Movie Review 2011
◇Movie Index

エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン('11ドイツ)-Dec 18.2011
[EXPLANATION]
スペイン、カタルーニャ地方にあるレストラン『エル・ブリ』は1年のうちたった半年しか営業せず、45席しかない完全予約制の三ツ星レストラン。世界中から予約が殺到するため“世界一予約が取れないレストラン”と言われている。
オーナーシェフのフェラン・アドリアはクリエイティブ・チームとともにバルセロナのアトリエで次のシーズンのメニュー作りに励んでいた。1つの食材をさまざまな調理法で試作し、35品にも及ぶコース料理を作り上げ、いよいよオープンの時を迎える――。
監督ゲレオン・ヴェツェル(『本を作る男―シュタイデルとの旅』)
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エル・ブリは1964年に開店し、2011年7月30日に閉店したスペインのレストラン。私は『エル・ブジ』の名前で知っていた(スペイン語では『エル・ブジ』だが、お店のあるカタローニャ地方の言葉で『エル・ブリ』と言うそう)コースは35品で3時間ほどかけて出され、映画の中ではコースのお値段は言わなかったけど、だいたい1人あたり250ユーロ(閉店時のレートで2万8000円くらい)らしい。研究時や人件費を考えたら意外と安いじゃん!と思ってしまった。円高ってのもあるけど(笑)閉店したエル・ブリは今後“料理研究財団”として活動するという。

映画はその年の営業を終了してバルセロナのアトリエへ移動し、新しいメニューを生み出すための研究の様子から始まる。1つの食材に対してあらゆる調理方法を試していくんだけど、これ毎年やってたら疲弊するわな。確かに一般のレストランと違って珍しい食材を使って斬新な調理方法を試し、見たこともないようなデザインの料理を生み出そうとしてるけど、エル・ブリの中でのパターンが作られてるな思った。だからあえてここでエル・ブリの名前を捨てるのは悪いことじゃない、引き際が上手いとも感じた。

メニューを生み出す過程で、シェフたちが作ってはダメ出しをされていくのだが、オイルを使った料理を主任シェフのチャトルックが何度もトライしていて、私は「これは諦めたほうがいいんじゃないの〜」なんて思ってたんだけど、諦めずに何度も試行錯誤し、ついにOKが出た時には「スゲー!」とちょっと感動してしまった(笑)ここは面白かったな。
ただいくつか気になる点も。オーナーシェフであるはずのフェラン・アドリアが料理する場面が1つもなく、料理を生み出すこともしてなかった。彼は選手を使う監督みたいなものなのか?あとオープン当日になってもまだ料理が完成してなかったりして、お客の反応を見て内容を変えたりしている。ということは、開店してすぐに行くと失敗みたいなものを出されるケースもあるということ?よほどのファンなら1シーズンに何度も足を運んで変化を楽しむんだろうけど、それができない人には当たりハズレがありそうで怖いな。あとぶっちゃけ、見た目はおいしそうに見えなかったです、どれも(ごめん)料理映画を見た後ってすごくお腹が空くんだけど、これはそれもなかったな。食材をいじくり回してる感じもダメだった。

食材には日本の柚子、抹茶に冷凍みかんまで使われていて驚いた。あとオブラートって、あの薄くて柔らかいものは日本で発明されたものだったのね(最初に海外から来たのは硬いもの)知らなかったわ。普通に薬を包んで飲んでたけど、海外の人が見たら「何これ!」ってびっくりしちゃうわけか。日本人って割とそういうところ鈍感だから「どーだ、すごいだろー」って海外に向けてアピールするんじゃなく、ひたすら国内向けにもっと品質のいいものを!って努力しちゃう。で、商品を買う側の日本人もまた当たり前のようにそれを使うだけ。最近ではエル・ブリに倣って海外の料理人がオブラートを買いに来たりするらしいけど、まだまだ日本人自身が何とも思ってない珍しい食材や器具やらたくさんありそう。日本人は食に関しては貪欲で、海にいるものと土から生えているものはとりあえず食べてみるからね(笑)フェランは休業中に世界各地を周るらしいが、また日本にも来て驚くがいいさ(何故か上から目線)
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50/50 フィフティ・フィフティ('11アメリカ)-Dec 10.2011
[STORY]
シアトルのラジオ局で働く27歳のアダム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は背中の痛みから病院で検査を受けたところガンと診断される。そのガンは5年後の生存率が50%だという。それでも抗ガン治療を受けることを決めたアダムは、セラピストのキャサリン(アナ・ケンドリック)の診察を受けながら病院通いを始める。恋人のレイチェル(ブライス・ダラス・ハワード)は彼を支えると宣言し送り迎えを始めるが、次第にギクシャクし、ついには別れてしまう。そんな彼を同僚で親友のカイル(セス・ローゲン)は励ますが・・・。
監督ジョナサン・レヴィン(『マンディ・レイン 血まみれ金髪女子高生』)
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脚本は自身もがんを克服した経験を持つウィル・ライザーで製作総指揮にも名を連ねている。助演のセス・ローゲンも製作に携わっている。

酒もタバコもやらず、危険だからと車の運転すらしない男が突然がんの宣告を受けるというストーリー。邦画だとどうしても観客を泣かせようと臭い演出たっぷりにしそうなところを、コメディタッチで軽く描いているところは好感が持てたし、タイトルの通り主人公がどうなるか最後まで分からないところは面白かった。が、いまいちメリハリのない映画で中だるみするし、登場人物の性格付けが浅いというか、役者頼みな感じがしてしまった。

主人公のアダムは一応作りこんであったけど周りがね。恋人のレイチェルはホントに損な役回り。ビッチと言うには中途半端で演じてるブライス・ダラス・ハワードも演じにくそうに見えてしまったし(私の偏見かもだけど)母親のダイアン(アンジェリカ・ヒューストン)の息子に対する対応もなんか薄いなと。夫の介護もあるし、日本ほど子どもに対して過保護じゃないとかあるんだろうけど。カウンセラーのキャサリンとの会話だって、徐々に打ち解けてもう少し深く関わっていくのかと思ったらそうでもないし。こうして列挙してみると、いまいちだと感じるのは女性キャラクターばかりだな。

セス・ローゲンは自分のキャラクターを生かしてて、この映画では一番おトクな役だ。アダムのためというより自分の欲求を満たしてるだけだろ!って言いたくなるほど身勝手な行動でアダムを振り回したかと思えば、がん患者との接し方の本をこっそり読んでたりして、普段はウザイけど実はいい奴をしっかり演出。ズルイわ〜(笑)

ジョセフ・ゴードン=レヴィットの坊主姿は窪塚洋介にしか見えなかったな(笑)
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タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密('11アメリカ)-Dec 10.2011
[STORY]
少年記者のタンタン(ジェイミー・ベル)は、ある日ユニコーン号という船の模型を手に入れるが、直後に何者かに奪われてしまう。さらにサッカリン(ダニエル・クレイヴ)という謎の男に拉致され、貨物船に閉じ込められてしまう。だが、彼の相棒で愛犬のスノーウィに助けられ自由になったタンタンは、その船の船長で模型の船ユニコーン号の船長アドック卿の孫、ハドック船長(アンディ・サーキス)と出会う。
監督スティーヴン・スピルバーグ(『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
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モーション・キャプチャーを用いたフルデジタル3Dアニメーション。製作はピーター・ジャクソンで続編では監督を務める予定になっている。脚本は『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』のエドガー・ライト。
原作はベルギーの漫画家エルジェの『タンタンの冒険』シリーズ24作のうちの9巻『金のはさみのカニ』と11巻『なぞのユニコーン号』12巻『レッド・ラッカムの宝』を元に作られている。

内容は面白かったけど、これは日本じゃヒットしないわ(断言)だってタンタン可愛くないんだもん。日本でも原作のタンタンは有名だしキャラクターグッズも人気がある。だから映画のタンタンを見てガッカリした人も数多くいると思う。映画の初期の予告ではタンタンの顔が出ず(わざと後姿や髪の毛のツンツンだけを見せて勿体つけていた)誰しもがつるんとした卵形の顔につぶらな瞳のタンタンを想像していただろう。それが後期の予告で顔が出た瞬間「これじゃ卵型じゃなくておにぎりじゃん!」と思ったのは私だけではないハズ(笑)目も妙にリアルでちょっと不気味。オデコのシワもいらん。敵のサッカリンのリアルさは許せるけどタンタンはなぁ。これじゃ『けいおん!』にも負けるわ。日本のアニメくらい可愛らしくしろとは言わないけど、ハドックやデュポンとデュボン&デュポンは原作に近い顔にしているのだから、タンタンもそれでよかったんじゃないの。内容が面白かっただけに、タンタンが可愛くないせいで(決め付け)見ない人が多いのは残念だ。

そう、内容はとてもよかった。特にスノーウィの立派な助手役には拍手喝采だ。普段は可愛いワンコだけど(萌え)ご主人の危機には大活躍。地面に叩きつけられたりして本物の犬なら間違いなく死んでるって。あんまり痛めつけるのはやめてほしいと思ったほど。しかしここまでアグレッシブに動けるのもアニメならでは。実写だともう少しテンポの悪い展開になってたんじゃないかと思う(『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズとかね)キャラクターにはいくら無理させても大丈夫だし、アクションシーンが見づらいとか暗いとか、カメラの位置が悪くてイライラなんてのもなく、どのシーンもベストショットで見られるんだから。

映画を見たら原作も読みたくなってしまった。実は子どもの頃に何度か図書館で原作にチャレンジしている。でも絵は可愛いけど内容はその当時の私にとってはけっこう難しくて、コマ数も吹き出しの中の文字数も多くて、いつも途中で読むのをやめてしまっていた。今ならちゃんと読めると思うんで(さすがに)それから続編も必ず見る。監督が違うとどうなるのか、比べるのも楽しみだ。
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クリスマスのその夜に('10ノルウェー=ドイツ=スウェーデン)-Dec 4.2011
[STORY]
ノルウェーの小さな町。クリスマスイブの夜、妻に家を追い出されたパウル(トロンド・ファウサ・アウルヴォーグ)は、子どもたちにプレゼントを渡すためにサンタクロースの扮装で家に入り込む。医師クヌート(フリチョフ・ソーハイム)は、コソボから逃げてきたカップルの出産を手伝わされる。少年トマスはクリスマスを祝わないイスラム教徒の女の子ビントゥに自分もだと嘘をつく。実家に帰りたくてもお金がないヨルダン(フリチョフ・ソーハイム)は無賃乗車で電車から降ろされる。妻子ある男と不倫中のカリン(ニーナ・アンドレセン=ボールド)は、クリスマスが終わったら離婚するという男の言葉にはしゃいでいた――。
監督&脚本ベント・ハーメル(『ホルテンさんのはじめての冒険』
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原作はノルウェーの作家レヴィ・ヘンリクセンの短編集『Only Soft Presents Under the Tree』で、本作では警備員役で出演もしている。

クリスマスの悲喜こもごも、という言葉がぴったりな作品。いくつかのエピソードが順番に少しずつ描かれていく。それぞれの登場人物に接点があったりなかったりで、最後にぴったり1つに纏まるような作品ではないけれど、いくつかはエピソードとエピソードが繋がったりする。冒頭のショッキングなシーンの続きがなかなか描かれないので「あの話の続きはどうなるんだろう?」と思っていたら最後にその疑問が明らかとなり「なるほどそういうことか」と納得する場面も。また小道具の使い方が上手く、特に笑えるシーンで効果を発揮していた。

全体でも85分と短い映画なのでエピソードによっては「それだけ?」と感じてしまったところもあるが、どちらかというと笑える話やほんわかした話よりも、物悲しいエピソードのほうが心に残った。特にヨルダンが電車に乗っている時、車窓から大きなクリスマスツリーが見えるシーンがある。暗い森の中にそのツリーだけが光を放っていて、幻想的でとても美しいのだけれど、それが世知辛い世の中の希望の光のようにも見えるし、森の中でたった1本だけ装飾してあるその木が逆に孤独にも見えたりして、ほんの1カットだったけど、この映画で一番印象に残った映像だった。
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家族の庭('10イギリス)-Nov 26.2011
[STORY]
地質学者の夫トム(ジム・ブロードベンド)とカウンセラーの妻ジェリー(ルース・シーン)はガーデニングが趣味の仲睦まじい夫婦。そんな夫婦を訪ねてくるジェリーの同僚メアリー(レスリー・マンヴィル)は、バツイチでワイン大好きでヘビースモーカー。男に縁がないといつも愚痴ばかりだが、夫婦の息子ジョーに好意を持っているようで、彼に会うとウキウキしている。だが秋になってジョーは新しくできた恋人を家に連れて帰ってくる。
監督&脚本マイク・リー(『ハッピー・ゴー・ラッキー』
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第63回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、第83回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされた。メアリーを演じたレスリー・マンヴィルは多くの映画祭や協会賞でノミネートされ、ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞の女優賞に輝いた。

一組の夫婦と、彼らの元に集まる人々を春から冬の4つのパートに分けて描いた作品。ポスターやチラシでは夏でのシーンの一部が使われているので、非常に明るく映っている。だからきっと春から始まって冬の つらい時期を乗り越えて、また春がやってきて希望が持てるラストなのかなと思ってたんだけど、ラストはブリザードだったよ(笑)見た時はまださほど寒くない時期でよかったわ。

トムとジェリーの夫婦は穏やかで円満に暮らしているが、ジェリーの元にやってくる患者や友人、親戚など周りの人々はそれぞれ悩みを抱えている。特にジェリーの友人メアリーはことあるごとにジェリーたちに下らない話をしたり愚痴を言ってばかり。タバコはやめたと言いつつスパスパ。車を運転してきたのにワインを飲み(一旦断るも1〜2杯だけ、とその1杯がグラスに並々で笑ってしまった)「私って若く見られるから〜」と頭に花、マキシワンピでクネクネ。いやいや、若くなんて見えませんから。もう見てられない!と思ったのは、浮かれてジョーにアプローチするところや、ジョーが恋人を連れてきた途端に不機嫌になって嫌味を連発するところ。もういいから帰れよ!と言ってやりたくなった。

メアリーのキャラはかなりデフォルメされたもので、ギャグにしか見えないところもあったが、実際すべてとは言わないがちょいちょい似た人はいる。例えばいい歳して10代の子が着るような服を着て自分は似合ってると勘違いしてる人はいたし、じゃあちょっとだけ、と言いながらお酒をいっぱい飲んじゃう人も・・・あ、それは私だ(笑)

こういうダメな人を冷たく突き放しつつも、挽回できるチャンスはいくらでもあると映画の中で主張している。映画の冒頭でカウンセリングにやってきた不眠症の主婦ジャネット(イメルダ・スタウントン)にジェリーがアドバイスするシーンがそれだ。
眠れないから薬だけ欲しがるジャネットに対してジェリーは、薬だけでは解決できない、眠れない原因を突き詰めて生活を変えることを始めないといけないと諭す。メアリーもお酒やタバコに頼って目の前の問題から逃げているからこうなってしまうのだ。原題の『Another Year』とは、毎年同じようにダラダラと1年を過ごすのではなく、違った1年を過ごしてみなさいっていう意味もあるのかな。しかし、そう言われてもなかなかできないわけで・・・。最初にブリザードと書いたけど、いわゆる“リア充”(笑)と言われる人が見たら「しょうがない人」と呆れるだけの映画かもしれない。1つでもジャネットやメアリーに当てはまるところがある人にとっては震えてしまう内容である。
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