Movie Review 2008
◇Movie Index
ウォンテッド('08アメリカ)-Sep 28.2008
[STORY]
ウェスリー(ジェームズ・マカヴォイ)は会社に嫌気が差しながらも、気が弱くて何も言えず薬に頼りながら毎日過ごしていた。ある時、謎めいた女フォックス(アンジェリーナ・ジョリー)が現れる。ウェスリーの父親は暗殺組織“フラタニティ”のトップで、その父親が“フラタニティ”だった男クロス(トーマス・クレッチマン)に殺されたという。そしてウェスリーには父から受け継いだ能力があるため、彼を後継者にしたいと言うのだ。一旦は断るものの、ウェスリーは復讐のため過酷な訓練に挑む。
監督ティムール・ベクマンベトフ(『ナイトウォッチ』)
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原作はマーク・ミラーとJ・G・ジョーンズによるグラフィックノベル。

予告を見た時には近未来的な、SFっぽいストーリーかと思ってたんだけど、現代に生きるストレスを抱えた若者が実は殺し屋の血を受け継いでいて、父を殺した男に復讐するべく殺し屋修行をする映画でした。でも現代とはいっても現実にはありえないアクションがいっぱいで、リアル世界じゃないパラレルワールドで起きてる出来事、と考えたほうがいいかもしれない。

フラタニティという組織は、機織の機械が織り出した名前の人物を殺す組織で、その名前の人物は現時点では何もしていなくても、いつか重大な事件を起こすので、事前に消してしまおうというわけ(『マイノリティ・リポート』にそっくり)
“1人を殺して1000人を救う”という名分の下に任務を実行していくんだけど、はっきり言って1人を殺すのに1000人くらい犠牲にしています。何ですかあの列車でのアクションは。確かにアクションだけ見たら迫力たっぷりで面白いよ。すんごいハラハラしたとも。でもあそこまでやられると引く。ネズミも大量に殺しすぎだし、これって動物愛護団体とか怒らないんですかね?ペットでも野生動物でもない害虫扱いなんだろうか。うーん、私が普段毒にもならないハリウッドアクション映画を見過ぎなんでしょうか。

確かにガンアクションはものすごいカッコよく、ウェスリーと同じようなストレスを抱えた人はスカッとするだろう。どっかトボけたところもあるしね。監督がカザフスタン出身で、出演者も多国籍にわたっていて新鮮味もある。大ヒットしたことで続編を急ピッチで作ることにもなったらしい。何だかんだ言って公開されたらまた見ちゃうんだろうなぁ。テレンス・スタンプがまた出演してくれるなら確実に見る、だろう(笑)

そういえばウェスリーの父親の形見の拳銃の名前が“イマニシ17”というのだが、イマニシって誰?!
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アキレスと亀('08日本)-Sep 23.2008
[STORY]
裕福な家に生まれた倉持真知寿【くらもち・まちす】は子供の頃から絵を描いてばかりいた。だが父親が事業で失敗し家族はバラバラになる。
大人になった真知寿(柳憂怜)は印刷所で働きながら美術学校に通い絵を描くが、全く売れることはなかった。そんな中、印刷所に努める幸子(麻生久美子)だけは真知寿の才能を信じて彼を支えようと決意する。
十数年後、真知寿(ビートたけし)はまだ売れない画家だった。幸子(樋口可南子)も真知寿の手伝いをするが端からは変わり者夫婦と見られていて、業を煮やした1人娘は家を出てしまう。
監督&脚本・北野武(『BROTHER』
−◇−◇−◇−
『TAKESHIS'』『監督・ばんざい!』に続く三部作の最後の作品。第65回ヴェネチア国際映画祭で、コンペティション部門に出品された。テサロニキ映画祭ではゴールデン・アレクサンダー賞を受賞した。

北野映画は久しぶりに見た。三部作の前二作も実は見ていません。どちらも予告を見てそれほど見たいと思わなくて。でも本作は売れない画家の物語というテーマが面白そうだったので見てみた。

長年『誰でもピカソ』でさまざまなアートをつぶさに見てきたせいか、アートという曖昧なものに対する北野の考えを示しているようで、映画としてはそれほど好きな作品ではないけれど、いろんな意味で楽しめたし面白かった。
北野はじゅうぶんな成功者であるし、彼の描いた絵ならたとえどんなものでも売れてしまうだろう。そういう世界に身を置き、それで食べていながらも、どこかその居場所に居心地の悪さを感じているように見えるし、成功している自分が恥ずかしいという思いも垣間見える。そんな複雑な気持ちをこの映画にぶつけているようなのだ。

幼い頃に褒められたことから絵ばかり描いてきた主人公だが、大人になって美術学校に通い画商の言葉の通りのままの絵を描くものの、どれも過去の作品の二番煎じにしかならず、結局独学で描いていた頃の絵が一番上手かったという皮肉。上手くても死んでしまえば敗北者であり、上手くなくても最初に新しいことをやった者が成功者となる。そこにもう1つ、死んでから価値が上がる画家というのも登場させて欲しかったところだが。そうすれば、上手くもなければ新しさもなく誰かの真似ばかりで、死んで有名にすらなれない主人公の中途半端さがより際立ったんじゃないかと思うのだが。

絵画の世界については全く分からないけれど、書道は学んでいて少し分かるのでここに書きたい。
本作のタイトルやキャプションは柿沼康二が書いた「書」が使われている。最初の『アキレスと亀』というタイトルは路上アートな臭いを漂わせていて、わざとそう書いているように見える。
途中のキャプションは、字は上手いけれど上から下に書くという常識を外した、これもアートっぽい書だ。
そして最後のキャプションは変体仮名を使っているので知っていれば読めるけれど、知らない人は何が書いてあるのかさっぱり読めないし、上手いのか下手なのかも分からないだろう。ここでキャプションの下に字幕をつけた意味が分かった。それまではなくてもいいのにと思ってたから。
エンドクレジットでは隷書で1人1人の名前を書いている。書体は馴染みがないかもしれないが、読みやすくて一目で上手いと分かる字で書いている。絵と同じように、書もこれだけバリエーションがあるのだ。
柿沼康二は上手い人だけど、基礎をやらずに自己流の人とか、上手くはないけど味があると褒められる人もいる。有名な展覧会に入選するにはその会のお偉いさんに師事しないとまず無理で、TVに出て注目を集めて有名になっちゃったほうが・・・と考えるいう人もいるわけ。絵画の世界も似たような感じじゃないだろうか。

絵だけ見せられたら、もうちょっと漠然とした感想しか浮かばなかったかもしれないので、ワタシ的にはこの書を使うアイデアは抜群だな思っている(笑)
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おくりびと('08日本)-Sep 15.2008ヨイ★
[STORY]
チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は所属していた楽団が突然解散となり、チェロ奏者を諦め、妻の美香(広末涼子)とともに故郷の山形へ帰る。職探しを始めた大悟は求人広告を見て条件の良いNKエージェントという会社に面接に行く。社長の佐々木(山崎努)は何の説明もしないまま大悟を即採用するが、何とその会社は遺体を綺麗にして棺に納めるという仕事だった。初めての仕事でいきなり死後2週間経過した老婆の納棺をしなければならなくなった大悟だが、時に遺族から感謝されたり、葬儀に立ち会っていくことで、次第に納棺師の仕事に目覚めていく。
監督・ 滝田洋二郎 (『陰陽師II』
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以前から死者を葬ることに興味を持っていたという本木雅弘が納棺の仕事を映画化したいとが企画を持ち込んだのが始まりという。そして青木新門の『納棺夫日記』を元に、TV番組の放送作家である小山薫堂が脚本化。
第32回モントリオール世界映画祭コンペティション部門でグランプリを獲得した。

冒頭で、本木雅弘が納棺の儀式を行うシーンがある。ピリッとした空気を出しつつ、無駄がなくかつ美しさすら感じさせる一連の動きに、ただもうビックリ。テレビのニュースで、途中カットせずとも儀式ができるようになったと言われていたが、こうして見て納得。ここがちゃんとしてないと作品すべてがダメになってしまう。山崎努にしてもベテラン納棺師兼社長の貫禄があり、この2人がいなければここまでいい作品にはならなかったと思う。

というのも、脚本もいいところはたしかにたくさんあるが、ちょっと説明的すぎてクドイなと感じたのだ。私が見て驚いた冒頭の納棺の儀式中、大悟が違和感をわざわざセリフにして佐々木に説明してしまう。これは口に出さなくてもいいのに。見てるほうはそこまでバカじゃないんじゃない?(最近のお客さんは違うか?)最初「?」と思っても、いぶかしそうな顔をした時点では「!!」ってなるはず。見てる家族にも失礼じゃん。大悟が佐々木にそっと耳打ちして、佐々木が遺族にどうしますか?って聞くだけでよかったのに。
美香が大悟の仕事のことを知って拒絶するところもちょっとね・・・。ま、これは広末の演技にも問題あると思うのだけど。他の役者と違って彼女だけ最初からちょっと浮いてて、そんな彼女がさらに違和感あるセリフを言ったものだから、ますます納得いかない具合になったんだろう。

と、いくつか気に入らないところもあったんだけど、先に書いたように本木と山崎が本当に良くて、佐々木が2階で大悟に食事を勧めながら話すシーンは特に印象に残る(チキンを頬張るところは演出がクドイが)あのセリフを言う時の絶妙な間。上手いよなぁ。食べることも生きることも死ぬこともみんな同じこと、死ぬことだけを切り離すことはできない。そんな、当たり前なことだと分かっていても拒絶してしまう(自分も含めて)人が多い中で、佐々木はそれを乗り越えている。それがよく分かるシーンだった。それと葬儀のシーンはどんなに短くてもやっぱり泣いちゃって、何度涙を流したか分からなくなるほどだった。
モントリオールでグランプリ〜?と失礼ながら見るまではちょっと懐疑的だったんだけど、見て良かったなぁ。

余談だけど、モックンが表情を崩した時の顔がちょっと小島よしおに似てて、髪形とか顔の濃さとか系統は同じかもしんない、と新たな発見をしました(笑)
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パコと魔法の絵本('08日本)-Sep 14.2008ダイスキ★
[STORY]
とある病院に大貫(役所広司)という偏屈な男が入院していた。大貫は大会社の会長で、病院内で威張り散らしていたので皆から嫌われていた。ある日、大貫はパコ(アヤカ・ウィルソン)という少女と出会う。大貫は彼女にも意地悪をしたが、翌日何事もなかったかのようにパコは大貫のそばで本を読み始めるのだった。そしてパコが盗みを働いたと勘違いした大貫が彼女の頬を叩いても、翌日またニコニコとしている。実はパコは交通事故の後遺症で1日しか記憶を保つことができないのだった。だが、パコは大貫が彼女の頬に触れたことだけは覚えていた。それから大貫は毎日パコのために絵本を読み、その本を演劇にして見せてあげたいと思うようになる。
監督&脚本・中島哲也(『嫌われ松子の一生』
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原作は後藤ひろひと作の舞台『MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人』竜門寺を演じた山内圭哉は舞台版の初演・再演と本作と同じキャストを唯一演じている。

またもやってくれました中島哲也。『下妻物語』、『松子』そして本作と3本連続で大当たり。原作の舞台がもともと評判が良いらしく、映画化によって良さを殺した部分もあるかもしれないが、私にとってはこの映画は文句ナシの作品だ。

遊べるところにはとことん遊びを入れていて(彦麻呂とか)見逃してしまったところもたくさんあったに違いない。デヴィとかラッセンがどこに出てたのか全然知らないし(泣)一度しか見ないのはもったいないくらい。そんな遊びから一転、泣く気なんてこれっぽっちもないところにボンッと泣かせるセリフを入れてくる。気持ちよりも先に涙が溢れてしまって、どうしたらいいのか分からなくなる。でもそんな泣かせドコロも派手なメイクとファッションで演じるものだから、それほど湿っぽく感じない。いい流れになると必ず邪魔が入り、また笑わせる。笑いと泣きがごっちゃになって、見終わったあとで偏頭痛になり大変でした(苦笑)

大貫たちはパコのために劇をやるんだけど、劇を上演するのはパコのためだけではなく大貫本人のためでもある。絵本の中のガマ王子のセリフはそのまま大貫に当てはまるものばかり。毎日絵本を読むことで彼は今までの自分を悔い、残りの人生を人のために何かをしてあげたいと思うようになるのだ。そして元天才子役で大人の俳優になりそこねた室町(妻夫木聡)や、いつも室町を叱咤する看護師のタマ子(土屋アンナ)もまた、ある思いを持って取り組んでいく。

素直になれずにヘンに意固地になっている大人が、勇気を出して新しい一歩を踏み出す。端から見ればたいしたことないことでも、なかなかできないのよこれが(笑)特に大人はプライドだけは高いし恥ずかしいことが大嫌いだから、そう簡単にはムリ。その気持ちがよく分かるから、がんばり始めた彼らを見ると尚更涙が出てしまう。アニメっぽい映画だけど、大人のツボにはまる映画でしたな。
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グーグーだって猫である('08日本)-Sep 13.2008
[STORY]
吉祥寺に暮らす漫画家の小島麻子(小泉今日子)は13年一緒に暮らした猫サバを亡くしてしまう。しばらく仕事が手につかなくなるが、ある日ペットショップでアメリカン・ショートヘアの子猫と出会う。麻子はそのオス猫にグーグーと名付けた。大きくなったグーグーに発情期がやってきて、麻子は去勢手術を決断するが、メス猫を見つけたグーグーは逃げ出してしまう。公園に探しにきた麻子はそこで沢村(加瀬亮)という青年からグーグーを手渡される。飄々した沢村に思わずキュンとなる麻子。アシスタントのナオミ(上野樹里)は麻子と沢村を近づけようとするが・・・。
監督&脚本・犬堂一心(『メゾン・ド・ヒミコ』
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原作は大島弓子の同名エッセイ漫画だが、原作というより原案と言ったほうがいいだろう。飼い猫の名前がサバにグーグーではあるが、小島麻子という架空の漫画家を描いた架空の物語になっている。ただし、劇中では大島弓子の漫画はすべて小島麻子が描いたことになっている。

どっちかっていうと猫より犬が好きなのだが(といってもアレルギーだからどっちも飼えない)予告のグーグーがめちゃくちゃ可愛かったのと、大島弓子が好きなのと、犬堂作品はけっこう好きということで見てみた。

ポール(マーティ・フリードマン)という英会話学校教師のナレーションで吉祥寺の紹介をしたかと思えば、ナオミのモノローグで物語が進んでいく。説明する人が2人もいてクドイなぁと、この時点ですでにイヤな予感はしていたんだけど、グーグーの可愛さや麻子のほわっとした雰囲気が心をゆったりさせてくれて、中盤までイヤな予感を忘れさせてくれた。
が、追いかけっこするところで「え、何これ?」と戸惑い、病院で応援するところで完全にドン引き。やっちゃったでしょこれ・・・。もう何本も映画を撮ってて素人ってわけじゃないのに、ここまで一貫性がなく思いつきで作ったような映画も珍しい。周りの人たちはよくこれでOK出したね。夢の中でとはいえ、サバが人間になって麻子と喋るシーンも説明しすぎでクドイと思った。ホントやりすぎ。そのくせ、麻子のストーカーについては何の説明もないし、いつのまにか沢村は消えてるし、一体何がしたかったのやら。

あと、女性が主人公だし女性特有の病気も扱うのだから、脚本も女性の手が入ったほうが良かったんじゃないかなと思う。今回は『ジョゼと虎と魚たち』や『ヒミコ』を手がけた渡辺あやが携わっていないのが残念だ。ほんわかした中にもちょっとした心の機微を出したり、チクッとするシーンを作ってくれたんじゃないだろうか。

麻子のキャラクターは好き。ファッションは自分が40代になったら参考にしたいくらいだし、あの穏やかな喋りと周りから尊敬と信頼をされているところも憧れる。漫画を描きながら歌を歌うところが可愛らしいし、編集長の近藤(田中哲司)と顔を合わせてどぎまぎするところが特に好きだ。私まで一緒にどぎまぎしてしまったのだが、ひょっとしてあたし近藤さんに恋か?!出番少なかったけど田中哲司が急に好きになってしまった。今まで割とイヤな役が多かったのであんまり好きじゃなかったけど、これからは萌え目線で見ます宣言をここに致します(笑)全体的にはガッカリだったけど、思わぬ収穫があって良かったわ(収穫て)
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