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Rose Muscosa Multiple
Redoute, Pierre Joseph


(1)植え方


「鉢植えの植え込みの際には、重めの鉢土をぎゅうぎゅうに詰め込むとよい。そうすると、根は頑張って伸びようとする」とか「地植えの場合には植えた周りを、よく踏み固めるとよい」という説明を聞かれたことはありませんか?これは、バラに無用なストレスを与え、虚弱にする手っ取り早い方法です。たぶんこういう説明をされる方は、化学農薬大量使用型の栽培をされているのではないかと推察されます。薬づけでない株の本当の姿を見れば、このような植え込み方が誤りであることは、一目瞭然なのですが...(事実、私のところでは「ぎゅう詰め」とそうでない株を比較し、生育に明らかな差が出ています。農薬づけでは、その差が悪い方に圧縮されて、見えなくなるのでしょうか?)

 

なぜこの植え方がダメなのでしょうか?それは根が窒息するからです。

勝手な推測ですが、どうも「ぎゅう詰め」を良いと考える根拠は次のようなことではないでしょうか。

  1. 植え込み直後から根と土のなじみを良くする
  2. 土と根との接触がまし、水や肥料の吸収がよくなる
  3. 根の根性が発揮され(?)、根張りが良くなる
  4. 土が植物体を安定に保持できる
  5. 決まった鉢の容量内で詰め込む土の量が増える

これらは、はたして正しいのでしょうか? 次に述べるふたつの点から考えてみましょう。


(A)根と水分吸収

土は細かい粘土粒子や有機質からなっています。簡単のために、これらを一緒にして微細な粒子と考えることにします。我々が普通目にする土の粒は、それほど微細には見えませんが、これは土粒子同士が有機質で接着され、多くのすきまを含む大きな塊になっているからです。では、水はこの粒子集団や塊のどこに保持されているのでしょうか?

理科の時間に毛細管現象というのを習ったと思いますが、これは水が微小なすき間に捉えられる現象でした。土の場合も、水は土粒子の間の微小な間隙に保持されていますが、この場合の微小間隙の大きさは、3〜75ミクロン(1ミクロンは千分の1mm)となっています。詳細は略しますが、これより大きなすき間では水は保持されずに流れてしまい、これより小さなすき間では、水が粒子に強くくっつき過ぎて離れないのです。したがって、植物が自由に利用できるのは、この範囲のすき間に存在する水のみということになります。

さて、次に根の大きさに着目してみましょう。我々が通常目にする根の太さは、細いもので100ミクロン(0.1mm)程度でしょうか。しかしこれでは、先の微小間隙には入れません。つまりこれでは、根は水を吸えないのです。では実際はどうしているのでしょうか?学校の生物の時間に、根の先端には「根毛」というのがある、と習ったのを御記憶と思います。これは、根先端部に近い表皮から発生する、非常に微細な根ですが、その直径は5〜17ミクロン、長さは80〜1,500ミクロンくらいといわれています。この根毛が先のすき間に侵入して水を吸うのです。根毛は消耗が激しく、数日間で枯死します。したがって水分の吸収は次々と生えてくる根毛によって継続されることになります。

(B)根と呼吸

土の中の酸素は、根が自分自身を維持するだけでなく、水分や養分を吸収するためにも不可欠なものです。根が呼吸していることはご承知と思いますが。土の中の善玉・悪玉の微生物も同様に呼吸しています。したがって、土の中の酸素と二酸化炭素の入れ替えは、大変重要な問題なのです。通常の大気では酸素は21%、二酸化炭素は0.03%程度含まれていますが、極端な土壌中では、酸素は数分の一に減少、反対に二酸化炭素は100倍以上に上昇することがあるといいます。

土の中のガスの交換は、拡散によっています。つまり、ガスは土の粒子のすき間を染み出すように徐々に移動していくわけですが、この移動速度は空気孔隙つまり土粒子間のすき間間隔の2乗に比例するとされています。赤玉土のような非常に大きい粒からなる土なら、このガス交換は容易に行われると想像できますが、ぎゅう詰めにできるような、粒子の細かい粘土主体の重い用土(庭の土など)を、さらに圧縮した場合の空気孔隙を想像すると、どうなるかは、もう明らかでしょう。

根の生育は、根の呼吸が妨害されない環境で良好になることは実験で確かめられています。なお、「根腐れ」といわれる現象の多くは、過湿によるものといわれていますが、これは過剰の水が土壌中から空気を追い出してしまうために生じるもので、結局は呼吸阻害が原因と考えられています。


ここまでくると、「ぎゅう詰め」説のどこがおかしいか、お分かりになると思います。いくら土を圧縮しても、根毛が生育しない限り、根と土はなじみようがないのです。ところが、圧縮した土は根の呼吸を阻害し、根の発育を妨げるのです。したがって、「ぎゅう詰め」法では、水分や養分の吸収を促進することはできません。かろうじて、植物体をささえるのには貢献しますが、健康にすることはできないのです。なお、根の「根性」についても、以上の説明から、おかしい点が見えてきます。もし、ぎゅう詰めの土の中で根が根性を発揮するとすれば、それは酸素を求めて必死に伸びているのかもしれず、植物にとっては拷問に等しいのです。植物を擬人化することは、時に本質を見失わせます

以上のことから、植物にストレスをあたえない植え込み方が見えてきました。
それは、土をいれたら絶対に押し込まない、踏み固めないということです。鉢への植え込みで、根の下に大きな空洞があいてしまって土が入っていかないような時には、鉢を軽く地面に打ちつけて、土の回り込みを促すこともあるでしょうが、そのあたりが限度です。そのかわり、必ずしなければならないのは「水ぎめ」で、これをすれば、土は自然に収まるところに収まるのです。これでも安定に植わらないほど根量の少ない苗や小型の鉢は使わないことです。

なお、バラを保持するための支柱も忘れずに。地植の場合も、剪定等で地面を踏み固めた後は軽く表面を耕すくらいの配慮が必要でしょう。

要は、チャペックの言うような、「クッキーズのように多孔質で、パンのようにあたたかで、軽い上等の土」、「ベーコンのようにこってりしていて、羽根のように軽くて、ショートケーキのようにボロボロくずれやすい土」の効能を殺してしまうような使い方はどんなもんでしょうか? ということです。


よけいなおまけ?

実際にはチャペックが言うほどの「軽い、フワフワの土」は大袈裟ですが、本当に良い鉢土は、1年間でその量が減ったように見えます。これは土が締まったからだけではありません。粘土分が3割程度で、残りを主に堆肥や牛糞などの良質な有機質で構成した土は、有機質の分解によって体積減少を起こすので、植えて1年後には結局、土の量が減ったように見えるのです。粘土分は減っていませんから、目減り分の追加には堆肥等の有機質を用います。粘土主体の「重い土」では、このようなことは起こりませんし、締まっていく一方ですから、毎年土換えしなければ生育がおかしくなるのです。

 

さて、最近この件に関する新説があることを教えてもらいました。

「バラは木だから重い土の方がいいんだ」という説だそうです。これは、一般的な木本性植物には言えるようですが、バラの場合はどうでしょうか? GAMIなりに考えてみました。

まさしく分類上では、バラは木ですが、同時に恐ろしく生育の速い木です。一般的な木ならば、その生育速度からして「草」のような代謝は必要ではないでしょう。しかし、バラのように一シーズンで十倍以上のサイズに成長する植物を、分類上「木」だからといって一般の木と同様に扱うのは、そもそもピントがあっているのでしょうか? 根の呼吸量は、その植物の代謝量で決定されます。分類で決定されるわけではありません。

「木には重い土がよい」という理由をGAMIは正確には知りませんが、その一つは、大きな地上部を支えるために、しっかりと根を固定する必要があるからではないかと思っています。木は草のように、簡単に変形して風を受け流すことができません。従って草よりもしっかりと土壌に固定される必要があります。また、その成長速度は草より遙かに遅いので、おそらく単位根量あたりの呼吸量は草よりずっと小さいはずです。

これらから損得のバランスを考えれば、木は草の場合よりも重い土が有利と考えられます。しかし、草なみの生育を示すバラの場合には、このリクツが成立しないのが明白です。それゆえに、ベテランは通気性の良い土だけでなく、地上部をしっかり固定する支柱が必須だとうるさく言うのではないでしょうか。つまり通気性の良い土では機械的な根の固定が十分とは言えないために、支柱が一層重要になるのですが、残念ながら入門書では、この土と支柱の不可分性は強調されてはいないようです。

なお、バラは水が好きな植物です。一般的な草がpF値2.3程度でよく育つのに対し、バラの最適地はpF値1.8程度と言われています。(pF値の物理的説明は省略しますが、この値が小さいほど、土は水っぽくなると考えて下さい。) 重い土が良いという説の本当の理由は、じつは重い粘土質の土の方が水がたまりやすいために、結果としてそこそこの結果が得られたからではないかと推定しています。つまり水っぽい土による怪我の功名かもしれないのですが、一歩間違うと根ぐされというリスクをかかえていることにかわりありません。

また、良い粘土は保肥力に優れていますので、運良くこれに当たればさらに良い結果が得られるかもしれません。しかし、良い粘土ならともかく、質の悪い粘土の保肥力は、とても褒められたものではありません。どっちの粘土か初心者には区別が付かないでしょうから、これらのことをもって、安心して一般化できるほどのものとは言えないでしょう。

重い土を主張している人の中にも、、通気性が本当に重要とわかると、たとえば鉢土全部を粘土質で重い土のぎゅうづめではやはり具合が悪いことに気づき、かわりに下の方に重い土を詰め、上には通気性を確保するための資材を追加した土を詰める方法を編み出した人もいるとか...。

なるほどと思いますが、根が下部の土に張っていれば息苦しい事情は同じことですし、このように性質が不連続の土では根の生育がおかしくなることは経験的によく言われていることです。おそらくこの場合、根は上半分の土に集中してしまうでしょう。地植えで地下水位が異常に高い場合と同じようになるのではないでしょうか。

もっとも、ひとくちに「重い土、重い土」と言ってる人の土も、実際は畑の土だったり、通気性改善資材がけっこう含まれていたりしたりで、口で言うほどには重くない例が多いように思えます。だから実際には、慣れている人の場合はあまりメチャクチャな結果にはならないのでしょうが、ポイントが明確でない舌足らずなコトバを真に受けた初心者にホントに粘土ばっかりの土を使わせて、失敗(根ぐされ等)を誘発させるのは目に見えています。

水分コントロールは水やり次第でどうにでもなりますし、保肥力は、堆肥や有機質の補給で十分大きくできます。一方、通気性は人為的にはどうにもできません。これらをご理解いただいている読者には、ここまでの議論から粘土質の土のぎゅう詰めが本質的に有利かどうか容易に判断できると思います。

コトの本質を十分におさえないと、議論の本質からはピンボケの前提(「バラは木だ」)(「木には重い土がよい」)の組み合わせから、おかしな推論を経て、ヘンな結論(「バラには重い土」)に至ることがあります。

今回の場合は、この結論でも一応の結果を出せることもありそうですが、その本当の理由は上記のように「重い粘土質の土は水がたまりやすい」にあると考えられ、土の重さそのものとは関係ないと理解できます。従って、適切に水分コントロールされ、十分な保肥力を備えた通気性の良い土には、やはりかなわないだろうということも容易に想像できるでしょう。

このように不適切な前提とヘンな論理の組み合わせから発生する命題を一般的に「迷信」と呼びますが、一度できあがってしまうと盲目的に信じる人が追随して拡散していくもののようです。

最後にひとこと逆の例。

バナナの「木」やヤシの「木」は、実は分類上は「草」です。でも、だからといって軽い土に植えたらどうなりますか...ヾ(^^;)


cover

カレル・チャペック、「園芸家12カ月」、中公文庫

チェコの生んだ最も著名な作家カレル・チャペックは、こよなく園芸を愛した。彼は、人びとの心まで耕して、緑の木々を茂らせ、花々を咲かせる。その絶妙のユーモアは、園芸に興味のない人を園芸マニアにおちいらせ、園芸マニアをますます重症にしてしまう。無類に愉快な本。(「BOOK」データベースより)

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