Movie Review 2012
◇Movie Index

テルマエ・ロマエ('12日本)-May 1.2012
[STORY]
古代ローマ。設計技師のルシウス・モデストゥス(阿部寛)は浴場の建設に悩んでいた。そんなある時、公衆浴場の湯船に潜ったルシウスはそのまま現代の日本の銭湯にやってきてしまう。日本人を見たルシウスは“平たい顔族”という奴隷の民族の浴場だと勘違い。だが、銭湯の富士山の絵やフルーツ牛乳に感動したルシウスは、古代ローマに戻って銭湯を再現し、名声を勝ち取ってしまう。そしてついにはローマ皇帝・ハドリアヌス(市村正親)から浴場の建設を依頼されるまでになる。
一方、漫画家志望の山越真実(上戸彩)はルシウスが現れる場面に必ず遭遇しており、彼が本当に古代ローマ人ではないかと歴史や語学を勉強し始める。
監督・武内英樹(『のだめカンタービレ 最終楽章 前編』)
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原作はヤマザキマリの同名漫画(現在4巻まで刊行)
古代ローマでのシーンはイタリアの映画撮影所で行われ、海外ドラマ『ROME[ローマ]』で使われたセットで撮影された。

漫画は1巻だけ読んでいて、2巻以降はそれほど面白くないというのでスルーしていた。映画の前半はその1巻からピックアップされており、銭湯、自宅の風呂、ショールームにタイムスリップするストーリーが使われている。やっぱり銭湯の話が一番面白いな。あとウォシュレットか。阿部ちゃんを含めローマ人を演じた日本人がちゃんとローマ人に見えるかというと正直苦しいんだけど、日本人が大真面目にローマ人を演じてるところが笑いに繋がっていて成功していると思った。よく顔の濃い役者集めたよ(笑)それと日本人役にはこれでもかと平べったい顔の人間を集めたおかげでさらに面白い対比になったと思う。これ普通にイタリア系の人が演じてたらどうだったのかなと想像してみたくもなったが。

しかし中盤から後半にかけては原作にないオリジナルの展開らしいが、笑いがなくて退屈までとは言わないけどシリアスな展開が続いて私の中では盛り下がった。日本人の(特にお年寄りのね)真面目で勤勉なところを前面に押し出しているところは好感を持ったけど、別に感動の押し売りはいらんのよ。こっちはもっと馬鹿馬鹿しいのが見たいの。どうも邦画は感動させようとか泣かせようとか、そっち方面にばかり行きたがるのか。
あと途中途中で歌劇『トゥーランドット』の『誰も寝てはならぬ』を歌う人が登場するんだけど、これはどういうつもりで入れたんだろうか?ウケると思ってるわけ?いちいち邪魔くさいと思ってしまった。

ラストのオチを見て香港のレストランのメニューを思い出した。によくこういうのあったわ(笑)
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裏切りのサーカス('11イギリス=フランス=ドイツ)-Apr 22.2012オモシロイ★
[STORY]
東西冷戦下のイギリス。イギリス情報局秘密情報部、通称サーカスのリーダーであるコントロール(ジョン・ハート)は幹部に二重スパイの“もぐら”がいることを確信する。そこで実働部隊のジム・プリドー(マーク・ストロング)を送り込むが作戦は失敗。コントロールと彼の右腕だったジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)は責任を取って引退する。しかし直後にコントロールが死亡し、政府の情報機関監視役からスマイリーは再び呼び戻され“もぐら”を探し出すよう命じられる。
監督トーマス・アルフレッドソン(『ぼくのエリ 200歳の少女』)
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原作はジョン・ル・カレの1974年の小説『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(映画の原題もこれ)で、スマイリーが主役小説はこのほかに4作ある。著者は本作の製作総指揮にも名を連ねている(出演も少しだけしている)1979年にはイギリスでTVドラマ化され、スマイリーをアレック・ギネスが演じた。
第84回アカデミー賞では主演男優賞、脚色賞、作曲賞にノミネートされた。

ストーリーははっきり言って難しい。英国諜報部<サーカス>がどんな組織なのか分からないし、冷戦時にどんなことが起きていたのかも分からない。登場人物が多く、誰がティンカーで誰がソルジャーで、っていうのを把握するだけで精いっぱい。最初、原作を読んでから見ようかなと思ったくらいだ。でも“もぐら”が誰かっていうのは小説でじゃなくて、やっぱり映画を見て驚きたいと思ったので、あらすじと人物相関図を頭に叩き込んでから見たが、それでもやっぱり難しかった。

とにかく観客に緊張感を強いる映画だった。映画の空気は常に緊張感でピリピリ。見てるほうも1カットも見逃すまいと肩に力を入れて前のめりで見ているから終わった時にはグッタリ。でも真剣に見て正解だった。自分までサーカスの諜報部員になったような気分をになったもん(笑)途中で諦めてしまった人にはつまらない映画になると思うが、最後まで頑張った人はちょっとだけ達成感が味わえるかも。そうそう、エンドクレジットもシンプルだけどよく見るとなかなか凝ってる。単純に下から上に文字が真っ直ぐ流れていくのではなく、右に左に少しずつ移動しながら流れていくのだ。そこまでも真剣に見てしまった(笑)

ゲイリー・オールドマン演じるスマイリーは一見物静かだが、不気味で迫力がある。というのも、彼の過去のエキセントリックな役柄の印象が強いからだが、それとこのスマイリーという男がかつてはスパイとして時には汚いことも数多くこなしてきただろう、というのが上手く重ね合わさっているんだな。実は映画を見終わった後に原作を買って読んでいるんだけど、原作のスマイリーとは全くイメージが合わない(原作はずんぐり小太り)でも映画のスマイリーはこれでピッタリだと思った。これ1作だけではもったいないので、続編も同じキャストでやってくれないかなぁ。そしたら小説の続編も読むよ(って読まないつもりかよ!・・・だって難しいんだもん)
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アーティスト('11フランス)-Apr 14.2012ステキ★
[STORY]
1927年ハリウッド。ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)はサイレント映画の大スター。愛犬ジャックとともに数多くの映画に出演してきた。ある時、ジョージは彼の大ファンだという新人女優のペピー・ミラー(ベレニス・ベジョ)と出会う。ペピーは親しみやすいキャラクターから瞬く間にトーキー映画のトップスターへと躍り出る。一方、ジョージはサイレント映画にこだわり、自分が監督・主演した映画が大コケして仕事もお金も失い、妻とも離婚されてしまう。
監督&脚本ミシェル・アザナヴィシウス(『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』)
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フランス製作のモノクロ、サイレント映画で、第84回アカデミー賞で10部門でノミネートされ、フランス映画初の作品賞を受賞。そのほか監督賞、主演男優賞、作曲賞、衣装デザイン賞を受賞。また、第64回カンヌ国際映画祭ではコンペティション部門で上映され、犬のアギーがパルム・ドック賞を受賞した。

モノクロのサイレント映画といっても当時と同じ手法で作っているわけではなく、カラーで撮影した映像をモノクロに変換させた映像でクリアで見やすい映像。さらに一部で音声や効果音を入れて主人公の心情を表現したりと、上手い使い方をしており、むしろ新しいタイプの映画だと感じた。

ストーリーはサイレント映画の大スターがトーキー映画の登場とともに落ちぶれるという、ベタでありがちなお話。でもすごく丁寧に作ってあって無駄がなく、ラストまで綺麗に纏めてあってフランス映画なのに(失礼)完成度が高くて驚いた。ジョージがスターの時は階段を昇るシーンが多く、人気がなくなると階段を下るシーンが多くなったり、上に書いたようにサイレント映画なのに急に効果音を入れたり、ずっと流していた音楽を止めて無音にしたりと、細かな演出も見応えがあった。

唯一、ちょっと気になったのはヒロインのペピーがジョージの大ファン過ぎて、彼女の行動がストーカーっぽくなっていくところが怖いなと。一途にも程がある。オークションのところはギリギリ・・・って感じ。彼の服に袖を通すところはキュンときたけどね。あれはめちゃくちゃ可愛かった。そういえばジョージがショーウィンドウに飾ってあるタキシードに自分の身体を映す場面も、切ないけどお洒落なシーンだった。最近こういう小粋な演出をする映画ってないから逆にどれも新鮮に見えた。

デュジャルダンとベジョはもちろん、ジェームズ・クロムウェルが演じた運転手にも泣かされたし、何より犬のジャックがたまらん!この子が出てなかったらこの映画の魅力は半減していたと断言できる。トレーナーさんの指示通りなんだろうけど、ホントにこの子の意思でやってるんじゃないかって思うところも多くて、個人的には彼に助演男優賞をあげたい。大拍手!
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劇場版 SPEC〜天〜('12日本)-Apr 7.2012
[STORY]
「警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係」通称“未詳”の刑事・当麻(戸田恵梨香)と瀬文(加瀬亮)は、特殊能力を持つスペックホルダーたちと戦ってきた。そんな2人の元にミイラになった死体が発見された事件が舞い込む。そして警視総監が誘拐され、死んだはずのニノマエ(神木隆之介)が警察を脅迫をしてきた。
監督・堤幸彦(『はやぶさ/HAYABUSA』
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2010年10月に全10回で放映されたTVドラマ『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』の映画化。連続ドラマが“起(癸)”、2012年4月1日に放映されたスペシャルドラマが“承(翔)”そして本作が“転(天)”となっている。本作は解決せず続編“結”に繋がるラストではあったが、続編の製作は未定(“欠”かもしれないとのこと)

連ドラもSPドラマもすべて見てきたけど、連ドラは終盤からようやく面白くなってきて(それまではテンポが悪くていまいちだった)SPドラマでは当麻の謎が解明したり、事件の真犯人が一体誰なのかという謎があり、どんでん返しもありで面白かった。ドラマだからと気楽に見ていたせいもあるだろう。これが映画になるとやっぱり料金払ってるし家で見るより集中しているため、どうしても不満が出てしまう。やっぱり遊びの部分のテンポが悪いなぁとか、また敵がニノマエなのかーちょっと飽きたなーとか。

ドラマは『ケイゾク/映画』っぽいところも残っていたけど、映画はそれより『TRICK』みたいだった。ファティマ第三の予言の説明にマンガを使ったところや、浅野ゆう子が演じたキャラクターはトリックに登場してもおかしくないようなチャイナドレス姿だったし(笑)
あとは『ヱヴァンゲリヲン』だね。ヱヴァの新劇場版は序・破・急のタイトルで、SPECは起・承・転・結、SPECの御前会議(メンバーが山寺宏一や戸田恵子)は、ヱヴァのゼーレの意思決定会議を意識しているようだった。また、どちらも死海文書だとかファティマの聖母とか宗教絡み。本作のラストを見て、SPECホルダー=エヴァのパイロット?なんて考えが頭をよぎったり。セカイと名乗る男=カヲル君か?!とか・・・。“欠”とか言ってるけど、これは続編もやってもらわんとね。字は“決”、いややっぱ“訣”がいいな。

1つ失敗したなぁと思ったのは、当麻の両親が亡くなる事件から始まるマンガ『SPEC〜零〜』を読んでからSPドラマと映画を見なかったこと。先に読んでなかったので分かりにくいところがあった。これから見る人はマンガか小説を先に読んでおいたほうがいいだろう。
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ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜('11アメリカ)-Apr 1.2012スバラシイ★
[STORY]
1960年代ミシシッピ州。大学を卒業したスキーター(エマ・ストーン)は実家に戻ってきた。地元の友人たちはみな結婚して子どもを産み、家事や育児は黒人メイドたちに任せきり。だが黒人を嫌悪しており、ヒリー(ブライス・ダラス・ハワード)などはメイド用のトイレを屋外に作るべきだと主張して憚らない。新聞社のライターとなったスキーターは、友人の家に仕えるメイドのエイビリーン(ヴィオラ・デイヴィス)やミニー(オクタヴィア・スペンサー)に、メイドたちの本音を纏めた本を出版したいので協力してほしいと頼むのだが・・・。
監督&脚本テイト・テイラー(『Pretty Ugly People』)
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原作はキャスリン・ストケットが2009年に発表した同名小説。本作に出演しているスペンサーは著者の友人で、ミニーのキャラクター作りに影響を与えたらしい。
第84回アカデミー賞では作品賞、主演女優賞(デイヴィス)、助演女優賞(スペンサーとジェシカ・チャスティン)の4部門でノミネートされ、スペンサーが受賞した。

これは良かった!予告を見た時から、内容は見てみないと分からないけど映像の色合いが好みだなーと思っていたら、同じく以前の感想で色合いが好みと書いた『ジュリー&ジュリア』と同じ撮影監督だった。スティーヴン・ゴールドブラットね。覚えておこう。内容はかなり重たいんだけど、この鮮やかで暖かな映像に救われた部分が多い。そして登場する女性たちにも。

酷い待遇でも侮辱されてもへこたれず、ユーモアを失わず、自分の仕事に誇りを持っているメイドたち。屈辱的な仕打ちをされても雇い主の娘を慈しむエイビリーン。自分がクビになって娘を働かせなくてはならなくなるが、その娘にきちんとメイドとしての仕事を厳しく伝えるミニー。黒人を差別せず、彼らが何してくれた時には必ずお礼を言うスキーター。風変わりな娘に早く結婚をしてほしい願いつつも、娘のピンチを助ける母。上流階級の育ちではないため他の家からつまはじきにされるが、持ち前の明るさと素直さで困難を乗り越えようとするシーリア(チャスティン)それぞれみんな魅力的なのだ。

見ながら感じたことなんだけど、父親や母親の教育ってやっぱり大事なんだなと思った。スキーターの家はメイドを信頼してきたからスキーターもそのように育った。でもヒリーの場合は父親の影響力が大きかったのだろう、母親(シシー・スペイセク)はメイドに対してごく普通に接しているのに、彼女は黒人を酷く差別する。その一方でアフリカの子どもたちへの支援を纏めるリーダーをやったりしている。そんな矛盾に気が付いてもいない。矛盾といえば、黒人から病気が伝染するかもしれないと心配しているくせに料理させたり育児させたりするのもおかしい。でもこういう人って、ヘンなマイルールを持っていて、自分じゃおかしさに気が付かないんだよね。ものすごく嫌な女ではあったけど、リアリティのあるキャラクターとして別の意味で魅力的だと思った。

アカデミー賞に女優3人もノミネートされるくらい女性たちばかりが目立ち男性の存在感が薄い映画だったけど、シーリアの夫(マイク・ヴォーゲル)はいい男だった。ヒリーを結婚相手に選ばなかったのも頷ける。ほろ苦い結末でも、彼とヒリーのボンクラ夫を見比べるだけで溜飲が下がるわ(笑)
スカッとしたりムカッときたり、泣いたり笑ったり、いろいろな感情が湧き上がるいい映画だった。
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