トップ・ページに戻る


[ヨーロッパ経済の危機]

ユーロ体制の危機の本質


EU demands more austerity after Spain and Portugal fail to cut deficits(2016-7-20)


キプロスの危機、EUが国内銀行の預金を強制取り上げで対応迫る(2013-3-24)

EUの経済は悪化の一途、ドイツも同じ(2012-5-24-2)

ユーロ圏はドイツとフランスの対立が明らかに(2012-5-24)

12年4月はユーロ圏の不況は一層悪化(2012-5-4)

ユーロ地域の製造業は9か月連続で悪化、失業率も上昇(2012-5-2)

IMFがユーロ圏の財政引き締め策の緩和を要請(2012-4-18)


ユーロの導入によってドイツとオランダの労働者の賃金は低く抑えられ、ラテン諸国は上がった(2012-4-2)

ユーロ内部で起こっていることはまさに「階級闘争」である(2012-4-1)

EU財政規律協定を調印⇒2012-3-3

G20でドイツの態度に不満、まずユーロ圏でやるべきことをやれ(2012-2-27)

ユーロの経済危機は財政引き締めでは解決しない(2012-2-19)

ハンガリー経済の危機と独裁政治(2012年2月18日)

1月30日のEU首脳会議で25カ国で財政規律協定を決める。イギリスは不参加⇒2012-2-1

ドイツは巨額の救済資金の拠出を拒否⇒2012-1-24

ECBの貸し付けによってユーロ圏の銀行は倒産を免れる⇒2011-12-21


EUのIMFへの拠出金をイギリスが拒否⇒2011-12-20


フランスがトップ・クラスの格付けから滑る⇒2011-12-18

ラガルデIMF専務理事、このままでは世界恐慌になる?⇒2011-12-16

ドイツは他国救済に身銭を切る意思薄弱⇒2011-12-15


ユーロ下落ーブラッセル・サミットの成果に醒めた目⇒2011-12-14-1

EU委員会とイギリスとで金融製品規制についてのの対立⇒2011-12-14

ブラッセル・サミットへの反応は冷ややか(2011-12-13)

ユーロ圏諸国の優劣格差とユーロ危機の本質⇒2011-12-9-1

欧州中央銀行(ECB)のドラキ総裁、金融危機対策で大技なし)2011-12-9

フランスでは「バイ・フレンチ運動」始まる(2011-12-7)

EUと中国の貿易バランスと失業率(2011-10-7)

S & Pがユーロ諸国の格付けダウンを警告(2011年12月6日


欧州共同体の行き詰まり(2011-10-2)

米国連銀がヨーロッパの中央銀行にドル資金を低利融資(2011-12-1)



ドイツの経済
ドイツの貿易⇒輸出の62%はEU向け(2011-12-13)


スペインの経済危機
スペインも政権交代ーそれでも雨は広野に降り続ける(2011-11-22)


米国の経済⇒別ページにこれから書いていきます


オランダの経済
(貿易統計)

イタリーの経済

イタリーは経済テクノクラートのマリオ新首相に交代-暗夜行路の旅(2011-11-22)

イタリーの経済の苦悩(2011-11-5)



イタリー政府ILVAを管理下に2013.06.05 23:50
 イタリ―政府、Eurpe Biggest Steel ProducerのILVA社を7月から一時的に政府管理にすると発表。ILVAはイタリ―の鉄鋼生産の40%を占めている最大手。12000人の正社員、8000人の請負労働者の仕事がなくなる恐れ。ターラント市の鉄鋼工場は環境問題で追求されていたILVAを最大の株主であるRiva家から政府が資産ごと没収しようというもの。すでに8億ユーロはILVAのホールディング会社から差し押さえている。
 ILVAは環境問題、脱税、政治家への賄賂、裁判官の籠絡と数々のスキャンダルを抱えてきた。
 イタリアではかつて当時のベルルスコーニ首相が03年に倒産した乳製品企業のParmalat社を政府が買い上げたことがあった。
(IRUNIVERSE

2017年にはArcelorMittalがIlvaを買収した。



フランスの政治経済


ギリシャの経済


欧州共同体の行き詰まり(2011-10-2)

ギリシャ危機は何とか当面は回避されそうである。最大の債権国のドイツが圧倒的多数で国会でギリシャ救済を決めたからだ。与党のキリスト教民主同盟に加えて野党の緑の党と社会民主党も賛成した。

ギリシャを救済しなければドイツとフランスの大銀行が莫大な損害を受け、金融危機が欧州全体に波及し、米国も巻き添えを食う。日本は直接の影響は少ないと思われるが、大混乱の渦に巻き込まれることは避けられない。

今回の危機はギリシャだけに終わらず、アイルランド、ポルトガル、スペイン、イタリーと次々問題国が控えており、最悪のシナリオとしては世界的な恐慌に発展する恐れがあるという議論も出てくる(IMFラガード専務理事)。金融危機はヨーロッパからアメリカへと連鎖的に波及していくことが怖いのである。

しかし、今日のヨーロッパの経済規模からみて単に貿易規模が縮小するというだけでは、それが「世界恐慌」にまで発展するというのは行き過ぎであろう。

ドイツの国会がギリシャ救済を決めたのはギリシャが破たんすればドイツが一挙に危機に見舞われるからである。ドイツの議会の決定後はドイツとフランスの銀行株が大幅な値上がりとなった。要するに金融機関が救われたのである。

ドイツ人の間にはドイツ人の税金でギリシャを救済するのはゴメンだという世論が強いそうだが、ドイツの企業家や労働組合はギリシャ救済が実はドイツ救済に他ならないことを認識している。

日本の新聞はおろかしくも「EUの連帯感」などという視点で論じている向きが多い。こういう人たちが「欧州共同体」をモデルにした「東アジア共同体」を主張しているのだから目も当てられない。東南アジアでは「東アジア共同体」論などはノラ犬も食わない。

これを鳩山・菅両首相とも「アジア政策」とか「日本の外交政策」の基本に据えるようなことを言ってきたのだから、唖然とするほかない。しかも大多数のアジア経済学者がそれを主張いきたのだからいかに彼らの知的レベルが低いかがわかる。

彼らは要するに「観念論者」なのである。戦前の「大東亜共栄圏」の論者の域を超えていないのである。せいぜい日本が主張できることは都合のいい相手との「FTA」どまりの話である。

EUの行き詰まりの原因はドイツやオランダのような世界一流の先進工業国が脆弱な非工業国であるギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリーなどを単一のユーロという通貨のもとに「自由市場」の枠組みに囲い込んだ結果である。ユーロが実施されて10年間もよくぞ今日まで持ちこたえたというべきである。

ドイツはその輸出の62%がEU域内向けであり、ユーロ圏向けは43%にも達している。オランダにいたっては実に90%がEU向けである(ユーロ圏だけで70%強)。おまけにユーロ安によってドイツの「国際競争力」はいやがうえにも向上した。ドイツにとってはEUとユーロ体制の維持こそが最大の國益なのである。

しかし、EU(とユーロ圏)にとってはさらに新たな問題が発生した。それは中国、韓国からの安値工業製品の急激な流入である。これで安物の工業製品の生産国でもあったイタリー以下の国々は大打撃をこうむっている。このままFTAなどを拡大していけばロクな輸出品を持たない弱小国はトコトン参ってしまう。矛盾は一層拡大する。

しかし、ドイツやオランダはFTAを拡大すればもっともうけられると考えている。要するにEU(とユーロ圏)内部の2極分解が起こってしまっているのである。しかし、強国がひ弱な国を救済していくというようなことが将来とも続けられるであろうか?答は明らかに否である。

それはいくらやってもきりがないからである。弱小国を万年「奴隷状態」におくことこそが好ましいのである。そうすればユーロ圏は完全に「ドイツ帝国」の支配下におかれることになる。

ユーロ圏をタイタニック号にたとえた人がいるそうだが、このままでは最後は一等船室の客(ドイツやオランダ)までもが溺死してしまいかねないのである。しかし、ドイツとオランダは溺死することはない。悠々と沈没船から脱出できるのである。最後の決め手は自国の「製造業の国際競争力」である。ユーロ安によってそれは長期的に保証される。

弱小国にとってのとりあえずの解決方法はユーロ統一通貨制度の改正である。ユーロの下にギリシャやポルトガルなどの弱小国通貨をぶら下げるという「2重通貨制度」にするほかない。今でも各国の国債は「ユーロ」で表示されていても「実質金利」に大きく差が付いているのである。

日本では学者先生の多くはEUは財政統合すべしというような議論をしている。それができれば何も問題は起こらない。
なぜできなかったかを考えるのが学者というものであろう。彼らはギリシャの財政規律がなっていないという。これは一見正論風ではあるが的外れである。

財政規律はどこの国でも多かれ少なかれ守れていない。「道徳」を問題にするのはチャールズ・ディケンズと同じ手法であり、別に経済学という学問はいらないであろう。道徳の問題ではなく「経済」の問題として考えなければ堂々巡りの不可知論に陥るだけである。


とりあえずはギリシャの不良債権(国債)を大量に抱えている銀行は政府が何とか面倒を見ようということで、決着の引き延ばしを図ることにドイツのメルケル首相以下各国の首脳が決めたようである(2011年11月6日現在)。

ギリシャの債務不履行を表面化させれば大手銀行がバタバタと倒れる危険がある。そうなると金融恐慌に発展しかねない。とりあえずの時間つなぎである。問題を先送りしても何の解決にもならないが、EUの経済危機の根本的な原因を解明して有効な手立てを考えるしかない。

クルーグマンはユーロを評してOne-size-fits-all monetary policy」だといっている。まことにその通りであり、最初から正しい経済学的分析(というより経済上の常識)を無視して出発したものである。当時としてはヨーロッパの統合などという美しい言葉に幻惑され、強引に見切り発車させたが、EU本部などにたむろするテクノクラートのイイカゲンさを物語る 。ネオリベラルの犯した罪の一つである。参考:”Boring Cruel Romantics"Paul Krugman, New York Times, 21 Nov 2011.

ユーロ体制を終わらせなければ基本的な矛盾は解決できず、慢性的な経済不安が続く。


(ユーロ圏諸国の優劣格差⇒2011-12-9-1)

ユーロ圏17か国のS&P社の格付けは下のようになっている。S&Pではこの格付けを見直すと称していて、物議を醸している。AAAという優等生の扱いを受けているのはドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、フィンランド、ルクセンブルグの6か国である。ベルギーはAAでこれに次いでいる。スペインはエストニア、スロベニアとともにAA-であるが、失業率は最も高く、11月に社会党のサパテーロ政権が選挙で敗れ右派の国民党に政権を奪われたばかりである。

イタリーはマルタとともにA、アイルランドはBBB+,ポルトガルはBBB-,ギリシャは最低のCCランクである。これらの国は政府も銀行も多額の債務を抱え、「デフォールト(債務不履行)」を起こしそうだということで最近問題になっているのである。





主な国の経済指標をOECDの最近のデータから以下比較してみる。2011年の数字はOECDの推計した暫定値である。

表4は各国の「政府債務残高をGDPで割った数字」である。100を超えれば、GDPの1年分以上の政府の債務があるという意味である。ドイツとオランダは確かに100以下である。ところがフランスは2011年の見込み値では98と限りなく100に近い。意外なことに「劣等生扱い」を受けているスペインはオランダなみの好成績である。

ユーロ圏以外ではイギリスとスウェーデンも100以下であり、特にスウェーデンの40%台というのは光っている。財務状況が悪い国は「財政規律」がなっていないのだから「制裁措置」が必要だというのはメルケル首相やサルコジ大統領の主張である。

この「財政赤字」は次の表5の「経常収支」の赤字国とよく対応している。スペインだけは例外で「政府債務」は少ないが「経常収支」は大赤字である。AAAグループではドイツとオランダは経常収支(おもに貿易収支)は黒字だが、フランスは赤字になっている。フランスは実はAAA組の中では「もっとも危うい」国なのである。

ドイツはユーロ体制の最も恩恵を受けた国である。イタリー以下が苦しんでいる最中に「わが世の春」を謳歌しているのである。ドイツは2011年は有史以来の輸出を達成するという。弱小国が混乱しているとユーロ相場は下がる。そうすればドイツは輸出の上では有利になる。
(ドイツの貿易統計は別途作成します)

イタリー、スペイン、ポルトガル、ギリシャは経常収支(貿易収支)の赤字国である。スペインの赤字はこの4か国の中では最大である。イギリスも毎年経常種子は赤字である。スウェーデンはここでも優等生である。ユーロ17か国全体では経常収支はほぼ均衡している。赤字になったのは2008年だけである。

だから、ユーロ圏が経済的に完全に統合されていれば経常収支(実質的に貿易収支に対応)は問題にならないはずである。ユーロ圏の中の「格差」問題をユーロ圏の中で処理しきれずに来たことにも大きな問題がある。その原因は一言でいば「ナショナリズム」である。各国別の利害である。

そもそも「格差解消」などという発想はドイツにもフランスにも初めからなかったのである。「弱小国はカモだった」のである。それに気づかず、「ユーロ圏にはいれば外国はいつでもカネを貸してくれるし、輸入品も安く手に入った」のである。そして気が付いてみたら借金で首も回らないという現実が待っていたのである。

表4 財政債務/GDP(単位:%)

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ 65.9 69.3 71.8 69.8 65.6 69.7 77.4 87.1 86.9
フランス 71.7 74.1 76.0 71.2 73.0 79.3 90.8 95.2 98.6
オランダ 61.3 61.9 60.7 54.5 51.5 64.8 67.4 70.6 72.5
イタリー 116.3 116.7 119.4 116.9 112.1 114.7 127.1 126.1 127.7
スペイン 55.3 53.3 50.7 46.2 42.3 47.7 62.9 67.1 74.1
ポルトガル 66.8 69.3 72.8 77.6 75.4 80.7 93.3 103.6 111.9
ギリシャ 113.3 115.8 113.3 116.9 115.0 118.1 133.6 149.1 165.1
イギリス 41.5 43.8 46.4 46.0 47.2 57.4 72.4 82.2 90.0
スウェーデン 59.3 60.0 60.8 53.9 49.3 49.6 52.0 49.1 46.2
米国 60.2 61.3 61.5 60.9 62.1 71.4 85.0 94.2 97.6
日本 158.0 165.5 175.3 172.1 167.0 174.1 194.1 200.0 211.7
韓国 19.7 23.3 25.5 28.5 28.7 30.4 33.6 34.6 35.5



表5 経常収支(単位:億ドル)

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ 1,250 1,385 1,814 2,508 2,289 1,895 1,841 1,772
フランス 104 -105 -129 -261 -50 -392 -450 -632
オランダ 481 482 630 524 372 343 520 659
イタリー -164 -295 -481 -518 -854 -414 -717 -791
スペイン -549 -831 -1,111 -1,446 -1,546 -755 -640 -602
ポルトガル -155 -198 -215 -235 -319 -256 -226 -194
ギリシャ -133 -183 -298 -448 -512 -360 -306 -261
Euro計 1,113 389 355 248 -924 82 268 103
イギリス -455 -591 -796 -694 -358 -314 -589 -141
スウェーデン 237 250 337 429 432 286 307 361
米国 -6,285 -7,458 -8,006 -7,103 -6,771 -3,766 -4,709 -4,554
日本 1,723 1,668 1,712 2,102 1,588 1,426 1,961 1,300
韓国 323 186 14 218 32 328 282 199


このように見てくると、ユーロ諸国の「劣等国扱い」の国々の問題点は「経常収支」すなわち実質的には「貿易収支」の問題として考えていけばよいことになる。「財政規律」というのはむしろ副次的(セカンダリー)の問題なのである。ところが今回のECサミット(12月8-9日)では貿易収支問題は議論の対象ではなく、もっぱら「財政規律」が論じられている。

イギリスなどの非ユーロ諸国も「財政規律の強化」といった一般論には合意した形にしたが、お行儀のよくない国への「自動制裁」などはもとより問題外である。特にハンガリーは強く反発したそうである。ドイツそのものが政府債務の上限60%という取り決めを勝手に破っている。ドイツも内情は苦しいらしく、失業率も決して低くはない。どこの国でも景気対策をやろうとすれば「財政出動」は不可避である。そうなればいやでも「政府債務」は膨れ上がる。日本がその悪い例であるが。

ECBはこれ以上の国債の買い上げは行わないと明言した。その代り低利のカネは3年間貸してやるという。それでは当面の危機対策には問題が起こりかねない。そこでご登場願うのがIMFである。これには米国や日本のカネがたんまり入っている。中国も最近出資金を増やした。EUもそれでは申し訳ないというのでIMFに最大2,000億ユーロ(20兆8千億円)の出資をするということになった。しかし、米国はこれ以上IMFにはカネを出さないといっている。ドイツの「責任逃れ」に憤っているのである。

これで今回の騒動は一段落である。というよりシバシ時間を稼げた。中長期的にはユーロ圏の「輸出競争力」をどう構築するか。内需型産業の育成をどうするかであるが、とうていそこまでの議論にはいきそうにない。ユーロ諸国はその場しのぎの毎日なのである。これが「西欧の没落」なるものの経済的実態である

諺にいう:"The mill of God grinds slowly,but exceedingly small."といったところだ。ユーロ成立以来、彼らは自分の国に日常生活を賄う産業を育成せずに、必要なものは輸入するということでノウノウと過ごしてきた。自分で作るより中国から輸入したほうが安いということでもあった。それを可能にしたのはユーロという通貨の魔力であった。

気が付いてみたらギリシャ1国でさえ借金が官民合わせて100兆円相当もたまってしまったという。これはギリシャ国民のせいではない。またギリシャだけの話でもない。ユーロ圏のリーダーが気が付いて適当な政策を打ち出さなかったのである。

つまり、経済音痴か間違った経済学で脳みそが閉塞状態になっていた政治家やそのブレーンの責任である。ユーロ圏の金持ち階級は今一斉にドイツに預金を持って逃げ込んでいるという。賢い人がいたであろうスウェーデンは国民投票の結果ついにユーロには入らなかった。今にして思えばそれは大正解である。

12月10日(日)の朝のテレビ報道では、イギリスがEUの中で完全に孤立したという。すなわた、26対1になるというのである。これは明らかにウソである。非ユーロの10か国のうちにいまさらユーロ圏に入ろうという国は1か国もない。

彼らは「財政規律の強化」の取り決めにサインするかしなかったのである。さもなければ直ちに大混乱が起こりうるからである。ユーロ体制の崩壊は避けなければならないということでイギリス以外は「取り決め」に一応サインした。メルケル首相は「歴史的な成功」として自賛しているようだが、それは認識違いであろう。

その内容について驚くべきことは各国が予讃案をつくったらまずEU委員会に提出し、その承認をえてから各国の議会にかけて予算を実施しろというのである。各国の予算の内容を事前にチェクシテああだこうだといわれたら各国の政策は大きく影響を受けることになりかねない。福祉予算や公共投資などに個別に介入するのであろうか?そんなことはできっこない。

予算を自国で実行されるが、その結果財政赤字になり、財政危機に陥ったら、どうなるのであろうか?「自動的に制裁する」ということになっているがユーロとして今以上のことはできないであろう。。今のところ「お山の大将の脅し」が利いてイギリス以外の9か国は国内に持ち帰り、議会に諮るというが、議会が承認する国は少ないであろう。制約だけ求めてメリットが少ない案がスンナリ通るはずがない。「制裁の中身」もはっきりしていない。

スウェーデンやハンガリーは当初からメルケル案に反対を唱えていたが、ブラッセルの首脳会議でメルケル案をつぶすわけにいかないから、国内に持ち帰って議会に諮るとして、とりあえず「サイン」しただけの話しである。彼らが「財政規律の素晴らしさに感動して、これからユーロに加わる」などということではない。今メルケル案をつぶすとユーロ危機が収集つかない状態になるからそれを避けたとみるべきである。

財政規律については各国の財政赤字はGDPの0.5%以内にするというのである。下の表で見ると、財政赤字を0.5%以下に抑えるなどということがいかに非現実かは明らかである。
もし、これを強引に実行したら財政による景気対策はできない。ヨーロッパの不況は長続きする。しかし、ドイツのみは「平気の平左」で行けるであろう。

スペイン以下の国民はどれだけ苦難の長期化に耐えられるであろうか?メルケルーサルコジのメンツだけが救われたのが今回のドタバタ劇のすべてである。メルケルーサルコジ案がブラッセル会議で通ったからと言ってことの本質はいささかも変わらない。イギリスの孤立を強調する論調もすくなくないがそれは本質的な議論ではない。イギリスがどうしようがユーロ体制は実質的に破たんをきたしているのである。もともと「無理筋」だったのである。

米国は2008年以降のレーマン・ショックを財政支出で自力で切り抜けたことも下の表から類推できる。イギリスも米国に歩調を合わせたとみることもできる。

表5 財政収支の対GDP比率(%)

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ -4.1 -3.8 -3.3 -1.7 0.2 -0.1 -3.2 -4.3 -1.2
フランス -4.1 -3.6 -3.0 -2.4 -2.7 -3.3 -7.6 -7.1 -5.7
オランダ -3.1 -1.8 -0.3 0.5 0.2 0.5 -5.5 -5.0 -4.2
イタリー -3.6 -3.6 -4.5 -3.4 -1.6 -2.7 -5.4 -4.5 -3.6
スペイン -0.4 -0.1 1.3 2.4 1.9 -4.5 -11.2 -9.3 -8.2
ポルトガル -3.1 -3.4 -3.9 -4.1 -3.2 -3.7 -10.2 -9.9 -5.9
ギリシャ -5.8 -7.8 -5.6 -6.0 -6.8 -9.9 -15.8 -10.9 -9.0
イギリス -3.7 -3.6 -3.3 -2.7 -2.8 -5.0 -11.0 -10.4 -9.4
スウェーデン -1.3 0.4 1.9 2.2 3.6 2.2 -0.9 -0.1 0.1
米国 -5.0 -4.4 -3.3 -2.2 -2.9 -6.6 -11.6 -10.7 -10.0
日本 -7.9 -6.2 -6.7 -1.6 -2.4 -2.2 -8.7 -7.8 -8.9
韓国 0.5 2.7 3.4 3.9 4.7 3.0 -1.1 0.0 0.8


ユーロ体制下で「繁栄を謳歌」したといえるのはAAAグループだけである。好調だったスペインは実は不動産バブルであった。スペインにはイギリスからリタイアした中産階級以上の人々が老後を過ごすために移り住み、不動産ブームになっていたというのである。そえが2008年からバッタリと止まってしまった。サパテーロ首相は急きょ財政出動を試みたが、経済の足腰を鍛えてなかったので、何の効果もなかった。失業率だけが高くなってしまった。

フランスはAAAグループには入っているもののGDP成長率もあまりパットしない。AAAにとどまっているのは親分のドイツの1の子分だからである。「財務規律協定」を拒否したイギリスのキャメロン首相を攻撃したのはサルコジ大統領であったといわれる。だいたい「お山の大将」体制では敵対者を激しく攻撃するのはナンバー2だと洋の東西を問わず決まっているようだ。本当に実力があればこういう時は静かにしているものだ。

ポルトガルとギリシャはさっぱりである。それでも2007年までは多少の成長も見られた。しかし、その後はどうにもならない。

非ユーロではイギリスはそこそこだが、スウェーデンは208年、2009年を除き好調である。今更ユーロ体制に入って他国の借金を背負わされるようなドジではないであろう。イギリスの同調者だが、ユーロ体制をすぐに壊すのもマズイのでとりあえず「財政協定」にはサインしただけである。

第6表 実質GDP推移(%)

2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ 3.9 3.4 0.8 -5.1 3.6 3.0
フランス 2.7 2.2 -0.2 -2.6 1.4 1.6
オランダ 3.5 3.9 1.8 -3.5 1.6 1.4
イタリー 2.2 1.7 -1.2 -5.1 1.5 0.7
スペイン 4.1 3.5 0.9 -3.7 -0.1 0.7
ポルトガル 1.4 2.4 0.0 -2.5 1.4 -1.6
ギリシャ 5.5 3.0 -0.2 -3.2 -3.5 -6.1
イギリス 2.6 3.5 -1.1 -4.4 1.6 0.9
スウェーデン 4.6 3.4 -0.8 -5.1 5.4 4.1
米国 2.7 1.9 -0.3 -3.5 3.0 1.7
日本 2.0 2.4 -1.2 -6.3 4.1 -0.3
韓国 5.2 5.1 2.3 0.3 6.2 3.7


下の表は「実質固定資本形成」すなわち設備投資の伸び率と考えてよい。ドイツはレーマンショック後の2009年は-11.4%と落ち込んだが翌2010年からすぐさま回復した。輸出が好調だったせいである。フランスは2008年以降あまりよくない。オランダは2009年と2010年は悪かったが2011年には回復している。しかし、フィリップス社の家電製品の売れ行きが悪いらしく2011年には4,500人の人員整理をすると報じられている。

イタリー、スペイン、ポルトガル、ギリシャは2008年からマイナスになっている。スペインン、ポルトガル、ギリシャは2011年も引き続きマイナスである。危機の深刻さがうかがわれる。
スウェーデンはドイツと同様の動きである。

第7表 実質固定資本形成伸び率(%)

2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ 8.9 5.0 1.0 -11.4 5.2 7.2
フランス 4.2 6.2 0.1 -8.8 -1.4 2.8
オランダ 7.5 5.5 4.5 -10.2 -4.4 6.1
イタリー 2.2 1.7 -1.2 -5.1 1.5 0.7
スペイン 7.1 4.5 -4.7 -16.6 -6.3 -4.8
ポルトガル -1.3 2.6 -0.3 -11.3 -4.9 -11.0
ギリシャ 20.4 5.4 -6.7 -15.2 -15.0 -16.1
イギリス 2.6 3.5 -1.1 -4.4 1.6 0.9
スウェーデン 9.4 9.0 0.4 -15.1 5.6 9.1
米国 2.5 -1.4 -5.1 -15.2 2.0 3.4
日本 0.5 -1.2 -3.8 -11.7 -0.2 -0.3
韓国 3.4 4.2 -1.9 -1.0 7.0 -1.5


下の表は失業率の推移である・ドイツとオランダは失業率は低い。ドイツは2006年から見ると年々低下してきている。レーマン・ショックもうまく乗り切った。それに比べスペイン以下は2008年以降ドンドン悪化していて2011年になっても改善の兆しはない。フランスとイタリーも悪化しており、
フランスはついに10%に達した。スペインは23.6%、ギリシャは21.0%と異常な高さである。この上さらに労働者階級に追い打ちをかけるのが「財政規律」政策である。これが国民の支持を得られるわけはない

第8表 失業率推移(%)

2006 2007 2008 2009 2010 2011p
ドイツ 9.7 8.4 7.3 7.4 6.8 5.7
フランス 8.8 8.0 7.4 9.1 9.4 10.0
オランダ 4.2 3.5 3.0 3.7 4.4 4.3
イタリー 6.8 6.1 6.8 7.8 8.4 9.3
スペイン 8.5 8.3 11.3 18.0 20.1 23.6
ポルトガル 7.7 8.0 7.6 9.5 10.8 12.5
ギリシャ 8.9 8.3 7.7 9.5 12.5 21.0
イギリス 5.5 5.4 5.7 7.6 7.9 8.3
スェーデン 7.1 6.1 6.2 8.3 8.4 7.5
米国 4.6 4.6 5.8 9.3 9.6 9.0
日本 4.1 3.8 4.0 5.1 5.1 4.6
韓国 3.5 3.2 3.2 3.6 3.7 3.4


上の表からも明らかなように、ドイツとオランダの労働者は失業率も低く、雇用は安定しており、賃金も高いのでいわば幸せな生活を営んでいる。彼らは自分の幸せを犠牲にしてまでギリシャやイタリーの困窮している労働者を助けるなどという気持ちはない。同じユーロ圏だといっても連帯感が国民の間にあるわけではない。「財政規律」が今回の危機の対策だという。これがドイツにとてもっとも痛みを伴わない方法だからである。(2011-12-21追記)


欧州中央銀行(ECB)のドラキ総裁、金融危機対策で大技なし)2011-12-9)

ECB総裁マリオ・ドラキ(Mario Draghi)氏は一連のユーロ圏の金融危機対策として「政策金利の引き下げ1.25%⇒1.0%」や銀行への3年物融資の無制限供給を打ち出した
。ただし、大方の期待する欧州共通債券の購入はこれ以上は行わないと言明した。このニュースに失望した欧州と米国の株式市場はやや下落した。

ECBはIMFからの借り入れに期待するといっている。IMFはいうまでもなく米国、日本、中国などが資金を供給しており、ヨーロッパの出資金は比較的少ない。これは言い換えればユーロのダメ国の面倒はユーロ圏では見切れないから、国際的な応援を頼むということに他ならない。

これ以外に、新しく発足させる欧州安定メカニズム(ESM)に12年中ごろには5,000億ユーロ拠出するといいているが、詳細は未定である。また、IMFにも2000億ユーロ拠出するといっている。しかし、アメリカは今まで以上にIMFには出資しないと明言している。ユーロ圏が急にIMFからの融資を強調し始めたことへのアメリカ流の答えである。

ドイツがユーロ圏の盟主として指導権を確保するが限られた範囲でしか「自腹は切らない」と言っているに等しい。いわば「他人のフンドシで相撲を取ろう」というわけである。実際のところドイツにはそれだけの実力はないのである。これはECBが各国の「国債」をこれ以上買わないという発言にも対応している。二言目にはIMFの話が出てくる。

こういうことはイギリスやスウェーデンといった非ユーロの諸国には見透かされている。EUの「財政の統一」とか「財政規律の強化」というドイツ(とフランス?)のヘゲモニーが支持されるはずもない。

また、ECBとは別の欧州銀行監督機構(EBA=Europe Banking Authoritu)はヨ^ロッパの民間銀行は自己資本を強化しなければならないとしている。ドイツの銀行は131億ユーロ、イタリーは154億ユーロの第1種自己資本を充実させなければならない。個別の銀行にも資本増加額が明示された。

EBAは2か月前にヨーロッパの銀行は2012年の中ごろには第1種自己資本比率を9%にまで高めるために1,060億ユーロ必要であるとしている。それよりも多い1,147億ユーロという金額が今回提示されている。これは12兆円ほどの金額であるが、この辺が彼らには精一杯といったところであろう。

EBSはいわばIMFのヨーロッパ版であるが2012年7月には各国が5000億ユーロを拠出て緊急融資に備えるとしている。この組織はいまだ発足しておらず、各国が議会に諮って国内の賛同を得たうえで出発することになている。しかし、フィンランド(人口530万人)は議会の3分の2(133議席)の賛成を得るのが現行政権(122議席)では難しいといわれている。特に融資にさいしては「満場一致」を原則としてきたが、緊急融資の際は「85%」の賛成で実施できるという原案になっているのが障害になるという。

今回のEUの首脳会議は最初にドイツとフランスが打ち上げた花火ほどの成果は全く期待できない。とりあえずはフランス人のラガール女史が専務理事をやっているIMFに「お願い」するが、最後はさほど余力があるとも見えないアメリカや日本に頼るしかないというのが実態である。

中国も外貨こそしこたまため込んではいるが、自分の尻に火がついてきており、とてもユーロッパの面倒どころではない。中国のバブル崩壊の危機は深刻である。不動産だけではなく、鉄鋼業も巨額の過大投資を行ってきた。


ECBの貸し付けによってユーロ圏の銀行は倒産を免れる⇒2011-12-2
1


ECBはユーロ共通債は買い上げないと宣言したが、個別銀行からの融資要請には応じるとしている。これによってギリシャなどに多額の不良債権を有する銀行は倒産を回避できる。これが今回のユーロ危機の拡大を防ぐことになる。会社はいくら赤字でもカネがつながればつぶれることはない。

果たせるかな多くのユーロ圏の銀行に融資申し込みを行っている。今回(第1次)ECBは総額4891.8億ユーロの融資枠を設定したといわれる(WSJ)。12月21日現在でEBCに対して2,930億ユーロ(約30兆円)の融資申し込みが集まっているという。貸出金利は1%で1,134日間の借り入れが可能になる。

各銀行はこの借入金を使って通常の民間融資もできるが政府債も買い取れる。各国政府が高利の国債を発行すれば銀行はかなりの「利ざや」を稼げることになる。しかし、2012年の前半に各行とも多額の借換資金(銀行が出している社債)需要があるのでさほど多額の国債を買うことはできないとみられている。2012年3月までに期限のくる銀行債の総額は2,300億ユーロに達するとみられている。

それ以外にも2012年の中ごろまでにバーゼル(Basel)IIIで決められている自己資本の充実のためにも多額の増資が必要になる。銀行経営の苦難は続くが、とりあえずECBの融資により、ユーロ圏の銀行は一難去ったということができる。

一夜明けたらなんと523の大小の銀行がECBに詰めかけたといわれる。ECBはどこにどれだけ貸し付けたかは明らかにしていない。うまく借りられた銀行は大助かりである。日本の銀行の株は12月22日も横ばいもしくは下げでパットしない動きであるが、ヨーロッパの銀行株は一斉に値上がりである。いったい世の中はどうなっているのだといいたくなる。

これで当面は「ユーロ危機」騒動はしばしの休戦である。

ブラッセル・サミットへの反応は冷ややか(2011-12-13)


EUのブラッセル首脳会議はドイツのメルケル首相のペースで終始すすめられ、「財政規律の強化」と「緊縮財政の徹底」ということでイギリスを除く各国が合意したと伝えられる。実際にメルケル案に賛成したのはユーロ圏の17か国であり、非ユーロ圏は各国に持ち帰り、議会に諮ることにしたようである。イギリスのキャメロン首相だけはその場で拒否権を発動した。

ユーロ圏の中にはメルケル案に反対すると自国がどういう扱いを受けるかわからないので心ならずも賛成したという国もあったに相違ない。

キャメロン首相への風当たりは、当初は激しいものがあり、イギリスはヨーロッパの中で孤立するという論調が多かった。与党の自由民主党の党首(Nick Cregg副首相)も「なんということをしてくれた」とキャメロン首相を非難した。労働党も大反対であった。

この労働党の反対論をみると近年の労働党がいかにダメになったかを象徴している。ブラッセル宣言の内容はユーロ圏の労働者に過酷な犠牲を強いる内容である。それを支持するというのはどういうことであろうか?イラク侵略を仕掛けたブッシュ大統領をブレア首相が支持したが、ブレア政権のころからイギリス労働党が方向感覚を失ったとしか思えない。

キャメロン首相は「シティ(ロンドン金融市場)の安全を守る」ために反対したと述べた。ドイツに干渉されることを嫌ったのである。ヨーロッパ大陸でフランスを屈服させたメルケル首相は次にイギリスに手を伸ばしてくることは容易に予想されることではある。まるでヒtットラーのようだといわざるをえない。

そもそもユーロ圏で起こった問題を周辺国にも巨額の負担を強いるということ自体イギリスには受け入れがたいことに相違ない。世論調査でキャメロン首相のこの拒否権は過半数の支持をえているという。

米国もオバマ大統領はメルケルがユーロ救済の主役の一角(トロイカ=EU+ECS+IMF)にIMFを引きずり出して、借金の面倒を見させることに強く反対している。「これ以上米国民の税金を使わせない」ということである。メルケルは2000億ユーロをIMFに急きょ拠出することにしたが、もともとIMFに最も出資しているのは米国と日本であり、最近は中国も多い。ただし、IMFの専務理事はフランス人のラガルデ女史である。

この2000億ユーロについては1500億ユーロをユーロ圏諸国500億ユーロについては非ユーロのEUメンバーが出すことになっているという。イギリスは300億ユーロを分担すると報じられているが、どうなるかはわからない。

あれだけ面と向かってキャメロン首相が非難されなおかつ巨額の資金をユーロ救済のために出す必要があるのであろうか?案の定イギリスは金額についてコミットした覚えはないといっている(12月17日現在)。

ドイツ主導のこの「新ユーロ体制」はあまりに問題は多いとしてフランスの次期大統領選に立候補を予定しているホランドし(社会党)氏はもし当選したら、この「合意」の抜本的見直しを図るとしている。

確かにこれは、ある意味では「ドイツ帝国」にフランス以下が屈服した姿になっているとみることも可能である。また極右政党といわれっるFN(国民戦線)の党首マリネ・ル・パン(Marine Le Pen)女史が当選することにでもなればフランスのユーロからの離脱もありうる。FNは創設者(父親)の伊目叔父から極右と呼ばれているが、実際は穏健なナショナリスト党であり、フランスの一般国民の支持を急速に広げている。

ここにきて目立つのドイツの非協力的態度である。ドイツは「ユーロ共同債」に反対しているのである。他国の借金を肩代わりすることへの明白な「拒否」である。これはユーロ圏の盟主としてはあまりにも「身勝手」である。ということはツーロ圏の維持は無理ろいう判断があるのかも仕入れない。ギリシャだけでなく、イタリー以下の国々の債務が天文学的な額に達しているらしいのである。

このブラッセルサミットへの評価は12月9日(金)は極めて高く、ヨーロッパも米国も株式市場は高評価を示した。しかし、翌週の12日(月)になるとヨーロッパ史上は一転して下げに転じた。Stoxx Europe 600=-1.9%, DAX(German)=-3.4%. CAC 40(France)=-2.6%であった。ニューヨークのダウ・ジョーンズも1.34%下げた。ユーロもドルに対して売られ1ユーロ=1.3177と1.4%下落した。

ヨーロッパ発世界不況が改めて認識されたのである。「引き締め強化」は経済を浮揚させることはありえず、不況は一層深刻化する。


不況の進行でもっとも影響を受けるのは労働者である。イタリー以下の国ではすでに労働組合は何をやられても抵抗できない状況になりつつある。ユーロ圏のなかに「奴隷国家」がいくつも誕生することになりかねない。

しかも、ユーロ圏の政策決定権がドイツとフランスに集中することは避けられない。しかも、フランスは多くの局面でドイツの意に従わざるを得ない。これは事実上ドイツが独裁権を持つに等しい。イギリスがEUの中枢から一歩退き、ユーロ圏もことはユーロ17か国で決めるという体制がはっきりしつつある現在一気に独裁国ドイツが登場する可能性が出てきた。今回のブラッセル・サミットがその始まりである



EU委員会とイギリスとで金融製品規制についてのの対立⇒2011-12-14


EU委員会とイギリスではほかにも大きな対立点がある。それはEUが「トービン税」を為替や株取引などにかけようとするうごきである。EUちしては投棄業者が「空売り」行為によって為替変動や株価を不当に変動させ、法外な利益を上げており、そういう動きを規制」するために為替取引では金額の0.01%、株式と債券の取引では金額の0.1%を2014年から課税する案を検討している。これによって年間570億ユーロの税金が得られる見通しであるという。

これに対し「金融取引」のセンターである「シティ」を要するイギリスとしては「拒否権」を行使する考えであるという。イギリスが拒否権を行使すればトービン税構想は正立せず、投棄業者の規制が難しくなる。


ユーロ下落ーブラッセル・サミットの成果に醒めた目⇒2011-12-14-1


メルケル首相とサルコジ大統領は12月8-9日のEUサミットで「財政統合への歴史的第1歩」を踏み出したとして自画自賛し勝ち誇っていたが、イギリスのキャメロン首相の拒否権行使、オバマ大統領の反発をはじめとして、当事国内部でも疑念の声が出てきている。果たしてイギリス以外の26か国が一致団結する形ができるかどうかは怪しい雲行きになってきた。

フランスではルモンドがアンケート結果としてフランス人は賛否ほぼ半々という見方をしていることを紹介した。イギリスではキャメロン首相が自由民主党や労働党から猛攻撃を受けているが、国民はさほどとも思っていないようである。キャメロン首相の拒否も正当な理あってのことである。

キャメロン首相は「シティの防衛」を表に出したので、余計に風当たりが強かったが、もとよりドイツ主導のユーロ体制に組み込まれることはイギリスにとっては「災いのもと」という認識がベースにある。イギリスは至近時の失業率が8.3%(5月~7月は7.9%)と悪化しており、「財政引き締め」でこれを乗り切ろうとしており、さらに景気の悪化は避けられない。しかし、ユーロの合意に参加してしまえば、今後ますます動きが取れなくなる。

金融筋では今回のユーロ圏の一連の政策は大した効果が望めないとして、サミット直後の造られた「興奮」状態から醒め、再びユーロ売り圧力が強まり、1ユーロ=1.30ドル付近に下落してしまった。

これでもドイツやオランダは別に困らない。困るのは貿易赤字国である。フランスにとっては別に「メデタク」もなんともない。国際や銀行の格付引き下げが相続いでやってくる。




ドイツ国内では社民党と緑の党はメルケル首相が議会で議論することなく、今回の政策を打ち出したことと、「財政規律」そのものは必要だがこのままでは経済は立ち直らないと強く批判した。



ドイツは他国救済に身銭を切る意思薄弱⇒2011-12-15

ギリシャに対するEUの民間ベースの不良債権については50%の債権放棄(ヘアー・カット)という案が出ているが、最終決着はついていない。ドイツ連邦銀行(Bundesbank)のバイトマン(Jens Weidmann)総裁は各国の国債買い上げをヨーロッパ中央銀行(ECB)は行うべきでなく、各国の自助努力にゆだねるべきであるとの主張を繰り返している。

これはヨーロッパ共通債権の発行に強く反対しているメルケル首相の主張とも考え方が一致している。ドイツが身ゼニを切って助けないのであれば「財政協定(Financial Compact)」など結んで必要以上の束縛を受ける義務はないと言い出す国もでてくる可能性がある。

メルケル首相のリーダー・シップのもとで進められた「財政統一」や「財政規律」案も結局はドイツの利害関係を考慮したものにすぎないことが次第に明らかになってきた。

バイトマン総裁は「イタリーは7%も出せば国債が発行できるのだから、それを続けるべきである」という。イタリーは累積債務が1兆9000億ユーロ(約200兆円)あるが、先ごろ出した5年物国債の利率は年6.47%であった。一方ドイツは2年物国債を0.25%という低金利で発行している。ドイツはドイツ、イタリーはイタリーだというのである。イタリーの債務は1兆9000億ユーロ(約200兆円)にのぼるという推定もある。

どいつがいままで築いてきた有利なポジションはドイツの自己努力の結果であり、それを他国に分かち与える筋合いはないというのが基本的な考え方である。

ドイツのようなしっかりした財政規律で健全な財政運営を行えるように各国ともしっかりした財政運営をやるべしというのがブラッセル・サミットにおけるメルケルの主張だったのである。ようするに「ユーロ圏全体として」どうするかという考え方は希薄であり、ドイツは他国のために犠牲を払うつもりはないと宣言していいるのである。

だから、ドイツは各国の救済はIMFにゆだねるべきだという考え方を持っているのである。そのためにEUメンバー国は新たに2000億ユーロ(約20兆2000億円)拠出するといっている。あくまでIMFベースでの救済にシフトしようとしているのである。ファイア・ウォール(Fire Wall)=防火壁という言葉を彼らはしきりに使うが、ユーロの中の富裕国(ドイツ、オランダ、そしておそらくフランスなど)に火の粉がかからないようにしようという意図である。

これを察してオバマ大統領が怒ったというのは無理のない話である。ユーロ内部での取引によるメリットは弱小国のためには吐き出さにということである。

しかし、各国はドイツの意図がここまではっきりした以上、弱小国はドイツの「奴隷国家」としての地位にいつまで甘んじていられるのだろうか?ユーロ圏にいること自体どこまでメリットがあるのか疑問になってくるはずである。イギリスではユーロ圏から離脱する国が出た場合どうするかというケース・スタディを始めているという話もある。


⇒ドイツは巨額の救済資金の拠出を拒否⇒2012-1-24

WSJ(2012-1-24)によればドイツはギリシャの債務について従来以上の救済資金の拠出について拒否する方針である。今年7月発足予定のESM(European Stability Mechanism=ヨーロッパ安定機構)がギリシャの債務危機を乗り切るためのものにすべきであるという考え方があるのに対し、ドイツは確約をすることを拒否した。

イタリーのマリオ首相はドイツに対しもっと救済のための積極的な方針を打ち出すべしと主張している。ドイツのウォルフガング財務相はESMが拠出金を総額5,000億ユーロから1兆ユーロに倍増すべきだとしゅちょうしているのにたいし、まず昨年12月のブラッセル・サミットで決めた取り決めた「財政規律」の実行を各国がやることが先決だとしている。

ドイツの基本的な考え方はユーロ諸国の危機は各国にせきにんがあり、ドイツとしてはトコトン面倒を見る気がないということに尽きるようである。

また、IMFに対してEUとして2,000億ユーロを拠出するという話も遅々として進んでいないという。


ラガルデIMF専務理事、このままでは世界恐慌になる⇒2011-12-16

ラガルデ(Christine Lagarde)IMF専務理事は、「今回のユーロ危機はユーロ圏だけでは解決できない。各国(世界の)が協力しなければ、1930年代の世界恐慌と同様な事態が起こりかねない」と警告した。

その意味するところは「IMF(国際機関としての)が前面に出て問題の処理にあたるべきだ」とメルケルーサルコジ路線をバック・アップしているのである。ドイツがユーロの共同債の発行を断固拒否して、「身銭を切らない」方針に徹底している限り、IMFが巨額融資を行うことにはアメリカなどの賛成は得られない。

ユーロ圏として決めたことは、「財政規律の強化」などという抽象論だけであり、ユーロの主要国が率先してユーロ圏の経済・財政危機を具体的に救済する方法をまず明らかにすべきである。ドイツやオランダの責任を明らかにせずに、「尻ぬぐいをIMFすなわち、米国や日本のような巨額出資国」にやらせるというのだからひどい話である。

ユーロ圏は2000億ユーロ(2600億ドル)新たに拠出するからいいではないかといいたいようだが、20兆円どころで済む話ではない。ドイツは450億ユーロしか出さないという。ドイツとオランダでほぼ全額出さないと収まらない話である。大国フランスはまったくと言っていいほど余力はない。IMFへの出資金の分担をめぐってEU内部で新たな紛争すら起こりかねない。

IMFがこの2,000億ユーロを受け取ったところでどうにも追いつかない。
ギリシャ1国でも100兆円をこえる外債があるという。イタリーもスペインも同規模以上の負債がある。

ラガルデ専務理事が「世界恐慌が起こる」というのは脅しである
。そんなものが起こりっこないのは1930年代の世界恐慌がなぜ起こったを見れば明らかである。ヨーロッパでは「恐慌論」の研究が進んでいないのかもしれない。知っていてしらばっくれているのなら彼女も大したものだが、多分「歴史の教科書で習った」程度であろう。

1930年代の世界恐慌の前夜は未曽有のバブル経済で、世界的に投資ブームに沸いていたのである。アメリカが無政府的な大投資を行い、労働者の賃金も大幅に高騰しつつあった。それが一気にはじけたのである。残されたのは利益を生まない巨額の設備投資の残骸であった。ちょうど、1997-8年の東南アジアの「通貨・経済危機」に似ている。

それを処理するために米国ではルーズベルト大統領が登場し「ニューディール政策」を打ち出したのである。ルーズベルトは失業者を救済するために公共投資を次々行った。それで一応の危機は収まったが、巨額投資の残骸は第2次世界大戦による巨大消費まで消えることはなかった。

今回のユーロ危機はそれとはまったく様相を異にする。巨額投資などというものは中国を除いて起こっていない。すでにあるのは欧米と日本という先進資本主義国に慢性病的に存在する長期的な不況と高い失業率である。

今、ユーロで起こっている問題はユーロという通貨が2002年に発足して以来、ユーロの非工業国が引き起こした巨額の貿易赤字の始末をどうするかという問題である。その赤字をファイナンスしたのはユーロのAAAクラスの諸国の銀行である。

これらの銀行は膨大な貸付金をユーロ内の非工業国(貿易赤字国)に持っている。その総額は明らかではないが2005兆円は超えるであろう。それを数年かけて処理すればよいだけの話である。今回IMFはその大手優良(?)銀行を救済するために出動しようというわけである。

ユーロッパの大手銀行が片端からつぶれたらどうなるかというと影響を受けるのは英米の大手銀行であり、その兆候はすでに表れている。ゴールドマン・サックスのパートナーが30名以上も会社を去るとか、一部の銀行で大幅な減益となるなどである。

短期間のうちにヨーロッパの銀行が破たんしたら、2008年秋のレーマン・ブラザーズ事件の再現となるが、数年もしたら収まるであろう。完全につぶれることはありえないから、レーマン・ショックより軽いであろう。ちなみに日本の銀行は幸いのも国際展開が遅れていたので被害は軽微である。ただし、野村証券など一部大手証券会社はすでにだいぶ痛手をこうむっているようである。

しかし、これで世界の資本主義の機能が全面的にストップするようなことにはならない。要するにマダム・ラガルドの脅しはニセモノである。

さらに、蛇足を加えるならば「ヨーロッパはすでに世界資本主義の中では辺境の位置にある」ということである。

IMFの出動にも賛成できない。まず、ユーロ諸国のリーダーが「誠意」を示すべきである。彼らはただ「イバッテ」いるだけであり、みていて嫌悪感を与える。


フランスがトップ・クラスの格付けから滑る⇒2011-12-18


格付け会社の大手Fitchはフランス国債の格付けをトップのAAAから引き下げると発表した。それ以外にスペイン、イタリー、ベルギー、アイルラアンド、スロベニア、キプロスなども1月末までに現行より格下げすることを明らかにした。

これとは別に格付け会社ムーディーズ(Moody's)は12月16日にベルギーの格付けを2段階引き下げAa3にすると発表した。

Fitchは今回の格付け低下についてコメントを出し、ヨーロッパ中央銀行(ECB)がもっと積極的に行動することを希望すると述べた。ECBは各国の救済には向かわないとのべるなど、「他人事」とも思えるような発言をおこなっていた。これはドイツ政府の意向にそうものと受け止められる。

最近「フランスの首相がイギリスの経済はなっていないなどと急に喚き始めた。これに対してイギリスは副首相がフランスの悪口をいって応酬しした。両国の政府の首脳が公然と悪口を言い合うなどというのは前代未聞のことである。大人げないことはなはだしい。

政治家の質があちらもかなり低くなっているようだ。フランスはランク引き下げについて多分イギリスに本拠を置くFitchから「予告」を受けたので、「フランスを引き下げるならイギリスも引き下げろ」といったものと推測される。どちらも貿易赤字国で近年製造業に対する投資が少ないことは事実である。

結局のところその国の製造業が衰退する国はダメになるのである。上の表5を見ていただくと明らかなように経常収支が赤字の国は押しなべて製造業が弱体化していて膨大な貿易赤字を抱えている国々である。そういう意味では確かにフランスが格下げになればイギリスも安泰とは言えないであろう。

日本なども円高による産業の空洞化が進んでいるので、すでに月によっては貿易赤字に時々なっているが「経常収支」という面では海外投資の収益金もあり、まだ余裕がある。しかし、日本は世界一の財政債務国であり、危険な兆候には事欠かない。「国貧しくして企業が栄えている」のである。

フランスは格下げによって実は大きな損害を受ける。それは国債発行の金利が上昇するからである。フランスは2012年には4,000億ユーロの国債発行が必要とされるという。1ランク格下げになれば1%金利が余計にかかるといわれている。フランス国民の負担は40億ユーロ(約4050億円)増えることになる。(英国、Guardian紙)

これは来年大統領選挙のあるサルコジ大統領にとっては手痛い出費である。財政規律が厳しくなれば、その分予算カットも必要になってくるからである。ドイツが最低限しかカネを出さないといっている以上、フランスにも相当な負担がかかってくることは避けられない。


EUのIMFへの拠出金をイギリスが拒否⇒2011-12-20


EU諸国からIMFに2,000億ユーロの拠出金の増額の話がほぼ固まり、ユーロ加盟国が1500億ユーロ、非ユーロ国は500億ユーロという大枠が決まられていたが、各国別の分担割合で話し合いがつかない。

イギリスはユーロ圏外の500億ユーロについてイギリスの分担について2012年の3月までに結論を出さない公算が強まった。

ドイツはユーロの盟主として415億ユーロ出すといっている。それ以上は出さないらしい。ドイツの言い分はEUのIMFへの拠出はあくまで「一般目的」であり、ユーロ救済に直結するものではないという。ユーロ救済に「ヒモをつける」のはEU憲章に違反するというのだ。しかし、それはあくまで「建前」の話である。

フランスは苦しい財政の中でなけなしの314億ユーロ出すという。イタリーは235億ユーロ、スペインは149億ユーロ拠出する。イタリーにはすでにIMFのスタッフが派遣されているというのに、何ともいじましい。高い金利で発行した国債からこのカネを工面するのであろう。富裕国オランダは139億ユーロ、内情が怪しいベルギーは99.9億ユーロである。ギリシャとアイルランドとポルトガルは免除である。

チェコやポーランドやデンマークやスェーデンは額を明らかにしていない。

ドイツはアメリカその他のG20メンバー国が追加してくれないと困るというような寝言を言っている。およそ常識では考えられない。ユーロ救済はユーロ圏の問題である。


EU財政規律協定を調印⇒2012-3-3


3月2日(金)ブラッセルでEUサミットが開催されかねてから調印を拒否していたイギリスとチェコを除く25か国が「財政規律」協定に調印した。これは「ヨーロッパ連合の新たな歴史の第1歩」とメルケル首相は自画自賛しているが、その実現性については疑しいと考えるのが普通であろう。

財政赤字の限度は2013年には各国GDPの3%を上限とする(従来0.5%とされていたがその後3%に緩和された)こととし、それを守れなければ自動的に制裁を受けるというものである。この協定にサインしない国はヨーロッパ安定メカニズム(ESM)の援助を受けられないというものである。ESMは2012年7月から5,000億€(約5400億円)の基金で運用される。

この協定は今後各国において選挙で政権が交代しても守られるという取り決めになっているという。それが事実とすれば、将来の民意を拘束することになり、大きな問題を残。この協定がドイツの主導権の下に決められるということになると特に問題が大きいのである。ドイツ帝国主義の復活である。

アイルランドはこの協定の批准については2013年までに「国民投票」を実施する。2012年5月末に国民投票が行われ約60%の国民が賛成した。ユーロから出たくてもでられないし、今後とも融資を受けなければならないからである。

スペインは2012年の財政赤字は5.6%(対GDP)に達すると早くも宣言している。2012年の赤字上限額は4.4%らしい。オランダでさえも2013年の3%を守るには財政支出を150億€削減する必要があるという。それによって福祉政策の大幅レベル・ダウンは避けられないという。

ユーロ圏での失業は2012年に入って早くも増加し始め、1月には185,000人失業者が増えた。財政支出削減昨によってEUの不況は一層深刻化していくことは避けられない。そのシワ寄せは当然のことながら労働者や一般庶民が被ることになる。

スペインは失業者が2.4%増え、23.3%(失業者数は2月末で471万人)に達した。若者の失業率は50%に達している。不況によりレストランは最近1万2000軒も閉鎖に追い込まれたという。スペインでは各地で「緊縮政策反対」のデモが学生や労働者によって数万人規模で行われている。

政権を取ったばかりの人民党(PP)政府は早くも試練に立たされており、最初から「財政規律」を違反せざるを得ない状態に陥っている。大幅予算削減は教育費と医療予算に集中している。




EUと中国の貿易バランスと失業率(2011-10-7)

アメリカもEUも大量失業と経済停滞という共通の問題を抱えている。失業者が多ければ当然内需は増えない。だから景気は良くならない。そうすると益々経済が悪化する。

両者に共通するのは大幅な貿易赤字である。輸入をしすぎなのである。輸入をしすぎるとその分国内の雇用は悪化する。つまり失業率が高くなる。そうすると長期的にみれば国内の不況が進行する。その姿を統計から眺めてみよう。

国内総生産(GDP)の伸び率は表1でみるようにEUは良い年でも年率4%程度で推移している。フランスとイタリーとポルトガルは2001年からだいぶ低くせいぜい1~2%であった。この両国は意外に工業化が停滞していたことがここで明らかになった。

ギリシャはなぜか2007年までは4%を上回る年もあり、どうにか恰好がついていた。観光収入が支えになっていたのであろう。ドイツは意外にGDPの数字は低かったが、これは経済大国の宿命であろう。

ところが各国ともレーマン・ショックのあった2008年からGDPの数字が落ち込んだ。イタリー、スペイン、ポルトガル、ギリシャはレーマン・ショックから立ち直れていないように見受けられる。この4カ国は現在のEUにおける「問題国」である。それに比べ中国や韓国は高い成長率を維持している。

表2の失業率をみると、ドイツは2006年の10.2%から次第に低下して、2010年には7.0%、11年に入って1Qは6.4%、2Qは6.0%とどんどん改善されている。これはドイツの国際競争力が増し、輸出も増え、製造業を中心に雇用状態が良くなっていることを意味している。6.0%自体けして低いとは言えないが旧東独地域の失業率が高かったのでやむをえない。

オランダは失業率が4%台と低いがこれはオランダの工業力が高いのと「ワーク・シェアリング」によって労働時間を短縮するなど失業を減らす同国の政策がうまく機能しているためである。

それ以外の国の失業率は高い。その中でもイタリーは8.4%と比較的ましだがフランスは10%近いし、ポルトガル、スペイン、ギリシャはいずれも10%を超えている。しかも、11年に入ってからいっそう悪化している。スペインは平均20%を超えているが若年層は40%といわれている。

これらの諸国は工業化が遅れている国々である。一時期のユーロ高が輸入を増やし、工業投資を遅らせたという要因があることは否定できない。EU諸国の中ではドイツとオランダは「優等生」だが他の諸国は工業化が遅れており、経済的な2極分解が起こっていることが見て取れる。

(未完)

表1EU諸国と韓国、中国のGDP成長率

ドイツ オランダ フランス イタリー スペイン ポルトガル ギリシャ 韓国 中国
00 3.3 4.0 3.9 3.9 5.0 3.9
01 1.6 2.0 1.8 1.7 3.6 2.0 4.2 4.0 8.3
02 0 0.1 0.9 0.5 2.7 0.7 3.4 7.2 9.1
03 -0.4 0.3 0.9 0.1 3.1 -0.9 5.9 2.8 10.0
04 0.7 2.0 2.3 1.4 3.3 1.6 4.4 4.6 10.1
05 0.8 2.2 1.9 0.8 3.6 0.8 2.3 4.0 11.3
06 3.9 3.5 2.7 2.1 4.0 1.4 5.2 5.2 12.7
07 3.4 3.9 2.2 1.4 3.6 2.4 4.3 5.1 14.2
08 0.8 1.8 -0.2 -1.3 0.9 0.0 1.0 2.3 9.6
09 -2.7 -3.5 -2.6 -7.0 -3.7 -2.5 -2.3 0.3 9.2
10 2.1 1.6 1.4 -0.4 -0.1 1.3 -4.4 6.2 10.3
11/1Q 1.3 0.8 0.9 0.1 0.4 -0.6 0.2 5.4 8.7
11/2Q 0.1 0.1 0.0 0.3 0.2 0.0 n.a. 3.6 9.1

内閣府「海外経済データ」より

表2 EU諸国と韓国のの失業率推移(5)

ドイツ オランダ フランス イタリー スペイン ポルトガル ギリシャ 韓国
00 8.0 3.0 9.0 10.1 11.1 4.5 n.a 4.4
01 7.9 2.6 8.3 9.1 10.4 4.6 n.a 4.0
02 8.7 3.1 8.6 8.6 11.1 5.7 n.a 3.3
03 9.8 4.1 9.0 8.4 11.1 7.1 n.a 3.6
04 10.5 5.1 9.2 8.0 10.6 7.5 10.5 3.7
05 11.2 5.3 9.3 7.7 9.2 8.6 9.9 3.7
06 10.2 4.3 9.2 6.8 8.5 8.6 8.9 3.5
07 8.8 3.6 8.4 6.1 8.3 8.9 8.3 3.3
08 7.6 3.1 7.8 6.8 11.4 8.5 7.7 3.2
09 7.7 3.7 9.5 7.8 18.0 10.6 9.4 3.7
10 7.0 4.5 9.8 8.4 20.1 12.0
12.5 3.7
11/1Q 6.4 4.3 9.7 8.1 20.6 12.4 15.7 4.2
11/2Q 6.2 4.2 9.7 8.0 20.8 12.6 16.1 3.4

内閣府「海外経済データ」より

次にEU諸国の対中国貿易バランスを見てみよう。これは中国の公表している「通関統計」であり、輸出はFOBで輸入はCIF(FOB+運賃、保険、商社手数料などを含む)であり、輸入の方の数字が高めに出る。

中国の輸出を上回っていいる国はドイツだけである。他の国は全て中国からの輸入超過になっている。EU全体の輸入超過額は2010年で1427億5800万ドルに達している。これが2000年の段階ではわずかに73億4800万ドルであった。1995年には逆にEU側は21億6400万ドルの輸出超過であった。

ユーロ体制ができてから急激に中国からEUへの輸入が増えたのである。輸入品の内訳は家電、衣類、日用品、電子部品などであり、EUでやろうと思えばいつでも作れるがコストが安いからEUは輸入を増加させたのである。その分EU諸国の「非熟練労働者」は職場を失ったのである。

ユーロが安くなり、人民元が高くなり、かつ中国の労働者の人件費が大幅に上昇してくれば仕事はEUに戻ってくる。その場合はスペインやイタリーがまず恩恵を受けるが、今のところまだそういう状況になっていない。

ギリシャとポルトガルは中国へ輸出すべき商品がほとんどないことを示している。中国からの輸入が減って衣類や家電製品を国産化すればEU諸国の失業率もかなり減るし、貿易収支も改善される。

今日のEU諸国の経済的な苦境は中国からの輸入品の増加に起因すると考えるべきである。
政府の財政規律がなっていないという議論は本質を外れた議論であり、問題の焦点が「自由貿易の弊害」に当たらないようにするネオ・リベラルの議論である。

国際的な自由貿易は一見国際貿易と経済の拡大というメリットをもたらしているが、逆に輸入超過国の失業の増大と、財政悪化という問題を引き起こしている。

これは米国についてもいえることである。先進工業国といえども「自由貿易」は利益よりも弊害の方が多く出てきているのである。通常は貿易黒字国の通貨が高くなって、赤字国の通貨が安くなり、貿易バランスは回復される方向に進むのであるが、中国の場合は人民元が政府のコントロール下にあって自由に上下しない。

こうなると貿易のインバランスはますます解消されずに、先進国の労働者に負担が強いられることになる。先進国の失業率が高いのはこうした事情による。政府は国民の負担を軽減するために、失業対策をおこなうがそれが財政を圧迫するという仕組みにつながっているのである。

EUという仕組みをつらつら考えてみると、ドイツとオランダが「幸せな国」として残っている、オーストリアもその仲間であろう。そうなるとEUというのはカツテノ「ハプスブルグ帝国」と似ていることに気がついた。どちらにしてもEUの経済危機を救えるのはドイツしかない。フランスは極めて危うい。

しかし、ドイツはこれ以上の「犠牲」はゴメンだという。盟主としての責任放棄である。そうなるとこれから先、経済的に立ちいかなる国はユーロ圏にとどまってはいられない。年がら年中「緊縮政策」を継続していたら国民は万年不況、高失業で苦しむことになる。


表3 中国から見たEU諸国との輸出入バランス(単位:100万ドル

1995 2000 2001 2005 2006 2007 2008 2009 2010  2011
ドイツ 輸出 5,672 9,278 9,754 32,528 40,316 48,718 59,174 49,920 68,047  76,435
輸入 8,038 10,409 13,772 30,724 37,879 45,393 55,835 55,764 74,342  92.716
-2,366 -1,131 -4,018 1,803 2,437 3,325 3,339 -5,845 -6,295 -16,283 
イギリス 輸出 2,792 6,310 6,780 18,977 24,163 31,654 36,069 31,277 38,771  44,125
輸入 1,972 3,592 3,527 5,526 6,506 7,777 9,555 7,877 11,304  14,560
820 2,718 3,253 13,451 17,657 23,877 26,514 23,400 27,467 16,658 
フランス 輸出 1,842 3,705 3,686 11,640 13,910 20,326 23,304 21,460 27,654  29,997
輸入 2,648 3,950 4,105 9,009 11,279 13,342 15,640 13,020 17,144  22,080
-806 -245 -419 2,631 2,631 6,984 7,664 8,440 10,510 7,917 
ベルギー 輸出 1,033 2,301 2,528 7,740 9,909 12,677 14,858 10,873 14,304  18,974
輸入 1,097 1,386 1,721 4,005 4,304 4,971 5,338 5,849 7,837  10,138
-64 915 807 3,734 5,606 7,706 9,520 5,023 6,467 8,836 
オランダ 輸出 3,232 6,687 7,282 25,877 30,861 41,413 45,910 36,682 49,706  59,500
輸入 818 1,236 1,457 2,926 3,651 4,928 5,301 5,122 6,477  8,653
2,414 5,451 5,825 22,951 27,209 36,486 40,610 31,560 43,228 50,874 
イタリー 輸出 2,067 3,802 3,993 11,691 15,973 21,172 26,608 20,244 31,141  33,698
輸入 3,115 3,078 3,789 6,926 8,603 10,210 11,647 11,020 14,011  17,586
-1,048 724 203 4,765 7,370 10,962 14,961 9,223 17,130 16,112 
スペイン 輸出 985 2,124 2,262 8,440 11,489 16,538 20,742 14,072 18,175  19,722
輸入 907 623 714 2,085 3,003 4,432 5,424 4,292 6,231  7,556
78 1,501 1,547 6,355 8,486 12,106 15,318 9,780 11,943 12,166 
ギリシャ 輸出 193 579 694 1,935 2,179 3,253 4,050 3,458 3,959  3,950
輸入 20 48 59 87 104 170 196 213 389  354
173 531 635 1,849 2,075 3,083 3,854 3,245 3,570 3,596 
ポルトガル 輸出 106 261 261 912 1,360 1,826 2,304 1,924 2,513  2,801
輸入 39 47 71 324 354 385 387 481 754  1,163
67 214 189 588 1,006 1,442 1,917 1,443 1,759 1,638 
EU 輸出 19,090 38,193 40,904 143,712 181,983 245,192 292,878 236,284 311,235  356,020
輸入 21,254 30,845 35,723 73,595 90,319 110,960 132,699 127,758 168,477  211,193
-2,164 7,348 5,181 70,116 91,664 134,232 160,179 108,527 142,758 144,827 

中国貿易統計より


米国連銀がヨーロッパの中央銀行にドル資金を低利融資(2011-12-1)


11月29日ユーロ圏の金融危機を見かねた米国の連銀がユーロ圏、イギリス、スイスの中央銀行にドル資金を通常の半額程度の金利でいつでも融資するという話がまとまった。それぞれの国の銀行はいざとなれば中央銀行からドルを借りられることになり、ひとまずユーロ圏発の「世界金融恐慌」は回避できた。

このニュースを聞いてヨーロッパと米国の株価は11月30日に急上昇した。アジア市場に影響が出るのは12月1日である。日銀の白川総裁は日本も協力するといって記者会見を開いたがどうも言っていることがすっきりしない。「金を貸すだけでは抜本策にはならず、経済と財政の改革が必要だ」と述べたという。言っていることは間違いではないが今日明日の緊急時に対する答えとしては何の意味もなさない。米国とユーロ圏が緊密に連絡を取る中で日本は完全にカヤの外だったに違いない。

日本はゼロ金利なのだから金利なしで円を貸してやるとは言えない立場だし、万一コゲついたらどうにもならないから手が出せないのであろう。ASEANの通貨危機の時は日本はチェンマイ合意でスポンサー役になったが相手がユーロ圏とイギリスとなると額が多すぎて(優に100兆円を超える可能性がある)どうにもならない。

長期対策の「経済・財政改革」とはそもそも具体的にどうするのかということが次に問題になろう。最大の問題はユーロ圏の巨額貿易赤字である。これを回避するにはそれぞれの国で自給率を高めて日用品などの産業強化が行われなければならない。それを有効にするには非産業国のユーロ圏からの離脱もしくはユーロに対して自国通貨を持つことである。ユーロから離脱したうえで「保護主義」政策をとる必要がある。アルゼンチンはそれで息を吹き返した。

ギリシャに即して言えばユーロとドラクマの両方の通貨を通用させることである。ドラクマハユーロに対して変動可能にすることである。そうしなければギリシャ経済は成り立たない。ギリシャを丸抱えする力はドイツにはないことが今回明らかになった。ほかにもスペイン、ポルトガル、イタリーと問題国は続いている。


S & Pがユーロ諸国の格付けダウンを警告(2011年12月6日)

格付け会社S & Pがユーロ諸国のうち15か国の格付けを引き下げると12月5日に発表した。この警告はメルケル首相とサルコジ大統領の会見終了後に発表された。日本の株式市場は6日これを受けて日経平均指数で前日比-120.82の8575.16とかなり下げたが、ヨーロッパは高安まちまちで、米国市場はむしろ上昇している。

要するに極東の日本市場だけがユーロ危機に「過剰に反応する」というバカバカしい結果に終わった。

ECでは格付け会社の動きが株式市場の急落や通貨に悪影響を与えるということで規制しようという議論が出ている。しかし、実際のところ今回の格付けの警告自体さほど深刻には受け止められておらず、12月9日の首脳会議への声援になる(ドイツのメルケル構想への)と受け止めている。

上の帯状の図からみるとAAのベルギーを境にしてAA-のスペイン以下はユーロ体制にとどまっても将来やっていけるか否かは大いに疑問である。ユーロは所詮今のままでは機能不全に陥る。ドイツに「財政赤字国=貿易赤字国」を救済するだけの実力がないことがユーロ体制の存続を難しくしている。

AAAの中からAA+もしくはAAに下がる国も出てくる可能性がある。フランスなどはあぶないとみられる。ドイツも実はあまり芳しくない。ドイチェバンクなども海外でかなり危うい貸し付けを行っている。


フランスでは「バイ・フレンチ運動」始まる(2011-12-7)

ユーロ危機の根本原因は「貿易収支」の赤字にあることは今まで論じてきた。貿易収支の赤字の要因はいくつか考えられるが「無制限の貿易自由化」政策と安価な輸入品に対抗できるような産業(特に日用雑貨、家電製品、靴、衣類など消費財)がドンドンすたれ、その回復・再生・育成の努力を政府が怠ってきたことが大きい。

そういう「内向きの政策は邪道だ」と考える風潮もユーロ圏に存在したことは間違いない。何しろ「共同体」の実現にみんなで向かっているのだから「国別の産業政策」など本来必要ないという考え方である。しかし、字際はそうではではなかった


[国別の経済]
はきちんと存続・貫徹していたのである。雇用が失われれば政府が対策をとる。そうなれば財政負担が増えるというのは当たり前である。

ユーロ体制ができてから10年の間に「貿易赤字」が「財政赤字」に転化していったのである。貿易赤字を最小限に食い止めるのは
「為替変動」がなければならないがユーロ体制下では自国の都合通りには為替は動かない。

最初のうちはこのことによる弊害はさほど目立たなかったが2004年ごろから次第に貿易赤字が弱小非工業国で目立ち始めた。(上記の表3では中国との貿易を表示。ドイツ以外はみな対中貿易赤字)

ユーロ圏ではドイツに次ぐ大国フランスも貿易赤字に悩まされている。加えてユーロ圏に銀行が多額の融資を行っており、潜在的な「不良債権」を多く抱えている。フランス国民はフランスも経済危機に直面しており、その根源は「貿易赤字」にあると認識している人が少なくない。

12月7日の"Bloomberg"はフランスで”
Buy French"運動が起こりつつあるという記事を出している。国産品をフランス人がもっと買えば貿易赤字と失業も減るという、かつての米国における「バイ・アメリカン」運動と同じものが提唱されている。それほどフランスも切羽詰っているということである。同じユーロ圏でも他国の面倒を見るゆとりはフランスにはないということである。

"Bloomberg"の記事によるとフランス人は5~10%高くても国産品を買うという。ところが中国製品はスランスの製品よりも15~25%安いので、どうしても中国産のほうが買われているというのである。これは他の諸国でも事情は同じで、日本でもそうである。しかし、人民元が今よりも10%ほど高ければ事情は変わってくる。ユ^ロが人民元にくらべ安くなっても同じことである。

中国製品が安いということについては「関税」でアジャストするか「為替」でアジャストするかである。米国が「人民元」を高くしろとしきりにいうのはそのためである。しかし、今フランスに必要なのは自国に日用品を製造する企業をもっと作り、しかも経営として成り立つような方策を考えることである。

「地元で作ったものを地元で消費する」というのも立派な経済のあり方である。日本も円高の中でラーメンや餃子やいわゆる「B級グルメ」なろものが大流行している。これは形を変えた「バイ・ジャパネーズ」である。これで失業を免れている人は実に多い。

このような様々な解決方法を模索しなければヨーロッパの危機はいつまでも終わらない。ユーロ体制があらゆる意味でヨーロッパの人々の「桎梏」となっている。これは一刻も早く解消しなければなるまい。
ユーロ体制でメリットを受けるのは「お山の大将(ドイツ)」とその子分(オランダ)だけである。フランスなどはさっぱりダメである。

ユーロに入りかけて「国民投票」で否決されたがために、ユーロききから逃れた国がる。それはスウェーデンである。スウェーデンは税金は高いが高福祉国家として知られる。本来こういう国家体制は維持するのが難しいはずだが、為替という「逃げ道」があるのでだいぶ救われている。今頃スウェーデンの人々は胸をなでおろしているに違いない。

ドイツがユーロ圏の「問題児」を処理する実力がないのに「財政規律」などいくら押し付けても、誰もついては来ないであろう。12月9日にトップ会談があるが、いざとなったらアメリカやIMFに助けてもらうのだなどということで(それ以外に仕方がない)どうやって「統一されたヨーロッパ」などが作れるであろうか?お山の大将も形無しである。

「さあ喜劇は終わった。幕を閉じろ!(ラブレー、Tirez le rideau, la farce est jouee)
」といったところである。いやもう一幕ぐらいはあるかもしれないが、エピローグは見えた。観客はゾロゾロ帰り始める。ユーロ圏が生き返る可能性は極めて低い。

ル・モンド紙(2011-12-14)によればフランス人の間にユーロ圏は今回の危機を乗り切る力はないのではなかという疑念が急速に広まっていうrという。ユーロ体制に終始批判的であったナショナリスト政党のFN(国民戦線=極右というのは最近では間違いである)が急速に支持を拡大している。


1月30日のEU首脳会議で25カ国で財政規律協定を決める。イギリスは不参加(2012-2-1


EU27か国は1月30日にブラッセルで首脳会議を開き、ユーロ安定に向け財政規律強化の「財政協定」を決め、同時にユーロ安定のための欧州安定化メカニズム(ESM)の詳細を決定した。

「財政協定」によって各国は国内法で「均衡財政」の制定を義務付けられることとなった。財政赤字はGDPの0.5%以内に制限され、それを破ると直ちに罰金などの制裁が科せられる。EU27か国のうちイギリスとチェコを除く25カ国がこの協定に参加することとなった。

また、EMSは2012年7月から稼働させることとなった。その資金は5,000億ユーロ(約50兆円)である。この2本立ての政策で参加国の債務危機をしのいでいこうとするのが基本的な枠組みである。

この「財政協定」は一見して明らかなように、財政出動による経済浮揚政策を事実上禁止するものであり、すでに経済不振に陥っている大部分の国にとっては「不況の長期化」は避けられないものとなった。仮に世界景気が回復しても輸出の恩恵を受けられるのはドイツとオランダだけということになる。いわば「絶望協定」である。

すでに、ユーロ諸国では失業率は10%を超えており、ドイツは5%とだいぶましである。スペインでは22%以上の失業率であり、若者の失業率は50%を超えている。

この協定はドイツやオランダはさほどの問題なく順守できるかもしれないが、イタリー、スペイン、ポルトガルなど最初からやっていけそうもないことは明白であるが、「ドイツが言うことだから協定にはサインせざるを得ない」という情けない立場である。

これは実は何物も「解決」していない。単にドイツのメルケル首相の顔を立てただけの話である。肝心のドイツはこれ以上カネを出す気はないのだからどうしようもない。「会議は踊る」どころか大部分の国が重たい心と足を引きずりながら多くの首脳は帰国の途に就いたことであろう。



ユーロの経済危機は財政引き締めでは解決しない(2012-2-19)


ユーロ圏の中で国際競争力があり、貿易収支で黒字を出している国、ドイツとオランダにとっては危機でもなんでもない。ギリシャなどへの援助をしなければならないことが彼らにとっての「危機」なのである。

困っている国はフランス以下貿易赤字、経常収支の赤字が大きい国である。ドイツとフランスが主導するユーロ圏のリーダーは各国に財政規律の一層の強化を求めている。これは実は資本家階級が労働者階級に仕掛けた「階級闘争」なのである。

財政規律強化政策はIMFが借り入れ国に対して課したコンディショナリティー(融資条件)の考え方と同じである。財政がよくなっても経済がダメな国が次々出てくるであろう。スペインが実はそうだった。スペインは住宅建設バブルがハけて、これは一大事とばかり、財政引き締めを行った。その結果経済は一層悪化してしまった。

しかし、社民党政権がつぶれて右翼政権が誕生して、富裕階級にとってはマズマズなのである。

非ユーロ圏ではハンガリーがそうなっている。財政規律を求めるのは実はネオ・リベラルの政策なのである。財政規律だけではなくそれに伴う消費税の引き上げがある、さらには労働者階級にターゲットを絞った人員削減(無条件首切り)、賃下げが必ず随伴している。これは富裕階級が仕掛けて労働者階級イジメの「階級闘争」なのである。

失業者がふえても富裕層は一向に苦にならない。そればかりか労働者を安く雇用できる。

賃金が引き下げられれば、企業の利潤率が自然に回復して、企業業績がよくなり、経済も回復するというシナリオである。また、通貨切り下げと相まって、輸出競争力強化されて輸出が増えていくということにもなる。もしこのシナリオ通りにいけば富裕層の「階級闘争」は大勝利に終わる。

しかし、現実はそうは問屋が卸ろさない、引き締めと賃下げの結果「内需が減ってしまう」。そのため国内不況は一層悪化する。結局輸出が増えるのを待つほかない。しかし、そもそも輸出産業が育っていない国は所詮、明るい未来はない。内需が減っているのだから、輸入代替産業(縫製加工業、家電産業など)を育てるための投資など行う資本家はあらわれない。

それではどうすればよいか?ネオ・リベラルの政策と逆のことをやればよい。財政引き締めをやめ、ケインズ的な内需刺激策を行うことが第1である。消費税は下げ、累進課税を強化して富裕層から税金を取ること。次いで、金利を下げて投資をしやすくすることである。輸入関税を高くして輸入抑制を図ること。通貨安に誘導することも輸入抑制、輸出増加に効果がある。

要するに、内需を増やし、輸出も増やすという需要増加政策を基本にしていかなければならない。内需型産業への助成ももちろん必要である。国内の資本家を優遇することもさることながら、外国資本が進出しやすいような投資環境の整備が必要である。来てくれる企業は別にハイ・テク産業でなくてもよい。輸入代替産業で当面はじゅぶんである。もちろん輸出産業に来てもらうことが望ましいが。



G20でドイツの態度に不満、まずユーロ圏でやるべきことをやれ(2012-2-27)

2月25-26の2日間メキシコ・シティでG20財務相・中央銀行総裁会議が開かれたが、ドイツのショイブレ財務相はこれ以上のユーロ諸国によるギリシャ支援は無理なので、IMFの融資をお願いしたいと申し出たが、米国のガイトナー財務長官はまだユーロ内部でやれるというかねてからの主張を繰り返し、結論は出なかった。

米国とドイツとの間でかなり激しい対立があることを物語っている。日本の報道を見ると単に結論が先送りされただけという印象だが、中身は大違いである。

基本的な問題はドイツがこれ以上の「防火壁」の構築を拒否しているーカネはもう出したくないーと言っていることにある。今回130億ユーロの追加融資と、債券の53%のカットということで、ユーロとしては一応の義務は果たしたという主張(ドイツ)である。

ユーロの中では貿易黒字国のドイツとオランダが資金的には最も余裕のある立場だが、これは彼ら自身の「努力のたまもの」であり、怠慢であった他国のめんどうはこれ以上見たくないということに尽きる。

この主張は将来とも貿易収支が黒字化する可能性の低いギリシャはユーロから離脱させるべきだという主張にもつながってくる。ギリシャ問題は一段落したようにみえるが、明日からまた貿易赤字が膨らみ始め、それが処理できないーすなわち赤字が出ても誰もカネを貸さないということになりかねない。

一方IMFは加盟国がさらに5,000億ドル追加出資して合計1兆ドル用意し、EUも同じく1兆ドルの資金を用意し、合計2兆ドル(約160兆円)で今回の危機を乗り切ろうとしている。しかし、米国は納得しない。ユーロ問題は当事国で処理すべきで、IMFを通して米国や日本などに負担を強いるべきではないというのがガイトナー長官の考えである。

米国もユーロ圏などに援助している余裕はないのだ。

実際のところユーロ圏全体としての貿易収支はほぼトントンである。ユーロ圏内部で経済強国が弱国の面倒をトコトン見る気になれば、外部の力(IMF)など借りる必要はないはずである。米国がドイツやオランダの態度を問題にするのは当然であろう。

ユーロ圏からのギリシャの離脱は避けられないし、それがポルトガル、スペインに波及していくことも大アリである。


ユーロ内部で起こっていることはまさに「階級闘争」である(2012-4-1)

スペインでは3月29日(木)に全国でゼネストが行われ100万人近い労働者・市民がデモに参加した。労働者の77%がこの日の抗議行動に賛成しているという。ギリシャもイタリーもポルトガルも今回のユーロ危機騒動の中で、いつも街頭に労働者や市民が繰り出し、警官隊と衝突する姿をテレビでしばしば見てきた。

メディアの報道を見ていると、EUでは財政規律を強化しないとこの危機は乗り越えないということで「財政引き締め」一本やりで各国の財政政策を統一させようとしている。
その政策の発信源はドイツのメルケル首相でそれに同調したのがサルコジ大統領である。さらに、メルケルの強硬策を支えているのはドイツのショイブル財務相のようだ。彼は最近国別にやることが生ぬるいなどという批判を行っている。

ドイツは自国の負担を最小限にしながらも、他国のハシの上げ下ろしにまで注文をつけている。こんなことは一国の財務相としてやるべきではないが彼は平気である。一方、弱い立場のラテン諸国(フランス以外)では各国政府とも「財政規律」の強化を労働者に押し付けている。

公務員の削減と給与カット、年金の切り下げ、労働組合の権利の剥奪、経営者の解雇権の強化などすべてが労働者にツケが回されている。権利意識の強いヨーロッパの労働者は敏感にこれに反応し、激しく街頭で抵抗を示しているの出る。

ユーロ諸国のリーダーはほとんどが右翼政権であるが、このような「締め付け政策」一本やりで経済危機は乗り切れないし、政権にとどまることも不可能であろう。ユーロ体制というのは今になってわかってきたことだが、各国のブルジョワジー、資本家階級の「牙城」だったということである。何かことあれば労働者階級を抑圧し、シワを寄せていく。

イギリスの保守党政権はいまどき最高税率の切り下げを行っている。所得の低い層の減税も行っているから文句はあるまいということである。ということは中間層にシワが寄せられる。中間層は労働組合にも入っていないものが多く、泣き寝入りである。労働党もブレアー政権の変節ですっかりダメになってしまった。どこにも生きようがないのがイギリスの状況である。労働党の執行部をまず入れ替えて、それから後の話ということになる。


ユーロの導入によってドイツとオランダの労働者の賃金は低く抑えられ、ラテン諸国は上がった(2012-4-2)

ユーロの導入によってドイツとオランダの労働者の賃金は相対的に押し下げられ、スペイン、イタリーの労働者の賃金は上昇した。そのためドイツとオランダの競争力は上昇し、スペイン、イタリーの国際競争力は低下した。

この13年間でドイツ人労働者の賃金は「「相対的」に11%低下し、イタリー人の労働者の賃金は1998年に比べ37%上昇した。これは実際の数字で確かめてみる必要はあるが、需要な論点である。

ユーロ圏内部での労働者の移動は事実上自由ではなかった。①言語の壁、②制度の違い、③労働慣行の違い、④熟練工の移動は無理。

Bloomberg,2012年4月2日、Charled Dumas氏(Lombard Street Research)の記事。

確かに2000年台の前半はスペインは住宅投資バブルがあり、好景気であり賃金上昇率は高かった。しかし、工業部門への投資が少なく、それが輸出能力を増加させられなかった原因である。結局「南ヨーロッパ」は「工業かが遅れた」まま最近に至ったのである。ユーロ体制下では衣類までもが中国から大量に輸入され(コスト安)、国内の衣類加工産業が破壊されていった。


IMFがユーロ圏の引き締め策の緩和を要請(2012-4-18)

IMFのラガルデ専務理事は最近のユーロ圏の財政規律強化=引き締め政策では不況を長期化させるだけであるから、しかるべく引き締め強化を緩和すべきであると述べた。これは当然のことであるが「新自由主義」経済学が主流を占めている今のEU幹部にはなかなか受け入れられない考え方である。

不況期に財政引き締めをやるというのはネオ・リベラル独特の手法で失業者を大量に発生させ、労働者の賃金を引き下げ、企業の利潤率を上げ、そこから「設備投資の新たな増加」が期待できるという非人道的なやり方である。失業者は長期間苦しめられ、自殺者も多数出る。今のヨーロッパはそうなりつつある(ギリシャの年金生活者の自殺)。

それは現在のEU幹部に「哲学の変更」(ケインズ主義の容認)を意味するからである。人間というのは悲しいもので「頭の切り替え」には1ドルの金もかからないのに、実はそれが一番難しいのである


IMF自身もつい最近までは「新自由主義」一本槍であり、彼らが提示するコンディショナリティ(融資条件)というのは
厳しい財政抑制を強制するものであった。それは1997-8年のアジア経済危機の時にタイ、インドネシア、韓国が強制され、必要以上に大不況を長引かせ、多くの悲劇を生んだのである。


それを今IMFが撤回したのは過去の反省の上に立ってのことであろうか?それともオバマ政権を支える民主党系エコノミストのアドバイスに従ったものであろうか?それともラガルデ女史の個人的な哲学であろうか?


もちろんメルケルはラガルデのいうことなどには耳を貸さない。それとIMFは依然と体質は少しも変わらない、ネオ・リベラル集団のまあまである。



ユーロ地域の製造業は9か月連続で悪化、失業率も上昇(2012-5-2)

ユーロ圏の製造業購買担当マネージャー指数は3月の47.7から4月には45.9へと悪化した。これは9か月連続の悪化である。50ポイント以下は悪化を意味する。ドイツとイタリーは次の通り悪化している。フランスのみはやや上向いたが理由は不明である。米国と中国は改善傾向にあるという。
イタリーは47.9⇒43.8 これは33か月ぶりの低さである。
ドイツ48.4⇒46.2
フランス46.7⇒46.9
スペイン44.5⇒43.5

ユーロ圏全体の2012年3月の失業率は10..9%で1年前の9.9%から1.0%悪化している。これは過去15年間で最悪の数字である。スペインが最も深刻で平均の失業率は24.1%、25歳以下は50%といわれている。ユーロの引き締め策によって不況はさらに深刻化していくとみられている。


ユーロ圏ほかの最近までの失業率(%)

11/9 11/10 11/11 11/12 12/1 12/2 12/3
EURO 10.3 10.4 10.6 10.6 10.8 10.8 10.9
Denmark 7.6 7.7 7.8 7.8 7.9 7.9 8.1
Germany 5.8 5.7 5.6 5.6 5.6 5.6 5.6
Netherland 4.5 4.8 4.9 4.9 5.0 4.9 5.0
France 9.7 9.8 9.8 9.9 10.0 10.0 10.0
Spain 22.4 22.7 23.0 23.2 23.5 23.8 24.1
Italy 8.7 8.8 9.2 9.3 9.5 9.8 10.0
Portugal 13.0 13.6 14.0 14.6 14.8 15.0 15.3
Greece 19.0 19.7 20.6 21.2 21.7 n/a n/a
Austria 4.0 4.3 4.4 4.1 4.1 4.1 4.0
Luxemberg 4.9 4.9 4.9 5.1 5.1 5.2 5.2
Bergium 7.3 7.2 7.2 7.1 7.3 7.3 7.3
Finland 7.7 7.6 7.6 7.6 7.5 7.5 7.5
Poland 9.8 9.9 10.0 10.0 10.1 10.1 10.1
Sweden 7.3 7.5 7.4 7.6 7.6 7.5 7.3
英国 8.3 8.3 8.3 8.3 8.2 n/a n/a
米国 9.0 8.9 8.7 8.5 8.3 8.3 8.2
日本 4.2 4.4 4.4 4.5 4.7 4.5 n/a

資料;EU統計局(ユーロスタット)


イタリーの失業率は3月には10%になった、2004年に今の統計になってから最高記録である。15-24歳の失業率は3月で35.9%である。

ドイツの4月の失業者は19,000人増えて287万5千人になり、6.8&となったと報じられている。ただし、上表とは定義が異なるものと考えられる。



12年4月はユーロ圏の不況は一層悪化(2012-5-4)

イギリスのMarkit Economicsがまとめた購買マネージャー指数(PMI=purchasing managers index)は3月の49.1から46.9に大きく下落した。この下落傾向は2011年の10月から連続して続いている。

ECBのドラギ総裁も基準金利は1%に抑えるが、さらなる景気策が必要であるならば検討をしてもよいと、従来の「財政規律」一本槍のかたくなな姿勢をやや緩和する意向を表明した。これは5月6日に行われるフランス大統領選挙で社会党のオランド党首が大統領に当選することがほぼ確実視されるにいたり、ユーロ圏の政治的風向きが変わってきたためでもあろう。

Markitは製造業指数が3月の47.7から4月には45.9に下落し、サービス業指数も49.2から46.9に下落しており、製造業・サービス業ともに目立って悪化していると指摘している。

ドイツはサービス行は52.1から52.2へとやや上昇したが、フランスは50.1から45.2へ、スペインは46.3から42.1へと大きく下がった。

経済成長率はドイツはかろうじて横ばいであるがフランスはマイナスであり、イアtリー以下はまえからマイナスになっている。

失業率は12年3月には平均で10.9%と15年ぶりの高水準である。イギリスは1975年以来のふきょうであり、5月3日におこなわれた地方議会選挙では与党の労働党と自由民主党とが労働党に大敗北を喫した。

フランス第2の自動車メーカー・ルノーは12年1Qの売り上げは9%減少したと発表した。(以上は主にBloomberg5月4日インターネット版による)


ユーロ圏はドイツとフランスの対立が明らかに(2012-5-24)


EUのサミットが5月13日(ユーロ危機以来2年強で18回目)が5月23日ブラッセルで開催されたが、フランスのオランド大統領はドイツ主導によるいままでの危機対策はEU域内の経済危機を深刻化させており、方針の変更が必要であると主張した。

ドイツはギリシャがユーロ圏にとどまるためには先に決めた「財政削減」を達成する必要があるとし、ギリシャがそれを履行できないのであればユーロにはとどまれない(から離脱すべきであ)るという主張を繰り返した。また、スペインに対しても「不況から抜け出す速効策はない」と主張した。

オランド大統領は今までのドイツ主導の「財政削減」策ではユーロ地域の経済の安定にはつながらなかったとし、ギリシャをユーロから追放すべしというような思惑を生んだといってドイツを批判した。ユーロ共通債についても白熱した議論が戦わされ、ドイツ語圏はこれに反対し、ラテン諸国はこれを支持するという2分状態になったようである。

通貨ユーロは値下がりし、1ユーロが100円を切るまでに至った。一方ドイツ国債には人気が集まり、買われ利率は下がり続けている。

ギリシャ問題については6月17日の国会議員再選挙の結果で連合急進左派(SYRIZA)が勝てば新たな論争の発火点となろう。ギリシャのユーロ離脱のキャンペーンはドイツ主導で行われ、これが現在の世界的株価下落の主な原因になっていることは間違いない。いずれにしてもユーロ圏内の問題である。


ユーロ共通債(ユーロ・ボンド)についてはこれを発行すると財政規律の弱い国はイージーな経済政策をとるとしてドイツとフィンランドが強硬に反対した。

スペインも大きな問題を抱えている。不動産バブルがはじけ、スペインの銀行は1,840億ユーロ(18兆5千億円)の不良債権を抱えて、国家資金の投入(国有銀行バンキア=BANKIAに90億ユーロ)を余儀なくされている。財政支出の削減も目標達成が難しくなている。ただし5月23日のサミットではスペイン問題は本格的には議論されなかったという。


EUの経済は悪化の一途、ドイツも同じ(2012-5-24-2)

5月に入りEU域内の製造業・サービス業ともに景況指数が悪化している。ユーロ17か国のPMI(購買マネージャー指数)は4月の46.7から5月は45.9にさらに下落した。ドイツの景況指数は4月の109.9から5月は106.9へと下がった。ドイツ国内でもメルケルの「引き締め政策」への不満は急増し、地方選挙でキリスト教民主同盟は大敗している。

これをほとんどのエコノミストや研究機関は「ギリシャ」のせいにしているが的外れである。メルコジ路線の「財政緊縮策」がもたらした悪影響が直接出てきたのである。EU域内ではギリシャは芥子粒にもにた小国であり、それがどちらに転んでもEU全体に及ぼす影響は高が知れている。

通貨ユーロの価値も下落している。1ユーロがついにに100円を切ってしまった・

ドイツは輸出の60%をEUに依存している。オランダにいたっては90%なのである。ドイツにせよオランダにせよどちらかといえば「内弁慶」であり、域内ではやけに威張りかえっている。ドイツがそうできたのはサルコジというポチがいたためである。

フランスの労働者階級や庶民はさすがに怒ってサルコジを失脚させ社会党のオランドを大統領に選んだ。そうなるとユーロ内部はドイツはとフランス派に分裂状態になる。これからは何を決めるにせよ「ドイツ独裁」はなりたたない。

ギリシャがユーロを脱退するにせよ、させられるにせよそもそも「手続き」が決まっていない。ドイツもフランス(は特に)もギリシャをユーロ圏にとどめる方策を模索することで一致している。ギリシャ離脱論を騒ぎ立てているのはヘッジ・ファンドの手先のエコノミストとシンクタンクである。ヘッジ・ファンドにとって「波風が立つ」ことはビジネス・チャンスなのである。因果な商売である。


キプロスの危機、EUが国内銀行の預金を強制取り上げで対応迫る(2013-3-24)

2013年3月に入ってキプロスの危機が表面化し、いわゆる
「トロイカ」(EU,ヨーロッパ中央銀行、IMF)が100億ユーロ(約1兆2500億円)をキプロス政府の救済に拠出するから、キプロス政府は58億€を銀行預金から強制的に取り上げ、「自前」で用意しろと言ってきた。トロイカを走らせている御者は明らかにドイツである。

最初は10万€以下の預金に対し6.6%、10万ユーロ以上については9.9%の課徴金を科せという指令を出した。しかし、キプロスの国民の猛反発にあい、議会は賛成ゼロでこの法案を否決した。これに対し怒り狂ったメルケルは再度キプロスに対し銀行預金からの課徴金を取るように主張し、トロイカが再度走り出した。トロイカとしてはドイツの強硬姿勢には無理があると承知の上であろう。

そのためキプロス政府としては一般国民の零細預金を奪うという方法を止めて、預金10万ユーロを超えている口座から20~25%を取り上げるという方法に切り替え、再度国会に諮ることにしたようである。

ここで問題なのはキプロスはヨーロッパにおける「タックス・ヘイブン」という役割を長年はたしてきたことである。また、法人税も10%と格安である。キプロスの預金口座にはロシアの富裕階級が資金の隠し場所の一つにしてきたのである。一説によればロシアからの預金が300億ユーロあるといわれている。その20%が没収されたら60億ユーロの預金が消えてしまう(キプロス政府によっ没収される)ことになる。

怒ったプーチン大統領は「そんなことをしたらただでは済まさない」とすごんでいる。おそらくロシアからの預金は全額キプロスの銀行から引き揚げられることになるであろう。また、当然ユーロ諸国とロシアとの外交関係は悪化し、ロシアからの天然ガス供給を遮断するとか言った強硬策も考えられる。またドイツはロシアに多くのドイツ企業が投資をしており、何らかの報復措置が取られる可能性もある。

また、ロシア側が預金の大量引出という事態も予想され、それを阻止しようとするキプロス政府との紛争も起こりうる。「持ちつ持たれつ」の関係を一方的にブチ壊せば、ろくな結果が待っていないことは最近の日中関係を見ればよくわかる。

いくら不正のカネとはいえロシア人のものはロシア人のものである。ロシアに言わせればユーロ諸国の不始末をなぜロシア人に尻拭いさせるのかといったことになる。ユーロ危機のとばっちりが直接ロシアにまで及んでしまった。この大本はドイツにある。銀行預金にまでま累が及ぶというのは最近ではほとんど例がない異常事態である。そこまでユーロ危機は進行しているのである。

全ては3月25日(月)以降に明らかになるが、大口預金のカット率が20%ともなればロシア側からの反撃が新たな紛争の引き金になる。


⇒暫定合意でひとまずデフォールトは回避(2013-3-25)

キプロスのアナスタシアデス(Nicos Anastasiades)大統領はブラッセルに乗り込み、「話がつかなければ私は辞任する」あんどと脅しをかけ、トロイカ幹部と協議話重ね、キプロス第2の銀行(Laiki Bank=民衆銀行)を閉鎖する。同行の株式84%は現在国有である。優良資産と不良資産とに分けて処分する。

10万ユーロ以下の小口預金者の預金あh全国的に課徴金の対象にしない。大口預金に課徴金をかけて58億ユーロをねん出する。その際に最大40%没収される預金者が出てくるという。EUも10億ユーロの救済資金を拠出することでひとまずキプロスのデフォールトとユーロ離脱は回避された。しかし、
それは一時しのぎの「痛み止め」にすぎない。

しかし、これだけの説明ではいったい何がどうなったかは外部からはわからない。大口預金者の代表格であるロシアがどう出るかもわからない。近いうちに何らかのアクションがとられるであろう。

詳細については協議が続いており、大口預金者のロシア側の反応はまだわからない。今回強硬路線を主導したドイツに対しては他のユーロ諸国からは反発があったことは確実であり、今後のユーロ体制の運営については何らかの修正は避けられないであろう。

フランスのオランド大統領も、ドイツと歩調を合わせ「引き締め」政策に固執していることへの批判が出ており、景気悪化による失業者の増加により、支持率も低下の一途をたどっている。もうそろそろ政策転換を打ち出さないと政治危機がフランスでも起きかねない。


フランスではユーロ批判の急先鋒の右翼の国民戦線(FN)が勢いを増している。左翼もこれに同調する動きが最近活発化しているという。フランス全土で反ユーロの大合唱が起こりつつある。それはイタリー、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、キプロスへと広がりを見せている。



ハンガリー経済の危機(2012年2月18日)


ハンガリー経済は2006年あたりから急に調子が悪くなってきた。これは財政引き締め効果が出すぎたためである。消費税も引き上げられたため、民間消費が落ち込んだ。輸出は増加し、輸入が減少し、経常収支の大幅赤字は解消されたが、失業者は増加した。レーマン・ショック後の2009年にはー6.8%と深刻な経済不況にみまわれた。

2010年の選挙では国民の不満を背景に右派のFidesz党が大勝し、国会の3分の2の議席を占めるに至った。党首のビクトール・オルバン首相は国民から圧倒的な支持を得たとして次々と強権的政策をうちだし、独裁政治を行おうとしている。言論統制を強化し、批判的なメディアは許さないという態度に出ている。司法や中央銀行にも人事介入し、自分に不都合な人物の排除を行っている。

しかし、一向に経済はよくならず、通貨のフリント安は収まらず、2011年11月にはIMFとEUに金融支援を求めるに至った。政策金利は11年11月30日にはそれまでの6.0%から6.5%に引き上げられたが、12月20日にはさらに7.0%に引き上げられた。


EU諸国からはオルバン首相の強権政治への批判が強くい。国民の間にも反民主主義的な政治に対する不満が高まり、すでに国民の支持は急速に失われつつあるという。外資が敬遠するのも当然というべきであろう。国債格付け会社からの評価も低く国債は「投資適格」から「ジャンク・ボンド」のグレードに落とされている。

表H1 ハンガリーの経済指標

  2006  2007  2008  2009  2010  2011p 
実質GDP  3.9  0.1 0.9  -6.8  1.3 1.5 
 民間消費 1.7  1.1  -0.7  -6.2  -2.2  -0.7 
 固定資本形成  -2.7 3.8  2.9  -11.0  -9.7 -6.7 
 消費者物価指数  3.9 8.0  6.0  4.2  4.9  3.9 
 失業率  7.5  7.4 7.9  10.1  11.2  11.0 
 財政赤字/GDP  -9.4 -5.1  -3.7  -4.5  -4.3  4.0 
 財政債務残高  72.4 72.3  77.0  86.7  85.9  89.8 
 経常収支/GDP  -7.4 -7.3  -7.3  -0.2  1.1  1.9 
 経常収支:億ドル  -83 -99  -113  -1  14  27 

資料出所;OECD

(作業中)

EU,ハンガリーへの援助4億9500万ユーロを凍結(2012-3-14)

EU委員会はハンガリーが国家予算の規律をアッ盛らない敏江t、予定されていた4億9500万ユーロの凍結を木俣。たあdし、ハンガリーは3か月以内に予算削減措置を講じるならば再考慮の予知は残されているとしている。





EU demands more austerity after Spain and Portugal fail to cut deficits(2016-7-20)

By Alejandro López and Paul Mitchell
19 July 2016

For the first time in its history, the European Union (EU) is threatening fines and other sanctions on Spain and Portugal for failing to keep their budget deficits below the 3 percent of GDP target. Last year, Spain’s deficit was 5.1 percent and Portugal’s was 4.4 percent. This year, they are forecast to remain above the target.

The European Council of EU heads of state said the two countries, whose economies have been devastated by years of EU austerity, have until July 22 to come up with new proposed cuts.

According to Jeroen Dijsselbloem, president of the Eurogroup of euro zone finance ministers, “zero sanctions” are another possibility—that is, a symbolic penalty while more budget cuts are prepared. Paying billions of euros in fines to Brussels, instead, would only make it even harder to cut the deficit.

In pushing provocatively for deep fines against Spain and Portugal, the EU is making clear that it intends to respond to the existential crisis posed by the British vote to exit the EU by intensifying its hated austerity policies. Even as the Brexit crisis and the Italian banking crisis threaten to tear the entire EU apart, EU functionaries are insisting that the only way forward is to antidemocratically impose more attacks on the working class.

El País cited unnamed diplomatic sources who speculated that the EU’s final decision on Spain would be a “benevolent fine” and the freezing of 1.1 billion from European funds. In exchange, Spain will get one year to cut its deficit to 2.5 percent in 2017, meaning around 10 billion in cuts and tax hikes. Moreover, Madrid’s economic policy would be under EU tutelage, with Madrid forced to send a report on austerity measures every three months. Suspending the quarterly reviews would result in even higher fines and tighter controls from Brussels.

In response to threats of EU fines, Spanish Economy Minister Luis de Guindos announced on Tuesday a rise in corporate tax. It appears that, at this stage, announcing further cuts to public services and welfare would only undermine acting Prime Minister Mariano Rajoy’s talks to form a coalition government with other parties following last month’s general election.

Held six months after the previous election, it resulted once again in a hung parliament with no party securing a majority. Rajoy, whose Popular Party (PP) won 135 seats in the 350-seat Congress, is in talks with Citizens, the Socialist Party (PSOE) and various nationalist and regionalist forces. So far, none of them have promised him their support, however.

Further cuts are undoubtedly being prepared. According to the Independent Authority for Fiscal Responsibility (AIREF, an agency created as part of the 2012 bank bailout programme), Spain’s 2016 deficit will be 4 percent, well above the 2.8 percent demanded by Brussels.

José Ignacio Conde-Ruiz, vice-director of the Foundation of Applied Economic Studies, goes even further claiming that the 2015 deficit will reach 5.3 percent; if confirmed, this would mean around 24 billion in cuts and tax increases this year.

Whichever coalition of parties is cobbled together to form a new government, it will be pledged to imposing even more savage attacks against the working class. All the parties have repeatedly expressed their commitment to imposing austerity and carrying out EU dictates.

This makes all the more criminal the role played by the pseudo-left Podemos, which is not only continuing to call for a government with the PSOE, but is now willing to support the PP’s corporate tax manoeuvre. Spokesperson Iñigo Errejón said that Podemos would support the PP “As long as this tax increase pursues the protection of social services or generates sufficient resources for a different economic policy.”

EU austerity demands will further slash Spanish workers’ living standards, which have been systematically attacked since 2008 by the PSOE government of José Zapatero and then Mariano Rajoy’s PP. Three labour reforms, two pension reforms, VAT (sales tax) increases, and billions of euros in cuts at national, regional and local level have produced a social disaster.

Recent EU figures found that more than one in three Spanish children (2.6 million) are at risk of poverty or social exclusion, the highest proportion in the euro zone outside Greece. The number of part-time workers has more than doubled since 2009.

EU sanction threats against Portugal are, if anything, even more severe. Socialist Party (PS) Prime Minister Antonio Costa complained, “To propose now that Portugal be punished because its previous government didn’t take the rights steps would diminish [German Finance Minister] Schaeuble’s credibility and would not strengthen the public’s trust in the running of the euro zone.”

At the end of June, the International Monetary Fund (IMF) issued a special report, “From Crisis to Convergence—Charting a Course for Portugal”. It catalogued a list of problems: falling economic growth, low competitiveness and household savings, unemployment “still higher than it should be”, and a deeply indebted corporate sector. This is the legacy of nearly a decade of EU and International Monetary Fund (IMF) austerity policies that have shattered the country’s economy.

The IMF praised the PS government’s 2016-2020 Stability Programme, which lays out “ambitious goals for medium-term fiscal adjustment”—i.e., more austerity—but declared these should be “underpinned by permanent savings measures, with a focus on rationalisation of public wages and pensions” and further structural reforms. It warned against any “change in the direction of reforms” or “unwinding of past policies”.

Financial analysts have also pointed to the continuing parlous state of Portugal’s banks. Marc Chandler, director at Brown Brothers Harriman, the oldest and largest US private bank, warned, “The UK referendum hit an already vulnerable banking system in the eurozone. Italian banks are on the front burner, but the temperature is rising in Portugal.”

Recent reports suggest state-owned Caixa Geral de Depósitos may need a bailout of around €5 billion ($5.5 billion); Portugal’s largest private bank, BCP, requires around €2.5 billion ($2.8 billion). Problems also remain over the sale and assets of Novo Banco, which was created from the collapsed Espírito Santo bank in August 2014 and the pumping in of nearly €5 billion.

Mariana Mortágua, a deputy for the Left Bloc, which, with the Communist Party, works in the periphery of the PS, called on the government to reject the sanctions. “The most important thing is that the country unite to be able to counter and prevent such unjust and humiliating sanctions.”

Catarina Martins, the Left Bloc’s coordinator, called for a referendum on whether or not to accept the new demands. She complained that compared to Portugal, France “had the same failure, and sanctions are not even on the table”.

Like Syriza in Greece, the call for a referendum is a ploy by the pseudo-left Left Bloc to absolve itself of responsibility for its role in supporting the PS. At the recent 10th Convention of the Left Bloc, a motion to terminate the parliamentary agreement with the PS was rejected.