祭がらみの記事の中だし、その話題もすでに3年前のものだ。日本公開はあまり期待できないかもしれない。(Criterion からは DVD と同時にBlue-Ray版も発売されている。)
■『The Actuality Dramas of Alan King (Eclipse Series 24) (Criterion Collection)』
正直、アラン・キングという監督については初耳だった。しかし、カナダには、ピエール・ペローやミシェル・ブローなど、まだまだお宝が隠されている。アラン・キングもそのひとりかもしれない。
■ジョセフ・フォン・スタンバーグ『Three Silent Classics By Josef Von Sternberg (Underworld / Last Command / Docks of New York) (Criterion Collection)』
■ジョージ・キューカー『Susan And God』、『No More Ladies』
キューカーのこの2本はたぶん初ソフト化だと思う。
ついでに、去年出たキューカーの DVD を2本紹介しておく。
『Bhowani Junction』は、イギリスからの独立の気運が高まる激動のインドを舞台に、大人の恋愛を描いたキューカー絶頂期の傑作。ビデオのトリミング版では見ていたのだが、この DVD でやっとシネスコで見ることができた。
『The Actress』は、タイトルから分かるとおりの女優ものである。といっても、この映画のヒロイン、ジーン・シモンズは、女優の卵ですらなく、たんに女優にあこがれているだけの田舎娘だ。その父親を演じているのがスペンサー・トレイシーで、当然ながら、娘が女優になることには猛烈に反対。一方、母親役のテレサ・ライトは、当然ながら、陰で娘を応援する。夢の世界に生きている娘と現実とのギャップを、キューカーは巧みに笑いに変えていく。家の内部を捉えるキャメラの閉鎖的なフレーミングが息詰まるような効果を上げている。
アラヌス・デ・インスリスは、その中心はいたるところにあるが、その円周はどこにもない球体について語る。
ボルヘス「エル・アレフ」
■ジム・ジャームッシュ『リミッツ・オブ・コントロール』
『リミッツ・オブ・コントロール』で、黒人の殺し屋の前に次々と現れるエージェントは、自分勝手な話をさんざんしていたかと思うと、不意に、「宇宙には中心も端もない」とつぶやくのだが、複数のエージェントが口にするその言葉だけはなぜかいつも、殺し屋には通じない外国語で発せられるのだ……。
■ アラン・ロブ=グリエ『囚われの美女』
■アレクサンドル・ソクーロフ『日陽はしづかに発酵し・・・』、『孤独な声』
■ルキノ・ヴィスコンティ『若者のすべて【HDニューマスター版】』
■『アメリカ時代のフリッツ・ラング傑作選 DVD-BOX 1』
「ブロードウェイ」? 聞いたことのない DVD 販売会社だ。2時間を超える『死刑執行人もまた死す』が片面1層なのを見ると、画質にはあまり気をつかっていないようである。映像の出所も怪しい。IVC と同じ臭いがするのは気のせいか。 バラ売りもあり(『暗黒街の弾痕』、『マンハント』、『死刑執行人もまた死す』)。『マンハント』は、ジュネス企画版が先に出るようだが、データ上は、ブロードウェイ版の方が3分長い。
■マイケル・カーティス『ヴァジニアの血闘』、『コマンチェロ』
意外とぱっとしないカーティスの西部劇のなかでは、結局、エロール・フリン主演の『無法者の群』『カンサス騎兵隊』『ヴァジニアの血闘』の3作がいちばんましだったのではなかろうか。とくにこの『ヴァジニアの血闘』では、エロール・フリン、ランドルフ・スコット、ハンフリー・ボガードという豪華な共演が見られるのがうれしい。
■ヴィンセント・ミネリ『晴れた日に永遠が見える』
■ポール・シュレイダー『アメリカン・ジゴロ』
ブレッソンの『スリ』と並べて見るべき作品。
■アンドレイ・タルコフスキー『サクリファイス スペシャル・エディション (2枚組) 』
■『北朝鮮映画の全貌 ホン・ギルトン』、『北朝鮮映画の全貌 花を売る乙女』
■『桃太郎侍』、『婦系図』、『編笠権八』、『忠直卿行状記』、『昨日消えた男』
市川雷蔵の初 DVD 化作品がまとめて発売される模様。その一部だけを紹介するが、ほかにもたくさん発売される。
見てません。
■『RKO ホラーへの誘い』、『黒沢 清監督 推薦 恐怖の精神病院』
RKO ホラーが素晴らしいことはだれでも知っているが、それをアイ・ヴィー・シーの DVD で見るのが微妙。
■ ヴェルナー・ヘルツォーク『小人の饗宴』
黒沢清は、これがヘルツォークの最高傑作だといっている。
■ 工藤栄一『十三人の刺客』、『緋牡丹博徒 お命戴きます』、『爆裂都市 BURST CITY』
いずれもすでに DVD 化されているものだと思うが、期間限定プライスダウンということで、新パッケージで発売される模様。
すべてフランス版。
■ジャン=リュック・ゴダール『Film Socialisme』
上映が予定されていたカンヌ映画祭直前に Web に予告編が流れて話題になったゴダールの新作が、早くも DVD になった。一時間を超える長編としては『アワーミュージック』以来。日本公開は微妙か? それにしてもふざけたタイトルだ。
■アルベルト・セラ『Albert Serra Collection - 2-DVD Set ( El cant dels ocells / El senyor ha fet en mi meravelles ) ( Birdsong (Bird song) / The Lord Worked Wonders In Me ) [ NON-USA FORMAT, PAL, Reg.2 Import - France ]』 ( DVD + Livre 144 pages) 「カイエ」でも評価の高いスペインの映画作家アルベルト・セラによる『El cant dels ocells』『El senyor ha fet en mi meravelles』の2作品を収録。
■ マノエル・ド・オリヴェイラ『Manoel de Oliveira 100 years 22-DVD Anniversary Box Set』 ( Mon cas / Os Canibais / A Vã Glória de Mandar / A Divina Comédia / O Dia do Desespero / Vale Abraão / A Caixa / O Convento / Party / Viagem ao Princípio do Mundo / Inquietude / La Le
ほぼ全集に近い感じですかね。『Mon cas』が入っているのは嬉しいが、高いね。
■ロバート・クレイマー『Walk the Walk & Doc's Kingdom』
こないだ『Milestones』を紹介したばかりなのに、『Walk the Walk』と『Doc's Kingdom』まで出てしまった。こちらは「カイエ」から出ている DVD シリーズのなかの一本で、『Milestones』とは販売元は別のはず。こんなにあっさり出るなら、もっと早くに出してほしかった。
■エリア・スレイマン『LE TEMPS QU'IL RESTE』
ちょっと古い情報だが、これも紹介しておく。スレイマンの乗ったタクシーが霧のなかで行き場をうしなって立ち往生する場面ではじまった映画は、彼の幼少時代から現代にいたるパレスチナの歴史を語りだす。スレイマンによる半自伝的作品。
■ マルコ・ベロッキオ『VINCERE』
ムッソリーニの最初の妻 Ida Dalser の目を通してみられたファシズムの歴史。妻といっても、結婚を証明する書類は残っておらず、ムッソリーニからも存在を否定され、なかば監禁状態で病死する。ムッソリーニと彼女のあいだに生まれた息子も、厳重な監視下におかれつづけ、母親と同じく不遇のうちに死を迎える。彼女の名前は、ファシズムの時代が終わってからも、長らく黙殺されつづけた。ここ最近のベロッキオの映画のなかでは、最高傑作かもしれない。
■『L'Enfer de Henri Georges Clouzot』 (César 2010 du Meilleur Film Documentaire)
60 年代の半ばに、ロミー・シュナイダーとセルジュ・レジアニ主演で撮影が開始されるも、制作途中で企画が頓挫して未完に終わったアンリ=ジョルジュ・クルーゾーの幻の作品『Inferno』をめぐるドキュメンタリー映画。妻が浮気しているのではと疑って嫉妬に狂う夫の内面世界を描いた作品で、シャブロルの『愛の地獄』はこの作品のリメイクというか、これをもとにつくられた。クルーゾーは、夫の妄想を描くにあたって、さまざまな視覚的実験を試みようとしていたことが、このドキュメンタリーを見るとわかる。完成していたら、狂い咲きのような傑作になっていたかもしれないし、あるいは、目も当てられない失敗作になっていたかもしれない。未完成の作品は、必要以上に妄想をかき立てる。 余談だが、ロミー・シュナイダーは日本では想像できないぐらいフランスで人気が高い。生活用品しか置いていないような地方のショップのビデオ売り場に申し訳程度に並べられているビデオのなかに、ロミー・シュナイダーのコーナーが設けられていたりするので、驚く。
エミール・レノーという人のことをちょっと調べていた。いわゆる「映画前史」が語られる際に必ず登場する人物のひとりだが、マイブリッジやマレーなどとくらべるといささか影が薄い。とはいえ、同じぐらい重要な人物である。(ちなみに、Reynaud は、「レイノー」と二重母音的に表記されることが多いようだ。) それで発見したのだが、スティーヴン・ミルハウザーが、エミール・レノーについてエッセイを書いていたのだ。わたしは柴田元幸が訳している作家にはなぜかあまり興味がなく、ミルハウザーについてもあまり知らなかったので、勝手なイメージを抱いていた。そのイメージのなかでは、エミール・レノーと結びつきそうな要素はまったくなかったので、これにはいささか驚いた。しかも、その文章は翻訳されていたのだ(『リテレール』6)。 『リテレール』というと、安原顕がやっていたあの雑誌だ。いや、待てよ、『リテレール』なら何冊か持っていたんじゃないか。と思って、調べてみたが、あったのは別冊の『映画の魅惑』だけだった。まあ、そんなものか── などという話はどうでもいい。本題に入ろう。 といっても、別に書くことはないので、また例によって、DVD の紹介だ。
■『アルフレッド・ヒッチコック HIS EARLY WORKS DVD-BOX』
目についたのでいちおう紹介しておくが、IVC である。どうせまた、以前出していたものを集めただけだろう。ここから出ている初期のヒッチコックは、画質もよくないし、明らかに欠落している場面も目立つ。たとえば、『恐喝』は、最初サイレントで撮影され、その後、トーキーとしてわざわざ撮り直されたので、2つのヴァージョンが存在するのだが、ここから出ているものはトーキー版だけである。500円 DVD で出ているものもトーキー版だったはずだ。海外では、2ヴァージョンとも収録した DVD も出ている(サイレント版とトーキー版には、ほとんどまったく違いがなく、それが逆に興味深い)。
■ レオ・マッケリー『明日は来らず』
小津の『東京物語』に影響を与えたともいわれるマッケリーの傑作(ちなみに、McCarey は「マケアリー」と表記するほうが原音に近い、と思う)。 実は、最近たまたま、Criterion 版で見直したのだが、さめざめと泣いてしまった。泣くしかない映画である。ストーリーはたしかに『東京物語』に似てはいる。しかし、全然別物だ。滑稽で、残酷な、この美しい作品は、メロドラマとしての余韻さえ与えてくれず、意外にも、アメリカで公開されたときは興行的には惨敗だった。
■ タル・ベーラ『倫敦(ロンドン)から来た男』
■ イエジー・カワレロヴィッチ『影』
■ アラン・ロブ=グリエ『危険な戯れ』
昔ビデオで出ていた作品だが、見た記憶がない。ロブ=グリエの映画はほとんど見てるんだが……。
Criterion から出ているバーナード・ショーの映画化作品を集めた Collection で見たが、たいした映画ではなかった。バーナード・ショーのファン以外は見る必要ない(かも)。
■ イエジー・スコリモフスキ『ザ・シャウト さまよえる幻響』
これも以前から出ていた気がするが……。
■『エッセンス・オブ・スコリモフスキ (単行本(ソフトカバー))』
こんなものも出てしまった。確信はないが、スコリモフスキ祭りの準備が、水面下でひそかに進められているのかもしれない……。 (と思っていたら、大阪のシネ・ヌーヴォで今月末に、スコリモフスキの特集上映がおこなわれることがすでに決まっていた。ほとんど見ている作品ばかりで、なんか期待していたのと違うんだけど、ま、いっか。もう一回見たいのもあるし。次回は、『早春』『King, Queen, Knave 』『30の扉の鍵(フェルディドゥルケ)』を入れてほしい。
ほか しばらくフランスの DVD をチェックしないあいだに、大変なことになってた。 すごいのがごろごろ出てる。Amazon.fr はいったん在庫がなくなると、それで終わりという場合が少なくないし、早めに注文せねば。
■ロバート・クレイマー『millestones ; ice』
実をいうと、わたしはクレイマー派なので、ここ最近、ワイズマンばかりがもてはやされることに若干いらいらしていた。クレイマーの作品は、海外でもほとんどソフト化されていない。『Route One』だけは、なぜか人気があって、むかしから簡単に手に入るのだが、それ以外は、ほとんど出ていないのが現状だった。いちばん見たかった『マイルストーンズ』がついに DVD になったのは、実にうれしい。できれば、Criterion の Eclipse シリーズからまとめて5本ぐらい出してくれるのがベストだったのだが、『Ice』も入っていることだし、まずはこれで十分だ。
■ ジョアン・セザール・モンテイロ『La comédie de dieu』
■ミシェル・ステー『4 films de Michel Soutter』
ロバート・クレイマーにくらべると、地味だが、この DVD も重要ですよ。 スイスの映画作家というと、ダニエル・シュミット、アラン・タネール、フレディ・M・ムーラーあたりが有名だ。しかし、スイスには他にもまだまだ重要なシネアストがいる。とくに、このミシェル・ステーとクロード・ゴレッタのふたりは、日本では全然知られていないが、スイス映画においては最も重要な人物といっていい。と、大口をたたいたが、わたし自身、ゴレッタは『レースを編む女』しか見ていないし、ステーに関しては、たぶん一本も見ていなかったと思う(だから、とても楽しみ)。
王兵(ワン・ビン)がはじめて撮った劇映画が入っているので、俄然注目される作品。この巻ではないようだが、このシリーズにはペドロ・コスタや、カンヌの受賞でこれまで以上に広く注目されはじめているアピチャポンの作品も入っている。
■アベル・ガンス『Tour De Nesle』
『悪の塔』。これもトリュフォーの本で知って以来、ずっと見たかった映画だ。 すっかり忘れていたが、前に、「これを見るまでは死ねない映画」というリスト(下)をつくったとき、『マイルストーンズ』とならべてこの作品も入れておいたことを思い出した。
「グリード(4時間版)、メーヌ・オセアン、When Strangers Marry、Milstones、殺し屋ネルソン、ウィニフレッド・ワーグナーの告白、乙女の星、南瓜競争、フェルディドゥルケ、物質の演劇、The Tall Target、Filming Othelo、The Phenix City Story、Witchita、La casa del angel、ミス・メンド、契約殺人、森の彼方、悪の塔、今は死ぬときだ」
■シャルナス・バルタス『Few Of Us』、『The House』、『Seven Invisible Men』
バルタスの DVD も、まだかまだかと、いらいらしていたが、こうまとめて出されるとかえって困ってしまう。 『Few Of Us』も『The House』も、どこかから DVD が出ていたと思うけれど、Amazon では扱っていなかったはず。これで、とても入手しやすくなった。
同時に、こんなものも。
『Sharunas Bartas, an Army of One
■ヴィンセント・ミネリ『ボヴァリー夫人』
最近、映画館が遠く感じられる。去年は、いろいろ見逃してしまったものだ。ソクーロフの『ボヴァリー夫人』もつい行きそびれてしまった一本である。
──というのは嘘で、本当は、まるで見る気がしなかったのだ。もともと死ぬほど好きな監督ではないし、だいたいわたしは文芸映画が大嫌いなのである。そんなわけだから、ヴィンセント・ミネリの『ボヴァリー夫人』も、大して期待せずに見始めたのだった。しかし、意外や意外、これが傑作だったのだ。
冒頭、いきなり裁判の場面ではじまるのにまず驚く。風俗壊乱のかどで作者のフロベールが裁かれたあの有名なボヴァリー裁判である。むろん、原作の小説には、こんな場面はない。被告のフロベールが、「たしかにエンマ・ボヴァリーは怪物かもしれないが、はたしてわれわれにエンマを裁くことができるのか」、と傍聴者たちに問いかけ、エンマの物語を語りはじめるのをきっかけに、映画が本筋にはいってゆくという仕掛けである。 フロベールをジェームス・メイソンが演じているのはしっくりこなかったが、冒頭の裁判シーンが終わると、フロベールはナレーションの声で進行役をつとめるだけになり、最後にもう一度、裁判の場面に戻ってくるまで、姿を現さない。裁判劇にはさまれた枠物語のかたちになっていることで、映画には原作にないモラリスティックなニュアンスが多分に加味されている。
筋自体は原作にかなり忠実だが、『ボヴァリー夫人』の愛読者が違和感を覚えそうなところも多い。ジーン・ロックハートの演技にもかかわらず、オメー氏の存在感がいかにも薄いことがそのひとつだ。一方で、ボヴァリーを金銭的に破滅に追い込んでゆく借金取りの悪魔的な存在が強烈に前面に押し出されていたりする。これも、この映画化作品のモラリスティックな部分を強調することに貢献しているように思える。
何か重苦しい映画の印象を与えてしまったかもしれないが、この映画のミネリの演出はどこまでも軽やかだ。とりわけ、エンマがはじめて社交界の舞踏会で踊る場面には驚かされた。大広間の巨大な鏡のなかに映る、男たちに囲まれた自分の姿をうっとりと眺めたあとで、エンマがロドルフと踊りはじめると、キャメラもいっしょにぐるぐると回りだす。眩暈がするような高揚感のなかで、エンマが、もう踊れない、息が詰まるとささやくやいなや、ロドルフが下僕に「窓を割れ」と命ずると、下僕たちはためらいもせずに、広間の庭に面した大きなガラス窓をたたき割る。夢のただ中にいるような酩酊感が絶頂に達するこの瞬間、ぐでんぐでんに酔っぱらったエンマの夫が、エンマの名を叫びながら無様に駆け寄ってくるのだ。
■エーリッヒ・フォン・シュトロハイム『アルプス颪/グレイト・ガッポクリティカル・エディション』(2枚組)
それにしても、映画に描かれる登山というのは、どうしてこういつもいつも殺意に満ちているのだろうか。
■ロバート・シオドマク『幻の女』
自分のアリバイを証明してくれるはずの女を、不思議なことに、だれひとり覚えていず、殺人犯にされてしまうというミステリーな筋立ては、なかほどで真犯人が分かってしまうこの映画において、実は、どうでもいい部分にすぎない。エラ・レインズが、上司のアリバイを証明するために執拗につけ回していたバーテンダーと、薄暗い夜の駅のプラットフォームでふたりきりになる場面での、殺意に満ちた空間の演出。有名な、エリシャ・クック・Jrがドラムをたたくシーンにみなぎるエロティシズム。フィルム・ノワールのひとつの頂点ともされる映画である。
ちなみに、フランスでの公開タイトルは『殺す手』。自分の殺人衝動をコントロールできない犯人には哀れみさえ覚える。そういえば、『火山の下で』(映画・原作ともに)のなかにも引用されている『狂恋』(Mad Love) という映画があった。モーリス・ルナールの有名な小説の映画化で、ロベルト・ヴィーネによる映画化以来、3度ほど映画になっているのだが、ピーター・ローレが主役の天才的な外科医を演じたこのカール・フロイント版が、たぶんいちばん有名ではなかろうか。ローレが恋い焦がれる女のフィアンセのピアニストが、事故で両腕を失い、ローレが彼の腕に死刑囚の腕を移植すると、その腕が勝手に人を殺そうとするという映画だった。別にたいした映画ではなかったが、スキン・ヘッドのピーター・ローレが強烈な印象を残し、いまでも忘れがたい。
■ 西村潔『豹(ジャガー)は走った』
田宮二郎の殺し屋と加山雄三の刑事が死闘を繰り広げる、東宝アクション映画の名作。
ついでに、映画の本をいくつか。
■ 蓮實重彦『東京から 現代アメリカ映画談義 イーストウッド、スピルバーグ、タランティーノ』 (単行本(ソフトカバー)
「ユリイカ」に載った対談の全長版ですか(?)。未確認。
■ 遠山純生『イエジー・スコリモフスキ 紀伊國屋映画叢書・1』 (単行本(ソフトカバー)
『アンナと過ごした4日間』の勢いに乗ったのか、紀伊国屋からスコリモフスキの DVD の発売予定があるのか、それともたんに出したかっただけなのか。勝算があるのかどうか不明だが、とにかく、出すからには売れて、スコリモフスキの名前が少しでも有名になればいいと思う。ムンクとザヌーシもなんとかしてよ。
■ 樋口泰人『映画は爆音でささやく 99-09』(単行本(ソフトカバー)
全然書く気がしない。また、DVD の紹介です。
■ラウール・ルイス『Dialogues of the Exiled』
■『Film Noir Classic Collection, Vol. 5』 (Cornered / Desperate / The Phenix City Story / Deadline at Dawn / Armored Car Robbery / Crime in the Streets / Dial 1119 / Backfire)
前から見たかった『The Phenix City Story』がやっと DVD になったのが嬉しい。アンソニー・マンやフライシャーの作品も入っているコスト・パフォーマンスの高い BOX。
前回アップしてから一行も書いていなかった。穴埋め的に DVD の紹介でもしておく。
■タル・ベーラ『倫敦(ロンドン)から来た男』
■アニエス・ヴァルダ『アニエスの浜辺』
■ペドロ・アルモドバル『抱擁のかけら』
■リ・イン『2H』
Amazon の該当ページでは情報が少ないが、「出演: 馬晋三」とあるので、『靖国』のリ・イン監督作品で間違いないはず。 <<
Criterion のホームページを見ていて思わず、「おぉ!」と声を出してしまった。 Eclipse シリーズからサッシャ・ギトリの DVD-BOX が出るのだ。
『Eclipse Series 22: Presenting Sacha Guitry』
収録されている作品は、The story of a Cheat, The Pearls of the Crown, Desire, Quadrille(面倒くさいので、英語タイトルのまま)の4作品。たった4本だけだが、"Presenting Sacha Guitry" というタイトルから察するに、これを手始めに、続きをどんどんを出してくるはずだ(たんなる推測)。今回の4作品がすべて 30 年代であることを考えると、第2弾は 40 年代の作品、第3弾は 50 年代の作品を、それぞれ "Sacha Guitry : forties", "Sacha Guitry : fifties" というタイトルを付けて出してくるのに違いない。しかし、そうだとすると、30 年代作品の Faisons un rêve... や Ils étaient neuf célibataires はスルーされたってことか。それは残念だ……。いや、30 年代作品を BOX ふたつにわけて出してくる可能性もあるぞ、などと、妄想もふくらむ。
それにしてもギトリはどうしてこんなに傑作ばかり撮ってしまったんだ。選ぶのが大変じゃないか。
むかし、パリのモンマルトル墓地にあるギトリの墓を訪ねたときのことを思い出す。あれはすばらしい散歩だった。
■ 『拳銃の報酬』
紀伊国屋から発売。 5年ほど前にロバート・ワイズが亡くなったとき、だれか『拳銃の報酬』を DVD 化してくれないものかと、このブログに書いたことを、思い出した。もっとも、その頃は、この映画のことはほとんど忘れられていたので、たいして期待していなかった。その数年後に『レッド・パージ』が出版され、この作品のことがけっこう大きく取り上げられた。あの本でこの映画のことを知った人も多いかもしれない。紀伊国屋から DVD が出ることになったのも、たぶんそういう流れなのだろう。わかりやすいね。
■ ロバート・アルドリッチ『悪徳』
『ビッグ・ナイフ』のこと。『悪徳』はTV放映されたときの邦題だろう(このタイトルだと見る気にならないな)。 ハリウッドを描いたクリフォード・オデッツの戯曲をアルドリッチが映画化した傑作。
■ フレッド・ジンネマン『暴力行為』
前から見たかった一本。これがこのレーベルから出たのは、意外だったね。ちょっとだけ紀伊国屋を見直した。 ジンネマンなんてどうでもいいという人もいるだろう。実をいうと、わたしもこの監督にはほとんど興味がないのだが、『たかが映画じゃないか』の山田宏一と和田誠の対談を読めば、絶対この映画が見たくなるんだよね。『拳銃の報酬』とは、ロバート・ライアンつながり。
■ フレドリック・ワイズマン『パリ・オペラ座のすべて』
見てない。『福祉』をはじめとする、ワイズマンの初期の白黒作品は大好きなんだが、最近の作品は、なにがなんでも見なければという気にならないので、見逃しているものもいろいろある。これはどうだったのだろう。
■ アンジェイ・ワイダ『カティンの森』
つい最近、この作品とも無関係ではない大惨事があった。ふつうならスルーしてた作品かもしれないが、なにか偶然とは思えないので挙げておく。
■ ジョージ・シートン『36時間 ノルマンディ緊急指令』
別にたいした映画じゃないんだけど、目についたので、取り上げておいた。 いま見たらどうってことないが、当時としてはかなりトリッキーな物語だったかも。
■ ニコラス・レイ『夜の人々』
ジュネス企画からのようだ。作品については、今さら説明する必要もないだろう。
■ フランク・ボザージ『春の序曲』
ジュネス企画。紀伊国屋と値段設定が似ているので、まぎらわしい。
1月にすでに発売になっていたのを、今ごろになって気づいた。
未見だが、Allcinema では4つ星がついている。それは全然信用できないが、わたしがいつも参照しているフランスの映画ガイドでも、滅多につかない最高の4つ星がついているのは心強い。見るしかないね。
■エルマンノ・オルミ『ポー川のひかり』
『若き日のリンカーン』のヘンリー・フォンダは、馬車でやってきた入植者の家族がもっていた法律書に魅せられ、法律を学び始める。一方『リバティ・バランスを射った男』で、同じように馬車で町にやってきたジミー・スチュアートを襲った盗賊リー・マーヴィンは、スチュアートがもっていた法律の本を見つけると、これが西部の法律だといってびりびりに引き裂く。 魂であり、生命であり、知の源であり、歴史の証言でもある書物のイメージは、『ざくろの色』で地面や屋根の上に広げられたおびただしい書物をはじめとして、映画のなかで様々に描かれてきた。しかし、その一方で、書物を唾棄すべきものとして描いた場面も少なくない。トリュフォーの『華氏451』で焼き尽くされる書物、あるいは、アントニオーニの『砂丘』のラストの幻想的な爆破シーンで、数々の文明の利器とともに粉々に爆破される無数の書物、等々。
『ポー川のひかり』の冒頭で描かれる、まるで磔にされたかのように、図書館の床やテーブルじゅうにくさびで打ち付けられた書物は、映画が描いてきた破壊される書物のイメージのなかでも、とりわけ禍々しいものとして、忘れられないものになるだろう。
■イエジー・スコリモフスキ『アンナと過ごした4日間』
■『カール・Th・ドライヤー コレクション 奇跡 (御言葉) 』
■『フランスの巨匠 ジャン・ルノワール DVD-BOX リクエスト復刻箱』
IVC の DVD を集めただけの BOX。
■クエンティン・タランティーノ『イングロリアス・バスターズ』
ついでに、こんな本も。
『ユリイカ2009年12月号 特集=タランティーノ 『イングロリアス・バスターズ』の衝撃 (ムック)』
■ロバート・D・ウェッブ『誇り高き男』
おおむかしに見ているし、ビデオにも録画してあるはずだが、まったく思い出せない。悪くない西部劇だったという印象だけは残っている。
■オリヴィエ・アサイヤス『クリーン』
1月は3回しか更新できなかったので、2月は5回ぐらい書くつもりでいたのだがまた同じぐらいのペースになってしまった。だんだん、調子が出つつあるので、これからペースを上げていく予定。 というわけで、DVD の紹介をしてまたお茶をにごしておく。
■ロベール・ブレッソン『スリ』
■ デルマー・デイビス『襲われた幌馬車』
リチャード・ウィドマークの演技に救われていた作品かも。
■ マイケル・パウエル『血を吸うカメラ 【ベスト・ライブラリー 1500円:ホラー特集】』
■ サム・ライミ『スペル コレクターズ・エディション』
去年、たいていの映画は見逃してしまったが、このサム・ライムの新作はいそいそと見に行ってしまった。薄暗い駐車場に老婆があらわれる瞬間のアクションの呼吸なんて、最高。
■ ペドロ・コスタ『溶岩の家』
■ 牧口雄二『玉割り人ゆき 西の廓夕月楼』、『玉割り人ゆき』
二本とも新世界で見ているはずだが、正直、あまり覚えていない。
■ フライシャー兄弟『バッタ君 町に行く』
あいかわらず、なにも書く気がしない。また、DVD の紹介をしておく。
ウォン・ビン「A l'ouest des rails」(『鉄西区』)
フランスで『鉄西区』の DVD が、去年、発売されていたことに、先日気づいた。ホットなニュースではないかもしれないが、念のために報告しておく。 9時間を超える長い作品のわりには、比較的に上映されることの多い作品だと思うが、敬遠してまだ見ていないという人もいるだろう。DVD も日本ではまだ出ていない。フランスで MK2 から発売されていた DVD も Amazon では入手不可になっている。一瞬、MK2 版が再入荷されたのかとも思ったが、どうも、今度のはそれとは発売元が違うようだ。いずれにせよ、Amazon で MK2版の中古を買うよりは、こっちのほうを買う方がずっと安い。たぶんフランス語字幕だけしかついていないと思うが、それでもいいという人は、どうぞ。 (下は、MK2版)
何か書かねばと思うが、びっくりするほど何も書くことがない。例によって、DVD の紹介でもして、お茶をにごしておく。
■ロベール・ブレッソン『たぶん悪魔が』、『湖のランスロ』、『バルタザールどこへ行く』、『少女ムシェット』
バラ売り解禁。
■クリス・マルケル『ラ・ジュテ -HDニューマスター版-』
マルケル版『めまい』。
■ペドロ・コスタ『血』
■ルイス・ブニュエル『忘れられた人々』
■ロバート・アルトマン『ジャックポット』
前から出てるものだけど。
■『チャップリン メモリアル・エディション DVD-BOX IV』
■ジャ・ジャンクー『四川のうた』
■ロベルト・ロッセリーニ『イタリアの巨匠 ロッセリーニDVD-BOX リクエスト復刻箱"ボックス"』
アイ・ヴィー・シーから出てたヤツが、ニューパッケージされただけ。安かろう、悪かろうでいい人は、これをどうぞ(Criterion から『Roberto Rossellini's War Trilogy (Rome Open City/Paisan/Germany Year Zero) 』が発売されたので、最良の状態で見たい人はこちらを。)。
■『DVDBOXノーマン・マクラレン マスターズ・エディション』
大晦日にわざわざ紹介するほどではないが、来年まで持ち越すのもなんなので、メモしたまま紹介する機会のなかった DVD をここで出しておく。
■『The Directors: Rare Films Of D.W. Griffith As Director Vol. 5』 Featured Film: The Idol Dancer - 1920
Plus These Shorts:
Balked At The Altar - 1908
The Curtain Pole - 1909
A Drunkard's Reformation - 1909
Father Gets In The Game - 1908
The Lure Of The Gown - 1909
Money Mad - 1908
■アラン・ドワン『The Iron Mask 』(Enhanced) 1929
■William C. McGann;Allan Dwan『Sh! The Octopus / The Gorilla ; A Classic Comedy Horror Double Feature』
■アラン・ドワン『I Dream Of Jeanie』
■ダグラス・サーク『Douglas Sirk, les mélodrames allemands - coffret 3 DVD』
ダグラス・サークのドイツ時代。
『Das Mädchen vom Moorhof』
『Stützen der Gesellschaft』
『世界の涯てに』
『南の誘惑』
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