Movie Review 2006
◇Movie Index

カポーティ('05アメリカ)-Sep 30.2006
[STORY]
1959年11月15日。カンザス州ホルカムで裕福な4人家族が殺された。事件の記事を読んだ作家トルーマン・カポーティ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、次の小説の題材にしようと友人の作家ネル・ハーパー・リー(キャサリン・キーナー)とともに取材を始める。やがてペリー・スミス(クリフトン・コリンズJr.)とディック・ヒコックの2人の男が逮捕され、カポーティはそのうちのペリーに関心を持つ。
監督ベネット・ミラー(CMディレクターやドキュメンタリー映画を経て長編初監督)
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『ティファニーで朝食を』などで知られる作家トルーマン・カポーティが、代表作であるノンフィクション・ノベル『冷血』を書き上げる過程を描いた作品で、映画の原作となったのはジェラルド・クラークの同名小説。
第78回アカデミー賞でフィリップ・シーモア・ホフマンが主演男優賞を受賞。ほかに作品賞・監督賞・助演女優賞(キャサリン・キーナー)・脚色賞にノミネートされた。製作総指揮と脚本を手がけたダン・フッターマンは『シューティング・フィッシュ』に出演した俳優で、ベネット・ミラーとは高校時代からの友人。

『冷血』を読まなくても大丈夫かな?と見てみたんだけどやっぱり読んでおけば良かったと後悔し、鑑賞後に読み始めようやく感想が書けるようになった(見てから1ヶ月以上たってるけど)でも読み終えてみて、確かに鑑賞前に読むほうがいいのだろうけど、後から読むのも悪くないと思った。まず映画では犯人の2人にあれだけ接触していたのに、小説ではクラッター家のことや2人が逮捕されるまでの行動にページを多く割いていて、カポーティが2人に会った頃のことはかなり後のほうだったのが意外だった。

そして文章からは己を出さないよう(一箇所、ディックとの会話で自分のことを“ジャーナリスト”と書いている)神経を使って書いているように感じた。カポーティは2人に対してかなり踏み込んだ取材をし、頻繁に差し入れをし、弁護士を紹介しつつも早く死刑になることを望んでいた(でないと本が完成しないから)そういう後ろめたさゆえに『冷血』の中から自分の存在を消す努力をしたのではないか――。なんて感想を抱いたんだけど、映画を見る前に読んでいたらこんな風には思わなかっただろうな。冷静で客観的に書いているんだなぁと感じるくらいで。

ま、本の感想はこれくらいで。

映画では、編集者から「『冷血』なのは犯人のことか、それとも君のことか」とカポーティに尋ねるシーンがある。これが本作の中で一番描きたかったことだろう。でもこのシーンが私はいまだに引っかかっている。
実際にこういうやりとりがあったんだろうけど、私はこのシーンは余計だと感じた。見ていればだんだんと『冷血』というタイトルの意味について分かっていくのにわざわざこのシーンを入れて、観客に説明しすぎなのではないかと思ったのだ。

ただ、このシーンでのカポーティは、自分も冷血だと軽く認めつつも、犯人たちが冷血という意味のほうが強いと答えている。彼はこの時点では自分自身の冷血さに気がついておらず、この後の彼に打撃を与え、作品が書けなくなるとは予想だにしていなかっただろう。だから質問にギョッとすることなく簡単に答えることができた。そういう意味では重要なシーンでもあった。やっぱり必要か〜(笑)うーん。

『冷血』読了後にまた映画を見たらどう感じるだろう?と、もう一度見てみたいとは思っているんだけど、映画自体は少し退屈してしまった部分もあったので(ホフマンの演技はとても良かったが)躊躇している。DVDまで待つかなぁ。そういえば同じくカポーティを描いた『INFAMOUS』という作品もアメリカで公開中ということなので、こちらも楽しみだ。
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X-MEN:ファイナル ディシジョン('06アメリカ)-Sep 22.2006
[STORY]
ジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)を失ったウルヴァリン(ヒュー・ジャックマン)たちはショックを受けながらも学園でミュータントたちの指導にあたっていた。しかしジーンの恋人だったサイクロップスだけは立ち直れず、ジーンが死んだ湖へと向かう。そこで彼はジーンを見つけるが、彼女は凶暴な別人格フェニックスに支配されていた。
一方、政府はミュータントたちを治療するという新薬“キュア”を開発したと発表する。それを聞きつけたマグニートー(イアン・マッケラン)は他のミュータントらとともに、“キュア”の研究所を襲撃する計画を立て、復活したジーンを仲間に引き入れようとする。
監督ブレッド・ラトナー(『レッド・ドラゴン』
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『X-メン』 『X-MEN2』に続く(一応)完結編。1と2の監督だったブライアン・シンガーが別のアメコミ作品に行ってしまったので、本作はラトナーが担当。とはいえ前2作の世界観を壊すことなく踏襲していて違和感はない。また、原作者のスタン・リーがカメオ出演している(らしい。分からなかった)

原作に登場するミュータントたちが(原作と設定は違うけど)数多く登場し派手なアクションを繰り広げ、マグニートーが驚くべきパワーを見せ付けるシーンもあり(ホントにビックリ)ラストにふさわしいダイナミックな作品となった。同時に、1作目から登場しているミュータントが死んでしまったりパワーを失ってしまったりするシーンがあり、「やっぱりこれで最後なんだ・・・」と寂しさが募った。が!ひょっとしたらまだ続くかも?!というシーンもあって、エンドクレジットの最後の最後まで席を立つことが許されない作品だった。

でも正直言って、物足りなかった。上映時間105分って確かに飽きずに見られる時間だけど、ファイナルにしては短すぎる。あと20分長くてもいい。せっかく“キュア”開発の元となったミュータントの少年リーチ(キャメロン・ブライト)が新たに登場したことで、ミュータントのパワーを封じ込めるという能力を持つ彼の存在は、フェニックスなんて目じゃなくなるほど脅威となるのでは・・・?!と、さらにX-MENワールドに奥行きが出るんじゃないかと期待していたわけ。それなのにただ彼を助けて逃げるだけでおしまいだなんて、あっけないにもほどがある。シンガーならむしろ彼のほうをフィーチャーしたかもしれない。エンジェル君ももっと活躍したかもね(逆にレベッカ・ローミンの半裸はなかったかもだ!それはイヤだな(笑))

それと今回のウルヴァリンは非常に影が薄いと感じた。ただジーンを助けたいというだけで、彼自身ミュータントとして“キュア”をどう思うか?って全然考えてない。前は自分の存在にあれだけに悩んでたのに、愛する人のためなら他は見えなくなるってことですか(笑)最後もスッキリ晴れやかな顔してるし、あんな野性味のないウルヴァリンなんてつまらない。それならマグニートーについていくわ。彼の声は素晴らしい。英語が分からないけど、あの演説に聞き惚れてしまった。さすが舞台役者だ。
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LOFT ロフト('06日本)-Sep 10.2006
[STORY]
芥川賞作家の春名礼子(中谷美紀)は、原因不明の咳に悩まされ新作もなかなか筆が進まない。そこで編集担当者の木島(西島秀俊)は礼子に古い一軒家を紹介する。引っ越した礼子はその夜、目の前の建物に出入りする男を目撃する。調べたところそこは大学の研修所で、男は吉岡誠(豊川悦司)という大学教授だった。彼は1000年前に死んだ女性のミイラの研究をしており、大学に無断で研修所にミイラを持ち込んでいた。礼子はこっそり研修所に入り、ミイラを見てしまう。
監督&脚本・黒沢清(『ドッペルゲンガー』
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韓国の製作配給会社ミロビジョンから依頼を受けて製作された日韓共同作品。監督は、新彊ウイグル自治区博物館にあるミイラ「楼蘭の美女」のニュースをテレビで見た時にこのストーリーを思いついたという。そういえば本作に登場するミイラはそっくりだった。

今までの黒沢作品は『カリスマ』『回路』のように先の見えない未来への不安を煽りつつ抽象的な表現が多かったので、深読み裏読みしてしまいたくなるものばかりだった。でも本作は深読みする必要がない、直接的なシーンばかりで逆に「これでいいの?」と不安になったが(笑)終わってからモヤモヤすることもなく、スッキリしてしまったというか・・・あのものすごいラストシーンのせいなのかしら(笑)予想通りだったけどすごいオチだった。

『カリスマ』などでは人が殺されるシーンでも淡々と描いていたが、本作では幽霊が出る直前に「はい、ここから怖いシーンですよー」とばかりに怖い音楽で盛り上げる。ラブシーンでは昭和メロドラマかと思うような甘い音楽で思わず笑ってしまう。ここまでわざとらしくしたのも、やはり意図的なのだろうと勘繰ってしまう。単純に、怖い映像で驚かせ(唐突なラブシーンにも驚いたけどさ)いつも深読みするファンを裏切ってみようとしたのか・・・(って結局深読みしてるのかよ!)
ただ単に「怖くて笑えるヘンな映画だったー」で終わらせたらいけないんじゃないか、って思わせるところが黒沢マジックなのかもしれません(笑)
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UDON('06日本)-Sep 1.2006
[STORY]
一流コメディアンを夢見てニューヨークに渡った松井香助(ユースケ・サンタマリア)だったが、全くウケずに故郷の香川に戻ってくる。しかし製麺所を営む父(木場勝己)からは早々に怒鳴られてしまう。とりあえず働かなくてはと、親友の庄介(トータス松本)からタウン情報誌『さぬき』でのアルバイトを紹介された香助は、香川名物讃岐うどんの店をとりあげる企画を思いつく。編集部員の宮川恭子(小西真奈美)らとともに道に迷いながら店を訪ね、それをコラムにしたところ大反響を呼び、うどんブームへと大発展していく。
監督・本広克行(『サマータイムマシン・ブルース』
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監督の生まれ故郷である香川の名物「讃岐うどん」をテーマした作品で、香川県出身の役者やタレントがゲスト出演している。また監督の過去の作品の出演者も多く、特に『サマータイムマシン・ブルース』は事前に見ておくと楽しめるだろう。
ストーリーはオリジナルだが、劇中のタウン誌のエピソードは実話が元になっていて“麺通団”は実在する集団。詳しくは→こちらへ。

食べるものがテーマの映画は大好きで、この映画を見に行った後にやはりうどんが食べたくなり、近くの『はなまるうどん』で釜玉を食べて満足しきりだったけど、映画そのものはあまり満足できない内容だった。一番すっきりしないのが香助のキャラクター。本作は香助と父親の確執と、香助のアイデアでうどんブームが起こるという2つの軸を1本の作品にしているのだが、この2つが噛み合っていないのだ。

夢破れて実家に戻った香助だったが、タウン誌でのバイトでブームを作ることによって郷土愛に目覚めるという話なのかと思いきや、祭りのような出来事としてそこで終わらせてしまうし(ブームの終わりまで見せたというところは評価できるが)父の代わりにうどん屋を継ぐのかと思いきや、義兄に任せて再びNYへ旅立ってしまう。うええええ何だそれーーー!と思わずのけぞってしまった。だったら最初から香助という人物の設定を、関わった人間の意識を変える力を持つトリックスターのような存在にしてしまえば良かったのに。

父の仕事ぶりを知り、寡黙な父の気持ちを香助が理解するところファンタジックな演出で一瞬戸惑ものの(こういう演出ってテレビ的だし安易だし反則じゃないかなとも思うのだが)ちょっとウルッとしてしまった。言葉では笑わせることができない父だが、美味しいうどんを食べた人に笑顔を与えることができる。ここが一番良かった。うどんに限らず、人を喜ばせることができる人って素晴らしい。映画もここで止めとけば笑顔のまま帰れたのになぁ。最後まで見て苦笑いになってしまった。
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キンキーブーツ('05アメリカ=イギリス)-Aug 26.2006ヨイ★
[STORY]
父親の急死で靴工場を相続したチャーリー・プライス(ジョエル・エドガートン)は工場が倒産寸前と分かり、どうにか工場を救おうと奔走する。そんな時、ロンドンで知り合ったドラッグクイーンのローラ(キウェテル・イジョフォー)がブーツのヒールを折ってしまったところに目をつける。女性用のブーツではドラッグクイーンの体重を支えきれないのだ。そこでチャーリーはドラッグクイーン向けのブーツを開発しようと思いつく。
監督ジュリアン・ジャロルド(TVドラマの監督を経て映画初監督)
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ノーサンプトンに実在する『W.J. Brookes』という靴メーカーの実話を元にした物語で、『カレンダー・ガールズ』に続くアメリカ資本(ブエナビスタ)によるイギリス映画の第2弾。第3弾はやっぱり造船会社のおっちゃんたちがバレエに挑戦した話ですかね(笑)
キンキーブーツ(Kinky Boots)とは、直訳すれば「変態ブーツ」という意味。

この手の映画の走り(?)となった作品『フル・モンティ』を超える面白さではやはりなかったものの、『カレンダー・ガールズ』のように中盤までが楽しく最後が尻つぼみという作品にはならず、終盤で徐々に楽しく盛り上がる映画だったので、終わった後に気持ちよく劇場を出ることができた。

冴えない主人公と保守的でクセのある従業員たちが住む町に、奇抜なドラッグクイーンがやってきて皆の度肝を抜くというのは既に新鮮味のない設定だし、チャーリーとローラがケンカをして国際見本市でのショーが危ぶまれるというのもクライマックスを盛り上げるためのお約束というのがミエミエなのだが、そのお約束が楽しい映画であった。ショーではチャーリーが大失態を演じるのだが、それが結果的にショーのパフォーマンスの1つに見えるというのが、とてもいい演出だった。

そんなお約束だらけの設定の中で、ローラのキャラクターはちょっと変わっていて、この映画のいいアクセントになっている。ドラッグクイーンでいる間は堂々としていてトークも抜群だが、ドレスを脱ぎ男性の格好になった途端に自信がなくなりトイレに閉じこもってしまったりする。ドラッグクイーンでいる時のド派手なパフォーマンスシーンよりも、工場のクズ置き場を気に入り1人ぼんやりしている時など、普通の格好をしている時のほうが不思議な存在感があった。また、少年時代のローラと現在のローラがスキップするシーンが切なくて印象深い。ものすごく笑えるシーンもあったのに、ふと思い出すのはそんな少し寂しい情景だった。

余談になるけど、見てる間じゅうローラが慎吾ママに見えてしょうがなかった(笑)日本でリメイクするなら(しないだろうけど)ローラ役はぜひ彼に。で、チャーリー役は稲垣吾郎にしよう(笑)
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