Movie Review 2013
◇Movie Index

世界にひとつのプレイブック('12アメリカ)-Feb 26.2013ヨイ★
[STORY]
妻の浮気現場を目撃して心を病んでしまったパット・ソリータ(ブラッドレイ・クーパー)は、病院を退院して実家に戻ってきた。父(ロバート・デ・ニーロ)と母(ジャッキー・ウィーヴァー)は妻のことは諦めるよう諭すが、パットは復縁することしか考えていない。そんなある時、友人からティファニー(ジェニファー・ローレンス)という女性を紹介される。彼女もまた夫を亡くして心を病んでいた。
監督&脚本デヴィッド・O・ラッセル(『ザ・ファイター』
−◇−◇−◇−
原作はマシュー・クイックの同名小説。
第85回アカデミー賞では、作品・監督・主演の男女・助演の男女・脚色・編集の8部門でノミネートされ、ローレンスが主演女優賞を受賞した。

監督の前作『ザ・ファイター』のウォード家の人々が全員おかしくて、でも最後に一致団結して息子の試合に臨むところがメチャクチャ面白くて爽快だった。本作もその構図はちょっと似ている。ソリータ一家全員ヤバイ(笑)妻の不貞を目撃して病んでしまったパットが時々キレてしまうのは分かる。でもそんなところを目撃してもやっぱり妻と復縁したいと願うのには理解できなかったな。そういえば予告で流れてた「My Cherie Amour」がまさかパットのトラウマ曲だったとは。改めて聞くといい歌だなぁなんて思ってたのに、今後は聞くたびにパットを思い出すだろう(笑)

話は逸れてしまったが、パットの両親がこれまた強烈。父は仕事を辞めてスポーツ賭博にのめりこんでおり、パットが試合を見れば勝てると信じて彼を引き入れようとする。息子に固執する姿を見て、パットが妻に固執するのは遺伝なのかなと思ったり。母は夫のやることを諌めるでもなくすべて受け入れるし、パットの兄は唯一まともか?と思ったらやっぱり似たようなもんで、乱闘の場面で一番先に手を出す兄貴を見て「お前もか!」と思ってしまった(笑)

そんな一家に引けを取らないティファニー。パットの父を言い負かすシーンを見て、これはアカデミー賞受賞だわ!って確信したものだ(正解)この役をやるには若すぎるって懸念もあったようだけど、若くして結婚してすぐに夫を亡くして自暴自棄になったって感じのジットリした目をしていて、ピッタリだった。ティファニーの姉も姉の夫もちょっとおかしいし、ホントにマトモな奴が1人も出てこねぇ〜(笑)そのマトモじゃない奴らが最後にダンス大会で一致団結する。ダンスの得点が出た時には、ベタだなぁと思いながらも一緒に喜んじゃった。しかしあの審査員の中の一番左の人もちょっとおかしかったぞ。いいのかその感性で(笑)細かいところも笑わせてくれるわ。

構造が似ていると書いたけど映像は違う。『ファイター』は画面が粗くて泥臭さがあったが、実在の人物を描くからあえてそうしてリアルさを出したのだろう。対して本作は綺麗な映像で、ストーリーも出来過ぎ。登場人物も全員狂ってるけど(笑)洗練されている。だけどこれはフィクションだからと、堂々とあえてそうしているんだろうな。その違いがまた面白いと思った。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ムーンライズ・キングダム('12アメリカ)-Feb 17.2013
[STORY]
1965年アメリカ、ニューペンザンス島。ボーイスカウトのキャンプ地から少年サムが脱走した。隊長のウォード(エドワード・ノートン)は隊員たちと捜索をするが見つからないため、シャープ保安官(ブルース・ウィリス)に連絡する。一方、ウォルト(ビル・マーレイ)とローラ(フランシス・マクドーマンド)の娘スージーも家出をする。サムとスージーは1年前から文通をしており、2人が駆け落ちしたことが分かった。
監督&脚本ウェス・アンダーソン(『ダージリン急行』
−◇−◇−◇−
脚本は『ダージリン急行』と同じくアンダーソンとロマン・コッポラが共同で執筆し、第85回アカデミー賞で脚本賞にノミネートされた。

本作の時代は1965年で脚本を書いた2人がティーンエイジャーだった頃をモチーフにしているのかなと思って調べてみたが、アンダーソンが1969年でコッポラが1965年と生まれる頃の話だった。親や上のきょうだいの影響なのか分からないが、いつもにも増して小道具などにこだわりが感じられ、この時代のファッションやカルチャーが特別好きなのかもしれない。

『ダージリン』で今までより動きのある映像が増え、それまでのスタイルを少しずつ変化させていくのかな?と思ったのだが、本作では左から右へスライドしていく彼独特の映像を多用していて『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』に原点回帰?したように感じた。スージーは大きな家に家族と住んでいるものの、家の中ではバラバラで、妻のローラに愛人がいるところも似ている。

そんな家族の中で1人孤独を感じていた少女が天涯孤独の少年と出会って駆け落ちをするのだが、今回はこの2人がしっかり中心にいるので、『テネンバウムズ』より纏まりがある。スージーを探す家族とサムを探すボーイスカウトたち、そして保安官。この保安官を演じたブルース・ウィリスがとてもよかった。サムを子ども扱いせず質問に対して正直に答えるし、最後の彼の決断にはグッとくる。サム役のジャレッド・ギルマンは、最初は「こんな子が駆け落ち?!」ってミスキャストに思えたんだが(メガネでパッとしなかった)だんだんその妙な大人っぽさがカッコよく見えてしまった。最初はスージー役のカーラ・ヘイワードのほうが大人っぽく感じたけどそれは見た目だけで、1人で生きてきたサムのほうが精神的には大人。このまま2人が仲良く成長していってほしいって思ってしまった。

そのほかのキャラクターはやっぱりちょっと記号的だったかな。特にウォルトの影が薄すぎ。ナレーション担当で物語にもちょこっと出てくるボブ・バラバンのほうがよっぽども記憶に残った。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

レッド・ライト('12アメリカ=スペイン)-Feb 16.2013
[STORY]
マーガレット(シガニー・ウィーバ)と助手のトム(キリアン・マーフィー)は大学で物理学を教える傍ら、霊現象や超能力の嘘やインチキを暴いていた。そんなある時、かつて一世を風靡した伝説の超能力者サイモン・シルヴァー(ロバート・デ・ニーロ)が活動を再開する。トムは彼のインチキも暴こうと動き出すが、危険だからとマーガレットから止められる。
監督&脚本ロドリゴ・コルテス(『[リミット]』)
−◇−◇−◇−
コルテスの前作『[リミット]』は劇場で見そびれてしまって後でDVDで見たんだけど、NintendoDSの脱出ゲームをやってバッドエンドになった時みたいな感じが(笑)でも場面転換なしで最後まで飽きさせずに映画1本作ってしまったところが凄い。ただオチがちょっと分かりにくくて、この『レッド・ライト』もそうだったんだけど、そこが惜しいなと思ったのだった。

巷に溢れる自称霊能力者・超能力者VSインチキを暴く物理学者との攻防を描いた作品で、トムたちは次々とインチキを暴いていく。中には有名なインチキもあるんだろうけど、私は詳しくないからネタバレを見て素直に「すごーい」と感心してしまった。よく考えるよなぁ。トムがシルヴァーの身辺を調べていく間に起こる不可解現象も怖かったし、終盤まではホント面白かったんだ。

でもせっかく盛り上がってたのにトムが暴行を受けるシーンが長すぎて飽きてしまった。何であんなにしつこく見せたんだろう。観客にハラハラさせるためだとしたら私には効果なかったな。逆にもういいよ、ってうんざりしちゃった。さらにオチそのものはいいんだけど、見せ方がいまいちで「そうだったのか!」っていう驚きがない。公式サイトに『謎解き映画5選』というのが掲載されてて、それが『セブン』『ユージュアル・サスペクツ』『シックス・センス』『裏切りのサーカス』『メメント』ってまるで私が選んだかのようなラインナップ(笑)だけど、これらの映画ってオチの見せ方が上手かったんだなぁって、本作を見て気付かされたわ。せっかく面白いストーリーでも、映画はやっぱり映像で伝えないとね。エンドクレジット後の映像も、もうちょっとだけ分かりやすく見せてほしかったし。

でも『LOOPER/ルーパー』のライアン・ジョンソンと同じく、オリジナル脚本で勝負する人は今後も応援したいと思う。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ダイ・ハード/ラスト・デイ('12アメリカ)-Feb 16.2013
[STORY]
ジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)の基に、音信不通だったの息子ジャック(ジェイ・コートニー)がロシアで殺人容疑で逮捕されたという知らせが届いた。ジョンはすぐにロシアに向かい息子と会おうとするが、裁判所でテロが起こり、ジャックと元大物政治家のコマロフ(セバスチャン・コッホ)が姿を消した。ジョンは息子を追いかけ再会するが、そこを武装集団に襲われる。かくして2人は行動を共にするが・・・。
監督ジョン・ムーア(『エネミー・ライン』)
−◇−◇−◇−
“世界一ついてない男”ジョン・マクレーンが主人公のシリーズ5作目。
タイトルに“ラスト”と書いてあったので、これでシリーズ最後か〜と思っていたら原題は『A Good Day to Die Hard』どこにもラストなんて書いてねぇし(笑)ちょっと寂しいなんて悲しんで損した。どうやら今後は“世界一ついてない親子”としてシリーズを続けるらしい。こうなるといつまでも続けられるよなぁどうせならジョンに孫ができて一緒にドンパチしてくれ(笑)

前作『ダイ・ハード4.0』ではジョンの娘ルーシー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)だけが登場したが、本作ではその弟が登場。このシリーズはパート1と2ではジョンが孤軍奮闘し、パート3からは事件に巻き込まれた男がジョンと行動を共にしサポートするようになるという展開だった。それが本作では2人して派手なアクションで暴れまくる。ジョンなんて息子を心配してやってきた父親ってレベルじゃない。下手すりゃ息子死んでんじゃないか?(笑)いくら舞台がロシアだからって破壊しすぎだろう。しかもチェルノブイリまで出すとは。ストーリーはドンデン返しの連続で飽きなかったけど、ちょっと引っ掛かるところがあった。

これが新シリーズ第1作でゆくゆくはジャックをメインに、と考えているだろうというのは見ていて感じた。本作の敵の最期が1作目の敵の最期とそっくりで、ひょっとしたらこれが今後のシリーズの伏線になっているのかもしれない(パート3がそうだったからね)しかしジャックは今のところ真面目で面白味がない。すごいイケメンというわけでもないし、かといって茶目っ気があって可愛いところがあるわけでもない。父ちゃんのキャラを超えるのは難しそう。父ちゃんが動けるうちは頑張ってもらって、その間に父ちゃんのガッツと野生のカンとも言うべき鋭さと、そして窮地でも冗談を言えるタフさを身に着けてもらいたい。次回作でちょっとでもそれが見えたら、シリーズも見続けられそうだ。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

二郎は鮨の夢を見る('11アメリカ)-Feb 2.2013オモシロイ★
[EXPLANATION]
ミシュランで三つ星を6年連続で獲得している寿司店『すきやばし次郎』の店主である小野二郎は85歳の寿司職人。彼の生い立ちと寿司へのこだわりと、彼の2人の息子たちを描いたドキュメンタリー。
監督デヴィッド・ゲルブ(『A Vision of Blindness』)
−◇−◇−◇−
『すきやばし次郎』にはもちろん行ったことがない(笑)でも初めてミシュランを獲得した時に、ビルの地下にあってカウンターしかなくてトイレも共同、そんな店がどうして選ばれたの?かなり疑問を持たれたことはよく覚えている。だからこの映画を見るとそれが分かるかもしれない、と思って見てみることにした。

そうしたら思いのほか感動してしまったのだった。監督のデヴィッド・ゲルブはメトロポリタン・オペラの総帥であるピーター・ゲルブの息子で、私は全く知らないが凄い人の息子なのだそう。その彼が『次郎』の寿司に感動して小野二郎と寿司を撮りはじめるわけだが、自分と同じく偉大な父を持つ長男の禎一に対しても尊敬と共感の目で追っていく。他の監督だったら、二郎にしか目を向けなかったんじゃないかな。私はカメラが次第に禎一に心を寄せていくところに感動したのだった。

確かに二郎は伝説の寿司職人と言っていい人だ。コースの寿司1つ1つを見せていくシーンがあるのだが、美しくてまるで芸術作品みたい。きっと口の中でシャリがほどよくほどけ、ネタとのバランスも絶妙なんだろうとなぁと想像できてしまう寿司だ。その二郎の息子・禎一だって相当の腕を持つだろうに父親とどうしても比べられてしまうし、本店の店主は既に二郎から禎一に代わっているのに、二郎がメインで握っている。それを気の毒がる人もいて、映画でもそういうインタビューが挿入されているが、私は禎一が前に出られないのではなく、単に親孝行をしているんだと思った。父親に劣等感を持っていたり勝てないと思っていたら、自分が店主の店に父を出すなんてしないと思うんだよね。自分だけでもやっていけるけど、父親には死ぬまで自由に、気が済むまで握らせてやろうっていう余裕を感じるのだ。もちろん、まだまだ父親から教えて貰わないとという気持ちもあるだろう、だから買い出しや下拵えもきちんとやる。その姿が立派だなぁとさらに感動したのだった。

ゲルブがこの映画を撮るきっかけを作ったのは料理評論家の山本益博なのだが、私はこのオッサンのこと料理に薀蓄たれてるだけの人だと思ってたのね(笑)でも本作では『次郎』の寿司のこと、二郎や息子たちのことを的確に解説していて、映像とインタビューの足りない部分をしっかり補う存在だった。誤解してましたすいません。見る目が変わったわー。

そんなわけで映画にいたく感動した私は『すきやばし次郎』に行ってみたくなり、行きましたよ!といっても本店も次男・隆士がやっている六本木店も高くて行けないんで、リーズナブルな日本橋へ。やはり見た目は美しいしネタとシャリのフィット感は素晴らしい。けど、一部で批判されているシャリの強い酸味、私もダメでした。穴子みたいに甘いネタなら美味しいんだけど、他はちょっと。以前やはり奮発して行った『久兵衛』のほうが好きだわ。でも映画が良かったのには変わりはないな。
home