Movie Review 2012
◇Movie Index

シルク・ドゥ・ソレイユ 3D 彼方からの物語('12アメリカ)-Nov 15.2012
[STORY]
ある田舎町にやってきたミア(エリカ・リンツ)は、サーカス団員の青年(イゴール・ザリポフ)と出会うが、彼が空中ブランコから落下し、地面に呑み込まれてしまう。彼を助けようとしたミアも砂に埋まり、気が付くと不思議な世界にいた。
監督&脚本アンドリュー・アダムソン(『ナルニア国物語 第2章:カスピアン王子の角笛』
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エンターテイメント集団シルク・ドゥ・ソレイユが、ラスベガスの7つのホテルで行っているショーを1つの物語にして、映画用に3D撮影した作品。

私がシルクのショーを見たのは数年に1度の来日公演と、最近では東京ディズニーリゾートの常設だった『ZED』くらい。チケットがなかなかのお値段なので頻繁には見られないけど(ましてやラスベガスで見るなんて到底無理)見に行けばその凄さに感動している。今回の映画は3Dだから通常より少し高いけれど、それでも生の公演より1桁少ない金額で見られるのがお得だなぁと楽しみにしていた。

しかし失敗した!3Dを劇場で見る時は、前のほうだとちょっと酔ってしまう時があるので、いつもだいたい後ろのほうの座席を取るようにしているんだけど、これに限ってはもっと前の座席で見るべきだった。他の3D映画だと顔のアップが多かったりするし、CGを多用した目まぐるしいアクションシーンなどは後ろの座席のほうがかえってよく見えたりする。でもこの映画の場合はパフォーマーたちの動き全体を俯瞰で捉えた映像が多いので、いくら飛び出す3Dでも後ろの座席だと小さく見えてしまうのだ。『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』も全体を映す映画だったけど、あれは後ろでも小さい劇場だったからなぁ。本作は大きい劇場だったので、もっと前にすればよかったと本当に後悔している。

映画として見るとストーリーは平板で映画としての面白さはない。ミアが異世界に迷い込んだ青年を探すだけの単純なもの。全員パフォーマーだから演技力なんてそもそも期待してないけど、もう少し映画オリジナルな部分を作ったりしてストーリーは練ってほしかったな。例えばミアが途中で道化師から謎を出されてそれを解かないと先に進めないとか、悪者と戦うパフォーマンスをしたりとかね。

でもラストでミアと青年がついに再会して、2人が空中でパフォーマンスするシーンは鳥肌が立った、いろんな意味で(笑)美しさに感動したけど、あの命綱なしネットなしの状態であれをやるっていうのはやっぱり凄いわ。
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のぼうの城('12日本)-Nov 12.2012
[STORY]
戦国時代。武蔵国忍城の領主・成田氏家(西村雅彦)の従弟にあたる長親(野村萬斎)は領民から“でくのぼう”を略した“のぼう様”と呼ばれ親しまれていた。1590年、天下統一を目指す豊臣秀吉(市村正親)は北条氏の小田原城を落城させようと関東各地の支城に石田三成(上地雄輔)ら兵を送り始める。氏家は北条氏に従うように見せかけ小田原城へ向かうが、裏では豊臣側へ降伏しようとしていた。だが、氏家の留守中に長親は戦うと宣言してしまう。
監督・犬堂一心&樋口真(『グーグーだって猫である』/『日本沈没』)
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原作は和田竜の同名小説だが、元は和田が書いた脚本『忍ぶの城』が映画化されることが決まり、それを自らノベライズしたのが『のぼうの城』である。映画の脚本も和田本人が担当している。

当初は2011年9月公開の予定だったが、村が水で沈むシーンがあり、東日本大震災を配慮して1年以上公開が先送りとなった。
水攻めシーンがあるからといって延期って・・・と思って実際見たら、これは確かに延期になるわ・・・と納得。いま見てもちょっと嫌な気分になるもの。ただ、人が水にのまれるシーンなどはカットしたらしく、成田勢が大きなダメージを受けたように感じられなかったので、やむを得ないと分かっていてもちょっと微妙だった。

野村萬斎はやっぱり上手い。敵陣の前で舞うシーンは彼自身が振付をしたらしいが、それができるのは彼だからこそ、だった。しかし彼の特異性を活かし切れておらず、映画全体を通してあまり目立たなかったように思う。すごくもったいない。他のキャストもそれぞれ浮いていたからかなぁ。柴崎和泉守を演じた山口智充はやっぱり役者じゃないからか周りに合わせて演じるんじゃなくて自分が目立つことを考えてるように見えたし、三成を演じた上地もやっぱり上手くないしね。大谷吉継を演じた山田孝之に助けられていた。そして一番酷いなぁと思ったのは甲斐姫(榮倉奈々)勇ましいけど“東国無双の美人”と言われた姫様だったんでしょ。勇ましいのは合ってたけど・・・うーん。

映画のラストで、忍城があった場所、現在の埼玉県行田市の風景が映し出される。水攻めの時に作られた堤防は石田堤と今も呼ばれて残っているのだ。これを見ると、映画の本編では「ホントかよ」と思っちゃったようなシーンも実際にやったことだったんだって改めて驚くし、さらに日本の歴史ってこうしてずーっと繋がっているんだなってこともしみじみ実感できたので、このシーンを入れたのは良かったと思う。
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危険なメソッド('11イギリス=ドイツ=カナダ=スイス)-Nov 11.2012
[STORY]
1904年スイス、チューリッヒ。精神科医のカール・ユング(マイケル・ファスベンダー)の元に、統合失調症患者のロシア人女性ザビーナ(キーラ・ナイトレイ)がやってくる。ユングは尊敬するジークムント・フロイト(ヴィゴ・モーテンセン)が提唱する談話療法で彼女の治療を始める。すると彼女は幼い頃に父親に虐待されていた経験があることが分かる。いつしか2人は愛し合うようになるが・・・。
監督デヴィッド・クローネンバーグ(『イースタン・プロミス』
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原作はジョン・カーの『A Most Dangerous Method』を元に『キャリントン』の監督でもあるクリストファー・ハンプトンが2002年に舞台脚本として『The Talking Cure』書き上げ、それを映画化したのが本作で、映画の脚本もハンプトンが担当した。

クローネンバーグの映画に出演するヴィゴ・モーテンセンは『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』そして本作と3作連続で出演しているが、実はフロイト役は当初クリストフ・ヴァルツがキャスティングされていたという。

そのせいかどうかは分からないけど、前2作と比べて本作のモーテンセンは脇役という感じで存在感があまりない。ファスベンダーとナイトレイに比べて出番が少ないせいもあるけど。私はユングとザビーナとフロイト、3人それぞれ対等に描かれるのかと思っていたので、実際はユングとザビーナの恋愛映画だったのが残念。ザビーナはユングと別れたあとにフロイトに師事して精神分析家になるのに、そこはほとんど描かれない。ユングとザビーナ、フロイトとザビーナ、それぞれを描くことでユングとフロイトの2人の人物像が浮かび上がる、そういう映画が見たかったな。

しかしユングは研究者としては名を残したけれど、私生活はダメな人だったのね。ザビーナと別れた後も別の愛人がいたというし、稼げない時は裕福な妻のエマ(サラ・ガドン)が経済的援助をしていたらしい。映画に登場するエマも堂々としたもので、フロイトより彼女のほうが印象に残ったほどだった(笑)
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アルゴ('12アメリカ)-Nov 4.2012
[STORY]
1979年イラン。イスラム過激派らがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官を人質にした。だがその前に6人の外交官が大使館を脱出し、カナダ大使公邸に逃げ込んでいた。アメリカ政府はこの6人を救出するため、CIAのトニー・メンデス(ベン・アフレック)担当者に任命する。メンデスは6人をカナダ人に仕立て上げ『アルゴ』というSF映画のスタッフとしてイランに入国したことにする作戦を立てる。
監督ベン・アフレック(『ザ・タウン』)
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1979年に起きたイランアメリカ大使館人質事件を描いた作品で、本作の主役トニー・メンデスの回想録『The Master of Disguise: My Secret Life in the CIA』と、ジョシュア・ベアマンが雑誌『Wired』に書いた“How the CIA Used a Fake Sci-Fi Flick to Rescue Americans from Tehran”という記事が原案になっている。主演・監督のアフレックは製作にも携わっており、ジョージ・クルーニーも製作に名を連ねている。

公開時のテレビCMでは、とっつきやすくするためかコメディ映画のようなナレーションを入れていたが、本編はシリアスで、全員助かると分かっていてもハラハラドキドキする映画だった。アフレックってこういう映画が撮れる人だったんだねぇ。しかしモヤモヤする部分も多くて、助かってよかったねーと素直に喜べない映画でもあった。

メインはカナダ大使公邸に逃げた6人を救出する話なんだけど、少しだけ描かれるアメリカ大使館が占拠されて52人が人質に取られた事件のほうが気になってしまった。人質たちは粗末なベッドで寝かされて常に監視され、たまに連れ出されては銃で脅されるという過酷な状況。しかも解放されたのは444日後!見るのはつらいけどこっちのほうがよっぽども見応えのある映画になったんじゃないかなぁと思ってしまった。

だって、それにそれに比べたらカナダ大使公邸に逃げた6人は外に出られないことと、誰かが訪ねてきたら地下に隠れなきゃいけないことを除けばすごく恵まれてる。ちゃんと食事も提供されるし酒も飲める。テレビで情報は得られるし暇つぶしにゲームだってできる。それなのに彼らときたらイライラしてばかり。大使館のほうの状況を知らないとはいえ、何て我儘なんだろうって。彼らを匿うカナダ大使夫妻や、公邸で働くイラン人の女の子だって危険な状況なのにね。

さらにそんな彼らを助けにやってきたメンデスの作戦にも拒否するとは!お前らに選択の余地なんかないんだよ!って言いたくなったわ。そこからいろいろあって一応作戦は成功するけど、帰国した彼らがチヤホヤされる一方で、イラン人の女の子は国内にいられなくなり逃げた先がイラクっていうのがまた切ない(このあと間もなくイラン・イラク戦争が始まるわけで)

さらにさらに、映画のラストでは大統領だったカーターの当時を振り返るコメントが流れるんだけど、それが言い訳がましく聞こえた。元はと言えば、イランのこんな状況を作ったのはアメリカ政府じゃないか。映画では言ってなかったけど、アメリカ大使館の人質が解放された日というのは、カーターが大統領選挙でレーガンに負けて大統領を退任する日だったんだよね。そこまで言及していたら面白かったのに(そしたらコメントなしだったかも?)
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砂漠でサーモン・フィッシング('11イギリス)-Oct 27.2012
[STORY]
水産学者のアルフレッド(ユアン・マクレガー)は、英国政府の広報担当官マクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)から砂漠の国イエメンで鮭を釣るというプロジェクトの顧問を依頼される。絶対に無理だと一旦は断るが、断ったらクビだと言われたアルフレッドはしぶしぶ承諾する。依頼者はイエメンの大富豪シャイフ(アムール・ワケド)で、彼の投資コンサルタントであるハリエット(エミリー・ブラント)とともにチームを組むことになるが・・・。
監督ラッセ・ハルストレム(『シッピング・ニュース』
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原作はポール・トルーディの『イエメンで鮭釣りを』で、『フル・モンティ』『スラムドッグ$ミリオネア』の脚本家サイモン・ボーファイが脚色した。

東京国際映画祭の特別招待作品だったので一般公開前に見たんだけど、公開するの早いなぁ(早く感想を書かない自分が悪いんだけど)監督がいいし脚本家もいいので絶対に当たりだろうと見に行って、確かに悪くなかったけど(この監督の映像は相変わらず綺麗なのよね)ものすごく面白かったかというとそうでもなかった。

イエメンでサーモンを釣りたい!という富豪の夢を叶えるため英国政府まで乗り出し、それに巻き込まれてしまった男のコメディというのを想像していて、かなり笑わせてくれるんだろうなと期待していた。だが蓋をあけてみれば、意外と話がちっちゃい。壮大なプロジェクトなのに名前のついた登場人物は数えるほどしか出てこない。アルフレッドやハリエットが悩むのは鮭のことじゃなくて私生活のことばかり。「お前らホントに仕事してんのかよ」と突っ込みたくなること100万回(←誇張)原作通りなのか知らないけど、鮭をどうするかについては簡単に決めちゃって、実験すらやってない感じでぶっつけ本番。プロジェクトXみたいなものを見たかったわけじゃないけど、もうちょっとイエメンで鮭っていう面白さを描いてくれてもよかったんじゃない?

そんなわけで、ラストシーンを見ても「お前らなぁ」としか。笑いについてはクリスティン・スコット・トーマスがほぼ全部受け持ってた(笑)マクスウェルは仕事では首相に有利になるよう常に策略を巡らし、私生活では子沢山のパワフル母ちゃん。どっちの彼女もカッコイイ。それに対して、泣くシーンの多かったハリエットにあまり好感が持てなかった。エミリー・ブラントは綺麗だったけどね。
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