肥料 2001.08.08


おまたせしました。やっと肥料のページをUPいたします。このサイトのことですから、ただ「窒素・リン酸・加里」を、たっぷりの有機肥料でまかないましょうなどという話ではすませません。そのために掲載までちょっと時間をいただきました。日本のアマチュアバラ園芸の世界でGAMIが抱いている疑問のひとつがNPKだけしか考えない肥料の問題だったのですが、そのどこが問題なのかがやっとみえてきました。バラに「偏食」させてたんですねぇ..ヾ(^^;)
まだいまいち検証不足なのですが、多くのご要望をいただきましたので、現時点では、とりあえず私見と言う形で暫定UPです...


 

鉢に植え付けた2年目の株の葉っぱにシワがよったり、波打ったり、ひどいときには色が薄くなったり変形したりした経験はありませんか?
鉢植えはもちろん地植えでも、何年かたつとシュートの出がいまいちの株はありませんか? あるいは、水切れでもないのに、急激に成長しだした株の下葉が急激に黄変したり落葉したりしたことは?

もともとよく肥えた畑の土や山の土を使っていれば、このようなことは起きにくいと思います。しかし、市街地でガーデニングしている人が利用できるのは、ホームセンターから購入した土や資材をもとにした鉢土であったり、園芸のことなど全く考慮されず、どこから持ってきたかわからない建て売り住宅の庭土だったりします。

そんな土を使っている人は、きっと次のような疑問につきあたるはずです。

●どんな入門書にも、肥料の三要素として、窒素・リン酸・加里が載ってますし、これだけしか書いてない本がほとんどです。まるでNPKだけしっかり施しておけば万事うまく行きそうに錯覚させる書き方がめだちます。本だけでなく、ベテランを自称する一部の先輩の話でも、やっぱり同じです。そもそも市販肥料にはこれらの比率しか書いてないですが、ホントにそれだけで十分なのでしょうか?

●最近の有機栽培ブームはバラ栽培にまでおよび、化学肥料よりも有機肥料の方が有利だとあらゆる場所で言われるようになりました。たしかに、我々アマチュアが用いる場合、正しく用いれば有機肥料の方が有利な点が多いと思います。が、しかし、それはなぜなんでしょうか?


よく言われるのが、有機肥料は土を肥やすからというのがあります。有機肥料は土中の微生物によって分解されてからバラに取り込まれますが、その際、微細物の餌ともなって土中の微生物層を豊かにします。同時に、分解過程で生じた各種の物質がバラの生育に有益だと考えられているからです。

それは確かに説得力がある考えと思いますし、GAMIの経験からしてもその通りとだとは思います。

しかしGAMIは、それだけでは最も重要でかつ基本的な有機肥料の特質が抜け落ちているのではないかと考えるようになりました。それは肥料を考える場合にもっとも重要なことなのですが、残念ながらGAMIの知る限り、これをきちんと指摘している(日本語の)入門書や、(ホンモノはともかく)「自称ベテラン or 自称プロ」の発言には出会ったことがありません。

以下、基本に立ち戻って、この問題を考えてみましょう。


(1)バラにはなにが必要か?


人間が食事するときになにをどれだけとればよいかは、栄養学の教えるところですが、その基本になるのが、食事のどの成分が、エネルギーとなり、体の構成要素となるかを知ることです。バラの場合にはどうなるのでしょうか。

まずエネルギーを考えると、その源泉となるのは人間同様、炭水化物です。植物の場合は、これが光合成で作られるわけですが、その原料となるのが二酸化炭素と水であり、これらが光エネルギーによってグルコースに変わるというのは理科の時間に習ったとおりです。

いってみれば、光合成は光のエネルギーを物質の形に固定するきわめて効率のよいプロセスです。この光エネルギーを効果的に変換する装置が葉緑体ですが、これが植物の緑色のもとというのもご存じの通りです。

ちなみに、葉緑体は主に赤色と青色付近(特に赤付近)の光を吸収して光合成を行います。葉っぱが緑色をしているのは、光合成には不要な波長の光を反射するからですが、それが緑や黄色に相当する波長領域なのです。また、波長の短い紫外域の光は光合成には利用されません。それどころか、やっかいものの紫外線による活性酸素の害から自分を守るために、植物はビタミンCを自ら合成していると考えられています。

余談ですが、不思議なことに光合成に必要な光は緑だとか紫外線だとかいってる「自称ベテラン」にときどき遭遇して、一瞬ノケゾることがあります。「緑」というのは葉っぱの色からの連想でしょう。「紫外線」というのは、化学作用からそう思ったのでしょうか? どちらも直感だけの思いこみがいかにいいかげんなものかの好例です。


(2)何が必要か?...それを知るためには、まずバラはどんな元素から構成されているのか知る必要があります


人間をスクラップにして、「材料」として売るといくらになるか?という話がありますが、たしか二束三文だったはずです。入れ歯(金)や人工骨(チタン)などがあれば別ですが、もともと生まれたままの人間はそんなに高価な材料を使っていないのです。


同じ事を根から吸収する要素に限ってバラの場合を調べてみると、下の表のようになります。やっぱりタダ同然ですが、少なくともここに示された元素は間違いなくこの量だけ根から吸収する必要があったことは明白です。

●葉の成分含有率の許容範囲

多量要素(H、C、Oをのぞく五成分)好適濃度(%)
微量要素好適濃度(ppm)
成分元素
Ca
Mg
Mn
Fe
Cu
Zn
Carlson
(1966)
3.2〜4.0
0.2〜0.3
1.5〜1.8
1.0〜1.9
0.28〜0.34
300〜900
80〜100
20〜40
10〜14
40
Sadasivaiah
(1973)
3.0〜3.5
0.28〜0.34
2.00〜2.50
1.0〜1.6
0.28〜0.32
70〜120
80〜120
40〜60
7〜15
20〜40
 Carlson,W.H. and E.L.Bergan, Leaf analysys guide for rose fertilization.Penn. Flow. Grow. Bull. 188,7-8, 1966
 Sadasivaiah,S.P. and W.D.Holly, Ion balance in nutrition of greenhouse rose, Rose Inc. Bull. suppl., Nov., 1-27,1973
 なお、1ppmは0.0001%です。ですから上表の微量要素は、ホントに微量だということが分かります。 

さて、この表を見て、ほとんどの方が意外に思われたのではないでしょうか。
三大要素と考えられているNPKが、予想したほどに多くはないではないですか! というより、主要な成分はCa、Mgまで含めた五大要素と考えるべきということがわかります。


中量要素として知られているCaとMgは実はかなり含まれているということです。それは当然でして、例えば(1)でお話しした光合成の主役となる葉緑素の分子の中心をなす元素がMgなんです。だからMg不足になると葉の緑が薄くなりますし、そもそも成長できません。このほか、Mgには数々の役目があります。


さて、ではこれらの要素を過不足なくバラが取り込むためにはどのような配合比の施肥が必要なのでしょうか。これに関して参考になるのが、プロの水耕栽培の技術です。 水耕栽培には「土」は使いません。ロックウールなど土の代わりになるものを使うのが一般的なようですが、この場合は土のような高い保肥力を考慮する必要はないと思います。したがっていわゆる土の緩衝能は効いてこないはずです。

つまりバラは循環している養液中に溶けている肥料成分を素直に吸収していると考えられます。 その養液の組成例を示したのが次の表で、ロックウール栽培用処方の代表例です。

中量要素がいかに多く使用されているかがよくわかります。一方、我々の土を使った栽培の場合にも、根は接触している土壌水に溶けた肥料成分を吸収しているのですから、やはりその正しい組成はこの表から大きくはずれていては具合が悪かろう事が想像できます。

●代表的なバラの培養液                                                                

成分
愛知花卉研バラ処方(愛知農総試、1997)
NH4−N 10%(冬用)
NH4−N 8%(夏用)
NO3 (me/l)
12.5
11.0
NH4

1.3

1.1
H2PO4
3.0
3.0
5.5
5.0
Ca
7.0
6.0
Mg
2.0
2.0
SO4
2.0
2.0
Fe (ppm)
2.00
Mn
0.50
Zn
0.20
0.25
Cu
0.05
Mo
0.05

 

上記例からも、三要素におとらぬCa、Mgの重要性が分かります。

では、このような養液から、どの程度の肥料分が実際に吸収されるのでしょうか? かけ流しロックウール栽培での例を下表に示します。

単位:元素成分量 kg/10a・年
Ca
Mg
施肥量
107.5
17.3
131.5
76.5
18.6
排出量
25.1
2.1
46.4
28.4
9.0
吸収量
76.3
14.2
81.3
44.3
9.0
培地内
6.1
1.0
3.8
3.8
0.6
滋賀農試(1992)   


我々のバラでも、このうちNPKは当然のことながら、従来の施肥で足りているはずです。また、Caも有機・無機にかかわらず石灰などを施用することが多く、不足する恐れは少ないと思います。しかし、Mgは一概にそうとは言えないのではないでしょうか?

有機肥料なら、量の過不足はあるかも知れませんが、これらの成分はともかく含まれているはずです。しかし、化成肥料や有機配合肥料をメインにした場合は、中量以下の要素は不足しているケースが多々あると考えられます。

ベテランの中にも、日本の土は基本として火山灰土なのでミネラル類が不足することはないという人がいます。しかしNPKだけの施肥では、上記例から帳尻を考えれば、微量要素ならともかく遅かれ早かれMg不足になるのが時間の問題なのは明らかです。出ていく一方なのですから...

実際、酸性雨の影響などで酸性化した畑土壌のミネラル不足が深刻化しているようですから、他人事ではありません。

 

(3)...では、Mgを補給するにはどうすればいいでしょうか

さて、そこで質問です。100gあたり下表の成分を持つ物質はなんだか当ててみて下さい。

タンパク質
Ca
Fe
Na
Mg
Zn
Cu
13,200
46
1,500
6.0
5
1,800
1,000
6,200
620

単位:mg   

 

ちょっとタンパク質(N)とZnが高めですが、タンパク質は分解されて主に窒素としてはたらきますが、その場合の正味の窒素量はずっと少なくなります(最終的にはおそらく数%)。それ以外の成分は、このままでバラの肥料としてよさそうです。特に、Mgの含有量の高さとNaの低さが好ましいようです。

実はこれは「米ぬか」です。「生」で使う場合は、高含有のタンパク質が分解するために根に直接接触するような施肥は控える必要がありますが、GAMIの経験では地表面に施す分には全く問題ありません。ただし、この場合も一度にたくさん施すと地表面で固まりウマくありません。少しずつやってください。

目安量は、〜10号鉢で、大さじ1〜2杯/回、地植えで、カップ1〜2杯/回です。土の表面に散布してから、ごく表面のみに混ぜ込むようにします。散布後は腐葉土・バーク堆肥などでマルチしておくといいようです。 現在に至るまでのその土の状況によって、効果が出るまでのトータルの施用量は異なってきますので、回数は様子を見ながら調整が必要です。

残念ながら実験でキチンと定量的に検証することは出来ていませんが、GAMIの経験からは、葉の様子がおかしい(変色、変形等)、シュートが出ない、病気になりやすい等の原因のかなりの部分が、このMgをはじめとするミネラル類の不足に起因していると思えます。植え付けて2年目以降で土替えしていない鉢植えからシュートが出にくくなったり、春に葉の変形が目立つ場合には特に有効です。お試しください。

なお、米ぬかには豊富なビタミンBが含まれていますが、これは発根促進作用があるとされています。当然、土を肥やすという意味で有機肥料としてのメリットも多く働いていると思われます。

参考までに、米ぬかを発酵させた肥料(EM米ぬかペレット)の成分例を下表に示します。効き方は「生」ほどではありませんが、やりすぎても大事にならないのが利点です。

 

窒素全量
リン酸全量
カリウム全量
石灰全量
苦土全量
2.88
4.78
2.37
0.37

1.47

単位:%    

 

さて、ナーセリーの説明書や一部の本には、牛糞(一般の場合、木質混合牛糞と思われる)を多量に施すと良いと書かれています。京成バラ園などでも実践しているようですが、これは土質改良と同時に、通常の施肥では不足しがちなMgの供給源になっていると考えられます。

牛糞の成分を見てみましょう(下表)。これを10kgも施せば、十分なMgが供給できるのは明らかです。

(乾物あたり)
多量要素(五成分)(%)
微量要素(ppm)
 
Mg
Ca
Zn
Fe
Mn
乾燥牛糞 (1)
2.1
2.3
2.6
0.46
1.18
32.9
1,304
58.4
発酵牛糞 (1)
2.1
1.3
2.4
0.43
1.23
41.5
588
64.4
木質混合牛糞 (2)
1.66
1.70
1.59
0.75
1.91
     
   (1) 農林省農業研究センター平成10年度 研究成果情報(総合農業) 、(2) JAいるま野、飯能農業改良普及センター    

 

このように、施肥は、「肥料」として施すもの以外にも堆肥や土質改良資材として与えられたものまで含めて、その収支を考えないとイケません。「肥料」と「改良資材」という言葉に惑わされた一面的な見方しかしないと、実体が見えなくなります。そもそも、そんなコトバで分類してるのは人間の都合であって、正確に実体を表している保証などありません。

経験を積んだ人は、牛糞や堆肥を大量に施すのが良い結果を生むと経験的に知っています。そして、それは単に土をよくする(これも非常に抽象的でよくわからん表現ですが...)という一言では片づかないということでしょう。

 

現在、GAMIは不耕起栽培を行っているので、株の周囲を掘り返して大量に牛糞を入れるようなことはしていません。そのかわりに、地表面への小刻みな施肥を繰り返しています。この方が、一番花の花の異常もなく、安定した生育をするようです。地植えの場合は、あまり頻繁に施肥するのはめんどくさいので、1〜2ヶ月ごとに、米ぬかと粉末状の配合ボカシ肥料を混ぜて施しています。

 

(4)もっと強力にMgを補給するには

米国では、シュート発生を促すために多量のMgを施肥します。日本でよくいわれる窒素(硫安)ではありません。使用するのはエプソム塩(硫酸マグネシウム、地植えでカップ1〜2杯)だそうです。施肥タイミングは当然のことながら芽出し期から用いられます。

ただ、硫酸マグネシウムは、日本では試薬級のものを薬局で入手するのが簡単ですが、値段が高く実用的ではありません。もちろん肥料用もありますが、多すぎて運ぶのが大変です。農協等で購入できる幸運な方はお試しください。

そこで、どこのアマチュアでもバラ用に使用できるものを探してみると...

こんなのがありました、微量要素もバランスよく含まれていて、しかも水溶性なので効果が出るのも早そうです。

含有成分値例(%)  (コロイド珪酸を除き各成分とも水溶性)

苦土(MgO)

Mn
ホウ素
亜鉛
モリブデン
コバルト
コロイド珪酸
14.00
0.40
0.30
2.00
0.02
0.03
0.004
0.004
16.00

これは。商品名「ハイグリーン」と呼ばれるミネラル補給用の肥料です。

どこで手にはいるかって?GAMIも一所懸命探しました。ハイグリーンはお米に使ってる人が多いようで、バラではどうかな〜っと思ってましたが、灯台下暗し、なんと伊丹バラ園で通販してるじゃないですか...ヾ(^^;) 

アマチュア向けに、1kgからの販売です。さっそく入手して試しましたが、極めて良好。まる3年以上土替えしてないのでイマイチだった鉢植えからバンバンシュートが出て満足満足でした..ヾ(^^;)

伊丹バラ園 TEL 0727−81−2906、2970

なお、ネット上で調べたところでは、バラ会の中でもこの肥料を施肥プログラムに組み込んでる方がいらっしゃるようです。さすがバラ会の方は研究熱心ですね。一部の経験オンリーのガーデンローズ系「ベテラン」のなかには バラ会のやり方を意識的にケナす人がいますが、施肥に関してよく考えている点では、むしろキチンと原理原則に則った知識に立脚しているバラ会メンバーに軍配が上がるようです。


この施肥のバランス問題は、土や灌水にも関連してきます。バランス良い施肥を行うことにより、例えば植え方の項で問題にした、「一般的な通気性・排水性を重視した土での植え方」 vs. 「水持ちだけを考えた(つもりの)重い土のぎゅう詰め」の優劣がさらにはっきりと出ることがわかってきました。これについては次の機会に...


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