Movie Review 2011
◇Movie Index

塔の上のラプンツェル('10アメリカ)-Mar 27.2011サスガ★
[STORY]
森に囲まれた高い塔の上に住むラプンツェル(声:マンディ・ムーア)は、生まれてから一度も切ったことがない長い髪を持つ少女。母のゴーテル(声:ドナ・マーフィ)から外は恐ろしい世界だから絶対に出ないように言われ、18年間1度も外に出たことはなかった。しかし毎年自分の誕生日になると夜空に現われるたくさんの光の正体を確かめることを夢見ていた。そんなある時、追っ手を逃れようと塔に侵入してきた泥棒のフリン(声:ザカリー・リーヴァイ)を捕まえ、自分を塔から連れ出し、光の場所まで案内させることを約束させる。そしてラプンツェルはついに外の世界へ飛び出した!
監督 ネイサン・グレノ&バイロン・ハワード(グレノは初監督。ハワードはアニメ『ボルト』を監督)
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グリム童話『ラプンツェル』を元に脚色され、『Tangled』というタイトルで製作された3Dアニメーション(タイトルの意味は「こんがらがった」ラプンツェルの長い髪の毛と、複雑に絡まったストーリーの2つの意味でつけられたと思われ)
ディズニー・クラシックスの第50作目にあたり、主人公ラプンツェルは白雪姫から数えて10人目のディズニープリンセスとなる。

これぞディズニーアニメ!という王道なつくりの映画だった。はずさないねぇ〜。好奇心旺盛でチャーミングなプリンセスと、彼女の唯一の友達はコミカルなカメレオン、彼女を利用する魔女や悪党ども――。ただし、彼女と恋に落ちるのは王子様ではなく大泥棒ってところが今のディズニーらしいかな。

さらに現代的だと思ったのは、ラプンツェルとゴーテルの関係。生まれたばかりのラプンツェルを攫ってきて自分の娘として育て、ラプンツェルの髪の毛に宿る不思議な力によって若さを保ってきたゴーテルは、ラプンツェルを言葉巧みに18年かけて束縛してきた。そのやり方は精神的DV、家庭内モラルハラスメントそのもの。塔の外に出ることは悪いことだ、母親に対する裏切り行為だと言い聞かせてきた。だからラプンツェルはフリンと一緒に塔から出た時、最初はおおはしゃぎだったが、その後は罪悪感に苛まれ落ち込んでしまう。今までのディズニープリンセス映画だったら落ち込むシーンなんて描かず、ただ外の世界を能天気に満喫するシーンしかなかっただろう。アニメなので多少大げさな表現にはなっているが、ラプンツェルとゴーテルの会話なんて細い針でチクチクされているような不快感タップリでリアルだと思った。逆に、今はこれくらい人間らしいキャラクター作りをしないとお人形さんみたいだの何だのクレームがつくんだろうなぁ〜大変だなぁ〜とも思ったり。

ラプンツェルとフリンのロマンチックなシーンや、ラプンツェルが本当の両親と対面するシーンはこっちもウルウルしまくり。こういう感動的なシーンを作るのは本当に上手い。そして敵から逃げたりするアクションシーンもさすがの臨場感。ただ1箇所だけ現実に引き戻されるシーンがあった。それはダムが決壊して大量の水がラプンツェルたちを襲い、溺れて死にそうになるシーン。震災前だったら普通にハラハラドキドキな気分で見られたんだろうけど・・・息苦しくなって眩暈までしてしまった。震災でナーバスになっている方は、間を置いてから見たほうがいいかもしれない。
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ブンミおじさんの森('10タイ)-Mar 20.2011
[STORY]
タイ東北部の村。腎臓病を患うブンミ(タナパット・サイサイマー)は、自分の死期が近いと感じ、死んだ妻の妹ジェンと親戚のトンを自分の農園に呼ぶ。夜、3人で食事をしていると突然女性の幽霊が現れる。それは19年前に亡くなったブンミの妻フエイだった。そしてしばらくすると、今度は行方が分からなくなっていたブンミの息子ブンソンが猿のような姿で現れる。やがてブンミたちはフエイに導かれるように森の中に入っていく。
監督&脚本アピチャートポン・ウィーラセータクン(『トロピカル・マラディ』)
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第63回(2010年)カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で出品され、タイ映画初のパルムドールを受賞した。

いつものミーハーな気持ちでパルムドール受賞作品ということで前売券を買ったものの、自分の体調不良やら地震やらですぐには見に行けず、でも前売券を無駄にしたもったいないと余震を恐れつつ見に行った。私は携帯の電源をちゃんと切っていたが、切らないまま映画を見ていた人がいたようで、映画の最中に緊急地震速報の着信がブンブン鳴りビクッとした。逃げたほうがいいのか?途中だけど映画止めちゃうのかな?などと考えながら身構えていたが結局揺れは来なかった。退席しちゃった人もいたけど私は最後まで見ました。

・・・まぁ退席しちゃった人の気持ちも分からんではない。怖いってのもあるけど、最初から最後まで「ナニコレ?」な映画だったもん。フランス映画やイラン映画の不可解さ不条理さには慣れてきた私だったが、これはそれを遙かに超えていましたよ(笑)チラシや予告でカンヌの審査委員長を務めたティム・バートンの言葉が必ず載っているのだが、今読むと「これはバートンの好みで選んだ映画だからね」って念を押されているように見える。パルムドール受賞作品だから上映しないわけにはいかないし、スルーすれば上映を求める抗議活動なんか始まっちゃうかもしれないし、苦しいところだよね。

確かにバートンが言うように、私たちはハリウッド映画などの予定調和に慣れすぎてしまっている。不可解なところがあっても最後は上手く纏まるんだろうと勝手に思っていたが、この映画はそんな固定観念をあっさりとぶち破ってくれた。まさかあんなラストだとは。あのラストの解釈についてはちょっと考えたてみた。(ここからネタバレ)ブンミと一緒に森に入ったジェンとトンも実は森で一緒に死んでしまった。最後に出てきたのは幽霊だった。生きている人間も死んでいる人間も同じ世界にいるんだよって言いたいのかな?(ここまで)理由付けすること自体、ハリウッド映画に毒されてて間違ってることかもしれないが、このままでは落ち着かなくて気持ち悪いのであえて書いた。それは見る側の自由だよね。
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英国王のスピーチ('10イギリス=オーストラリア)-Feb 27.2011スバラシイ★
[STORY]
英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男ヨーク公アルバート(コリン・ファース)は幼い頃から吃音で人前で話すことを苦手としており、吃音を克服するため何人もの言語聴覚士の治療を受けるが全く改善できずにいた。そんな夫を心配した妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、スピーチ矯正の専門家というオーストラリア人のライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)に望みを賭けた。彼はヨーク公を家族しか呼ばない愛称“バーティ”と呼び、風変わりな訓練を始める。そんな中、ジョージ6世が亡くなり、国王に即位した兄エドワード8世(ガイ・ピアース)が、離婚暦のある女性と結婚するため王位を返上してしまう。ヨーク公はジョージ6世として即位することになる。
監督トム・フーパー(『くたばれ!ユナイテッド サッカー万歳!』)
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現女王エリザベス2世の父ジョージ6世の史実を元にした作品で、30年以上前から映画化の企画はあったものの、2002年に亡くなったエリザベス王大后(ジョージ6世の妃)が、自分が生きている間は公にしてほしくないと許可しなかったため、当時は見送られた。
第83回アカデミー賞では12部門でノミネートされ、作品賞・監督賞・主演男優賞・脚本賞を受賞した。

公開前から非常に楽しみにしていた作品で、私の中では「これはきっと大好きな映画!」と確信していた映画だった。実際見てみてその予想はやはり大当たりでDVDは絶対買う!と決めたほど気に入ったのだが、正直言ってアカデミー賞はないな、と思っていた。『ソーシャル・ネットワーク』のほうが有力だと言われていたし、映画にしてはちょっとショボいかな・・・と感じたところもあったので(一番それを感じたのは戴冠式をリハーサルだけ撮って、本番のシーンは本物の記録映像を流したところ。戴冠式の本番を撮るとなると相当時間もお金も掛かっただろう)スケールの大きさだけ見れば出演者が豪華なTVドラマと言えなくもないと感じたのだった。

でもその役者たちの演技は最高だった。特にコリン・ファースとジェフリー・ラッシュの息の合った演技。クライマックスの演説シーンなんて、狭くて暗い部屋でたった2人きり、ただ原稿を喋るだけというシーンなのに、危険なアクションシーンよりもずっと緊張して息をするのを忘れてしまったほど。終わった直後は自分まで何だか達成したような気分になり思わず涙ぐんじゃったし(笑)ローグがスピーチにちょっとケチをつけるところがあるんだけど、その時のジョージ6世の切り替えしがユーモアたっぷりで、泣いた後にふと笑わせるところも上手い(この時のやりとりは脚色ではなく、実際にあった会話だったらしい)この2人の仲の良さに王妃役のヘレナ・ボナム=カーターが嫉妬!というのがネタになったらしいが、これはネタにもしたくなる(笑)

少しもダレることなく1時間58分すべてが見どころで、本当に2時間あった?と思うほどあっという間に感じた。脚本がとにかく素晴らしいんだけど、実際はジョージ6世とローグはもっと前に出会っていたとか史実と違うところもあるが、あえて変えたという監督の手腕もなかなかのもの。監督賞も「ないだろうなぁ」と思っててすいませんでした(笑)
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ナルニア国物語 第3章:アスラン王と魔法の島('10イギリス)-Feb 25.2011
[STORY]
ペペンシー家の次男エドマンド(スキャンダー・ケインズ)と次女ルーシー(ジョージー・ヘンリー)は、両親と兄姉が先にアメリカへ渡り、いとこのユースチス(ウィル・ポールター)の家に預けられていた。だがユースチスはエドマンドたちに意地悪で、居心地の悪い思いをしていた。そんなある時、壁に掛けられた船の絵が動き出して部屋は水浸しになり、3人は溺れてしまう。やっとの思いで海上に出た3人はナルニアの海に辿り着いていた。そしてナルニアの王となったカスピアン(ベン・バーンズ)たちが乗船する朝びらき丸に助けられる。
監督マイケル・アプテッド(『007/ワールド・イズ・ノット・イナフ』)
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原作はC・S・ルイスの『ナルニア国物語』の第3作目にあたる『朝びらき丸 東の海へ』
1作目は『ナルニア国物語 第1章:ライオンと魔女』2作目は 『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』
前2作を手掛けたアンドリュー・アダムソンは本作ではプロデューサーとなり、製作は前2作を手掛けたウォルト・ディズニーから20世紀FOXに代わっている。

本作はナルニアの危機のたびに現代(といっても第二次世界大戦中だけど)から子どもたちが呼ばれて危機を救うという話なので、他のファンタジー映画みたいにいいところで終わる話ではなく一応区切りがあるし、伏線を張っているわけでもないので、2章まで見ていたけど「続きが気になる!」という映画ではなかった。そんなわけで、予算の都合等で第3章までの三部作を予定していたディズニーが撤退を発表しても、残念だけどしょうがないかという軽い気持ちしかなかった。特に好きな役者が出ているわけでもなかったし。それが引き継いでくれる会社が現れ、同じキャストで製作してくれたのは何より。しかも3Dで。

ただ、実際に映画を見てみるとやっぱり上に書いたように軽い気持ちしか持ってなかったんであまりストーリーにのめり込めなかった。しかも今回は船で島を巡って7人の貴族が持っていた剣を探していくという話で、1つの島で目的を達成したら次の島へ移動するというパターンのため、移動のたびに一旦集中力が途切れてしまう。しかも起こる出来事はさほど盛り上がらない。それを思うと『パイレーツ・オブ・カリビアン』のシリーズって詰め込み過ぎで疲れるけど飽きさせないよう頑張ってる映画だったんだなと改めて感心してしまった(笑)まぁ対象がお子さん向けだから刺激抑え目に作ったんだろうけど、それならあのラスボスは何なんだ!リアルに作り過ぎ!子どもなら夢で魘されること間違いなし。『パイレーツ』だってあんなの出てこないよ。ディズニーだったらあのクリーチャーにOKは出さなかったんじゃないかな。

いまいちなところばかり書いてしまったけど、リーピ・チープと子どもたちとの別れのシーンはとても良くて、このシリーズで初めて涙が出た。あと2作目ではそんなにいいと思わなかったカスピアンも、今回は髭を生やして)髪を無造作に纏めた姿が男らしくていいと思った(もしかしてケツアゴが隠れてたからよかったのか?!)やっぱり存在感はあんまりなかったけど(笑)

今回せっかくユースチスを登場させたので、『銀のいす』を元にした続編は見てみたい。ジルに美少女、リリアン王子に美少年をキャスティングすればヒットするかもよ!(笑)
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洋菓子コアンドル('10日本)-Feb 12.2011
[STORY]
東京の洋菓子店パティスリー・コアンドルに、鹿児島から臼場なつめ(蒼井優)という少女が訪ねてくる。ここで働いているはずの恋人に会うためだったが、本人はすでに店を辞めていた。諦めきれないなつめはオーナーの依子(戸田恵子)に頼み込んで住み込みで働かせてもらうことになる。
一方、製菓学校の講師を務めながら洋菓子の評論もしている十村遼太郎(江口洋介)は、かつては伝説の天才パティシエと呼ばれていたが、ある事件をきっかけにケーキが作れなくなっていた。
監督・深川栄洋(『白夜行』)
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本作はサンタバーバラ国際映画祭アジア映画に出品され、コンペティション部門でイースト・ミーツ・ウエスト賞を受賞した。

例によって食べ物系映画が好きなワタクシ、本作はまた特に好きなスイーツということで見てきました。予告では綺麗なケーキが満載でちゃんとおいしそうに撮影されていたし、お店の造りも面白そう。それに蒼井優ちゃんもけっこう好きなんで(『花とアリス』『フラガール』で)そこそこ期待していた。

けど、この映画の蒼井優はダメだったー。イラつく、ムカつく、腹が立つ!気が強くてずーずーしくて思い込みが激しくて、自己評価が高すぎ。ケーキの作り方を覚えたとヘンな自信を持ったと思ったらすぐしゃしゃり出る。試作ケーキを厳しく批判されたら逆ギレとかどんだけ・・・。なまじ演技が上手いもんだから余計に憎たらしい!(笑)店の先輩マリコ(江口のりこ)以外の人たちも甘やかしすぎだよ。私だってこんな子が近くにいたら間違いなくマリコみたいな態度を取ってただろう(ただ、マリコの言い方もまたすっごいキツくて、見ててきつかった)元恋人とケリをつけ、ケーキ作りに集中するようになってからは徐々にキツさはなくなっていったけど、主人公が成長する姿を見せたかったんだろうが、こんな性格に設定する必要があったのか疑問。

でも実は成長したのは人への接し方だけね。彼女がケーキ作りを練習するシーンはたくさんあったけど、上達ぶりが分かるシーンは全くナシ。なので、病気になって食欲のなくなった老女(加賀まりこ)が突然「彼女のケーキなら食べられる」と言い出したり、天才パティシエ(笑)が「ニューヨークで修行してこい」と言い出しても、「えっ?」って感じ。しかも家族に不幸があって8年もケーキが作れなかった天才パティシエ(笑)が、ロクに話したこともない小生意気な娘から逆ギレに近い説教されて再びケーキを作り出すって、何なのそれ。それがヒロインのパワーですか。

その天才パティシエに“(笑)”をつけたのには理由がある。コアンドルの危機に十村は立ち上がるんだけど、彼がその天才的な技を見せつけるシーンを見せてくれないのだ。晩餐会に出したデザートも「え、これ?」とキョトンとしてしまった。いくらアルコールを飛ばすからといって、子どもにそのデザートはいかがなものか。ガレット・デ・ロワは悪くなかったが、子どもがあまり嬉しそうに見えなくて(演技が上手くなかっただけかもしれないが)ほんわかした気持ちになりたかったのに、微妙・・・だった。

作りようによってはいい映画になっただろうに、オリジナルストーリーなんだから何度でも推敲できたはず。もっと脚本を練ってから作るべきだったんじゃないだろうか。
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