(2)水やり

 

「水やり三年」といわれるように、灌水技術は、園芸の中でも難しいものの代表のようにいわれています。特に鉢植えでは難しいといわれています。確かに、どんなタイミングで、どのくらい灌水するかは、慣れないうちは、とても迷うものですし、水をやり過ぎて根腐れから枯らしてしまった経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。一年草と違いバラ苗は高価ですし、一人前にするには時間もかかりますから簡単に枯らすわけにはいきません。灌水のタイミングで迷いだすと、植物へのストレスを議論する前に、人間サマのほうにストレスがたまってしまいます。もし、灌水が勘や経験に頼らずに確実に行える方法があったら、特に初心者にとっては朗報でしょう。私はそれが存在すると考えています。

鉢植えにしろ地植にしろ、一般にいわれているのは、「土が乾くまで待ってから水をやれ」です、待つ時間は植物によって違うようです。あるいは「新芽の先がちょっと萎れるくらいになってから、水をやれ」などとおっしゃる方もいます。しかもその灌水量は、鉢底までしっかり水が抜け、鉢土内の空気が入れ替わるように、一度に大量の水をやれといわれています。

はたして、植物にとって、これはありがたいことなのでしょうか?

植物にとってみれば、周期的に湿ったり乾いたりする土壌は、その乾湿の振幅がある限度を超えたら居心地の悪いものになるのは、明らかです。湿り過ぎれば根が窒息しますし、乾き過ぎれば枯れてしまうわけですからあたりまえのことですが、はたして葉先が萎れるほどまで水やりを控える必要があるのでしょうか? ここで議論したいのは、植物を枯らさないための灌水ではなく、ストレスを与えない灌水なのです。

一般に植物は、萎れ始めるまでのタイミングに対して早めに灌水するほど、生育量が大きくなる傾向があるといわれています。ただし、過湿によるリスクも同時に増えてきます。では、そのリスクを最小に抑えれば早めの灌水が効果的なのでしょうか?

 

次の問題は、灌水量です、鉢植えで一回の灌水量を多くする理由は、

(1)鉢土内の古い空気を追い出して、新しい空気と入れ替える
(2)鉢土内部および表面に集積した塩類や、根から出た老廃物を洗い流す

といわれていますが、(1)は毎日灌水できる夏場はいいのですが、それ以外の季節ではあまり意味がありません。鉢土内のガス組成は、根の呼吸に伴って24時間周期で変化するからです。さらに問題なのは、空気の入れ替えが一番必要なとき、つまり鉢土内の二酸化炭素濃度が最大のときは同時に呼吸量も最大だということです。このタイミングで土内の水分量を最大値まで増加させることは、同時に土内の空気量を最も減少させること、つまり呼吸そのものを妨げる恐れがあるということです。

次に(2)ですが、正常な灌水をしていれば、鉢土内に不要な塩類(肥料の残滓)が残ることはないと考えて良いと思います。このようなことが起こるのはハウス栽培のように限られた灌水しか行われていない場合です。鉢植えではむしろ頻繁な灌水による肥料の流亡そのものが問題になるでしょう。また、根からの分泌物や有害物質は、短時間の水流であっさり除去できるものではなく、地植え同様、じっくりと浸みこむ水で除去していくのが本筋ではないでしょうか?

以上、総合すると、一回に多量の灌水をする根拠はそれほど確固としたものではないことがわかります。

そこで結論。

私が支持するのは、十分に通気性を確保した用土で点滴灌水(Drip Irrigation)を行うことです。しかし、本当の意味での「点滴」灌水は、種々の面でなかなか困難なものがあります。そこで、「点滴」とまではいきませんが、タイマーを用いて一定時間比較的少流量でゆっくり灌水する方法が考えられます。この方法の利点を以下に挙げます。

  1. タイマーによる完全自動化が容易に実現できる
  2. 灌水量が節約できる
  3. 葉や花を濡らさないので病気が出にくい
  4. システムを工夫すれば液肥やりまで自動で行える
  5. 雨の日だろうが晴れの日だろうが関係なく放って置ける
    (これはつまり、土の乾き具合に関係なく、一定間隔で灌水して良いことを意味します。この事実はすでに商業園芸の世界で確認されていますが、素人にとっては画期的なことではないでしょうか)
  6. おまけですが、薬剤散布の前には十分な灌水が必要なことを御存じですか?薬害の予防に有効なのですが、早朝に散布する場合には、その前日の夜か、散布の数時間前には灌水しておく必要があります。早起きしたくない人には、自動灌水のありがたさが身にしみるはずです。 

要は、呼吸を阻害しない限りにおいて、過湿にならない程度に湿らせぎみにしておいたほうが生育が良いということです。ただし、これには十分な通気性をもつ土の選定だけでなく、適切な鉢の選択が重要なことは言うまでもありません。


GAMIの自動(手抜き?)灌水システム

写真1

ご参考までに、私の灌水システムを紹介します。タイマーは松下電工製の自動水やりタイマー(EY4100−H)(写真1)です。水道栓とのつなぎは、洗濯機用の耐圧ホースを使用して漏水のリスクを低減しています。

タイマーの出口からは、普通の耐圧ホースで、分岐栓(写真2)までひっぱり、分岐栓からは内径4mmのビニールチューブで、各鉢まで配管します。出水部は、ソークホース(側面に微細な穴が無数に開いており、そこから水がしみ出すホース)を使用するのが理想的ですが、価格が高いので、写真3に示すように、熱帯魚用のエアーストーンを利用しています。ここから、水がじわっとしみ出すわけです。

 写真2 分岐部分
               写真3 出水部分 
               


おまけ

灌水の話をするためには、土中の水の動きについての描像をしっかり頭の中に作っておく必要があります。そのために専門家はいろいろな物理モデルを作り上げました。そのなかに、土中での水のエネルギーについて量的に示す方法があります。いわゆるpF値をつかって、土中水分の状態を表現する方法で、pF値を測定する器具も開発されています。

近いうちに、pF値について若干の解説を行いたいと思っていますが、その前にまずアマチュア用のpF値チェッカーをご紹介します。二千円以下で購入できる簡易版ですが、灌水のタイミングを見るのに便利なものです。


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