Movie Review 2012
◇Movie Index

しあわせのパン('11日本)-Jan 28.2012
[STORY]
北海道の洞爺湖畔で、パン職人の水縞(大泉洋)と妻のりえ(原田知世)がカフェ『マーニ』を営んでいた。りえはパンに合うジャムやスープを作り、おいしいコーヒーを淹れる。店の2階は宿泊することもでき、毎日訪れる客と、たまにやってくる旅行客を受け入れていた。
監督&脚本・三島有紀子(『刺青 匂ひ月のごとく』)
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北海道洞爺湖畔に実在するパン工房(カフェも併設)など、すべてのシーンが北海道で撮影された作品。北海道で先行上映された。

『かもめ食堂』以降この手の作品が増えたが「そんなに面白くはないんだろうな」と、ぶつぶつと文句を言いながらも私のような食べ物系映画好きとか「ほっこりしたい」人なんかが見に行ってしまうため、一定の興行収入が得られるということで製作されているのかもしれない。
内容は『かもめ食堂』より『食堂かたつむり』に近い。やってきた人をおいしい料理で元気と癒しを与えるという設定が似ている。余貴美子も出てるし。ただ『かたつむり』の主人公は親との関係が複雑だったり男に逃げられたり、始めたお店でもトラブルがあってちょっと泥臭いところがあった。けれど本作は徹底して生々しいもの、汚いものは排除している。りえは東京で何かがあったらしいが、その何かは最後まで説明なし。とにかく美しい映像とストーリーへのこだわりが感じられて、ここまで徹底してるならこれでもいいかと思う。但し「これはおとぎ話なんだ」と思って見たほうがいい。リアルに考えたら、このお店赤字だらけで1年も持たなそうだもん。

映画の中では居心地のよいカフェって感じに描かれているけど、見てるこっちは終始居心地の悪い思いをした。特に夏のエピソードはつらかった。時生(平岡祐太)と香織(森カンナ)の演技が下手すぎて背中がムズムズ(笑)秋のエピソードの未久(八木優希)と父親(光石研)はエピソードそのものがこそばゆくて、見てるほうが恥ずかくなりますます居心地が悪くなった。2人が一緒にパンとスープを食べるシーンでの、娘を立たせたまま食べさせる演出も落ち着かなくて感動どころじゃなかったし。

同じように気になったのは、冬のシーンで老夫婦に出したスープ。野菜ゴロゴロなのはおいしそうだけど、これを老人に出すのはどうなんだ?詰まらせたら危ないじゃないかと思ったら集中できなくなった。それでも渡辺美佐子と中村嘉葎雄ほどのベテランになると、こんな絵空事みたいな脚本でもそれなりに説得力を生み、涙を流させる力を持っているんだなと感心した。ちょっと泣いちゃったもん。

パンと料理はどれもおいしそうに作られていて、パン目当てに見て失敗した『恋するベーカリー』と比べたら十分満足できる。湯気もちゃんと立ってたし映し方も綺麗。見終わった後はおいしいパンが食べたいなぁと思っていたのに、映画の中に出てきた“カンパニオ”という言葉が耳に残っていたせいかカフェの『a la campagne(ア・ラ・カンパーニュ)』に入ってしまった。パスタランチにホカホカのパンが添えられてきたので結果的にはよかった。これから見る人も鑑賞後にパンがほしくなると思うので気をつけて(笑)
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ロボジー('11日本)-Jan 15.2012
[STORY]
家電メーカー木村電器のエンジニア3人は、ワンマン社長からロボット博で披露するためにたった3ヶ月で二足歩行のロボットを作るよう命じられていた。しかし1週間前になっても完成せず、開発中のロボットも壊してしまう。そこで3人は人間にロボットを演じさせようと考え、架空のオーディションを開催し、73歳の老人・鈴木(五十嵐信次郎)を騙して会場に連れて行く。だが、見学に来ていた女子大生の葉子(吉高由里子)をロボット姿の鈴木が咄嗟に助けたことで、一躍有名ロボットになってしまう。
監督&脚本・矢口史靖(『ハッピーフライト』
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主演の五十嵐信次郎とはミュージシャンで俳優としても今まで映画に出演してきたミッキー・カーチス。主題歌の『MR.ROBOTO』も歌っている。
五十嵐は200人以上のジジイオーディションの中から選ばれたそうだが、最初から決まってたんじゃないのかと驚いた。だってピッタリなんだもん。スタントは使わず、実際に30キロもあるロボットパーツを身に着けられる細身の体型で、寒い中でも撮影に耐えられる体力があるジジイなんてなかなかいないじゃない(笑)そりゃ200人以上集まってもなかなか決まらないわな。まさに奇跡のキャスティングだ。他のキャストも皆ピッタリで、お笑い芸人Wエンジンのチャン川合も本作が役者デビューということで、余裕がないのがかえって役に嵌っていて良かった。慣れてくるとヘンに悪目立ちしたり遊びを入れる芸人っているからね。うまく溶け込んでいた。

『ウォーターボーイズ』以降の矢口コメディは前半が失敗続きのドタバタがあり、後半一気に盛り上がるタイプの映画ばかりだった。ドタバタのイライラを最後の達成感で帳消しにするという感じ。それが本作はドタバタはもちろんあるけど、呆れるような下らなさやフザけたシーンは抑えめで、むしろ中にジジイが入っているのがいつバレるのかとハラハラするシーンが多く気が抜けない。さらに最後に達成感を味わうこともない。代わりに連帯感が生まれたところがジワジワくるのと、ラストカットでホンワカした気持ちになるくらい。爆発力がないため、ちょいと消化不良気味になる。あ、エンドクレジットのイラスト(ソリマチアキラ)がスゲー可愛いので、そこでもホンワカできますが(笑)

前半のロボット博で鈴木がもっと暴走してもよかったし、鈴木が孫たちに会いに行くところももう少しコミカルにしてもよかったんじゃないかな。展開は悪くないけど私はここで気分が盛り下がったし、一番ダレてしまったシーンだと思っている。一緒に伏線を張ったところは上手かったけどね。上手いといえばもう1つ、エンジニア3人が大学に講演に行き、学生たちから質問責めに遭うところから面白い展開に持って行ってて「さすが!」と感心した。

最近は人気漫画や小説の映画化ばかりが目立つが、オリジナル作品で徹底してコメディ映画を撮る監督は貴重なので(そういう意味では三谷幸喜にもこれでも期待してんのよ(笑)あと内田けんじ様は崇拝しております)これからも人が目をつけないところを開拓して笑いを生み出していってもらいたいな。
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デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-('11ベルギー)-Jan 14.2012
[STORY]
イラクのサダム・フセイン大統領の長男ウダイ(ドミニク・クーパー)は、幼馴染のラティーフ(ドミニク・クーパーの二役)を呼び出し、自分の影武者になるよう命じる。最初は断るラティーフだったが、家族を人質にされしぶしぶ承諾する。ウダイは残虐な性格で、気に入らない者を拷問にかけたり、気に入った女性ならたとえ人妻でも愛人にし、薬にも手を出していた。耐え切れなくなったラティーフは逃げ出そうとするが・・・。
監督リー・タマホリ(『スパイダー』
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原作はウダイ・サダム・フセインの影武者だったラティーフ・ヤフヤーの自伝『The Devil's Double』(日本語翻訳版はなし)
ラティーフは1987年から1991年までの4年間、ウダイの影武者だったが、1992年にオーストリアへ渡り、現在はアイルランドで国際弁護士となっている。

ウダイといえばFIFAワールドカップアメリカ大会アジア地区最終予選の日本VSイラク戦、いわゆるドーハの悲劇でイラクが負けていたら選手たちウダイによって鞭打ちの刑に処せられていた、という話が有名だ。あの試合は悔しかったけど相手はまさに命懸けだったのだと後から知って震えたものだ。あとはイラク戦争で亡くなったこと。知っているのはそれだけ。映画を見るまでこんなに身勝手で残虐な人物とは知らなかった。

映画は時系列がちょっと分かりにくかったので、後からウダイについて調べてしまった。見る前にざっと見ておけばよかった。映画はかなり脚色がなされているということも調べておけばすぐに分かっただろう。例えばウダイが重傷を負うのが1996年なんだけど、その時ラティーフはすでに亡命していたわけ。だから映画のあのシーンは本当は違う。自伝が元になっているとはいえ、すべてが真実だと思わないほうがいい。ラティーフ本人の話によると、ドキュメンタリーも製作しているというので、真実に近い話が知りたければそちらを見たほうがいいだろう。

というわけでストーリーはちょっと・・・だったけどウダイとラティーフの2役を演じたクーパーは本当に素晴らしかった。1人で演じてるってことを忘れてしまう。完全に別人だった。ラティーフがつらい目に遭っているのを見て同情し、ウダイが憎たらしく「何なんだこいつは!」と憤ってしまったのだが、ふと我に返った時に「あ、そういえばこれ同じ人が演じてるんだった」と気が付いて思わず苦笑い。プロの役者だから出来て当たり前なのかもしれないが、同時に出るシーンではそれほど間を置かずに2人分演じてただろうし、気持ちを切り替えたり集中力を切らさないなど、大変なことも多かったんじゃないかな。よく双子を1人が演じることはあるが、別人2人、なおかつ片方が片方の真似をしなければならない役を演じるという複雑さをよく演じきったものだ。彼の演技だけでも見る価値はある。
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ワイルド7('11日本)-Jan 8.2012
[STORY]
凶悪な銀行強盗事件が発生し、犯人たちは人質を取り逃亡する。そこで警察は元犯罪者の警察官7人を投入する通称“ワイルド7”。彼らは凶悪犯をその場で処刑できる超法規的存在だった。7人は逃げた犯人たちを追い詰め、1人ずつ処刑していくが、犯人の1人をワイルド7以外の何者かが射殺した。実はここ最近の凶悪事件ではこの謎の人物が現れていた。メンバーの飛葉(瑛太)は逃げていく謎の人物を追跡するが見失ってしまう。だが、そこで本間ユキ(深田恭子)という女に出会う。
監督・羽住英一郎(『逆境ナイン』
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原作は1969年から1979年まで連載された望月三起也の同名漫画。過去にはTVドラマ化やアニメ化もされている。映画のワイルド7メンバーは、飛葉とセカイ(椎名桔平)、オヤブン(宇梶剛士)、ヘボピー(平山祐介)は原作のメンバーだが、パイロウ(丸山隆平)、ソックス(阿部力)、B・B・Q(松本実)は原作には登場しない映画オリジナルのキャラクターである。

何でこんな古い(失礼)漫画を今になって映画化?と思ったんだけど、今の犯罪者に甘い世の中をみると、こういう即処刑!っていう話に思わずスカッとしてしまうところがあるなぁと思った。あと配給がワーナー・ブラザースなので、ひょっとしたらハリウッドでのリメイクを目論んでる?と邪推してしまったり。

冒頭の銀行強盗シーンと、ワイルド7が犯人たちを追い詰めるアクションは邦画にしては激しくて「お、なかなかやるな」と感心したが、それ以降は迫力不足。特に広い場所での銃撃戦は引きの画面ばかりで、カメラが怖がって逃げてるようにしか見えない(笑)この点はハリウッドは実に上手い。ので、ぜひリメイクして下さいお願いします!(笑)

キャラクターだって7人もいるんだから、もうちょっと個性や特技を生かした作戦を使ったりしても良かったんじゃないかな。パイロウが爆弾を使うくらいだよね。ソックスなんて元ギャンブラーなわけでしょ、一緒に銃をぶっ放してるだけじゃ面白くないじゃない。ラスボスが公安で小遣い稼ぎしてる奴っていうのもスケールがちっちゃいなーと思ってしまった(まぁ奴のせいで犠牲者が出ている事件もあるが)もっと巨悪に立ち向かえよ!映画では凶悪犯がまだ2人残っていると言われていたので、これは続編まで取っておくということか。フカキョンの活躍は見たいけど・・・続編はなぁ・・・。

エンドロールを思い出すと今でも怒りがこみ上げてくるんだけど、何であんなふざけた映像を挿入したんだろう。敵も味方も一緒にニコニコしながら「Choo Choo TRAIN」のダンスなんかやってる映像なんて見たくないんだけど。コメディだったらNGシーンを入れたり、おちゃらけたショットを入れてもいいよ(これの少し前に見た『ニューイヤーズ・イブ』のエンドロールでのNGやおふざけはセンスもよくて面白かった)なぜこのシリアスな映画でやるわけ?ワイルド7メンバーの役者も敵の役者も人殺しじゃなくて、実際はこ〜んなにお茶目さんなんですよ〜とでも言いたいのか?なんか役者も観客もバカにしてるように感じたわ。こんなものはDVDの特典映像のところにでも入れとけ。
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源氏物語 千年の謎('11日本)-Jan 7.2012
[STORY]
平安の世。藤原道長(東山紀之)は娘の彰子を一条天皇に嫁がせる。道長は帝の心を彰子に向けさせるため、女御の紫式部(中谷美紀)に物語を書くよう命じる。式部は光源氏(生田斗真)という美しい青年と女たちの恋を描いた物語を描き始めるが――。
監督・鶴橋康夫(『愛の流刑地』)
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原作は高山由紀子の『源氏物語 悲しみの皇子』(文庫になる際に映画のタイトルに変更された)で、本作の脚本にも携わっている。

『千年の謎』というミステリアスなタイトルだが、源氏のモデルが道長だった説や、式部が道長の妾だった説を知ってる人なら驚くような話ではない。これらの説を取り入れ『源氏物語』執筆にはこの時代の栄華を極めた道長の影響が大きかったという物語。歴史絵巻というよりはファンタジーとして見たほうがいいだろう。見る前にはこの時代についての多少の知識と『源氏物語』のあらすじくらいは知っておいたほうがいい。

源氏物語は劇中劇として語られるが、六条御息所(田中麗奈)が生霊となる話のあたりから物語そのものに怨念が篭るようになり、それを危惧した安倍晴明(窪塚洋介)が御息所を鎮めようとしたりと、かなりトンデモな展開もアリ。しかも映画では晴明は若く道長のほうが年上の配役だが、実際は晴明のほうが45歳くらい年上で、彰子が皇子を生んだ頃は晴明は既に亡くなっている。夢枕獏の『陰陽師』みたいに道長と晴明が酒を酌み交わすシーンなどもあって、これじゃまるで『陰陽師』そのままじゃないか、と思っていたらスタッフロールのところに夢枕獏の名前があった。了解は取ったわけね。ついでに荒俣先生の名前も発見(笑)

今の人が見る映画だから古い言葉でやれとは言わないが、セリフ回しが現代的過ぎて着ている衣装とのギャップが気になりセリフが頭に入っていかないこともしばしば。特に源氏と御息所が言い争うシーンでの、生田の言い方が早口かつ強すぎだと思った。いくら激しいシーンでも一応平安貴族なのだから、もう少し優雅にね。式部や道長のパートでは現代の言葉でもさほど違和感はなかったのだから。逆に1人だけ京ことばの一条天皇(東儀秀樹)に吹きそうになった。ここは統一しとけ(笑)

京都でも各地でロケが行われたそうで、美しい風景と豪華な衣装は楽しめた。下鴨神社や平安神宮は行ったけど、映画で見ると全然違う場所みたい。藤壺(真木よう子)が出家をするお寺が気になって後で調べてみたところ、大原にある勝林院だそう。大原はまだ行ったことないんだよね。いつか行ってみたいな。
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