Movie Review 2011
◇Movie Index

パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉('11アメリカ)-Jun 5.2011
[STORY]
捕まった相棒ギブスを救うためロンドンにやってきたジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)は、自分の名を騙り船乗りたちを集めているという噂を耳にする。それはかつて恋人だったアンジェリカ(ペネロペ・クルス)だった。彼女は父親である海賊“黒ひげ(イアン・マクシェーン)”に永遠の命を与えるために“生命の泉”を探そうとしており、ジャックはその旅に同行させられる。一方、英国王も“生命の泉”を求めて海軍に命令を下し、そのリーダーとなったのは何とバルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)だった。
監督ロブ・マーシャル(『NINE』
−◇−◇−◇−
パート3だった『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』から4年後という設定で、パート6まで製作する予定らしい。
本作はティム・パワーズの小説『幻影の航海』(原題は『On Stranger Tides』で、映画の原題も『Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides』)を元に脚色化された。

このシリーズは見てると疲れてしまうので、今回は3D作品であるがあえて2Dで見た。が、前3作よりもこってり感がなく、逆にちょっと物足りなかった。前3作の監督だったゴア・ヴァービンスキーが特盛な人だったみたい(笑)アクションシーンが特に大人しくなって目が回るほどではなくなった。今までロブ・マーシャルが監督した作品と今回とでは毛色が全く違うからね。アクションシーンは得意じゃないんだろう。ただ、ストーリーは相変わらず字幕では分かりにくい小ネタや、なかなか理由を明かさず後でネタばらしというのが多いので、ついていくのはやっぱり大変だった。

アンジェリカも黒ひげもバルボッサもスペイン軍もみなそれぞれ“生命の泉”へ行く目的が違う。そこが面白かったな。ジャックのコミカルさも健在だったが、ピンテル(リー・アレンバーグ)とラゲッティ(マッケンジー・クルック)コンビや、おサルのジャックみたいな他に笑えるキャラがいないので、彼らに代わるお笑い担当がいれば良かったのにな。あと、観客はみんなエンド・クレジット後におまけシーンがあることを前3作で学んでいるので、ほとんどの人が席を立たずに待っているのが何だかおかしかった(笑)あれはやはりパート5に繋がるんだろうか。だとすればワクワクするね。

『硫黄島からの手紙』の松崎悠希が出演するっていうのは知っていたけど、何の役だろうと思ったら海賊役でびっくりしたわ。髪も髭ももじゃもじゃで、日本人というよりネイティブ・アメリカンみたいだった。ほとんどセリフもなく写ってる時間も少なかったけど、とりあえず最後まで生き残ったのでホッとした(笑)
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ブラック・スワン('10アメリカ)-May 15.2011
[STORY]
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、新作『白鳥の湖』の主役に抜擢された。しかし、白鳥役にはピッタリだが邪悪で官能的な黒鳥を踊れていないと芸術監督のルロイ(ヴァンサン・カッセル)に何度もダメ出しをされてしまう。そして最近入団したリリー(ミラ・クニス)を代役に据える。焦りと不安でニナは次第に追い詰められていく――。
監督ダーレン・アロノフスキー(『レスラー』
−◇−◇−◇−
第83回アカデミー賞でナタリー・ポートマンが主演女優賞を受賞した作品。他に作品賞・監督賞・撮影賞・編集賞にもノミネート。ポートマンはこの映画の振付師ベンジャミン・ミルピエと婚約し、第1子も妊娠。

私は毎年アカデミー賞の予想をしているんだけど、主演女優賞をポートマンじゃなくて『キッズ・オールライト』のアネット・ベニングだと襲うしていた(どっちも見る前ね)ポートマンは主演女優賞には初ノミネートだし、スリラーで主演女優賞はないんじゃないかなと思って。結果はポートマンが受賞したわけだが、今回両方見て「これはポートマン勝ちだわ」と納得した。

彼女については『レオン』から10本以上の作品を見てきたが、子役でブレイクした子にありがちなグレることもなく順調にキャリアを重ねてはいるものの、『スターウォーズ』シリーズへの出演から、『クローサー』でのストリッパー、最近ではラブコメにも挑戦とさまざまな役を演じてはいるが、演技に固さが見られ殻を破っていないように私には見えた。なまじ賢すぎることがかえって仇になっているのかなぁと思ったり。『ダージリン急行』の短編『ホテル・シュヴァリエ』ではセミヌードまで披露したが、小柄で細いせいか色気もなく痛々しく見えるだけだったし。でも本作はそんな彼女自身をそのまま役柄に投影したような役で、まさにハマり役だった。9キロも減量したというが、見事なバレリーナ体型になっていたのにも感心。大役へのプレッシャー、母親からの過剰な期待によるストレス、どんどん神経質になって追い詰められていく姿がとてもリアルだった。

黒鳥を演じるために男と戯れてみたり、リリーとレズ行為をしてみたり、母親にも反抗するニナ。これらの経験からどう黒鳥を演じるのか・・・!と期待していたら、何と出てきたのは目が血走ったデーモン小暮閣下。男を惑わせる邪悪で官能的な役なのに顔がデーモン閣下。色気も何もあったもんじゃない。こんなメイクさせずに黒鳥を表現することはできなかったんだろうか。やっぱりポートマンに官能的な役は無理だったってこと?それとも製作側にとってあのメイクが官能的だと思って・・・やったんだよねぇ当然(じゃなきゃやんないよね)

それ以外はかなり面白かったんだよね。背中ボツボツとか指のささくれ剥いちゃうとか生理的にゾワッとするシーンがやたら上手く、足の指がくっついちゃうシーンなんてまるで私がたまに見る夢(頭に雑草が生えるとか、目が顔より大きくなってしまう怖い夢)にそっくりで眩暈がした。なので過剰なメイクやCGでの黒鳥や悪魔は逆に全然怖くなくて、それらも抑え気味で表現してくれていたらもっと面白いと感じただろう。惜しかった。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

キッズ・オールライト('10アメリカ)-May 4.2011
[STORY]
ニック(アネット・ベニング)とジュールス(ジュリアン・ムーア)はレズビアンのカップルで、2人にはそれぞれ精子提供によって産んだ18歳になる娘ジョニ(ミア・ワシコウスカ)と15歳の息子レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)がいた。そんな中、レイザーは精子提供者である自分の父親に会いたくなり、母たちに内緒でジョニと一緒に提供者のポール(マーク・ラファロ)に会いに行く。
監督&脚本リサ・チョロデンコ(『しあわせの法則』)
−◇−◇−◇−
自身もレズビアンであり、精子提供を受けて出産しているリサ・チョロデンコの経験や人生観を元にした作品。
第83回(2010年)アカデミー賞では作品賞、脚本賞、主演女優賞(ベニング)、助演男優賞(ラファロ)にノミネートされた。

レズビアンカップルの家族といっても、本人たちは他の家族と何ら変わりなく暮らしている。産みの母だけを「ママ」と呼ぶのではなく、ジョニもレイザーもこだわりなくニックとジュールズを「ママ」と呼んでいる。そこが「ほ〜そういうものなんだ〜」と、まず感心してしまった。レズビアンてホモセクシャル以上によく分からないんだけど、髪を短くして常にパンツスタイルなニックがどちらかというと男っぽい役を担っていて、髪を長く伸ばしフェミニンなワンピやチュニックを着たジュールズが女性らしい役なのだろう。2人が気分を盛り上げたい時にはマッチョな男同士のゲイビデオを見るとか、こういう、自分が知らない世界のルールとか暗黙の了解とか、普段の生活を覗き見している感がすごく面白かった。

そんな家族、子どもたちの年齢からいって少なくとも18年以上かけて築き上げてきた家庭に、遺伝子上の父親が現れたことでバランスが崩れてしまう。現れるといってもポールが勝手にやってきたのではなく、そもそもレイザーが父親に会いたいと連絡を取ったのが始まりだ。それなのに!ネタバレになってしまうけど、最後のポールへの仕打ちが酷くて気の毒だった。私は、ひょっとしてポールも家族の一員になって今までにない新しい家族の誕生に驚かされるのか?!と半ば期待して見ていたのだ。実際はありえなくても映画だからさー。それなのに!!なんか強引に排除したみたいでものすっごい不愉快だった。そういう結末にするにしても、ちょっとでいいからポールへのフォローもしてほしかったよ。例えば「じゃあ、自分は1から新しい家族を作るよ」って言わせるとかさ。

脚本はチョロデンコと、男性のスチュアート・ブルムバーグの共同執筆で(彼は本作にチョイ役で出演もしている)おそらくポールの性格や考え方、心境の変化などは彼の手によるものではないだろうか。ポールを演じたラファロの自然な演技もあいまって非常にリアルなキャラクターに仕上がっているため、余計に彼の最後は可哀想に思ってしまうのだ。ひょっとしたらブルムバーグは彼をフォローするような脚本を書いたかもしれない。でも監督がそんなものはいらん!と突っぱねたかカットしたのでは?と邪推してしまう。むしろそうであってくれたほうがいいな。あくまでも監督の独断と偏見で作られたものだと決め付けたほうが不快感も薄れるや。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ミスター・ノーバディ('09フランス=ドイツ=ベルギー=カナダ)-May 4.2011
[STORY]
西暦2092年。人が死ぬことのない世界で、最後に死ぬ人間となった118歳の老人に世界の注目が集まっていたが、彼の記憶はあやふやでどんな人生を歩んできたのか分からなかった。そこで医者は彼に思い出させようと催眠をかける。
彼の名前はニモ(ジャレッド・レト)。彼が9歳のとき両親が離婚することになり、母について行くか父と残るのかで彼の運命は大きく変わろうとしていた。
監督&脚本ジャコ・ヴァン・ドルマル(『八日目』
−◇−◇−◇−
パーシー・アドロンに続きジャコ・ヴァン・ドルマルも13年ぶりの新作、しかも50億円かけた大作だ。何と脚本を書くのに6年もかかったらしい。

あの時ああしていれば・・・というのは誰しも思うことだけれど、本作はまさにそれを1つ1つやっている作品だ。離婚する両親のどちらについていくか、3人いる女の子の誰と付き合うか、で人生が変わっていく――それを全て見せていく。映像は凝っているし編集にもものすごく時間を費やしたのが分かる力作だが、単純に面白かったかというかそこは微妙で(笑)長い年月と膨大な制作費をかけた作品だから、つまらないと言いたくないんだけどねー。主演のジャレット・レトも相変わらずイケメンなのに「顔じゃなくて演技で認められたい!」というのが伝わる演技をしているが、役そのものの感情が伝わる演技ではなくて・・・。老人役まで演じて頑張りは分かるのだが、やっぱりそんなに上手くないんだわ(笑)すべての頑張りが映画の面白さに繋がってない、もどかしい感じでした。

1つ面白かったのは、ニモがどの選択をしても幸せにならないところ。父と一緒にいても、母について行っても、好きな女性と結婚しても、なんとなく結婚しても、やっぱりどこかで不幸はやってくる。そのとき正しいと思って選択しても、それが将来でも最良とは限らない、というやつだ。自分の意にそぐわず、アクシデントがあって正しい選択ができない場合だってある。映画はそれを描いているのだ。その見せ方をもう少し明確にしたり、結末にもう少しはっきりしたものを見せてくれれば、もっと面白い作品になったのではないかな。ホントにもう少し、なんだよねー。

2092年の未来の映像がどっかで見たことあるような感じがするなぁと思ったら、エンキ・ビラルの映画っぽいんだわ(あそこまでダークじゃないんだけど)フランス人のSFというとやっぱそうなるのかな。ハリウッド映画のSFも、イギリス映画のSFもそれぞれ似通ってるんだよね。日本はやっぱアニメの影響が強いし。お国柄が出て面白いわ。私はフランスとイギリスのSFが描く風景が好きだ。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

マーラー 君に捧げるアダージョ('10イギリス=フランス)-May 1.2011
[STORY]
作曲家グスタフ・マーラー(ヨハネス・ジルバーシュナイダー)は19歳年下のアルマ(バルバラ・ロマーナー)と結婚するが、 彼女は建築家のグロピウス不倫関係になってしまう。マーラーは、精神分析医のフロイト(カール・マルコヴィクス)に 相談をするが・・・。
監督&脚本パーシー・アドロン&フェリックス・アドロン(『バグダッド・カフェ』)
−◇−◇−◇−
『バグダッド・カフェ』が大好きで、去年はニュー・ディレクターズ・カット版を劇場に見に行ったほど。そういえば新作って全然撮ってないのかな?と思っているところに本作が公開になったので見に行った。息子のフェリックスとの共同監督というのも興味を惹かれたが、マーラーには全く興味ありませんでした(笑)

マーラーがフロイトに相談?なにそのマンガみたいな話、と思っていたら事実だったのね。同じ時代に生きていてしかも訪ねて行ける距離だとは。マーラーの奥さんは本当に奔放な人だったようで、結婚前はあの画家クリムトの恋人だった時もあったそうな。まさに有名人がいっぱい出てくるマンガみたい。なんかこの世界、広いようでいて狭いのかも。

映画はこれらの事実に基づき、マーラーやアルマが何を考え、どんな風に悩んでいたのかを想像で描いている。映画の冒頭にわざわざそれを断り書きしていて、よほどその想像に自信がないの?言い訳っぽい、と怪しみながら見てたんだけど、やはり何と言うか中途半端。アルマがどんな女だったのかの描き方なんだけど、ある時は夫に作曲活動を断念させられ娘を亡くした悲しい女だったかと思えば、またある時は愛人に「夫が死ねば一緒になりましょう」とささやく女だったり、いったいどっちなんだよと。女は良妻賢母であり娼婦でもあると言いたいのか?それともマーラーから見て、どれが本当の妻なのか分からないという混乱を表現しているのか?アルマの母やマーラーの妹のインタビューを交えてみたりもして映画そのものが迷走してるように感じられた。

もう分からん、と考えを放棄してしまったが、後でアルマの経歴を見たらマーラーが亡くなった後、また別の画家と関係を持ったり、不倫してた建築家と結婚するも離婚、最後は10歳も年下の小説家と結婚していた。それを読んでなるほどね、と納得することにした。
『バグダッド・カフェ』は何度見てもいいくらい好きだけど、これは1回でいいやと思いました。
home