Movie Review 2012
◇Movie Index

私が、生きる肌('11スペイン)-Jun 2.2012
[STORY]
形成外科医のロベル・レガル(アントニオ・バンデラス)は、ベラ(エレナ・アナヤ)という女を密かに監禁していた。ロベルは12年前に焼け死んだ妻を救えなかったことを後悔し、ベラに完璧な肌を移植し、妻そっくりに整形を施していた。そんな時、ロベルの家政婦マリリア(マリサ・パレデス)の息子セカがロベルの家にやってくる。実はセカは強盗犯で逃亡中の身だった。マリリアを縛り上げたセカはベラの存在に気付き、彼女に襲い掛かった――。
監督&脚本ペドロ・アルモドバル(『抱擁のかけら』
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原作はティエリ・ジョンケの同名小説(映画公開前の翻訳本邦題は『蜘蛛の微笑』)だが、皮膚の移植云々は1959年の映画『顔のない眼』を参考にしたようだ。
第64回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映された。

見た直後は

何 だ こ の ド 変 態 映 画 は !

とビックリして、さすがマリコンさんは発想が普通じゃないわ〜と思ったんだけど、原作もほぼこんな話なのね。でも映像で見せられるとエログロ感がすごいっつーか生々しい。ベラのボディスーツ姿とか、ロベルが監視カメラでベラを凝視してるシーンとか。コスチューム姿のセカ(ロベルト・アラモ)がおどけて登場した瞬間は何だか分からないけどゾッとして、その嫌な予感が的中する展開になるところは見せ方が上手いなぁと感心。でも一番強烈だったシーンは、ロベルがあるものをマトリョーシカみたいに順番に並べて真面目な顔してベラに説明するくだりかな。それまでは一応サスペンスとして真剣に見てたんだけど、このシーンを見てやっぱりアルモドバルの趣味全開だなと笑ってしまった。

ただ、ストーリーはそのものは悲しい話だったな。私はロベルが気の毒でならなかった。この人がやったことは相当ひどいことだけど、愛する人を次々と失ったことで常軌を逸してしまったことは理解できる。しかもまた愛し始めた人に裏切られることになるとは・・・。でもね、ロベルは最後にとてつもない復讐をしたと思うのね。それは(ここからネタバレ)脱出したビセンテ(ジャン・コルネット)の今後とのこと。今はいいけれど、あれだけ全身整形を施された身体だから将来は加齢ととともにあちこち不具合が出てくるのは確実。特に皮膚なんてロベル以外、誰も作れる人はいないのでは。ひょっとしたらロベルは、ビセンテに裏切られた時のことを考えて、整形という名の時限装置を施したのはないか?と。(ここまで)アルモドバルがそこまで考えてストーリーを作ったとは思えないんだけど、私はそう思うことにする。
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メン・イン・ブラック3('12アメリカ)-May 27.2012
[STORY]
月の刑務所から凶悪な囚人ボグロダイト星人のボリスが脱獄した。ボリスはかつて自分の片腕を打ち抜いたエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)に復讐しようとしていた――。
一方、ボリスの事件を調べ始めていたエージェントJ(ウィル・スミス)がある日本部に出勤してみると、エージェントKは自分のパートナーではなく、40年前に死んでいると告げられる。どうやらボリスはタイムスリップして過去に遡り、Kを殺してしまったようなのだ。そこでJもタイムスリップを試みる。そして若き日のK(ジョシュ・ブローリン)とともにボリスを捕らえようとする。
監督バリー・ソネンフェルド(『メン・イン・ブラック2』
−◇−◇−◇−
1997年の『メン・イン・ブラック』と2002年の『メン・イン・ブラック2』の続編。前作から10年、1作目からは15年にもなる。
見るまでは「あーまた続編やるんだー。いいかげん見に行くのめんどくさいなぁ」と悪いけど思ってた。でもよっぽどのことがない限り(『ソウ』シリーズは痛いシーンが多くてギブアップ)続編があれば見に行くようにしてるので「しょうがない。最後まで付き合ってやるか」と超上から目線で見に行った。
いや〜、これ思わぬ感動作だったよ!泣いちゃったもん。貶してごめんなさい。よく考えるとパート1と辻褄が合ってないような気もするんだけど、考えないことにした。パート3のこちらが正しいと思うことにする。

パート1で50歳だったトミー・リー御大も65歳。さすがに派手なアクションは厳しいということで(彼のアクションは別の意味でハラハラした)前作はパグ犬が頑張ったが今回はタイムスリップして若い頃のKが登場するという設定。よく思いつくもんだ。苦肉の策か?と思ったけど、演じたジョシュ・ブローリンがトミー・リー御大によく似ていて、そういえばこの2人は『ノーカントリー』で共演してたけど(2人が一緒に出てるシーンはなし)その時は似てるなんて思ったこともなかったし、他の映画でのブローリンは本作とは全く違う顔をしている。メイクと、ちょっとダイエットしたのか顔がほっそりしていたというのもあるけど、一番は表情の作り方なのかねえ。ブローリンの演技は良かったけど、もう少しだけ現在のKとは違う面を見せたり、笑えるシーンががあったらよかったのにと思った。

Jがタイムスリップしたのは1969年で、ちょうどアポロ11号発射の前。そしてアポロ11号がもう今にも発射ってところでアクションが繰り広げられる。『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』もそうだったけど、実際にあった出来事と絡めるのがハリウッドで流行りなのか?宇宙飛行士たちのセリフが面白かったし、宇宙船や発射台が壊れたらどうしようと、このシリーズではいつになくハラハラもした。しかしものすごく強そうに見えたボリス(ジェマイン・クレメント)がこの場面では思ったより手ごわくなくて、ここはもっと練ってアクションシーンを作ってほしかった。

今回はエージェントO役でエマ・トンプソンが出演してて、とんでもない宇宙語を披露。確かに上手いんだけどさ「私はこういう役でもちゃんと引き受けるし完璧に演じられるのよ」とばかりにやってるのがちょっと鼻につく(ごめん)それより未来が見えるエイリアンを演じたマイケル・スタールバーグが良かった!彼のセリフにもちょっと泣かされたなぁ。しかし日本語吹替版だと三ツ矢雄二なのか〜。字幕で見といてよかった(たいてい字幕だけど)
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ダーク・シャドウ('12アメリカ)-May 26.2012
[STORY]
1752年。イングランドのリヴァプールからアメリカに移住したコリンズ一家は、町の名前になるほど大成功を収めた。だが、一家の跡継ぎであるバーナバス(ジョニー・デップ)が、メイドのアンジェリーク(エヴァ・グリーン)を捨てて他の女性と婚約したことから一家の凋落が始まる。実は魔女だったアンジェリークは婚約者を殺しバーナバスをヴァンパイアに変え、生き埋めにする。それから200年後の1972年、バーナバスは復活するが町はアンジェリークに牛耳られていた。
監督ティム・バートン(『アリス・イン・ワンダーランド』
原作は1966年から1971年に放送されたアメリカのTVドラマ『Dark Shadows』で、過去にもドラマを元にした映画が製作されている。

いつものティム・バートン映画。やはり屋敷がメイン舞台だった『ビートルジュース』っぽくもあり、『ティム・バートンのコープスブライド』を実写化したみたいなキャラクター造形だったり。前作『アリス』もいまいちだったのでそれほど期待してなかったが、やはりまぁこんなもんかという感じ。昔のTVドラマを見てた人にとっては懐かしくて面白いのかねぇ。

バーナバス役のデップも通常運転。魔女に吸血鬼にされてしまった可哀相な男・・・なのかと思ったら大間違い。実はコイツ、誘惑にめっぽう弱くて、魔女が一方的に好きになってストーカーしてたわけじゃなく、しっかり手を出した上でポイしてるわけ。そりゃ恨まれてもしょうがない。復活してからもアンジェリカの誘惑に負け、ホフマン博士(ヘレナ・ボナム=カーター)にも負け、一方でかつての婚約者にそっくりな家庭教師のヴィクトリア(ベラ・ヒースコート)に一目惚れ。憎めないキャラだけど、そんなんだからとばっちりを受けた子孫が気の毒だし、アンジェリカにも同情してしまう。

そのアンジェリカを演じたエヴァ・グリーンが今回はハマり役。セクシーでドSで存在感たっぷり。そのせいかもう一方のヴィクトリアは屋敷に到着してからは「あれ?どこ行った?」って思うほど存在感なし。ただ、演じたヒースコートはバートンの好きそうな骨格してんなぁと(笑)ホームベース顔にギョロッとした目で(ヘレナ・ボナム=カーターもこのタイプ)バーナバスと併せてフィギュアで欲しい〜(笑)ラストの感じからすると続編も作れそうなので、次があるとしたらもうちょっと出番を与えてほしいな。
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ミッドナイト・イン・パリ('11スペイン=アメリカ)-May 26.2012
[STORY]
映画脚本家のギル(オーウェン・ウィルソン)は脚本のリライトばかりの仕事に嫌気げさし、小説を書こうとしていた。婚約者のイネス(レイチェル・マクアダムス)と彼女の両親とともにパリを訪れたギルは、この街に住んで小説を書きたいと夢見るようになる。そんなある夜、パリの街を1人で歩いていて道に迷ったギルはクラシックカーに呼び止められる。車で連れて行かれた先は何とジャン・コクトー主催のパーティーだった。そして1920年代に活躍した著名人たちと知り合いになる。
監督&脚本ウディ・アレン(『それでも恋するバルセロナ』
−◇−◇−◇−
ウディ・アレンが初めてフランス(パリやパリ郊外)で撮った作品。フランス大統領だったサルコジの夫人カーラ・ブルーニも出演している。
第84回アカデミー賞では作品賞、監督賞、脚本賞、美術賞にノミネートされ、脚本賞を受賞した(アレンの脚本賞受賞は『アニー・ホール』『ハンナとその姉妹』以来3度目)

主人公が現代のパリから1920年代のパリにタイムスリップしてしまうというファンタジックなストーリーで、私は1985年の『カイロの紫のバラ』をちょっと思い出した。でもあの作品はロマンティックだけどほろ苦くて、これって実はかなり不幸な話だよなぁと、ミア・ファローの薄幸顔を見ながらブルーになったのはいい思い出(笑)

それに比べると本作は実に主人公に都合のいい話なのである。可愛い婚約者にくっついてパリに来て、1920年代に大活躍した著名人と出会い楽しく過ごし、なおかつ書いた小説のアドバイスを貰う。さらに美しい美女と恋にも落ちる。最後は現代のパリジェンヌとも・・・って出来すぎだろ(苦笑)これウィルソンが演じてるからまだいいけど、アレンが演じてたら間違いなく怒ってたなアタシ(笑)確かに「おっ」と思わせるセリフもたくさんあったけど、これが脚本賞か?って考えるとちょっとね。画家は知ってるけど、作家(フィッツジェラルドやヘミングウェイ)には詳しくないから、知ってたらもっと楽しめたのかもしれない。

話は戻るがこの主人公、15年前ならアレン本人が自分で演じていたであろうっていう役なのだ。オーウェン・ウィルソンがアレンの映画に合うのかなぁと思ってたけど、喋り方や仕草がモノマネしてるの?ってくらい似てた。特に小箱を慌てて開けるシーンなんて、モロにウディ・アレンな指使い(笑)ウィルソンに合うキャラクターに脚本を書き換えたというが、あんまりそうは思えなかったな。演技はアレンの演出なのかウィルソン自ら真似したのか分からないけど、ウィルソンが嬉々としてやったんじゃないかと勘ぐっている。

嬉々としてといえば、エイドリアン・ブロディがある役で出演してるんだけど、出てきた瞬間に爆笑モノです。彼のシーンだけでも見る価値あるんじゃないかな。他の実在の人物を演じていた役者たちは普通の演技なのに、何でアンタだけそんな力入りまくりなんだ(笑)楽しそうだったなぁ。
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ファミリー・ツリー('11アメリカ)-May 20.2012
[STORY]
ハワイ、オアフ島に住むマット・キング(ジョージ・クルーニー)は、弁護士をしながら先祖から受け継いだ土地の管理を任されており、近々その土地を売る準備を始めていた。そんなある時、妻エリザベスが事故に遭い意識不明の重体となる。もう助かることはないと医者に宣告されたマットはショックを受ける。さらに長女アレックス(シェイリーン・ウッドリー)から妻が不倫していたことを聞かされる。不倫相手がカウアイ島にいると知ったマットは、娘たちを連れて男の元に向かう。
監督&脚本アレクサンダー・ペイン(『サイドウェイ』
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原作はハワイ生まれの作家カウイ・ハート・ヘミングスの同名小説(原題は小説も映画も『The Descendants』で“Descendants”とは子孫、末裔という意味)
第84回アカデミー賞では作品賞・主演男優賞(クルーニー)・監督賞・編集賞・脚色賞にノミネートされ、脚色賞を受賞した。

ハワイは旅行するにはいいところだ。暑いけど日本の暑さとは違うんだよね。時間もゆったり過ぎていくように感じるし。そんなハワイが舞台の洋画って意外と少なくて(邦画のほうが多かったりして?)だから本作のハワイに住む家族を描いた映画というのはとても楽しみだった。

が、冒頭からのどかなハワイとは似つかわしくない、どんよりとした空気を醸し出す主人公マット。妻が昏睡状態、長女は反抗期、次女は友達とトラブル。おまけに土地問題を抱えている真っ最中。まぁそうだよね、いくら楽園に住んでるからって何の問題もない人なんていないわけで。それは分かるんだけど、正直言って次女の問題を解決して長女を迎えに行くところまでは、ハワイの空気以上にダラッとしててテンポも悪くて、あまり面白くないなぁと思っていた。

しかしマットがアレックスから妻の不倫を聞かされてからは空気が一変。逆上したマットが走って妻の友人宅へ行くシーンから俄然面白くなる。走りにくいサンダル履きだから一生懸命走ってもあんまり前に進んでなくて(笑)必死になればなるほど可笑しい。やっぱこの監督は中年男の滑稽さを描くのが上手いわ。この走りだけならクルーニーに主演男優賞をあげたくなる(笑)このシーンを見せたいがために前半はわざとテンポを遅くしたのかもしれないな(それでもつまらなかったのは否定できないが)

家族がいるのに不倫なんて・・・と私は昏睡状態とはいえエリザベスに嫌悪感しか抱けなかったのだが、母親がもう助からないと知った時の悲しみを堪えるアレックスを見て、どんなことがあってもこの子の母親はエリザベスだけなんだとハッとした。だから余計にムカついたりもしたけど。また、エリザベスの父親(ロバート・フォスター)が眠っている娘にキスをするシーンも堪らず涙が出てしまって、幾つになっても愛しい娘に変わりないんだってことにも気付かされた。

家族を亡くしたことで改めて家族の繋がりを大切だと感じ、自分のルーツを意識するようになるマット。時々笑いを交えつつも、主人公の心情の変化が無理なく描かれていて上手く纏めた映画だったと思う。ただ、長女が登場してから次女の存在が薄くなってしまったのがちょっと残念。アレックスのボーイフレンド、シド(ニック・クロース)が目立ってしまったというのがあるが(笑)コイツ、最初に出てきた時には見るからに頭悪そうだし空気読めなさそう、って感じで浮きまくってたんだけど、いつの間にかマットの家族と馴染んでいて、最後はマットの愚痴を聞いてあげるまでの存在になっていくのが最高だった。脚本がいいのはもちろんだけど、キャスティングもよかったな。
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