Movie Review 2010
◇Movie Index

キック・アス('10イギリス=アメリカ)-Dec 18.2010スキ!★
[STORY]
スーパーヒーローに憧れる高校生デイヴ(アーロン・ジョンソン)は、ある時インターネットでコスチューム買い“キック・アス”として街をパトロールし始める。しかし何の能力もない彼はチンピラにボコボコにされ入院してしまう。退院後も懲りずにパトロールを始め、再びケンカに巻き込まれるが、その時の映像が動画で配信され、一躍人気者となってしまう。地元マフィアのボス、ダミーコ(マーク・ストロング)は仕事の失敗の原因がキック・アスの妨害だと勘違いし、彼を殺そうとする。だが、本当に妨害していたのは元警官の“ビッグ・ダディ”(ニコラス・ケイジ)と、彼の娘“ヒット・ガール”(クロエ・グレース・モレッツ)だった・・・。
監督&脚本マシュー・ヴォーン(『スターダスト』)
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原作はマーク・ミラーとジョン・ロミータ・Jrによる同名コミック。少女がマフィアを殺戮するという設定があるため、メジャーの映画会社ではことごとく断られ、監督のヴォーン自身が資金を調達したというインディペンデント映画。ブラッド・ピットが代表を務めるプランBエンターテインメントが製作している。
主演のアーロン・ジョンソンが『ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ』の時より幼く見えると思ったら、撮影は2年くらい前(18歳頃)だったようだ。やっぱりこの頃のほうが彼はキュートだったわ。ヒット・ガールを演じたクロエ・グレース・モレッツも現在は13歳だけどずいぶん大人びてしまったな。

予告を見た限りではヒーローに憧れるヘタレ少年が真似事をするだけのコメディかと思ってたんだけど、実際見てビックリするシーンばっかりだった。上に書いたように、小学生がマフィアを殺しまくり。しかもメッチャ強い。足とか平気で切断しちゃうの。最初、ヒット・ガールが父親のビッグ・ダディに銃で撃たれるシーンがあって(防弾チョッキ着用の上でだけど)その時点でポカーン、だったんだけど「何これ演技?遊び?銃は本物じゃないよね?」と父娘がふざけているだけだと自分を納得させていた。けれどその後のアクションシーンで、さっきのあれは遊びじゃなかったんだって分かった。圧倒的な強さのヒット・ガールにシビれつつも、父親の狂気に震えた。そのシーンが終わった後は少し悲しくなった。幼い娘に、自然と身体が動くほどに叩き込むなんてやっぱ狂ってるよ・・・。思い返せばあの銃で撃つシーンがこの映画で一番クレイジーだったな。

とはいえ、元がアメコミだしこれくらいダークなほうが確かに面白いし魅力的だ。原作はもっとドロドロらしいが、ヘタレ少年だったデイヴが成長していくところや、デイヴのヲタ友たちがいい味を出していて、青春映画としても面白かったので、これ以上ドロドロじゃなくてよかった。重さと軽さのバランスがすごくよく取れていたと思う。ラストは『スパイダーマン』のシリーズと同じ展開に。悪を倒してもそこで終わりじゃない、復讐は復讐を生むだけなんだな。続編ができるなら見たいが、やるならヒット・ガールがこれ以上成長しないうちにお願いします(笑)可愛いチビッコがマフィアを倒すから面白かったわけで、大きくなった彼女が魅力的かというと、それはちょっと微妙なんだよね。キック・アスが彼女くらい強くなってたとしたら・・・見たいかなぁ(笑)

MIKAの主題歌“Kick Ass”もすごくいい。PVではヘタレなデイヴみたいな格好で歌ってます。映画のシーンも挿入されてるのでyoutubeなどで見てみてほしい。The Dickiesの“Banana Splits”も印象に残る曲。インパクトがあって気に入った映画というのは、歌もずっと耳に残るみたいだ。
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バーレスク('10アメリカ)-Dec 18.2010イイ!★
[STORY]
アイオワからスターを夢見てロサンジェルスへやって来たアリ(クリスティーナ・アギレラ)は、毎日オーディションを受けるが落ちてばかり。そんな時、目にしたのはクラブ“バーレスク”だった。華麗なショーに感激したアリは雇ってほしいと懇願するが、オーナーのテス(シェール)は相手にしない。そこでウェイトレスとして働き始め、ステージに立つチャンスを狙う。やがて、ダンサーとしてステージに立つようになるが、アクシデントから歌の才能を開花させる。
監督&脚本スティーヴン・アンティン(『グラスハウス2』)
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ブロードウェーミュージカルの映画化ではなく、スティーヴン・アンティンが以前実際のバーレスク・ショーで働いていた経験などを元に脚本を執筆したという作品。その映画のタイトルでありお店の名前であるこの“バーレスク”とは、軽い下ネタののコントや、セクシーな女性のダンスやショーのことを言うそうだ。ショーの幕間にアラン・カミング演じるアレクシスがやってたのがまさにそれ。面白かったけどかなりきわどいコントだったな。映画から今後は、逆にブロードウェーで上演されたりするのかもしれない。

ミュージカルシーンはクラブ内で歌うものばかりで、道端で唐突に歌い出すようなものではない。最近は違和感を与えないようなミュージカル映画が主流なのかしらね。舞台ならともかく、映画だと どうしても「ええっそこで歌う?!」と思っちゃうし(笑)ただ、ショーやコンサートで歌うミュージカルばかりになるのも、それはそれで面白くないから難しいんだけどね。

クラブの女主人と、無理やり店で働き出す田舎から出てきた若い娘。最初は無視されるヒロインだが、日々の努力と才能を開花させ、徐々に認められていくというストーリー。2人の間をさりげなく取り持つショーン(スタンリー・トゥッチ)の存在が『プラダを着た悪魔』で演じたナイジェルそっくりで、パクリというより完全に狙ったんだろうけど、この映画は『プラダ』のクラブ版って感じなのだ。でも個人的には気持ちいいくらいに王道なシンデレラストーリーのこちらの作品のほうが好きだ。アリが歌の実力を見せ付けるシーンは思わず「待ってましたーーー!」と立ち上がりそうになったし(笑)

女2人の関係も、時に母と娘みたいだったり、友人みたいだったり、同士みたいだったり、ビジネスパートナーみたいだったりと関係が徐々に変化していって、最後は堅い絆で結びついていくところにワクワクさせられた。アリはちゃっかり者なところがあるけど可愛くて、舞台ではパワフルでセクシー。女性から見ても大好きになってしまうヒロインだったし、テスの貫禄にもやられた。バーテンのジャック(キャム・ギガンデット)はキュートで、上に書いたアレクシスやショーンもイイ。そしてクラブを乗っ取ろうとするマーカス(エリック・デイン)やアリのライバルのニッキー(クリスティン・ベル)も、敵なんだけど憎めない。悪役のキャラクターが弱いと言われればそれまでなんだけど(そういえばマーカスとニッキーが恋人同士という設定もほとんど活きてなかったな)ストーリー展開のテンポを考えるとあんまりアクが強いのも流れを止めることになるから難しいけど、クラブ買収のくだりはもう少しいやらしい感じにしても良かったと思う(オチはあれでいいけど)

劇中で歌われる歌はどれもクオリティが高いが、個人的にはシェールが歌う「ウェルカム・トゥ・バーレスク」と、アギレラの「タフ・ラヴァー」から「エクスプレス」までの怒涛のパフォーマンスは見てて本当に楽しかった。サントラも買い!だ。
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トロン:レガシー('10アメリカ)-Dec 17.2010
[STORY]
エンコム社のCEO、ケヴィン・フリン(ジェフ・ブリッジス)が失踪して20年。27歳となった息子サム(ギャレット・ヘドランド)に、ケヴィンからメッセージが届く。ケヴィンが経営していたゲームセンターへとやって来たサムは、地下の部屋からコンピューターの世界に迷い込んでしまう。そのまま拉致され、ゲームに強制参加させられたサムは、20年前と全く変わらない父と再会するが、それは本当の父ではなかった・・・。
監督ジョセフ・コシンスキー(初監督作)
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1982年の映画『トロン』の続編。主人公ケヴィンを演じたブリッジスとアラン役のブルース・ボックスライトナーも前作に続き出演している。また、当時のジェフ・ブリッジスの顔をCG化し、スタント俳優の顔に合成してクルー2.0というキャラクターを作り出している(これは『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』で使われた技術)

タイトルの『レガシー(Legacy)』ってどういう意味だったっけ?と思って調べてみたところ、遺産とか遺物という意味で、コンピューター用語でも古いコンピュータのことを言うらしい。かつてケヴィンたちが作った世界はもはや現代では過去の遺物でしかなく、それを破壊するのが彼の息子サムだった・・・ということだろうか。なかなか感慨深い・・・と言いたいところなんだけど、実は私は前作を見ていません(笑)続編なのは知ってたけど見なくてもいいやと、とりあえず簡単なあらすじと登場人物の把握だけして見た。ちょっと分からないところもあったけど、全く話についていけないわけではなかった。

とはいえ、直前に見ておいたほうが本当はもっと感動できただろうな。当時の映像との違いを確かめる意味でも。「うわーこんなに違うんだ!」と感激したかもしれない。今はこの手の映画が氾濫しているので、3Dで見てもそれほど「うわー!」ってならない。それでもサムがグリッド内でライト・サイクルに乗りゲームするシーンはすごい映像だった。地下に潜ったり出てきたりする映像は3Dで見せるのに最高のシーンだろう。そして前作のケヴィンと今のケヴィンとの共演、これも画期的だった。私は最初ソックリさんか特殊メイクだと思ってたよ。もう『フォレスト・ガンプ』でケネディとトム・ハンクスが握手するどころの話じゃないんだな(笑)

ただね、話が致命的に面白くないんですわ。実は前作の『トロン』も「面白くなかった」と当時鑑賞した父に教えてもらっていた(だから見る気にならなかったってのもあるんだけど)だから本作もストーリーは期待せず、映像を楽しもうと思ってたんだけど、やっぱり話が面白くないと映像にも集中できなくなる。あとサムを演じたヘドランドが全然魅力的じゃなかったのもきつかった。映像は技術力でいくらでも進化できるけど、面白い話を作ること、魅力的な役者をキャスティングし素晴らしい演技を見せることは、技術力だけではどうにもならないと改めて思い知らされた。
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ノルウェイの森('10日本)-Dec 12.2010
[STORY]
高校の時に親友だったキズキ(高良健吾)が自殺し、ワタナベ(松山ケンイチ)は、悲しみから立ち直れないまま東京の大学に入った。ある日、ワタナベはキズキの恋人だった直子(菊地凛子)と再会する。2人は次第に惹かれ合い、ついに結ばれるが、直子は精神を病んで療養所に入院してしまう。悲しむワタナベの前に、緑(水原希子)という女が現れる。
監督&脚本トラン・アン・ユン(『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』
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原作は村上春樹の同名小説。
この小説が大ブームになった時(1987年)自分はまだ中学生で、同じく流行っていた吉本ばなな(今は全部ひらがな名なのね)とともに一応読んだんだけど、どっちも自分の好みではなく、登場人物全員ワケ分からん、で終わっていた。それ以来、読み返してはいないし(でも村上作品を全く読んでないわけではなく『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』は読んでる)原作に思い入れなどはないので、映画を見て悪くない、というかむしろいいんじゃない、と思った。村上春樹原作の映画、というよりトラン・アン・ユンの映画だと思って見たせいもあるだろう。だって『アイ・カム〜』を見た時は「もうこの人ダメかも・・・」と思っちゃったし。それに比べたらこれは上出来じゃないでしょうか。

映像は本当に綺麗で、色合いも私の好みだった。構図も日本人監督とはやっぱりちょっと違うみたい。これ本当に日本で撮影してるの?と疑ってしまったほどだった。緑の家のベランダなんてベトナムテイストでとても素敵だった。住み心地も良さそう。登場人物意たちもみんな艶っぽく見えて、『花様年華』を思い出したわ。さすがリー・ピンビン。

小説を読んだ時には空々しくて「なんだこいつ」と思ったワタナベだが、マツケンが喋ると何故か納得してしまった。いるねこういう男、って思わせてくれる。緑も不思議ちゃんだと思えばアリだ。ただ、直子はこんなにヒステリックだったっけ?と多少違和感が。もっと空虚な感じだったような気がするんだが。でも私は元々菊地凛子の喋り方があまり好きではないんだけど、この映画での喋り方はワタナベや緑とも合っていて嫌な感じじゃなかったな。そういえば予告では「この曲を聴くと深い森の中で迷っているような気分になるの」と言う直子の声が入ってたのに、本編にはなかった。レイコ(霧島れいか)がギターを奏でながら『ノルウェイの森』を唄うシーンはあったんだけど、カットしてしまったらしい。このセリフがないとタイトルの意味が分からないじゃないか!他は削ってもここだけは入れるべきだった。何で削ったのか聞いてみたいわ。
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武士の家計簿('10日本)-Dec 5.2010
[STORY]
江戸時代後期。猪山家の八代目となる直之(堺雅人)は御算用者として加賀藩に仕えていた。同心の娘お駒(仲間由紀恵)と結婚し、跡継ぎにも恵まれるが、それらによって出費が膨らみ、家計は苦しくなっていった。そこで直之は借金を返済しようと、家財一式を売り払い借金返済に充てることを決断する。
監督&脚本・森田芳光(『模倣犯』
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原作は歴史学者・磯田道史の『武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新』で、猪山家の6代・綏之から9代の成之までの4代にわたる出納帳を解説した新書(物語にはなっていない)

加賀藩で御算用者(ごさんようもの)という会計を担当していた猪山直之とその家族を描いた物語で、刀の代わりにそろばんで出世した武士、というのが面白いと思って軽い気持ちで見に行ったんだけど、この時代の歴史を勉強してから見ればよかったな、とちょっと後悔した。

時代は加賀藩の第12代藩主・前田斉泰の時で、直之が御算用者の見習いになるところから始まり、妻を娶り、息子にそろばんを叩き込み、時代は明治へと移り、直之が亡くなるまでが描かれている。1820年代から1870年代までの50年間くらいかな。この間の加賀藩と日本の歴史が分かっていると、なお理解しやすいだろう。みんな実在の人物だしね。東大の赤門の逸話を直之の父・信之(中村雅俊)が何度も自慢するんだけど、これは本当なのかねえ(靖国神社の大村益次郎像の建立には猪山成之がかかわっていたようだが)

武家ということで、何事も顔で、とかツケで、とやってきた猪山家。他の武家も同じようなもんだったんだろうが、このままでは子孫にツケが回ってしまう!と立ち上がったのが直之(現代の日本も国自体が同じようなことやってるなぁと思ってしまうんだが)贅沢品を売り払い、日々の食事などを切り詰めていく。結果的にここでやっておいて良かったんだろうな。息子の成之の代に借金まみれだったらどうなっていたことか。時代も江戸から明治に変わったしね。直之が成之にお金のやりくりを叩き込んだのも、彼の将来を考えた上でのことだったろうし、直之の中では「この時代が長く続くとは思えない」と感じていた部分もあったのかもしれない。先見の明があったんだろうね。

成之を演じた伊藤祐輝以外は時代劇(特に大河ドラマ)でよく見るメンバーで、役柄もどこかで見たことがある、という感じ。特に几帳面な直之を演じた堺(この人のニヤニヤが苦手なんだけど所作は綺麗なんだよね)しっかり者の嫁を演じた仲間、そして大らかでお茶目な母を演じた松坂慶子なんてまさに「今日も通常運転」という演技だ(笑)目新しさはなく新鮮味はなかったが、森田芳光が監督だから奇をてらった演出があったら嫌だなぁと思ってたので(『模倣犯』がいまだトラウマ(笑))そういうヘンなシーンも全くなく、とても見やすい時代劇だった。
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