Movie Review 2012
◇Movie Index

僕達急行 A列車で行こう('11日本)-Mar 24.2012
[STORY]
不動産会社で働く小町圭(松山ケンイチ)は鉄道マニアで、電車に夢中になるあまり彼女にフラれてしまう。その様子を、同じく鉄道マニアで町工場の二代目・小玉健太(瑛太)が目撃していた。ある時、電車の中で小町と小玉は出会いすぐに仲良くなるが、小町は九州支社に転勤になり、傾いた営業所を立て直す業務を命じられる。青春18きっぷでのんびりと九州までやってきた小玉は小町と九州の鉄道を楽しむが、そこで同じく鉄道マニアの筑後(ピエール瀧)という男に出会う。
監督&脚本・森田芳光(『武士の家計簿』
−◇−◇−◇−
映画公開日(2012年3月24日)前の2011年12月20日に急性肝不全で死去した森田芳光の遺作となった映画。登場する人物や企業が新幹線や特急電車の名前になっている。

『間宮兄弟』の鉄っちゃん版みたいな映画だなと思った。小町も小玉も筋金入りの鉄ヲタから見たら生ぬるく、マニアというよりは鉄道好きというレベル。でも逆に最近の列車を妨害するような鉄を暗に批判しているような「あんまり必死なのもどうよ?」と言っているように見えた。とにかく2人とも電車に乗っているだけでゴキゲンで、無理しない程度に鉄道を楽しんでいる。普段はそれぞれ真面目に仕事をこなし、女の子ともデートする。でも2人が一緒に電車に乗っている時が一番幸せそうで、そんなところが兄弟で楽しそうに遊んでる間宮兄弟っぽいと感じた部分だった。

ストーリーはかなりご都合主義、出来過ぎ。そんなに偶然が重なるわけないだろ、ってツッコミ入れまくるお話。けれど出演者全員ちょっと空々しいくらいの作った演技だし、トボけた効果音も入るわでリアリティは皆無。だから偶然が重なりまくるのが逆に面白くなってきちゃって、ついにはどこまで偶然が重なるのか楽しみになっていった。ちょっと間違えればド素人が作った映画みたいになりそうだがそういうわけじゃないし、よく考えれば絶妙なバランスで成り立った映画だな、これは。

ただ1つ気になったのは、小町が「キハ125の音だ」と言うシーンがあるんだけど(予告でも使われている)小町は電車の音を遮断して音楽を聴くのが好きな男なのだから、そういう指摘はしないんじゃないかということ。それを言うのが小玉なら分かるんだけど。ひょっとして本当は小玉のシーンで使おうと思ったけど使えなくなってしまった。でも勿体ないので小町のシーンで使うことにしたのでは?人それぞれ様々なこだわりを持って鉄道を楽しんでいるってせっかく紹介しているのだから、そのタイプの違いはキッチリさせておいてほしかったな。

本作はシリーズ化させる予定だった、らしい。確かにこの2人がこれからどんな鉄道に乗ってどんな仕事をして、どんな女の子と出会っていくのか続きが見たかったので残念だ。森田監督のご冥福をお祈りします。私は『(ハル)』が一番好きでした。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム('11アメリカ)-Mar 11.2012オモシロイ★
[STORY]
各地で爆弾テロが起こり、名探偵シャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニーJr.)は天才数学者のモリアーティ教授(ジャレッド・ハリス)が裏で関わっていると推理していた。ホームズは結婚式を翌日に控えた助手ワトソン(ジュード・ロウ)を祝うために酒場へ連れて行くが、実はそこにいる占い師のシム(ノオミ・ラパス)が一連の事件の鍵を握る女だという情報を掴んでいた。
監督ガイ・リッチー(『シャーロック・ホームズ』
−◇−◇−◇−
2009年に公開された『シャーロック・ホームズ』の続編。ストーリーはオリジナルだがアーサー・コナン・ドイルの『最後の事件』がベースになっており、前作から1年後の物語となっている。

前作は慣れるまでに戸惑ったが、本作は既にパターンを分かっているので初っ端からすんなり楽しめた。ホームズが事細かに次の行動をシミュレーションするシーンや、スローを多用したアクションも健在。前作よりテンポが良くなったと思うし、俳優たちも各キャラクターにすっかり馴染んでいるようにも見えた。それと前作ではブラックウッド(マーク・ストロング)という原作には出てこない「誰よ?」な敵キャラが相手だったが、本作は宿敵モリアーティが相手ってことで、知力・体力・時の運(古!)すべて使いまくった戦いが面白かった。

ちょっと残念だったのは『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』で一躍有名になったノオミ・ラパス演じるジプシーのシム、途中までは彼女も活躍するが徐々に存在感がなくなっていったこと。元々ガイ・リッチーって男臭いバカ映画ばっかり撮ってきた監督だから、女性の扱いはこんなもんって分かるんだけど、彼女のリスベットの演技が好きだったので物足りないと思ってしまった。アイリーン(レイチェル・マクアダムス)だって最初に少ししか登場しないし。ワトソンの妻メアリー(ケリー・ライリー)は出番は少ないものの、アクションあり(笑)モリアーティの調査をしたりと、なかなか良い役回りではあった。しかし男同士の友情に勝るものはなく、腐女子のみなさんが喜びそうなシーンとかセリフがたくさん(笑)BBCのTVドラマ『シャーロック』もそうだけど、そっち方面での人気も狙ってんのかねぇ。

ラストはこれ以上ないくらい綺麗に終わったけど(すごくいいオチ)せっかくいい流れを作ったのだからもう1作は作ってほしいと思う。3部作で2作目が一番面白いっていうパターンもあるけど、それでも見たい。原作だってモリアーティとの死闘後の事件もあるしね。“非常に高名な、非常に身分の高い”人物から依頼された事件なんてどうかね?
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

おとなのけんか('11アメリカ)-Mar 10.2012
[STORY]
ニューヨーク。11歳の子ども同士が喧嘩し、ロングストリート家の息子イーサンが前歯を折るケガをする。ケガをさせてしまったザッカリー・カウワンの両親アラン(クリストフ・ヴァルツ)とナンシー(ケイト・ウィンスレット)は、イーサンの両親マイケル(ジョン・C・ライリー)とペネロペ(ジョディ・フォスター)の自宅を訪れ和解の話し合いが行われる。当初、話し合いは纏まったかに思えたが、徐々に本音を言い合うようになる。
監督&脚本ロマン・ポランスキー(『ゴーストライター』
−◇−◇−◇−
原作は、フランスの女優であり劇作家でもあるヤスミナ・レザによる戯曲『大人は、かく戦えり』で、レザとポランスキーが映画用に脚本を書いた。
舞台は初演がドイツ、その後フランスでイザベル・ユペール、イギリスではレイフ・ファインズ、ブロードウェイではマーシャ・ゲイ・ハーデン、と有名俳優女優が出演。日本では2011年に上演され、被害者夫妻を大竹しのぶと段田安則、加害者夫妻を秋山菜津子高橋克実が演じた。

ミュージカル作品以外で舞台の映画化って正直あんまり面白い作品がない。海外の舞台作品だと翻訳したものになるからどうしても“会話の妙”を楽しめないってのが一番かも。文化とか流行とかも分からないし。逆に例えば三谷幸喜が脚本を書いた映画『12人の優しい日本人』で、ダヨーンのおじさんとかアルトマンさんとか、そういう小ネタが日本人以外楽しめないのは気の毒って思ったりするのと一緒なんだろうが(笑)
というわけで期待はしてなかったけど、監督がポランスキーなのと出演者4人の演技が見たかったというのと、上映時間が短いから多少つまらなくても耐えられるだろう、と失礼なことも思いつつ見た。

オープニングクレジットは最初何の映像だか分からなくてボーっと見てたんだけど、それが物語の発端である子どもの喧嘩であることが最後のほうでやっと分かった。おそらく舞台ではこんな場面はないだろうから、映画でのオリジナル映像なんだろうな。途中で気が付いたからよかったけど、見逃してたかもしれないから危ないわー。ちなみにエンドクレジットでも同じような映像が出てくるので、よく目を凝らして見るように。

本編は2組の夫婦が平和的な話し合いを終えて、あとは帰るだけというところから始まる。この後どうやって話を膨らませていくのかな?とワクワクしてたんだけど、全編にわたって何となく時間稼ぎをしてるように私には見えてしまった。何度かカウワン夫妻が帰ろうとする場面があるんだけど、2人を引き戻すところがすごく不自然。ここが例えば帰るに帰れない状況(エレベーターが故障したとか)になってしまって、仕方なく待っている間にソツのない会話をするものの、やっぱり子どもの話に戻ってしまって大ゲンカ、っていう展開なら分かるのだが。

でも全然面白くないわけではない。やっぱりみんな演技上手いし、特にウィンスレットはすごかったよ(笑)食事中に見ちゃいけない映画だけど。
あと、大人の対応をしていた両者、特に怪我を負った子の母であるペネロペは最初から文句を言いたくてたまらないのを抑えていたのに、我慢できずにやっぱり言ってしまい、悔しさを露わにするところがよかった。そして最初は両夫婦が言い合いをしているのに、いつの間にか妻の怒りの矛先がそれぞれの夫に向かい、妻同士が意気投合しちゃうところも「あるある!」って感じで面白かった。そんなところが楽しめたからまぁいいや。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

ヒューゴの不思議な発明('11アメリカ)-Mar 4.2012
[STORY]
1930年代フランス、パリ。父(ジュード・ロウ)を亡くした少年ヒューゴ(エイサ・バターフィールド)は、おじに連れられ駅構内の時計台に住み、時計の整備をしながら暮らしていた。ヒューゴは父が遺した“機械人形”を修理しようと、おもちゃ屋などから少しずつ部品を盗んでいた。だがそれが店主のジョルジュ(ベン・キングズレー)に見つかり、父が一緒に遺した大切なノートを取り上げられてしまう。何とか取り返そうとしている時、ひょんなことからジョルジュの養女イザベル(クロエ・グレース・モレッツ)と出会い仲良くなる。そして一緒にノートを取り返そうとするのだが・・・。
監督マーティン・スコセッシ(『シャッターアイランド』
−◇−◇−◇−
原作はアメリカの絵本作家ブライアン・セルズニックが2007年に刊行した『ユゴーの不思議な発明』
実在の人物、1902年の映画『月世界旅行』を監督したフランスの映画監督ジョルジュ・メリエスが登場するが、ストーリーはセルズニックの創作である。また、駅で演奏するミュージシャンの中にジャンゴ・ラインハルトも登場する。
第84回アカデミー賞では最多11部門(作品・監督・脚色・撮影・作曲・美術・衣装デザイン・視覚効果・録音・音響編集・編集)にノミネートされ、5部門(撮影・美術・視覚効果・音響編集・録音)を受賞した。

予告ではいい作品のように見えたし、アカデミー賞最多ノミネートで本命視されていた作品だから当然期待していたわけだ。でも見終わった後、何で技術系の賞しか受賞できなかったのか分かったわ(溜息)
3D作品としてはよくできている。風に舞う粉雪は客席にまで降りかかってるように錯覚したし、汽車が迫ってくるシーンは臨場感がすごかった。ヒューゴが修理する人形のビジュアル、まるで表情があるかのように角度を変化させてじっくりと見せるシーンもいい。でも肝心のストーリーがねぇ・・・。

脚本ももちろんあまり良くないんだけど、ひょっとしたら原作も児童向けということもあって、あまり複雑に書いてないのかもしれない。父を亡くしたヒューゴが、父が遺した機械人形の謎を解明するストーリーなのだが、途中まではちゃんとヒューゴの視点で物語は進んでいく。だが、ジョルジュの過去が明らかになるにつれて、いつの間にか主役はパパ・ジョルジュになり、ヒューゴの存在感が薄くなる。さらにラストはイザベルが物語の纏め役になり、ヒューゴなんて完全に脇役に成り下がってしまう。確かにみんな幸せになる結末だけど、ヒューゴはちゃんと父親の死の悲しみから乗り越えられたのか、そこを描かなきゃ正しい結末とは言えないんじゃないか。同じ父を亡くした少年の物語ならば『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』のほうがよっぽども1本キチッと筋が通ってたわ。

劇中、メリエスが映画の撮影をするシーンがいくつか出てくる。現代の最新CGとは対極にある手作り感満載で、当時としては斬新なアイデアを駆使して撮影している。この場面だけでもすごく面白くて、この映画の中だけで見せるのは勿体ないと思ってしまった。ぜひメリエスを主人公にした1本の映画を作るべき。
home

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち('11ドイツ=フランス=イギリス)-Mar 3.2012
[EXPLANATION]
ドイツ出身で、2009年に亡くなった舞踊家ピナ・バウシュ率いるヴッパタール舞踊団の舞台4本『カフェ・ミュラー』『春の祭典』『コンタクトホーフ』『フルムーン』を新たに撮影し、団員のインタビューを交えて3Dカメラで映していく。
監督ヴィム・ヴェンダース(『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
−◇−◇−◇−
監督のヴェンダースとバウシュは20年以上前から交流があり、映画を作る計画も以前からあったらしいがなかなか実現しなかった。しかし3D映画が数多く製作されるようになって、バウシュの舞台も3Dで撮影することになる。半年間の準備からいよいよ撮影が始まる直前、2009年6月30日にピナ・バウシュが亡くなる。ヴェンダースは映画化を断念しようとするが、団員やファンなどの要望もあり製作を再開し、完成させた。
第84回アカデミー賞のドイツ代表作品として選ばれ、長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。

ピナ・バウシュといえば私にとっては『トーク・トゥー・ハー』だ。見た時は驚いたものだ。何だか分からないけど何だかすごい、っていう(笑)今回もまた全てではなくごく一部、彼女が手がけた演目のいくつかを見たわけだけど・・・うーん、すごいと思ったものもやはりあったけれど、前ほどの衝撃はなかったな。慣れってこわい(笑)
まぁ慣れというか見ていくと分かるんだけど、舞台に砂や水を撒いてそれを活かしたダンスを繰り広げていくわけだが、基本的な動きはどれも一緒に私には見えてしまったんだよね。生身の人間がその身体だけで表現するんだから、どうしても同じような動きは出てくる。逆にものすごい変化をつけるのは難しいことなんだなと思ったり。
それでもダンサーたちの体幹の鍛え方、特に男性が女性を抱き上げたりする時に、首も腰も全くブレず「どっこいしょ」な感じが全くないところに驚かされる。クラシックバレエだってちょっとは「よいしょ」なところがあるのに彼らときたら・・・!女性も男性の負担にならないよう、相手が抱き上げやすいようタイミングを計り、力を調節しているのが分かる。それらすべてをさりげなくやっている。これぞプロだ。

舞台と屋外、それぞれダンスを見たけど、屋外でのほうが私は素晴らしく見えた。舞台という限られた空間の人工的なものの中で演じるよりも、空の下の自然が広がる中や、日常生活を送る町の中で不自然な動き(ゴメン)をするところに面白さがあるなぁって。特にヴッパータール空中鉄道をバックに踊る姿はシュールでいい!この空中鉄道自体がものすごく魅力的なのもあるんだけど(乗ってみたい〜)今回は舞台作品と屋外でのダンス両方を見せていく映画だったが、屋外を舞台にした1つの作品を見てみたいと思った。もちろん3Dで。
home