Movie Review 2007
◇Movie Index

ダージリン急行('07アメリカ)-Oct 21.2007
[STORY]
父の死をきっかけに離れ離れになってしまったホイットマン家の3兄弟。だが長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)は、次男ピーター(エイドリアン・ブロディ)と三男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)をインドでの列車の旅に誘う。そして密かに母パトリシア(アンジェリカ・ヒューストン)がいる場所まで行こうとしていたが、列車の中でさまざまなトラブルを起こしてしまう。
監督&脚本ウェス・アンダーソン(『ライフ・アクアティック』
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第20回東京国際映画祭特別招待作品。第64回ベネチア国際映画祭コンペティション出品。
共同脚本はローマン・コッポラ(フランシスの息子でソフィアの兄)と、本作と短編に出演のシュワルツマン(フランシスの甥でタリア・シャリアの子)

一環して家族を描いてきたアンダーソンが、父親を亡くした経験を元に製作したロード・ムービー。動く世界遺産、ダージリン・ヒマラヤ鉄道に乗った3兄弟が“スピリチュアル・ジャーニー”に旅立つ。その序章的な短編映画『ホテル・シュバリエ』も、東京国際映画祭で本編の前に上映された(おそらく一般公開時にも同時上映されるだろう)
この短編は見ても見なくても特に問題はないが、見ていないと本編でどうしていきなりナタリー・ポートマンが出てくるのか分からないだろうし(というか、彼女がポートマンだってことに気付かないままスルーしちゃう可能性アリ)途中、ジャックが曲を掛けるシーンで笑えないのは勿体ない。まぁ一番の話題はポートマンのきわどいシーンなんだけど、これは『クローサー』を見た時と同じように落胆するかも(笑)

横に長い列車が舞台ということで、アンダーソンお得意のカメラが左右にスライドしていく映像が本作では特に効果的に感じられる。そして今までの作品では彼がこだわったヴィジュアルにばかり目が行ってしまったけど、本作ではヴィトンのバッグなど小道具はやはり凝ってはいるものの、それよりも兄弟や両親のこと――物語のほうに強く心を引っ張られた。3兄弟はバカでどうしようもないんだけど、外側だけ大人になってしまった3人が、内面が大人になる前に親を失ってしまったのだ。その喪失感を埋めるように、血の繋がりがある者に救いを求めてしまったのだろう。けれど身内だからこその遠慮のなさと、男のプライドが邪魔をして本音をさらけ出すことができない不器用さで、3人はことごとくぶつかり合う。そこが可笑しくて悲しい。特に父親の葬儀の日に修理工場へ行くシーンは、こいつらバカだなぁと思いながら泣けてきた。女はこういう時、逆に冷静になっちゃうからね。ちょっと羨ましいとも思う。

作品を重ねるごとに、持ち味は変わらないけど上手さが出てきてるんじゃないかな。個性がなくなっちゃう監督や、個性を出しすぎておかしな方向へ行っちゃう監督もいるけど、非常にいいかたちで映画を撮ってると思う。まだ私の中で大好きな作品というのはないんだけど、いつかすごく好きになる作品を撮ってくれそうだ。
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ヒート アイランド('07日本)-Oct 21.2007
[STORY]
リーダーのアキ(城田優)が率いる6人組グループ“ギルティ”は、毎週木曜日に渋谷で殴り合いをさせて金を儲けるファイトパーティーを開催している。そんなある日、メンバーの2人が中年の男を殴りボストンバッグを盗んできてしまう。中には大金が入っていて、柿沢(伊原剛志)ら3人の強盗がヤクザが経営するカジノから奪った金だった!
監督・片山修(TVドラマ『花より男子』などの演出家で本作で映画監督デビュー)
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原作は垣根涼介の同名小説。脚本はTVドラマ『花より男子』で脚本を担当した劇団「東京セレソン デラックス」のサタケミキオ。

劇場で予告を見て面白そうだと思い、公式サイトのエピソード・ゼロをチェックした時点では、軽いコメディタッチの映画だと思っていた。それが実際は意外とバイオレンスしていた!黒木(豊原功補)が外国人女性に質問をするシーンにビビってしまい、それまではリラックスして見ていたのが、そのシーン以降は緊張しながら食い入るように見てしまった。後で気付いたけどPG-12だったのね。

ドアを開ける動作をシンクロさせたり音楽をうまく切り替えながら、アキたちがいるファイトパーティーと柿沢たちのカジノのシーンを同時に見せていく冒頭が面白い。撮影にも編集にも相当に時間を掛けたんじゃないかな。こだわりがすごく伝わってきた。そのかわり物語が進むにつれて工夫がなくなっていったように感じたのは気のせいだろうか(笑)倉庫でアキと柿沢が待ち合わせするシーンではテレビドラマっぽい雰囲気で、もうちょっと凝って欲しかった。

かなり面白いキャスティングをしているけど、上手い人とそうじゃない人の差が目立つ。はっきり言ってタケシ(浦田直也)はヘタ。セリフは聞き取りにくいし、問題を起こす張本人ということもあってか、全登場人物の中で一番好きになれなかった。そしてミナミ(伴都美子)も棒読み過ぎ。大事な役なんだから経験のある女優さんを使うべきだったんじゃないかなぁ。しかも太ってない?なんか座ってる後姿が妙に丸かったんですけど。ミュージシャンでも谷中敦の南米マフィアはハマってました(笑)

アキも演技はまだまだだけど、柿沢と対峙しても負けない存在感があった。やっぱり背が高いとスクリーン映えするものなのね。けれどアキ1人だけが目立ってしまったとも言えるわけで、せっかく6人組のグループなのに他のメンバーは全然たいしたことしてないんだもん(ちゃんこデブはそのままでOK)メンバー同士の友情というか結びつきがアッサリしてるのが渋谷風味なのか?(←偏見)多少クサくてもいいから、アキが最後に決断する前にメンバーとのやりとりは入れておいたほうが良かったんじゃないだろうか。

(最後にストーリーとは関係ない話だけどネタバレあり)ところで強盗団の名前が柿沢、桃井、ときてもう1人は栗のつく苗字だと勝手に決めつけていたら折田だった。なーんだ、と思っていたら折田が死んでしまい、代わりにアキが入ることに。原作は読んでないから分からないけど、ひょっとしてアキの苗字に栗という字がついたりする?(どうして桃栗柿にこだわるんだ自分)(ここまで)
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ヘアスプレー('07アメリカ)-Oct 20.2007
[STORY]
1962年アメリカのボルチモア。16歳のトレーシー(ニッキー・ブロンスキー)は人気テレビ番組“コーニー・コリンズ・ショー”が大好き。番組に出演しているリンク(ザック・エフロン)に憧れていて、彼と踊るのが夢だった。そしてある日、番組のダンサーに欠員が出てオーディションが開かれるとしったトレーシーは、母エドナ(ジョン・トラヴォルタ)の反対を押し切ってオーディションに参加する。だが、番組の実験を握るベルマ(ミシェル・ファイファー)はチビでデブのトレーシーを見て追い払ってしまう。
監督アダム・シャンクマン(『ステップ・アップ』)
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1988年にジョン・ウォーターズ監督の映画『ヘアスプレー』が2002年にブロードウェイでミュージカル化され、そのミュージカルを映画化したのが本作。『プロデューサーズ』と同じ経緯ですね。ウォーターズは本作の中で露出狂のおじさん役(笑)でちょこっと出演している。

オリジナル版ではエドナ役を男性のディヴァインが演じていたため、ミュージカルも男性が演じるようになり、本作でもトラボルタが特殊メイクとファットスーツで演じている。最初見た時は「うわっトラボルタだ!」と意識してしまったけれど、徐々にそれを忘れていき、かわいらしく見えてくる。夫ウィルバー(クリストファー・ウォーケン)の浮気(?)現場を見てショックを受ける姿を見た時には、すっかりトラボルタということを忘れ、可哀相なエドナ・・・と同情してしまったほどだ。ラストは軽やかなダンスを披露し、太いけど綺麗な足に見とれてしまった(笑)

トレーシーは最初に登場した時の髪型がとてもキュートだったので、メッシュを入れるようになってあんまり可愛くないなぁと思ってたんだけど、髪の色で白人と黒人を差別しない中立の立場だということを表現していたのかもしれない。彼女の中では肌の色なんて関係ない、歌が上手い、ダンスが上手い、そういう人と友達になりたいだけだ。冒頭で歌う「グッド・モーニング・ボルチモア」を聞いただけで、彼女の屈託のない素直な性格がじゅうぶんに伝わってきたもの。オーディションで選ばれたというブロンスキーはコールド・ストーン・クリーマリーで働いていたというから、失礼ながらド素人だと思ってた。ごめんなさい!謝ります。歌も上手いし、あの体型で(ごめんね)あんなに踊れるとはビックリだった。同じくらい驚いたのがジェームズ・マースデンの歌とダンス。他の映画では可哀相な役回りが多いけど、本作では爽やかで本当にカッコイイ。今までヘタレとか言ってゴメンね(笑)

ストーリーは差別問題などは抑え目だけど、ミュージカルだからこれでいいんじゃないかな。オリジナルがあるわけだし、これは祭りを楽しむような感覚でいいでしょ。芝居から歌へ変わるところがとても自然で、ああ歌だ、って意識せずに見れる。歌で一番印象に残ったのはやっぱり最後の「ユー・キャント・ストップ・ザ・ビート」だったけど、残ったというより、見て以来ずーっと頭の中をぐるぐる回ってるんですけどーーー(笑)
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パンズ・ラビリンス('06メキシコ=スペイン=アメリカ)-Oct 6.2007ツライケドイイ★
[STORY]
1944年スペイン。内戦終結後もフランコ政権に反発する人々がゲリラ闘争を繰り広げる山に、父を亡くしたオフェリア(イバナ・バケロ)と母カルメン(アリアドナ・ヒル)がやってくる。ここでゲリラの鎮圧にあたるビダル将軍(セルジ・ロペス)がカルメンと再婚したからだ。ビダルはカルメンのお腹の子ばかりを気遣い、オフェリアには冷酷だった。
その夜、オフェリアは昆虫に導かれ牧神パン(ダグ・ジョーンズ)が棲む迷宮に辿り着く。パンはオフェリアが魔法の国のプリンセスだと告げ、3つの試練を与えるのだった――。
監督&脚本ギレルモ・デル・トロ(『ミミック』
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2006年の第79回アカデミー賞で6部門(脚本賞・外国語映画賞・撮影賞・作曲賞・美術賞・メイクアップ賞)にノミネートされ、3部門(撮影・美術・メイクアップ)を受賞した。

ダークファンタジーという宣伝はされていたけど、ここまでつらい話だとは思わなかった。見終わった後、落ち込んだもん(苦笑)アカデミー賞で外国語映画賞を受賞できなかったのも分かる気がする。だからといって駄作では決してなく、むしろとても印象に残る映画だ。ただ、救いがないといえば救いがなく、あると言えばそういう見方もできる、という物語だった。

スペインのフランコ政権の歴史を知っていないと物語をきちんと理解したことにならないかもしれない。迷宮に登場する魔物や試練にはさまざまな意味が込められているのかもしれない。が、私はただこの11歳の少女が厳しい現実とグロテスクな魔法の国、2つの世界で大事な人を守ろうと試練に耐える健気な姿に、素直に心を打たれてしまった。あれこれ意味を考えるのが好きな映画もあるけど、この映画については、なんかもうそれでいいや、という気持ちになった。

迷宮に登場するのは妖精であっても不気味で可愛くないし、手に目がついている化け物もかなりコワイ。だが、それより怖ろしいのが人間だ。ビダル将軍から拷問を受けるのと、でっかいダンゴ虫の巣の中に入るのとどっちを選ぶか?って聞かれたら虫を選んでしまいそう(いや、どっちも絶対イヤだけどさ)なくらい、将軍の残忍さはまともに見ることができなかった。けれど実際にこういうことが行われていたんだろうな・・・。将軍は将軍で父親にコンプレックスを抱いていたようで、彼の父も彼と同じような人物だったのでは。そしてビダルの子も同じ運命を辿ったかもしれず・・・まさに負の連鎖。その連鎖を断ち切るために(フランコ政権が続かないように)、オフェリアもメルセデス(マリベル・ベルドゥ)もレジスタンスたちも戦っていたのかもしれない。だけどフランコ政権はこの時代からさらに30年も続いたわけで、その後のメルセデスたちのことを思うとまた落ち込んでしまうのだった(苦笑)
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幸せのレシピ('07アメリカ)-Sep 29.2007
[STORY]
ニューヨークのレストラン“22ブリーカー”の料理長ケイト(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、腕は一流だが完璧主義者で客とのケンカが絶えず、オーナーからの命令でカウンセリングを受ける日々。そんなある日、姉がケイトに会いに来る途中で事故で亡くなり、ケイトは姉の娘ゾーイ(アビゲイル・ブレスリン)を引き取ることになった。だが母親の死がショックで立ち直れないゾーイは、なかなかケイトに心を開いてくれない。さらに産休に入ったシェフの代わりに入った副料理長ニック(アーロン・エッカート)が、彼女の調理場を自由に使い始め、ケイトは苛立ちを募らせる。
監督スコット・ヒックス(『シャイン』
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2001年のドイツ映画『マーサの幸せレシピ』のリメイク。

ストーリーは同じようでいて違うものになっていたが、これはこれで好きだ。主人公の姪役にブレスリンをキャスティングしたことから分かるように、肉親を亡くしたケイトとゾーイが新しい家族を築いていくというのが本作の軸になっている。2人は何度も仲たがいをするし、ケイトはニックともくっついたり離れたりを繰り返す。そこがちょっとしつこいと感じたが、衝突するたびに互いが心をひらくようになり距離が縮んでいくというのは、この手の映画の定石だからね。ラストが『レミーのおいしいレストラン』に似てるのは偶然だろうか?それともあれが観客が求める一番のハッピーエンドなのか。確かにあんな風になれたら幸せだろうな。

リメイクのニュースでゼタ=ジョーンズが主人公と知った時は、オリジナルの主人公に雰囲気も似てるしピッタリだと思った。が、実際見てみてツンケンしている時よりもゾーイと一緒にふざけている時のほうが本来の彼女らしく、すっかり子供を持つ親の顔になっちゃって、その後またツンケンしているのを見て違和感が出てしまった。
ブレスリンは時々本当に可愛くないな〜と思う時があったが(笑)とにかく彼女に笑顔が戻ればみんなが幸せになれる!と観客が切に願ってしまう存在だった。
ニック本人は魅力的だったけど(ケイトがその気になっている時にはあっさり帰ったくせに、ケイトの隣人が彼女に気があると見るや独占欲を発揮しやがって・・・面白い〜)彼が作る料理はダメ!食欲を失っていたゾーイがニックのパスタを食べるシーンがあるんだけど、パスタソースが乳化してなくてボソボソで、ちっともおいしそうじゃない。休憩時間に従業員たちが食事を取るシーンでも、ニックが作ったパスタはどう見ても麺が茹ですぎでニュルニュル。ケイトじゃなくても食べたくない。やっぱり見終わった後でパスタが食べたくなるような映画じゃなきゃ!
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