Movie Review 2005
◇Movie Index

青い棘('04ドイツ)-Oct 28.2005
[STORY]
1927年ベルリン。パウル(ダニエル・ブリュール)とギュンター(アウグスト・ディール)は寄宿学校の同級生で、週末2人はギュンターの別荘で過ごすことを決める。パウルはギュンターの妹ヒルデ(アンナ・マリア・ミューエ)に恋をしていたため彼女とも過ごせることを心待ちにしていたが、彼女はパウルの気持ちを知りながらいろんな男との恋を楽しんでいた。そして恋人のハンスに会うためベルリンに戻ってしまう。ギュンターはヒルデがハンスと付き合うことを嫌がっていたが、実はハンスはギュンターの元恋人だった。
監督&脚本アヒム・フォン・ボリエス(TVドラマや『グッバイ、レーニン!』の脚本に協力)
−◇−◇−◇−
原作はアルノ・マイヤー・ツー・キュイングドルフの『Der Selbstmorder-Klub(自殺クラブ)』らしいが、もともと“シュテークリッツ校の悲劇”といわれる実在の事件が元になっている。すでに『Geschminkte Jugend(若者の決心※)』というタイトルで2回映画化されているそうだ(ちなみに本作の原題は『Was nutzt die Liebe in Gedanken(愛を考えるには何が必要か※)』) ※自分で辞書を引いた訳なので正しくないかも
パウル・クランツはのちにエルンスト・エリッヒ・ノスという名前でいくつか著作を発表しているけど、この事件についての作品は書いていない。しかし日記が残っているようで、それが出版されるようなことが書いてあった(ドイツ語のサイトで調べたことなのでこれも正しくないかも)

映画はパウルから見た事件の顛末を描いたものなんだけど、パウルは当事者たちと一緒に過ごした仲間であり、事件の目撃者ではあるんだけど、当事者たちに深く踏み込んだ関係ではない。そのせいか事件の経過を見ていても距離を感じたし、事件のシーンを見てもさほど衝撃もなく、あっけなく終わってしまった。見る前、私はパウルとギュンターがそういう関係なんだと思ってたんでガッカリしたのかもしれない(そういう人、ほかにもいるんじゃないかしら(笑))
宣言したことを実行したギュンターと取り残されたパウル――それを表現するための演出だとしたら成功していると言える。けど、やっぱり物足りなかった・・・。

ギュンターという青年は強烈な個性があって変な言い方だけど興味深い人だと思った。彼は確かにハンスを愛していただろうが、妹ヒルデに対しても妹以上の感情があったんじゃないかな。近親相姦というわけじゃなくて、妹以上に美しい女はいないと認めつつも一方で彼女のような奔放な考え方をする人間が一番嫌いで、複雑な感情を抱いているように見えた。もしハンスの相手がヒルデでなかったら、ギュンターはあそこまで激昂しなかったんじゃないかな。私はこの3人の関係のほうを中心に詳しく見たかった。

そういえば本物のパウル・クランツはどちらかというとギュンターやハンスに似た顔立ちの典型的なドイツ人!な顔の人だった。それを似てないブリュール(彼はスペイン人とドイツ人のハーフ)が演じるなんて、と思ってたけどパウルまであの顔立ちだったらかえって違和感あったかもしれない。
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モンドヴィーノ('04フランス=アメリカ)-Oct 29.2005
[EXPLANATION]
高値で販売されているワインは本当においしいのか?なぜそのワインは人気があるのか?そんな疑問を解き明かすドキュメンタリー。
ワイン・コンサルタントのミシェル・ロランには、世界中のワイナリーから電話が掛かってくる。彼のアドバイスによって売れるワインが作られていくのだ。またワイン評論の影響力も大きく、アメリカの人気評論家ロバート・パーカーの評論によって価格を左右するとさえ言われる。そしてアメリカの巨大ワイン企業モンダヴィ一家は、世界中の名門ワイナリーと合弁会社を作り大成功している。しかし彼らのやり方に真っ向から反対し、その土地の味を作る人々もいた。
監督ジョナサン・ノシター(『SUNDAY それぞれの黄昏』)
−◇−◇−◇−
ソムリエの資格を持つ監督で、2004年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。

ワインの味は辛口であればソコソコでいいと思っているし、フランスであろうがチリであろうがマズくなければ産地のこだわりもあまりない。値段も1000円〜1500円くらいまでで2000円以上のものはほとんど買わない。ワインに数万円も出すなんて、しかも飲まずに取っておくなんてもったいない〜と思うタチで、買ったらすぐ飲んじゃうので保存も適当だ。この程度のワイン好きだけど、面白そうなだなと思って見てみた。

いろんなことが分かって確かに面白かったけど、上映時間は長いし(138分)登場する人々の名前と顔が覚えづらかったりして、途中で疲れて眠くなってしまった。エピソードも飛び飛びだし、ワインの知識がゼロのためチンプンカンプンなところもあり。特に、モンダヴィの名前がちょくちょく出てくるんだけどその名前がどう繋がっていくのか分からなかったし、モンダヴィ一家が登場するのが後半なのでそれまでもどかしかった。見る前にもっとちゃんとチラシやウェブを見ておくべきだった。

理解力のない自分を棚に上げてしまうが、映画のほうももうちょっと親切に作ってくれても良かったんじゃないかなぁ。まずモンダヴィ一家や各地のブランドワイナリーを紹介し、醸造コンサルタントによってワインの味が決められ、批評家によって価値が決められる昨今を描きつつ、その土地の味にこだわる製造者もいる、という流れだったら見やすかった。そうなると映画というよりテレビのドキュメンタリーっぽくなっちゃうかな。

映画の中で、研究所のような場所でコンサルタントがテイスティングするシーンがあり、こんな場所でワインが作られているのかとショックだったんだけど、考えてみればビールだって研究所で開発されてるわけで、ワインだけ特別視しなくてもいいわけだ。けれどやっぱりワインはブドウ畑が広がるのどかなワイナリーで、それぞれの生産者が独自のワインを作っててほしいと思ってしまう。だから映画を見てても地味(テロワール)にこだわる人々の言葉に共感できた。高そうだけど、一度この人たちが作ったワインを買ってみたいな。
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バイ・バイ・ブラックバード('05ルクセンブルグ=ドイツ=イギリス)-Oct 28.2005
[STORY]
サーカスの団長デンプシー(デレク・ジャコビ)の娘アリス(イザベル・マイコ)に恋した下働きの男ジョセフ(ジェームズ・ティエレ)は、彼女と一緒にサーカスに出たいと望み、空中ブランコを特訓する。彼の練習を見たデンプシーは2人を本番に立たせるが、アリスがブランコから落下し死んでしまう。
監督ロビンソン・サヴァリ(『Falstaff on the Moon』)
−◇−◇−◇−
第18回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品。主演のジェームズ・ティエレはあのチャーリー・チャップリンの孫だそうだ(4度目の妻ウーナとの間にできた三女で女優のヴィクトリアと、俳優ジャン=バプティスト・ティエレの息子)

なんというか・・・監督の中では完璧な映画に仕上がっているようだけど、見てる方にはもうちょっと説明してもらわないと分からない映画だった。ファーストシーンなんか合成丸出しだったけどインパクトある映像だったので、ひょっとすると面白い映画かもしれないと期待させてくれたのだが、インパクトがあっただけでストーリーは散漫で退屈だった。

登場人物たちも皆が好き勝手に演技してるようで、会話するシーンも会話がキャッチボールになってなくて、それぞれが勝手な方向に遠投という感じ(笑)ジャコビなんて熱演すればするほど空々しくみえる。でも地に足がついてないような夢見がちに見える演技を全員がしているようにも見えるわけで、現実を直視できずに地上に降りられないのはジョセフだけじゃなく、全員がふわふわと浮いたような存在であると演出したのかも(と好意的に解釈してみる)
そしてそんな状況に終止符を打つために重たい銃が使われるのだった(「撃つ」と掛けてみました)←ウマイ!と自分で言っておく

空中ブランコのシーンはとても美しくて、このシーンを見たかったがためにチケットを買ったんだけど、思ったよりも短いシーンで、もう少し長く見たかった。というか見どころはここくらいだったのよね(苦笑)まぁ一般公開はないだろうから見ておいて良かった。
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ティム・バートンのコープスブライド('05アメリカ)-Oct 26.2005
[STORY]
19世紀ヨーロッパにある小さな村。成金夫婦の息子ビクター(声:ジョニー・デップ)は、没落貴族の娘ビクトリア(声:エミリー・ワトソン)との結婚が決まっていた。しかし内気なビクターは結婚式のリハーサルで失敗してしまい、1人森で練習をしていたところ何と“コープスブライド(死体の花嫁)”(声:ヘレナ・ボナム=カーター)に結婚の誓いを立ててしまう。死者の世界に連れて行かれたビクターは何とかして元の世界に戻ろうとするが・・・。
監督ティム・バートン(『チャーリーとチョコレート工場』
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パペットを使ったストップモーションアニメで、1コマ1コマ時間を掛けて撮影されたが、デジタルスチールカメラを使用することで12年前に公開された『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』よりもリアルな作品に仕上がったという。
確かにまるでCGアニメと見紛うようななめらかな動きにビックリするけど、独特な陰影はCGでは出すことができないし、登場人物たちの1つ1つが愛情を持って動かされているのがよく分かる。私はピアノを弾けないので分からないけど、あれも適当じゃなくて、それぞれの指がちゃんと正しい鍵盤をおさえてるんだろうなぁ。そんなところにキュンとなってしまった。

しかしストーリーは期待していたほど面白くはなかった・・・。というか、ものすんごく期待してたわけよ。『チョコ』が予想以上に良かっただけにね。見る価値は大いにあるし、もう1回見てもいいなぁとも思う。だけど満足には至らなかった。ガイコツ好きのバートンらしく死者の世界での歌やダンスには力が入ってるんだけど、主役のビクターが最初から最後まで周りに振り回されっぱなしで、自分の意志で何かを決断したとか勇気を持って行動に出たとか、そういうのがないまま終わってしまったのだ。それで満足感を得られなかったんだと思う。
(ネタバレ)エミリーと結婚すると決めたのもビクトリアが別の男と結婚することを聞いてからであって、エミリーを愛するようになったわけでも憐れんだわけでもなく、どうでも良くなったからとしか見えなかった。(ここまで)彼を王子様やヒーローにさせないようにわざとそうしたんだろうけど、主体性がなさるぎるのもね・・・難しいところだな。

そのかわり、エミリーとビクトリアの2人がとても可愛らしかった。この手の話ではどちらかの女の子が意地悪で、もう片方に感情移入するように作られたりするが、本作ではどちらもいい子なのでどっちを選んでもいいじゃないか(笑)なんて思ってしまう。ただエミリーのほうはちょっと強引でストーカー気質なところがあるので、控えめなビクトリアのほうがワタシ的には好みだったりするが(私の好みなんて聞いてないか)エミリーの生前は死体の時よりもさらに美女だっただろうなぁ。見てみたかった。
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鍵がない('05日本)-Oct 22.2005
[STORY]
美紗子(つぐみ)はある晩、家に入ろうとすると鍵がなくなっていることに気付く。業者に頼んで開けてもらおうと電話するが夜中だからと断られ、友人と連絡がつくが途中で携帯のバッテリーが切れてしまう。そこで公衆電話から昔つきあっていた良介(大森南朋)に電話をし、渡していた合鍵を返して貰うついでに彼ともう一度やり直せないかと考える。しかし彼にはいま別の彼女がいるようで・・・。
監督&脚本・山田英治(『迷猫 MAIGO』)
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監督の山田英治は博報堂のプランナーでケンタッキーフライドチキンのCM等を演出したり、大森南朋出演のインディペンデント映画を多数監督している。

タイトルとあらすじを見て面白そうだなと思ったのと、CMを手掛けている人ということで興味があった。今までも石井克人、中島哲也、関口現らの作品を見てるしね。ただTAGBOATは関わってないから彼らの作品とは違うだろうなぁとは思ってたけどやっぱりCGを使っての派手な演出はなく、だけどファンタジックな映画だった。

家に入れなくなってしまった美紗子が、付き合っていたバツイチ子持ちの良介のことをまだ想っていることに気付いたり、行くあてもなく下北沢の町を彷徨いながらいろんな人々に出会っていく。はっきり言うと、出会う人たちとのエピソードは面白くない。さらにはっきり言っちゃうと、美紗子が気持ち悪かったです。私だけかもしれないが、良介のことを思い出す回想シーンでの彼女は、まず子供に取り入って良介に近づこうとしている感じがしてしまった。子供のほうも「美紗ちゃんがママになってくれないかなぁ」なんて言っちゃって、うわー騙されてるよー!と思わずのけぞってしまった(笑)脚本がいやらしいんだな。つぐみや子役の演技も媚びたようなところがあって、演技の仕方によっては違った見方ができたかもしれないが。つぐみについては他にも作ったようなわざとらしい表情をするところがあり、ところどころ拒否反応が出てしまった。特に笑顔がダメ・・・。

でもカフェで赤いニット帽をかぶった男の子のこめかみに光る汗を見て、そこから想像力が飛躍して食べたいパスタを決めた時の美紗子のいたずらっぽい表情は悪くなかった。このシーンは脚本も映像も面白くて、私の中では一番印象に残っている。まるで高野文子の漫画『バスで四時に』みたい(←この作品大好きなのだ)こういうのが見たかったんだよなぁ。やっぱりCM作ってる人の作品ということで、ちょっと変わったものを期待していたわけよ。家に帰れなくて途方に暮れ、他にすることがない美紗子がいろんなことを想像するシーンなんていうのをもっと取り入れても良かったんじゃないかな。例えば良介から合鍵を受け取った時のことを想像し、再び付き合えるかどうかシミュレーションしてみるシーンなんて見たかった。

とまぁ、いろいろ不満の多い映画だったけど、ラストシーンは綺麗に決まって、雨が上がってすっきり晴れたような爽やかな気持ちになれた。
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