Movie Review 2010
◇Movie Index
ウルフマン('10アメリカ)-May 5.2010
[STORY]
1891年イギリス。舞台俳優のローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ)は、兄が行方不明になったという知らせを聞いて故郷へ戻ってくる。だが父のタルボット卿(アンソニー・ホプキンス)から、兄が遺体となって発見されたと聞かされる。兄の婚約者だったグエン(エミリー・ブラント)のためにローレンスは事件を調べようとするが、満月の夜に獣に襲われてしまう。
監督ジョー・ジョンストン(『遠い空の向こうに』
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1941年の映画『狼男』のリメイク。といってもストーリーはかなり改変されている。
主演のデル・トロは製作にも携わっている。

オリジナルは見てません。というか、本作もデル・トロが出てなければ見てなかっただろう。彼が狼男だなんてピッタリのキャスティングじゃない!と喜び勇んで見に行ったんだけど、想像と違ったよ母さん。
まず狼男になる前のローレンスはしょぼくれて老け込んだオッサンにしか見えなかった。なんでこんな髪型なわけ?!もっときちんとした髪型だったら、もう少しマシに見えたかもしれないのに(それでも“マシ”なのかよ、というツッコミは置いといて)なのでグエンとの恋愛も素敵とか切ないとか全く思わなかったな。演じたブラントはよかったけど。

そして変身してからは「これ狼?」と疑ってしまうようなご面相。狼って、鼻と口が前にクウッと出るはずなのに、この狼男は鼻の下がのびちゃってむしろびっしり毛の生えた猿って感じ。ネタバレになるけど(ここから)タルボット卿の変身後なんて、目がクリッとしているせいかピグミーマーモセットみたいでちょっと可愛いと思っちゃったじゃないか(ここまで)

メイクを担当したのはオスカーを何度も受賞しているリック・ベイカーで(本作ではちょい役で出演もしている)『狼男アメリカン』でも狼男のメイクを担当しているが、こっちの狼もやっぱり猿っぽい。そういえば『猿の惑星 PLANET OF THE APES』のメイクもこの人でしたな。
この手の映画って、クリーチャーの全貌が明らかになるより前の、影や手足とか一部分だけが見えている状態で人間がガブリと襲われるシーンのほうが断然怖ろしいと思う。顔見ちゃうと「なーんだ」ってことが多い。本作でも流浪民たちがキャンプしている場所でのアクションに一番ドキドキさせられた。

デル・トロにはいいところがほとんどなかったが、父親を演じたホプキンスはやはり存在感が違った。リサーチした役作りはしないっていうけど、いつもちゃんとその役柄になってる。しかも前に見たことがあるような演技、ってのがない。今回もちょっと特殊な役なんだが、レクター博士みたいだと思うことは一度もなかった。さすが。そういえばホプキンスは1992年の『ドラキュラ』にも出演しているんだった。あとは『フランケンシュタイン』にぜひ出てもらいたい(笑)
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プレシャス('09アメリカ)-May 1.2010
[STORY]
1987年ニューヨーク、ハーレム。クレアリースことプレシャス(ガボレイ・シディベ)は16歳ですでに2人目の子を身ごもっていた。実の父親からの性的虐待だった。そして母メアリー(モニーク)からも日常的に暴力を受けていた。学校に妊娠していることを知られてしまったプレシャスは退学となり、フリースクールに通うことになる。クラスには同じように学校に通えなくなった少女たちが集まり、最初は衝突することもあったが、レイン先生(ポーラ・パットン)の粘り強い教えによってプレシャスは文章を書くことが楽しくなっていく。
監督リー・ダニエルズ(『Shadowboxer』)
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原作はサファイアの同名小説(原題は『Push』で、サンダンス映画祭で上映された際も『Push』だったが、同時期に公開された映画との混同を避けるために『Precious: Based on the Novel Push by Sapphire』となった)
第82回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演女優賞(シディベ)・助演女優賞(モニーク)・脚色賞・編集賞の6部門でノミネートされ、助演女優賞と脚色賞を受賞した。
テレビ番組の司会で有名なオプラ・ウィンフリーが製作総指揮に携わっている。また、ソーシャルワーカー役でマライア・キャリー、看護士役でレニー・クラヴィッツが出演している。

アメリカ映画にしては説明不足で散漫な映画だなと最初は思ったのだが(性的虐待が出てくるから曖昧な表現にするしかない部分もあるのだろう)見終わってからは、かえってその散漫さが脆く儚い物語に感じられた。
こう言っちゃ何だが、主人公のプレシャスの見た目は全く儚く見えない。失礼だけど最初に彼女を見た時にはびっくりしたもん。TVで見た予告でチキンを盗んで走るシーンには思わず「うええっ?!」って声が出ちゃった。でもトーンを落とした荒い映像と、冷静に淡々と彼女の姿を見せていく演出に、次第に見た目が気にならなくなった。彼女が大きな身体で小さな赤ちゃんを抱いている姿を見ただけで愛しい気持ちになったし、歩いていく後姿はこのまま消えてしまいそうに見えたほど。

レイン先生と出会い、初めは衝突したクラスメイトたちとも仲良くなり、望まぬ妊娠であったが生まれた子は可愛く全力で愛し育てようとする。だが、母親はそんな娘が許せない。プレシャスが退院した日のメアリーはもう端から何かやりそうな緊張感に溢れていたし、ソーシャルワーカーの前でなぜ虐待するのか吐露するシーンでは、ひどいんだけど思わず同情してしまいたくなる。彼女もまた被害者であり、けれど加害者なのだ。自分のところで止めることができなかった。日本でも自分は手を出さずとも、男に去られるのが怖くて虐待を見ぬフリする母親がいる。もうね、一番悪いのは男!父親!回想シーンでしか登場しないが、こういう奴を畜生にも劣ると言うんだ。

つらい現実から逃れるように、プレシャスは時々スターになったり彼氏ができたりする妄想をする。そのシーンが何度か挿入されるんだけど、これはちょっと見せ方があまり上手くないかなぁと思った。プレシャスにはこんな稚拙な想像力しかないっていう表現かもしれないけど、コント?『ドリームガールズ』のパロディ?などと思ってしまう時があって、急に映画に集中できなくなって困った。そのかわりプレシャスのモノローグはとてもよかった。特にレイン先生について語る時は詩的な表現になり、彼女にとって先生は闇を照らしてくれる光のような存在だったのだろう。フィクションだと分かった上であえて書くが、今後はプレシャス自身が光となって、少しでも長く子どもたちを明るく照らしてやってほしいと、そう願わずにはいられない。
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ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲('10日本)-May 1.2010
[STORY]
2010年、ゼブラーマンこと市川新市(哀川翔)が宇宙人を倒したことで突如ゼブラーマンブームが起こり、彼は日常生活ができなくなり、家族にも逃げられてしまう。その後、突如として姿を消した彼は15年後の2025年、路上で目を覚ます。そこはもう東京ではなく、ゼブラシティという名前の街に変貌を遂げていた。ここでは朝と夕方の1日2回5分間だけ、警察官や議員など力を持つ者があらゆる犯罪を行ってよいというゼブラタイムがあり、都知事の相原(ガダルカナル・タカ)が決めた条例だった。そして相原の娘ユイ(仲里依紗)はゼブラクィーンの名で、ゼブラシティの広告塔となり支持を広げていた。だが彼らはこの街だけでなく、世界を征服する野望があった――。
監督・三池崇史(『ゼブラーマン』
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2004年公開の映画『ゼブラーマン』の続編。監督の三池崇史と脚本の宮藤官九郎は前作と同じ。クドカンは映画の挿入歌ゼブラクイーンのテーマの作詞も手がけている。

前作の感じでは続編が作れそうな終わりかたをしていたけれど、6年もたっているのでまさか続編をやるとは思わなかった。もう見なくていいやと思いつつも、ゼブラクイーンのムチムチっぷりにやっぱり見ることに(私女だけど)前作の設定が2010年でパート2の公開年が2010年。ということは、パート3がもしあるなら本作の設定である2025年公開?(笑)哀川翔63歳。還暦すぎてもすべてのアクションを自分でやるアニキ。それはそれで見てみたい気もする。

前作が前作だっただけに、本作も全く期待しないで見た。映画が始まってすぐ、ゼブラタイムが始まる時間になると新宿の副都心にシマウマを模した巨大な柱時計が出現するというシーンがあるんだけど、この場面でのCGがチープな感じがせずむしろ出来がよく、コクーンタワーがあるせいか近未来的でカッコイイのだ(公式サイトでちょっと見れる)これはひょっとして映画のクオリティも上がった?と一瞬期待してしまったんだけど、最後まで見たらやっぱりゼブラーマンはゼブラーマンでした。さらに本作のほうが小ネタがなくて笑いどころは少なめ。面白いところもあるんだけど・・・うーん、って感じ。それから戦うシーンでは前作よりさらに哀川翔が気の毒。ラストもホントにそれでいいの?と。あれが元の体型に戻るには15年くらいかかるかもしれない。ということはやはりパート3は2025年公開?!(笑)

お目当てのゼブラクイーンは、個人的にはもう少し露出多めのほうが・・・(しつこいようだけど私女です)しかし横たわって苦しんでる姿とか触手プレイとか相当いいですよ皆さん(笑)演じた里依紗ちゃんもエライ。ただ、1作目の鈴木京香のゼブラナースのほうが1シーンしかなかったにもかかわらずインパクトは大きかった。意外な人のほうがやっぱり印象に残っちゃうのよね。というわけで、パート3はすんごい意外な人にゼブラコスプレしてもらいたいな。
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アリス・イン・ワンダーランド('10アメリカ)-Apr 29.2010
[STORY]
19歳になったアリス(ミア・ワシコウスカ)は、母親とともに父の友人だったアスコット卿の邸宅に招かれる。そこで息子のヘイミッシュから求婚されるが、アリスはその場から逃げ出してしまう。その途中で、いつも夢に出てくる白ウサギが現れ、追いかけるうちに穴に落ちてしまう。不思議な世界に降り立ったアリスは、不思議な生き物たちから、アリスこそ赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)と戦って勝利する者だと告げられる。だがアリスはこれは夢の話だと取り合わず、早く目覚めたいと思っていた。
監督ティム・バートン(『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』
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『不思議の国のアリス』から13年後のお話、ということで本はずいぶん前に読んだっきりで忘れちゃったところもあるんだけど読み返すのは面倒だったんで、とりあえず同じディズニーだし、ということで1951年に制作されたアニメの『ふしぎの国のアリス』を見ておいた。それからこの映画を見たんだけど、登場キャラクターのほとんどがこのアニメと同じで(つまり『不思議の国』と『鏡の国』のキャラクターを混ぜたもの)この映画ってアニメの続編だったのか?
ものすごく有名な話だけど、元々のアリスの話を知らない、アニメのアリスすら見てないという人には物語やキャラクターを理解するのに時間がかかるかも。「何これ?」って思ってもしょうがないだろう。

ぶっちゃっけ知ってても「何これ?」な映画ではあった。面白くないんだーこれが(ぶっちゃけすぎ)予告では面白そうだったので楽しみにしてたのに。3Dで見たんだけど、飛び出し具合が予告と本編ではぜんぜん違って、チェシャ猫が登場するところ以外では3Dがあまり効果的とは思えず、むしろ細かいところまで凝っているのに目が行かなくなるのでもったいないと思った。マッドハッターの衣装なんて、パルコで開催された展示を見に行って初めて「こうなってたんだ」と分かったところがいっぱい。予告は特別飛び出すように作ってたのかねえ。

それから大まかなストーリーはこのままでいいけど、進行がまどろっこしかった。109分しかないのにやたら長く感じちゃって。というのも、まず主役のアリスがずっとしかめっ面で、綺麗な子なのに全く魅力がない。この世界は自分が見ている夢なんだ、って思い続けている役だから困惑しててもしょうがないんだけど、もうちょっと表情にパターンがあってもよかったんじゃ・・・。それに加えてテンポが悪い。あなたは間違いなくアリスだから早くしろ、と何度思ったか(笑)それでも周りのキャラクターたちが派手に動き回ってうまく話を進めていってくれたらイライラしなかったかもしれない。なんかショボくて。アリスが自分で行動を起こすようになるまでは退屈だった。

そんな中で、赤の女王は見た目もインパクトあったが複雑なキャラクターに仕上げられていて魅力的。この役を嫁にやらせるとはさすがだバートン先生。妹の白の女王(アン・ハサウェイ)も実は腹黒くて、この姉妹の関係は興味深かったな。この毒々しさが全編にちりばめられていたら傑作だっただろうに。ディズニー映画ということでいろいろセーブしちゃったのかな。
それからジャックのクリスピン・グローヴァーが久々にかっこよかった!イケメンで嬉しすぎる!本人比でだけど(笑)でも竹馬に乗って演技してるってのは知りませんでした。彼が登場するところだけもう1回見たい。

ところでアリスはその後マッドハッターにそっくりな小汚い海賊とどこかの洋上で出会うんでしょうな。と想像したのは私だけではないだろう(笑)
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月に囚われた男('09イギリス)-Mar 18.2010
[STORY]
近未来。サム・ベル(サム・ロックウェル)は、月にあるエネルギー源を地球に送る仕事をたった1人でしている。話相手は人工知能のガーティ(声:ケビン・スペイシー)だけ。期限は3年。だが、その期限もあと2週間で終わりを告げる。妻のテスと娘のイヴに会えるのもあと少しだ。しかしそんな時、サムは仕事中に操作を誤り事故を起こしてしまう。気がつくとベッドに寝かされていたが、何かがおかしい・・・。
監督&脚本ダンカン・ジョーンズ(『Whistle』)
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監督のジョーンズはデヴィッド・ボウイとアンジェラ・バーネットの息子。原題は『Moon』なんだけど、邦題はお父さんの『地球に落ちてきた男』を意識してつけられたんだろうな。

『2001年宇宙の旅』をかなり意識してる映画だと思った。監督のお父さんが『2001年宇宙の旅』をモチーフにしたアルバム(『Space Oddity』)を制作してるから、彼も大きな影響を受けたんだろう。というか、私の想像だけど彼は子供の頃からこの映画の設定でオリジナルストーリーをいくつも作り上げてきたんじゃないだろうか(私も昔、自分の好きな映画や小説などの設定でたくさん妄想空想したもんなぁ)

映画は『2001年宇宙の旅』と比べちゃいけないが、空気感はかなり出せていたし、サムが外で仕事をするシーンでの質感、静けさ、色合い、すべて良かった。ストーリーもこのヴィジュアルにぴったりの切ないSFだったけど、個人的にはもうちょっとウェットな感じにしてもよかったんじゃないかな。ラストは正直「えっ?そっち行っちゃうの?」って驚いた。ネタバレになるけど(ここから)地球に戻ったサムはすぐに娘に会いに行くが、隣には年を取った自分そっくりの男がいて、彼はそれを見て立ち去る――みたいなラストかと予想してたんだけど、会社を訴えるという現実路線にいっちゃったか、と。それはそれでこの嫌な鎖を断ち切るということで悪くはないんだけど、サムが地球へ向かうのを見届けるもう1人のサムの姿に泣きそうになった直後だったのでガックリきたのは事実。(ここまで)

逆に『2001年宇宙の旅』の人工知能HAL9000にあたる本作のガーティはウェット過ぎた。最初の喋り方こそ無機質でHALそっくりだったけど、次第にサムに感情移入して言うことを聞くようになってしまうのは安易に感じた。ロボットでなく人工知能だからある程度感情が生まれることもあろうが、会社の不利益になるようなことは絶対にしないよう制御されているんじゃないの?たとえば障害が起きてしまい、サムの願いを言葉では断りながらも行動では言うことを聞いてしまうようになった、とか(それじゃツンデレか(笑))明確な理由があれば納得できたのに。あのニコちゃんマークで感情を見せるのも余計だと思った。スペイシーの声は相変わらずステキすぎます萌え。

まぁ他にもツッコミどころやら矛盾やらはあるんだけど、SF映画にはよくあることだし、とにかく設定やアイデア、ロックウェルの演技など素晴らしかったところもたくさんあって、次にどんな映画を撮るのか楽しみ。お父さんが出演した映画『ラビリンス』をモチーフにした映画なんて見てみたいな。
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