Movie Review 2013
◇Movie Index

アルバート氏の人生('11アイルランド)-Jan 26.2013
[STORY]
19世紀アイルランド、ダブリン。アルバート・ノッブス(グレン・クローズ)は、ホテルのレストランで住み込みのウェイターとして真面目に働いていた。なるべく人との接触を避け、静かに暮らすアルバートには実は秘密があった。それは女性であることを隠し、男性として生きてきたこと。だがある時、仕事に来たペンキ職人のヒューバート(ジャネット・マクティア)を自分の部屋に泊めることになってしまい、そこで自分が女であることがバレてしまう。だが、ヒューバートも男と偽っている女性だった。
監督ロドリゴ・ガルシア(『愛する人』
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原作はジョージ・ムーアの短編小説『The Singular Life of Albert Nobbs』で、1982年にクローズが舞台化したものにクローズが出演。その後、30年かけてクローズは映画化するため行動し、製作・共同脚色・主題歌の作詞を担当し、キャスティングやロケハンまで自ら行ったという。
第84回アカデミー賞では、主演女優賞(クローズ)と助演女優賞(マクティア)メイクアップ賞の3部門にノミネートされた。

監督のガルシアは女性の機微を伝えるのが上手くて私は好きな作品が多い。この映画の予告も、少しの映像でも丁寧に撮っているのがよく分かったのできっと素晴らしい作品に違いないと楽しみにしていた。でも本は見終わった後、心にぽっかりと穴が開いてしまったような感じ。この時代に女が1人で生きていくことがどんなに過酷なことか、それをまざまざと見せつけられた作品だった。アルバートの人生にそれが集約されているが、映画だから最後はやっぱり幸せになるところが見たかった。最近は歳のせいか(笑)いい気分で映画館を出たいっていう気持ちが強くなっている。これは空しくて悲しいだけだった。ヒドイ映画!ってムカつくほうがまだマシかも。

アルバートは自分と同じような境遇のヒューバートが幸せに暮らすのを目の当たりにして、自分も家族を持ちたいと思うようになる。そこまでは理解できたんだけど、メイドのヘレン(ミア・ワシコウスカ)に固執するところからちょっと理解できなくなった。デートで物をねだられている時点で気が付けよ、と思ったし、ヘレンにジョー(アーロン・ジョンソン)という恋人がいることが分かってからもまだ諦めないところで何だかもう・・・。今までずっと慎重に生きてきたのに何故ここにきて愚かと言える行動を取るようになってしまったのか違和感が。演じているクローズがクレバーな人というイメージでずっと見てきたから、ついそれとも重ねてしまって、ちぐはぐな印象を受けてしまった。

映画としての出来は悪くないし映像は綺麗、でも話が好きじゃない。そういう映画でした。
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テッド('12アメリカ)-Jan 19.2013
[STORY]
1985年ボストン郊外。友達がいないジョン・ベネット少年は誕生日に両親から贈られたテディベアのテッドを可愛がり、テッドと喋れるようになればいいと願うと、何とそれが叶ってしまった!テッドは瞬く間に有名になり、テレビに出演したりと大人気となる。それから20年以上がたち、ジョン(マーク・ウォルバーグ)もテッド(声:セス・マクファーレン)も中年となり、休日には2人でマリファナを吸いながらビデオを見る生活を送っていた。
監督&脚本セス・マクファーレン(初監督作)
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見た目は可愛いクマのぬいぐるみが登場するが、内容が過激なため各国でR指定を受けている映画。日本でもR15+指定で、劇場にはテッドのポスターとともに“15歳以下の方は保護者同伴でも鑑賞できません”と書かれていた。まぁでも過激ってのを抜いても『フラッシュ・ゴードン』や『トップガン』など1980年代の映画を見ている世代の男性がターゲットの映画だと思った。

出会ってからずっと一緒で、親友というよりは兄(テッド)と弟(ジョン)みたいな関係の2人。おそらく悪い遊びは全部兄貴のほうが先に覚えたんだろう。しかし見た目が可愛いクマじゃなければ、しつこくてうんざりする男だと思う。そう、例えばセス繋がりで『50/50 フィフティ・フィフティ』でやはり主人公の悪友を演じたセス・ローゲンがテッドを生身のままで演じるところを想像してみよう・・・ウゼェ!ムカつくーーー!生理的に無理!(笑)しかしこれがクマだとムカつくことはムカつくんだが、ちっちゃいしモフモフだし眉毛ハの字だし・・・ちくしょう可愛いじゃねーか!ってなってしまう(笑)

負け惜しみじゃないが、その可愛さを十分に計算に入れた上で、ギリギリ許せる範囲のエロさや下品さを盛り込んでいるっていうのが感じ取れた。テッドとジョンの友情と、ジョンと恋人ロリ(ミラ・キュニス)の恋愛についてはヘンな捻りを入れず王道の展開を選択しているのもちゃんとバランスを考えてだろうし、アドリブかと思うようなセリフの数々やラストの後日談なんて超適当に思えるが、これらもきちんとマクファーレン本人が観客にどう思われているか分かってて作ってそうなんだよね。映画は初監督といってもTV番組の企画や製作をずっとやってきた人だから、自分の作品を客観視できてるのかも。

カメオ出演のライアン・レイノルズはマクファーレンと友達なのかな。無愛想なホモなんて役柄与えたりして(笑)と思ってたらアメコミの『グリーン・ランタン』の初代主人公がゲイっていう設定だったのか。レイノルズが演じたのは二代目だからゲイじゃないが、これも適当に役を作って与えたわけじゃないんだな。きっちりした人だ。
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LOOPER/ルーパー('12アメリカ)-Jan 14.2013
[STORY]
2044年。ジョセフ・シモンズ(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は未来の犯罪組織の依頼で、過去にタイムトラベルしてくる標的を処理する“ルーパー”と呼ばれる殺し屋だ。だがある時、処理することになったのは30年後の未来からやってきた自分自身(ブルーズ・ウィリス)だった。驚いたジョセフは油断して未来の自分に逃げられてしまう。ルーパーが処理を失敗すると組織に消されてしまう運命。ジョセフはすぐに彼を追いかけるが・・・。
監督&脚本ライアン・ジョンソン(『ブリック/Brick』
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ライアン・ジョンソンのオリジナル脚本で、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞などで脚本賞を受賞。
主演のジョセフ・ゴードン=レヴィットはブルース・ウィリスに似せるために特殊メイクを施されている。

私がジョセフ・ゴードン=レヴィットを初めて知ったのは『ブリック/Brick』だった。見た目はヒョロいメガネ君なのにタフなキャラクターで、高校生の話なのにハードボイルドな内容で面白かった。その次の作品(『ブラザーズ・ブルーム』)は見てないんだけど、自分でストーリーを作り出して監督する人は応援したくなる。

タイムトラベル映画を見る時は、よっぽどもヒドイかアンフェア過ぎる場合でなければ多少のタイムパラドックスは気にしないようにしている。本作もそれについては気にならなかったし、アクションやバイオレンスシーンが生々しくて、タイムマシンが出てくるという非現実的なものが出てきてもリアルに感じられた。なのに、この時代の人間の一部にはTK(テレキネシス)が備わっているという設定が出ちゃった時には思わず「え?」ってなってしまった。何かそれを出しちゃうのは何でもアリっつーかちょっとズルイなと。

見終わって「ああ、こういうラストにしたかったから、こういうストーリーを作ったのね」って一応納得したけど、ちょっと話をいじりすぎたんじゃないかな。もう少しシンプルでもよかった。
タイムトラベル映画のお約束、この騒動で未来の歴史が変わってしまうわけだが、今後、世界がどう変わっていくのかすごく気になった。『ブリック/Brick』を見た時もそうだったけど、映画で見せていない部分も気になったり想像してしまったりする映画っていうのは、ストーリー、キャラクター、世界観などがそれだけよく考えられた話ってことなんだと思う。
それにしてもシドを演じた子(ピアース・ガノン)の演技が凄まじかった。どうやって演技指導したんだろうなぁ。
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トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 2('12アメリカ)-Jan 5.2013
[STORY]
出産で命が危うくなったベラ(クリステン・スチュワート)はエドワード(ロバート・パティンソン)によってヴァンパイアに転生した。だが、2人の娘レネズミは驚異的なスピードで成長し、彼女がヴァンパイアを滅ぼす“不滅の子”である疑いが出てきてしまった。レネズミの存在を恐れたヴォルトゥーリ族は彼女を殺そうとやってくるという話を聞いたベラたちは、対抗策として世界中にいるヴァンパイアを仲間にしようとする。
監督ビル・コンドン(『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』
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原作はステファニー・メイヤーの小説でシリーズ5作目。『ブレイキング・ドーン』は2部構成で本作で完結。
(過去の映画は『トワイライト〜初恋〜』『ニュームーン/トワイライト・サーガ』『エクリプス/トワイライト・サーガ』『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part 1』

まずは全作すべて映画化した会社と出演した役者たち、そして自分を誉めてあげたい(笑)途中「もう見なくてもいいかも?」って思ったこともあったわけで。思い返してみると、1作目が一番よかったんじゃないかな。2人が出会って恋に落ちるというシンプルさが。
作品を重ねるごとに一応スケールが大きくなっていくんだけど、見てるほうからするとショボい(苦笑)今回も、ベラが生んだ娘レネズミがヴァンパイアを滅ぼす恐ろしい存在かもしれないという噂が世界中を駆け巡り、娘の命が危なくなるというストーリーなんだけど、まず緊迫感がない。そしてベラたちの動きにスピードもない。しかもヴォルトゥーリ族との戦いを回避する方法というのが、世界各地にいる他のヴァンパイアたちに「レネズミは怖い子じゃないよ」って証言してもらうことなんだと。ティーン向けの話だからしょうがないんだけど、なんか幼稚というかお花畑というか。日本の少女漫画でも人間の女の子と悪魔や妖怪、ヴァンパイアの男の子との恋愛を描いたものがたくさんあるが、そっちのほうがアクションシーンが過激だったりして出来がいいんじゃないか?とすら感じてしまった。

本作もクライマックスでようやく激しい動きのあるシーンが始まり「おおっ!」と思ったら、まさかそういうオチになるとは!あれは原作通りなんでしょうか。あそこで劇場がザワついたのが一番面白いところでした(映画の内容じゃないのかよ)
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レ・ミゼラブル('12イギリス)-Jan 4.2013
[STORY]
19世紀フランス。パンを盗んだ罪で投獄され、脱獄を繰り返したために19年間も監獄にいたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)にようやく仮出獄の許可が出た。だが再び盗みを働いてしまい警察に捕まるが、司教に助けられてこれからは人のために生きようと決意する。やがて名前を変えて市長となるが、町にジャベール警部(ラッセル・クロウ)が赴任してきてしまう。一方、彼の工場をクビになり病に倒れたファンテーヌ(アン・ハサウェイ)から娘コゼットを託されたジャン・バルジャンは、コゼットを引き取り育てていくが・・・。
監督トム・フーパー(『英国王のスピーチ』
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原作はヴィクトル・ユゴーの小説を、アラン・ブーブリルとクロード=ミシェル・シェーンベルクがミュージカル化したものを映画化。ミュージカル初演時のジャン・バルジャンを演じたコルム・ウィルキンソンは本作では司教を演じている。

私は子どもの頃にうっかり原作の『あヽ無情』の童話版を読んでしまい、しばらくショックが抜けなかった。何が一番ショックだったかというと、パン1個盗んだだけで何十年も投獄されなきゃならなかったってところ。今思えば何度も脱獄して捕まり刑期延長なんてアホな男、で済んじゃう話だけど(笑)当時はめちゃくちゃ怖くて、絶対に盗みは働いちゃいけないって誓ったのと(これはまぁいい教訓になった)警察も泥棒もコエエー!ってなって昼夜かまわず家じゅうの鍵をガチガチにかけて親に怒られたり、夜眠れなくなったのだった。

だから舞台が大ヒットしようが私は今まであえて避けてきた。でも本作はキャストが豪華だったし監督も『英国王』の人だし、自分もそろそろトラウマを払拭したいという気持ちがあって、勇気を出して見てみた。私が一番嫌いだったパンを盗むところと何度も脱獄するところはバッサリ切られてて、出獄するところから始まったので思わずホッとした。その先も、本ではジャン・バルジャンを執拗に追い詰めるジャベールがやたらと怖かったのに映画では歌うせいか怖さ半減。演じたラッセル・クロウも顔は怖いけど全体的には迫力不足に感じた。もっと細くてギスギスした人が演じたほうがよかったんじゃないかな。ぽっちゃりしすぎ(笑)しかしこれでトラウマは払拭できたと思うのでラッセル・クロウにはある意味感謝している(笑)

読んだ本は童話だったからファンテーヌのことはほぼ触れられず、ABCや暴動もこともあんまり書かれてなかったと思う。私の記憶もあやふやなんだけど、コゼットが幸せになって終わったような?だから「ああ、これってこういう話だったんだー」ってところも多々ありました(笑)
司教がジャン・バルジャンを庇うところ、ガブローシュの死、ジャン・バルジャンの最期がすごくよくて、ボロボロ泣いてしまった。歌もいい歌がいっぱいだった。予告でも流れたファンテーヌの「夢やぶれて」エポニーヌの「オン・マイ・オウン」それと最後に全員で力強く歌う「民衆の歌」も感動した。歌すらも今まで避けてきたから(スーザン・ボイルのもあんまり聞かなかった)世界中で大ヒットしたのがようやく分かった。やっぱりそんなに好きな話じゃないけど、見てよかったと思う。
歌は事前に録音したものではなく、実際に演技しながら歌ったものを使っているのが本作の目玉だが、今後はこの手法がミュージカル映画のスタンダードになりそうだ。
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